オフィシャルネットバトラー――通称オフィシャル。
それは国公認の治安維持組織であり、一部逮捕権を持つといったエグゼ世界特有のヤバい組織である。
前世の警察でも色々なやらかしを報道で目にしてきた身として、その一部権限を委譲するとか正気かコイツら、としか思えないのだが……仕方ない部分が無い訳ではない。
ぶっちゃけた話、平和とされるニホンにおいても度々犯罪が見受けられるのだ。
WWW関連ほど大きな事件こそ珍しいが、小競り合いでネットバトルに発展してコンピューターの暴走、会社の上司にムカついて勤務先にウイルスをバラまく輩、街中にある監視カメラをハッキングして一目惚れした女の子を追いかけ回すといったストーカー行為などなど。
倫理観の欠けた奴らのせいで警察の手が足りなくなってもやむなし。ネットワーク関連に強い人材に一任するのも考えられなくもない。
ただ市民ネットバトラー制度、こいつはいただけない。
市民の皆様の意識向上云々を掲げているけれど、要は予備役みたいなものだしな。
依頼掲示板とかどう言い繕っても、やっている事が完全に下請けの下請けじゃねぇか。オフィシャルと違って特権こそ持ちえないが、自衛の域を完全に超えている部分もある。
オフィシャルだけじゃどうにもならない、と事実上の敗北宣言と捉えられてもおかしくない。
WWWの脅威が去り、表向き平和を取り戻したことで抑え付けられた不満が噴出したのも、その一助かもしれないけど。
具体的にはネットワークの制限――海外サイトへのアクセス権の緩和。
実態を知らない民衆への説明にもなるし、一定の実力があればデリートされたり、迷子云々でいちいち通報される手間が減るという狙いもあるだろうか。
後は海外マフィアを警戒するオフィシャルの対策措置の一面があるとも言えるか。
市民ネットバトラーに応募する段階で個人情報を登録、移動ログなどの閲覧許可を承諾せねばならない。
要は市民ネットバトラーになれば、オフィシャル側にその行動が筒抜けになるという訳だ。これだけで
さて長々と心情を吐露してきたけれど、本題に移ろう。
俺、オフィシャルになりました。
本来であればネットセイバー発足後、色々な段取りを踏まえて正式に就任するところを色々すっ飛ばしたのが現状だった。
そうなった経緯としては例の捕物――風吹アラシとその処理役を逮捕したことにある。
一般人である俺が身分を偽装、よりにもよって伊集院炎山になりすまして現場の指揮を執ったことが大きな問題となったのだ。
よくよく考えなくとも立派な犯罪であり、祖父と同じく前科者になっても不思議じゃなかった。
が、貴船総監一派の手回しによってその事実は握り潰されることになった。ネット警察と言えど一枚岩ではない為、ここぞとばかりに対立した警視監らに突き回されたらしいが、俺の挙げた功績と伊集院炎山の口添えが彼らを黙らせたのだとか。
巷を騒がせる海外マフィア『ゴスペル』の被害はゲームで描かれている以外にも様々な場所で相次いだ。
詳しくは俺の耳にまで届いていないが、今回の一件みたくその被害を最小限に収められたケースはかなり珍しかったらしい。
爆弾の威力を目撃したオフィシャルの証言によれば、あれがメトロ構内で起爆すれば人的被害もさるところながら、交通機関の機能が麻痺していたとのこと。
要はガチの大手柄。普通に表彰される功績だったのだ――オフィシャルの肩書があれば。
それに加え、ネット警察内においても発言力のある炎山が俺のことを影ながら支える補佐役だと証言したことで、形勢は逆転。
表向きには炎山と警視監一派のオフィシャルによって事件は解決。俺は応援に駆け付けたオフィシャルのひとり、という扱いとなり、話の落とし所として功罪打ち消しとなった。
平たく言えば、
国家ぐるみの場合は犯罪にならんZOY!
