WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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感想も凄い励みになってますし、誤字訂正も大変助かってます

……まさかランキングに載るとは夢にも思わんて


15.科学省、敵の手に堕つ(n回目

「おうワタル、何難しそうな顔してんだ?」

『メル友に送る文面考えてるんだって』

「ンなモン、自分の思ってることストレートに書きゃあいいじゃねーか」

 

 授業中、そしてホームルーム中も悩みに悩んでいるといつの間にか放課後になっていたらしい。

 事情を知らないデカオは豪快に笑い飛ばすが、相手が相手だけに気を遣うんだよ。

 返信は2通、片方は姉御でもう片方は他国の要人。どちらも普通に生活していれば鉢合わせにならない人たちなのだが、自分で選んだ道だから仕方ないと言えば仕方ないんだけれども。

 

「ライブの集客ってどうやんだよ……?」

 

 現実であればライブチケットを知り合いという知り合いに押し付け、その代金を自腹で切って泣きを見ることができるが、姉御が生きるのは電脳世界。

 ナビで親しい奴なんざ指で数える程しかいないし、シアンのコミュ力で何とかしてもらうしかないのか。

 でも開催場所がウラって時点でただでさえ少ない客層が絞られるという。

 

 で、もう片方は小学生には荷が重過ぎる人生相談をされている。

 どうも信頼を勝ち取り過ぎたのか、冗談みたいなこと言ってもすぐ鵜呑みにするし。ニホンじゃ無名のシアンが、()()()の上層部じゃ有名になっているというし。

 マジでどうしてこうなった状態である。

 

「後は家に帰ってから考えるか」

 

 問題を未来の自分へ先送りして、デカオと共に校舎を出る。

 熱斗は久々にハッキングパパと会えると喜色満面で秒速帰宅したし、デカオはこれから男友達とゲームで遊ぶらしい。俺も誘われたが……爆弾を抱えたまま遊ぶには勇気がいる為、うんうん唸っていると。

 

「炎山じゃねーか。ずっと休んでたくせして今更学校に来たのかよ」

 

 デカオの訝しげな声に顔を上げれば、校門に寄りかかる体勢で誰かを待つ炎山の姿があった。

 左頬に貼られたガーゼが痛々しく、無愛想な表情にもどことなく力が無い。彼のアンニュイな様子に女子生徒がしばし足を止め、しかし邪魔しては悪いと言わんばかりに足早に立ち去っていく。

 

「来たか」

「おーっす、炎山! 怪我大丈夫かよ?」

「貴様に用は無い。あるのは、隠岐だけだ」

「ンだよ、心配したのによォ!」

 

 悪態を吐くことなく、デカオは不満を手足に乗せて大股で去っていく。やっぱいい奴だよな、デカオは。

 それに比べてこのカリメロ野郎は。おっとカリメロに失礼だったな。

 

「貴様も既知ではあるが、WWWアジトを強襲する計画があっただろう?」

「失敗したんだな?」

「誰もが焦りを抱えていたのは認める。幹部の奴らの口車に乗って、偽のアジトに踏み入ってしまった。そこでオレたちは爆破に遭った」

「そんなこと俺に話していいのかよ?」

「本来ならば、な。ただ貴様は時折こちらを見透かす。今回もそうなのだろう? まるで驚いてやしない」

「そらお前の顔色見りゃあわかるよ」

 

 刺々しさが鳴りを潜め、力のない笑みを浮かべる炎山。母性本能くすぐりそうな顔しやがって。アニメ視聴者としては今のこいつにやいとをぶつけてぇなぁ。未だ出番のないアネッタでも可。

 

「で、らしくもない弱音吐いて満足したか?」

「今まで馬鹿馬鹿しいと思っていたが、少しは気が紛れるものなんだな……」

「そら良かったな。爺ちゃんの顔、見てくか?」

「それは、遠慮しておこう。情けない顔を見られたくない」

 

 炎山と肩を並べて、緩い歩調で歩く。

 春の陽気はすっかり夏の熱気へと移り変わり、随分と出しゃばるようになった太陽が晒した肌をじんわり焼いていく。

 知らず知らず長くなった影をゆっくり追いかけて、家路を行く。

 

「……人員こそ失わなかったが、負傷した者は多い。本物のアジトを探すのは遅々として進まないだろう」

「それで?」

「貴様は、WWWに繋がる何かを知っているんじゃないのか?」

「ある、といったら?」

「頼む……なんでもいい。教えてくれ」

 

