WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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39.俺の夏休み、終わっちゃった

『ワタちゃん!』

 

 選択すら許されない危機的状況下、俺たちの中で唯一身動きが取れるシアンが俺を呼ぶ。といっても、PETの中限定で、俺が再度プラグインしなければ介入もできやしない。

 

『どうしよう……どうしよう!』

 

 満足に手を動かせない現状、PETを覗くことも叶わないが、その声音だけでも混乱に陥っているのが手に取るようにわかる。

 

「……ぅ、ぁ」

 

 しかし、今の俺では返答すらままならない。意識を保っているのもやっとだった。

 熱斗に頼み込んだ上でここまでついてきたのに、この体たらく。俺は一体何の為に介入したというんだ。

 悔やむ暇もなく打開策に頭を巡らせるも防護服の限界を超えている今、俺ではどうすることもできない。

 

(もうひとりのぼく!)

 

 全身という全身に走る痛みが薄れていくところに、『渡』の声が胸の内に響く。

 俺が浮かばない妙案を『渡』が持ってくるご都合展開など存在せず、ただただ呼びかけずにはいられなかったのだろう。

 

(どうすればいい!?)

 

 どうしようもない。俺の役目は中途半端に終わった。

 

(終わってなんかない!)

 

 『渡』に似合わない断言だ。顔こそ合わせていないけれど、彼の心が必死に訴えてきているのは良く伝わってくる。

 

(まだぼくらにできることはきっとある!)

 

 でも、どうやって?

 

(きみは知ってる! みんなのことも全部!)

 

 知っているといっても『ロックマンエグゼ』のゲームと、漫画と、アニメ、それらに派生したメディアミックスの情報だ。

 それらは確かに値千金で、神が如き未来予知といってもいい。でも、今は何の役にも立ちはしない。

 電磁波を逃れる術を知らず、その対策も誰かに任せることしかできなかった凡夫だ。

 俺がもっと賢い人間であれば、ぶっ飛んだ科学技術を貪欲に学び、それを活かすことができれば、あるいはどうにかできたかもしれない。でも、現実はそうじゃない。

 

(だから諦める?)

 

 現に意識を繋ぎ止めるだけで精一杯の俺に何ができる?

 

(諦めるな! ぼくに……あれだけぼくに生きることを諦めさせなかったきみが言うな!)

 

 渡……?

 

(きみは覚えていないかもしれない。わからないと思う。でも、今ぼくがこうしているのはきみのお蔭だ)

 

 心臓が鳴る。『渡』の言葉によって、その鼓動が全身に熱を伝う。

 

(だから()()()()――ぼくのヒーロー)

 

 どうしようもなく無責任で、押し付けがましい英雄願望だ。でも、そいつを植え付けたのが俺だというのだから、仕方がない。ひくつく唇が、僅かに持ち上がった気がした。

 本当に、情けなくて、身勝手で、そのくせ理想ばかり見ている。俺にそっくりだ。

 

――心が重なる。

 

 一瞬の会合、すれ違うものではない。『渡』の心がすぐ近くに感じる。境界線が交わり、溶けていく。

 ずっと同じ身体にいたっていうのに、言葉を交わさねばわからなかった『渡』の気持ちが全部伝わってくる。怖くて苦しい感情でいっぱいだけれども、俺への期待が手に取るようにわかる。

 それで、何故だか強くなった気がした。勘違いではないと、ひとりでは微動だにしなかった身体が僅かにだけど自分の意思に反映させられた。腹筋が、喉が、口が動く。

 

「シアン、お願いがある」

『何でも言って!』

 

 所詮はモブふたり分、大したことなんてできやしない。『渡』やシアンが期待するようなヒーローなんざ到底なれやしない。けれど、ちっぽけな俺風情でもできることはある。

 

「俺たちの言葉を、そっちの世界にも伝わるくらいに、一緒に叫んでくれないか?」

 

 今ここにいるのは前世の地球に良く似ている『ロックマンエグゼ』の世界。けれど、似ているだけで前世とは異なる点もある。

 ……いいや、俺が知らなかっただけかもしれないが――合理を超えた奇跡ってヤツが存在していると、俺は知っている。

 

