新年も拙作をどうぞお楽しみいただければ幸いです
アジーナの内通者の発見による功績及びコトブキスクエアとウラインターネットの繋がりが確認されたとの事で俺、隠岐渡は無事オフィシャルに復帰しました。
尚、功を焦ったオフィシャルが大勢駆け付けたせいでコトブキスクエアの一般ナビと揉めに揉めている内に接続が不安定に陥ったとの事でその調査が停止した模様。
これだから無能のレッテル貼られるんだぞ、オフィシャルェ……。
「遅れてすまない」
メーリングリストに送られてきた報告内容に白目を剥いている内にどうも貴船総監がやってきたらしい。
マホガニー製の円卓が中央に置かれたオフィシャル本部の会議室にて、俺、炎山、マサさんの3名に招集がかかっていた。
俺たちを呼び出した張本人である貴船総監は珍しく真辺警視を傍に置かず、上座に腰を下ろす。
「オレたちに内密の話がある、と連絡がありましたが」
「うむ。実は国際オフィシャルネットバトラー協会から、ネットマフィア『ゴスペル』対策会議の招集を受けたのだよ」
「ってぇなるとなんでぃ? オレっちたちがその代表ってぇ訳かい?」
「警視監殿も候補を選出しているからもう少し人数は増えると思うがね」
『1』の時系列から先回りして懸念材料潰しても会議イベントは変わらず行われるのか、なんて感想はどうでも良いとして。
「で、何故俺……もとい私がその代表になっているんですかね?」
「そう固くならずとも良いよ、隠岐くん。君が立て続けに挙げた功績だけでは理由にはならないかね?」
「お褒めにあずかり光栄ですけど……その会議、国際的な交流あるんですよね?」
「そうだね」
「じゃあ小学生が参加するのマズいんじゃないですか? 国の威信的に」
端的に換言すれば、ニホンが舐められてもおかしくねぇぞ、の意。
オフィシャルの、しかもとびきり優秀な人物のお披露目の舞台でもあるのだ。そんな中、ニホンが小学生2人参加するとかニホンのレベルを低く見られてもおかしくない。
ぶっちゃけ、神輿として担がれている伊集院炎山の価値まで著しく落としてしまう愚行だろう。『天才小学生』というブランドが軽く見られてしまう。
それに、組織的にも担ぐ神輿は多くない方がいいに決まっている。
オフィシャル一丸となって、などと高望みはしないが権力争いの一因になったせいで事件の対処に遅れたり、妨害工作で失敗なんぞ見たくねぇからな、マジで。
「君の懸念も尤もだが心配いらないよ。君はオフィシャルホワイトとして参加することとなっている」
「あの総監。何言ってるんですか? 正気っすか?」
「正気だとも。正気じゃないのは受理した国際オフィシャル本部の方だとも」
詳しく聞いてみると、俺の地雷処理もといアジーナ案件とコトブキスクエア案件のせいで徹夜続きとなった警視監は、どうも添付する写真を間違えてしまったらしい。同じく寝不足の貴船総監のチェックもすり抜けて、だ。
しかも、よりにもよってオフィシャル戦隊(仮)のを送ってしまい、しかしそれは正式に受理された、と。
なんでもアメロッパ本国では正体を隠してオフィシャル活動やっている酔狂な人がいるんだとか。自由の国過ぎんだろアメロッパ。
「じゃあ、その後追いだと思われてる感じですか?」
「うむ。後はニホンの築き上げてきた信用もあるのだろう。下手な人物を送ってはその信用もガタ落ちになるのは誰しもわかりきったことだろう」
「国際的な場に放り込んだ時点で信用がガタ落ちすると思うんすけど」
「……オフィシャル戦隊発案者である警視監が言って聞かんのだよ。『ここまできたのならアピールの場になる』といった風にね」
凄まじいポンコツ臭が漂ってくるが、ネット警察はナンバー2をこいつに据えてて大丈夫なんすかね?
