WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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20.ウイルスバスティング

 数々の障害になりうる可能性をWWWIDが全てスルーという助かるけれど盛り上がりのないまま、最上階へ到着。

 ロケットの発射場ということもあってか天面はぽっかり開いており、憎たらしい程の晴天が窺えた。

 奥へと足を進めれば高笑いするワイリーに、それに付き添うマハ・ジャラマ。赤ら顔でフラついている電飾ピカピカおじさん。そして、

 

「爺ちゃん!」

「渡? 渡なのか?」

 

 白衣姿の祖父がロケットの傍で作業していた。

 WWWの2人とは対照的に、生気の抜けた顔から涙が零れ落ちるのを見て、何とも言えない罪悪感が胸を締め付ける。

 どれだけ心配させたのか。俺の軽率な判断がここまで祖父を苦しめたのか。本当に自分が馬鹿で嫌になる。なーにが、「祖父には我慢してもろて」だ。自分のことながらマジでぶっ殺してやりてぇ。

 

「オフィシャル共め、とうとうここまで来おったか」

「やいやいやい! 年貢の納め時だぜ! べらんめぇ!」

「フッ……この魚バカでもわかることだ。大人しく投降しろDr.ワイリー」

 

 腕まくりして吠えるマサさんの前に炎山が割り込み、ワイリーを睨み付ける。しかし、老人のしたり顔は崩れない。

 

「おめでたい連中じゃな。間に合った、などと考えておるのか?」

「現に、ロケットは発射されていないだろう? ならばどうとでもなる」

「そんなもの、誤差でしかないわ。完成したドリームウイルスの前ではな……!」

「ウイルスだぁ? ンなモン、この男マサにかかれば、ちょちょいのちょいだぜ!」

「ふん。まだ現実を直視できておらんのか。ならば、一足先に見せてやろう。特等席で見るがいい! とびきりの悪夢を!」

「いくぞブルース!」

『ハッ、炎山様!』

「力添えいたしましょうワイリー様。お行きなさいマジックマン!」

『かしこまりましたマハ・ジャラマ様』

「いくぜぇ、シャークマン」

『あぁ!』

「ウゥ……頭が割れル……」

『エレキ伯爵! しっかりしてください!』

「……止める」

『……了解』

「こんなこと許しちゃいけないわ! ウッドマン!」

『了解!』

 

 各々、最終決戦フェーズに突入する中、俺は俯く祖父の元へ。

 こんなことをしている場合じゃないのは、わかっている。でも祖父を放置するのはまずいと勘が告げている。

 俺の無事な姿を見せても祖父の顔は曇ったままだ。別の理由で思い詰めているのは確かだ。

 

「渡……無事で良かった。本当に良かった」

「そっちもね。でも、なんでこっちを見ないのさ」

「それは……」

 

 歯列を剥き出しにし、顔を(しか)める祖父は俺の視線に耐えかねたのか、観念して口を開いた。

 

「儂はまたしても罪を犯してしまった……」

「WWWに手を貸したこと? でもそれは俺が捕まったから!」

「それは言い訳にはならんよ。儂は世界と孫を天秤にかけ――渡、お前を選んだ」

「仕方ないだろ! 家族を切り捨てる方が難しいって!」

「だが世界を滅ぼす一助となった事実は変わらない! 儂は取返しのつかないことをした大罪人じゃ!」

 

 床に向けて罪の告白をする祖父に俺は一呼吸置いてから、彼の肩に手を置く。

 

「まだ終わっちゃいないよ、爺ちゃん」

「渡……お前はドリームウイルスを見ていないからそんな事が言えるんじゃ」

「知ってるよ。【ドリームオーラ】……そいつでどんな攻撃も無効化する無敵のウイルスだろ?」

「どこでそれを……ならばわかるじゃろ? ドリームウイルスにはどんな攻撃も通じない。唯一の弱点じゃった攻撃の後隙、【ドリームオーラ】を張れない瞬間も儂の調整でなくなってしもうた」

 

 原作でもあった欠陥は祖父が改善してしまったのか。つーか、それでよく無敵とか言えたな、ワイリー。

 まぁ、勝ち筋が1つ潰れたが、打つ手がなくなった訳じゃない。

 

