WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

23 / 69
今回は長くなったので分割しようかと思いましたが、尻切れトンボになるので投稿しました


23.エアーマンが倒せない……訳ねェよなァ

 ひいこら言いながら溜めに溜めた荷物を持ち帰り、光熱斗や桜井メイルと共に市民ネットバトラーの試験に意気込む大山デカオだったが。

 

「……楽勝だったな」

『でガス』

 

 初歩であるサブライセンス試験とあってか、内容はデンサンエリアを把握しているかを確かめるデータ探し、そして同エリアで出現するレベルのウイルスバスティング。

 ウラでの戦闘経験があるデカオにとっては非常に物足りない難易度だったのだ。同じく暇を持て余しているロックマンを通じて熱斗と駄弁りながらロールの結果を待っていると、

 

『デカオ様! オート電話でガス!』

「相手はグライド……やいとがどーしたんだ?」

 

 会話を中断し、通話を開始した途端、普段は冷静なグライドには珍しい慌てた様子で、長ったらしい前置きもなく用件を伝えてくる。

 

『助けてください! やいと様が! やいと様がお風呂場に閉じ込められてしまいました!』

「ンだと?」

『至急綾小路邸にお越しください! それでは!』

 

 一方的に捲し立てられたデカオであったが、友のピンチとあらば身体は勝手に動いていた。

 乱暴にプラグを引っこ抜き、雑に玄関に立てかけられたキックボートを引っ掴むと、それに乗って綾小路邸へ急ぐ。

 だだっ広い屋敷を囲む鉄柵をぐるりと回り、正門に辿り着いた頃には桜井メイルがいて、熱斗もデカオに少々遅れてやってきた。

 

「おい、聞いたか? 熱斗、メイルちゃん?」

「詳しい話はまだ……やいとちゃん……」

「グライド、一体どーしてこんなことが?」

 

 皆を代表して熱斗がグライドに通話する。

 

『実はガス会社からやってきたという男を招き入れたところ、いの一番にやいと様が狙われまして』

「やいとちゃんは! やいとちゃんは無事なの!?」

『今のところは。ですが、ガス給湯器をハッキングされまして、屋敷内にガスがまき散らされてしまいました』

「つーかよ、お屋敷で働く執事とメイドたちはどーしたんだよ?」

『やいと様のワガママで出払っていまして。家令や一部の世話係では歯が立たず……』

「警察に連絡は?」

『通報すればやいと様の命は無い、と。お願いです! 頼れるのは皆様しか!』

 

 一通り事情を聞き入れた3人は頷き合うと早速綾小路邸に足を踏み入れるが、

 

「うっ、この臭い……!」

「やべーぞ、これは!」

 

 扉を開けた途端、デカオたちは顔を顰める。玄関ホールにまでガス臭が届いている為、原因である風呂場はまず充満していることだろう。

 

「熱斗ォ! おめーは窓を開けに行ってくれ! メイルちゃんも危ねーけど熱斗と同じこと頼んでいいか?」

「デカオ! お前ひとりで助けに行くつもりかよ!」

「そうよデカオ君!」

「役割分担だ! 3人で突っ込んで3人倒れたら意味ねーよ! ガスをどうにかしなきゃなんねー!」

 

 不安そうなメイルの視線を切って、デカオは熱斗の肩に両手を置く。漢としての頼みだ。

 

「一番身体が頑丈なオレ様が先陣を切る。それは決定事項だ。でもまァ……オレが倒れたら熱斗、おめーの出番だ」

「デカオ……」

「熱斗、おめーの実力はオレが一番良く知ってる。()()オレよりも強いおめーが倒れたら終わりだ。だから頼む。行かせてくれ」

「わかったよ……無茶すんなよデカオ」

「ここで無茶しねーでどーすんだ」

「そーかよ……グライド! 酸素ボンベとか屋敷にあるか!?」

『はい! こちらに!』

 

 気持ちを切り替えたライバルにデカオは笑みを零し、しかしすぐに顔を引き締める。

 一旦、外で深呼吸を繰り返した後、大きく息を吸い込み、一気にガス溜まりの中へ突っ込んだ。

 視界が利かない室内、しかしグライドから送信されたマップと現在位置を照らし合わせて進めば問題なかった。

 

(ここか!)