てな訳で俺は史上2人目となる小学生オフィシャル――とは広く公表されなかった。
やらかしもそうだが、御上は特例を嫌うものだ。それに『1人目』である伊集院炎山の存在も大きい。
ニホン国内に限らず、世界にもその名が広がっている炎山は広告塔として非常に優秀なのだ。
『唯一の小学生オフィシャル』という肩書も大きいところに、俺みたいな存在が露見してみろ。その価値がだだ下がるのが目に見えている。
よって俺はオフィシャル内部においても
まぁ、炎山みたく目付けられても大立ち回りできないし、ウラで活動する上ではオフィシャルの肩書が邪魔になるしな。こちらとしても好都合と言える。
閑話休題。
さてオフィシャルとなったからには責務が伴う。
とはいえぺーぺーの新米を事件に関わらせるほどオフィシャルは馬鹿ではないので、任されるのは簡単な雑務やパトロール、後は先輩について仕事を覚えるといったところか。
が、事情が事情なだけに俺へ振られる仕事は現状ゼロ。かといって遊ばせておく余裕の無いオフィシャルが命じた仕事はといえば。
『無駄にでっか……』
「無駄って言うのやめーや。職員近くにいるって」
現在オフィシャル本部1F、デカデカとした依頼掲示板の前に俺はいた。
とはいえシアンの言うことも強ち間違っておらず、電子掲示板を見上げなくともPETに依頼データを受信してしまえば用済み。デカいスペースを占領する程でも無いという意見には頷ける。
『え~と……【T社のウイルス増殖疑惑の調査】に【メインストリートの守衛】、【オフィシャル戦隊(仮)の人員募集】?』
「その辺は先輩たちの仕事だな」
シアンが読み上げるのはオフィシャル専用の依頼内容だ。
基本は市民ネットバトラーの依頼より困難で、守秘義務に関わる内容が多い。ネット警察からぶん投げられた仕事の手伝いといったところだろうか。最後の募集は毛色が違くない……?
先輩たちは仕事熱心なのか、表示した依頼は次々と消えて入れ替わっていく。ただオフィシャル戦隊(仮)は人気ねぇな、やっぱ。
「俺たちの依頼はこっち……塩漬け依頼だよ」
自由に受注できる関係上、不人気とも言える依頼が出てくるのも当たり前のこと。
例えば依頼の内容に対して報酬が少な過ぎたり、我儘な依頼主が結果に満足せずに何度も依頼してくるところだったり、怪しげでノータッチになっている依頼などなど。
そいつらを処理するのが本日の俺の役目だ。表向きオフィシャルとしてでなく、市民ネットバトラーとして動けるという点も上には都合がいいのだろう。
『じゃあまずこれ! 【仕事をください】?』
場違い感の半端ない依頼内容ではあるが、原作からして迷子の捜索から荷物の受け渡しなど『ネットバトラー』要素どこいった感があるから驚きはしない。
まぁ、いいさ。依頼主には小学生の姿を見せつけて自分が如何にアホなことを頼んだのか思い知らせてやらぁ。
待ち合わせ場所に指定されたのはリスの建造物が有名な秋原公園。
原作だとプラグインができたりできなかったり、色が黄色やピンクに変化したり、容量の問題でリス以外がデリートされたり、とブレブレな場所ではあるものの、実際目にしてみると特徴の無い普通の公園といった感じだ。
『えーと……あれじゃない?』
きゃいきゃいと走り回る児童やそれを見守る親御さんがいる中で、ぽつねんと立つ少女がいた。辺りを見回して誰かを探しているようだが、視線は下向きではないから保護者ではない。
友達との待ち合わせなら連絡でも入れる筈だから、そうでもなさそう。消去法として依頼主っぽい姿が他にないので彼女ということになるとシアンが判断したみたいだ。
てっきり、くたびれたオッサンを想像していたので早々にプランが瓦解したが、仕方あるまい。引き受けた仕事に責任を持つのが元社会人として当然のこと。
と、意気込むのも束の間、少女の姿を注視し――見覚えのあるビジュアルに硬直する。『4』で登場する人やんけ……!
