HPはまだ残ってる。ここを耐えればシャドーマンに勝てるんだから!
依頼を精力的にこなすこと数日、多忙でスケジュールがみっちみちに詰まった光祐一朗博士とのアポが取れたと連絡があったので、急遽科学省へ赴くことに。
単なる小学生風情が重要人物とアポ取れたのも貴船総監や炎山のコネ様様である。
エレベーターでハッキングパパの研究室のあるフロアまで運ばれ、そこから数分かけてようやく到着だ。
広過ぎて尿意を催したらヤバいかもしれん、といった邪念は頭の隅においやって扉をノック。
「失礼します」
「やあ。こんな恰好で失礼するよ」
PCでタイピングしながらもこちらに顔を向ける光博士の顔は発言した通り、随分なものだった。
髪は乱雑に乱れ、目元にクマがくっきり浮かんでいるのに瞳がギンギンに輝いており、無精髭は伸びっ放し。白衣はヨレヨレで、その襟元にはソースか何かの跡があった。
恐らく食事も杜撰にしていたのだろうと容易に察せられた。
「君は隠岐くん、だったね。あの隠岐さんのお孫さんだったとは驚きだよ」
「家族なのにこちらも知ったのは最近なので似た心境ですよ」
「だからかな。現実世界に電脳世界の物を持ってくる、なんて突飛な発想が出てくるなんて」
「まぁ、そのアプローチ手段をまるで考えてないんでガキの妄想に過ぎないっすけど」
促されるまま応接用のソファに腰かけ、未だ手を止めない光博士に本題を切り出す機会を窺う。
「そういえば……熱斗と同じクラスらしいね。どうだ熱斗は元気でやってるか?」
「そう思うのであれば実際に会ってあげればどうです?」
「情報漏洩の面から関係者以外を招くのは良い顔されなくてね。これでも頑張って時間を作ってはいるんだけどね」
原作、アニメ両方知っている身とすれば、マジで説得力の無い台詞である。熱斗だけなく、いつもの4人を割とホイホイ招いていただろ、お前ェ。
「それで……話というのは名人伝手に頼まれた『ゴスペル』によるアジーナ襲撃の件かい?」
「えぇ。本題は他にありますが」
「そうか。なら順々に話していこうか。まず大前提としてオフィシャル側にその話は通してあるかい?」
「裏が取れてないから保留のままですね」
「それを飛び越えて私に頼むのは越権行為となる。わかるかい?」
「そうですよね……」
「たとえ善意で警告を送ったとしても相手国を刺激しかねない。大国アジーナはネットワーク技術に自信を持っているからね」
案の定、至極全うな理由で断られる。駄目元なのは承知の上、アジーナスクエアが壊滅される未来を避けるべく提案したけれど、結果はこれだ。原作通り、アジーナは『ゴスペル』に潰されて終わるだろう。
後は個人として動くしかないが、それでは勝算が低過ぎる。
襲撃者――『ゴスペル』に傭兵として雇われたシャドーマンは、原作だとたった1体でアジーナを潰してみせたのだ。
俺とシアンでも勝てない可能性がある。ドリームウイルス戦で設定や描写を軽視すればどうなるか身をもって経験させられたからな。迂闊に動くまい。
仮にシャドーマンを打倒できる実力があったとしても、シアンとの戦闘を避けて他の命を奪いに行く事は容易に想像できるし。他者を守りながら戦う経験なんぞ皆無だから、その隙を突かれてやられてもおかしくない。
熱斗やデカオに応援要請を送ることも考えたが……それでも不安が残る。
ガッツマンだと搦め手上等のシャドーマン相手には相性が最悪だし、厨性能のロックマンと言えど『2』最大の目玉要素であるスタイルチェンジを発動していない場合は勝てないとハッキングパパが明言していたしな。
スタイルチェンジ――それは今までの戦闘経験を元にしてロックマンが変身するシステムのことだ。
例えばバスターをガンガン多用するバトルスタイルであれば、ガッツスタイルとなり、バスターの威力が倍になり、スーパーアーマー機能が付与されることでのけ反ることなく戦い続けられる。
防御系や補助系チップを多用し、ノーダメージの戦闘が多い場合はシールドスタイルとなり、左+Bボタン入力でシールドを展開、ファーストバリアも付与される。
複数のチップを同時に選択したり、ADDや