「『いつでもボクらは、繋がっている!』」

 

 その奇跡を起こすちっぽけな手伝いを、応援という形で俺は声にそう乗せた。あやふやで、けれどどうしようもなく強い力を。ゲームという一方通行な手段で彼らから学んだことを、今度は彼らに届ける為に。

 

 

 

 

 

 

 ロックマンが意識を取り戻した頃には既に四肢がバグに侵され、悲鳴を上げる頃には全身に広がっていた。

 自分の意思ではデータの崩壊を止めることも叶わず、ボディと共に精神も真っ暗な場所に飲み込まれていた。

 

(ここは……)

 

 ここには何もない。己の五感も切り離され、ただ心だけが揺蕩う場所だということをロックマンは知っている。何故ならここに来るのも通算3度目だからだ。

 初回は明確ではない。しかし後に……二度目の経験でそれを実感させられた。

 ロックマンが誕生した時、疑似人格プログラムとして刻まれた遺伝子が彼に見せた記憶――光彩斗だった時の死だ。

 通常、人間は亡くなってしまえば全てが終わりだ。生命活動を停止し、脳細胞が死滅すれば記憶することも叶わない。

 死という感覚を味わい、あまつさえそれを思い出すなんてことは到底不可能。臨死体験という、近い経験が限度だろう。

 しかし、奇しくもロックマンは現実世界の光彩斗から生を受け継いだことで、製作された段階から既知のものだった。

 

 そして二度目はロックマンとしての死――何もかもわからず、流星が如く降り注いだ弾丸によってデリートされた時。

 しかして、『saito.bat』と、弟である光熱斗とのフルシンクロによって息を吹き返した。現実世界と電脳世界の垣根を超えて、熱斗が死の淵から掬い上げてくれたのだ。

 

(ボクはまた死んだのか……くそっ)

 

 自身の状況を理解したロックマンだが、それを受け入れる訳にもいかない。

 自分自身、死にたくない想いも勿論だが、何より弟が命の危機に晒されていることが看過できやしない。

 

(戻ってアイツを倒さなくっちゃ……!)

 

 シアンがプラグアウトした今、電磁波をまき散らす元凶をどうにかできるのはロックマンしかいない。こんなところで死を受け入れている場合ではないというのに。

 

(動け! 動いてくれボクの身体!)

 

 無情にもロックマンを何もない場所に置き去りにして、時は進む。

 いくら藻掻いてところで変わらない現実が彼を叩きのめす。それでも彼は諦めきれず、どこともわからない場所に向けて我武者羅に進んで、進んで、進んで――

 

「『いつでもボクらは、繋がっている!』」

 

 黒しか存在しない筈の世界に、一筋の光が差し込んだ。それを目印にソウルだけのロックマンはその身を寄せて――気が付いた。

 何も見えないけれども、確かに感じる。物理的に近くて、限りなく遠い場所にいる弟の存在をその魂で捉えてみせた。

 

『熱斗くん……熱斗!』

「その声……彩斗兄さん……?」

 

 肉声は無い。音声データも無い世界で、彼らは心で通じ合う。双子というシンクロニシティというだけではない、今まで紡いできた絆がそうさせた。

 

「ここは一体……?」

『恐らくは精神世界、といったところかな? ボクにも詳しいことはわからない』

「そっか。死ぬ前に夢で逢えた、って訳じゃないんだ」

『弱気な発言、似合わないよ熱斗』

「でも! オレは電磁波に身体をやられて動けないし……死んでもおかしくないって」

『熱斗も聞いたでしょ? ワタルくんとシアンちゃんの声を』

「いつでもボクらは、繋がっている?」

『そうだよ。ボクらはひとりじゃない。ふたりでもない。遠く離れていたってみんながいる』

 

 彼らの脳裏に浮かぶのはワタルやシアンだけじゃない。

 途中で脱落してしまったけれど、ここまで駆け付けてくれた桜井メイル、大山デカオ、綾小路やいと。そのナビであるロール、ガッツマン、グライドが。

 熱斗の身を案じてくれたパパに、隠岐渡の祖父も。知らないだけできっと伊集院炎山とブルースだってどこかで戦っているに違いない。

 

