この短期間にまたもや科学省とオフィシャルのシャトルランをおっぱじめなければならないのか、と多少ウンザリとしていたところ、流石の緊急事態にハッキングパパもオフィシャル本部に呼び出されていたらしい。
彼専用に与えられた個室へ入室すると、部屋の主である彼の他にパワードスーツを着ていない隠岐英さんと、我らが主人公である光熱斗の姿があった。
「失礼します」
「――パパ! どうして行っちゃダメなんだよ!」
「危ないとわかっている場所に行かせたがる親なんていないだろう?」
で、絶賛親子喧嘩手前の状況にどうしたものか、と視線を逃がすと英さんと目が合う。腕を組んで黙視を貫く姿勢らしい。静かに目を伏せて彼らに口を挟まない。
「……ワタル?」
「熱斗に吹き込んだ張本人にお越しいただいた。説明責任を果たしてもらおうか?」
埒が明かないからか、一旦話を打ち切った光博士が俺へ着席するよう促してくる。
なるほど、原作よりマッドじゃないな? ゲームだと熱斗を思考誘導してんのか、と疑いたくなるレベルで簡単に折れるからな、ハッキングパパ。
「ご本人が望んだことでしたんでね」
「君と違って熱斗はただの子供だ! 事件に巻き込む必要がどこにある?」
「パパ!」
横合いから訴える熱斗に目もくれず、俺を冷めた表情で見据える光博士。内心怒りに満ちているのだろうが、理性的に振舞おうとしているのが窺える。
だが、そんな彼を気遣う余裕が俺にも無かった。
「敵に環境維持システムを握られて一刻の猶予もなかった。だから頼れる人に頼っただけですよ」
「他にもいるだろう? 何故、熱斗なんだ?」
「少なくとも単騎でドリームウイルスを倒せた戦力を遊ばせておく余裕は無いんですよ」
「しかしだな……!」
「今も緊急事態ですので。堂々巡りであれば退席いたしますが?」
「待て――今回も熱斗を巻き込むつもりなんだろう?」
静かな光博士の問いかけに、俺は無言で首肯する。
ラスボス相手に熱斗とロックマン抜きで戦え、とか冗談じゃない。
もし仮にそうなったら敵の根城のサーバーを物理的に片っ端から破壊する興醒め展開も視野に入れんぞマジで。
「君は――」
「渡」
やや語調が荒くなった光博士の言葉を遮って英さんが口を挟む。年長者の威厳故か、光博士が出かけた言葉を飲み込んで英さんを見やる。
公の場では俺の存在は伏せてくれるのか。ありがたく乗らせていただく。
「今回の一件、どこまで掴んでおる?」
「オフィシャルからの一報が『究極のバグ融合体』、その実験段階に作り出されたそれを放ったものだと思っているよ」
「じゃろうな。でなければ、あの数は揃えられまい」
ふむ、と頷く英さんに理解の色を示す光博士。彼らもそこまでは想定の範囲内らしい。ただし熱斗はロックマンから説明を受けてはいたが。
まぁ、アメロッパ城での出来事は地下に落とされた方が濃密だったし、仕方ない部分はある。
「して渡はどう動く?」
「本丸を叩く……といっても色々と準備してもらいたい物があるんだけど」
「大方、電磁波防護服と移動する足じゃろ?」
「良くお分かりで」
「良く言うわい。『ゴスペル』のナビが大量に出回るのとほぼ同時期にコトブキ町が電磁波異常に陥ればサルでもわかるわ」
「待ってください隠岐さん!」
どっこいせ、と立ち上がる英さんに逼迫した様子の光博士が待ったをかける。
「貴方はそれでよろしいんですか? 大事なお孫さんでしょう?」
「儂が言って聞く玉でも無いからの。それに顔を見れば良くわかる。これはワイリーさんに立ち向かった時と同じ、覚悟の決まった顔じゃ」
「しかし!」
「こうなった渡は梃子でも退かんよ。儂らの命もかかっておるんじゃろ?」
察しの良い英さんに俺は頷きを返す。現在でも敵さんが増産体制に入っているので時間をかければかける程、マジで手を付けられなくなる。
特にフォルテの量産。本物に比べれば雑魚らしいけれど、それでも一般のナビと比べれば脅威度は段違いだ。しかも本編時空ではラスボスを倒しても増産された偽フォルテは流出しているというね。
まぁ、そいつらは主人公の知らないところで処理されるのだけど、解決するまでの被害を考えると環境維持システム程では無いが早期解決を求められるだろう。
「祐一朗よ。息子を心配する気持ちは痛い程わかる。儂とて納得し切れておらん部分はある。じゃが、儂らが止めようともこの子たちは勝手に動く。ならば初めから助力した方が結果的に彼らの為になる」
