WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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41.『渡』のなく頃に~脳破壊編~

 9月中旬、普段は立ち入れない科学省のウイルス研究室に秋原小学校5年A組は校外学習にやってきていた。

 職員からのウイルスに関する注意喚起の後、自由に見学する時間が設けられ、彼らはコンソールやら映り出される立体映像を前にワイワイしている中、ひとりだんまり孤立しかかっている生徒がいる。

 皆さんご存じ、隠岐渡である。今日は社会復帰のリハビリとして『渡』に長々と主導権を返しているのだが、

 

(熱斗のところに混ぜてもらえよ)

(あの輪に混ざるのムズかしいよ……)

 

 帯広シュンを前にした時の威勢はどこへやら、引っ込み思案の『渡』はもじもじするばかりで動こうとしない。

 あの時は火事場の何とやら、自分の境遇と近いのもあって自ら関わったのだろうが、俺としては日常生活の方も頑張ってほしいものだ。

 お節介だと思うが、小学生の内にある程度コミュニケーションを取れるようにしておかないと後々大変だしな。

 中学、高校までならある程度顔見知りがいたり、同じコミュニティで会話する機会にも恵まれるけど、大学は自分から動かないとマジで孤立するからな。

 それこそ社会人になったら嫌でも対人能力を要求されるし、鍛えるのなら早い方が良いだろう。ずっと俺が見守っていられる保証も無いし、ここは頑張ってもらおう。

 

(課題レポートあるっぽいし、ちゃんと参加しろって)

(はーい……)

 

「あ、あのさ……」

「ワタルか? ツラそうな顔してるけどウ〇コ我慢してんのかー?」

「デカオ君ったら! やめてよ、もーっ!」

「サイッテー!」

「どーしたワタル?」

「いや、そのさ、一緒に見学していいかな?」

「別に聞く程のことじゃねーよ」

 

 優しい世界に迎えられて『渡』の心が軽くなった様子。デカオの気遣いもデリカシーに欠けるものの、平成の空気が漂うエグゼ世界では割と優しい対応だと思うのだが。

 大きい方を済ませるだけでからかいの対象になったからなぁ……。扉の上から覗いてくるお調子者も現在進行形でいるけれど、特殊性癖のホモかよ。

 

 と汚い話はここで終いにして、思考を現実の方へと切り替える。

 『渡』たちの前に映し出されるディスプレイには、黄色のヘルメットにツルハシを持った一頭身でお馴染みのメットールが科学省のナビの指示に従い、いそいそとデータを運ぶ姿が見られる。

 普段こそ破壊活動ばかりのメットールがプログラム君の真似事する姿に、女子たちが黄色い声を上げる。

 実用性としては低いように思えるけれど、まだまだデータを取っている段階なのか。はたまた見学者に向けてのものなのか。

 新設されたウイルス研究室が主目的として掲げるウイルスの有効活用のデモンストレーションにしては少し牧歌的な気もする。

 これなら『4』のヒノケンがやっていた、ボルケルギアを点火装置にしていた一件の方が直接的でわかりやすいとは思う。まぁ、こんなところで小火騒ぎのリスクを抱える訳もないか。

 

 原作では後々ウイルスチップという寄り道要素があったけれど、俺のいる世界でも実現するのかね?

 ただするにしても大量のバグの欠片を要求してくるのはなぁ……。バグピーストレーダーといい、バグの欠片要求数がおかしいんよ。

 その点、『6』のウイルスバトラーは有情。ミニゲーム要素としても面白かったしな。

 まぁ、『3』のウイルスを仲間として召喚するコンセプトは良いんだけども、スロットの目押しはどうにかならなかったん?

