覚えている限りの原作知識の洗い出しをしていたところに祖父が乱入して強制就寝。
そのくせぐっすり寝ている姿に起こすのが忍びない、と目覚まし時計のアラームすら通用しないマイボディに遅刻寸前になるまで声をかけない鬼畜っぷり。
お蔭様で徒歩10分の距離を贅沢にも自動車での登校である。車内で着替えるとか初めての経験だわ。
「次からは早く寝るんじゃぞ?」
「はい」
とはいえド正論なので何も言い返せないが。
気を取り直して、改めて秋原小学校を見やる。コの字を開いたような形の校舎に、その正面には大きな噴水が鎮座しており、どうもアニメ準拠のようだ。
まぁ、原作のゲームだと縮尺がおかしくて内部のマップと外観の大きさが釣り合っていないし、校舎外にあるのはウサギ小屋と掲示板、1台だけ停車した教員用の自動車、そして中央に校長像が据えられた池だけという。
後のシリーズでは容量の問題で特別教室などが消え、正門から主人公のクラスの教室に直通になり、最終的には学校そのものがデリートされるのがもうね。悲しいね。
前の学校で使ったと思われる上履きを続投し、見取り図を頼りに職員室に向かうと担任らしき中年男性からくどくどと小言をもらう。チャイムが鳴ってもまさかの続行である。
そして他が授業している中で案内されたのは2年の教室。
再スタートが低学年で話が合うか少々不安になりながら中へ入った途端、無遠慮に突き刺さる視線の数々。
それとなく全体を見渡せば、青いバンダナを巻いた少年が目に入る。例のナビマークもないし、茶髪のツンツン頭ではあるが間違いない。ロックマンエグゼの主人公
小学生ながら2年間で世界を何度も救う救世主で、耐久力も某マサラ人に勝るとも劣らない。
後の世代では教科書に載る偉人らしく、必殺のパンチがミサイル数発分の破壊力を持つのだとか。お前ら人間じゃねぇ。
しかし、幸先がいいのか悪いのか。
主人公とは気安い友人関係を築いておきたいが、ひとまず初日は確かめることに専念しよう。
それは、もうひとりの主人公であるロックマンの存在である。
オペレーターである光熱斗の持ちナビであるロックマンは媒体によって設定から変わってくるからだ。
原作であるゲームでは世界初の心を持ったネットナビであり、熱斗の父親である科学者の光祐一朗が生み出した特別製。
とある理由でエクサメモリと呼ばれるメモリ拡張プログラムを備えているお蔭か様々な可能性を秘めており、『2』以降では様々な変身が行える。それがロックマンシリーズの醍醐味と言えるだろう。
『1』? 知らない子ですね……。
に対してアニメ版は熱斗が小学5年生になった際、冒険家である光祐一朗から送られてきたデータにより、プリインストールされた一般ナビが上書きされる形で誕生する。一般ナビくんは犠牲となったのだ……。
やはり特別製というのもあってか、こちらは究極プログラムとやらを搭載しているのだが、詳細は全く語られないから不明。
原作とは違ってライバルのネットナビにも究極プログラムが使用されているらしいのだが、仕事した描写ないんだよね、ライバルの究極プログラムくん。
この世界、普通にプログラムがサボるし、その監視用のネットナビが存在するとかいう無駄の極みみたいなことがあるから恐ろしい。
後はメディアミックスとして漫画版も2作品あるが、原作準拠か最後まで不明といった感じで判別の材料とはならない。
閑話休題。
俺がいの一番に確認したいこと、それは俺のいる世界がどの時空にあるか、だ。
ロックマンの誕生の経緯が違うという点でズレが生じるのだが、シナリオ自体もそれぞれの媒体によって変わってくるのである。
あの時代、アニオリとか突っ込みがちだから……ほぼ同時期に放映されていたメダロットといい、めっちゃ面白いから許すけど。
また話がズレたが要するに、危険が危ない世界の転生者としては先駆者に沿ってシナリオを先回りしようと思ったという訳だ。
「ほら自己紹介しろ」
「はい。えーと、才葉学園から来ました。