『みんながいればきっと……どうにかなる!』

「だな! でも、実際どーすりゃいいんだ?」

『うーん……』

 

 意気消沈した気持ちこそ上向きにできたものの、具体的に現状を打破する方法までは思いつかない。

 

「『――スタイルチェンジ』」

 

 しかし、ブツ切れとなった渡たちの声が、ロックマンたちに道を示す。

 

「スタイルチェンジ? でも何スタイルになりゃいいんだ?」

『ボクにもわからないよ。でも、とにかく今は試すのみ!』

「了解! でも今の状態でスタイルチェンジをどーやってするんだ?」

『フルシンクロだ熱斗』

「フルシンクロ?」

『ボクを復活させた時のアレだよ。あのパワーをこの空間全体に埋め尽くす』

「そうすりゃいずれはスタイルチェンジのところまで繋がるって?」

『やるしかない、でしょ?』

「そうだな! いくぞ彩斗兄さん――ロックマン」

『うん熱斗くん!』

「『フルシンクロ!!』」

 

 心同士が重なり合うことで起こる共鳴現象によって光が生まれる。途方もないと思われた精神空間もそれがあっという間に照らしてみせ、それと共に彼らの心が電脳世界へ回帰する。

 

「『スタイルチェンジ!!』」

 

 ジャンクデータになりかけたボディに鞭を打って、彼らはアジーナから譲り受けた古のプログラムを発動させる。

 それは、過去の英雄の記憶。現世に生きる戦士の力となって再現されるモノ。

 それは、今まで語り継がれた英雄とは違う、異端のモノ。

 正常に働かないからこそ生まれる未知数の可能性。プラスにもマイナスにも働くそのパワーはバグによって引き起こされる。

 

 光祐一朗の手で取り除かれた筈の『saito.bat』が、フルシンクロの力によってロックマンの身体に刻まれたモノを呼び起こす。

 身体のあちこちから現れる光の円環が、その証左。ヒビ割れて崩壊するデータを無理やり繋ぎ止め、黒色に染まった全身を淡い緑色に明滅するその姿は。

 サイトバグスタイルと、どこぞの転生者が目にしていればそう命名していたかもしれない。

 

『グォオオオオ!!!!』

 

 相対するロックマンを優に上回る巨体が敵を認めて吠える。それに伴い、電脳世界全体が震えるも彼らに怯えの色は存在しない。

 

「凄い……いくらでもパワーが溢れてくる……!」

『来るよ熱斗くん!』

「おう! バトルオペレーション――やってる暇ねーか!」

 

 挨拶と言わんばかりに前足が振り下ろされるのをパネルを蹴って後退する。急加速したロックマンの身体が後ろに流れ、しかし逆の足でブレーキをかけると再度接近する。

 

「バトルチップ……ってないじゃん、ここ!」

『でもロックバスターならある!』

 

 いつものように右腕を変形させて、バスターを速射。

 本来、バグ融合体ゴスペルの体表は何者の攻撃も弾くのだが、彼の弾丸はそれをものともしない。内部を貫きこそしなかったが、その攻撃によって身体を構成するバグが零れ落ちる。

 

「効いてる! けどバスターじゃキリがねーな!」

『なら新しいスタイルチェンジの能力を使おう!』

「どんなのだ!?」

『バグを任意的にコントロールできる!』

「どんなのだ!?」

『こういう感じ!』

 

 癪に障ったらしいゴスペルがお返しとばかりに息を吸い込む素振りを見せた後、広範囲に水属性のブレスをまき散らす。

 セオリーであれば届かない範囲まで退避するところだが、ロックマンは臆せずその中に突っ込む。並のナビでは一瞬にして塵と化す一撃は、しかして彼の身体に傷ひとつ付けることも叶わない。

 勢いそのままに顎へと頭突きを叩き込み、ゴスペルへたたらを踏ませる。

 

「すっげー! 無敵化か!?」

『その代わりに勝手にHPが減ってくみたい……』

「同時にデメリットもあるのか……って無敵が切れたな」

『他にもこんなこともできるみたい!』

 

 ゴスペルから散らばったバグの欠片に右手で触れて処理を行う。余分となったジャンクデータが除去された後に残ったのはとあるチップデータだ。

 

