初恋が叶うまでループする話   作:じゃがありこ

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第3話

「相変わらず、これはすごいな」

 

サークル合宿の宿泊所として案内されたのは、木造の部屋だった。板張りの床、壁、天井で区切られた空間に、キッチンやトイレ、シャワールームなど一通りの設備と、冷蔵庫やタンス、机にソファに絨毯など、一通りの家具が揃っている。

 

こういう部屋のことをなんというのだったかな、と俺は考えた。ログハウス、ペンション、ヴィラ、それともロッジとかコテージとかだろうか。

 

とりあえず今回はコテージと呼ぶことにして、そのコテージが結構海の近くに建っているものであるとすぐにわかった。潮騒の音が聞こえていたし、綺麗な青色が窓から差し込んでいたからだ。

 

「このコテージ8棟も貸し出されてるのスゲーよな。どっから金出たんだろ」

 

「ここの宿、卒業生が経営中の場所だから安いんだってさ」

 

「っていうか凜は何でそんなに慣れた動きでくつろいでんだよ」

 

俺は靴を脱ぎ、窓に近い椅子に腰かけてスマホを開いていた。慣れている理由は、このコテージに来るのが3度目だからである。

 

比較的に仲のいい友人である佑太と雷也の三人でこのコテージに泊まることになった。毎回、合宿に参加する人数は同じだが、部屋割りは微妙に異なる。しかし、3人から4人で一コテージというのは変わらないらしい。女子は、7人、男子が19人のため平均するとそんな感じになる。

 

「す、すいませーん。佑太君たちいますか?」

 

扉の前から声が響き、三人で視線を交錯させた後佑太が扉を開けに行った。扉の前には、一人の女子学生が立っていた。

 

彼女は、息を切らしていた。ほおが紅潮している。風邪をひいているのでないとすれば、俺たちのコテージまで全力疾走してきたのだろうか。疾走してきたのだとすれば、それはなぜだろうか。

 

あからさまにほっとした様子で、「あ、いた」と呟いた後俺たちを見つけて青ざめ、「あ、すいません」と杏梨は言った。

 

「経済学部1年の笹山杏梨です。佑太とは幼馴染で昔から仲が良くてサークルも一緒に入ろうと思って………えっと、あ、先輩方がテニスする組とビーチフラッグする組、買い出し組に分かれて集合って言ってたので伝えに来ました。あ、あの私伝えたので!!!!!」

 

そう言って、笹山は走り去っていった。情報量の塊のようなやり取りだった。話すのが苦手でこうなったのか、それともわざとなのか。

 

「おい………あんな可愛い系の子が幼馴染なんて聞いてないぞ。どうなってんだこら!」

 

雷也に詰められている佑太を眺めつつ、俺も面白うそうなので加勢する。

 

「許せねえよな!僕に恋愛はまだ早いって言った飲み会は一昨日だぞ?自分はやることやってんだもんな」

 

「ち、違!別にそんなつもりじゃ!」

 

激詰めされる佑太は話題を逸らそうと、言葉を選ぶ。

 

「あー、えっと。テニサーなのにテニスやる以外の選択肢があるなんて不思議だよね。結局飲みサーってやつなのかな?杏梨が心配だ」

 

「「喧嘩売ってんのか!」」

 

佑太は致命的に言葉選びがヘタクソだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーチフラッグは凄まじく盛り上がっていた。上級生を中心だが、それなりに1年生の参加者が多い。景品が豪華ということもあり 白熱した戦いがそこにはあった。

 

ちなみに、俺がビーチフラグに参加したのはこちらに鮮花先輩参加すると前回のループで知っていたからだ。

 

前回、ビーチフラグに参加していないので、それ以外、情報的なアドバンテージは全くないのが問題だが、それは仕方がない。

 

必死に砂浜の上を駆け回る先輩たちを応援しつつ横目で先輩を探す。

 

すぐに見つかった。めちゃめちゃ浮いていたからである。先輩は、そこら辺で拾ってきた木の枝で砂浜に絵を書いてみた。落書きのレベルではない。めちゃめちゃ大作の凄まじい絵である。

 

鳥かごから逃げ出す鳥を必死に呼びかける少女の絵画だ。

 

「大作ですね」

 

「………この絵、どう思う?」

 

先輩の質問に俺は少し考える。めちゃめちゃうまいですとか、流石先輩ですなど色々返せると思うが先輩が欲しいのはそうではないのだろう。俺はこの絵を見たことがある。学祭で先輩が展示する絵がこれだ。初回のループで見たことがある。思い入れの強い題材、たぶんメッセージ性があるのだろう。

 

「………」

 

思うことはあるだけど、的外れな意見だった時が怖い。どうにも口が動かない。

 

「………タイトルを付けてあるんですか、この作品」

 

質問を質問で返してしまった。

 

「lass mich nicht zurück」

 

「何て?」

 

「ドイツ語で…名前を付けようと思ってる、の」

 

「あー、先輩って第二言語がドイツ語でしたっけ。俺も来期は履修しないとなー」

 

そんなことを言いながら俺は頭を掻きむしりたい衝動に駆られていた。踏み込まなかった。また、踏み込めなかった。

 

無言の時間が流れる中、急に「十六夜!」と名前を呼ばれた。

 

「次はお前らだぞ!」

 

「了解っす」

 

ビーチフラッグの順番が回って来たようだ。俺は先輩の方を向き、行ってきますという。

 

「頑張って」

 

