WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

12 / 69
12.Welcome to Underground

 なんだかんだで事前に事件を防いだのが初めてだと気付いたあの日。

 放火事件を引き起こしたヒノケンイチと、水道局局員の息子を誘拐し断水を強要した色綾まどいをオフィシャルに引き渡した後、俺は留置所にて再度確認を求められた。

 一応、まどいが変装していたのもあって、そこそこ時間を取られたが小学生ということもあってか夜が深くなる前に家へ帰された。

 そしてWWWの幹部級が2人捕まったことで今まで判明しなかったアジトの所在が判明。

 突入作戦が組まれ、その人員に炎山の名前も入っているので俺の護衛からお役御免となった。

 

「――本日を以てオレは護衛の任を外されます。何かあれば後任の方へお願いします」

「そうかい。孫共々世話になったのぅ」

 

 わざわざ祖父に別れの挨拶をする辺り、炎山は祖父のことを気に入っているらしい。

 そこまで関わりが無かったのにどういうことだ、と炎山に尋ねてみても、

 

「あの方が言わないのであればオレから口にするのも憚られる」

 

 と意味深な言葉を残して去っていったのでわからず仕舞いだ。

 対面した時の反応からして祖父の知り合いではなかったみたいだし、『隠岐渡』の祖父は意外と大人物なのかもしれない。

 一緒に暮らしているとただの好々爺にしか見えないし、ゲンさん含め町内会の人々も祖父は顔の広い人としか言わないからなぁ。

 

『あーやっといなくなったー』

「炎山のこと苦手だったのか?」

『ううん。どっちかっていうとブルースの方。何かある度にワタちゃんへの苦情を私にぶつけてきてさぁ』

「それは……すまなかった」

 

 PETの前で頭を深々と下げる。

 知らなかったとはいえ、俺のせいで迷惑を被っていたのだから頭くらいは下げるべきだ。

 しかし『1』時点のブルースは炎山の命令をこなすだけの戦闘マシーンに徹していた筈なのだが。その辺り、シアンに聞いてみれば、

 

『最初は確かに何にも喋らなかったけど、ムカついてマシンガントークかましたら、お小言マシーンになっちゃった』

 

 とのこと。半分くらい自業自得じゃねぇか。

 それでも今後の炎山&ブルースコンビを考えれば、決して悪くない。

 徹底した主従関係から互いに気持ちを分かち合う友情に代わる第一歩だと思えばシアンに文句を付けようがない。

 尤も、ブルースが軟化する一因はライバルであるロックマンの筈なんだけどな。何かあったら軌道修正頼むぜ、主人公。

 

『でも良かった! ワタちゃんに酷いことした人が捕まってさ』

「まぁ、安心するのは早いと思うけどな」

『どゆこと? まーたワタちゃんの未来予想図?』

「そっから外れてはいるんだけど……」

 

 本来の原作にもアニメにも無い、ヒノケンと色綾まどいの逮捕。

 WWW本拠地の場所も早期発見ともなれば、一般市民である熱斗の介入を待たず『1』のシナリオが盛り上がりもなく完結してもおかしくない。

 ただこの時空のWWW関連のガバに修正が入っているのが気掛かりだった。

 原作だと熱斗が単身で乗り込み、途中味方の援護もあったとはいえ小学生がどうにかしてしまえるご都合展開だった。

 が、普通に考えて侵入者対策がドアロックだけ、というのもおかしいだろう。あの過激な思考の老人が先を阻むだけでなく、排除を考えないとは思えない。

 

「まだ起こってない事件もあるし、万が一に備えて損はねぇ」

『じゃあ、まーた仕込みの時間?』

「いや。今回は俺には無理だわな」

 

 WWWの次なる狙いは科学省か、発電所。

 原作だと痺れを切らしたワイリーが中枢を狙う発言をした結果が、科学省の停電騒動だ。

 その時、地下で会食を行っていた科学省員とその家族は閉じ込められ、酸欠の危機に陥ることとなる訳だが。

 当然、俺には入場許可は降りないから仕込みもクソも無い。せいぜい熱斗経由でハッキングパパに警告を飛ばすくらいか。

 直接WWW団員と面会したことを利用して「科学省か発電所を狙う匂わせをしていた」と伝えておこう。最悪、炎山の名前も借りてしまえば、その備えくらいはしてくれるだろう。

 後は熱斗の主人公補正がどれだけ働くか、だが……。

 

「あー……炎山がWWW突貫に選ばれてなきゃ、もうちょいどうにかできたんだけど」

『今からでも頼めないの?』

「そこまで信頼勝ち取ってねぇし、重要度は比べるべくもねぇ」

 