最後にナビチップを多用する場合はブラザースタイルとなり、ナビチップをフォルダに入れられる数が8枚になる。
そこにランダムでそれぞれ4属性が追加され、弱点属性ができる代わりにチャージショットが変化し、専用チップなんてものも存在した。
ヒートはマグマパネル無効、チャージショットは3マス先に届く火炎放射に。
アクアは氷パネルで滑らなくなり、チャージショットが溜め撃ち速度が速いバブルショットに。
エレキはこれといった効果は無いが、チャージショットが麻痺効果を持つラビリングに。
ウッドは草むらパネル上で回復効果を発揮、チャージショットは連続ヒットするコガラシに。
専用チップに関してはヒートが地を這う全体攻撃、アクアが敵を凍結させるボム、エレキがHPを消費した分が威力に変換される電撃を周囲1マスにまき散らし、ウッドが同時に選択したチップの攻撃力を吸収するぶっ壊れのワイドソードといった感じか。
隠しスタイル? 条件がアレなので、今回は省略してええやろ。
ちなみにアニメ版だとヒートガッツ、アクアカスタム、エレキブラザー、ウッドシールドで固定されており、熱斗の好きなタイミングで切り替え可能のチートだった。200戦の苦しみを味わわなかったチート野郎め。
ヒートガッツは攻撃力、防御力上昇に加えてゲームだと使われなかったパンチ攻撃が強い。
アクアカスタムは消耗が激しい代わりにチップ1枚でP.A.発動とかいうぶっ壊れ。
エレキブラザーはエクステンションチップとかいうアニオリ要素で他のナビと合体。
ウッドシールドはシールド君が空気で、コガラシが主。他のスタイルに比べて地味。
アクアカスタムがぶっちぎりでおかしなことになってはいるけれど、アニメ的には強さがわかりやすいヒートガッツや、仲間の力を借りる展開に持っていきやすいエレキブラザーは描写しやすかったんやろうな。
閑話休題。
長々と説明したが、原作でシャドーマンを倒せたのはスタイルチェンジありきだったのではないか、という疑惑が頭から離れないのである。
時系列的にちょうどシャドーマン戦前にスタイルチェンジが発動するし。まぁ、ゲームのシステムで元のノーマルスタイルに戻すことも可能だけれども。
じゃあスタイルチェンジを先んじて発動可能にすればいいって?
それには『チェンジ.bat』なるプログラムが必要で、そいつはアジーナの国宝としてアジーナスクエアの奥に保管されているという。
アジーナがシャドーマンに滅ぼされる→次の標的はニホンに→それを偶然いち早く知った熱斗がハッキングパパに伝えると、このままじゃロックマンは勝てない。強化には『チェンジ.bat』が必要→それを探しに行くって流れっつう。
つまり――火事場泥棒みたいな真似するんすよ、ゲームの主人公コンビ。
彼らもヤバいが、しれっと『チェンジ.bat』の場所がわからない、と予防線引いている奴がいるんですよ。光祐一朗とかいうサイコパスが、ね。名前知っている時点で他国の国宝だと知らない訳ねぇだろ。
といった感じでガバにも程がある展開を起こすロックマンエグゼ2に対し、アジーナに恩売って国宝の貸与かコピーを許してもらう、みたいな浅知恵しか思い浮かばなかったのが俺である。
『3』にて国宝が返還されたとはいえ、ロックマンが盗んだことも許されていたみたいだし、何なら国宝コピーしてバラまいたハッキングパパを糾弾しなかったアジーナの方がおかしいんや。俺でも甘い期待するわ、こんなん。
「無理言って申し訳ありませんでした」
「わかってくれるならそれでいいよ。単に君が情報に踊らされていた可能性もあるし、何よりアジーナのセキュリティレベルはトップクラス。余計な心配だと私は思うよ」
子供を宥めるように光博士がそう言う。雷とかを過剰に怖がる子供みたいに見ているのだろうけど、笑いごとじゃねぇんだよな、マジで。
「アジーナの件はこれでおしまいとして……本題があるんだっけ?」
「えぇ。コトブキスクエアについて話があります」
「コトブキスクエア……比較的最近できたスクエアのことだね」