「あの……【仕事をください】と依頼された方でしょうか?」
「そうですけど……小学生?」
歳は俺より少し上の中学生。紫の髪をツインテールにし、儚げで気弱そうな顔付きの彼女は
身に着けている継ぎ接ぎのブラウスやスカートからわかる通り、貧乏な暮らしをしている為にこのような依頼をしてきたという訳か。
「もしかして……小学生で社長!? わたしを雇ってくれるの!?」
「会社持ってないっす」
「そんな……! じゃあわたしをからかう為にここへ? あぁ、なんて不幸なの……! 不甲斐ないお姉ちゃんでごめんなさいアツホ……タイチ……!」
『テンションの落差』
よよよ、と崩れる彼女を珍獣を見る目で眺めるシアン。アクやらリアクションが強いけれど、事実不幸な人だから、その目はやめなさい。
原作だと両親を亡くして双子の弟の親代わりになっている家族思いのお姉ちゃんなんだよ。立派な人なんだよ、今は舞台役者ばりに泣き崩れているけど。
「オフィシャルに依頼する前に児童相談所へ行かれました?」
「ぐすっ……叔父夫婦がいるから支援は受けられないって……」
「あー……その叔父夫婦の養育義務が杜撰だったり?」
「高校までは行かせてくれるって言うけれど……それじゃあアツホやタイチが行きたい大学へ行けないじゃない!」
聞いている限りだと虐待をされている感じはなさそう。ただ裕福な家庭ではないなら、育ち盛りの3人姉弟はなかなかの負担になる筈だ。
だから彼女の願いは叔父夫婦にとっては贅沢になる、ってことだろう。
「奨学金制度がありますって」
「そんな負担、弟たちにかけられないわ……!」
「新聞配達のバイトは?」
「もうやってるわ……それでも足りないの」
奨学金も駄目、新聞配達も駄目となると、中学生の城戸さんに残された金稼ぎの手段は芸能界入りしかないが……向いてないんだよなぁ、この人。
ビジュアルだけならツインテールの似合う美少女だけあってか、そこいらのアイドルと引けを取らない可愛さがあるのは確かだ。
ただし、コネと時の運に左右される芸能界において、不幸体質はとんでもない逆風だろう。
薄い本展開になっても売れない芸能人のまま引退コースが目に浮かぶ。よって却下だ。
『うーん……後はオフィシャルに入るとか?』
「あなたは?」
『私はシアン! ワタちゃんのナビやってまーす』
「そう、よろしくね。でもアクアマンには向いてなさそうで……」
『シューねーちゃんの為ならボクがんばるっぴゅ!』
『きゃわわ』
城戸さんがPETを心配そうに覗き込むも、マスコット的な愛くるしさのある持ちナビ、アクアマンは頭から水を吹かせて気合を現している。その仕草にシアンがやられたみたいだ。
『ぬっへっへ……お姉ちゃんとイイコトしない?』
『こわいっぴゅ! シューねーちゃん……!』
『ああん、逃げられた』
何でいけると思ったんだコイツ。
とまぁ、人格データが幼いこともあって城戸さんの言う通り、オフィシャルに向いてないのだ。
初登場した『4』でも戦える力は持っているのだけど……電脳世界を水没させたからなぁ。アニメでも泣くだけで辺り一辺を大量の水で押し流したことがあるし。
オフィシャルにマークされてもおかしくない危険なナビなんだよな、アクアマンは。悪気が無いのが更に厄介な点だ。
だからアクアマンを売り出す路線も無しの方向で。
となると後は――
「という訳でこの人を雇ってください日暮さん」
「国際電話で開口一番なーに言ってるでマスか、隠岐くん?」
アニメのクソガバ路線に頼るしか思いつかなかった。
「そもそも! 今はヒグレヤを閉めてるのに雇って意味があるんでマスか?」
「ぶっちゃけ開店してすぐに店閉めたら客足途絶えますよ?」
「うっ……でも今後の為に必要なことなんでマス! このレアチップ探しの旅は!」
「今後も店を留守にする機会があるなら必要でしょう? なら店を任せられる人材が欲しい筈」
現在でも旅行に行けるくらい儲かっているし、何なら『4』で女子大生を雇うわ、後々彼女にレジ番やら店番を任せるくらいだ。少しばかり先取りしたってええやろ。
「中学生の……城戸舟子さん、でマシたっけ?」
「はい。精一杯がんばります……!」
「そこはかとなく不安を覚えるでマスし……何よりアッシの大事なチップを誰かに触られたくないでマス!」