 

「氷型ウイルスってのは動かないんだね?」

「これがあの地震の原因? イマイチ想像できねー」

 

 次にハリボテではあるものの展示される氷型ウイルスを目にし、その実態を知らないクラスメイトらは呑気そうな声を上げるが、科学省側としては教訓のようなものだろう。

 精鋭のネットナビだろうと破壊するのも敵わないそれを前にして、科学省として酷くプライドを傷付けられたに違いない。また文明破壊作戦と似た事例が起こった際に対抗すべく、ウイルス研究に力を注いでいる側面もあるかもしれなかった。

 

「はーい、みんな集合――」

 

 そうこうしている内に時間は流れ、担任である大園まりこ先生の号令に従って生徒たちが集まる。整列も程々に、彼女が締めの言葉を発している最中、

 

「ねぇみんな、今晩チャットでもしない?」

「いいね!」

「オレ様も異論はないぜ!」

「オレも――」

 

 いつもの4人が仲良く放課後のことを決め、熱斗が当然とばかりに賛同しようとしたところで電子音が鳴る。

 

「こら! そこ! お喋りしない! 熱斗くんもPETはマナーモードにする!」

「はーい……」

 

 まりこ先生の軽いお叱りに肩を落とす一同を見てクラスメイトがクスクスと笑うが……おう『渡』は笑っている場合じゃねぇぞ。

 お前もチャット会に参加表明すんだよ。

 

(図々しいって思われない?)

(知らない間柄ならともかく、ロックマンたちと仲良いシアンがいるだろ?)

 

 遠慮しがちな『渡』にそう指摘して交流を促す。まぁ、俺としても彼らの関係はシアンから始まったもの、と言っても過言ではない為、偉そうなことは言えないのだけど。

 で、肝心のシアンはというと現在はスリープモードになっている。連日の調べものにお疲れとのこと。

 ネットナビに疲労という概念は『6』で確認済みだけれども、スリープモードって何か違くない? それとも前世とは違った機能を持っているのだろうか。

 

 まりこ先生からの話も終わり、現地解散――といったこともなく、ゾロゾロと列を作ってメトロで秋原小学校に戻る。

 

「今日の校外学習の感想文、今配ったフロッピーに入れて提出すること! と・く・に! 熱斗くんとデカオくん!」

「うっ」

「げっ」

 

 いつもの如く問題児2人に釘を刺されたのを見届けた後、放課後になる。

 

「一旦、アナボコ山に集合ね! そこでチャットについて話しましょう?」

「りょーかい!」

「あー……わりぃ。急用できちまった」

 

 本来であれば4人が公園に集まり、そこでN1グランプリの告知がテレビ局ディレクターの口から直接聞かされる流れとなるのだが。

 熱斗がばつの悪い顔をして、やいとの提案を断る。どうも先程受信したメールによるものらしい。

 

「熱斗、急用って? あたしも付き合おっか?」

「オレひとりで大丈夫だから! じゃ、用事終わったらまた連絡する!」

 

 鞄を引っ掴んで教室を飛び出す熱斗を見送り、彼らも帰り支度を始める。今からでも会話に交じれば良かったものを『渡』は席を立つ。

 

(だってさ……図々しくない?)

 

 確かにもう形成されているグループに入り込むのは少々尻込みするかもしれないが。偶然を装って公園で途中参加するのはアレだけど、今言うのならそこまで迷惑じゃないと思うけどなぁ。

 まぁ、俺としてもチップや情報収集だったり、これから起こるであろう事件に備えたりと、日常生活を疎かにしていた部分がある。

 遊びに誘われても普通に断ってたし、ハブられてはいないけど以前より誘われにくくなった気もするし。

 ……しゃーない。一緒にN1予選のイベントをこなせば自然と会話が生まれると思ったけど、脱落前提に動くのも微妙か。

 また明日、頑張ろうな『渡』。

 

(今日頑張ったから明日はきみが頑張って?)

 

 頑張ってじゃねぇよ。おめぇも頑張んだよ!