「これは……【バリアブルソード】!? どーなってんだコレ!?」

『考えるのは後後! 今は攻撃しよう熱斗くん!』

 

 変形自在のソードを構え、そこから3連のソニックブームを放つ。1発こそ前足に阻まれたが、残りは横面や喉元に着弾するも、その傷は浅い。

 

「今度のバグは勝手に身体が動く!?」

『でもこのスピードなら十分躱せる!』

 

 エリアのあちこちから分離されたジャンクデータがロックマンに向けて飛来するも、不規則な動きでそれを回避。

 

『グォオオオオ……!!』

 

 有効打を与えられずにいるゴスペルが吠える。それは苦鳴に似たもので、地響きを伴った威容は失われつつあったが、未だ脅威は拭えない。

 

「今度は何だ……?」

『あれはロールちゃん!? ぐぅ……!?』

 

 手を変え品を変えたのはロックマンだけでなく、今度はゴスペルも彼らに驚きを与える。狼を模した頭部がドロリとして溶けた直後、彼らが見慣れた可憐な少女ナビへと変貌する。

 呆気に取られた彼は棒立ちのまま、ロールウィップを無防備に食らう。

 

「くそっ、油断した……!」

『バグ融合でナビを生成したんだ、アイツ』

「まるでブラザースタイルみたいだな」

『今度は……ガッツマン!!』

 

 体勢を整えたのも束の間、今度は巨体へと変貌したゴスペルが大振りのパンチを仕掛けてくる。

 それに合わせてロックマンがカウンターの姿勢を取って顔面にロックバスターをお見舞いすると、露骨に仰け反る。どうも獣状態と違い、無防備な姿を晒すらしい。

 

「見ているこっちは気分が悪いけど……チャンスでもあるみたいだな」

『次も来る――違う!?』

 

 ショックウェーブを織り交ぜ物量攻撃を迫る相手に対し、回避に専念すること十数秒。

 またもゴスペルが己の頭部を変形させたところでロックマンが身構えるも、それが災いした。変貌したのはナビの姿ではなく、彼の全身よりも巨大なドリルだ。

 ギュルギュルと音を立てて迫る凶器に対し、足を止めた彼らには真正面から受け止める以外に選択肢が残されていなかった。

 

「う、ぐぐぐっ」

『こうなったら!!』

 

 気を抜けば全身をバラバラにしてしまえそうなそれを両手で受け止める。質量差を考えればすぐにでも吹き飛びそうなロックマンだが、ジリジリと後退するだけで踏ん張りが効いている。

 データとはいえ掌の表面からゴリゴリと削られていく感覚に苦悶の声を上げる熱斗を耳にし、ロックマンはアプローチを変える。

 バグスタイルの能力を己ではなく、目の前のドリルに向けて発揮。しかし、今までの効果を抽出するやり方ではなく、無軌道にバグを付与する。

 このドリルとて元はバグの塊。ゴスペルによって指向性を与えられているが、追加のバグで滅茶苦茶にしてしまえば、

 

『形も保てない!』

「やったぜロックマン!」

 

 内部崩壊していくドリルに一安心する熱斗だったが、そんな彼を嘲笑うかのようにロックマンの身体が吸い寄せられる。ゴスペルによる【スイコミ】だ。

 

「ブレスが来るぞ!」

『今度はこうやって……!』

 

 崩された体勢で広範囲のブレスを回避するのは無理と悟ったロックマンはパネルに手を着いて能力を発動。バグ化したそれを飛来する別のバグとくっつけて再構成。ゴスペルのドリル同様、硬質化して即席の盾にする狙いだ。

 その目論見は見事に通り、電気属性のブレスはバグの塊を前に役目も果たせず阻まれる。僅かに火の粉が彼の表面を撫でただけに終わる。

 

『今度はこっちの番だ!』

「ッ!? 後ろだロックマン!」

 

 ブレスの後隙を狙って飛び出すも、誘われていた。いつの間にか忍び寄っていたゴスペルの尾がロックマンの背後から襲い掛かり、胴体に巻き付かれてしまう。

 