 

 足元が木目のタイルに変わり、他の箇所とは違う湿気を肌で感じたデカオは手探りでコンパネを探り当てると、そこに向けてコードを伸ばす。

 

『ホアーーー! 侵入者かーーー? ホアーーー!』

 

 ガス給湯器の電脳にプラグインして早々、腹に換気扇みたいなファンを抱えた青いナビが見える。言動からして元凶だろう。

 

「オフィシャル、ではないな? 何者だ?」

『オマエが犯人でガスね! 今すぐやめるでガス!』

「大方ガキの友達といったところか? やだね」

 

 犯人のオペレーターの嘲る声が癇に障ったデカオは我慢できず、己の疑問をぶつける。

 

「ゴホッ! どーしてこんなことをすんだ?」

「ビンゴ! ここまで来た褒美に教えてやるさ。金持ちなら子供の為に幾らでも出してくれるだろ? 人質ってヤツさ」

「おめー……!」

「今回の事件が知れ渡れば! 同じ目に遭いたくなければ、とただ脅すだけで金が手に入る! ボロい商売さ!」

「ゴホッ、ゴホッ……許せねー!」

 

 会話する度に思い切り咳き込むが、それよりも大事な友達が汚い金稼ぎに利用されることへの怒りが何より勝ったのだ。

 画面越しに相棒も頷いてくれ、デカオは犯人をぶっ倒すことを心に決める。

 

「いけーっ、ガッツマン!」

『いくでガス!』

「馬鹿な奴だ……死ぬのが早まるだけだというのに。エアーマン!」

『ホアーーー!! オレたちより犯人みたいな口調の奴に負けるかーーーホアーーー!!』

 

 先手必勝とばかりにガッツマンを突撃させるも、突如として目の前に出現する竜巻に急停止。しかし前のめりとなったガッツマンは竜巻攻撃をモロに食らってしまう。

 

「スマン、ガッツマン! 退いてくれ……ゴホッ!」

「オマエのナビは近接主体か。エアーマン!」

 

 ガッツマンに後退を指示した直後、エアーマン周辺を囲む竜巻が発生。それらを壁とすることでガッツマンは容易に近付くことができなくなった。

 

(落ち着け、オレ……)

 

 拳を額にやったデカオは焦りで決着を急いだ自分を反省する。それでは少し前までの自分と同じではないか。

 

 大山デカオは小学5年生に進級してから新しい友を得て、己の弱さを自覚した。

 猪突猛進なバトルスタイルに拘るあまり、ガッツマンを負けさせていたのだと、スクールジャック事件にて隠岐渡が気付かせてくれたのだ。

 それから意識改善に苦戦していたものの、ウラインターネットに誘われたことで否が応でも成長せねばならなくなった。

 そうでなければ相棒であるガッツマンを失うこととなるから。

 実際、ウラのウイルスは手強く、厄介な攻撃をしかけてくるものばかりでガッツマンがデリートされる姿を何度も見た。

 その度、後悔に苛まれ、ウラにアクセスすることをやめようと考えたこともあった。

 しかし、その分だけ相棒に、辛い目にあっても諦めないガッツマンに励まされ、大山デカオは戦ってきた。

 

(HPの減りはそこまででもねーな。守りを固めたってことはストーンマン程、厄介じゃねー)

 

 これまでの経験が、彼に戦う力を与えたのだ。

 

『ホアーーー逃げてばかりでどうする? ホアーーー!』

「ゴホッ、ゴホッ! 耐えろガッツマン!」

「耐えて何になる? やれエアーマン!」

 