 

 

 

 

 

 学校からの帰り道。今までシャッターが下りていたヒグレヤがどうも開店しているので覗いてみることに。

 店の引き戸を開けてみれば、随分と内装が様変わりしていた。

 今までは薄暗い照明に、ガラス張りの飾り棚にレアチップを所狭しと並べ、調度品も最低限にしか置かれていない男臭い空間だったのだが。

 レイアウトはすっかり明るい雰囲気に変わり、展示されたチップの脇には可愛らしいポップが貼られ、小型のネットバトルマシンが設置されていることで小さいながらも交流スペースが生み出されていた。

 買ったチップをその場で試せる事から低学年の子供たちがワイワイと盛り上がる姿が見られる。

 

「いらっしゃいませ~」

「うっ……」

 

 そして一番ヒグレヤが変わった点と言えば、看板娘の存在だろう。

 八の字に曲がった困り眉に、丸くて大きな瞳、化粧っけの無い童顔に紫がかった髪をツインテールにするのが良く似合う。

 幸の薄い彼女は城戸舟子(きどしゅうこ)。俺の勧めでこの店でバイトすることとなった貧乏少女である。

 元のビジュアルが良いのは勿論だが、仕事用に貸与されたらしいフリフリのメイド服にどうも『渡』は胸を打たれたらしい。

 茶色いパンプスから伸びる白いニーソと、ふんわりとした素材のフリルスカートの間に生まれる絶対領域。

 ぴったりとした服のサイズ感から細くて折れそうな腰つきが、その上にある女性らしい膨らみを強調させる。衣装とは対照的に飾りっけのない黒いチョーカーに、頭に乗っかったホワイトプリム。

 『渡』の奴、つま先からてっぺんまで眺め過ぎだろ! 舐めるように見つめるんじゃあないよ!

 

「あっ、渡くん! 今日は何を買いに来たのかな?」

「あ、あなたに会いに!」

 

 おう、どもりながらもこういう積極性発揮するなら熱斗たちにもいけたやろがい。

 確かにシュー姉ちゃんもとい城戸さんの柔らかい雰囲気は話しかけやすいんだろうけどさ。会話の邪魔するつもりはないけれど、もうちょい落ち着け。

 後、彼女にも仕事があるから長話は程々に。バトルチップのコンバートもしたいしさ。

 

「やい! そこの地味野郎!」

 

 人の目を惹く城戸さんの声が弾んでいたことが気に食わないらしい、小さな子供が3人絡んでくる。背丈にして『渡』の胸元あたりしかない辺り、低学年の生徒だろうか?

 代表面をする男の子は、野球帽を前後逆に被る古の短パン小僧スタイル、またの名を初期シリーズのサトシが気合を入れたりする時にするヤーツが特徴の、熱血少年が嚙みついてくる。

 

「シュー姉ちゃんと近いんだよ! 離れろ!」

「きみに指図される覚えはないけど?」

「うるさい! オレとネットバトルで勝負だ!」

 

 強引過ぎる論法であったが、ぎゃいぎゃいと騒ぐ少年に会話を邪魔されてムッとなったのか、『渡』は誘われるままネットバトルマシンの元へ歩み寄る。

 

「ゴメンね渡くん。付き合ってもらっていい?」

 

 城戸さんも困ったように笑うだけで止めるつもりは無いらしい。下に男兄弟がいるだけあって、直接的な暴力でない限りは寛容に受け止めるみたいだ。

 

「任せてください」

「ちょーしに乗ってられんのも今の内だぜ?」

「そーだそーだ! あっくんは強いんだぞー!」

 

 あっくんとやらの取り巻きが囃し立てるのに目もくれず、『渡』はホルダーからPETを取り出す。

 まだ新型が発売したばかりなのに、もうプラグイン端子対応のマシンがあちこちで導入されているのはヤバいよな。

 PETだけでなく機械の発達スピードが速いからか、買い替えのペースが速いんだよ、この世界の住人。

 前世と比べてコンピューターなどのコストが随分低いのもある。新型PETにしたって8000ゼニーと随分とお手頃価格だしな。

 

「【インビジブル】と【ポイズンアヌビス】で……」

(陰キャ戦法やめーや)

 

 子供相手に大人げ無さ過ぎだろうが。可哀想だから仲良く喧嘩しようね。

 

(えー……仕方ないなー)

