WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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海外マフィア設定は必要なんすかね? バグでできたワンちゃん編
22.教授は犠牲となったのだ……シナリオの犠牲にな


「明日からお待ちかねの夏休みが始まりまーす! お友達と遊ぶのもいいけど宿題は忘れないようにねー! 怪我と病気には気を付けてねー?」

 

 WWWが壊滅してから短い平和を享受している内に夏休みも目前となっていた。

 ゲームキューブの『トランスミッション』? 抜かりなく教授らしき人物もお縄になったので事件は起こらなかった模様。

 ゼロウイルス放置はやべぇ気もするんだけど、ゼロアカウントが見つからないんだよなぁ……。まぁ、仮にゼロウイルスに感染してもハッキングパパが何とかしてくれるやろ(震え声

 

「おーいワタル! 今日帰ったらインターネットしようぜ!」

 

 学期末特有の持ち帰る荷物の多さにげんなりしていたところに、両腕に複数の手提げ袋を引っさげた大山デカオが話しかけてくる。

 その後ろにはいつもの3人。青いバンダナがトレードマークの光熱斗に、赤毛のショートカットの桜井メイル、おでこの輝きが100ワットの綾小路やいと。

 

「市民ネットバトラーの募集だっけ? 面白そうだし、わたしも行こっかなー?」

「でも何すんだろなー、それ? まー行ってみりゃあわかるか!」

「アタシはパス。昼下がりは優雅にアフタヌーンバスって決まってるから」

 

 夏休みに突入しただけあって、心なしかテンションの高い彼らに俺は軽く頭を下げる。

 

「悪い。これから呼び出しがあってな。多分行けないわ」

「呼び出し~? 何か悪いことしたのかよワタル~? 少しくらいなら待ってやるぜ?」

「職員室じゃないんだよなぁ……」

 

 苦笑いを返しながら荷物を纏め終えると、彼らより一足先に帰宅することに。

 昇降口から出た途端、ジリジリと肌を焼く太陽光に顔を顰める。それでも環境維持プログラムがある分、36度以上がデフォルトの日本の夏に比べれば大分マシだけれども。

 エグゼ世界より狂ってるって相当やぞ。

 

「ただいま」

 

 習慣になった挨拶をするも返事はない。

 今までならば祖父が出迎えてくれたけれども、もう拝める日はやってこないのかもしれない。

 というのも、罪の意識から祖父は科学省に復帰したからだ。まだ傷は治りきっていないのに、小型のパワードスーツを身に纏って日夜研究に協力しているらしい。

 パワードスーツの単語に未だ驚きを隠せないが、災害救助や重労働者などに用いられているらしく、そう珍しい存在ではないのだとか。

 尤も、値段は恐ろしいほど高いので、広くは普及していないみたいだけど。そんな代物をレンタルとはいえ使用できる祖父は何者なのだろうか。マジで底知れない。

 

 自室に荷物を置いて軽く水分補給を済ませたらメトロに乗ってマリンハーバーへ。

 目的の場所はメトロ駅を出て左に大きく構えるオフィシャル本部だ。自動ドアを潜って受付でアポの確認を取ってエレベーターへ。

 PETを繋げると自動で目的の階に移動してくれるのだが、複数人乗り合わせた場合は不便だと思う。

 そこそこ長い時間Gを体感し、降りたフロアは驚くほど静かだった。すれ違う大人が皆高級スーツ纏ってやがるし、場違い感が半端ない。

 

「失礼します」

 

 受付で案内された番号の部屋にノックした後、入室。防音過ぎて相手の返答聞こえなくて不安になるわ。

 広々とした内部の正面には執務机が置かれ、そこには部屋の主らしき中年男性の姿が見える。その傍らにはピンク色のスーツ姿の女性と、生意気そうな面の小学生の伊集院炎山。

 

「本日はお招きいただきありがとうございます。不躾で申し訳ないのですか、本日はどのようなご用件で?」

「わざわざ来てもらってすまないね、隠岐渡君。内密故に直接面と向かって説明する必要があったんだ。私はネット警察で総監をやらせてもらっている貴船誠心(きふねせいしん)だ」