 所在の割れた敵陣の本拠地と、ガキ1人が提唱するまだ起こってすらいない事件。どちらを取るなんざ考えなくともわかる。

 

「まだインターバルがあると信じて俺たちがやるべきなのは……」

『やるべきは?』

「ウラインターネットに行くこと。で、熱斗とロックマンの強化だな」

 

 果たして成長機会を奪われ続けた現在の熱斗とロックマンがどれだけ()()のかわからない。

 今後のことも含めて彼らにはウラインターネットで急速に強くなってもらう必要がある。

 

『あんだけヤバいって言われたのに行くつもりなんだ』

「逆にウラでチップ集めなり経験積むなりしねぇと、最悪詰むんだわ」

 

 Dr.ワイリーは本家ロックマンシリーズと同じく、ロックマンエグゼにおいてもラスボス()()()()()立場にいることが多い。

 ここで完全に彼の野望を食い止めれば平和が訪れるか、と言われるとそうでもない。

 ワイリーと無関係の敵が1年足らずで宇宙から襲来し、地球全体が滅亡の危機に晒される。それとは別件ではあるが、何ならルートによってはワイリーと共闘しないと、ある人物によって世界征服が達成される恐れもある。

 それを阻止する為には熱斗とロックマンの強さが不可欠。ロックマンの潜在能力が高いといっても、それを引き出す前に負けてはどうしようもない。

 

『ワタちゃんと私で模擬戦して再現できないかな?』

「完全には無理だし、何より危機感が足りねぇ。マジでやらないと身に付かないものもある」

 

 その為のウラインターネットだ。

 あそこならガラの悪いヒールナビが幾らでも生えてくるから実践経験をたっぷり得られる。チップの収集具合では隠しボスに挑むのもアリな選択だ。ゲームではラスボスより強かったが……対策次第でどうとでもなる。

 最悪、ゲームと違って戦闘中でもプラグアウトで逃げられるし。

 

「で、肝心のアクセス方法は……」

『もう一度ヤミタローのとこに頼みに行くの?』

「そっちはどうにもならなくなったらな」

 

 一度断られたものの、あくまで軽い頼み方をしただけだ。日暮さんが食い付く餌に心当たりはあるし、そいつを引き合いに出せばいける筈。

 まぁ、場合によってはデリカシーにかける情報を出す羽目になるかもしれないから、後回しにして。

 今度は他の人物から教えてもらうとしよう。

 

「明日、ウラの管理者に会いに行こうと思ってる」

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 メトロに揺られて向かったのはビーチストリートと呼ばれる、その名の通り海に接した町だ。

 洒落たカフェであったり、DNN(デンサンニュースネットワーク)という大きなテレビ局があったりと華やかな場所がある一方、外国人が怪しげな商売をやっていたりと明暗がわかれる町でもある。

 今回、俺の目的となる場所は海に面した大きな病院。

 受付で友達のお見舞いに来たという旨を伝え、病室の番号を教えてもらう。途中、手の空いた看護師が案内してくれるとのことでご厚意に甘えておいた。

 

「まもるくーん。お友達がお見舞いに来てくれたわよー」

「ども」

 

 案内されたのは広々とした個室。ベッドの上からでも海を一望でき、用意された備品を見ても金の匂いがプンプンする部屋である。

 この部屋の主である浦川まもるは上体を起こしてこちらを見やったが、大した反応も見せずそっぽを向いてしまう。

 

「あらら……機嫌が悪いのかしら?」

「大人がいると喋りづらいからじゃないですかね?」

「まっ、酷い」

 

 やんわりと看護師を追い出すと、俺はベッドの上にいるこじんまりとした彼に歩み寄る。

 

「突然の訪問悪いな」

「何? 授業のデータ置いてさっさと帰ってよ」

 

 入院生活が長いのか手足は小枝のように細く、患者衣から覗く肌は不健康な白さ。

 廊下で時折走り抜ける子供たちとは違って、まもるの表情には力が無い。年相応の童顔ではあったが、枯れた老人を思わせる。

 こんな弱弱しい病人がまさかウラインターネットを管理する一族だとは普通わかるまい。

 

「いんや。俺はお前と話をしに来たんだ」

「なんだよ。ぼくはきみに話なんてない。親切のつもりなら言っておく。迷惑だ」

「まぁ、そうなんだけどさ。聞いてくれよウラの管理人」

 

 

 

 

 

