黒鉄に霞む空、駆けるは狼   作:しらす丼

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第二話 苦労人は悠々自適?

 

 

 

共に戦えたことを

 

今でも夢に見る

 

 

 


 

 

 

「一夏、起きろ。一夏?」

「篠ノ之箒。今の彼は極めて甚大かつ重篤なダメージを受けているようだ。代表候補生でもないのに出席簿を食らっているからな、保健室に連れて行ってやればいいんじゃないか?」

「な、なるほど。感謝する」

「君も起きるんだ、セシリア・オルコット。私は学生の生活支援のためにIS学園に来た訳じゃない、代表候補生なんだから自力で立ち直ってくれ」

「はい……聞こえていますわ……勿論です……織斑先生の……命令を……チェルシー……お父様……お母様……」

「う〜ん、これはダメみたいだねぇ〜」

「これから職員室へ、寮の鍵を受け取りに行かなければ行けないのだが……骨が折れるなぁ」

 

 机に体を預けたまま動かない一夏。単に慣れない環境とよく分からない内容の授業で疲れているというだけではないと、クラス全員が知っている。元々知人であるらしい箒が躊躇いがちに彼の身体を揺すっても意識は帰ってこない。レオンの言う通り、保健室でじっくりと話を聞くことになりそうだ。でも肩に担いでいくのは流石にパワフルすぎやしないかね。レオンは最近の女の子に感心したかのように、そわそわと小走りな箒を見送った。ただしその顔は死んでいる。

 そう、彼にも対処すべき相手が居るのだ。程度が軽いとはいえこちらもダメージを受けているセシリアなのだが、どうにもどこかで見たような虚脱状態。ここがIS学園であることを忘れたかのように譫言を繰り返している。そこまで恐ろしい説教だっただろうか。途中から廊下まで引きずっていかれてからこの調子なのだ。あずかり知らぬ場所でどのような会話(説教)がなされたのかは知る由もない。

 

「布仏本音、だったかな。君に頼みがある」

「れおっちの頼みなら〜……そうだなー、今回はポッ〇ーで請け負おうじゃないかー!」

「ひとつでどこまでやれそうかな?」

「ひとつなら……せっしーを起こすぐらいかなぁ?」

「いやいや、違うさ」

 

 ぬるりと滑り込んできたのは、のほほーんとした雰囲気を漂わせている同級生。彼も暇ではない、今も職員室で待っている山田先生が気がかりでならないのだ。千冬のストレス発散対象になってなければ良いのだが……そう考え込んでみると、彼女は手にした飴をセシリアの視界で揺らしながらサムズアップしてきた。

 これ幸いにと乗っかってみれば好感触。本音はお菓子好き、と心のメモ帳に書き留めた彼は試しに牽制を放つ。どうやら金を積めばしっかり働いてくれるようだ。どこか懐かしい気配を感じる交渉だが、彼女の表情を見るに擦れ違っていると感じる。ひとつで起こすだけ?やや考えたものの、納得。具体的な説明は傭兵への礼儀だったと思い返し、彼女の耳元へ顔を寄せる。

 

「ひぇ、なになに──」

「ダンボール一箱、というつもりだったのだが……どうかな。君のコミュニケーション能力を見込んでの依頼だ、損をさせるつもりはないよ」

「──任せてレオン。この布仏本音、全力でセシリアを部屋まで送り届けるから。……それはそれとして、報酬はちゃんとお部屋に送っておいてね〜」

「ああ、任せるよ」

「むん!」

 

 ほんわかした気配はどこへ行ったのか、目を開き背筋を伸ばした本音がレオンに向き直る。まるでどこかの護衛任務にでも赴くかのような佇まいだったが、それも一瞬。あっという間に元の『のほほんさん』(一夏命名)に戻って、セシリアのことをあの手この手で引き戻さんと頑張り始めた。五円玉と紐を取り出したあたりでレオンは教室から姿を消したが、セシリアをきっちり送り届けた本音は仕事を終えた傭兵のように研ぎ澄まされていたという。……主に食欲に対して、という意味で。

 

「山田先生、すまない。待たせてしまった。セシリアの対処を……って、どうしたんだそんな顔をして。まるで救いを得たかのような──」

「遅かったなレオン」

「なるほど、また一段と圧力を増している。背負ったようだな千冬。だが、この私には職員室で成すべきことがある。寮の鍵を渡してくれ、話はそれからだ」

「山田先生」

「はいどうぞ!そして私は一度生徒の様子を見てきますので後は二人で何とかしてくださいね!」

 

 扉を開くと一斉にこちらに視線が突き刺さる。重苦しいプレッシャーを放っているのは千冬だ、彼女に圧されている空気を変えようと、とりあえず半泣きの真耶から鍵を受け取る。和ませるための笑顔も忘れない30歳高身長イケメン、レオン・ケリー。惜しむらくは、もうそれだけでどうにかなるような状況ではなかったということだろうか。