電光表記のブラックボードで初めて知る自分の漢字。覚えている範囲ではシナリオに絡むような人物ではないけれど、モブにも厳しい世界だから油断ならない。
無難に終えると空いている席に案内されてから担任はさらっと授業を始める。生徒のブーイングはなんのその。カリキュラムが違う転校生がいてもお構いなしとかふざけてんのか。
「静かに。さっさと宿題データを提出しろ」
担任が軽く手を叩くと、渋々といった様子で周りの生徒が鞄からフロッピーディスクを取り出した。
……一応、事前知識としては頭にあったが、近未来設定でフロッピーはマジで頭がバグる。
古典SFでも
「では教科書データ34ページから――」
ぬるっと始まる算数の授業を聞き流しながら、改めて自身の机を見やる。
その上には備え付けのデスクトップPCと、それに接続された例の横長のノートPCモドキ――『PET』があった。
PET――正式名称『PErsonal Terminal』と呼ばれる携帯情報端末。
ロックマンエグゼにおいてはなくてはならない重要な物で、件のネットナビがインストールされた代物だ。
もっと簡単に言うならば、現時点では持ち運びに困るスマホ。そう考えればいい。
この中には様々なデータが詰まっており、教科書もまた電子化されているのでPETひとつですべての教科書を賄えると思うと楽かもしれないが、重量がそこそこあるので個人的にはどっこいどっこいだと思う。
しかしまぁ、本編開始前だけあって目の前のこれがPETだと思わなんだ。
『1』の時点でも横長モバイルPCの下部に伸びたグリップ付けて握るスタイルという、小学生の細腕には厳しい携帯端末だったが、開始前だと更に大きいとは。
順当に考えればそうなるけれど、従来のノートPCみたく机か膝に置くならともかく、持ち上げ続けるのは苦しいにも程がある。
バブル期の肩掛け式の携帯電話みたいに一部だけ流通するんじゃなく、全世界で共通の生活必需品になっているのが凄い。熱斗に限らず逞しい人間多いよな、この世界。
さてそんなPETであるが、この世界を生き抜くのに重要な武器にもなってくる。
大半の電化製品がネットワークに繋がっている割にはセキュリティ面が杜撰なこともあってか、しょっちゅう暴走する。コンロから火が噴き出て火事になるし、何なら食洗器で人が死にかける世界だ。
どこに爆弾が仕込まれているかわかったもんじゃない。
その原因としてはウイルスに侵入されたり、悪意ある人間にハッキングを食らうこと。
その対抗手段として、PET――正確にはその中にインストールされたネットナビを電化製品などに送り込み、直接戦わせるのがメジャーとなっている。
で肝心となる俺のネットナビはというと、ぶっちゃけ弱い。というか俺に限らずプリインストールしたままの一般ナビを使っている人間は大抵どうすることもできないことが多い。
精々弱いウイルスを駆除するので手一杯。悪人共に食い物にされるのが目に見えている。
ならばどうすればいいのか。答えは単純、強いネットナビを作ればいい。
欠伸が出るほど退屈な授業を乗り越え、放課後。
転校生効果も流行りを知らず、低学年特有の無駄に高いテンションについていけず、僅か半日で孤立してしまう。
自然な流れで熱斗に接触したかったが、仕方がない。
「ちょっといいか?」
「えっと……」
「不躾で悪いけど、大山くんを紹介してくれないかな?」
小学生故のチョロさで以て熱斗に紹介してもらうことに成功する。
件の人物は既に下校してしまったとのことで、彼の家に案内してもらうことに。
「おう熱斗じゃねーか! ネットバトルでもする気になったかよ」
「そうじゃねーって! なんかデカオに用があんだとさ」
全体的に黄色めいた家に到着し、インターフォンを押してから数秒。
本当に同学年かと疑ってしまうくらい恰幅の良い少年が出迎えてくれる。
スキンヘッドながら額から生える角……みたいなファンキーな髪形と特徴的なたらこ唇、間違いなく大山デカオその人だ。