コトブキ町――デンサンシティの郊外にある住宅地で、これといったシンボルマークは無いけれどベッドタウンとして期待される部分もあるらしい。
『2』しか登場しないから、それ以降どうなったか知らんけど。
まぁ、そんな住宅地から作られたのがコトブキスクエアなのだが、その実態は『ゴスペル』の隠れ家として利用される場所だったりする。
「そいつがどうもきな臭いようで……そちらへアクセスしたナビの様子がおかしいなどという報告がありまして」
「様子がおかしい?」
「なんでも平和だの何だの呟いてそのスクエアから離れなくなったとか」
「それだけならば主義主張が変わっただけにしか思えないね?」
実際目にしたことの無い光博士は軽くそう言うが、コトブキエリアの時点で割とカルトっぽい雰囲気あるから近寄り難いんだよな、あそこ。
デンサンシティの人たちは平和ボケでもしているのか、利便性しか目がいかないっぽいし。
まぁ、プレイ当時の俺もバグのかけら交換所を喜んで利用する場所にしか思ってなかったから、人の事が言えないかもしれんけども。
他所からやってきたナビがスクエアに留まっている内に、言動がハッピーなことになっていく様子が地味にホラーなんすよ。
「まぁ、そう捉えますよね。裏取りもしてないんで、俺が直接調査に行きます」
「それで私に頼みたいというのは?」
「俺のナビがコトブキスクエアに行く前の状態を把握してもらいたいんです」
今回、光博士へ頼みたいことというのはコトブキスクエアにアクセスすることでシアンが洗脳されるかどうかの確認、ということだ。
ぶっちゃけ彼女に対して非人道的な行いに見えるが、コトブキエリアの連中、自由を掲げるせいかオフィシャルの勧告も無視するし。体当たり的な方法の他に有効的なのが思いつかなかった。
最初は適当な一般ナビ君を購入して潜入させるつもりだったのだが、シアンの奴が「浮気だ」と駄々をこねる為、こうなった。
自宅警護用のデススティンガー弄っている時も膨れっ面になるし、本当に何なんだコイツ。
「アクセスした後と比較したいという訳だね? それはわざわざ私で無くとも名人に頼めばいい筈だ」
「名人さんには別件でお願いしている事があるんで気が引けるんすよ。それに科学省なら見落としが少なくて済むでしょうし」
「君は余程の心配性らしいね」
「まぁ小学校ジャックされるわ、友達と下校してたら誘拐されるわ、ファイアプログラム持ってるだけで身柄まで要求されるわ、で色々ありましたから。警戒して損は無いんですよ」
光博士から苦笑いが漏れるが、むしろ呑気に構えている方がおかしいと思うんだ。
『2』終盤にて熱斗が「ちょっと危ない目に遭ったけど」などとほざくが、完全にハッキングパパの遺伝だろ。危機意識が欠如してるだろ。お前の育て方どうなってやがる。
「わかった。大した手間でも無いし、今すぐ始めようか」
許可も得たので、検査用のPCにプラグイン。早速シアンの状態をフルスキャンしてもらうのだが、みるみる内に光博士の顔が険しくなっていく。
まぁ、うん。赤い警告文と共にエラー音とか鳴っているし、明らかにやべぇのは俺でもわかる。が、何が原因なのか心当たりが無い。知らない内に偽装されたダークチップでも使った? でもMAXHP減ってないけど?
「これは……まさか、信じられない」
「何があったか説明いただいても?」
「君のナビは何なんだ……検出されるバグが多過ぎる」
「は……?」
「これだとまともに歩くこともできない筈。人格データも滅茶苦茶だ。チップシステムだけが正常だというのが逆におかしく見えるレベルだよ」
光博士からもたらされた事実は到底信じられないことだった。
シアンがバグまみれ? そんな訳があるか。シアンドッグ(仮)をカスタムして以降、簡単なメンテナンスしかしていないのに、バグる要素がどこにある?
大体、オペレートしていて不自然な挙動は無かった筈だ。唯一備えたバリアだって正常に機能していた。おかしな点なんて――
「シアン、いつからだ?」
『
始めから異常であるのなら、それが異常だと気が付かない。
いや、しかし、それならシアンはどうやって動いている……?