 

「うむ、素晴らしい健脚だ」

「一夏は?」

「篠ノ之箒に連れられて保健室に。セシリア・オルコットは部屋に帰っているはずだ、多分。……君の説教は学生に対して余りにも過激だと何度も言ったはずなんだが、やはり聞き入れられないらしいな」

「黙れ」

「さて、私は部屋へ戻るよ。荷解きがあるからね。また明日、織斑先生。これに懲りたら、実弟を叱りつけるなんてことはやめるんだぞ。化け物を見るような目、というのも自業自得だと思うからね」

「かは──ッ」

 

 走り去った真耶の背中を追うように、レオンは掌中の鍵を弄びながらステップを踏む。五回の足踏み、それだけで彼は千冬の拳を全て躱し受け止めた。つくづく末恐ろしい男だと千冬は思う。ゲルマン忍法なるよく分からない技を使って攻撃を無力化されるというのも考えものだ。

 真の英雄よろしくビームを放つ一歩手前、そんな剣呑な千冬にレオンは最後のカウンターパンチ。そう、機嫌が悪いというのはその件についてだ。結局、ブラコンは弟に嫌われるのが最も辛いという事なのである。だからこそ嫌われていないか、気になって気になって仕方ない。機嫌が悪くもなるだろう。ブリュンヒルデともあろう女傑が思春期女子のようだ。決して口には出さないが、レオンは生暖かい目を向けて歩いていく。

 

 彼に割り当てられたのは一年生の寮。目的の部屋を見つけて念の為にノック。返事は無い、鍵もかかっているようだから誰もいない。そう当たりをつけて扉をゆっくり開いていく。中に誰かいたら?99.9%女性だぞ。社会的に死にたくなければゆっくり確認してから開けるのだ。内なる自分が囁いたので、その通りに従ってみる。電気、消灯済。人の気配、無し。よってレオンの一人部屋ということになる。

 勝った。珍しくガッツポーズ。今まで出来なかったあんなことやこんなことを始めるチャンスなのだ。これが喜ばずにいられようか。手始めに部屋を改装してやる、そう意気込んでダンボールを手に取っていく。片付けしなければ何も始まらない。カッター片手にぱかりと開いた箱の中、文字通り顔を見せたのはうさ耳装備の変人だった。

 

「見なかったことにしよう」

『なーんーでー!』

「さて、千冬はっと」

「呼んだかレオン」

『げ』

「……扉を閉めてくれ。流石にこの狂人を外に放り出す訳にもいかないだろう。君もわかってくれるはずだ、千冬」

「ああ、もちろんだとも」

 

 3つほど積まれたダンボール箱を貫通するように隠れ潜んでいた不審者は、首根っこを掴まれてベッドの上に正座させられる。いい歳した大人が何をやっているのだろうか、千冬とベッドで格闘する成人女性を眺めながらレオンは肩を落とす。厄介事はもう勘弁して欲しいのだが。

 

「で、片付けを手伝ってくれる訳でもないなら千冬の部屋に行ってくれ。私はともかく、彼女ならいくらでも貸すからな」

「え!やったぁ!早く行こうよ、ちーちゃん!」

「レオン、貴様……!」

 

 引きずられていく千冬は怒っているものの、本気で振りほどこうとしないあたり満更でもないのだろう。生徒に見つからないか心配になったが、それを考えるのは教師の仕事だ。自分ではない。改めてダンボールを片付けていくと、案外手早く終わったことに驚いた。

 私物は少ないと考えていたが、改めて感じる。レオン・ケリーという人間の薄っぺらさは、どうやら部下にまで心配されるようなものだったらしい。最後の一箱だけはプレゼントを入れたものだった。黒い兎で装飾されたテープを丁寧に剥がして開いてみると、変な声が漏れ出てしまう。

 

「ここまで私物は少なかったか……ん、まさかこれは軍からの?彼女たちも何か私に──って、これはぁ!?」

 

 

 そうして、何日かが過ぎた。ややぎこちなく復帰したセシリアと一夏は特に問題行動を起こすことも無く、レオンも千冬と真耶に挟まって指導補助を行っている。実技授業では組手の実践も見せられたのだが、千冬の超人的身体能力に生徒たちは驚いていた。生身でIS用近接ブレードを振り回すような人間?にしか、ブリュンヒルデの称号は相応しくないのだろう。

 それはそれとして、ゲルマン忍法と叫びながら分裂したり瞬間移動にも似た高速移動を披露していたレオンは何者なのだろうか。あれもあれで本当に人間なのか怪しくなってくる。挙句の果てには千冬の振り下ろしたブレードを白刃取りして砕いていた。もう本当に人間やめてるのではないだろうか。放課後に二人で竹刀を振りながら、一夏と箒は考えていた。

