ぶっちゃけ1話は読み飛ばしてもらっても構いません
エグゼの主要人物親いねぇよなァ、っつう言い訳みたいなモン
1.隠岐渡の人生の終わりと始まり
その日は当事者だというのに、完全に置いてけぼりだったと思う。
知らない天井、などという一昔前のテンプレを呟く暇もなく、目覚めた途端に知らない爺さんに泣きつかれ、看護婦からやけに落ち着くように言い含められ、人心地ついたのは彼らを医者が追い出してからだった。
それから簡素な説明を受けると、どうも自分は事故にあったらしい。
自動車の衝突事故に巻き込まれたらしいが、そんなことよりも――身体が縮んだのが何よりも気掛かりだった。
その辺りも問いかけると記憶障害も追加され、検査諸々含め退院するまで実に時間がかかったように思う。
そうして祖父だと名乗り、未だ涙ぐむ爺さんに連れられ、外見は古き良き日本家屋とは裏腹に内部は和洋折衷の住処に帰宅。これから自室となる部屋を与えられてからようやっと俺が第二の人生を歩んでいることに気が付いた。
端的に言えば転生した、ということなのだろうけれど、いざ我が身となれば受け入れるまでに時間がかかるのだ、これが。
前世の記憶など木っ端の派遣社員で、いつ死んだのかも判然としない。
今世の怪我の影響なのか今までは眠る時間の方が多く、起きている時間も検査ばかりで、
荷造りを解いていく内に判明したのは私物に何かにつけて名前シールが貼られる児童だということ。
今世の名前が『おきわたる』ということ。
そして、紙媒体のものがやけに少なく、代わりにノートPCが個人に与えられている点がどうも気掛かりだ。
スマートフォンならいざ知らず、PCはいかがなものか。一瞬、親のものかと思ったが、ご丁寧に裏面には名前シールが貼りつけてられているし。
ひとまず疑問は置いておき、PCを起動してみようと試みるが、些細なことに躓いた。
このノートPC、縦ではなく横に開く構造になっており、横長になる珍しいタイプのようで、キーボードが画面横に配置されているのが奇妙に思える。
そのキーボードも不思議で、配列も変だし、タッチパッドの類が見られない。
またポートも見慣れないものが多く、特に気になったのは画面とキーボードの間に存在する深く、大きなそれ。
ぱっと見、光学ドライブではないとわかるそれは、ゲームボーイのカセットを突っ込めばちょうど良さそうな気もするが、まさかだろう。
極めつけはコードが伸縮するコネクタ。何か頭にひっかかるものがあったが、ひとまず起動してみることに。
見知らぬOSが立ち上がり、SSDに慣れた身からしたら長過ぎる待ち時間の末、画面に大きく映ったのは緑色のロボ調のキャラクターが。
『おはようございます。新着メールが5件到着しております』
無機質な機械音声も耳から素通りし、俺は天を仰ぐ。そして、
「ネットナビやんけェッ!!!!」
腹の奥底から、魂の叫びを解き放った。
『ネットナビ』それはロックマンエグゼという作品に登場する疑似人格プログラムのことを指す。簡単に言えば、感情を理解したAI。ガワの付いたS〇riが多機能となり、自律的に動いてサポートしてくれる、みたいなものだ。
ネットワーク技術が発達したロックマンエグゼの世界においてはネットナビの存在は大きく、それらの知識がない老人や子供でも口頭で指示すれば代わりにやってくれるし、またそうでない人にとっても仕事の大部分が機械にとって代わっているので、その補助や機械のメンテナンス、ウイルスバ〇ター的な役割まで、ネットに関わるものすべてにおいてネットナビは切っても切り離せない存在になっている。
便利になった一方で、追いついていないもの――倫理観であったり、プライバシーであったり、セキュリティなどなど……色々ガバガバであるのもロックマンエグゼの世界の特徴であったりもするのだ。
一般市民が所有するネットナビが他のネットナビにウイルスをけしかけても罪に問われないし、住所や本名を平気で明かす某SNSよりも酷いネットリテラシー、たった1体のネットナビによって滅ぼされる国など枚挙に暇がない。
まぁ、そんな世界だからかテロ紛いのことが頻発し、何なら本気で世界征服を企む輩が現れる。そんなやべぇ世界で二度目の人生を送る羽目になったのだ。そら発狂のひとつでもかましたくなる。
「夢じゃ、ないんだよなぁ」
頬を強くつねるとやはり痛みで涙がこぼれるし、今までの入院生活でも何時社畜生活に戻らされるかと冷や冷やしていたが戻る気配もない。
創作物に転生、などという二重で現実味のない事柄でも受け入れるしかない。
これが事実ならば呑気に暮らしていく訳にもいかなくなったのだから。
「爺ちゃん」
荷解きを軽く済ませた後、居間でくつろぐ祖父の元に顔を出す。
「おや、どうしたんだい
柔和な笑みを浮かべ、こちらに歩み寄る祖父に少し喉が詰まる。その言動の節々から過保護めいたものが感じられ、罪悪感が胸に過る。
それもその筈、彼に残された肉親が『おきわたる』一人に他ならないから。
――入院中、『おきわたる』の両親は息子の見舞いに一度も来なかった。重荷となって捨てられたか、と邪推していたが、世話しに来る看護師たちの哀れみの視線が気になって、鎌をかけると地雷を発掘してしまった。
『おきわたる』の両親は彼を庇って亡くなった、のだと。
「学校ってさ爺ちゃん家から通うことになるのかな?」
「……あぁ、そうだとも。秋原小学校といってな、大通りをまっすぐ行ったところにあるからわかりやすいと思うが、初日くらいは爺ちゃんが連れてってやろうか?」
「ううん、大丈夫」
愛想笑いを浮かべ、「明日の準備があるから」と告げて背を向ける。
よりにもよって渦中の秋原町、主人公の通う秋原小学校に行く羽目になるとは。
「……いっそ引っ越すことも視野に入れるか?」
そう呟いて、首を振る。見たところ祖父は年金暮らしみたいだし、両親の遺産も保険金もわからない。
少なくとも派手な事件が起こるまでは、危険性が表面化するまでは言い出しにくい。
これ以上、負担になりたくなかった。
子供を失って、孫さえ中身が別人ともなれば、いくら何でも『おきわたる』の祖父が哀れでならない。
前世、などと言い繕ってはいるが、『おきわたる』自身の記憶も人格も残らないとなれば、俺が身体を乗っ取ったも同じだ。
身体を受け渡す方法なんてわからない。仮にできても、幼い精神で両親を失ったショックに耐えられるかどうか。
だからせめて、祖父と『おきわたる』の命だけは守ろう。欺瞞であっても祖父の安寧を守ろう。
そう心に誓い、俺はロックマンエグゼの世界で生きていくこととなった。
シリアス君はそんなに登場しない予定