『2』開始時点で既にハードスケジュールだった俺に対し、家に帰った途端、炎山とブルースからの小言をもらい。
その翌日、筋肉痛を抱えた状態でオフィシャル本部に出頭、今回の報告書と始末書を
その後、オフィシャルに入るにあたって必要な書類を用意している内に数日が経過していた。
「小学生にあんだけ働かせるとかブラックだろアレ……」
『ね。労基に訴える?』
「爺ちゃんどうにかしてからなぁ」
立場も弱い小学生だし、普通に握り潰されそうだけれども。
朝飯を食べた後はベッドの上に寝転がる。今日1日くらい無駄にしてもええやろ。ずっと頑張るなんて人間には土台無理な話よ。
『ワタちゃん、メールだよ!』
「おーう。熱斗からか?」
『そだね。キャンプのお誘いみたい。返事どーする?』
「どうせ明日にお流れになるだろ。適当に返事しといて」
できることなら明日も家でゴロゴロしていたいが、一応確認の為に『おくデンだに』に顔を出すべきか。
あー……後は駄目元でサロマさんも誘っておくか? アニメの設定抜きにしても自然が好きだというし、小学生だけでキャンプするって言ったら優しい彼女は来てくれそう。
普通なら小学生の集団にひとりだけ交じるというのも気まずいものだが、子供好きっぽいから大丈夫やろ。
お互い報告書を雑談交じりにやっつけていた際に、夏休みの宿題半分終わらせたと言っただけで頭撫でてくれたし。
ただまぁ、そのせいか『渡』が一瞬だけでも覚醒したのは朗報と言っていいのやら。相変わらずの女好きだな、本来の主はよぉ。
ロボットアニメ視聴している時にも、ちょいちょい顔を出すけれど、もっと積極的になれよ。俺なんぞ押しのけて身体の主導権取り返せや。
消える前に原作知識は残していくからよ……何とか祖父が元気な内に会わせてやりたいものだ。
明くる朝、元気を取り戻した俺は荷物を持って集合場所のバス停に向かっていた。
誘われたからには付き合いは大事だし、昨日それとなく倉庫を覗いたら『渡』の名前シールが貼られた釣り竿を発見したので少しやる気になったのだ。
転生者である『俺』は『釣りキチ』や『釣りバカ』とかの漫画から得たニワカ知識しか無いので、完全に『渡』頼り。お前が顔出してくれなきゃ坊主で終わるぜ、だからよろしく頼まぁ。
「おはようさん」
「おはよー」
「おっす」
「ごきげんよう」
集合時間の10分前に到着したのだが、熱斗以外の面子は揃っていた。
にしても女子2人はそれぞれキャンプに合わせた服装になっているのに、デカオはいつものTシャツに半ズボンというのは山を舐めているのか。持ち前のタフさでどうにでもなるかもしれんけども。
ちなみに原作と違って炎山は来ない。皆に許可取って、俺が代表して誘ってみたが普通に断られた。何でもオフィシャルからの依頼を受けたらしい。ご苦労なこって。
「綾小路、荷物は?」
「ふふん。既にキャンプ場へ送ってあるわよ」
「ずりぃよな、こいつ!」
「賢いといいなさいデカオ」
それぞれ食材を持ち寄る為、俺含めクーラーボックスの持参だったのだが、やいとのみ軽装だったので尋ねてみると、案の定の答えが。
それならキャンプじゃなくてグランピングが良かったぜ、俺は。まぁ、小学生には準備段階でも楽しいみたいだけれども。
「ごめーん、みんな!」
「遅いぞ熱斗! もうバスが出発すんぞ!」
それから集合時間の10分遅れでやっと熱斗が到着。
理由はいつもの寝坊との事だったので、罰として皆のクーラーボックスを運ぶことに。
「ふー危なかったー。そういやサロマさんは? ガイド役頼んだんじゃなかったっけ?」
「メール見てないの熱斗? 現地集合って書いてあるじゃない」
「ロックマ~ン!」
『ボクはちゃんと言ったよ! 忘れちゃう熱斗くんが悪いんじゃない』
早朝ということでほぼ貸し切り状態のバスでワイワイと叫ぶ小学生たち。会話のお供に菓子をパクつき、頻繁にトレードが行われるが、俺はチョコ菓子とスナック菓子を提供するだけにしておく。
これから飯食いに行くのに腹膨らませちゃ、もったいないしな。やいとが提供する最高級ブランドの和牛とか俺の家庭じゃ滅多に食べられないだろうし。
空腹は何よりもスパイス、というので朝食も軽めに済ませたしな。
途中、眠気に負けていた際に男子共から顔に落書きされたので、その復讐計画を練っている内に到着。
タラップを降りると、緑色の姫カットにほっぺが赤いサロマさんが出迎えてくれる。
「あら、おはよう」
「「「「「おはようございまーす」」」」」
