高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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ああそうか…また妄想しちまったアンコール 3

 単刀直入に言うと、アリアの暴走はお咎めなしとなった。

 ジェーンとその上司が見逃してくれたというのもある。しかし、暴走した機械人達は何も自分の意思で暴れていたわけではない。

 ゆえに彼らを恨むのは筋違いであり、悪いのは全てYoukaiなるはた迷惑な自立AIのせいである。

 

 「トダー、どこへ行くの?」

 『AIノ癖ニ私情剥キ出シノ欠陥品ヲシバキ上ゲルタメノ準備ヤンケ』

 「当てがあるのかしら」

 『カメラミタイナ顔ダケド、コレデモ顔ハ広イヤンケ』

 

 Youkaiに抵抗するため、自らスリープ状態に入ったアリアを目覚めさせるのは、妄想エンジェル達の出番だ。

 自身の出る幕ではないと悟ったトダーは、かのYoukaiに対抗する手段を求めてある場所を尋ねることにした。

 

 時速100キロ以上の脚力で数時間ほど走り続け、やたらアクセスの悪い山道を走破する。

 新エリー都に残された数少ない霊峰の中でも特に霊験あらたかなる山。その頂点に位置する小さなホロウに入る。

 そこでは、多くの人相の悪い人々が修行を行っていた。中には、トダーが直接ぶちのめして逮捕した者もいた。

 

 物騒な野蛮人の中を堂々と進む、治安局のロボット。

 そんなトダーを見ると、眼帯をつけた女性……ツイッギーが話しかけてきた。

 

 「あら、トダー。こんなところまで足を運ぶなんて珍しいわね。一斉検挙にでも来たのかしら」

 『ツイッギー。オ前ラガ謙虚ニシテイレバ検挙ハシナイヤンケ。ソレヨリ、宗主ニ会イニ来タヤンケ』

 「マネモブに? 何の用よ」

 『アルAIヲブチノメス技ガ欲シイヤンケ』

 『――おっと、それは聞き捨てならないっスね、忌憚のない意見ってやっス』

 

 トダーの目的は、Youkaiを打ち倒すための魔技……幻魔拳。

 部外者であるトダーだが、それを学びに来たと言うのである。

 

 これに待ったをかけたのは、マネモブを除けばツイッギーと並ぶ灘の二大巨頭、最高師範モンキー・ボンプである。

 モンキー・ボンプの側には、どこか憑き物の落ちたような顔つきのロックスプリングがおり、何やらタブレット端末を操作していた。

 

 『あの……灘の技は基本的に門外不出なんスよ。いくら恩のあるトダーさんと言っても無理な物は無理なんスけど……そもそも何に使うんスか?』

 『今、機械人暴走事件ニ関ワッテイルAIヲブチノメスタメヤンケシバクヤンケ』

 『ああ、あの……しゃあけど、AIにも効く幻魔拳を教える訳にはいかないっス』

 『人々ノ安寧ヲ守レナイ武術ニ何ノ価値ガアルヤンケ。ショセンハ、タダノ暗殺拳ニ過ギナイヤンケ?』

 「貴様ーッ、先生を愚弄する気かあっ」

 「ククク……酷い言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど」

 

 感情のないトダーのノンデリすぎる言葉に、一触即発の雰囲気。

 そこで、ふと灘・真・神影流に関係のないロックスプリングが声を上げた。

 

 『トダーさん、ちょっといいかな?』

 『オ前誰ヤンケ? トダーハ、トダーヤンケ自己紹介ヤンケ』

 『僕はロックスプリングだよ。ねぇ、そのAIの名前って分かるかな?』

 『アア、確カ、Youkaiトカ言ウ与太者ヤンケ――』

 『Youkai!?』

 

 ロックスプリングが、驚きの声を上げた。

 何故なら、彼はそのAIを知っているからである。

 

 『それは、ついこの間まで僕の中にいた自律AIだ』

 『ナニッ、関係者ヤンケ。署マデゴ同行願ウヤンケ』

 『いや、僕も彼に関して覚えてることは少ないんだ。僕がモンキー・ボンプに幻魔拳を喰らった後、彼は僕から出て行った。その時に、彼に関する記録の大半を消されてしまったんだ』

 『証拠隠滅ハオ手ノ物ッテ訳ヤンケ』

 『そうみたい。でも、僕がこうして無事でいられるのは彼のおかげでもある。だって、幻魔のダメージは僕には届かず、全部Youkaiの方に打ち込まれてしまったんだから』

 