 

「なぁ箒、ドイツ人って空を走れるのか?」

「私が知るわけないだろう。少なくとも人間が生身で空を走ることは不可能だ。多分な」

「だよな。流石にIS使ってるよな二人ともな。そうじゃなきゃブレード振り回したり白刃取りしたりへし折ったりできないもんな」

「…………隙あり!」

「痛い!」

 

 本当にこれが、セシリアとの戦いに役立つのだろうか。一夏にはただの剣道の稽古にしか思えないのだが。面に感じる激しい衝撃を身体全体で受け止めながら、彼は再び竹刀を握り直すのだった。脳裏に浮かんだ変な想像は振り払って、目の前の箒へと向き直る。

 

(そんな訳ないよな、レオンが実は──なんて)

「甘い!」

「痛ぁ!」

 

「え、誰、あれ」

「足なっっっが……」

「腰ほっそ、モデルでもやってるのかしら」

「おはよー。あんな子、一組に居たっけ?」

「分かんなきゃ声掛けてみればいいの。おはよー!」

 

 そうして、やって来た一夏とセシリアのクラス代表決定戦当日。一組にやってきた生徒たちは見慣れない女子生徒を発見するのだった。所在なさげに窓へと身体を預け、外を眺めている伏し目がちな瞳に浮かぶのは諦観か。黒髪の間から覗く垂れた右目は、朝日を照り返して赤く染まっているようにも見えた。

 どうにもどこかで見たような記憶がある。首を傾げながら相川清香が声をかけてみると、目を瞬かせた彼女がこちらを向いた。ロングヘアを揺らしてにっこりと微笑むと、やや遠慮がちに手を振ってくる。チョーカーに手を当てる際、形を変えたそのバストは──豊満であった。

 

「負けた……ッ」

「清香ちゃんがやられたー!?」

「ちょ、次は篠ノ之さんが行ってみて!変な人だったとしても篠ノ之さんなら大丈夫!返り討ちにできるでしょ!ほら、逆刃刀貸してあげるからさ!」

「私は人斬り抜刀斎ではない!……で、ござるよ」

「いいねいいね、その調子で行ってみよう!」

「おはよー、って何だこれ?みんな入口で固まって何やってんだ?誰か中に居るんじゃ……うわ」

「うわって。うわって言ったよ織斑くん」

「どうしましたの皆さま、こんな場所で。もうすぐ授業が始まりましてよ、織斑先生に怒られたくなければ……」

「せっしー?」

「お姉様……?」

「あぁ、オルコットさんが壊れた!」

 

 わいわい、がやがや。謎の生徒に向けて手を振ってみたりアピールしてみたり。その度にしっかりとレスポンスは返ってくるが声は返らない。どうにかして彼女の声を引き出してやろうと教室の入口で屯している一組生徒だったが、授業時間だけはしっかりとやってくる。予鈴と共に千冬と真耶がやってくると、怪訝な顔をして先に教室へ突入した。

 

「何をして……うわ」

「織斑先生も言ったよ、うわって」

「やっぱ似るのねー」

「あ、あのぅ……3年生の方でしたらもうそろそろ授業が始まりますし、ホームルームへ戻った方が良いのではと……」

「山田先生、いいんだ……くくく」

 

 躊躇いがちに声をかける真耶を制して、笑い始めた千冬が全員を手招きする。恐る恐る、まるで拾いたての猫が部屋に入るが如き慎重さ。一歩一歩、警戒しながら一夏を先頭に進んでくる生徒たち。近づくと分かるが、謎の女子は意外と高身長だった。180cmはありそうだ。そこまで考えてから、一夏はふと思い出した。この場で唯一居ない生徒、レオンのことを。

 

「まさか……レオン、か?」

「────千冬、君のせいだぞ」

「「「「うわああああああああ!」」」」

「こちらの方が良かったかしら?」

「「「「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」

「……ふざけるのはやめろレオン。生徒が気絶している」

 

 そんなハズない、違ってくれ。一夏の願いは儚く散った。諦めたような笑みはヤケクソから来るものだったらしい、一夏の声を受けた女子生徒は途端に纏う雰囲気を変えた。垂れ目は細く、ウィッグを外して元のウルフカットへ。チョーカーを弄るだけで声が変わって、数人が意識を飛ばした。

 

「女装……ねぇ」

「なんだ、寒気が?」

 

 その後、セシリアとの模擬戦まで一夏に向けられる視線は怪しいものになっていた。本人としては寒気が止まらず、風邪だとも思っていたようだが。




感想、評価とか
あったらいいなと
そう思う私でした
解釈違いがあったら
ごめんなさいね

視点はどちらが好みでしょうか

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