WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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本編の流れ的に挟むのが難しかった小ネタ集です。
時系列が滅茶苦茶なのは許してヒヤシンス。お願いしまむら。


閑話 きょうは なんにもない すばらしい一日だった

〇渡と英と……?

 

「渡、怪我の具合はどうじゃ?」

「お爺ちゃん、そんな1日じゃ変わらないって」

 

 コトブキマンションの一件で入院してから7日目。仕事の合間を縫って足繁く通う祖父に対して『渡』の一言は実にドライであった。

 まぁ、初めの内は申し訳ない様子だったり、祖父の優しさに喜ぶ一幕もあったのだが。それが連日、過保護な態度が変わらない事に『渡』も食傷気味に陥ったらしい。

 でも、無茶をしたのは俺たちだし、もうちょいオブラートに包んだ言い方にしない? と提案するも『渡』にすっぱり却下される。

 肉親に遠慮しなくていい、って英さんも言っていたし、それには俺も同意したけれどもさ。手心というものがあるといいますか。

 

「渡くーん? ってお爺さんが来てたんだ。邪魔してゴメンね?」

「いえいえお構いなく」

「おかまいなくー」

 

 大した用事でもなかったのか、若い看護師はぺこりと頭を下げて背を向ける。その途端、取り繕った表情から一変してデレデレとした『渡』の視線は立派なお尻に釘付けとなってしまう。

 男だし、目がいっちゃうのはしゃーないけど、少しは恥じらいってものを覚えるべきじゃないのか。そう心に訴えかけようと思うも、英さんも同様のムーブをかましていたところで諦める。

 血は争えないな、こいつら。

 

「なんかもうひとりのぼくが呆れてる……」

「あれだけ見事なヒップライン、視線を引き寄せられてもおかしくないじゃろ」

 

 うんうんと頷く英さんの姿に、ふと祖母がいなくなった反動でこうなったんじゃないか、という考えが過る。

 

「生前? のお婆ちゃんに良く怒られてたんじゃないかって聞いてるみたい」

「家内が? むしろ逆じゃ逆。あいつの方が女体大好きだったわい――」

 

 そうして初めて語られる『渡』の祖母のエピソードはまさしく青天の霹靂である。

 挨拶代わりに尻を撫でるって何? 女同士ならセーフ理論? 何なら男のケツも触ってた? 太ももだけじゃなくて、だらしない腹や二の腕も大好き?

 

「――それでいて、その場にいるだけで周囲が華やぐ人柄でのぅ。知り合った者は皆、なんだかんだ家内を好いておったわい」

 

 しみじみと締めの言葉に入る英さんだったが、どうしたって良い話は終われねぇよ!

 嫌がる相手にはしない一応の分別があったといえ、セクハラ魔人だろ! そのセクハラ魔人とスケベ爺さんの実子が『渡』の父親? 遺伝的にどう転んでもエロじゃん。

 やだよ、俺。会ったことも無い相手をこんな先入観で見たくねぇよマジで!

 

 

 

 

 

 

 

 

〇とあるプリンセスのお悩み

 

「ねぇ……ワタ? わたくしもう我慢できませんの」

「――」

「もう何度も待ち焦がれて堪らない! どうか意地悪なさらないで?」

「――」

「お願い。お願いだから――ハイチュ〇を送って!」

 

 PETのスピーカーからセンシティブな吐息と共に聞こえてきたのは、とあるお菓子を催促する一国の姫君の声であった。

 ハイ〇ュウの説明はもはや不要だと思うが、それに至る経緯だけはまぁ大したことは無いけれど一応整理しておくことにしよう。

 事の始まりは単なる雑談の中の、何気ない一言だった。

 クリームランドの食べ物を喜々として語るプライド殿下へ、こちらもニホンの菓子製品を話したところ、随分と興味を引いてしまったらしい。その一因として、口にできないであろうシアンが無駄に煽ったところもあると個人的には思っている。

 で、カワイイおねだり攻撃に根負けした俺はハイチ〇ウ含めた既製品を送った結果、〇イチュウにドハマりするクリームランドの王女が爆誕してしまった。以上。

 

「あの、クリームランドでは生産しておられないんで?」

「クリームランド市場に出回るアメロッパ基準のハ〇チュウモドキとニホンの繊細な味付けのするハイチュ〇は別物! わたくしの欲する〇イチュウは貴方の国にしかないの!」

 

 なんともアメロッパに失礼な発言をしていると思うが、それだけ熱の入りが違うのだろう。俺としてはアメロッパで作られた製品の味を知らないから何も言えないけど。

 少なくとも前世のアメリカじゃそうでも無かった筈だ。こっちの世界だと現地向けに味を変えた結果なのかね?