 ガッツマンに回避を優先させ、【クイックゲージ】をスロットインした後は【リカバリー80】で延命するだけのデカオに犯人の男は嘲笑う。

 エアーマンを前に逃げ惑う弱者にしか見えなかったのだろう。

――HPの値が減るよりも増えていることに気付かない愚か者には。

 

「良く耐えたガッツマン! 反撃開始だ!」

『ぬほー! ようやくでガスか!』

「何を今更……」

「見てやがれ! バトルチップ【スイコミ】スロットイン!」

 

 ガッツマンの正面に巨大なファンが設置され、それが回転することで前方にいたエアーマンの身体が吸い寄せられていく。

 

「何!?」

「おめー、竜巻は結構な量出せるけどよー、そのコントロールはそこまで得意じゃねーな?」

「エアーマン!」

『ホアーーー!』

 

 エアボンバーの爆風で【スイコミ】の破壊を優先させた相手に、デカオは笑う。エアーマンの周囲にあった竜巻は置いてけぼり、彼我の距離はガッツマンの一歩で容易に埋まる。

 

「バトルチップ【デスマッチ2】スロットイン!」

 

 2体のナビが立つ足場を残して消えていくパネル。文字通りのデスマッチだ。

 

「エアーマン! エアボンバー!」

『ホアッ!?』

「おせーよ」

 

 いちいち構えてから攻撃する相手よりも、ガッツマンが拳を突き出す方が早い。そのままラッシュに持ち込み、のけ反らせることで反撃を許さない。

 

「【エリアスチール】スロットイン!」

「新技いくぞ、ガッツマン!」

 

 切羽詰まった敵が慌てて逃げ出すのもデカオには読めていた。チップぶん回し女(シアン)という例外を除いて、緊急回避に用いられたそれに隙が生まれることも知っている。

 

『ロケットガッツパンーチ!』

 

 読んで字の如く、ロボットアニメのような絵面で飛んでいくガッツマンの拳は相手の顔面に直撃。そのダメージで以てHPが危険域に突入したのか、エアーマンのデータが崩壊を始めたところで、

 

「チッ、仕方ねー。あばよクソガキ」

「待てっ! ゴホッ! ゲホッ……!」

 

 犯人の男がプラグアウト。

 敵を倒したことで気が緩んだのか、デカオの身体から力が抜ける。ガスを吸い過ぎたのだ。

 ぐらりと揺れる視界。背中から床へ倒れるものの、その痛みにもがく元気も残されていなかった。

 

「デカオー!!」

「おせーぞ、熱斗……」

 

 自身を心配する熱斗の声にデカオは安心したのか、繋ぎ止めていた意識をあっさり手放したのだった。

 

 

 

 

 

「思い、出した!」

『原作者の知らないドラゴンを?』

「自分で知らないっつってんじゃねぇか」

 

 マリンハーバーのメトロ駅構内にて土産屋を目にした際――矢木に電流走る。今回の騒動、確か爆発オチではなかったか、と。

 今の今まで思い出せなかったことにショックを隠せない。ハードモードもクリアした俺が忘れていたとは……なんて印象に残らない相手なんだ、風吹アラシ……!

 芋づる式に記憶が蘇ってきたので、一旦脳内で状況を整理することに。

 

 今回の騒動はガス会社をクビになった風吹アラシが金目的で綾小路やいとを狙ったことから始まる。

 やいとの持ちナビであるグライドの救援要請を受けた光熱斗とロックマンがそれを解決。

 失敗した風吹は雇い主である海外マフィアの『ゴスペル』に連絡を入れるが、失敗を咎められ爆弾により始末される、という展開になっていた筈だ。

 

 で、爆発の起きた現場はマリンハーバーのメトロ駅。まさに今、ここにいる。

 

「ヤバいヤバいヤバい……!」

『どったの? お財布でも落とした感じ?』

「いや……下手すっと、ここが爆発する」

『マジ? ワタちゃんのお腹じゃなくて?』

「マジモンの爆弾だよ。なんでもかんでも爆発しやがってこの世界はよ……!」

 

 原作では被害者ゼロの報道が流れ、真相不明なのにあっさりと忘れ去られることとなったが、この世界ではどうだろうか?