「どうせ色物になるのなら、隠岐くんを放り込んでも大丈夫だろうということになってね」
「何がどう大丈夫なんですかね……」
「どうであれ貴様の視座を腐らせてるのも惜しい。参加は決定事項だ、隠岐」
炎山に言われずとも上からの決定に逆らえないのが警察組織というものだ。せいぜい失礼にならないよう隅で縮こまっておくとしよう。
「後は特例として光博士の息子である熱斗くんにも参加要請が届いている」
「……光が?」
「ニホンの科学者を代表する光一族、その末裔の実力を、ドリームウイルスをデリートした腕前を是非見てみたいそうだ」
特例という形で招くのだから炎山の疑問も当然のことだが……その肩書の大きさも考慮するのであれば、そこまで不思議ではないのか?
『交流』といってもバトル的な意味合いも含まれている、と暗に示された気がする。
まぁ、ネットニュースを見る限りだと『ゴスペル』の被害が割と洒落になってなさそうなんだよな。
原作では容量の都合上、アメロッパとアジーナ、そしてニホンにしかスポットが当たらなかったが、今世だと世界各地でその被害が報道されている中、ニホンの被害が比較的少なめに抑えられているし。
それでニホンに少なくない期待が寄せられた結果、救世主である光熱斗まで波及した、と。主人公補正が働いている気もするが、深く考えてもしゃーないか。
「そういえば特例ってまだ認められるんですかね?」
「隠岐」
「まぁまぁ炎山くん。それを判断するのも私の役目だよ。なんだね隠岐くん?」
炎山に短く咎められるも、貴船総監から発言の続きを許される。では遠慮なく希望を口にしよう。
「それって元WWW幹部でもいけますかね?」
「ふむ、同じ犯罪者の視点からわかることがあるやもしれんな……」
「しかし貴船総監。少なからず反感を買う恐れもあります」
「炎山くんの懸念も尤もだが、一考の余地があるのもまた事実だ。国際オフィシャル本部に確認を取ってみる」
「もし通ったのであれば、私から希望する人がいるのですが――」
あれから数分もしない内に会議はお開きとなり、解散。
急遽パスポートが必要になった、という訳で受付ロビーにて順番待ちをしているところに、
「ハーイ坊や」
「色綾さん」
元WWW幹部である色綾まどい年齢不詳が手を振ってこちらに近付いてくる。
オフィシャルの制服に袖を通し、フレームの無い眼鏡や髪を下ろした姿はOL然としていていいんじゃないっすかね。ただ投げキッスはやめろ。
「あの時は生意気な目付きしてたけど……ようやくオトナのお姉さんの魅力がわかったのカナ?」
「いえ。全うに働いているのであれば大人に敬意を払うのは当たり前なので」
「やっぱカワイクな~い」
ぶつくさと言いながらも近くのソファに腰かけ、俺に話を振ってくる。
「で、イイ男見つかった?」
「小学生に振る内容ですか?」
「いいじゃない。それくらいしか楽しみないんだし」
コンパクトを開き、メイクを直しながらも忌々しいと言わんばかりの視線は彼女の監視を続ける女性オフィシャルへ鏡越しに向けられていた。
現在、色綾まどいに置かれた状況は保護観察処分として人手不足のオフィシャルで働かされている。とはいえ最初は雑用ばかりでウンザリする、と訪れる俺を取っ捕まえては愚痴を漏らしていた。
彼女曰く、メイクや服装に不満を抱いていたので、真面目に働くことにしたとの事。
「最近さ、八頭身で俳優顔負けのイケメンがいるっていうじゃない? 何か聞いてないの~?」
「いえ特には」
まさかオフィシャルレッドとして正式採用されたマサさんな訳あるまい。俺の知らないイケメンがいるんだろ、きっと。