 

 渋々といった様子で『渡』は陰キャフォルダから手を離し、別のフォルダに切り替える。

 そしてスリープ状態のシアンを起こして、寝起き故かやや不機嫌な彼女に説明する。

 

『おっきーが喧嘩って珍しい。……まー、いいけどさ』

「とっとと始めるぜ! プラグイン! コイルマン! トランスミッション!」

「プラグイン! シアン! トランスミッション!」

 

 ネットバトルマシンの電脳はその本体が安価故か、殺風景な空間だった。広さもそこそこ、パネルの修復機能を備える最低限度の性能だ。

 まぁ本格的なバトルじゃなく、チップの試運転を考えるのならこの程度で充分なのだろう。

 

 さて今回の対戦相手であるコイルマンは背中にコイル巻きされた発電機を背負い、右手にガトリング、左手にラビリングらしき代物がついている以外、どことなくメタルスチータスに似ている気がする。2じゃない方な。

 外装とかチーターモチーフじゃないし、色もズラしてきているけれど……でもやっぱし、元ネタビーストウォーズから来てるだろ、これ!

 

「じゃあ始めるよ? バトルオペレーション、セット~?」

『『イン!』』

「先手必勝!」

『撃つべし! 撃つべし! 撃つべし! 撃つべし!』

「【ストーンキューブ】! からの【ユカシタモグラ】!」

 

 城戸さんの緩い声で戦闘が開幕。

 早々に速攻を仕掛けたコイルマンがガトリングを掃射するも、上から降り注ぐ石製の立方体がそれを遮る。その陰に隠れたシアンがパネルの下に潜んだ直後、

 

『いないじゃーん?』

 

 背中に備えたコイルを射出してワイヤー機動を行うコイルマンが急接近。ハードホイップを模した短い鞭を片手に辺りを見渡すも、その間にシアンは【ストーンキューブ】の反対側に回り込んでいた。

 

「【ガッツパンチ】だ!」

『そいや!』

『やるじゃーん!』

 

 そこから【ストーンキューブ】コンボに繋げ、コイルマンに手痛いダメージを与えるが、彼は楽し気に笑っていた。

 

「すこしはやるじゃねーか! コイルマン!」

『エレキワイヤーじゃん!』

 

 足元から伸びるワイヤーがパネルに電流を放つと、その電撃が周囲にまき散らされる。

 

『ビリッときた!』

『そこにいたじゃーん!』

「【エリアスチール】スロットイン!」

 

 【インビジブル】系貫通の継続ダメージを即座に見抜いた『渡』が距離を取らせる。

 

「逃がさねーぞ! ワイヤーステージ展開!」

『電撃デスマッチじゃん!』

 

 シアンとコイルマンを囲むようにして4つの支柱が出現。それを結ぶ複数本のワイヤーから電流が流れ、彼らを閉じ込める。

 

「おっと【エリアスチール】での脱出は無理だぜ? 」

『出ようとしてもシビレバビレブーじゃん?』

「くっ……【ストーンキューブ】」

 

 コイルマンからの一斉掃射に【ストーンキューブ】を追加し、シアンは遮蔽物に隠れる。相手に【インビジブル】貫通の手段を持っている以上、無防備を晒す訳にもいかなかった。

 

(【エリアスチール】での短距離ワープ? でもそこからどうする? 相手の面制圧力を考えると迂闊に顔は出せない……コンバートさえ進んでれば)

 

 防御主体の考え、というか『渡』の性格的にリスクを取れないのだろう。

 新型PETに変わったことでバトルチップの規格も変わったことで、旧型のチップをそのまま使うことはできない。その為、データをコンバートする必要があった訳だ。

 ちょこちょこ時間を見つけてコンバートを進めていたものの、その進捗はよろしくない。

 使用頻度の高いサポートチップと切り札と成り得るものを優先的に進めているが、全体の2割程度しか済んでいない。

 という訳で絶賛縛りプレイ中で対戦に挑んでおり、打開手段も乏しい状況下にいる。

 

「こうなったら【ポイズンアヌビス】で……」

(工夫のひとつもしねぇで出してもすぐに破壊されるぜ?)