先輩はひらひらと手を振りながら寂しそうに笑っていた。

 

 

 

 

ビーチフラッグの後は、夜まで自由行動となっている。明日はバーベキューをやるそうだ。この辺りは前回のループと同じである。飲み会はそれから3時間ほど後に始まった。近場の飲み屋を使うようだ。すでに顔を真っ赤にしたサークルの先輩がコップ片手に音頭をとっていた。

 

「それでは、合宿の開催を祝いまして…乾杯!!!!!」

 

コップが高く上げられ宴は始まった。

 

「よーし!お前ら1年に聞きたいことがある。彼女はできたか?」

 

すでにベロベロニ酔った2年生の先輩がジョッキを持って1年男子のエリアに絡んでくる。

 

「まだっすよ。先輩こそいるんすか?」

「先輩!こいつできたらしいっすよ」

「何!?写真見せろ!!!!!」

 

一気に騒がしくなる。恋愛は人類最古の娯楽だと思う。こうしてタイプの違う人間でも楽しく話せる話題だから。聞いているだけでもそれなりに楽しめる。

 

彼女かー。俺も早く玲奈先輩にOKを貰いたいものだ。

 

「………なんで怖い顔してるの?ちゃんと飲んでる?」

 

「いえ、一応俺未成年なんで………って顔近」

 

上機嫌な鮮花先輩が横から絡んできた。至近距離から話しかけられ、息が頬に当たってゾクッとする。明らかにアルコールの匂いがする。どうやらすでに飲んでいるようだ。

 

俺たちのすぐ後ろを前転する先輩が転がっていった。すごい昔のラブソングを熱唱しながら。

 

「あの人の歌声すごいよね。すごく…無駄な才能だと思う。フフ、本当に意味不明。馬鹿みたい」

 

確かに、意味不明だがもっと意味不明なのは開始30分程度でここまで出来上がっていることだ。店を貸し切ったのは馬鹿騒ぎをしても怒られないためだろう。

 

周りは喝采と爆笑で満ちていた。

 

「よっしゃー!テキーラ一気します!」

 

そんな掛け声とともにお酒を煽った先輩が数秒後にゲロゲロと吐いている。

 

「凄まじいですね」

 

ドン引きしているとおそらく2年生と思われる男が、俺にジョッキを差し出してきた。

 

「後輩!!!!!もっと飲めよ!」

 

酒を渡してきた先輩と困り顔の俺を見て鮮花先輩がお酒を掠め取った。

 

「お!珍しいな鮮花!お前が飲むのかっ」

 

「今日は飲みたい、気分」

 

一気に酒を煽る鮮花先輩。別に苦しそうでもないが、おいしそうでもない。すぐに先輩が俺をかばってくれたことに気がつく。

 

「ありがとうございます」

 

「何のことかな」

 

何でもないような顔で酒を煽る鮮花先輩はトイレの方に歩いて行った。すると、先ほどの男が小声で絡んできた。

 

「なあ、お前鮮花と仲が良いのか?」

 

「いいって程じゃないですけど……」

 

「あいつの考えてること、読めないっしょ?顔がいいし、会話できないこともないから別にイヤってわけじゃないんだけど。なんかさ、天然だし、裏で笑われてるって思う奴も多くて。お前は大丈夫か?」

 

似たようなことを言われている人を俺は知っていた。同時に、鮮花先輩の孤独を感じた。どこかひとり、ポツンと立っているような。それでもだからこそ、俺はその言葉を強く跳ね返すべきだ。

 

「別に俺は平気ですね。想像で人を嫌いになったりしないので」

 

「………あっそ」

 

しけた様に男は俺から離れて別の席に座った。鮮花先輩はいつの間にか席に戻ってきていた。

 

そんな飲み会を3時間ほど続けていると半数ほどが床に転がるひどい大惨事となっている。完璧に真っ暗になった外を見ながら、コテージまでの短い距離を歩く。鮮花先輩をおぶって。

 

めちゃめちゃ暑いのだが、コテージまで連れて行ってくれと本人に頼まれてしまった。

助けてもらった俺は断れずそのまま鮮花先輩を背負いながら、夜の道を歩く。

 

「生きてます?」

 

そう聞くと先輩が俺の着ていたパーカーのフードに顔を埋める。あれ?吐かないよね。

 

「頭………ぼーっとする」

 

「そりゃああんだけ飲んだら、そうなりますよね。ほんと助かりました」

 

「凜君、楽しそうにお酒を飲まないよね」

 

「いや、俺未成年ですよ」

 

とっさにそう答えたが、先輩が言いたいことがそういうことではないことを俺は気づいていた。

 

確かに俺は本心を隠してる。飲み会で笑えてない。

 

「言いにくいこと?」

 

「まあ、そうですね」

 

どんなに賑やかな場でも、冷静な自分が後ろから見ているような感覚が抜けないのだ。

 

思考をしてそれを振り払っているように思い込んでもやっぱりどこか違うんだ。

 

でもこの感覚を言語化できない。

 

「先輩は優しいですよね?わかりづらいですけど、伝わりづらいですけど………普通とは違うのかもしれないですけど。でもやっぱり先輩が誰かを思いやっていることは分かります」

 

直後、頭にふわっと乗せられたものに思わず声を上げた。

 

「君はいい子だね」

 

彼女の手が俺の頭を優しく撫でていた。少し火照った暖かな手が包み込むように、何度か頭をなでる。

 

これって脈あるのかな?誰か教えて欲しい。

 

 

 

 

 

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