 そう、ロックスプリングがモンキー……ゴリラ・ボンプに敗北を喫したその時だった。

 意図せず幻魔は全てYoukaiに植え付けられ、結果的に偶然、ロックスプリングは無事だったのだ。その後、ダメージを負いながらも出て行く時に自身の記録を消すのは、流石はYoukaiと言ったところだろう。

 

 『学習能力の高い彼のことだ。すでに幻魔を抜いたり、あるいは対抗手段……いや、幻魔拳そのものを使ってくるかもしれない』

 『それなら幻魔じゃなくて別の技の方がいいかもしれないスね……いや、教えられないスけど』

 『ソコヲドウニカ、オ願イスルヤンケ』

 

 頭を下げる機能は備わっていないので頭は下げないトダーだが、その言葉は機械じみていながらもどこか真摯だった。

 だが、灘の技はあまりにも危険で門外不出。いくら治安局のロボットと言えど、門下生でもないのに教えることはできない。

 

 「マネモブに判断してもらえばいいじゃない」

 『しゃあけど、師匠はどこにおるか分からんのです。師匠は神出鬼没なんです』

 『俺ならここにいるぜ』

 「えっ」

 『ナニッ』

 

 トダーの背後から聞こえる声。

 濃厚なエーテリアスの気配に対し、トダーは瞬間的に裏拳を振り抜いた。

 しかし、その腕は根本を押さえつけられるだけで防がれた。

 

 『俺はアイアン木場だぜ?』

 「アイアン木場はもういないじゃない」

 『アイアン木場ハモウ死ンデルヤンケ』

 

 それを成したのはマネモブ。

 噂をすれば影の如く、マネモブはタフ・ホロウまで帰ってきたのだ。

 集まっていた彼らは、これまでの経緯を説明した。

 

 「――てなわけで、技が欲しいみたいなのよ」

 『ふうん』『そういうことか』

 『教エテクレルヤンケ?』

 

 トダーは期待しているようだ。

 そんなトダーに対し、マネモブの答えは……

 

 『お前に教えるわけにはいかない』『お前は鬼龍の血を継ぐ者…』『いつ“闇堕ち”するかわからない』

 『モンキー・ボンプ、ドウイウ意味ヤンケ?』

 『要約すると、“はっきり言ってYoukaiに乗っ取られる危険性があるから、死ぬよお前”ってことっス』

 

 拒否だった。

 マネモブも最近のニュースには目を通している。

 だからこそ、操られる可能性のある機械に危険な技を教えることはできない。

 

 『ソウヤンケ。ワカッタ、今日ノトコロハ諦メルヤンケ』

 

 トダーはさして残念そうにもせず、道場から去ろうとする。

 だが、それに待ったをかける者がいた。

 

 『待てよ』『物語はこれから面白くなるんだぜ』

 『何ヲ……!!』

 

 マネモブの制止の声と共に飛んできたのは、高速の拳。

 それをもろに受けるトダーだが、少し後退したのみでほとんどダメージはない。

 

 『何スルヤンケシバクヤンケ』

 『この技をブルさんには会得してもらいたいんや』

 『ドウイウ意味ヤンケ?』

 「要約すると“お前に技を教える(ドォン)”ってことらしいわよ」

 『ドウイウ風ノ吹キ回シヤンケ……ケド、トダーニトッテハ好都合ヤンケ』

 

 マネモブのラッシュをものともせず、カウンター気味に放たれたのは音速を超えるパンチだ。当たれば必殺、当たらずともソニックブームが相手を引き裂く。

 しかし、ここにいるのは怪物を超えた怪物、超級エーテリアスである高濃度猿侵蝕体マネキン・モブである。

 

 『回し蹴りは………』『こうやっ』

 『ボディガ、揺レ……』

 

 金属を打ち付ける凄まじい威力の回し蹴り。

 それは、驚異的な体幹を持つトダーをぐわんぐわんと揺らす。

 筋力だけでなく、高精度の技が成せる、神業に近いものだ。

 

 『ダケド、ダメージハ無イヤンケ』

 『まあそうだろうな』

 『オ返シヤンケ』

 『なにっ』

 