「諦めろと?」
「我々のできることを尽くすまでよ。頭ごなしに抑えつけるだけが親の責務とは言えぬよ」
英さんの苦々しい顔に何かしら感じ入るものがあったのか、くしゃりと横髪を乱す光博士が苦悶を隠し切れない表情でこちらを見やる。
「本当に、熱斗でなければならないんだね?」
「光博士の用意されたアルティメットブラスターであれば、火力面は誰であっても問題ないと思われます。ですが、相手が案山子で無い以上、当てる技術が要求されるとなれば、オフィシャル内でもかなり限られるかと」
「その限られた人員に託すのは難しいのかい?」
「防衛戦力の要に据えられるであろう人材ですからね。現場からの反発は強いでしょうし、防衛自体を疎かにして良い訳でもありません」
「……君と熱斗しか動けないのかい?」
「状況が落ち着けばまた別ですけれど、どうしても時間がかかる」
確実性を求めるならば日数をかけてでも人数を集め、複数のアルティメットブラスターで面制圧すればいけるかもしれない。
だが、その間にどれだけのリスクを背負い込む羽目になる? 相手しなきゃいけない敵の総数は?
何よりも……帯広シュンが亡くなる可能性を思えば初動は大事だ。合間を置かず無茶をしている以上、残されている時間はどうだ?
「みんなが大変な思いをしてるのに! じっとなんてしてらんないよパパ!」
『ボクからもお願いします父さん』
「熱斗……彩斗……」
迷う素振りを見せる光博士に熱斗がここぞとばかりに詰め寄る。ロックマンも同じ志で自分の父親に頼み込む。
「オレにはロックマンがついてる! 2人でなら『ゴスペル』だってやっつけてやれる!」
『ワタルくんにシアンちゃんも、でしょ?』
「お前が思っている以上に危険な場所なんだぞ熱斗?」
「だからこそさ! オレを信じてパパ!」
「……わかった」
何一つ具体性を述べなかった熱斗の頼みは、しかしその熱意を認めた光博士がついに折れてみせる。
あるいは科学者としての冷徹な部分が、熱斗とロックマンの優位性を計算して弾き出した結果かもしれなかった。
「ただし熱斗。本当に危ない時は自分を最優先にして考えるんだ。仮にお前たちが失敗しても私たちが必ずどうにかしてみせる。いいな?」
「わかった!」
息子の肩を掴んで念押しする光博士に元気よく頷く熱斗。原作通り主人公の電磁波への耐性が半端ないとしてもこれから起こる事への罪悪感が凄い。
「話が纏まったようじゃな。早速防護服の用意をせねばな」
「オペレーターの操作性を考慮してスーツ型に改良してはどうでしょう?」
「いえ安全第一でお願いします」
だからできるだけ安全マージンを取れるよう、原作よりも防護性を高めてもらうことにする。
オペレートに支障を来すだろうけれど、最悪主人公コンビのアレに期待する他あるまいて。
「移動手段は開通間近のメトロかの?」
「避難があまり進んでいない以上、交通網で使えるのはそれだけでしょうね」
これ以上は邪魔になると俺は熱斗を連れて退室する。
光博士が便宜を図ってくれるとは思うが、一応俺の方からも貴船総監へ連絡を入れておくか。恐らくはコトブキ町に入場制限がかけられているだろうし。
名人さんに忠告されて早々に破るのは我ながら本当に嫌な人間だとは思う。
後は……戦力の再確認でもしておくか。
「熱斗、スタイルチェンジの調子どうよ?」
「スタイルチェンジ? いきなりどーしたんだよ?」
「仲間に何ができるか把握しときたくてな」
「そっか。今んところヒートガッツにアクアカスタム、エレキブラザー、ウッドシールドが発現したぜ」
『それだけじゃわからないと思うよ熱斗くん……』
「いんや、概要はアジーナを通してある程度把握してるから充分だ」
「オフィシャルすげー!」
「後はどこまで使いこなしてるかだけど――」
聞き取り調査の結果、アニメともゲームとも微妙に違う性能をしていることが判明した。
まずスタイルチェンジのシステム自体はアニメ仕様。熱斗の判断次第で戦闘中だろうと発動可能。切り替えも自由と聞いて思わず半眼になったが許してもらいたい。
便利なのはいいことだが、いちエグゼプレイヤーとしては複雑な心境である。
続いてヒートガッツの性能は概ねアニメ仕様。近接戦闘も可能なパワータイプで、肥大化した右拳は飾りにならずに済んだらしい。ただガッツマシンガンは未搭載とのこと。『3』の時系列で生えてくるんやろか?