「いやぁ、実は大山くんがオリジナルのネットナビ作るって聞いたからさぁ」
「おいおい誰が喋ったんだそれ~?」
口ではそう言いながらもまんざらでもない様子のデカオに、俺は僅かにほくそ笑む。
正直、物語が始まる小学5年まで彼がオリジナルのナビを製作していない可能性もあったので、少しヒヤリとした。
「マジで?」
「おうよ! つってもまだまだ完成してねぇけどな!」
照れ臭そうにPETを見せつけるデカオに相槌を打ってから熱斗と共にその手元を覗き込む。
そこには確かにガッツマンの面影を思わせるナビの姿があった。とはいえ、言葉通り幼い故の技術力の足りなさからか、外見からしてゴテゴテしてる感が否めない。
「で、わざわざガッツマンを見に来たファンボーイか? 今なら特別に握手してやるぜ?」
「デカオの? 変わってんなぁ、隠岐は」
「いやいや。そうじゃなくって、オリジナルナビの作り方とかコツを聞きにきたんだ」
目の前にいる大山デカオ、実は秋原小学校においては珍しいオリジナルナビを自作した人物なのだ。
オリジナルナビ自体は主要メンバーがそれぞれ所持しているのだが、女子二人はそれらしい描写がなく、またデカオと違ってナビをバージョンアップさせるといったことがない。
そもそもデコギラスもとい財閥のお嬢様の方は現在の秋原小学校にいるのかもわからないのもある。
アニメ時空だと飛び級で転校してくるし、マジで過去がわからない少女だ。
アニメと言えば原作からメインに昇格して出番の増えたモブ川くんもいたが、父親のナビが息子と共同のナビに設定が変更されてるっつうね。
「なるほどな~。オレ様に目ぇ付けるとはいいセンスしてんじゃねーか。でもタダって訳にゃあ――」
「ケチだな~デカオは! 別にいいじゃん。タダで教えてやりゃあ」
「んだと熱斗! オマエは最初っからロックマンがいるからわからねーと思うけどよぉ、一からネットナビ作るのってマジムズいんだぞ? それを簡単に教えるってのはよぉ」
唇を曲げてガンを飛ばすデカオと、頭の後ろに手を組んでそれを軽く流す熱斗の間に入って何とか宥める。
……というか今、ロックマンが既にいるとか言ってなかったか?
「今は持ち合わせとか無いけど、ちゃんと報酬は用意するつもりだよ。だから落ち着いて」
「ほら見ろ。オレの言ってることのが正しいじゃねーか」
「隠岐がいいならいいけどよ~。でもデカオに教わるよか買った方が良くね?」
「まだ言うか熱斗!」
「自分だけのオリジナルナビってのに憧れがあってさ」
今のところ原作路線で進んでいることを頭に入れつつ、本音半分でそう答える。
直撃世代としてはそれはもう妄想したさ、自分のネットナビを。何ならコロコロコミックの公募にも送った。
念願の機会ということを置いておくとしても、恐らく市販のナビでは今後起こりうる事件の数々を乗り越えるのは難しいだろう。
小学生の主人公が活躍する物語の都合上、仕方ないことではあるが通称オフィシャルと呼ばれる政府公認のネットバトラーでも悉く太刀打ちできてなかったし。
つーか、シリーズ通してだけでなく、漫画アニメ問わず戦闘においてはかませ犬どころか出オチ要員に等しい。
まぁ、前世のサイバーポリスやデジタル庁を思えば腑に落ちるけど。
「ふ~ん。つってもオレのロックマンなんて『宿題しろ』とか『遅刻するよ』とかうるさいけどな」
『それは熱斗くんが悪いんじゃない』
不仲な様子はなく、じゃれている、家族――同然の友人関係の気安さを感じさせる。だからオリジナルナビのありがたみが実感しにくいのだろう。その辺、アニメと大違いだ。
「現行のナビってさ普通の人型ばっかじゃん? だからもっとこうロボっぽいのが良くてさ」
「ロボっぽい?」
「多脚式でホバー移動するとか四足歩行からの変形機構とか欲しいじゃん?」
「おぉー」
「
その後の談義も飽きっぽい小学生には長くは続かず、流れで家主のデカオがロボアニメ上映会を開くことに。
まぁ、まだ転校初日だし焦らんでええやろ。
っぱゾイドは最高だぜ……!