 トダーのボディが沈む。

 片足で、ダンスの“ゼロ・グラヴィティ”の後ろ向きバージョン……ともかく、人間には不可能な体勢から繰り出される蹴り。

 しかも、その蹴りは三倍に伸びる。狙うはローキック。

 

 あまりにも不意打ちじみた一撃だったが、マネモブはローキックを脚で逸らして防ぐことに成功した。

 この蹴りも音速に近く、本来ならば一瞬でやられていただろう。

 

 『クソがッ』『ロボットは手加減を知らんから洒落にならん』

 『糞ッテナンダ?』

 『うるさいッ』

 

 好機と見たトダーはさらなる追撃を開始する。

 腕を胴体ごと高速回転……あのスイーパーや怒れる男にも見られる機能である。

 大きな違いはその移動速度。トダーは超高速の回転機能を有しながらも、時速100キロ以上のスピードを維持することができるのだ。

 

 『うわああっなんだあ』『さらに超高速回転になってるぅぅ』

 『コノママ押シ切ルヤンケ』

 『しゃあけど…残念ながら破壊力がないわ!』

 『ソレハ痩セ我慢ガ過ギルヤンケ』

 

 実は、マネモブの言葉は痩せ我慢ではない。

 マネモブは以前、回転のエキスパートであるバレエ・ツインズと戦っているので、回転に対して学習しているのだ。

 決して、牛小僧のように痛くてもが・ま・んしているわけではない。

 

 『しゃあっ』『飛翔・猛禽返し』

 『ナニッ』

 

 マネモブが、高速回転するトダーの手首を掴み取り、そのまま技をかける。

 機械に対して関節技の効きが悪いのは盤岳との戦闘で実証済みだが、動きを止めることには成功した。

 両者はもつれあいながら地面に倒れ込み、泥臭い最後の技が決まる。

 

 『シャアッ』

 

 加減なし、雑念なしの純粋なストレート。

 マウントポジションを取ったトダーが、マネモブの顔面を狙った。

 

 『しゃあっ』『幻魔拳ッ』

 

 対するはマネモブ。

 ストレートのパンチを読み切り、マウントポジションからぬるりと抜け出しつつ技を放った。

 

 『……』

 

 トダーのカメラアイの前で、寸止めされたそれは、トダーの動きを止め……闘いを終わらせた。

 言葉はなく、両者の中で闘いは終わりを告げた。しかし、トダーは不思議そうにしている。

 

 『……? コレガ幻魔ヤンケ? 何モ無イヤンケ』

 

 トダーのシステムにエラーはなかった。

 その疑問に答えたのは、モンキー・ボンプだった。

 

 『恐らく師匠は手加減してたんスよ。幻魔を教える相手に幻魔を打ち込むわけにはいかないっスから』

 『オ前手加減シテタヤンケッ』

 『アイッ』

 

 やるなら本気でやれと言わんばかりに拳骨を叩き込むトダー。

 それも手加減していたのか、マネモブのマネキン・フェイスは割れなかった。

 

 『シカシ、教エテクレルト言ッテタケド、何ヲ教エテクレルヤンケ? 幻魔ハダメソウラシイヤンケ』

 「……もしかして、あの技?」

 『うーん、確かにあの技なら最悪漏れても……』

 

 マネモブにはある考えがあった。

 トダーに伝授するその技とは――

 

 『灘神影流“幻魔邀撃拳”』

 『幻魔、邀撃拳……』

 

 幻魔に対するカウンター。

 それをトダーに教えるのだ。

 

 『感謝スルヤンケ。デモ、後一ツダケオ願イガアルヤンケ』

 『図々しいロボっスね、忌憚のない意見ってやっス』

 『トダーノ評価ガ地ニ落チテモ、人ヲ守レルナライイヤンケ』

 『ロボットの鑑っスね忌憚のない意見ってやつっス』

 「で、お願いって何なのよ」

 『ソレハ……』

 

 こうして、一日でトダーに幻魔邀撃拳を教える作業が始まった。

 そして、トダーのある“お願い”とは――?

 

 

 

 電子の海で妖怪が冷笑する。絢爛の都市で心無き機械が躍る。

 勝利、そして黄金の拍手喝采は歌姫たちの手にもたらされる。

 

 次回、『死闘』

 遍く平和は命で守る。命を持たぬ機械は、そう誓った。

 

 

 




何故か目的の技が幻魔拳系にすり替わってるのは龍継リスペクトっス
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