アクアカスタムは簡単に言えばシアンの上位互換。逆に熱斗のチップ装填速度が追い付かないくらい過剰な性能をしているらしい。流石にチップ1枚からプログラムアドバンスを生成するぶっ壊れは、こちらの世界では許されなかったみたいだ。
まぁ、諸刃の剣扱いでも許してはならんよ、あの暴挙。
エレキブラザーはなんとナビの戦闘データを生成できるっぽい。原作勢からすれば「V4を入手できるだけちゃうんか?」と疑問を覚えるかもしれないが、俺のいる世界だとナビチップ存在しないからなぁ。
ぶっちゃけナビが高性能かつ容量がえげつないからか、一部戦闘データを再現するにしてもバトルチップ一枚に収めるには技術的に難しいという点と。倫理的に色々と引っかかる点からバトルチップ協会から禁止されている。
端的に言えば有用な能力を持ったネットナビが辻斬りに合う危険性を排除する為だな。でないとケロさんとトードマンに粘着ストーカーが大量発生してただろうし。
それに加えてバックアップ機能があるとはいえ、ロックマンエグゼの世界って人間以上にネットナビの命が軽いからなぁ……。
どこぞの連中が野良ネットバトルして普通に相手をデリートしていたのにはドン引きしたぜ。これで表のインターネットで起きた事柄だから末恐ろしい。
……【ポイズンアヌビス】はどうしたって? 物事には抜け道もあるって話だ。
ファラオマンが現代のナビでは無いという点もあるが、一部武器データに関しては抽出可能だったりする。【ガッツパンチ】然り【ムラマサ】然り。
つっても前者は一般に流通しており、後者は闇の住人が製作したものらしいが。
要はそいつ固有の能力ではない召喚系や武器の所有権を奪える、といった感じだろうか。それに伴い、一部レアチップ狩りが横行しているのは別の話。
で、話は戻ってエレキブラザーの性能だが、その状態に限ってナビの戦闘データを一部コピーしてストック、実行ができるらしい。
アニメ同様、ソウルユニゾンの前身っぽい気がするが、今は置いておこう。
最後にウッドシールド君はバリアやシールドを生成可能。以上だ。
シンプルに防御特化で強いとは思うけれど、シールドスタイル単体だと決め手に欠けるんだよな。敵の猛攻を防ぐ
せめてリフレクトか、シールド成功時HP10%分回復効果でもあればなぁ、とは思う。ヒートガッツ同様、『3』の時系列かレベルアップに期待だ。
「シアンの方はどうなんだよ?」
『試してみる~?』
『その方が話が早いかもね』
という訳で久々に主人公コンビとネットバトルをすることに。
……結果? 惨敗よ惨敗。
ガッツマシンガン無いとか言ってた癖して牽制のロックバスターがショットガンみたいになってやがったし、カスタムスタイルのせいで十八番のチップ回しが先読みしねぇと追いつけねぇわ、何とかHP削ってもエレキブラザーの【ロール】によって全回復されるわ、ちょくちょく挟まるシールドスタイルがウザい。
正直、アニメより性能おかしいって! シームレスにスタイルチェンジしてんじゃねぇよ! 勝てるか! こんなの!