「使えないわね~……坊やにはアタシを捕まえたセキニンってのがあるんじゃないの?」
「警察に同じセリフ言ってこいや」
「冗談よ、じょ・う・だ・ん。全くお子様はこれだからイヤよね~」
ふとメイクの手を止めて、まどいさんは珍しく大人びた横顔を見せる。
「アレ以来さ、ヒノケンの奴が活き活きしちゃってさ」
「えぇ、まぁ」
アニメ版みたく「光熱斗ォ! オレと勝負しろ!」と喚くようになってたな。
更生プログラムの一環として市民ネットバトラーの戦力向上の為、ネットバトルの乱取り稽古みたいなのが行われて。
そこで偶然熱斗とヒノケンが対戦した結果、ヒノケンの心に闘志みたいなのが灯ったらしい。
ネットバトルというご褒美の為、馬車馬のように働くヒノケンの姿にまどいさんが何か思うところがあったのだろうか。
「不貞腐れて刑期が過ぎてくの待ってるのがバカらしく思えてね。ガラでも無くアタシも頑張るか~って気分になっちゃって」
「いいことじゃないですか」
「でもマハ・ジャラマとエレキ伯爵が『ワイリー様に捨てられた』って落ち込んじゃってて。なーんか塞ぎ込んでる姿見るのモヤモヤするじゃない?」
2人を見ないと思っていたが、そんなことになっているとは。
マハ・ジャラマとか原作だとマジで何やってたのかわからんし、アニメのヨガ番組かカレーショップの印象しかねぇよ。雑なインド観をぶち込んだだけじゃねぇか。
エレキ伯爵については多少喋っただけだが、口振り的にDr.ワイリーを崇拝していただけにショックが大きいのかもしれない。わざわざ貴族の地位を蔑ろにしてまで付いていったのだから、相当な入れ込み具合だろう。
「アンタに頼む筋合いじゃないのかもしれないけどさ、2人を見かけたら『まどいちゃんが心配してたゾ』って伝えてもらえない?」
「まぁ、それくらいならいいですよ」
「ありがと……休憩おわりっ」
ぐいーっと腕を伸ばしてからまどいさんが立ち上がる。仕事に戻る彼女の背へ、俺も言いたいことをぶつけておこう。
「マハ・ジャラマはわかんないですけど、エレキ伯爵なら近い内に元気になるかもしれないんで」
「えっ?」
「じゃ、お仕事頑張ってください」
マジで頑張ってくれよ。俺はコミカルな元WWWが見たいんだ。
アメロッパ出立まで残り4日を切った頃。色々バタバタするオフィシャル本部の留置所にキングランドからとある貴婦人が来訪した。
その名はアン・エレキテル。不祥事を起こした夫のせいで危うくお家取り潰しになりかけたものの、方々に頭を下げ、その辣腕のお蔭で降爵と一部領地を召し上げられただけで済んだらしい。
「ジャァァァック!!!!」
「ひぃッ!? 許してプリーズ、ハニー!!」
その夫こそ、エレキ夫人に胸倉掴まれて情けない声を上げるエレキ伯爵――ジャック・エレキテルだった。
描写の少ない『1』の情報だけだとマジモンの貴族と思わなかったから、アニメで驚いた記憶がある。そっから『6』で実は既婚者が発覚とか予想できんわ。
「貴方って人は!! 貴方って人は!! いつも調子の良いことばかり言って!!」
「ホント許してチョモランマ! アゥチッ!? WWWはミーの夢だったんダ!」
「だったらせめて世界くらい捕ってきなさいよ、こんのおバカァァア!!!!」
白い手袋越しから発生する電撃で、エレキ伯爵があばばばばと口から泡を吹いて気絶する。あれでスタンガンの類を仕込んでいるんじゃなく、エレキ夫人の発電体質っていうんだから恐ろしい。どっからそのエネルギー生み出してるんやろか?