「【ドリームオーラ】を破る方法なら、ある」

「P.A.……プログラムアドバンスの威力に期待しておるのか? それも無駄じゃ。究極のプログラムの出力が全てを無に帰す。勝てる訳が……」

 

 原作のクソ雑魚具合が嘘のように超強化されてやがる。そら祖父も絶望するわな。

 だが、それはどれも【ドリームオーラ】が凄いってだけの話だ。

 

「爺ちゃん、こいつを見てくれ」

「これは……【サイクロン】? それがどうしたんじゃ?」

「元になったチップはな。そいつにある改造を施したんだよ」

 

 原作では威力30×8とかいう壊れ性能をしたチップだが、今回注目する点はそこじゃない。『1』においては唯一【ドリームオーラ】を打破する可能性を秘めたチップこそ【サイクロン】だ。

 

「攻撃性能を完全に捨て去る代わりに、俺は新しい属性を生み出したんだよ、爺ちゃん」

「新しい、属性……?」

「風属性――バリア系やオーラ系を無効化する、そんな属性をさ」

 

 本来であれば『4』の時系列で生まれた属性であるそれは、バリアやオーラをメタる効果があった。『3』の【スーパーキタカゼ】が初出の効果であるのはさておいて。

 遠くない未来に実現しているのであれば、先取りするのも不可能ではない筈だ。その考えの元、改造に挑戦したという訳である。

 

「そんなもの、ある筈が……」

「なかったから作ったんだよ。ちなみにメガリアで効果は検証済みさ」

 

 正直、実験段階に持ち込むまで滅茶苦茶苦労したけども。ほぼ手探り状態で【タイフーン】や【ハリケーン】含め、何十枚も無駄にしてきたけれども。

 フォルテ対策も込みで改造してきた甲斐があったというものだ。

 

「渡……お前はそこまで……。しかし、ドリームウイルスに通用するかはわからんぞ?」

「そうかもね。だから爺ちゃん、お願いだ。【サイクロン改】の最終調整を。力を貸してくれ!」

 

 祖父の指摘通り、不安要素はまさにそれだ。ぶっつけ本番で失敗したら目も当てられない。

 祖父への心配は勿論だが……話している内に俺の不完全なチップを補ってくれるのでは、という期待は少なからずあった。

 ドリームウイルスを知る彼ならば、効果的かどうかわかる筈だと。

 

 それに、祖父の一助で【ドリームオーラ】を攻略できたのなら――彼にとって救いになるかもしれないから。

 

 

 

 

 

 炎山たちがロケットの電脳にプラグインしてから3分が経過したものの、戦況は芳しいものではなかった。

 前座であるマジックマンとエレキマンの相手はそれぞれスカルマンとウッドマンが務め、戦闘は優位に運んでいる。

 前者は様々なウイルス召喚とマジックファイアという即死効果を持つ強敵ではあったが、スカルマンの素早い動きに翻弄されるばかり。

 後者は属性による有利もあったが、相手オペレーターであるエレキ伯爵が本調子でなかったのも大きな点だ。

 しかし、なかなか決着はつかない。WWW幹部は伊達ではなかった。

 

「くっそぉ……本丸に辿り着くまでキリがねぇ!」

『ぐああああっ!!!!』

「シャークマン! リカバリーも心許ねぇ! 炎山!」

「わかっている!」

 

 残った炎山たちの前に立ち塞がるは、ドリームビットの大群。それらを未だ乗り越えられず、ドリームウイルスに指一本触れられていないのが現状だった。

 

「【インビジブル】スロットイン! ブルース! 被弾覚悟だ、突っ込め!」

『ハッ!』

 

 短時間の無敵効果で過密となった敵前方をやり過ごし、その後はブルースの持ちうるスピードでドリームビットの隙間を潜り抜ける。

 同士討ちすら気にしない攻撃の嵐に、ブルースのHPはゴリゴリ削られていくが、その甲斐もあってドリームウイルスへの接近に成功。

 