テレビ電話越しのくせに、何か勘付いたなモジャ眼鏡。しかし、そう簡単に諦めんよ俺は。
「まぁ落ち着いてくださいよ日暮さん。何も商品を扱うことだけが仕事じゃないでしょう?」
「どういう意味でマスか、隠岐くん?」
「城戸さん、ビジュアルが良いでしょう? それこそメイン層である男子小学生にブッ刺さる少し年上のお姉さん属性ときた。彼女に煽てさせれば……売上伸びると思いません?」
「むむむ……」
「それに、日暮さんが離れている今でも宣伝の仕事はできるでしょう? リニューアルオープンの宣伝と共に彼女の顔を売り込むとか」
「むむむむむ……」
「帰国後の掃除、大変だろうなぁ。ある程度風通しておかないと建物にも悪いしなぁ」
「うぐぐ……中学生を働かせる訳には……」
「勿論、タダでとは言いません。引き受けてくださるのであれば、こちらをお譲りしますよ」
「そ、それは! レアチップの【テンジョウウラ】! ほ、本物でマスか?」
「別に疑うのであれば話は終わりです。教育に悪いから躊躇っていましたが、こいつ売っ払って城戸さんを助けるんで。では――」
「わー! 切るのは待つでマス! 雇うでマスから! そのチップはアッシに……!」
「わかりました。詳しい話はメールでやり取りしましょう」
「もう一度【テンジョウウラ】を! 見せて――」
言質を取ったので通話終了。国際電話高いからね、仕方ないね。
「オーケーもらえましたんで、これで良いっすか?」
「ありがとうっ!」
「ほわっ!?」
依頼主に確認を取った瞬間、感激したらしい城戸さんに思い切り抱きしめられる。突然のことで目を白黒させている内にも身体前面に柔らかい感触ががががが……!
かなり細い体型なのに骨の感触が全然しねぇ! 自己主張の謙虚なお胸も……アカンアカン。
『渡』が目覚める……母性や人肌に飢えているのも伝わってくるから拒み辛い! だけど自分から腕を回すのもイカンですよ!
「そ、そろそろ離してもらえると」
「ごめんなさい! つい嬉しくて!」
抱擁から解放された後も心臓がバクバクいってんのに、心は穏やかだ。あ、頭がバグる。
つーか、無意識でこの行動はヤバい。アニメでも熱斗と距離近かったし、年下男子は弟みたいに思っているのか、この人?
下手したら来客した男子小学生の性癖が悉く破壊される……!
「こういう事を言うのは何ですけど……他人を抱きしめたりするのは良くないですよ?」
「ふふっ子供なのに気にして……かわいい」
完全に子供扱いされてて聞いちゃくれねぇ……。ふふってかわいっ。とイカンイカン。思考を乱すな。
とにかくヒグレヤを再開するまでまだまだ時間はある。それまでに改善させよう。
でもまぁ、今日はこれくらいで良しとしよう。依頼もまだ残ってるしな。
「じゃあ俺はこの辺で」
「ありがとう! 報酬はこれ! お肉屋さんの割引券ね!」
しょっぱい報酬には目を瞑る……あっ、期限切れてらぁ。
『次は【ネットバトルを教えて】だって』
「文面はまともだったんだけどな、文面は」
内容もまともであれば俺に回ってくる事は無かった訳だが。
ヒグレヤを後にした俺が向かったのは、古い住宅が並ぶエリアの一角。つーか町内会の知り合いの家だった。
「なんじゃい小僧。何しに来おった?」
「お前の依頼受けたんだよクソ爺」
昔ながらの防犯意識の低い引き戸から顔を出したのは
ウチの祖父とは歳が近いのに、清潔感が段違いである。比べるべくもなく、祖父の圧勝である。
「つーか何度目だよ、ネットバトルについて教えんのをよ」
「ハンッ! 小僧の教え方が悪いんじゃい! そもそもなーにが楽しんじゃい、ネットバトルなんぞ!」
「お前から頼んできて何言ってやがんだクソ爺」
「コウスケが『爺ちゃんとネットバトルがしたい』なんてせがんでくるから渋々やっとるだけじゃわい」
「その度挫けてんじゃねぇ。孫が可愛くねぇのか」
「なにおう! こうなったらベイブレードで勝負じゃ!」
「ホビーアニメみてぇな思考回路してんじゃねぇよクソ爺!」
話だけでは埒が明かないということで、渋々高速回転ホビーで対決することに。
毎度のことながら俺がベイを所持していないというのに、何故勝負を挑んでくるのだろうか。布教活動か、こいつ?