 闖入者の聞き逃せない台詞を前に浦川まもるは上体を捩じり、その姿を見やった。

 声の主はまもるの想像に違わない少年だ。ややシャープな顔の輪郭から中高生にも見えたが、背丈はそこまで高くない。

 長めのスポーツ刈りに、ニホン人にしてはやや彫りの深い顔立ち。

 ラフな恰好をしているものの身なりは整っており、姿勢が正しいからか見かけより年上に思わせる。

 

 何より印象的なのはまもるを見る目、だろうか。

 親と一部の医者を除けば、大概は先生に頼まれたからと嫌々そうなのを隠し切れない目や、正しい自分に酔っている目、可哀想なものを見る目、といった彼が忌み嫌う人種ばかりだ。

 しかし目の前の少年はそのどれでもない。真剣味を帯びたものだ。

 

「ようやくこっちを見たな」

「ウラ? 管理人? なんのこと?」

「誤魔化すの下手だなぁ」

 

 やや粗い言葉遣いに反して、口調は柔らかい。

 いつものように無視を決め込んでしまえばいいのに、どうしてか彼に反応してしまう。

 

「単刀直入に言う。俺はお前に、ウラのアクセス権を貰いに来た」

「……そこまで知ってて何でぼくに頼むんだよ?」

 

 浦川一族がウラインターネットの管理を任されていることを知るのは、極一部しかいない。誕生の経緯から科学省の一部のお偉方ぐらいなもので、他に知るとすれば彼らから情報を盗み取った凄腕のハッカーか、その情報を買い取った情報通。

 どちらにせよ、ウラに通ずる者が今更ウラのアクセス権を欲するなど意味がわからない。

 

「まぁ……一番穏便に済む方法がお前に頼むことだったから、かな?」

「物騒なこと言うね、きみ……」

 

 少なくとも初対面の人間に吐露する事ではなかった。

 ひとまず相手の要求を聞き届けたまもるは、

 

「嫌だけど」

 

 考えるまでもなくノータイムで拒否した。

 こちらに何ら得がなく、相手の目的も不明瞭。どう好意的に受け取っても頷く理由にはならかった。

 

「まぁ、そうよな。でもお願いします。どうしても必要なんです」

 

 腰を深く折り曲げ、深々と頭を下げる少年を見てもまもるの心はぴくりとも動かない。

 どんなに誠意を見せたところで、それがポーズでしかないなど世の中腐るほどある。ウラや病院という場所柄、そういう見せかけを、まもるは数えきれないほど見てきた。

 

「話はそれだけ? 帰ってよ」

「金はねぇけどバスティングの腕にはそこそこ自信がある。言ってくれりゃあニホンの大半のチップを手に入れてやる」

「帰って」

 

 話はそれまで、とまもるが強引に打ち切ると相手も口を閉ざす。

 が、諦めが悪いのか、頭を掻き回し、「あー。うー」と呻いた末、

 

「ウラはWWWが実効支配してるが、いいのか?」

 

 手口を変えてきた少年にまもるは嘆息して返答する。

 何を必死になっているのかはわからないが、眉根を寄せて渋い表情を作る少年を哀れに思ったのだ。

 それに相手をしてやる時間は幸か不幸かたっぷりある。最悪、ナースコールで追い出せばいい。

 

「それが? ウラの秩序は守られているよ?」

「今はな。でもその内、インターネットそのものの破壊に乗り出すぜ?」

「ふーん。何でそんなこと知ってるの?」

「例の洗脳映像だよ。学校で堂々と目的を言ってやがった。それに俺は奴らに誘拐されたことがある」

「不幸自慢?」

「……自慢になるものかよ」

 

 自嘲気味に漏らす彼の顔には不幸に酔いしれる色はなかった。

 

「そんな目に遭って、ようやっと目覚めた馬鹿野郎だよ俺は。WWWを潰す力がいるって、やっと気が付いた」

「きみにできるわけ?」

「俺だけじゃあ無理だろうな。でもやる。俺たちでどうにかしてみせる」

「オフィシャルがいるじゃん」

「あぁ知ってるよ。彼らのお蔭で今の暮らしがある。でも彼らだけじゃどうにもならないことも知ってる」

 

 皮肉げなまもるの言葉に、少年は真正面から受け止め、頷いてみせる。

 まもるには無い、強い意思の光を帯びた瞳。最初は何とも思っていなかったのに、いつの間にかそれがまもるの胸に突き刺さって離れない。

 

「他人に期待したってどうにもならないって知ってるだろ、まもる?」

 