彼女の服装はゲームやアニメで見た和風っぽい感じ。上が半着と呼ばれる腰丈くらいの長さの和服と、下は茶色の……何だろう? 甚平っぽい気がしなくもないが、あっちは半ズボンに近いし、呼称がわからん。
少なくともチノパンなどとは生地が違う気がする。
食材などの持ち運びにくい荷物はレンタルしたバンガローに置き、まずは山へ散策に行くことに。
「蜂だ!」
「ゆっくり迂回しましょう」
「クマ!?」
「ここには生息してない筈……大きな着ぐるみ?」
原作のおつかい要素はサロマさんが秒で解決し、俺たちは山に足を踏み入れる。
「見たことない花!」
「それはシラネアオイね。森の妖精なんて可愛い呼び名もあるのよ」
「じゃあ、あっちの黄色い花は何かしら?」
「あれはキジムシロ。シラネアオイと違って色々な所に生えている花よ」
「へーそうなんですか」
女子たちは地面に目を落とし、度々立ち止まってはサロマさんに問いかける。彼女もまた好きな自然について触れられるのが嬉しいのだろう。にこやかに答えていく。
「ねーねーサロマさん! あの虫は!」
「きんぴかでスッゲーよな! カブトやクワガタ以外にもいんのかよ!」
「あれはコガネナナフシ。ニホンにしかいない珍しい虫よ」
「よっしゃ! じゃあ早速ゲット――」
「ダメよ熱斗くん。あれは絶滅危惧種。種の保存法といってね、勝手に採取しちゃいけないの」
「えー、なんでさ?」
「ただでさえ個体数が少ないのに、熱斗くんみたいな人間の都合で捕まえたら絶滅する恐れがあるの。もう二度と見れなくなっちゃうのは嫌でしょ」
「はーい……わかりました」
叱られてしょんぼりとする熱斗とデカオに苦笑いしたサロマさんは手を叩いて、注目を集める。
「ちょっと早いけど、そろそろ戻って昼食の準備しましょうか?」
「やった! バーベキューだー!」
「BBQ! BBQ!」
「現金なんだから熱斗はもー! デカオくんまで!」
「男子ってホント子供ね~」
そんなこと言って表情が緩んでいますよ、綾小路さん。俺も男子ですよ綾小路さん。俺は視界に入ってないんすかね綾小路さん。
「あっ、水色タンポポ」
足元にマジで花弁が水色のタンポポを発見。前世で桃色はあったが、水色は無かった気がする。ニホンで遺伝子組み換えでもされたんか、これ?
確か薬の材料になるとジャスミンが言っていたような。一応、頭の片隅に置いておこう。
「バーベキュー! バーベキュー!」
「こら川辺で走ると危ないだろう?」
「ダイスケくん……?」
キャンプ場に戻った途端、駆けだす熱斗にパーカー姿の青年が注意する。本日のメインイベント、幼馴染の再会である。
「……サロマか?」
「ダイスケくん久しぶり!」
おうおう。わかりやすく乙女の顔してらぁ。女子たちも突然の恋愛風景にキャッキャしてなさる。
「バーベーキュー……」
「BBQ……」
「こっちで火起こしなり準備進めておこうぜ?」
指を咥える男子共を働かせながら、サロマさんと青年――速見ダイスケさんの様子を横目で窺う。
「その……最近は忙しかったんじゃなかったかしら?」
「あぁ。何とかひと段落ついてね。息抜きにふらりと立ち寄ったらサロマがいるなんて驚きだよ」
「こっちの台詞! あれから全然返事をくれないじゃない!」
「ははは! すまないサロマ。お詫びと言っては何だけど、山菜のお裾分け」
「もう……」
完全にいじらしい乙女になっているサロマさんに対して、ダイスケさんは親戚の兄ちゃんばりの気さくな感じだ。まぁ、中学生相手に大人がマジになる方がヤバいだろうけども。
あっ、彼と目が合った。
「やあ。君もここに来てたんだね」
「ども」
「隠岐君? ダイスケくんと知り合いなの?」
「えぇ、一応は」
「何を言うんだ。君は僕の恩人さ。あのまま君に出会えてなかったら腐っていたところだ」
「えっと……何があったの?」
ダイスケさんがサロマさんと話すよりも嬉しそうだからって微妙に頬を膨らませないでください。普段とのギャップで『渡』が喜んじゃいます。
事情が事情だけに、メイルややいとに聞こえないよう声を潜めてダイスケさんは語る。
「彼との出会いは1ヶ月半前、仕事終わりに環境事務所から出てきた僕に声をかけて来たんだ。『徒労感で疲れてませんか』ってね。その時、機嫌も悪かったし図星だったのもあって、強く当たっちゃってね」
「それで……?」
「口論の末、ネットバトルになって――惨敗した。クイックマンのスピードと僕の頭脳をもってすれば誰も敵いっこないって自惚れが見事に打ち砕かれたよ。あの華麗なテクニックを目の前に、何度やっても勝てないって思い知らされたんだ」
そんな時間経ってないのにダイスケさんや、思い出美化されてませんかね?
