『誰なんだ』
マネモブはラマニアンホロウを探索していた。
理由は始まりの主の痕跡などがないかどうかを確認するため。また、縁ある物品を見つけたら釈淵にプレゼントしようと思っているから。
美しい兄妹愛に感動したマネモブは、その辺協力的だった。
しかし、モンキー・ボンプとロックスプリングの情報を元に坑道を探索するマネモブは、正体不明の朽ちた知能構造体の襲撃にあっていた。
マネモブを襲撃する女性型の機械人達。在りし日の姿、統率された軍団ならばいざしらず、長年の侵蝕にさらされた今ではマネモブの敵ではなかった。
襲撃と撃退を繰り返していたマネモブだったが、探索が思うように行かなくなった。
『いい加減笑いを通り越してムカついてきたぜ』
腹が立ってきたので帰ろうとしたその時だった。マネモブは知り合いの気配を感じた。
こんな辺鄙なところに何をしに来たのだろうかと気になったマネモブは、そっちを見に行くことにした。
『元気しとん?』
気配の正体はリンである。
どうも誰かと来ているようだ。マネモブは驚かせないようそっと物陰から覗き込む。
彼女と一緒にいたのは……
『えっ』『なにっ』『な……なんだあっ』
あまり強そうではない緑がかった髪の少女と――マネモブを襲っていた機械人の同型だ。
『今からあなたを殴ります』『覚悟してください』
ホログラムで人間に偽装しているようだが、マネモブの視覚器官は誤魔化せない。
恐らく人間に擬態してリンや少女を襲おうとしていると思われるが……そんな勘違いをしたマネモブは、機械人に襲いかかった。
『喰らえっ』『我が乾坤一擲の一撃をっ!』
「えっ」
音もなく近づいたマネモブは飛び蹴りを放った。
風を切る豪速の飛び蹴りだったが、流石は戦闘機械人。マネモブの動きに即座に対応し、迎撃を開始した。
「エーテリアス!?」
「ま、マネモブ!?」
『麻酔はないけど裁縫は得意だから安心して』
マネモブの猛攻が止むことはない。
目の前の機械を完全に沈黙させるために拳を、蹴りを打ち込む。
「な、何がなんだか分からないけど……襲ってくるなら!」
そしてターゲットとなった機械人……アリアも反撃を開始する。
両手の武器からエネルギー・ブレードを展開し、精確な動きでマネモブを狙う。
『ま…また刃物系か…』
「またって何!」
また、というほど刃物系と闘っているわけではないマネモブ。
しかし、その動きはエネルギー・ブレードを確実に見切っている。
『ふうん』『そういうことか』『覇生流風当身ッ』
「えっ……きゃあ!?」
エネルギー・ブレードは触れたらアウトだ。
なら触れなければいい。マネモブは動きを見切った後、触れずにアリアを後退させた。
風当身は本気でやれば100キロ以上の脂肪を即座に燃焼させる頭おかしい火力を誇るが、マネモブは風当身を後退させるためだけに使用した。
『クククククありがたく思いな』『解体ですよ』
アリアは体勢を崩している。
マネモブがその隙を逃さず追撃を加えようとした時だった。
「うおおおおアリアをやらせるかあっ」
「やめて千夏! あんたの敵う相手じゃない!」
緑がかった髪の少女……千夏が、アリアを助けようとマネモブに立ち向かう。
巨大なハンマーをぶん回しながら向かってくる千夏。しかし、マネモブはそれをあえて踏み込むことで避け、柄を掴むことで受け止めた。
「うぅ……」
『
「え、エーテリアスとはいえ素手の奴に言われんのはその通り過ぎてムカつくなぁ……」
『お…おいトダー』『お前なんか変な関西弁になってるぞ』
「誰が変な関西弁じゃあっ」
関西弁に対して無条件に反応したマネモブは一旦ハンマーを離した。
なぜ離されたか分からない千夏は、警戒しながらマネモブを睨む。
「いきなり襲ってくるなんて……何が目的や」
『今からこの龍星を殺しますッ』
「なにっ」
マネモブの背後には、すでに体勢を整えたアリアが復帰していた。
すでにホログラムは解け、製作者が変態的な趣味を全開にしたとしか思えない姿があらわになっている。
彼女の斬撃を避けながら、マネモブはアリアに向き直った。
「あ、アリアを殺すやと!?」
『機械やから忖度がないし』『シャレにならんのやが…』