「うぅ……」

 

 PETの持ち手を強く握りしめて悔しがる『渡』に俺は苦笑いを零す。

 俺とシアンの戦闘を間近で見ていたとはいえ、ネットバトル自体は初めての体験だしな。負けを味わうのも良い経験だろう。そう思い、慰めの言葉のひとつでも考えたところで、

 

「負けたくないんだ……!」

(『渡』……)

「ぼくが負けたら、きみまで負けたことになる」

『私としても心機一転いきなり負けちゃうのはねぇ……ワタちゃん聞こえてるんでしょ?』

 

 助言すら送るつもりは無かったのだけど……まだまだ俺も甘いな。2人から信頼を寄せられて悪くない気持ちになっている。

 実際に戦っているシアンが望む以上、それに応えるのも筋ってヤツか。

 沈み込む『渡』の意思と入れ替わるようにして、俺に身体の主導権が渡される。

 

「選手交代。やるぞシアン」

『アラホラサッサー!』

 

 

 

 

 

「ほらほらどーした? そろそろ降参するか!?」

 

 亀のように閉じこもってのばかりの相手に、あっくんと呼ばれた少年が煽りに煽る。

 しかし、その返答はなく、返ってきたのは【ストーンキューブ】越しに投げ込まれた【ミニボム】での反撃だった。

 

「こんなもの!」

『ショボい反撃じゃん!』

 

 山なりに緩く投げられた小さな爆弾を見向きもせず、コイルマンへ撃ち落とさせる。続けて相手の出方を窺っていると、別の方角からまたも【ミニボム】だ。

 恐らく【エリアスチール】で安全を確保しながら攻撃する算段なのだろうがこんな温い攻撃、彼とコイルマンには屁でもなかった。

 

「いい加減かくれんぼにも飽き飽きだ! コイルマン!」

『ワイヤーレール!』

 

 コイルマン前方に2本並べたワイヤーをセット。脚部からそれぞれ磁力を発生させ、コイルマンの身体が宙に浮かぶ。

 

『リニアダッシュ!』

 

 それはリニアモーターカーの原理を再現した高速移動技を用い、大きく回り込んで直接相手を叩く目算であった。

 しかし、彼の予想に反してシアンと呼ばれる女型ナビは逃げる素振りを見せない。ならば好都合とばかりに、コイルマンへ攻撃を指示し――

 

「【エアシュート1】」

 

 攻撃力20の弱いチップによって出鼻を挫かれる。宙に浮いたコイルマンの身体は後方に流れるも強気な彼は反撃を命じるのだが、

 

「【ショットガン】」

 

 またもその直前に妨げられる。ダメージは然程でもないが、攻撃のテンポを完全に殺された。ただ体勢を立て直している間にも追撃はない。

 

「舐めやがって!」

『撃つべ――やられたじゃん!?』

 

 ただただ攻撃を起こす前にそれを徹底的に潰される。リニアダッシュで高速移動しても、途中ワイヤー機動による変則的な動きを織り交ぜても全て読み切られ、攻撃ができない。

 手数も火力もコイルマンが上回っている筈なのに、的確な一手が彼らの攻撃を封じ込めてしまう。

 悔しさに歯噛みするも、遠距離戦では分が悪いと認めた彼は、

 

「なら接近戦に持ち込むぞコイルマン! 【メットガード】スロットイン!」

 

 防御を固めてシアンに接近する。その際、相手からの反撃は見られず、やや立ち位置を変更するだけだ。奇怪な相手の思惑も気にせず、【メットガード】の効果時間が切れたのも見計らってパラライズガンを展開し――

 

「【ショットガン】」

 

 またも早撃ちを制したのは、相手のナビだった。しかし、それには彼もコイルマンも諦めがついている。

 短いながらも足元のレールは設置完了。体勢がどうであれ、この彼我の距離であれば加速は充分。本命の【エレキソード】の切っ先を相手に向けて無理やりな突撃をかます。

 