 

「ワタ。貴方は知っているでしょう? 大臣がハイチ〇ウを馬鹿にされて、カッとなったわたくしがハイ〇ュウの素晴らしさを説いたのを」

「彼の弁舌に負けたのも聞きました」

「残念ながら彼には届かなかったけれど、わたくしの布教は一部上手くいったのです」

 

 すっとプライド殿下の声が遠くなったかと思ったら、別の女性の声に代わる。

 

「不覚。ワタ……貴様なんてものをもらたしたのだ」

「貴方もですか。グロディアさん」

 

 ドMなら歓喜の声を上げそうな鋭い目つきに、チラリと見え隠れする八重歯、巷じゃもう流行らないであろう暴力属性を備えたグロディアさんが苦悶の表情を浮かべていた。

 しかし言動と合わせて女騎士のくっころに見えてしまう。従者揃ってセンシティブだから『渡』くんが胸の内でそらもう大喜びよ。

 

「毒見役の結果ですか?」

「忠告。私もプライド様もこんな身体にした責任を取ってもらおうか」

「もう狙って言ってますそれ?」

「妥協。私の好きなデコポン味であれば……お姉ちゃんと呼ぶのも許してやる」

「それで喜ぶと思ってんのか。世界の中心はお前じゃねぇんだよ」

 

 その後、大人買いしたハイチュ〇をクリームランドの城に向けて発送して無事解決、かと思いきや。

 その中に期間限定フレーバーが紛れ込んだせいでプライド殿下含むクリームランド要人たちが更に苦しむ羽目になるのは別の話。

 

 

 

 

 

 

〇副社長自らが(CM撮影?) サスガダァ

 

「次世代型PETが発売ということでCMを打つのはわかる。極々当たり前のことだ」

「はい。そうですね」

「しかしオレを起用するのはどうなんだ? 広告費用に余裕が無い訳ではないだろう?」

「仰る通りです。ですが、今や副社長の知名度はニホンで知らぬ者はいないといっても過言ではないでしょう。何せ世界を救ったヒーローなのですから。手垢塗れのタレントを起用するより新鮮で効果的だと思われます」

「……ヒーローなどでは決してないがな」

「それに今後のIPC(伊集院PETカンパニー)を思えば副社長を広告塔にするのも経営戦略としてそう悪い手ではないかと」

「それは納得した。納得はしたが――肝心の内容は何なんだこれは!?」

 

 平時より感情を表に出さないよう努めている伊集院炎山が広報担当の社員に向けて声を荒げる。

 広報担当の彼は炎山の態度に不思議そうに首を傾げるが、それは炎山とて同じこと。

 

「『きみのハートにプラグイン』このキャッチコピーはなんなんだ!?」

「いいキャッチコピーですよね。0と1で構成された電脳世界においてハート――つまりは『心』のありようは変わらない。電脳世界を隔てていても伝えたい気持ちがビンビンに感じるワードセンスですね」

「正気か貴様! 『きみのハートにプラグイン』だぞ!?」

「『きみのハートにプラグイン』ですよね?」

「クソッ! 真面目に取り合ったオレがバカだった! この企画を通した最終責任者は誰だ?」

「社長でございます」

「は?」

「ですから伊集院秀石代表取締役でございます」

「嘘だと言ってくれ父さん……!」

 

 予想外からの刺客に愕然とする炎山であったが、オフィシャルの仕事で幾度と修羅場を潜り抜けてきた彼の立ち直りは早く。

 一度もリテイクを出すこともなく、CM撮影は短時間で収録を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

〇山川味太VSマハ・ジャラマ

 

 それは一般開放されたオフィシャルの食堂で起きた小さな物語。

 

「デンサン一旨いカレーと聞いて遥々やってきたけどさ、この程度とはガッカリしちゃうぜ」

「それは聞き捨てならないですね!」

 

 丸眼鏡をかけた、ぽってりとした顔をした少年がわざとらしく食器を鳴らしたところ、ニホン人ばかりの中で目立つ褐色肌のナマステー人が姿を見せる。割烹着姿のマハ・ジャラマだ。