俺がやった戦法って【マグネットライン】や【パネルアウト】で動きを制限したところに【バッドスパイス】、【ラビリング】なんかでハメ殺しただけなんだけども。
「そこで僕は洗いざらい白状した。あの海外マフィアである『ゴスペル』へ勧誘を受けたこと。もし入団すれば活動資金と力を貸してくれるってことも」
「『ゴスペル』!? 何で隠岐君に!?」
「小学生なんかにベラベラと話すことじゃないって僕でも思うさ。でも、あの時の僕は自然保護官としての活動に限界を感じていてね。彼にも『ゴスペル』にもその辺見抜かれていたんだろうね。
だけど、彼に白状したのは今でも正解だったと確信している」
「勧誘は蹴ってくれた……?」
「彼と出会ってなかったらどうだろうね? 正直、断れた自信は無いよ。けれど、彼が新しい道を示してくれたお蔭で僕は堂々とサロマと顔を合わせられた」
「新しい道? まさか……」
「君の想像通り自然保護官は辞職したよ。その代わりに会社を立ち上げたんだ」
「会社って……自然食の会社とか?」
「それじゃあ金にならないじゃあないか。もっと手早く稼げるモノだよ」
「ダイスケくん!?」
「あぁ、そうだ。IQ170を誇る僕が何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろうね。地道な保護活動も大事だけど僕じゃなくても誰かに任せられる。
『ゴスペル』の提案なんて論外! 短絡的に人間社会を破壊するだけしか能が無い奴らに自然なんて守れる筈が無いじゃないか。それにボスからの命令は絶対とかふざけてるよね。誰かからコントロールされてちゃ僕の望みは叶わない」
「嘘……嘘よ!」
「圧倒的な金で自然を破壊する奴らを黙らせる! 人が放棄した場所なんて幾らでもあるのに、わざわざ自然を破壊する愚か者共をわからせる為にも! 金が必要なんだ!」
「あの優しいダイスケくんが変わっちゃった!」
黒い笑顔を浮かべるダイスケさんと、レイプ目で膝から崩れ落ちるサロマさん。
……こんなつもりじゃなかったんだ。自然に触れて和やかな空気で再会を喜ぶ図を想像していたんだよ、俺は。
『あんなこと提案しといて虫が良くない?』
「いや……普通社会人なら中学生にそんなこと打ち明けんやろ……?」
『ワタちゃんに暴露したじゃん』
「それ精神的に余裕が無い時やん。今は顔ツヤツヤしてて希望に満ち溢れてたやんけ!」
『初対面から真面目で極端な性格してたけど?』
シアンの指摘に俺もまた頭を抱える。アホやらかした……!
でも合理的な相手を説得する方法が他に思いつかなかったんだ。
「ワタル~! サボってんじゃ……何やってんだ?」
「何か隠岐君を交えて話してたらこんな感じに……何やったの?」
全員から白い目で見られるが……甘んじて受け入れよう。
お通夜状態のサロマさんをダイスケさんと共に何とか励ましたものの、罰として肉は一切食わせてくれませんでした。
バーベーキュー台無しにしたからしゃーないけど……せめて俺が持ち込んだソーセージだけは許してくれませんかね? ダメ?
これでも原作よりハッピーなんすよね
モブは少なくとも目一杯キャンプ満喫しただろうし