 足を止めた炎山が柄にもなく、俺に頭を下げる。

 あぁ、そうか。辛く険しいエリート街道を歩んできた炎山にとって、今回の出来事は大きな失敗だったのか。

 本来ならば熱斗に初めての敗北を経験し、強い負けん気で立ち上がり、その気合が空回りして、その後熱斗に助けられることで熱斗をライバルとして密かに認め、そして自分の弱さを自覚する。

 熱斗という存在があったからこそ、炎山は強くあれた。

 が、目の前にいる伊集院炎山は独りだった。頼れる大人はおらず、肝心の親も母は既に他界し、父親は彼以上に不器用ときた。

 そんな彼が頼る相手が、俺というのも何だか複雑な気分だ。

 当初の思惑通りではあるものの、炎山には強くあってほしい、という身勝手な期待もある。

 何にせよ、今回は俺が背を押してやろう。次回からは熱斗であってほしいわ、切実に。

 

「今日、科学省でイベントがあるって知ってるか?」

「待て……確かに職員とその家族の慰安の為にパーティーが開かれるな」

「そこをWWWが狙う、と思う」

「根拠は?」

「ない。けど、設営の準備なんかで関係者以外が出入りしやすくなる。WWWが侵入するなら、このタイミングだ」

 

 パーティーについて確認していた炎山が、すぐさまPETの電話機能で誰かと話し合う。

 すると数分もしない内にリムジンが到着し、

 

「行くぞ」

「俺も?」

「貴様なら……他のオフィシャルと違って邪魔にならない」

「素直に助けて、って言えよ」

「乗るのか乗らないのか、どっちだ?」

「へいへい」

 

 開かれたドアを潜り、リムジンへ乗り込む。

 祖父の自動車と違って、座席に尻が沈む。アカン、柔らか過ぎてこのままだと立てなくなる。

 

「そういや俺の入館許可が下りるのか?」

「オレの権限を以てすれば造作もない」

 

 殆ど震動を感じさせない滑らかな走行を味わうこと数十分。

 科学省前に到着し、自動ドアを抜けてエントランスを小走りで進む。

 炎山が受付で確認を取ると、まだパーティー開催まで時間があるらしい。

 

「狙いはコントロールルームか?」

「打撃を与えるのなら発電施設かな」

「二手に分かれるぞ。オレはコントロールルームに。貴様は外に設置された発電施設に向かえ」

 

 俺に指示を出しながら、無断で人のホルダーからPETを抜き取ると自身のPETと接続。

 数秒後、乱暴に突き返されたPETの画面を見れば、オフィシャルのマークが描かれた電子証があった。

 

「これは?」

「仮発行されたオフィシャルコードだ。こいつを提示すれば問答無用で入れる」

「マジでいいのかよ?」

「時限式で消滅するし、何よりソイツを持っている限りはオフィシャルに動きが筒抜けとなる。悪用はできん」

 

 急な要請で、しかも短時間で下りちゃいけない代物だと思うんですけど。

 本来は不慮の事故でPETが破損した際の間に合わせらしいが、如何にも悪用されそう。ログを偽装して送信とかスパイがしてるだろ、こんなん。そもそもスパイがいるのか知らんけども。

 

『なんというか刑事モノみたいだね!』

「こういうのはお茶の間で眺めていたいよ、俺は」

 

 愚痴をこぼしながらも人命が掛かっているので、行動を開始。

 入口で警備をしている中年男性の熱心な職務態度に、一度詰所送りにされるものの、炎山からのオート電話で解放。ひと悶着あったが、何とか発電設備に足を踏み入れる。

 

「シアン、頼む」

 

 全体を制御するコンピューターへプラグインしてみると、送電を管理するプログラムの近くに休眠中のウイルスたちの姿があった。

 こいつはWWWが良く使う手口で、コンピューターのスキャン機能を使っても発覚されにくい仕組みとなっている。

 で、PETから遠隔で活動状態にもできる為、現行犯での逮捕を難しくしている一因でもある。

 俺もスクールジャックで同じ手を使わせてもらったしな。シアンの解析能力をそれ用にチューンすれば、隠蔽していても見つけられる寸法よ。

 

「【フレイムソード】、スロットイン」

『チクチク』

 

 一気に駆除してやりたかったが、周りへの被害も考えて地道にデリートしていく。

 