ラスボス戦でも無いのに、お披露目されたハイパー主人公タイムから一夜明けて。
マリンハーバーのメトロ駅に呼び出された俺は開いた口が塞がらなかった。そら突貫工事で無骨な見た目をしているとはいえ、防磁仕様の一両編成列車が完成するとは思わんて。
この世界で異常発達したのはネットワーク技術だけじゃないのは重々承知ではあるが、前世の常識を引き摺っている身としては驚きを隠せないわ。技術チートてんこ盛りのDr.Stoneだってもうちょい自重するわ。
「流石にこの歳で完徹は堪えるのう」
「流石に帰って寝たら?」
「見送りくらいはさせておくれ渡」
全身から疲れが滲み出る英さんを前にして思わず『渡』と交代しようとするも拒否される。わざわざ俺たちの関係を伏せているのだから迂闊だって?
(ぼくたちは必ず帰る。その時にただいまってちゃんと言うよ)
『渡』自身の決意も固いということもあって俺は渋々引き下がる。帯広シュンに思う所がある以上、ここで精神を摩耗させたくないのだろうか。
それにしたって祖父に一言くらい声をかけても良いだろうに。余計なお世話と言われればそれまでだが。
「じゃあ行ってきますパパ!」
「その前に防護服を忘れてるぞ」
「わかってるって!」
「隠岐――渡くんもこれを」
一段とやつれた光博士から手渡されたそれは船外服に似た構造の全身スーツだった。といっても、宇宙空間で活用されるそれと違って、手に取ってみると随分と軽い。
袖を通して動作を確認してみるとゴワゴワとした素材の分だけ動きにくさはある。けれど、手の部分は比較的薄く作られていることもあって慣れは必要だろうけど何とか操作は可能だ。
「ヘルメットもだけど宇宙服みたいだ!」
「一から作る時間は無かったからな。
「すげー! さっすがパパ!」
すっかりご満悦な熱斗に苦笑いを漏らした光博士。しかしすぐに表情を引き締めると熱斗の両肩に手をやった。
「多分、パパが思うよりずっと辛い戦いになると思う。こんなことしか言えないパパを許してくれ熱斗――無事に帰ってきてくれ」
「行ってきますパパ!」
意気揚々と乗り込んだ熱斗の後に続いて車両に足を踏み入れてから少しして。炭酸が抜けたような音と共に扉が閉まり、俺たちを乗せた列車が出発する。
オートパイロットだから車掌もおらず、小学生2人による短い旅路だ。
「ヘルメットしたままだと飲めねーな」
「トイレ行きたくなるから我慢しとけって」
「えー」
『ワタルくんの言う通りだよ!』
いまいち緊張感の無い熱斗の雰囲気に釣られて俺も程よい緊張で車内を過ごすが、問題のコトブキ町に降り立ったことで全部吹き飛んでしまう。
原作と違って避難の済んでいないコトブキ町にはパニックに陥った人々がいた。
車道には乗り捨てられた自動車に溢れ、機能していない信号を無視して事故を起こしたらしいボロボロの車体も見受けられた。当然、この混み合った場所では救助に迎えるスペースなど存在しない。
外に出るよりマシだと考えて車内に籠ったままの家族、諦めて徒歩で脱出を目指す者、中にはバイクに4人乗っている猛者まで様々だ。
悲惨な現場に目を逸らすと植えられた街路樹は電磁波の影響か変色を起こしていた。
「ワタル……あそこ」
熱斗が指差した先には駅に程近い高層マンションがある。サイケデリックな様相に、物理法則を捻じ曲げた構造のそれは一際不気味な雰囲気を放っている。
歪に電脳世界との融合を果たしたそれの如何にもラストダンジョンらしい物々しさに熱斗も固い声だった。
「随分と様変わりしちまったな……」
帯広シュンの改心を目指して足繫く通った高層マンションが近付くにつれて自然と独り言ちる。
大人では心を開けないと思って必要以上にクソガキムーブし過ぎた後悔。ディメンショナルエリアの参考にする為のデータ採集はどうすればええんやろかといった思惑。強力な電磁波による悪影響が身体に出ていないかといった心配。
様々な思いが去来して、それらをそっと胸の奥に押し込めていく。到着するまでに覚悟を固めておかねばなるまい。
「なんだ……?」
バチバチと空気が弾ける音の中、上空からの音に上書きされていく。それはヘリのプロペラ音であり、コトブキ町を通過することなく本来憩いの場であろう付近の公園の広場に着陸。ヘリポートでも無いのに、とんでもない着陸技術だ。
「間に合ったみたいね!」
満を持してといった面持ちで登場したのはデコがチャームポイントである綾小路やいとだ。
俺たちと比べて随分と軽装の彼女は原作通りアメロッパ軍の防磁ウェアとやらを身に着けているのだろう。
パーカーを被って頭部を守ってこそいるが顔面が剥き出しなのが気になるところだ。
「水臭ぇぞ熱斗ォ!」
続いて降りたのはこの歳にして腹回りがスモウレスラーの風格を漂わせる小学生、大山デカオだ。
自信ありげな顔つきが平常と変わらない彼だが、角みたいな髪型のせいでパーカー部分が若干浮いているのが気になるのは俺だけだろうか?