 デンサンの中央街には劣るが、小洒落たカフェやブティックなどで買い物客がそこそこ訪れるし、オフィシャル本部以外にもビルが何本も立ち並ぶ為、通勤するサラリーマンも結構な数が見受けられる。

 終電を迎えでもしない限り、被害者ゼロは厳しい筈だ。かといって風吹が深夜回ってから連絡を入れるのもおかしな話。

 

「シアン、桜井にオート電話頼む」

『メイルちゃんが報復に爆弾を……?』

「優しい子だからそんなことしねぇよ。いいから早く」

 

 何にせよ、事件が起こっているかどうか確かめるのが先決だ。既に事が起こっている場合、手が空いてそうなメイルを選んだから出てくれると思うのだが。

 3回目のコール音で、相手は出た。

 

「急で悪いが、聞きたいことがある」

「隠岐くん……凄いタイミングでかけてきたね」

「何かあったのか? もしかして誰かやべぇことに?」

「うん……やいとちゃんがガス会社の人に狙われて。けど、デカオくんが助けてくれたんだ」

「誰と電話してんだメイル? その声……ワタルか!」

 

 声の調子からして緊迫感は無いし、やいとも目覚めた頃か。そう考えた瞬間、電話口から大声がまき散らされる。

 

「うがああああ! あんの金髪ッ! よくもアタシのアフタヌーンバスを邪魔してくれちゃって! ずぇ~ったい許せない!」

「やいとちゃん落ち着いて! まだ無理しちゃダメだよ!」

「メイルちゃん離して! 今から犯人を制裁に行くわよ!」

「でもどうやってだよ、やいと? 犯人の居場所わかんのかよ?」

「うぐぐ……でも許せないわ!」

 

 わちゃわちゃとした空気に口を挟めなかったものの、落ち着いたタイミングを見計らって本題に入る。

 

「んで、聞きたいことなんだけどさ、綾小路の家に見知らぬ車が止まってなかったか?」

「車……無かったよね、熱斗?」

「おう。もしかして、犯人捜し、手伝ってくれるのか?」

「そうなるかも。で、本当に見なかったんだな?」

「アタシも見てないわよ。ってことは犯人はタクシーか電車で移動しているのね! あの人、お金持ってなさそうだし、電車で移動してる筈!」

「それだけわかっても意味ねーだろ、やいと?」

「ふふん。光くんはおつむが残念ね。駅前には監視カメラが設置されてるの。そこにアイツの顔が映っているなら捜索は可能だわ!」 

「監視カメラにプラグインすればいいって訳か」

「ちっがーう! 取締役兼務駅長と友達のパパなら情報をくれる筈! 行くわよ皆!」

「待ってやいとちゃん――」

 

 暴走お嬢様によって一方的に通話が切られる。

 コンプラ的に聞けないと思うが……エグゼ世界だからなぁ。普通に嗅ぎ付けてきそう。

 

「営業車で偽装もしてねぇってことはマジでここに来るかもな」

『爆弾の場所は? わかるんだよね?』

「土産屋の店頭にある筈なんだけど……」

 

 原作では放置されたアタッシュケースに爆弾が設置されていた筈だが、そんなものは見当たらない。

 というか風吹アラシが近辺に立ち寄る確証など無いし、駅員に回収される可能性を考慮すれば現時点では無い方が自然か。

 

「悪い、忘れてくれ。今から設置されるみてぇだ」

『もしかして……結構ヤバい?』

「あぁ、時間との勝負だな」

 