クソ爺の顔を拝むよりコロコロ読んだ方が宣伝になるわマジで。
「「3・2・1! ゴー、シューッ!」」
今回は爆転世代から選出という訳で、俺はウルボーグMSを選択。ベアリングによるフリー回転軸を搭載しているお蔭で圧倒的持久力を発揮し、アタックリングはアッパー構造となっているので受け流し効果も抜群。
はっきり言って世代最強と言っても過言じゃないガチのベイブレードだ。
に対し、クソ爺が選んだのは初期型のトライグル。軸先に強力なバネを搭載しており、相手と衝突することで解放され、相手を持ちあげるようにしてアッパー攻撃を仕掛ける、といったコンセプトのベイブレードなのだが。
相手とぶつかった時にはどちらもその反動で離れており、トライグルのみジャンプしてスタジアムから投身自殺するのも珍しくない、クソザコベイブレードの内のひとつである。
「勝負を捨てたかクソ爺?」
「勝負ってぇのは最後までわからんもんじゃぞ、坊主」
ニヒルに笑った次の瞬間、ベイ同士が激突。重量差によってトライグルが大きく弾かれ――る筈がウルボーグMSの方が押し負ける。
「油断したな坊主! 散々馬鹿にしおった坊主への復讐の為、トライグルは生まれ変わったのじゃ!」
「何ィ!?」
クソ爺の皺だらけの手に握られたスイッチが押し込まれた途端、トライグルが俺の頭上を越えて高く跳ぶ。
「空中姿勢制御装置、相手を捉える小型センサー搭載のトライグルによる空中からの奇襲受けてみよ!!」
嗄れ声と共にトライグルが空中から飛来、ウルボーグMSは無防備を晒すビットチップに被弾し、大きく体勢を崩す。そしてトライグルはウルボーグMSを踏み台にして再び空中へ――そのままスタジアムに戻ってこなかった。
そら不安定な足場ならどこに跳ぶかわからんわな。
「俺の勝ちだな。約束通り、ネットバトルやんぞ」
「くっ、何が足りなかったというんじゃ」
「お前の頭がだよ」
とんだ余興に時間を食ったが、ここからはネットバトルの時間だ。
前回までは無敵効果のあるタップスピンのゴリ押しを矯正させたところで終わったからな。今回はリトルスピナーの効果的な運用方法だ。
できればチップによるサポートの重要性も実感させたいが、一度に詰め込んでも覚え切れないのは把握しているからな。
「ほら画面のコマだけじゃなくてお前の頭も回せ回せ。がむしゃらに攻撃しねぇで相手の動きを予測しろ」
「スタジアムアウトじゃ! 坊主の負け~!」
「ネットバトルに場外なんてねぇんだよ。遠距離に無力な自分を恥じろボケ!」
『じょ~い……』
『タップお爺ちゃんも大変だねぇ……』
依頼? 勿論、クソ爺が気に食わなかったと言うので失敗よ失敗。俺ならともかく、他の人たちにまでこんな態度取ってたら碌な最期迎えねぇぞ、クソ爺。
「かぁーっ! 二度とやるか、こんなもの!」
「おう。コウスケ君に頼まれたらまた来てやるよクソ爺」
『ツンデレ』
ツンデレってぇのはもっと可愛げのある言葉だから。言葉は正しく使おうね、シアン。
陽もすっかり傾いて地平線からじわじわ藍色がやってきた頃。
俺はこの日最後に受注した依頼の為、シアンをタウンエリアに向かわせていた。
タウンエリアはデンサンシティにある店のホームページが集中しているエリアで、商品を購入する前に調べたりするのに最適だと言われている。
店側としてもレンタルサーバーへのアクセスポイントが複数設置されているなんかで利用する人が多いのだとか。
今回の集合場所として指定されたのは前世でいうところのクラウド、電脳世界の貸し倉庫といった感じか。
『いらっしゃいませ☆ ってシアンちゃん?』
『ソプラノちゃん? ウラ以外で会うのは初めてだね!』
データですし詰め状態のスペースで出迎えてくれたのは、まさかのソプラノの姉御である。