「いっけぇええええ!!!! え……?」

『はずれー』

 

 果たして【エレキソード】の攻撃は見事敵を貫いた、かに思われた。しかし、彼らを嘲笑うようにシアンの姿が【カワリミ】人形へと変化して。

 それを認識したのとほぼ同時にコイルマンの足元が【ステルスマイン】によって爆発を引き起こしたことでHPが危険域に達し、強制プラグアウトとなるのだった。

 

 

 

 

 

「――っつう訳でカウンターが上手くできれば戦闘を優位に運べる訳だな」

 

 やっぱり実演を交えて説明した方が理解が深まるらしい。『渡』の納得がいったところで相手を誘導し、止めを刺す。

 素直な子供だけあって攻撃タイミングが読みやすくて実に助かった。お蔭で今世におけるカウンターについてある程度掴めたしな。

 

 『3』から導入されたカウンターシステムは『3』と『4』以降で仕様が大きく変わってくる。

 『3』はデリートするタイミングでカウンターを決めるとバグの欠片を入手できる、といったものだった。前述のウイルスチップだったり、バグピーストレーダーで大量のバグの欠片を必要とする為、その主な入手手段として用意されたのだろう。

 しかしながらカウンターでバグが発生する、といった現象についての説明は作中で一切されず、俺としても原理がわからない仕様であったが、今世でもついぞ判明する機会は失われたらしい。

 今までもちょいちょい検証を行ってきたが、一度も拝むことは無かったしな。『3』の時系列ならあるいは、とも思ったけれど、それも空振りに終わった。

 職業柄、戦闘回数の多い炎山に話を聞いても同様の答えが返ってきた為、恐らく間違ってはおるまい。

 『4』以降はフルシンクロがシステムとして登場したことで、その状態へ突入する為にカウンターの仕様が変更することとなったのだ。

 

 『3』まではバトルチップに限らず、ロックバスターや毒沼などの効果によってもカウンターが発動するガバ具合だったけれど、『4』以降は暗転しないチップ攻撃のみに条件変更されることとなる。

 その代わり、カウンターを成功させた時の恩恵は大きなものとなり、具体的には相手が麻痺状態となり、自分はフルシンクロによってチップの攻撃力が2倍になる効果が得られた。

 そのお蔭で戦略性は更に広がり、バトルがより楽しくなったものだ。

 

 さて長々と説明を並べてきたが、俺のいる世界での仕様は『4』以降のものでもなかったりする。

 今回もシアンはフルシンクロにならなかったし、コイルマンが麻痺状態になることもなかったしな。前者はココロウィンドウが無いせいなのはさておいて。

 ただ攻撃を当てた時よりも怯みが大きくなり、相手の攻撃を中断させる効果がある、といった程度のものだ。

 ゲームと比べて随分と恩恵が小さなものとなったが、その代わりにこっちの世界じゃショートインビジが発生しないからハメ殺しが可能なんだよな。だからカウンターはその起点になると言える。

 また、カウンターの優位性として相手のテンポを崩せる点も大きいだろう。

 あっくんとコイルマンの調子も『渡』がオペレートしていた時より俺へ変わった後の方が随分と動きが悪くなっていたしな。

 俺の先読みが全部的中したことで迷いが生まれた点もあるけれど、自分のテンポを崩されたのもその一因と言える。

 これでスーパーアーマーの重要性が更に高まったかもしれん。あるいはカウンターがそれすら貫通するのであれば、『渡』にカウンタータイミングを教えてあげてもいいかもな。

 

「くっそ~覚えてやがれ!」

「待ってよあっくーん!」

 

 今時珍しく捨て台詞を吐いてヒグレヤを飛び出していくあっくん。取り巻きも失望した素振りも見せず追いかけていく辺り、結構人望があるのかもしれない。ちょっと悪いことしたかもなぁ。

 

「大人げないでマスねぇ隠岐くん」

「どうもお邪魔してます」

 