 原作通りに爆弾で風吹アラシを仕留める気ならば、彼をマークする人物がいる筈。電話したタイミングで近くに設置、タイミングを見計らって遠隔で起爆といったところだろうか。

 彼が現れてから電話する為に足を止めるまでに仕掛け人を見つけなければアウト。制限時間が短過ぎてクソゲーにも程があるわ。

 

『じゃあメトロにいる人を避難させないとじゃん!』

「つっても爆弾がどうこう言って信じるか、普通? つーか仮にできても間に合わねぇって」

『オフィシャル権限ってヤツでどうにかならないの? こう荷物検査とか』

「生憎、ネットセイバーが正式に発足されるまでライセンスが発行されねぇらしいしな……待てよ?」

 

 背負ったリュックを前に回し、取り出したのはサイバースーツ。こいつがあれば――伊集院炎山の姿を借りることができる。

 彼に迷惑をかけるやもしれないが、緊急事態だ。最悪、貴船総監に取り成してもらおう。

 後は炎山の知名度次第だが有名人っぽいし、何とかなるやろ。ライセンスを提示するよう要求されたら終わりだが……エグゼ住人のガバさを信じるしかあるまい。

 

 トイレの個室に駆け込むと、そこでサイバースーツを身に着ける。それを作動させると顔をホログラムが覆うらしいのだが、相変わらずいまいち実感できない。

 なので個室を出て鏡を確認してみれば……目の前に生意気そうな小僧が映っているではないか。

 

「名人さんの言った通り、細かい表情の変化には対応してないっぽいな」

『デフォの不機嫌そうな顔と怒ってる顔ならバッチリだね』

「まぁ、やってみるしかねぇか」

 

 両手をポケットに突っ込み、人を小馬鹿にした炎山ムーブを意識して自動改札近くの窓口にいる駅員に話しかける。

 

「すまない」

「ん? どうしたんだいボク?」

「オフィシャルの伊集院炎山だ。不躾で悪いが協力してもらいたいことがある」

「伊集院、炎山? まさかあの天才小学生!?」

「火急の件だ。俺に無駄な時間を取らせるな」

「申し訳ありません! すぐ駅長に繋げます!」

 

 想像以上に炎山の威光が効いたのか、恐縮した駅員は俺を連れて駅長室へ案内してくれる。

 

「失礼します!」

「何だねキミ? 突然やってくるとは社会人としてあるまじき――」

「御託はいい。オフィシャルから一報を受けてここに来た伊集院炎山だ」

 

 くどくどと説教を開始する七三分けの中高年男性に名乗りを上げると、表情が一変。媚びた態度へ様変わりだ。小学生のくせして偉い実績持ってそうだな、この卵の殻ヘッド。

 

「貴方がオフィシャルのエースの! こうしてお姿を拝見できるとは! 大変光栄でありますな!」

「世辞もいらん。簡潔に用件を伝える。このマリンハーバーに爆弾が持ち込まれるとの情報を掴んだ」

「なんと! それは事実でありますかな?」

 

 動揺を隠せない彼は脂ぎった額にハンカチを当て、汗を拭うのだが……カツラがズレてきている。アカン、視線が吸われる。

 

「オフィシャルの情報網を疑う気か?」

「いえいえとんでもない! しかし、お越しいただいたのは伊集院様おひとりで?」

「犯人は現在電車で移動中。それらしい恰好の団体がお出迎えとなれば自棄を起こしかねない」

「……短慮でしたな。で、我々に何をお求めで?」

「オレがヤツと対面し、わざと逃がす。そこで駅係員には逃走ルートを誘導してもらいたい」

「わざと逃がす? 正気ですかな?」

「崩落の危険を考えろ。二度も無駄口を叩くな」

「度々失礼いたしました。しかし、荒事に我々を駆りだすなどと……」

「ポーズだけでいい。わざわざ駅員の居る箇所を選ぶといった面倒は避けるだろう」

「わかりました。すぐ通達いたします。で、犯人の身なりはどのようなもので」

「詮索は不要だ。貴様は速やかに人員を配置しろ。それで貴様の仕事は終わりだ」

「か、畏まりました!」

 