「私の推論にはなるが聞くかい?」
「えぇ」
「一口にバグと言っても悪いことばかりじゃないんだ。原理は不明だが、想定以上の結果を働くパターンが見受けられることもある」
「そうっすね」
前世のFF3の飛空艇の高速化なんかはファミコンのスペックを超えることしていた、というのはゲーマーでは有名な話だ。
原作のエグゼ2にしたって『スタイル合体バグ』とかあるしな。『ミステリーデータ復活バグ』と『プリズムコンボ』は仕様が悪さしただけの話。
「良い効果と悪い効果が不具合が出ないレベルまでそれぞれ相殺し合った。それなら説明がつく」
「いやいやどんな確率でそんなことが――」
「『究極のバグ融合体』、その言葉に覚えがあるかい?」
出し抜けの台詞に思わず肩が跳ねる。そんな俺の反応を見て、光博士は得心がいったのか訝しんだ表情でこちらを睨む。
「君も知る風吹アラシや他の構成員から聞き出せた情報のひとつが『究極のバグ融合体』という単語。その実験作が君のナビというのであれば、筋が通る」
おいおいおい……まさか俺を『ゴスペル』だと疑ってやがるのか!?
確かに確率の話で言えば、その話は頷ける。だが、シアンドッグ()を作ったのは正真正銘、俺ひとりだけだ。
俺が知らない間に祖父が介入した可能性は否定できないが、彼の言動や性格的にゴスペルに与する事はあるまい。あえてバグを仕込むなんて真似も絶対しない。
後は部外者だったシアンが悪さした可能性だけが残されるが――それも無い、と信じたい。
原作の時系列からして『ゴスペル』が本格始動するのは『1』が終わった後だ。それまでの『ゴスペル』には『究極のバグ融合体』を生み出す目的なんてありはしない。
それに
「いやいや……俺がオフィシャルなのはご存じでしょう? その際、身辺調査は行われてますって」
「オペレーターはそうだろうね。だけど、ナビの調査は軽いものだ」
「シアンは自立型じゃない。それは今のスキャンでわかる筈です」
「あぁ、そうだね。でも、別の誰かがネットナビを通じて判断能力の無い子供を操っているとしたら?」
「俺のPETに行動ログが残っています」
「掲示板などで暗号を用いれば情報のやり取りは可能だろう」
物語終盤ばりの名推理やめろや。
シアンを庇う度に疑いの目が強くなるし、状況は悪化する一方だ。このままだと拘束される恐れがある。
そうなった場合、ガバのまま被害が広まっていくロックマンエグゼ2の展開が世界にお披露目されてしまう。それだけは絶対に許されない。
原作をぶち壊す為に今まで頑張ってきたことが、ハッキングパパのせいで水泡に帰すなどあってはならない。
いや、まだだ。諦めるな。光祐一朗は俺と違って『ゴスペル』の全容を把握している訳じゃない。
現状出揃っている情報で推理しているだけに過ぎない。彼の知らない情報をぶち撒ければ活路が開けるかもしれない。
裏取りされていなくとも、その価値があると思い込ませれば、いける。
「仮に。仮にシアンが関係者だった場合」
『ワタちゃん!?』
「こうして身元を明かすメリットが無い筈です」
「いやそうでもないよ。ここで容疑の目を潜り抜けてしまえば後が動きやすくなる」
「今こうしているだけでも躓いているのに?」
「あるいは『バグ融合体』の強さを誇示したいのかもしれない。WWWを打倒する一助になれる強さを」
「はっきり断言できます。シアンの性能はそこまで高くないです。チップの回転に特化させてるだけで他の数値は普通の域を出ない。特殊能力を備えている訳でも無いし、ぶっちゃけオリジナルナビの中では完成度の低い方でしょう」
『めっちゃこき下ろすじゃん。泣くよ?』
「でも実際にはあの炎山君が認める程だ」
「それは…………まぁ。俺の事っすよ。シアンの事はアホだと言ってました。俺もそう思います」
『ひっど!』
「でも、底抜けに良い奴です。それだけは間違いない」
「巧妙に演じているだけかもしれないよ?」
「それはないです。断言したっていい。貴方にだって言わせない。シアンは……俺を何度も助けてくれた相棒はそうじゃないって証明してみせる」
感情論なんかで光博士の疑いは晴れない。が、今はそれでいい。証明の機会が与えられれば、それで。
「一体どうやって?」
「シアンが『ゴスペル』関係者であるなら必ず接触を図ってくるでしょう? コトブキスクエアなら猶更です」
「……そこに話が繋がってくるのか」
「そこには有益にならないバグのかけらと貴重なチップを交換してくれる奇怪なショップがあるんですよね。それに、会員制の場所からウラに繋がる、なんて噂もあったりして」
今まで小学生の妄言として片付けられた情報が、俺たちを疑っている今のタイミングならば無視できないだろう?