「熱斗……」
最後に瞳を潤ませたメインヒロイン桜井メイルが早足で熱斗の元へ近寄ると、彼の右手を両手でぎゅっと包み込む。
「黙っていかないでよ……」
「わりぃ」
熱烈幼馴染共のやりとりは放置して、応援に駆け付けた小学生らに声をかける。
「良く俺らがここに来るってわかったな?」
「綾小路家の情報網を甘く見ない事ね! と言いたいところだけど! 光くんがポロっと失言しちゃったのを聞いちゃっただけよ」
それだけで危険な場所に赴く彼らの無鉄砲さを咎めようとして……結局何も言えなかった。
光博士や英さん、貴船総監などの気持ちを踏み躙ってコトブキ町に来た俺に言えた道理じゃない。
「しっかし上空からも見たけどよー、どうなってんだこりゃあ? ジェンガみたいになってやがる」
「流石のやいとちゃんも見たこと無いわね。隠岐くんは何か知ってるかしら?」
「電磁波異常の影響だろ? 怖いなら帰っても構わねぇよ」
「バカにしないでちょうだい。顔見せといて帰るような薄情な女じゃないわよ」
それにやいとの強気な面構えは相も変わらずで俺が何を言ったところで聞き入れてはくれないだろう。
「うっし! いくぜみんな!」
「仕切ってんじゃねーぞ熱斗ォ! オレ様が先頭だ!」
「あっ、待ってよ熱斗!」
「まったく子供ね……」
パッと見、避難階段が上れる状態では無いのを確認して。4人がマンションのエントランスへ入っていくのに少し遅れて俺も彼らの後を追う。
「プラグイン! ガッツマン! トランスミッション!」
「プラグイン! ロックマン.EXE――」
「ちょい待ち熱斗」
「だぁ!? なんだよワタル!」
コードをビーッと伸ばし切ったタイミングで待ったをかけると、熱斗が大げさにずっこける。一昔前の芸人みたいなリアクションするなぁ。
「さっきまでは2人だったから言わなかったけど、人数いるなら話は別だ。熱斗とロックマンには温存しといてもらう」
「温存?」
当初の予定では原作知識やバグ技をフル稼働させて最短距離の攻略をする筈だった。
しかし、市民ネットバトラーとして一定以上の実力を持つ彼らが来たならば話は別だ。任せられる範囲は任せて負担を減らしてもらうことにした。
何せゲームと違ってプラグアウトするだけで全回復、なんてご都合システム無いからな。持ち込んだサブチップこそが生命線である。
それに――原作に無かったブルースの暴走。こいつが引っかかって仕方が無かった。
恐らく、コトブキスクエアで起きた洗脳紛いのバグが関連しているのだとしたら、コトブキマンションでも同様の現象が起こらないとも限らない。
正直、ロックマン専用の【バグシュウセイ】を作ってもらうべきだったか、と思う一方でロックマンのデータを『闇医者』に渡すリスクの高さを考えると実行に移せなかった。
かといってオリジナルデータを把握しているだろうハッキングパパは仕事抱えまくっているから依頼する余裕も無いし、彼から信頼を勝ち取るところまで持っていけなかったので現実味が薄かったのもある。
「そーだぜ熱斗ォ! オレとガッツマンに任せな!」
「そうね。友達なんだから」
「わたしにも頑張らせてよ。熱斗?」
「お前ら……わかった! でも危なくなったらオレたちも出るからな?」
あぁ、そうだ。彼らの友情でこうなることはわかっていて、俺は利用した。
たとえ彼らの防磁ウェアがハッキングパパ製の防護服よりも性能が劣り、身に危険を晒すとわかっていても、そうした。
原作のデカオが身を削った結果、倒れかけたのも知っている。
……でも、最上階のメインサーバールームに着く頃には復帰していたタフさも考えると心配し過ぎなのかもしれんけど。何ならメイルややいとも普通に来れてたしなぁ……。
「シアン、フォローの方、頼んだ」
『合点!』
電脳世界のロールたちの事は任せ、俺は現実世界のオペレーターたちの体調に気を配る。