「無敵化だ!」

『了解! ……ダメだ、上手くいかない!』

「アイツ、学習してやがんのか!」

 

 彼らが無敵化して脱出を図ろうとするも、ゴスペルから付与されるバグによって失敗に終わる。先程のドリルの対処を真似された形だ。

 

「クソ! 吸収しようとしてんのかコイツ!」

『干渉した途端にヤツに吸われてくばかりで拘束が……!』

 

 尻尾に過剰なバグを与えて崩壊させる目算であったが、この化け物は彼らの想定を超えていた。

 キャパシティの限界など知らないとばかりにゴスペルの吸収は止まらず、その身体は更に歪なモノとなってはいくが獣の姿を保ったままだ。

 

「こうなったらオレたちもやるぞ!」

『本気なの熱斗くん!?』

「あぁ。アイツにできてオレたちにできないワケねーだろ?」

『大量のバグを取り入れて無事でいられる保証はどこにもないんだよ? 仮にゴスペルに勝ててもボクたちが暴走して電脳世界を、みんなの世界を壊してしまうかもしれないんだよ?』

「そうはなんねーよ。オレがそうはさせねー。ロックマンが暴走したってオレが止めてみせる」

『熱斗くん……』

「万が一オレがダメだとしてもさ。ワタルがいる。今度はアイツが何とかしてくれるかもしれねーだろ?」

『……』

「ワタルでダメならメイルやデカオ、やいとが。頼れるパパだって、ワタルのじーちゃんや科学省の大人たちだっているんだ。最悪、炎山とブルースが止めに来るかもしんねーけど」

 

 不安に顔を曇らせるロックマンに熱斗は快活に笑う。能天気とも取れる彼の態度は強い信頼とも言えた。

 

「ゴスペルを倒すのがオレたちの役目だロックマン」

『わかったよ熱斗くん』

 

 憂慮に揺らいだロックマンの心が再び熱斗のものと重なる。フルシンクロの光が身を包み、尻尾の隙間から溢れるそれがゴスペルを、電脳世界を照らしていく。

 

『ギャッ!?』

 

 動揺に呻くゴスペル。バグを進行させて餌とする筈だった存在が、逆に己を食らう行動を取ってきたのだから。

 ロックマンの表面が剥がされ取り込まれていく中、ゴスペルもまた自身を構成するバグが吸われていく。完全なるノーガードの食らい合いに獣が怯んだ。

 だが、光兄弟は止まらない。たとえ腕や足がボロボロになろうと、己と兄弟の心を見失わない限り、諦めるなんて頭に存在しないのだから。

 始めこそ拮抗していた吸収速度に差が生まれ、貪欲なままにロックマンがゴスペルを貪り尽くす。獣が拘束を取りやめ、距離を取ろうとしてもバグ化したパネルごと小さい身体に引き寄せられる。

 鋭い爪は彼に届く前に崩れ落ちた。牙を突き立てた途端、その牙ごと顔面が彼の身体に飲み込まれてしまう。

 咆哮を上げることも叶わなくなった獣の残骸は死に際の最後っ屁の自爆を敢行しようとするも、そのエネルギーすら規定量に届かぬまま光に消える。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』

 

 その光はメインサーバーだけに飽き足らず、コトブキマンション全体を飲み込み、そして――1人の少年とそのネットナビによって新たな電脳世界に作り替えられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、『渡』との疑似フルシンクロ状態は長続きせず、ロックマンと熱斗が繋がったことを錯覚した後は気絶していたらしい。

 病院のベッドで目を覚ました頃には既に数日が経過しており、気怠い状態で医者からのサウンディングを行った後、続々とやってきた見舞い客を相手にしていく内に現状をようやっと把握できた。

 

 まずは俺が気絶した後の話だが、光兄弟がゴスペルごとバグ全体を吸収する形で事態は終息。根本の原因が取り除かれたことでサーバーは稼働を停止し、電磁波異常も落ち着きを見せたらしい。

 で、いち早く意識を取り戻した熱斗が帯広シュンを起こした後、2人で気絶したままの俺を抱えてマンションを脱出し、やいとたちが乗ってきたヘリでそのまま病院に直行。彼女のコネですぐさま検査入院したのだとか。

 結果としては熱斗が全くの異常無し。帯広は若干手足に痺れが残っていたものの、命に係わることは無く。一番重い症状だった俺も手厚い治療で後遺症を残さず済むのだとか。かがくのちからってすげー!