「失礼。つい取り乱してしまいましたわ」
先程とは打って変わって優雅な一礼を見せるエレキ夫人。
紫色のハットから覗く銀髪に、品の良い黄色のドレス姿の彼女は原作と違って没落していないからか、服装や顔艶は悪くない。
アニメ程若い見た目ではないものの、原作のよか老けているようにも見えない。まぁ、女性の年齢を探るのは自殺行為なので、この辺で思考を切り替える。
「ようこそニホンへお越しくださいました」
そう対応するのはバーコード頭のニホン警察のお偉いさん。名前は山田一郎と名乗っていたが、ボーガー脳がジョニーと呼びたがってしまう。ジョニー・ザ・バーコードポリスメン。
俺は勿論、野次馬の中に紛れて高みの見物中だ。
「本日は遠路遥々――」
「ジャックの更生プログラム、キングランドとの摩擦を気にして全然進んでいらっしゃらないのでしょう?」
「あ、その……」
「家督は私が全て引継ぎましたわ。どうぞジャックは煮るなり焼くなりどうぞ好きになさいなまし」
奥さんからの説得で目を覚ますエレキ伯爵といった展開を予想していたのに、とんだ鬼嫁が来たものだ。しかし、同情はしない。せいぜい尻に敷かれるといい。
苛烈な措置を求めるエレキ夫人と泣き落としにかかるエレキ伯爵の攻防をある程度見届けてから留置所を後にした。
そして夏休みも中盤、10時間以上のフライトを終えて、やってきましたアメロッパ。
その道中に関しては……デブとデブのサンドイッチにされていた記憶しかねぇよ。原作と違ってエコノミークラスは普通に狭かったからマジで地獄だったぜ。
肉の間にいたせいで3人分の汗まみれ、イビキも両側から大音量でかまされるし、トイレにも碌に行けねぇ。強烈な体臭のせいで機内食も全然食べられなかった。
「オイオイ大丈夫かワタ坊?」
「あー……なんとか。まずホテルにチェックインしましょうか」
同行者はマサさん、元犯罪者からの視点が期待されるエレキ伯爵とその見張り役であるエレキ夫人の3人のみ。
炎山はIPCの取引関係で前日入り、警視監の選抜組はこちらと団体行動する気が無いのか、とっととアメロッパの街に繰り出したらしい。
熱斗? 寝坊したので一本遅れての到着予定だ。その出迎えは俺もする予定だったが、このグロッキーな様子を見たマサさんから休むように言われたので甘えておく。
これで原作みたく金スラられたり、チップ盗難されなきゃいいのだが。
「オォウ……」
「着いたのだからシャンとなさい」
「アウッ!? フライト中ずっと仕事してたんだかラ優しくしてくれヨ!」
「今まで貴方の仕事の肩代わりしてきたのは誰でしたっけ?」
「悪かっタ! だから電撃はヤメッ!? シビレビレ……!」
どこぞの鬼娘みたくバチバチやっている夫人と、げっそりしている伯爵を引き連れ、ターミナルまでやってくる。そこでタクシーを捕まえて、アメロッパークに程近いホテルへ向かう。
受付でチェックインを済ませたら、すぐさまシャワー浴びてベッドにダイブ。生乾きだが気にする余裕もなく意識が遠のいていく。
で、気が付いたら窓から夕日が差し込んでいた。
時差のせいで時間間隔が良くわからないが、結構な時間が経っているようだ。
『あっ、やっと起きた』
「くぁあ……慌ててっけどシアン、何かあったん?」
『1時間前くらいにマサさんがダウンタウンの裏通りからやってきた連中に絡まれたって、ネッちゃんから電話があって』
欠伸交じりに聞いていい内容じゃなかった。結局トラブルに巻き込まれてんのか、主人公とその周りの人は。
ひとまず寝間着から普段着に着替えてホテルを出る。俺が行ってもどうにもならないとは思うが、ホテルでただ待っている程、薄情にもなれない。
二次被害? そこまでの無法地帯だと思いたくないけれど、一応護身用のスタンガンを隠し持ち、腹辺りに雑誌でも仕込んでおくか。
「おうおう。いい飲みっぷりじゃあねぇかい、ダチ公!」
「お前こそやるではないか、マサ」
周囲を警戒しつつ、PETの位置情報を頼りに例の場所へやってきてみれば、マサさんが現地人と肩組んで安酒を酌み交わしているではないか。
熱斗は熱斗で彼らとのネットバトルに夢中になってやがるし、打ち解けるの早過ぎだろ。