「私は警視の真辺鈴(まなべりん)。よろしくね、隠岐君」

「どうも」

 

 想像以上の大物との対面に萎縮しながら頭を下げる。聞き覚えのある名前に内心首を捻る。あぁ、そうだ思い出した。アニオリキャラの責任者ポジの人たちだ。

 そういやオフィシャルネットバトラーってインターネットの治安維持の為に逮捕権限を与えられた人なんだっけか。原作の後のシリーズだと完全に警察と同じことしているから忘れがちな設定だったな、それ。

 まぁ、小学生がなれている時点でオフィシャルは公務員じゃないし、ネット警察の下位組織みたいなものかね?

 

「それで、だ。隠岐君には是非ともネットセイバーの一員になってもらいたくてね」

「ネットセイバー」

「総監、それだけじゃわかりませんって」

「おぉ、すまないすまない」

 

 人の好さそうな笑みで禿頭を撫で、説明を始める。

 

「昨今、凶悪化するネット犯罪に個人プレーの多いオフィシャルや腰が重いネット警察では対処が難しくなってね。

 そこで科学省、オフィシャル合同で新たに立ち上げたのがネットセイバー。少数精鋭のチームで早期解決に当たってもらおうと思っている」

 

 アニオリの謎組織、総監のパワープレーで生まれるんか、これ。複数組織が絡んでいるせいで利権とかヤバそうだけど、大丈夫なんだろうか? 不安しかねぇ……。

 

「その……何故私がその一員に?」

「それは勿論、WWW本拠地の一件に多大な活躍があったと炎山君の推薦があったからだ。というか、君が入らねば早速頓挫してしまうところだ」

「笑いながら話すべき内容ではないですよ、総監!」

「すまない真辺君。しかし事実だ」

 

 こう朗らかな空気が流れているけれど、誘導されている気がしてならない。

 

「伊集院、どういうこと訳よ?」

「オレと足並みを合わせられるのが貴様くらいしか思い浮かばなかっただけの話だ」

「いやいるだろ。自惚れんな」

 

 原作だと炎山が突っぱねて成立しなかったパターンか、これ? 確かに原作特有のぶっ飛んだ感じあるけれども酒の勢いで作ったとしか思えないぜ、マジで。

 聞いている限りだと構成員が小学生2人とか正気の沙汰じゃねぇ。

 

「体裁として小学生というのは如何なものだと愚考しますが?」

「必要なのは卓越した解決能力。歳は重要じゃないと私は考えている。

 尤も大人として子供に責を負わせることに不甲斐ないばかりなのだがね。そう言ってられる程に余裕がない実情でね」

「正直、そんなものあるとは思えないんですけど……」

 

 所詮は原作知識とネットバトルの腕以外は平凡極まりないモブだ。炎山みたく現実で腕っぷしが必要な場面は完全に役立たずになるし、専門知識がある訳でもない。

 原作シナリオから外れた事件ではお荷物になる未来しか見えない。

 しかしそれでも、だ。

 

「祖父の罪が少しでも軽くなるのであれば、やります」

「祖父……隠岐(すぐる)か。かのドリームウイルス製作に加担した人物だったな」

 

 俺が人質になっていたという事情があるとはいえ、足抜けした犯罪組織に何の言伝もなく戻り、危うく世界に破滅をもたらしかけたのも事実。

 情状酌量の余地があったが流石に規模が規模なだけに、これからの人生は贖罪の為に生きることとなった。

 それが少しでも軽くなるのであれば、やってやる。不相応だろうと、こなしてみせる。

 

「わかった。君との約束、尽力しよう」

「ありがとうございます」

「詳細は正式に発足されてから伝える。他に何かあるかね?」

「私からも推薦したい人物がいるんですけど、可能ですかね?」

「いいとも。聞かせてくれたまえ」

 

 鷹揚に頷く貴船総監から言質を取ったので、遠慮なく言わせてもらおう。

 

「伊集院と共にWWW本拠地に乗り込んだ選抜隊、でしたっけ?」

「あぁ、あの3人か。言われずとも候補に入っているとも」

「後は一般人ですけど、光熱斗を」

「光だと!?」

 