 医者は熱斗の容態に首を傾げていたけれど、ロックマンと光博士の見解によればフルシンクロによる影響らしい。

 彩斗兄さん自身も電脳獣モドキのグレイガによって重篤なバグに侵されるも、バグスタイルの発現によって自分の身体を正常に戻せたらしいからな。その結果に引っ張られて熱斗の身体も無事だった、と。もはやオカルト過ぎて笑うしかできねぇわ。

 

 帯広は検査後に自ら通報し、お縄となった。治療は少年院でも受けられる、と熱斗に言い残して一度も振り返ることなくオフィシャルに連れていかれたとのこと。

 少なくとも熱斗の目からは帯広の顔は厳しいものではなかった、と語られた。世界をどう思っているかはさておき、自分の処遇については納得がいったのかもな。

 正式な出所がいつになるかはわからないけれど、『渡』の友達になってくれるといいな。きっと彼ら同士、俺なんかよりもいい関係を築けるだろうし。

 

 さて元凶が捕まり、世界に平和が戻った――なんて原作通りに事が運ぶことはなくて。

 オフィシャルは引き続き『ゴスペル』残党であるバグ融合体の対処と、各所被害の対応に追われる日々。

 炎山なんかは暴走したブルースをデリートされた翌日には、相棒をバージョンアップさせて事態の収拾に励んでいたらしい。

 そのブルースを止めた功績として元WWW幹部の色綾まどい、ジャック・エレキテル並びにマハ・ジャラマの刑期が短縮。残りの火野ケンイチも『文明破壊作戦』の要であるフリーズマン撃破で同様の処遇を受けたのだとか。

 自由の身になるには未だ遠い道だけど、これが更生の一歩目になると嬉しい限りである。

 尚、その監視任務についていたサロマさんとみゆきさんには微妙な額の特別手当がついただけだって愚痴られたのは蛇足か。

 

 最後に俺と熱斗の処遇について。

 未然に最大の脅威を取り除き、バグ融合体の増援を絶った功績は言うに及ばず、世界を救った最大の功労者となっただろう。ただし、小学生という立場でなければ、だが。

 どうしたって義務教育を終えていない子供を、下手すれば命に係わる場所に送り込んだ、というのは体裁に悪い。

 だからといって事実を伏せるには今回の一件は目撃者が多過ぎた。端的に言えば、俺と熱斗が明らかに様子のおかしいコトブキマンションに乗り込み、それからしばらくして突如事態が収まったのだから。そこまで勘ぐらなくとも推測は容易に立ってしまう。

 それに加えてやいとがヘリを動かしたのもマズかったらしい。避難が済んでいないのに、一個人だけが空を自由に行き来する姿は大いにヘイトを買ったのだ。

 だからネット警察及びオフィシャル上層部はまぁ紛糾したらしい。よもやGABGOM社にまで飛び火する事態にまで陥った時――光祐一朗が動いた。

 情報の正誤が定かでない初期段階でメディアを使って情報統制に動くよう提案したらしい。

 筋書としてはオフィシャルのエースである伊集院炎山と、皆の記憶にも新しいヒーローの光熱斗が、後詰めとして派遣された、というもの。ヘリも関係者によるもの、という方向でいくらしい。

 委細を知らない民衆向けだからこそできた暴挙でもある。ヘリの乗員は見られていないし、やいとたちの目撃情報の少なさや、俺たちが防護服を纏っていたことで正体がバレなかったのも一因だろう。

 

 まぁ、要するにどうしたって小学生を使ったことがネックになる為、批判を無くす方向ではなく、少なくする方向にしたという訳だ。

 その為に知名度の低い俺ではなく、言わずもがなの炎山と、光一族や昨今のドリームウイルス打倒の一件でネームバリューの高い熱斗が選ばれた。

 後々、ネットセイバーとして動くのであれば、民衆に英雄視させた方が動きやすいというのもあるだろう。

 これが前世の日本であれば話は別だが、ここは容易に掌返しするエグゼ世界。批判の矛先さえ丸くしてしまえば、望む方向に持っていけるらしい。

 伝聞で聞いた身としてはそう上手く事が運ぶんやろか、と思わなくもないが、その辺までは俺の手も及ぶまいて。

 