「あぁん? 他所者が何の用だテメェ?」
「そこのニホン人の連れですよ。マサと光熱斗、彼らを呼んでくればわかります」
「本当かー?」
周囲をウロチョロしながらガン垂れてくるスラム街のガキンチョにひとつ断りを入れてから、リュックに手を伸ばす。で、パイルダーオン。
「そ、それはチョンマーゲ!?」
「俺ニホン人、嘘ツカナーイ」
軽いジョークをかました後、物欲しそうな目をした子供にチョンマゲをあげる。本来はラウルさんにプレゼントする為に用意したが、これで機嫌のひとつでも取れるのなら安いものだろう。
現に毒気でも抜かれたのか、周囲の大人の視線も和らいだし。歓迎とまではいかないが、多少の警戒は解いてくれたみたいだった。
「マサさん、何やってんすか?」
「おうワタ坊も来たか!」
「おうじゃないっすよ。連絡無くて心配したんですからね?」
「すまねぇすまねぇ。ちょいとスリやった悪たれ小僧にゲンコツやったところによぉ、ゾロゾロ大人が出張ってきやがってな。
ちゃーんと躾けてやらにゃあ駄目だろ、っつったら拳が飛んできたもんでよぉ、つい喧嘩になっちまったぜ」
「で、その後仲良くなったんすか」
「おう。話してみりゃあ気の良い奴らばっかでな。ここで会うのも何かの縁っつうんで親睦を深めてたところよぅ」
肉体言語で仲良くなるとか、古い価値観で生きてんな、ここ。平和主義の俺には厳しい世界だ。
「まぁ、無事で安心しましたよ。取り込み中の熱斗にもキリの良い所で帰ってくるよう伝えてくださいね?」
「わかってるわかってる! 暗くなる前には帰んぜ!」
既に茹蛸みたいに赤ら顔のマサさんに不安を覚えるも、ダウンタウンの人たちに認められているのであれば酷い目に遭わないだろう。
「お前は熱斗とマサの仲間か、少年?」
一安心したところで腹の音が鳴り、ホテルへ帰ろうとした矢先にウエスタンシャツにスラックス姿の褐色肌の男性に呼び止められる。
ツーブロックまで刈り上げながらも、喉元まで伸ばしたもみあげを3色の布で纏める独特のヘアスタイルをした彼は、ダウンタウンの顔であるラウルさんだ。
「えぇ。無事を確認できたんで、部外者はすぐ退散しますよ」
「彼らより物分かりが良いようだな。だが、言葉ではどう繕うこともできる」
ラウルさんの目が細められると共に、周囲の連中が俺たちを囲む。
「少年、ネットバトルで勝負だ。そうすればお前がどういった人間かわかる」
「拒否権無くしてのそれは卑怯だと思いません?」
「お前を帰すことに納得がいかない奴もいるようなのでな。悪いが付き合ってもらうぞ」
ガキひとりを寛容しないダウンタウンの恐ろしさと、ラウルさんの善性に涙がちょちょぎれるね。
ちょうど熱斗とドレッドヘアの男がバトルを終えたという訳で、廃棄されたらしい旧式のネットバトルマシンの前まで連れてこられる。
「ワタル? どーしてここに?」
「続報がねぇから心配で見に来たんだよ。で、熱斗みたくこっから腕試しよ」
「相手は……ラウルさんか。強いぜ、あの人」
「そうだろうよ」
そんなもの原作で重々承知だ。作中でも屈指の相手とハンデマッチさせられたからなぁ……嫌でも覚えている。
ギミックである雷雲のせいで、キャノン系などの直線攻撃が阻まれやすく、サンダーマン――ラウルさんのナビ――は最後列に引っ込んでいるせいでソード系などの接近系チップが腐りがちになるという。
スタイルチェンジの属性がアクアだった場合は不利取られて3、4発くらえばお陀仏、なんて事もあった。
しかもイベントでチップ盗難されているせいで、アメロッパで現地調達したチップだけでフォルダ構成弄ることになるから難易度が爆上がりしているという。
俺以外にも当時の小学生なら一度は放り投げただろ、あの強制戦闘。
熱斗と場所を入れ替わり、サビついたコンソールの前に立つ。
「プラグイン! サンダーマン! トランスミッション!」
「プラグイン! シアン! トランスミッション!」
気合十分のラウルさんの動きに倣って俺もコードをシャーっと伸ばし、プラグイン端子を勢い良く叩き込む。
あのクールな炎山ですらやる行いだ。観衆が暴徒になる可能性を潰すべく、今回は恥ずかしい感情を押し殺しておく。