自分の実力ではマネモブを止められないが、かと言ってアリア一人ではジリ貧である。
その現実を前に千夏は考えに考えた末、ある答えを出した。
「う、うちら何もしてへんやろ! やのにこんな乱暴するんかいっ、この格闘家気取り!」
罵倒である。
マネモブ達の使う愚弄に比べれば可愛げのあるものだったが……
『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『なにっ』『いやちょっと待てよ』『う あ あ あ』『あ あ あ あ』
「動揺しすぎでしょ」
しかし、マネモブには効いた。
マネモブの拳は戦えない者を守るためにある。しかし、目の前の女子は戦えるじゃないか。
待てよ、良く見れば戦いは本業じゃなさそうなんだぜ。いやちょっと待てよ、機械の姿を見ても動揺してないんだぜ。いやちょっと待てよ、いやちょっと待てよ、いやちょっと待てよ――そして自己崩壊が始まる。
マネモブが四人に分かれる。
無意識に使用したと思われる四人霞だ。
一人でも強かった相手が四人に増えたことで動揺するアリアと千夏だったが、彼女達の驚愕をよそにマネモブ達は……愚弄を開始する。
『負け犬…?』『負けたんスか?』『負けたんスか?』『負けたんスか?』『負けたんスか?』『負けたんスか?』『お前の負けや!』『負けた者はみじめで無様やろ』『無様すぎて哀れだろ…殺してやれ』
『そうか! 君は頭が悪くて他にとりえがないから闘うことでしか自尊心を満たすことができないんだね』『かわいそ…』『ヒャハハハ』『こいつらの試合メチャクチャおもろいでエ』
『あなたはクソだ』『てめえに言ってんだよゲス野郎』
「な……なんやこの分身は……」
口々にマネモブを罵倒する分身共。
最初は本体を愚弄するだけだったが……途中から雲行きが怪しくなる。
『う――っやらせろ』『アニキおかしくなりそうだ』
『えっ』
『えっ』
『えっ』
『何を言ってるこのバカは?』
『何を言うとるんじゃあっ』
『うえ―――っ』『こ…怖いよ―――っ』
『怖いです』
『異
常
性
愛
者』
『
『たった一つのルールも守れない者には…“死のペナルティ”ね!』
『殺せ――っ』
『悪魔は地獄に行きやがれッ』
『ケ…ケジメは私がつけるよ…』
『ガルシアも
『おおおおこのバケモノッ絞め殺してやるわっ!』 『塊蒐拳』
『消えろ』『兜浸掌』
『う あ あ あ あ』
分身の一体が千夏に向けてとんでもないことを言い出したので仲間割れし、散々愚弄した挙句即座に処理された。
暴れたことに満足したのか、分身共は消えて行った。
『ふーっよかった…ありがとうございました』
「何もよくないけど。ていうかマネモブ、どうしてアリアを狙うの?」
『いやっ聞いて欲しいんだ』
マネモブは先ほどからアリアの同型機に襲われていることを伝えた。
「ふうん、そういうことか。でも大丈夫だよマネモブ。アリアを見て、侵蝕でおかしくなってると思う?」
『なにっ』
そう、アリアは正気だ。
マネモブはそうとは知らず、彼女を戦いに巻き込んだのだ。
『あなたを必要以上に傷つけてしまいました』『どうか許してください』『この通りです』
「え、えぇ……いいよ、頭を上げて」
『ハイデース』『あざーす』
「なぁ、まるで反省の色が見えんのはうちだけかなぁ」
マネモブの変わり身は早く、その速度は常人に捉えきることはできない。
「て、店長さん。この人……人? と知り合いなの?」
「うん。紹介するよ、マネモブって言うんだ。いつもホロウじゃ助けてくれるけど……さっきみたいに勘違いやらかすから気を付けてね」
『ククク…酷い言われようだな』『まぁ事実だからしょうがないけど』
バツの悪そうにするマネモブを、千夏がゲシゲシと肘でつつく。
「ホンマに反省しとるんか? おーっ?」
『ハイデース』『…ったくトダーの奴』『変な関西弁覚えおって…』
「誰が変な関西弁やねんっ! お前も使っとったやろうが、あーっ」
冴え渡るツッコミに、マネモブは満足そうにしていた。
そしてアリアと千夏は依頼を達成し50万ディニー+マネモブのお土産(詫びの品)を手にして帰還した。
実は俺……関西弁のキャラに弱いんだ