「こんなもんか。シアン、ご苦労様」

『いなかったね、WWWのナビ』

「もう既に科学省内部にいるんじゃねぇかな」

 

 シアンをプラグアウトして発電施設を後にする。

 これで停電騒動の原因は排除した筈……なのだが、どうもあっけなさ過ぎて落ち着かない。

 

『どったの? そんなにソワソワして』

「いや……一応、予備電源も見ておこうかなって」

 

 大抵の場合、地下に備わっているものだが、どうやって入れば良いものかと悩む。

 案内板にわざわざ書かないし、科学省内部のエレベーターはパーティーが行われる地下のホールより下に行けないっぽい。

 原作と違ってダストボックスの存在は無し、ときた。

 一度科学省の外に出て、ぐるりと外周を回ってみることに。

 半周回ったところで、それらしい扉を発見。電子式のそれは勝手に開けられないよう、プラグイン端子を専用のカバーで覆っているのだが、

 

「緩いな、これ」

 

 今世では珍しい物理キーも無理やりピッキングされたのか、子供の力でも簡単にカバーが外せてしまう。

 可能な箇所には、とにかくプラグイン。エグゼプレイヤーの習性に導かれるまま、シアンを電脳世界に送り込む。

 

「シアン、どうだ?」

『セキュリティがガバガバにされてる。これじゃあ誰でもロック外せちゃうよ』

 

 敵が侵入した痕跡を確認したところで、一応炎山に連絡を入れることに。

 オート電話のオートって何がオートなんだろう? わからんけど、発信。

 

「こちら隠岐。発電施設の確認を終えて予備電源の確認に向かってる。敵の侵入した形跡あり。そっちはどうだ?」

『コントロールルームにて光博士が人質に取られている。もう切るぞ』

 

 大分切羽詰まった状況なのか、小声で囁くとすぐさま切られてしまう。

 人質を取られている、ってことは犯人のエレキ伯爵はコントロールルームにいて、炎山は手を出せない状況にいる訳か。

 主人公の熱斗がどうなっているのか気になるところではあるが、俺は確認作業を続行しよう。

 

『助けに行かないの?』

「この遠回りが案外助けになるかもしれんし」

 

 予備電源の所にも侵入した、ということはそこに意図がある筈。

 原作だとエレキ伯爵の持ちナビ、エレキマンが無限回復するせいで負けイベみたいなものがあった。予備電源がその役割を果たす可能性があるのなら、阻止しておいて損はない。

 

 手探りで照明のスイッチを入れると、埃が舞う階段を下りていく。

 逃げ場のない狭い通路をなるべく音を立てず、ゆっくり進んでいく。

 そして、予備電源の置かれた部屋を覗き込むが……誰もいない。なんだよ、水道局では2人で動いてたのに、科学省はワンオペかよ。

 とにもかくにもプラグイン。

 

『うわー電気属性のウイルスでいっぱい』

「やるぞシアン」

『はーい』

 

 緩い返事だが、ウラや海外のウイルス共を相手にした後だとヌルゲーに思えるんだよな。

 ただ威力や攻撃範囲がデカ過ぎて破壊活動以外に不向きだから事件に用いていないのだろう。

 V3とかSP辺りは「どこまで強くできるか」なんて子供みたいな発想で作られているとしか思えないし。電脳世界に自動修復機能がなかったら、ワイリーより先に凶悪ウイルス共に滅ぼされてた説あると思う。

 

「さーてどうすっか……」

 

 裏方作業は概ね完了と言ってもいいが、状況が好転した訳じゃない。

 エレキ伯爵がそう簡単に人質を解放するとは思えないし、ぶっちゃけ炎山は手詰まりだと思う。

 後は熱斗の動き次第だが……父親を前に無茶な行動はできないと考えるのが自然か。

 

――温存しておいた鬼札を切るしかない、か。

 

 

 

 

 

「Hey! どうしたボーイ!」

『うわぁあああ!』

「ロックマン! くっそー……!」

 

 自慢の相棒エレキマンの電撃で、オフィシャルのエースナビと民間人の青いナビを一方的に痛めつける。

 あぁ、これは当然の報いだ。

 敬愛するDr.ワイリーの指示の元、科学省の職員共にじわじわと死に近付く恐怖を与える計画であったのに、決行前に全て台無しにされてしまった。

 せっかくの前口上を決めた後、すぐに停電は復旧。急いでコントロールルームで原因を探ろうとした矢先に、オフィシャルの伊集院炎山が現れたのは本当に運がなかった。

 サブプランとして用意していた科学省の仕掛けも、青バンダナを巻いた少年に打ち砕かれ、絶体絶命に陥ったエレキ伯爵。

 しかし、天は彼を見放さなかったのだ。

 呼び出しを受けて孤立した光祐一朗を保険として確保していたのが実に効いた。

 