 

「碌に味を知らないお子様が美食家気取りとは。実に嘆かわしい」

「美食家気取り? 違う違う。天才料理人山川味太とはオイラのことだ!」

「知りませんね、そんな名前」

「そっちこそ見掛け倒しのモグリなんじゃない?」

「カレーの本場ナマステーで知らぬ者無しと謳われるマハ・ジャラマに向かって何たる言い草! 子供であろうと許しませんよ!」

「おまえに許してもらう必要なんてねーよ!! 何ならオイラと勝負するか?」

「吐いた唾は吞めませんよ?」

「料理人が言っていい台詞じゃねぇぜ! ルールは全国お料理協会のクッキングバトルのスタンダードでいいな?」

「いいでしょう」

「制限時間は2時間。食材はここにあるものだけ。クッキングバトルの開始だぜ!!」

 

 突如として始まるクッキングバトル。審査員に選ばれたのは食堂に訪れていた職員や一般客から5名をランダムに選抜。その中にはカレー大好き小学生の光熱斗がスプーン片手にワクワクする姿も見られる。

 

「クッキングマシンに頼る青二才が良くもまぁ吠えたものです」

「ロートルが良く言うぜ。機械の方が速くて正確なんだ。回転率、客商売ってのを知らないんじゃない?」

「人の手でしか生み出せない妙技を知らぬ若造が!」

「過去に固執する化石人間!」

 

 食材を吟味するマハ・ジャラマの横で、鍋などが調理道具が一体となったマシーンの組み立てを行う味太。一見不利なスタートに思える味太の顔には余裕が浮かぶ。

 

(ふむ。大口を叩くだけはありますね)

 

 下拵えを終えたマハ・ジャラマを尻目にようやっと食材選びを始める味太であったが、その手に迷いはない。

 その色艶や手触りから感じ取れる新鮮さを見抜く選定眼は一流のそれといっていい。また食材ごとに細かく調整されたクッキングマシンの動きは実に見事だ。

 クッキングマシンは料理の『り』の字も知らないお子様であろうと搭載されたアシスト機能によって、ネットナビの基本的な操作ができれば誰でも料理ができる夢のようなマシーンだ。

 しかし、それが初心者向けだけであると言われればそうではない。多機能に渡るクッキングマシーンを使いこなすには相応の料理人である必要があるのだ。

 

(あのカレー国のヤツ、結構やるじゃねーか)

 

 対するマハ・ジャラマもそれに負けず劣らず。時に大胆、時にしなやかに動く彼の腕は味太であっても舌を巻く程だ。

 特にスパイスの配合など驚嘆させられる。漂ってくる複雑な匂いだけでも抜群のセンスが伝わってくる。

 

「完成だ!」

「こちらも完成しました」

 

 どちらも規定通りの時間に調理を完了し、審査員たちの実食に移る。

 まずは先攻である味太のカレー『ウルトラデリシャスカレー』からだ。

 

「でりしゃす!!」

「なにこれ懐かしい味……」

「でも母の味とも違う……」

「うめぇ! とにかくうめぇ!」

 

 熱斗を除き審査員一同は涙を流しながらカレーを口に運ぶ。中には爺さんが謎の爆発を引き起こすハプニングもあった。

 

「懐かしい? そうだろそうだろ? 何せオイラのカレーには隠し味として味噌を入れてるからな」

「味噌を?」

「隠し味としちゃあチョコやコーヒー、ワイン、ソースなんかと同じく定番っちゃ定番かもな。でもオイラのはそれらと一線を画す! といっても企業秘密だけどな!」

 

 大きく胸を張ってドヤ顔をかます味太だが、その態度も納得の一品。審査員が素人故に具体的な点数こそ出なかったものの、「これ以上旨いカレーは出ないだろう」と言外に現れているようだった。

 

 しかし後攻であるマハ・ジャラマは動揺を見せない。口で語らず、料理の腕だけで語ってみせるように審査員の前に皿を並べる。そして『マハ壱番カレー』の実食に入る。

 

「うーーまーーいーーぞーー!!」

「辛い! 辛いがしかし!」

「その中に確かに感じる旨味!」

「うめぇ! とにかくうめぇ!」

 

 先程の味太のカレーと打って変わって、こちらは実に刺激的な一品なのか水を手にする審査員。しかし同時にカレーをすくうスプーンの動きも止まらない。

 後、爺さんが目を光らせたハプニングもあった。

 