償いも欲していないであろう彼らにできることなんて、それくらいしかできないのだから。
原作同様、電磁波異常の影響によってエレベーターの電脳も入り乱れており、稼働させるには電磁ビットが必要となるのも同じだった。
データの配置も記憶通りだったのもあり、順調に攻略は進んでいたのだが、
「ぜぇ……ぜぇ……」
「デカオ。マジで無理すんなよ?」
「まだ……いけるぜ」
「いやアンタが倒れたら運ぶのに苦労するのよ! ……まぁ、アタシも結構キツいし、そろそろ潮時かしらね」
「ゴメンね、熱斗」
「いいや! ここまで助かったぜみんな!」
EVビットが解放されたところで3人が素直にギブアップした宣言したので、ここからは俺と熱斗だけとなる。
『スマンでガス』
『後はお願いしますね、シアンさん』
『最後に回復だけしとくね、シアンちゃん』
『ありがと!』
彼らのナビも動作不全に陥りつつあったので同様に脱落だ。
といってもここまでの道中、彼らの働きが無ければここまでのスピード攻略は不可能だったといっていい。
特に再生怪人ばりに現れたバグ融合体らしきエアーマンとカットマン戦は色々と凄かった。
エアーマンとの戦闘経験があるガッツマンが1体で完全に抑え込んでいる隙に、カットマンが綾小路家の財力による暴力に沈む姿は若干可哀想に思えたのはここだけの話。
ロールの分も合わせて【パラディンソード】が10枚投入、【エレキオーラ】による100ダメージ以下無効状態の維持、グライドキャノンなる武器の意外な火力などなど。カットマン自体に見所が無かったのもアレだった。
「後は頼んだぜ熱斗……ワタル!」
「おう」
拳を前に出したデカオに合わせていつもの3人が拳を突き合わせる。俺まで参加すると異物感凄いけど、空気を読んで控えめにチョンと合わせた。
1階に降りていく彼らを見送ってから俺と熱斗は30階まで一直線に向かう。
突入する直前にはサーバーを物理的に破壊することも考慮に入れていたが、いざ内部に入ってみれば不安定な空間のバランスを崩す行為だと気付いて取りやめた。
「着いたな」
「ストップ」
長いようで短い時間Gを体感した後、最上階のフロアに到着する。お目当てのメインサーバールームの扉に危うく触れそうになった熱斗の腕を掴む。
そして通電チェッカー代わりに持ち込んだ硬貨を目の前に投げ入れ、放電している様を見せつける。
「解除が先だ」
「わりぃ助かった」
一旦、前室に戻って熱斗と共にサーバーの前に立つ。
「プラグイン! ロックマン.EXE! トランスミッション!」
「プラグイン シアン トランスミッション」
PETに映るのは先程の不安定な電脳空間よりも酷い有様だった。背景に浮かぶ『ゴスペル』のマークも、通路も全部がぐにゃぐにゃとしており、見ているだけで気分が悪くなる。
「シアン、本当に平気なのか?」
『こういうの、慣れっこだから』
アニメ設定に倣って小まめにリカバリーを挟んだりしたし、外見もガッツマンたちと違って平常のままではある。が、元が元だけに見た目では判別が付け難いものがある。
まさか人間の免疫力みたくバグを無効化する働きを備えているとは思えないし、不安は募るばかりだ。
しかし、表面化していない以上、シアンを引かせる選択も取れなかった。
ドリームウイルスの前例がある以上、俺とシアンの助力が有利に働く可能性もあるかもしれないし。
『熱斗くん! 何かいる!』
今まで温存したロックマンの奮闘により、電磁波のコントロールプログラムまではあっけないと思えるくらいに到達するも、またもや復活怪人もといデッドコピーであるマグネットマンとフリーズマンが立ち塞がる。
「速攻でカタを付ける! バトルオペレーションセット!」
『イン!!』
ロックマンがウッドシールドスタイルへスタイルチェンジを果たしたと同時に、フリーズマンへ突貫。となれば、俺たちの相手はマグネットマンか。