 すぐさま通達を飛ばす駅長に背を向けて、俺は部屋を退出する。

 

「ふい~……何とかなるもんだな」

『乗客の安全を優先させて逃がすつもりだったんだ?』

「いんや。これからオフィシャルに連絡入れて外に警戒網を敷いてもらうつもりだよ」

『……そんなことしなくとも、中に応援寄越してもらえば良くない?』

「それだと状況をコントロールできない。オフィシャルにひとりでも突っ走る馬鹿がいれば、ドカンよ」

 

 そう俺の目的はあくまで風吹アラシの身柄ではない。爆弾を持った仕掛け人をどうにかすることだ。

 彼が逃げれば、必ず仕掛け人は何かしらのリアクションを取る。『ゴスペル』の内情を知る者であれば十中八九追いかけるだろうし、闇バイト感覚で雇われた者ならもっとわかりやすい。

 何なら後者は何を運んでいるのかも知らされていない可能性があり、命の危険を知らせれば簡単に手放すだろう。

 後は腰裏辺りにPETを固定して、シアンに背後の様子を窺ってもらうとして。右手首にはストラップ付のスタンガンを装備っと。

 

 炎山経由で人手が欲しい旨を伝えた後、俺は改札口にて目的の人物の到着を待つ。

 電車から吐き出される人波の中、一際目立つ金色の長髪が姿を現す。外国人に近い顔立ちに、スーツからはみ出すシャンプーハットみたいな袖口。間違いない、風吹アラシだ。

 

「ようやく来たか」

「なんだ? 今日はやけにガキに絡まれるな……」

「まだわからないのか? 俺はオフィシャルだ」

「オフィシャル――げぇっ! 伊集院炎山!」

 

 驚きのあまり、あんぐりと大口を開く風吹だったが、存外行動に移すのは早かった。一目散に俺から離れていく。

 

「待て!」

『ワタちゃんの言う通り、後ろから追ってくる人がいるよ!』

 

 付かず離れずの距離感を保っての追いかけっこで風吹を外へと誘導する。

 その途中、シアンからの報告も耳に入れるが――なかなか諦める様子が無いらしい。余程ボスが怖いと見える。任務を達成できなきゃ消されるのは風吹だけじゃなくなるしな。

 

「またオフィシャルかよ!」

「そいつが例の容疑者だ。確保しろ!」

 

 階段を駆け上がり、メトロを出た風吹が一瞬硬直。その反応を見て、俺はそう叫んだ。

 

「「了解!」」

 

 風吹に遅れて飛び出た俺が目にしたのは逃亡する風吹がオフィシャル制服を纏った若い男性2人にタックルを食らって地面に転がされているところだった。

 

「後は!」

 

 身を翻し、追跡してきた細見の男性を視界に収める。両腕に抱えるアタッシュケース。急いでいるのに落下を避けようとする様子。目線は風吹の向かった方向。状況証拠は揃った。

 

「どっ、せい!」

 

 男の横合いから手を伸ばし、腰のベルトを引っ掴む。途端、引っかけた指に痛みが走り、体重差で身体が持っていかれそうになるが少しの辛抱だ。

 相手方も俺という重荷が急に加わったことで体勢を崩し、アタッシュケースから離した左手で地面につけ、右足を大きく踏み出すことで何とか持ちこたえる。

 

「そぉい!」

 

 想定外の奴と、想定していた俺。子供故の身軽さでいち早く体勢を立て直した俺は、男の足に向けてスタンガンを当てる。

 

「ぎっ!?」

 

 筋肉の収縮で足は奪った。後は顔面に火花をチラつかせて男の意識をそちらに持っていかせ、

 

「ふんぬらば!」

 

 すぐさまタックルするが如くアタッシュケースに飛びついて、それを強奪。後は手の内にあるコイツを海に投げ捨てれば完了だ。

 生憎の海シーズンだが、遊泳禁止区域は作戦開始前に把握済み。起爆装置を握っている奴との時間の勝負!