「私のカレーに小手先など不要。厳選したスパイスと食材が織りなすハーモニーこそが至高なのです」

 

 勝ち濃厚に思われた味太のカレーも見事に覆されて満足げな審査員一同。しかし、そうなれば審査が難しくなるのが必定。甲乙つけがたいが故に、それぞれの好みが出た

 

「実に悩ましいが……ワシはマハ・ジャラマ氏のカレーじゃな。カレーとはこうあるべき、というひとつの形が示された一品といっていいじゃろ」

「わたしは味太くんのカレー! あんなに心を揺さぶられたのは初めてだもの」

「マハ・ジャラマに一票。気が付けばカレーが無くなるのは初体験だからな」

「やっぱ味太かな~? マハさんのはちょ~っと辛いかなって」

 

 票は2:2に分かれ、勝敗の行方は光熱斗に委ねられたのだが、

 

「どっちもうまかったけど……やっぱママのカレーが一番だな!」

 

 まさかの無効票。ノーコンテストである。マザコン待ったなしと思われる発言に味太、マハ・ジャラマ両者は納得がいく筈もなく。

 

「我々はどちらが良いのか聞いているのです! 答えなさい光熱斗!」

「そうだ! ママのカレーなんてここにはねーだろうが! どっちかを選べ!」

「えー……でも、どっちもなーんか足りないんだよなぁ」

 

 決着がいかないのも尤もだが、それ以上に熱斗の発言で料理人としてのプライドが著しく傷つけられたふたりは、

 

「再戦といきましょう」

「あぁ! ここまで言われちゃ引き下がれねーな!」

 

 その後もカレーを作り続ける両名だったが、熱斗の言葉を撤回させるに至らず。

 この勝負はカレーを腹いっぱい食べられた熱斗のひとり勝ちという何とも言えない結果に終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

〇デモンズ海域 地図には存在しない島

 

『ワイリー様! 至急お耳に入れたい情報がございます!』

「なんじゃ騒がしい」

『WWWエリアを任されたプラネットマンのシグナルが途絶えました! プラネットマンから送られてきた最後の通信によれば青いナビにデリートされた模様!』

「フンッ、ロックマンか。して他には?」

『いいえ特には』

「隠岐渡はおらんか。あるいは……」

 

 Dr.ワイリーは小さく口の中で呟き、ゆるゆると首を振る。

 そこにいない筈の少年の幻影を追う己に苦笑するも、すぐに表情を引き締める。

 

『これではWWWエリアの管理者が不在となりますが如何いたしましょう?』

「放棄しろ」

『は……?』

「三度は言わぬ。資金と人員は既に集まった。役目を終えたエリアは疾くデリートじゃ」

『よろしいのですか? あそこにはギガプロテクト含め優秀なセキュリティが……』

「……」

『すぐ手配させます』

 

 老人の無言の圧力に負け、そのネットナビは恐縮した様子でその場を去る。

 これでもワイリーとしては優しい対応をした方だ。これが愚鈍な人間であれば、罵倒交じりに叱責を飛ばし、その任を解いていたかもしれない。

 

「一度は阻まれたが……ここまでは想定内」

 

 デスクチェアに深く腰掛けたワイリーは皺だらけの瞼を閉じて鼻息を漏らす。

 山奥に構えたWWWの基地が自爆してから、どれだけの月日が流れただろう。秘密裡にパトロンと接触し、このデモンズ海域に拠点を構えるこの数か月間。

 10にも満たない子供であれば長いものであろうが、年老いた彼には一瞬のことに思える。

 その感想を部下共に漏らせば「海底ケーブルを急ピッチで引くのにどれだけ苦労したと思ってんだクソ爺」と陰口を叩かれるやもしれないが、ワイリーには知ったことではない。

 かつて科学省にいた2人の天才のせいで上がりに上がったハードルは、この程度の作業は温いものだと思わせるくらいには激務だとその身で知っていたからだ。

 

「儂が動けば貴様も動くんじゃろ」

 

 『ゴスペル』を隠れ蓑に牙を研ぐ時間はもう終わった。

 新生WWWの誰に明かそうとも信じないであろう予感を胸に、老人は目を見開く。その為に()()()()()()しなかった事をワイリー手ずからしたのだ。

 だから、

 

「貴様も本気で来い隠岐渡」 




次話からは今度こそ『3』に突入する予定
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