「オレの受けた仕打ちはこんなんじゃねーゼ!」

『ぐぁあああ!』

「耐えろブルース……!」

 

 目標であるエレキプログラムは既に頂戴したが、これでは捕まったヒノケンイチと色綾まどいの二の舞だ。

 鬱憤を十分晴らした後、障害となる伊集院炎山の排除を土産にしなければ帰れるものも帰れない。

 隣にいる民間人は考えなしに首を突っ込んだ罰だ。自分の愚かさが、大事なナビを失う羽目になると骨の髄までわからせてやる。

 

「――ンー。そろそろ退場の時間だゼ」

「待て」

 

 興が乗っていよいよフィニッシュの段階で、またもや邪魔が入る。

 しかも、

 

「揃いも揃ってガキじゃあないか」

「どっかの誰かさんのせいで、大人は大忙しなもんでね」

 

 青バンダナと同じく危機感の欠如した民間人だ。

 子供特有の万能感に酔いしれ、何の力も無いにも拘わらず青い正義を掲げ、薄汚れた大人の世界をまるで知らないくせして一丁前に歯向かってくるガキが、エレキ伯爵は嫌いだった。

 しがらみばかりの貴族社会で生きてきた彼は幼くして大人にならねばならなかった。無論、彼だけではなく、その世界で生きる人々は全て通ってきた道だ。

 そして彼は、「人は大きな力に流されるだけだ」と真理を得た。

 貴族は血を尊ぶ。それは連綿と紡いできた「家」が、かつて君臨した神の子孫である「歴史」が力を持っているからだ。

 表向き特権階級が消えたニホンでさえ同様だ。かつての偉人が定めたルールという大きな力に沿って生きている。

 上に立つ者が大きな流れを生み出し、下々はそれに流されて生きている。逆らえばその流れに圧し潰されることを何故わからないのか。

 

――ではDr.ワイリーはどうなのか?

 

 確かに彼は産まれが特別でも、社会的地位を持っている訳でもない。むしろ科学省という大きな力に潰された敗者と言える。

 だが、それは世界が彼を知らないからこそ、そうなっただけの話。

 

 ネットワークと社会が根強く結びついている現代、今の形を作り上げた創始者――光正こそが全ての始まりと言えた。

 しかし、それは彼ひとりで為し得たものでは決してあらず。Dr.ワイリーもまたその隣にあった。

 そう、彼はもうひとりの王と言えるだろう。

 

 今はまだ日の目を見ない『ドリームウイルス』。絶対無敵の存在さえ完成すれば世界は一変する。

 子供の描いた絵空事ではなく、Dr.ワイリーが世界をその手中に収めると、エレキ伯爵は確信していた。

 

「光博士を離せ。その代わりに()()()()()()()()()をくれてやる」

 

 だからその力を一端を、目の前のガキが持っているなど青天の霹靂であった。

 

「ハッタリはよすんだナ」

「光祐一朗の家にある、オーブンの電脳。光正の隠された遺産、と言えばわかるか?」

 

 しかし、出所まで完璧に押さえているとなれば、流石に話は変わってくる。

 オレの家!? と叫ぶガキはどうでもいいが。対面にいる伊集院炎山も驚愕の表情を浮かべ、傍らにいる光祐一朗も目を見開いている。

 仮に少年の言うことが真実だとすれば、

 

――出し抜いたのか。科学省を。オフィシャルを。WWWでさえも。

 

「ハハ……ハハハハハハ!!」

 

 偶然にしてはでき過ぎている。

 思わず笑いがこみ上げ、なかなか止まらない。

 エレキ伯爵の頭の中でピースがハマった音がしたのだ。事が全て上手く回らなかったのは、目の前の少年のせいだと。

 そんな潜伏した少年を自分が釣り上げたのだと、気付いたからだ。

 

「いいぜ、解放してやル。ただし――オマエも一緒に来てもらおうカ」




エレキ伯爵、オリチャーに走る

それにしても原作のハッキングパパ無防備過ぎんよ~
だから今回も無防備晒してもらいます
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