 

「あら伊集院炎山じゃない!」

「馬鹿! 逃げろ!」

 

 こんな時に限ってあんのデコギラス! 親しげに近付いてくんじゃねぇよ!

 歩幅を調整し、勢いを殺さぬまま円運動を開始。遠心力を持ったアタッシュケースをぐんぐん加速させ、投擲!

 放物線を描いたアタッシュケースは海に着水。数秒も経たぬ内に水柱が上がった。

 間一髪、綱渡り過ぎて『渡』の寿命をいくらか削っちゃったかもしれん。

 つーかあの威力を原作風吹アラシは耐えやがったってマジ? 『バトルチップGP』で五体満足なところが描写されてたし、超人かよアイツ。

 

「きゃっ!」

「次から次へと!」

 

 肩の荷が下りたのも束の間、やいとが例の爆弾の運び屋に取っ捕まってやがった。もう腹いっぱいだよ、こっちはよォ!

 

「きひ、きひひひひ! もう私の命はおしまいだァ! ならばァ! 邪魔しやがったお前にも消えてもらうぞ伊集院炎山ンンッ!」

「そいつを離せ」

 

 完全に想定外だ。男は目をかっ開き、壊れたように笑っている。明らかに自棄を起こしているようで、下手に刺激すると首元を押さえつけられたやいとが絞め殺されるかもしれない。

 

「炎、山……」

「ひゃはは! 彼女も泣いてんぜっ? ひとりが寂しいなら一緒に死んでもらうかァ?」

「人質交換だ。俺が代わりにそちらへ行く」

「武器を捨てろ。両手を挙げてゆっくりこちらに来い」

 

 相手の要求に従ってリュックとスタンガンを地面に置くと、無防備な姿を晒して奴の元へ一歩ずつ近寄っていく。ゆっくりとだ。頼む、早く来てくれ――熱斗!

 

「どりゃあ!」

 

 果たして俺の願いが通じたのか、奴の後頭部に熱斗が振り被ったリュックがクリーンヒット。拘束が緩んだやいとが逃げ出すのと同時、俺も駆けだした。

 

「アリーヴェデルチ!」

 

 色んな意味合いを込めた台詞と共に奴の股間へ前蹴りを食らわす。俺の金玉もひゅんとなったが、もうこっちに余裕はねぇんだ。()じゃなくなっても恨むなよ!

 口から泡を吹く男の背後に回り、念の為関節を極めておく。遅れてやってきたオフィシャルの応援にそいつを引き渡し、今度こそ完了だ。もう疲れた。帰って眠りたい。

 

「炎山……その……」

 

 やいとさん、そのメス顔やめて。もうキャパオーバーなんすよ。

 炎山ムーブもシアンに録音されていると思うと既に心が折れかかってるんで勘弁してください。ラブコメパートまでとか重労働過ぎるわボケ!

 

「こんな時に野次馬根性を発揮するんじゃない、このデコ娘」

「なっ……!」

「俺は忙しいんでね。これで失礼する」

「なによなによ! このキザ男ぉ!」

 

 三つ編みを逆立て「ふんがー」と唸るやいとと、こちらに話しかけようとした熱斗に向けて手を振ってメトロに向かう。

 

 こうして非公式ながらオフィシャルとしての初仕事を終えた俺だったが、もう既にやめたくなってきていた。

 祖父の為とはいえ……部署移動とかできませんかね? マジで。




本作で描写する余裕がないのでアレですが、既に炎山がフラグをおっ立てております

(NTRは)ないです
渡くんの趣味じゃないので
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。