「ルールはHPが危険域に突入した時点で強制プラグアウトされるオーソドックスなものだ。いいな?」
「えぇ。いつでもどうぞ」
「ゆくぞ少年! バトルオペレーション! セット!」
『イン!』
彼らの掛け声でバトル開始だ。対戦相手は頭に長いツノを生やし、縞模様の中にオレンジのアクセントのあるサンダーマン。本家ロックマンにはいないエグゼオリジナルナビだ。
「【ストーンキューブ】」
開始早々に前方へ【ストーンキューブ】を横一列に配置。原作のクソギミックを無効化、とまではいかないけれど迂回する分、遅延になる筈――といった予想を今回の世界線では軽く覆される。
『ふつーに乗り越えてきてんじゃん!』
「浮いてるからかぁ……【ダッシュアタック】」
『神の裁き! サンダーボルト!』
雷雲に気を取られている隙に、頭上からの3連落雷攻撃を【ダッシュアタック】のスピードを利用して回避。
『ワタちゃん! いつものインビジ、エリスチは?』
「大分頻度落とすぞ。【ヒライシン】もやべぇと思った時以外は使わない方針で」
『うへ~……』
戦っているシアンには申し訳ないが、いつもの封殺戦法だとオーディエンスの溜飲が下がらないだろうしな。今回、勝ち負けは二の次で拮抗を演出してみせる。
『エレキビーム!』
「【バリア】、【メットガード】、【エアシューズ】」
貫通効果のあるビームを【バリア】で相殺している間に回避、雷雲から飛んでくる【サンダーボール】をヘルメットで防ぎ、一旦シアンを宙へ逃す。
「【サテライト】スロットイン!」
「【ストーンキューブ】、【バッドスパイス】、【メテオ9】」
『忙しいなぁ、もう!』
相手がユラユラと左右に揺れるウイルスを召喚するならば、こちらは【ストーンキューブ】でその動きを制限。
お返しとばかりに、空中から混乱効果のある胞子をバラまき、隕石を降らせる杖を【ストーンキューブ】の影に設置。
「やるではないか!」
「そちらこそ容赦が無いっすね」
「それが勝負というものだ。【リモコゴロー】スロットイン!」
【メテオ9】でクズ運を引いたからか、全て外れ。その間に雷雲が増産され、【リモコゴロー】によるエリア制限を開始。
原作よかクソみたいな戦法を使っている割にはオーディエンス大盛り上がり。これで俺が同じような事をすれば多分ブーイングだろ?
子供向けアニメで散々知ってんだ、俺は。味方が使えば頭脳プレー、敵が使えば卑怯だってなぁ!
「【ヒライシン】、【エリアスチール】」
『待ってました!』
流石にこの物量は捌けないと判断し、【ヒライシン】で電気属性の攻撃を一手に引き受け、カウンター攻撃。
【エリアスチール】でサンダーマンの傍へ瞬間移動、勝負に打って出る。
「【マグネットライン】、【コガラシ】、【アタック+10】×3」
【マグネットライン】の吸い寄せ効果で位置を調整、後は弱点属性である木属性の【コガラシ】による竜巻の連続攻撃をお見舞いしてやる。
しかし、大ダメージを食らったサンダーマンは健在で、
「【エレキブレード】、【フミコミザン】ダブルスロットインッ!!」
『3』で登場する【フミコミクロス】を先取りする動きで、シアンをすれ違いざまにペケ字で斬りつけ。そのダメージでシアンは強制プラグアウトとなった。
「勝者ァ! ラウルゥゥゥッ!!」
出しゃばりなヒップホッパーがラウルさんを称えたと同時に、観客からの声が爆発。「Whoo!!」とか「Hoo!!」とかうるせぇわ。
ひとまずシアンに自動修復プログラムを与えておく。
「少年」
そんな大声援の中、ラウルさんは険しい表情で俺の近くまで寄ってくる。そして、耳元でこう言った。
「お前、本気では無かったな?」
「侮辱するつもりは無いです。ただ貴方はバトルを対話と捉えたけれど、俺には敵を倒す手段でしかない」
「……舐めているのか?」
一際低くなった彼の声に思わず肩がビクりと震えるが、表情だけは取り繕う。
「いえ、それも違います。貴方の意図に乗っかるならば、こうする他なかったので」
「何?」