 俺に問われるまで口を開かなかった卵の殻ヘッドが腕組みを解いて叫ぶ。

 

「あいつはダメだ。オペレートの腕はあるが、考えなしに首を突っ込んで現場を混乱させる」

「報告にもあった光主任の息子さんだね。実力は十二分にあると考えられるが、果たして人の親として彼が頷くかどうか」

 

 ライバル意識ビンビンで反対する炎山に、別の理由で渋る貴船総監。

 

「熱斗と同じクラスで親交がある身として言わせてもらうと、彼はこれからも無許可で突き進むと思いますよ? それなら監視下に置くなり、バックアップした方が良いのでは?」

「ううむ……それもそうか」

「少なくとも本人は乗り気でOKすると思います」

 

 誰がどう思おうが、主人公は入れさせてもらう。

 ネットセイバーの肩書があるだけで熱斗の犯罪経歴が随分減らせるだろうし、ヒグレヤや市販のチップだけでは限界がある。

 それに原作アニメ関係なくどっちみち熱斗は犯罪組織から恨みを買うだろう。それならば後ろ盾はあった方がいい。

 

「あいわかった。打診させてもらおう」

 

 ひとまず用件は済んだのでそれとなく退出の流れに持っていこうと思った矢先、貴船総監が内線で誰かを呼び出す。

 

「ん? あぁ、隠岐君から了承が取れたからね。ついでに顔合わせでもしておこうかと思ってね」

「顔合わせ?」

「すぐ近くで待機してもらったからそう待たずに済むとも」

 

 呼び出しから数秒後、本当に目的の人物が現れた。

 

「科学省から派遣されました。江口と言います。人呼んで名人――」

「名人さん!」

「さんはいらない」

 

 ツンツン頭に眼鏡、白衣姿なのに下はTシャツにチノパン、スニーカー、指貫グローブというアンマッチな出で立ち。

 シナリオ担当なのに新米社員という立場の弱さで表舞台に立たされて半ば広報みたいなことされていた江口さんがモデルの名人さんだ。

 シリーズ毎に持ちナビをコロコロ変えるものの、その強さは一線級。原作ではお前が戦え、と何度も言いたくなったキャラの内の1人である。

 

「知り合いかね?」

「いいえ。ですがどこかでネットバトルをした子かもしれませんね」

 

 不意に原作キャラと出会うとこう胸に湧き上がるものがあるといいますか。ただね、その……名人さんが入室してくる時に扉の隙間からチラっと場違いな赤色が見えたのは俺の気のせいなのか。

 スーツはスーツでも戦隊モノのスーツだった気がする。

 

「あー、勘違いでなければ外に誰かいませんかね?」

「目敏いな。待っている間、彼には実用モデルに付き合ってもらっていてね。貴船総監、入室の許可は?」

「もちろんだとも」

 

 名人さんが扉を開けた先には、フルフェイスで顔を隠し、全身タイツに各所プロテクターっぽいものが付いた戦隊モノのレッドがやっぱりいやがった。

 

「お~うワタ坊! 奇遇だな! 魚食ってるかぁ?」

「正体マサさんかよ」

 

 情報が濁流のように押し寄せてきて思わずタメ口使っちまったわ。

 というか目の前のレッド、体型からして全然違う。目測で身長は180は超えているし、見事な八頭身で、足も身体の半分はあるんじゃないかってくらい長いモデル体型だ。

 コルセット巻きつけてシークレットブーツ履かせてもこうはならんやろ。

 

「これはサイバースーツと言ってね。今はお遊びでこんな姿だが、顔が割れているそこのエースみたいな人が潜入捜査などの用途を満たせるよう開発したんだ」

「へぇ……」

 

 サイバースーツの名称自体は『2』の敵首領が使っていたから知っていたが、実物はこんな感じなのか。

 原作のゲーミング発光した謎の人物と違って、エナメルみたいな質感は本物そっくりだ。

 

「俺っちからじゃわからねぇが、どんなもんだいワタ坊?」

「激しく動いても違和感ないんすね」

「事前にモーションキャプチャーで登録した動きに沿ってくれるんでね。よほど特殊な動きでもしない限りは大丈夫」

 