 あぁ、そうだ。

 大変後ろ向きな台詞だが、まもるは身を以て知っている。産まれてからずっと自身の心臓を蝕む病気に苦しめられ、その治療の為に転々としてきたまもるには。

 散々人に期待させておいて、何度も裏切られてきた。だから諦めたというのに、彼は。

 

「だから俺がやる。でも俺だけの力じゃどうにもならない。だから力を貸してくれ」

 

 然して特別なことは言ってないのに。陳腐でつまらない文言だというのに。

 熱だ。

 彼に込められた言葉の熱が、まもるにまで伝播してくる。

 

「どうせ助からないよ」

 

 だからだろうか。彼の返答ではなく、まもるの押し殺してきた気持ちが漏れ出たのは。

 未だ考えていることは伝わらないのに、感情ばかり伝わって。我慢している自分が――大人びた対応をしている自分が逆に子供に思えて。

 つい、彼に助けを求めてしまった。

 

「かもな」

 

 しかし、彼は他の人と同じくまもるの期待を裏切った。けれど、

 

「でもお前みたいにわかった振りをするのはやめたんだ」

「な、んで……」

 

 知らず知らず頬を流れる涙。

 それを気にせず、身を乗り出して彼に問いかける。

 

「怖くないのかよ!」

「怖いよ。でも俺の命は『俺』だけの命じゃあない。お前もだぜ?」

「え……?」

 

 ぽかんと口を開くまもるを気にせず、彼は静かに笑って話を続ける。

 

「誰かと関わっていく内にさ。自然と乗っかってくる訳よ。そいつの思いが。でも死んじまうとその気持ちを台無しにしちまう」

「勝手にそんなことしないでよ……」

「だよな。でも誰だってそうしてる。当たり前のことなんだ」

「でも、でも!」

「期待するの、しんどいよな。期待されるのも。どうにもならないことは諦めた方が賢いって思えるよな?」

「そうだよ!」

「だけどさ、案外どうにかなることもあるんだぜ?」

 

 あっけらかんと言って彼は笑う。

 まただ。

 これだけまもるの気持ちに寄り添えるのに、最後にはスッと離れていく。

 

「確かに俺じゃお前をどうにもしてやれねぇ。でも断言してやるよ、まもる」

「……」

「1年もしない内にお前の身体と心を救ってくれる3人が現れるってよ」

 

 何の根拠もない絵空事だと失笑してやればよかった。

 でも、まもるは彼に頷いてみせた。

 自身の目的も忘れて、まもるを鼓舞するバカにもう一度だけなら騙されてやってもいい、とそう思ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃ、邪魔したな」

 

 途中までは泣き落とし路線に進もうと思っていたのだが、着地点がわからなくなり、いつの間にか投げやりになっている少年に説教かますオジサンになっていたことに今更ながら気が付いた。

 正直、窓に頭から飛び込んで物理的に頭を冷やしたい。

 五体満足で能天気に生きてきたアホの言葉なんざ長い入院生活で苦しんだ子に響く訳ねぇだろ、アホか。

 あーあー年甲斐もなく、なんてことを。

 まもるくんも途中、空気に呑まれて涙まで流してくれたが、いざ冷静に立ち返れば俺がいかにアホかわかるだろう。

 

「待ってお兄さん!」

「ん?」

 

 真っ赤になった顔を隠して退出しようとしたところに、まもるくんが呼び止めてくる。

 病人を無理させたんだ。死体蹴りは甘んじて受け入れよう。

 

「ウラのキー、忘れてる」

「いいのか?」

 

 持ち上げて落とす天丼に身構えながらPETを差し出すが、まもるくんは自身のPETと接続し、何かを転送してくれる。

 

「シアン?」

『ウラの割符だって。名前からしてアクセス権かな?』

 

 『3』の重要アイテムを手に入れてしまってどうにも落ち着かない気分になる。

 いや『これ』目的でわざわざ病院に足を運んだのだけども。

 もっとこう、ね? 【ムラマサ】持ってこい、とか無理難題吹っ掛けられると思っていたから拍子抜け感が強い。

 

「あー、ありがとうな。大したことしてやれてねぇのに」

「いいよ別に。命、懸かってるんでしょ?」

「まぁな」

 

 普通、冗談だと思うよな。でも悲しいことに事実なんだよな。

 

「じゃ今度こそ帰るわ」

「名前、教えてよ」

「名乗ってなかった。そら失礼したわ」

 

 無駄に咳払いして、まもるに今更ながらの自己紹介だ。

 

「俺の名前は隠岐渡。ウラでまた会うかもしれねぇけど、よろしくな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。