「【パラディンソード】ダブルスロットイン! 一気に決めるぞ!」

『【パラディンソード】! ぜああああっ!!!!』

 

 ソード系最高峰を誇る乱舞と、禍々しい紫色のオーラが激突。

 まさに最強の鉾と盾の激突であったが――

 

「傷一つ付けられない、だと……?」

 

 結果は何ら【ドリームオーラ】を揺るがすこと無く、終わる。

 攻撃後、無防備となったブルースへドリームソードが迫るが、

 

「【エリアスチール】スロットイン!」

 

 その被弾は何とか免れ、ドリームビットに揉みくちゃにされる前に続けざまに再度【エリアスチール】をブルースに転送。

 振り出しに戻る……否。切り札とも言える【パラディンソード】2枚と、何かと利便性の高い【インビジブル】に【エリアスチール】を2枚切っての、徒労だ。

 精神的疲労が表出し、炎山の脳裏に敗北が過るが、高いプライドがそれを許さない。

 

『炎山様! 【ベータソード】の許可を!』

「ダメだ」

 

 手持ちのリカバリー系ではブルースを完全回復させるには至らず、残りの補助系チップを使い切っても再接近はできても離脱は難しい。ブルースを捨て身にさせる必要があった。

 またプログラムアドバンス【ベータソード】で、仮に【ドリームオーラ】を打ち破ったとしても、ブルースはそこまでだ。

 追撃をシャークマンに一任させる他ないが、ドリームウイルスを一撃で葬る火力を出せるかは怪しいところだった。

 

 しかし、終末戦争へのカウントダウンは刻一刻と迫る。

 賭けだろうと、打って出るしかない。

 

「遅れて悪い」

 

 しかし、そんな分の悪い賭けに待ったをかけるのは、歳の変わらない少年。隠岐渡だ。

 前回も、その前もそうだ。炎山が折れそうになる度に現れる彼に、いつの間にか期待を寄せてしまう。

 守るべき立場の民間人である筈なのに。エリートである自分が頼っていい筈が無いのに。

 

 いつもいつも打開手段を持ち込むのが彼だという事実に、悔しさを覚え――心が晴れるのは何故なのか。

 

「貴様の目的は隠岐さんの奪還だった筈だ」

「このままだと帰る家まで無くなりそうなんでね。助太刀に来たぜ」

 

 この状況下においても軽口を叩く渡に、知らず知らず入っていた肩の力が抜け、炎山は苦笑する。

 

「……隠岐よ。ここに来てまた裏切りおるのか」

「元よりワイリーさんの味方になった覚えはない。ただ、儂の罪を孫が(すす)ぐのであれば、儂が黙って見ていられる筈が無かろう!」

 

 渡を庇うようにして前に出る老人を見てから、炎山は自身のPETに目線を戻した。

 

「んじゃ、いくかシアン」

『主役は遅れてナンボ!』

 

 プラグイン端子をクッソ地味に差し込んだ渡に、何とも言えない不満が噴出したものの、炎山はそれを抑えつけて尋ねる。

 

「隠岐。何か手があるのか?」

「ある。だから皆、プラグアウトしてくれ」

 

 まさかの要求に炎山だけではなく、マサやみゆき、サロマの手まで止まりそうになる。それだけ予想だにしない発言だったのだ。

 

「オレに逃げろだと?」

「いんや。一時撤退。味方まで巻き込むやべぇのやるから」

 

 会話を続けながらもドリームビットを駆除する手を止めない渡を見て、炎山はすぐさま決断を下す。

 

「マサ、みゆき、サロマ! プラグアウトしろ!」

「おいおい本気かワタ坊! 炎山!」

「……マサさん、従いましょう」

「そうね。何か考えがあるみたいだし」

「ちくっしょうめ! 任せるぜ、ワタ坊!」

 

 女子中高生に遅れて渋々マサがプラグアウトするのを見届けてから、渡は複数枚チップを指に挟むと慣れた手付きで連続スロットインする。

 

「【アイアンボディ】、【ポイズンアヌビス】」

 