誘導されるとわかっていても、罠だとしても敵に繋がる情報が得られると期待する筈だ。
「つまり君たちを泳がせろと?」
「えぇ。その間、俺とシアンはオフィシャルの人間やナビに接触しません。現状、大した情報を持っていないのは貴船総監に確かめてもらえばわかるかと」
「スパイでは無い、と言いたいんだね?」
「今は信用してくれなくても構いません。その代わり、重要な手がかりを手に入れた暁には……わかってますよね?」
「……少なくとも君が判断能力の無い子供では無いことはわかったよ。現状、私たちに危害を及ぼすことも無いのもね。そこまで言うのであれば、君には頑張ってもらいたいね。息子の友人をこれ以上疑いたくはない」
最後に漏れたのは本音なのか光博士は表情を和らげてそう言った。
「じゃあこのサイバースーツは渡しておきます。オフィシャルの権限を剥奪したかったら、そちらから本部へ連絡どうぞ」
「思い切りがいいな……で、どこに行く気だい?」
「勿論、証拠集めっすよ」
科学省を後にした俺は監視役として派遣されたオフィシャルのオッサンを引き連れ、メトロラインを利用しておくデンだにへ。
まっすぐキャンプ場へ向かい、妙齢の女性へ手当たり次第に話しかけていく。
「こんにちは。今、お話いいですか?」
「突然どーしたの君? 後ろにいる人は……お父さんじゃないよね?」
「ほら怪しまれてますよ。オフィシャルのコード出して出して」
「なんて子供だ……」
「手柄、欲しいでしょう?」
「ええい仕方あるまい!」
オフィシャルの権限(他人)を利用して話を聞き出すことしばらく――8人目にして当たりを引き当てた。
「――『チェンジ.bat』? 確かメル友が知ってるかも」
「その人、どこにいるかわかります?」
「確か……コトブキスクエアを出入りしてるって言ってたなー」
「その人のナビ、どんな顔してるか画像か何かくれませんか?」
「いいよー」
オフィシャルの信用が高いからか、彼女のネットリテラシーが低いのか知らないが知りたかった情報をゲット。後はコトブキスクエアに行って、目的の人物と会うだけだ。
すぐさまトンボ帰りでメトロに乗って、今度はオフィシャル本部へ向かう。
一般市民でもオフィシャルスクエアに直接アクセスできるのはガバセキュリティだと思うけれど、今は気にしない方向でいく。
オフィシャルエリアを経由してコトブキエリアに。前世でクイックマンV3にボコられたトラウマが蘇ったものの……ハードモードをクリアし、アドコレでボム系縛りをしていたオッサンの俺なら大丈夫、大丈夫。
そして今世初となるコトブキスクエアに踏み入れた感想としては……案外普通に見えた。
一部「ヘ・イ・ワ」と連呼するカルト集団もいるが、やっていること自体に害は無いからか警戒されていないらしい。
「シアン。どんな感じだ?」
『うーん……身体がちょっぴりザワザワする感じ?』
感覚的な話でオペレーターの俺には良くわかんね。ただ原作の描写から一般ナビでも影響が出るまで時間がかかるし、探索する時間くらいはある筈。
かれこれ10分ほど探し回るもそれらしいナビは見当たらず、一旦出直そうとしたタイミングでお目当てのナビを発見。
『こんにちは』
『あぁ、こんにちは』
ゲームと違ってニホンでは見慣れないデザインの一般ナビにシアンを接触させてみると翻訳プログラムが起動する。言語はアジーナで主流に使われるものだ。
『ちょっとお話しませんか?』
『あぁ、いいよ』
『ありがとうございますっ。それでおにーさんはアジーナから?』
『うん。居心地いいからここに移住しちゃおうかなー、なんて』
会話を続けながらシアンにさりげなくオフィシャルのオッサンのナビがいるところまで誘導してもらう。しっかし、こいつナビと仲良くなるの早ぇな。ニホンに限らず、野郎は美少女のツラには弱いのか? ネカマ天国じゃん。
『ところで記念に何か交換でもしませんか?』
『交換? チップとかかい?』
『例えば~……国宝のカギデータとか』
シアンがカマをかけてみれば――相手の反応は劇的だった。デレデレとした表情から一転、敵意を滲ませるも動きは鈍い。