今日の衣装はマーメードを意識したアイドル衣装っすか。出会う度に違う恰好しているけれど、どれもこれも手が込んでいるので恐ろしい限りだ。彼女のオペレーターであるマスターさんの本職がこれでデザイナーじゃないってのが尚恐ろしい。
『確か依頼内容は【あの子に勝ちたい】だっけ?』
『あたしもマスターも迷走しちゃって☆ だから他の人の意見も聞きたいなって思って☆』
「姉御でも勝てない相手って誰だよ……」
『姉御って言うな☆ ソプラノちゃんって呼べ☆』
思わず失言してしまった。失敬失敬。
でも圧のある微笑みを前にソプラノちゃんって気軽に呼べねぇよ。ソプラノちゃんさんが限界だよ、俺には。
「うっす。で、誰に勝ちたいんです?」
『ジャワイが生んだバーチャルアイドルのAKI』
珍しく満面の笑みを崩して姉御の口から紡がれたのは、アニオリのキャラだった。
うん、そら勝てんわ。現実世界にいる男女問わず、電脳世界のネットナビすら魅了し、朴念仁の熱斗でも「可愛い」と評し、あのロックマンですら一目惚れに近いものがあったしな。
『AKIちゃん凄いよねぇ。ニホンでもミリオンセラー連発してるし』
『でも、その要因があたしにはわからないっ☆ 歌も特別上手い訳じゃないし、ダンスだってキレがある訳じゃないっ☆ でも現実には新人賞を総なめっ☆』
姉御とはジャンルが違うから悔しがっても仕方ないんじゃ、という言葉は命が惜しいので飲み込んでおく。
とはいえ、姉御の意見には完全に同意するが。
エグゼ世界の住人は口を揃えてAKIを称賛するが、俺が転生者ということもあってか、その良さが理解できないのだ。
まずビジュアルだが、元から画風が違う。
アニメからしてひとり3Dで浮いていたが、こちらでも二次絵とも言い表せない何とも言えない違和感が拭えないのだ。
そもそもエグゼ世界のビジュアルを現実として受け取っている俺の頭がおかしいって? 転生してから数日で深く考えてもしゃーないから潔く受け入れましたとも。
今回も受け入れろ? いや~キツいでしょ。
次にボーカル、歌声だが地下アイドルとどっこいどっこいってレベルだと個人的には思う。
まぁ、この辺の評価はべた褒めする声が無いので、一般からそこまで価値観が離れていないと思いたい。
そしてダンス。簡単だから誰でも真似できる利点があるんじゃないっすかね。素人だから良くわかんね。
キャラとしては万人受けする素直系。クセの強い姉御より売れる理由はこの一点で理解できるぜ。
『ソプラノちゃんにはソプラノちゃんの良さがあるよ! それを伸ばしていけばいつか!』
『慰めはいらない☆』
『後追いしたって追いつけない。でしょ?』
『シアンちゃん……そうだねっ☆ あたしじゃ逆立ちしたってAKIになれっこないっ☆ なら自分を見つめ直さなきゃ☆』
ふわっとした理由で立ち直る姉御だけど、何も解決してないのにそれでいいんすかね?
まぁ、理詰めタイプじゃなくて感情で動くタイプっぽいから自分で納得できるのであればそれで良いのだけれども。
『んじゃ☆ せっかくだし一曲聞いてく? サービスしちゃう☆』
『私は「プラグアウトは突然に」が聞きたい!』
『えーっ☆ 迷走してた時の曲なんだけどなっ☆ しょうがないなー☆』
題名こそラブ・ストー……げふんげふんのパチモンのくせに、歌詞やメロディーは全然違うし、結構良い曲なのだ。姉御にしては珍しいバラードで心に沁みる程でも無いけれど、耳が心地いい。
ファンだの何だの勝手に言われているが、いつの間にか応援したくなる気持ちになるのが姉御の魅力なのかね。
マスターさんからも依頼達成の許可をいただいたので、報酬を貰えることに。
ちなみに……『ソプラノちゃんをライブに招待する権利』だそうです。
まぁ、
息抜き回はこの辺にして、次回からシナリオ進めます