 鋼鉄と化したシアンの背後より出現するはアヌビス像。

 それは炎山とて実物を見るのは初めてのことで、その効果も聞きかじった程度のものだった。

 だからだろうか、WWW側にその凶悪さが発覚するまで遅れが生じたのは。

 

「エレキマン!? オーマイガッ!?」

「HPが……急速に減っていく!?」

 

 蔓延されていく毒霧があっという間にロケットの電脳を埋め尽くし、そこで活動する生命を急激に蝕んでいく。

 パニックを起こすエレキ伯爵とは対照的にマハ・ジャラマはリカバリーで回復を試みるが、焼け石に水。

 

「ならば【インビジブル】……何?」

 

 敵の攻撃をすり抜ける効果を発揮しても、マジックマンのHPは減少していく。そのまま危険域に突入したところで、やむなくプラグアウト。エレキマンも同様に、だ。

 

 場に残されたのは逃げることを許されないドリームビットと、悠然と構えるドリームウイルス。

 その矛先は全てシアンへと向かうが、【アイアンボディ】を前に為す術もない。10秒にも満たず、ドリームビットは全滅。可憐な白髪の少女と、虫染みた巨体が向き合う形となった。

 

「あー……効かねぇのな」

「ふ、ふ、ふ。ふははははは! ドリームウイルスは無敵じゃあ!」

 

 高笑いして勝ち誇るワイリーだが、渡の反応は薄いものだった。

 炎山にとって、この戦果は凄まじいの一言であり、【パラディンソード】以上の鬼札を切ったというのに落胆する様子の無い渡に唖然とする他ない。

 

「爺ちゃん、再生成もすぐに可能なんだっけ?」

「あ、あぁ。1秒足らずで元に戻るじゃろうて」

「そっか。なら中断だな。シアン」

『りょ』

 

 目論見が外れた割には彼のナビであるシアンもあっさりとしたもので、【ポイズンアヌビス】の稼働を停止させる。

 

「じゃ、総力戦だな。もっかいプラグインよろしく頼まぁ」

 

 そして渡は炎山たちに向けて、親指を立てて応援を要請するのだった。

 

 

 

 

 

 敵もすっきり一掃し、残存するのはラスボスのドリームウイルスのみ。

 いっちょタコ殴りといこうぜ、と炎山たちに呼びかけるのだが、反応がよろしくない。誰も彼も乾いた笑みを浮かべるばかりで、プラグインしてくれない。

 シアン単騎は流石に想定外なんですけどォ!

 

「ワタ坊、そのポリゴンアンドレが最終兵器じゃあねぇんかい?」

「まぁ、当初はそのつもりでしたけども」

 

 原作だとオーラ貫通するからワンチャンいけるか、と思っていたがワイリーが無敵だと誇るだけあってそう上手くはいかないらしい。

 尤も、本番はこれからだ。

 

「つーかマジでシアンだけだとキツいんすよ」

『ヘルプミー!』

「……助けに来たんじゃなかったかしら?」

 

 こうしている間にもドリームウイルスからのメテオやらビームに晒されて半べそかいてるシアンを見ろ。

 【インビジブル】と【エリアスチール】で安全確保こそしているが、あの巨体に追われたら怖いわな。

 

「締まらん奴だ。プラグイン! ブルース! トランスミッション!」

「今助けんぜ! プラグイン! シャークマン! トランスミッション!」

「……魂の導くがままに。プラグイン、スカルマン、トランスミッション」

「いい加減終わらせましょう! プラグイン! ウッドマン! トランスミッション!」

 

 ブルースたちが再び参戦することでようやく一息つける。狙いが分散して対処が楽になった感じだ。

 

「隠岐。何か手立てがあるのか?」

「あぁ。こいつを使えば【ドリームオーラ】を無効化できる」

 

 祖父の手によって調整された【サイクロン改】は出力が安定したお蔭か、理論上では【ドリームオーラ】を吹っ飛ばせるらしい。

 ただ欠点があり、シアン単体だと使いづらいのである。

 

「【サイクロン】と同じく、こいつを使ってる間はシアンは動けねぇ。だから盾役が欲しい」

「それはウッドマンが担うわ」

 

 この点はサロマさんとウッドマンが頑張ってくれる、と。

 