『うーわーきーだー!』

「仕方ないだろ仕事なんだからよ」

『尻軽ぅ~。私と仕事、どっちが大事なの!?』

「どっちも大事だから頑張ってんだろうが」

『ふ、ふーん……』

 

 ぷんすかと怒るシアンがいるPETとは別のPETを操作しながら会話に付き合う。

 損傷の激しい彼女では名人さんから請け負った仕事はこなせないし、かといって新しいボディを用意するには手持ちが心許ない。

 あるいは恥を忍んでプリンセスプライドに頼み込むなり、今までの功績を盾に科学省を揺すれば現状よりも高性能ナビをくれるかもしれない。けれど、今はそうしなかった。

 新しくナビを作るのであれば、俺の意向が全部伝わったものに仕上げたいからな。シアンには悪いが、俺が退院するまで待ってもらおう。

 つーか、繋ぎとして用意したノーマルナビを嫌がっている時点で文句を言う権利はねぇ!

 

『って誤魔化されないよ!? なーにニヤニヤしてんのさ!』

「普段使わないナビをオペレートするの楽しいな、って」

『やっぱ浮気じゃんか!!』

 

 こうして長いようで短かった夏休みが終わる。まぁ、経過観察やらリハビリ次第では俺だけ夏休み延長戦に突入するやもしれないけれど。

 遊びたい盛りの『渡』としては不満の残る夏休みだったかもしれない。俺としても色々準備や対処に追われて満足に丸一日休めたのは数える程しかない。

 だからまぁ、名人さんからの仕事に一区切りつけたら存分に休むとしよう。

 

(お疲れさま)

『あーっ! キサマっ、眠ろうとしているなぁ! そうはさせんゾ!』

 

 こうして安寧を貪るのも、そう長くはないのだから。

 




 という訳で、『2』の内容もこれにて完結です。くぅ疲(

 ここからは『1』同様、作者の後語りをさせていただきたく。苦手な方はブラバしてもろて。





 まず、散々シアンや『渡』が持ち上げてくれた癖してラストバトルに『いのる』コマンドしかしなかったアホについて。
 『1』みたくプロットからまぁズレることズレること。当初は【バグシュウセイ】でアシストする予定が「順当に行くとつまらん」と判断した結果、こんな形に。
 メタ的な話をすれば、隠岐渡はモブで、現状シアンもまた一般の範疇に収まる性能しか持ち合わせていません。
 だからシナリオボスにはメタ張って倒すことはできても、特別な存在であるラスボスは同じく特別な存在である光熱斗とロックマンしか倒せないバランスになっております。ぶっちゃけ火力が足りねぇ……。
 『2』にはプリズムコンボがある? ワンパターンになるから禁止カードじゃボケ! 

 まぁ、『3』ではガッツリラストバトルに参加してもらう予定だけどな!



 次に拙作のシリアス要素について。
 単純に原作の焼き回しとかコメディ部分に比べてつまらんからか、露骨にお気に入り者数が減るのは把握していましたが、基本的に変えない予定です。ご了承ください。
 お辛い要素もロックマンエグゼの一部分。渡くんの手の届く範囲であればブレイクも可能ですけれど、どう考えても取りこぼしは生まれちゃうよなって。
 シンプルに面白くないというのは……まぁ、精進します、ハイ。



 後、改めて通して読むと『1』と比べてシアンのバトルが少ない問題について。
 これに関しても他キャラを活躍させてぇなァ、って欲求に割食った感じですね。
 ぶっちゃけ元々主人公の路線が暗躍で、周囲がバージョンアップしている中で旧型の状態でタメを張れている主人公コンビもおかしいんですけど。
 まぁ、今話で匂わせた通り、『3』になったらパワーアップイベぶち込むので乞うご期待。


 では最後に、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
 エグゼ3の復習しながらの投稿になりますが、これからも拙作にお付き合いいただければ幸いです。
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