 どこから観戦していたのか、店の奥から店主である日暮闇太郎がこちらへ顔を出す。

 城戸さんとは違い、ワイシャツにスラックス、その上からエプロンといつもの恰好なのは自分にコストをかけても仕方がないとわかっているからだろう。現に世界旅行してきた割に外見へ変化が見られない。

 もさもさとした天然パーマに、洒落っけのない眼鏡から覗く細い糸目。ひょろりとした体躯にはちっとも筋肉が増えた形跡がないのだから。

 

「日暮さん日暮さん!」

「なんでマスか~舟子ちゃん?」

「今日もいっぱいチップ買ってもらえました!」

「そうでマスか」

 

 そんな女っ気のない日暮さんへ笑顔全開で駆け寄る城戸さん。それに対し、日暮さんは優しい笑みを浮かべて彼女の頭を撫でる。

 通常、女性は髪が乱れるのを嫌うものだが、彼女は慣れた様子で受け入れ心底嬉しそうに笑みを深める。

 

(あ……あぁ……)

 

 あっくんに見せた接客スマイルとも、『渡』に見せた笑顔とも違う。心から信頼を寄せる彼女の距離感と、仄かに赤く染まった頬を見て『渡』が胸内で絶望を浮かべた。

 俺としては親子の関係性に似たものにしか見えないのだが、『渡』にとっては違って見えたらしい。

 まぁ、『Stream』の38話で恋占いのアドバイスに従っていたけれども。てっきりスタッフがシュー姉ちゃんのカットを入れたいが為にやったとばかりに思っていたが、それが匂わせだとしたら……。

 

(あぁぁぁぁあああああああ!!!!)

 

 この日、『渡』は脳破壊という形で望まぬ大人への一歩を踏み出した。

 それにアニメ情報で追い打ちかけた身で言える立場でないかもしれないけれど……強く生きろよ『渡』。

 リハビリはまた今度だな。




 今回の話に出てきたコイルマンは戦車様のアイデアから拝借させていただきました。
 ご応募ありがとうございます。




〇あっくん
 
 ピカピカの1年生ながら取り巻きを従える有望株。
 小物臭い言動をしたし、脳筋気味のオペレートではあるが、この歳にしてちゃんと勝ち筋を作れる辺り、エグゼ名物の在野に埋もれた一般人枠でもある。
 今回、渡inオッサンにボコられた被害者であり、脳破壊されずに済んだ悪運の強い少年。
 生意気な一面が目立ったが、結構なお兄ちゃん子な為、『渡』ではなくオッサンが表に出ていたら人懐っこい子犬みたいなムーブをしていた模様。



〇コイルマン
 
 あっくんの兄が作ったカスタムナビ。見た目と言動は完全に兄の趣味である。
 今回は相手が陰キャ戦法の申し子ということもあり、麻痺させてボコる戦法はお蔵入りとなった。
 N1グランプリに出していたら原作キャラを大いに食っちまうか、露骨に弱体化させないといけなくなった為、ステータスガード持ちのシアンと対戦よろしくお願いします、となった。
 こいつエグゼだと性能ぶっ壊れ過ぎんよ。




〇城戸舟子

 以前より前向きになったのは日暮さんの影響。具体的には『AXESS』16話と同じような説教を日暮さんから受けた感じ。
 オッサンの懸念通り、無自覚に年下男子の初恋ハンターをしている。
 普段は弟の世話をしてるし、親も亡くしてるから年上に甘えたい欲求が強い、というイメージ。
 オッサンのボディが高校生以上だったら多分フラグ立ってたかもしれない。




〇日暮闇太郎

 シュー姉ちゃんの不幸にも負けない雑草根性の持ち主。
 美少女と一緒にいる環境でなおかつ仲良くなった代償に、店の未来は乱高下する模様。
 今回、渡が脳破壊されなかったら、オチとしてまりこ先生にシュー姉ちゃんとの仲を勘違いされてフラグへし折る予定だった。もげろ。
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