「俺の本気は、相手に何もさせない。毒でも麻痺でも何でも使って敵を一方的に葬り去る。こんな戦法、ここの代表であるラウルさんとサンダーマンに使ったら大バッシングものでしょう?」
「そんなこと、可能だとでも?」
俺の挑発だと受け取りかねない発言にラウルさんは感情を殺してそう問うてくる。それに対し、俺はひとつのポーチを広げ、その中を見せた。
「【ポイズンアヌビス】、【デスマッチ3】、【パネルリターン】、【エリアスチール】、【ヒライシン】、【バンブーランス】、【バッドスパイス】、【モストクラウド】、【ユカシタ】、【インビジブル】、【トップウ】、【スイコミ】……これがお前の本気か」
「無敵状態を維持したまま、相手を遠方から嬲り殺す。どう考えても
「ふっ……
チップを見て察したラウルさんが苦笑を漏らし、俺もまた同じ表情で返す。
「次はお前の本気が見たいものだ」
「機会があれば、ですけど」
握手をがっしり交わす姿をダウンタウンの連中に見せつけて、今度こそホテルに帰ろう。
ジムと名乗った例のチョンマゲ小僧が「バトルしようぜ」とジャリボーイみたいな事を言ってきたが、そいつを口八丁で丸め込んで、厚紙貰ってトントン相撲を製作。
で、そいつで勝負した後は古新聞で兜や紙鉄砲を作ってやり、仲間内で遊んでろと伝えて子守りから解放させてもらう。
俺は腹が減って仕方がないんだ。誰に何と言われようと帰る、という強い意思を持って裏路地を脱出し、ホテルへの道を早歩きで進み、
「マジかよ」
まさかの遭遇に自ずと足が止まった。
すっかり日も落ちて街灯が辺りを照らす中、格式高いホテルの前にタクシーの団体さんが止まっていた。
そこから出てくるのはスーツ姿の女性ばかり。誰もが軍隊のように淀みなく動き、鋭い視線は周囲を警戒していた。
そんな中、最後に降りてきた少女もまたスーツ姿であったが、その所作ひとつひとつに気品が伴っていた。
緩いウェーブを描く淡い金髪をバレッタで一纏めにし、透き通るような白い陶器肌に、切れ長のアクアマリンの瞳。
その美しさはどんなに言葉を尽くそうとも陳腐になりそうで――俺の心臓が爆音を鳴らすばかり。イカン、顔に熱を持っている。このままだと『渡』がガチで惚れてまう。
これだけはアカン。ロイヤル美少女が性癖になったが最後、『渡』くんがまともな恋愛ができなくなってしまう。
この際、失恋確定のメイルちゃんでもいい。シュー姉ちゃんとのおねショタも健全な範囲なら許そう。
だが、プリンセス・プライドだけは、どう足掻いても手が届かない相手にだけは惚れないでくれ……!
「戯け。何をジロジロ見ている」
目を閉じようとする俺と、それに抵抗する『渡』とのデッドヒートが繰り広げられる中、突如として視界を埋められる。
「メイド服……?」
それはまさしくクラシカルな侍女服であった。
紺を基調とするエプロンドレスにはフリルの類が少なく、ボブカットのハニーブロンドを飾り立てるホワイトブリムにも余計な装飾が見られない。
「ぐえっ」
無遠慮に首根っこを掴まれ、彼女の顔が眼前に迫る。就職先間違えていませんか、と問い質したくなる鋭利過ぎる眼光に、僅かに口元から覗く八重歯。
呼吸が満足できないのも相俟って思考が回らん。これ以上フェチを植え付けないで!
「およしなさいグロディア」
「承知。プリンセス・プライド」
しかし、その苦しみは数秒足らずで終了。ケツからアスファルトの上に落とされ、荒い呼吸をしながら身悶える。
「変態。興奮するんじゃない」
「グロディア!」
「謝意。出過ぎた真似をお許しください、プリンセス・プライド」
「全くもう……子供相手にやり過ぎですわ。大丈夫かしら?」
護衛を連れたってこちらに近付いてくる殿下。そして、この距離になって
『もしかして……プライドちゃん?』
「その声……まさかシアン? シアンですの! じゃあ――」
両手を合わせて慎ましく喜ぶ殿下と涙目の状態でご対面だ。あぁ、恐れていた身バレがこんなところで起こるとは予想できねぇよ、マジで。
「――貴方がワタ? 女性ではなかったの?」
その言葉は遥かに想像を超えていて、俺の思考はいよいよ停止した。
次回はプライドと渡が出会ってからの回想になる予定
多分、原作並にガバになりそう……