『ほい』
『うげっ』
だからシアンの足払いが簡単に決まり、パネルに転がる一般ナビ。
『おじさーん』
『現行犯逮捕であってくれ……!』
そして姿を隠していた警察官モチーフのオフィシャルのナビが防犯プログラムを発動。指定したパネルにプラグアウト阻害効果を付与する、犯人の逃亡阻止に用いられるものだ。
尚、欠点として即時発動ができない為、実践では役立たずに終わる事が多い模様。
『じゃ、お話続けよっか』
『くそっ、離せ!』
『こりゃあ本当にホシを捕らえたみたいだな……』
スクエア内では原則戦闘行為禁止となっている為、一般ナビは碌な抵抗もできずにオフィシャルに押さえつけられたままだ。
……手錠プログラムなんてものもあるんすね。一体どこまで再現しとるんやろか。
『「チェンジ.bat」知ってるよね、おにーさん?』
『さぁ、知らないな?』
『トボけるの下手だねぇ。アジーナのナビなら知ってて当然じゃない?』
『うぐっ、慌ててただけだ! 「チェンジ.bat」に繋がる情報を知らないって言いたかったんだ!』
『ふーん。じゃあ、大人しく持ってるモノ出してくれる?』
『……横暴だ! こんな狼藉許される筈が無い!』
『おじさーん。このナビの顔写真と一緒にオフィシャル本部にメールしてくれる? アジーナに向けて「国宝のカギデータの確認を今一度お願いします」ってな感じで』
『あいわかった』
『やめろォ! やめてくれェ!』
犯人イジメるの楽しくなってきているのか、ノリノリだなオフィシャルのナビさん。
実際は国際問題の火種になりかねないのでポーズでしかないのだが、余程慌てているのか一般ナビはすっかり信じ込んでいるみたいだった。
『じゃあカギデータ出して。早く』
『これじゃあ、どの道変わらないじゃないか!』
『そうでもないよ? 私たちに協力してくれるのなら国際テロリストにまではならないし』
『は……?』
『「ゴスペル」に潜入の手引きしたのも、おにーさんでしょ』
『どこまで、知って……』
あまりの衝撃に本音をポロッと漏らした一般ナビが咄嗟に口を塞ぐも時既に遅し。そのリアクションだけで白状したようなものだ。
しかし、今回ばかりはご都合主義バンザイと諸手を挙げて喜ぶところだ。
原作だと何故かコトブキスクエアにいるナビが『アジーナのカギ』とかいう重要アイテムを持っていて、何故か見ず知らずであるロックマンに喜んで手渡すんだからな。しかも何の説明も無しときた。
どう考えても特大のガバである。
厳重に守られていてもおかしくない国宝をネットワーク上に設置するといったエグゼ世界特有のガバは脇に置いておくとして、だ。
そのカギデータを国外に持ち出す時点で国際問題にしかならない。
最初は『ゴスペル』の手先がカギデータを奪ったものだと考えていたが、ふと疑問が浮かんだのだ。
国宝ノータッチなの、おかしくね? と。
シャドーマンは依頼以外余計な手を出さないし、首領が興味持たないにしても、犯罪者の集まりであれば1人くらいは宝に目がくらむ奴が現れてもおかしくない。
咎める奴らは滅ぼしたのであれば盗まない方が不自然なくらいだ。
しかし、
カギの管理者が『ゴスペル』侵入に一役買ったのであれば、国宝が無事だった理由にも説明が付く。
手引きした後、カギデータを所持したまま一足先に逃亡した場合、国宝に手出しはできないしな。
大方、アホっぽい管理者は持ちだしたカギデータの処分に困ったところに、ちょうど良いタイミングで欲した人物が現れたので手渡した、といったところだろう。
破壊したり、どこかに放流するよりも誰かに譲渡した方が色々と罪を被せ易いだろうしな。
『仕方がないんだ! お前たちだってアレを見れば「ゴスペル」には逆らえない!』
『私にはおにーさんから罪悪感なんて見えなかったけど?』
『と、とにかく! あのパワーさえあれば世界なんて思いのままだ! バカな奴らなんて早々に見限って強い奴に付く。それが賢い選択だ!』
『そうとも限らないけどね』
『何?』
『私たちならおにーさんと「ゴスペル」は
次回、シャドーマン死す
バトルオペレーション セット インヌ!