「【インビジブル】、【バッドスパイス】、【バンブーランス】、【ヨーヨー】」
相手が悠長に【マグネットパネル】を展開している隙に、混乱効果を付与する粉を上空からバラ撒き、背後から迫り来る竹槍で相手を前に押し出し、刃の付いたヨーヨーで連続ダメージを与える。
その間もスーパーアーマーを備えた相手はのけ反ることなく、マグミサイルを発射するも混乱によって見当違いの方向へ射出される。
「【モストクラウド】、【ロックオン3】、【フォレストボム3】、【バブルショット】」
ズッ友セットの雨雲と衛星を上空に展開。プリズムコンボの片割れを正式な形で使用し、木柱によって宙に投げ出されたマグネットマンをハチの巣にしてデリート。オペレーターの援護が無ければこんなもんだ。
「次! 【モストクラウド】、【ラビリング3】」
データの崩壊を見届けること無く、シアンへ次の標的に狙いを付けさせる。
氷によるガードを固め、【トップウ】効果によって近付くことも難しいことになっているロックマンへの援護だ。
環境維持システムによる強化の無いフリーズマンの防御は雨粒によって割れ、麻痺効果を帯びた輪をぶつけて【トップウ】を中断させる。
「熱斗! 弱点は電気だ!」
「よし! スタイルチェンジ! エレキブラザー!」
熱斗の掛け声に合わせ、ロックマンの体色が青から黄に変わる。他のスタイルチェンジと違い、ボディの変化に乏しいそれは頭部や腕、足の出っ張りが若干大きくなった程度だろうか?
「力を借りるぜ! エレキマン! サンダーマン!」
『はぁああああ!!!!』
気合を込めたロックマンに並ぶ形で半透明のエレキマンとサンダーマンの戦闘データが出現する。
『ライトニング・サンダー・テラボルト!』
小学生らしいネーミングと共に放たれたそれは画面を一瞬にして白く染め――元に戻った頃にはフリーズマンが跡形も無く消滅していた。
余波だけでコントロールプログラムまでぶっ壊した辺り、明らかにオーバーキルである。
『これで先に進める――シアンちゃん?』
彩斗兄さんによる圧巻の火力に呆気に取られていたところ、不意に彼が怪訝な声を上げる。
「シアン……?」
『あー……ゴメン。もうちょい頑張れると思ったんだけどな……』
その変化はあまりに突然のことだった。援護した時にはまるで平常だったシアンの姿がブレる。まずは頭部が揺らぎ、白銀の髪の間から獣の耳が生える。
次にほっそりと滑らかな腕がトゲに覆われ、手先も鉤爪のように鋭く生じる。足もまた荒々しい獣のそれに変化を遂げ、センシティブな臀部から尻尾が伸びる。そして、最後にアクアマリンの瞳が真逆の深紅に染まり――
『身体が勝手に動くぅうううう!?』
エグゼ2時系列のこの日、何とも言えない形で獣化システムが俺に牙を剥いたのだった。
〇今回の大ガバ:オフィシャルの応援無しに小学生がラストダンジョンに突入する展開について
擁護のしようもありませんが、無限増殖フォルテの実験段階として大量の『ゴスペル』組員によるバグ融合体によって、オフィシャルの処理能力を超えました。
まぁ、それでオッサンや熱斗に任せる展開に無理があるやろ、と思いますが、作者の頭ではこれが限界でした。
本当に反省しております。
ガチると空挺レンジャーを投入して『ゴスペル』サーバー破壊して回るアレな展開になっちゃうからユルシテ……。
やいとに関しては、ほらね? アニメの治外法権振りを見ると許されるんちゃうかな?
自衛……ゲフンゲフン。ニホン軍はアジーナに救援活動へ派遣されてすぐの出来事なのでコトブキ町まで手が回っていない状況なことをご了承ください。
……メタ的な話を申し上げると、主要メンバーの出番が無かったのでブチ込んだのも理由の一つです。
の割に描写の無かったカットマン?
ローリングカッターとカットブーメラン、サプライズチョッキンでどう戦えばいいんだ……!? 盛り上げるのムズ過ぎィ!