 マサさんに一通り実演してもらったところで、名人さんから解除の指示が出る。いつもの鯰髭にあの強面、前垂れのマダイは見慣れたマサさんだ。

 つーか、あの変身機構、チョーカーとベルト、両手首足首に巻かれたバンドだけで実現しているのかよ。超技術過ぎて訳わかんねぇ。

 

「という訳で炎山君にはこいつを渡しておこう」

「顔だけ、というのも可能なので?」

「あぁ勿論。ただし表情までは学習し切れていないから誰かに成りすます、といった用途は現段階だと難しいだろうね」

「俺もやってみていいっすか?」

「君もネットセイバーになるんだったね。ならいいだろう」

 

 興味本位で言い出したのだが、名人さんからあっさり了承を得られる。

 簡単に使用方法を教えてもらい、いざ実践。

 

「事前に登録されたもの以外を使用するには、まずスキャンするんだっけか」

「おい。何故オレに向ける?」

 

 試しに炎山に向けてスキャンの光を飛ばすも、抵抗されて顔だけしか認識されなかった。まぁ、今は顔だけでいいや。

 暫しの間、サイバースーツに学習させる時間を設けてから手首のコンパネで実行。

 

「どんな感じ?」

「酷いツラだ」

「自分でそう卑下すんなよ」

「違う。サンプルが足りないから表情が不自然だと言っているんだ」

 

 ならば、とサンプル数を増やすべく光線を浴びせかけたせいで、炎山からガチめの折檻を食らいながらも完成度を高めていく。

 

「遊ぶなら他所でやってくれないかしら?」

「いやいや真辺警視。炎山の姿を借りることで犯罪者への牽制にならないかな、っつう考えでして」

「声が笑っているぞ隠岐」

 

 実用段階に持っていけた、ということで炎山の腕をタップして解放してもらう。

 

「悪用を防ぐ為、使用ログは全て科学省に飛ぶように設計されているからその旨を頭に刻むように」

「了解であります」

 

 遊び道具には使えないが、思わぬところで身バレ防止の対策グッズが手に入ったものだ。ありがたく使わせていただこう。

 

 

 

 

 

 

「失礼しました」

『ワタちゃんさぁ……黙ってろって言ってたけど、あの空気なら私が喋っても良くない?』

「お前なら前半でもぶち壊してそうだからダメ」

 

 退出して早々シアンがそう愚痴ってくるが、収拾がつかなくなる可能性があるので却下だ。

 マサさんと炎山は呼び出しを受けて一足先に退出、名人さんは俺に聞かせられない話があるからと退出を促してきたので素直に頷いた流れだ。

 

『そういえば今日、事件が起こるんじゃなかったっけ?』

「今までも事件の日時ズレてたから確実にそうだと言えないけどな」

『呼び出し食らったからしょうがないけどさ、やいとちゃん大丈夫なの?』

 

 原作シナリオだと『2』が開始され、風吹アラシというアメロッパとニホンのハーフが綾小路邸にて事件を起こす訳だが――何も対策を講じられていない。

 あのデコギラス、俺を家に招いてくれねぇし、どう対策しろっつうんだ。しかも、あそこはセキュリティが固いから侵入も容易じゃないし、良く犯行に及べたなと言いたくなるレベル。

 せいぜい知らない人物をホイホイ家に上げるな、と警告したら「子供じゃないんだから」と鼻で笑われるし。

 

「熱斗とデカオがどうにかすると思うけど、様子だけでも見に行くか?」

『そうと決まったらダッシュだよワタちゃん!』

「エレベーター内で走るのは馬鹿じゃねぇ?」

 

 原作通りならデカオとやいとが危ないのだけど……救出に向かえば待っているのは小学生女児のお色気シーンである。

 このご時世で、コンプラ的にどうなんだ。熱斗だから許されたけど、俺だとセクハラで訴えられる可能性が否定できない。

 んなこと起きたら祖父に顔向けできねぇよマジで!




主人公のオフィシャル入りに賛否あるかもしれませんが、基本スタンスは変わらないし、一部の人間以外には「誰やこいつ?」な知名度で進めます

市民ネットバトラー設定を詰めていくと支障をきたすからなァ!
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