「んで、射程も同じ。そうじゃねぇと効果が発揮できない」

「……付かず離れず、ね。攪乱は私が」

「で、残った俺らが攻撃担当ってぇ訳かい」

「攻撃が通じるのであれば――ブルースの敵ではない。いくぞ!」

 

 炎山の合図と共に、それぞれのナビが動き出す。

 スカルマンがジグザグとした動きでドリームウイルスを挑発し、その間にシャークマンが潜伏。

 ブルースは牽制とばかりにソニックブームを飛ばし、ウッドマンは【リーフシールド】を纏い、シアンの前でがっしりと構える。

 

『今!』

「【サイクロン改】」

 

 普段とは逆に、距離感を測るシアンの指示に合わせてチップを差し込む。

 突き出したシアンの右腕がファン状に変わり、そいつが巻き起こす風がドリームウイルスに無事ヒット。

 無敵を誇った【ドリームオーラ】が――あっけなく剥がされる。

 

「なんじゃと!?」

「まさか!?」

 

 驚愕する元師弟コンビを他所に、炎山たちが一転して攻勢に出る。

 

「『プログラムアドバンス』」

「【ソード】【ワイドソード】【ロングソード】スロットイン!」

『ベータ、ソードッ!』

 

 炎山、ブルースによる光の大剣が、

 

「【アクアタワー】! 【アクアソード】! いけっシャークマン!」

『くらえ!』

 

 マサさん、シャークマンによる水柱と水剣が、

 

「……シャレコーベー」

『……』

 

 みゆきさん、スカルマンによる巨体な頭部を頭上から落下させ、

 

「ウッドマン、やりなさい!」

『【ウッディタワー】!』

 

 サロマさん、ウッドマンによる尖った丸太が、ドリームウイルスを貫く。

 総攻撃を一身に受けたドリームウイルスであったが――6脚の内の2つを失い、肥大化した右腕も切り飛ばされたものの未だ健在。

 

「……スカルマン!」

 

 頭部を失い、一時的に行動不能に陥った状態のスカルマンが極太のレーザーに呑まれ、

 

「ウッドマン!」

 

 シアンを庇ったことでウッドマンが弱点であるメテオに直撃し、

 

「【エリア――間に合わねぇ!」

 

 接近したことでドリームソードの射程に入ったシャークマンが切り伏せられる。

 どれもが一撃で致命的なダメージを生み出し――敢え無く3体のデータが崩れ、デリートの表記が映しだされた。

 

「マジかよ……」

「ふはははは! 究極のプログラムじゃぞ! 究極のウイルスが放つ攻撃に耐えられる筈があるまい!」

 

 とんでもなく笑えない状況だというのに、壊れたように自分の口から溢れる笑い声。

 ワイリーの高笑いに釣られた訳でもないというのに、止まらない。不謹慎だっていうのに、止まってくれない。

 

 原作を知っている分、ドリームウイルスを舐めていたのかもしれない。

 あのワイリーが、終末戦争を引き起こす兵器が弱い筈が無いというのに。

 ただ設定通りの強さを発揮しただけの話。子供向けのゲームのような調整がされていない、天才科学者の傑物を相手するだけの話だ。

 

――負ける

 

 大きく膨れ上がった不安が、思考の邪魔をする。

 

――逃げろ

 

 残る戦力のブルースは大分消耗しているし、炎山が所持するチップも僅かだ。シアンの役割が固定されている以上、危険を冒しても手が足りない。

 

――戦え

 

 矛盾している。けれど、ここで逃げたらドリームウイルスが解き放たれる。空中ではロケットに接触する機会など限られるし、一度でも戦争が勃発すればもう終わりだ。

 後に原因であるドリームウイルスをデリートしたところで、戦争は止まらない。

 被害を許容できずに始まる報復合戦と、どさくさに紛れて利権を狙うハイエナが泥沼化を引き起こすだろう。

 落とし所を見つける頃には国々が疲弊し、今の社会が崩壊する。

 

 どうする? どうすればいい?

 ぐるぐると思考が空転し、俺は――

 

 

『そこまでだ!』

 

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