WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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48.WWWさんいらっしゃい!

 バブルウォッシャーを摘発してから数日の間、ネット警察上層部はバブルマンの扱いについて大いに会議は踊り、処分派と保留派の対立が凄まじかったという。

 処分派は『危険分子は即刻処すべき』という論調で、保留派としては『せっかく生け捕りにできたのだから有効活用すべき』と意見をぶつけ合わせ、平行線を辿ったのだとか。

 しかし、こんなことで時間を浪費すべきでない、という貴船総監の鶴の一声により、多数決の末に保留派の方針でいくことが決定。

 

「……セッティングとしてはこんなところかしら?」

「そうねみゆき。後は()()()()を待つだけ、なんだけど」

『コラー!! ここからポクを出すプクー!!』

 

 オフィシャル本部が特別に用意したサーバールームにて、ネットセイバーのみゆきさんとサロマさんが準備を進める中、俺はコミカルな動きでこちらに訴えかけてくるバブルマンを見ていた。

 

『保留派の方に傾いて良かったね、ワタちゃん』

「そうだなぁ」

 

 それもこれも全部中立の立場を装いながらも根回ししてくれた貴船総監による尽力のお蔭だろう。

 仮に処分に決まっていたとしたら人質という形ではなく、バブルマンをデリートした恨みという形でドリルマンを挑発する流れになっていただろう。

 前者の場合は脅しをかけることで相手の決断を早める事ができるけれど、後者だと相手がいつ動くかわからんしな。ドリルマンにも立場がある為、そこのところが読めない。

 

「……貴方はどう思う、オフィシャルホワイト?」

「ホワイトくん、お返事は?」

「……からかうのも程々でお願いします」

 

 本来の陣頭指揮はお偉方から選出されたのだが、その人物が随分と昼行燈で「現場に一任する」とぶん投げた結果、実質上の責任者は俺になったという。最年少が現場責任者は頭おかしいだろ、オフィシャルゥ!

 立て続けに事件が起きた影響でインターネット中にオフィシャルによる警戒網が引かれて人員が不足している点と。

 どの媒体においても『モブの数を揃えても大した戦力にならない』理論を信じ、少数精鋭で決行したところ、この場に学生しかいないということもあって、大分空気が緩かった。

 顔の筋肉が全然仕事してないみゆきさんはノリで言っているのだろうけれど、サロマさんは未だに速見ダイスケさんの一件を根に持っているのか、表情がちょっぴり意地悪だ。

 ちなみに別件でマサさんと炎山はおらず、熱斗も科学省に用があると言って欠席となっている。

 五陽田警部は俺が置いて来た。ハッキリ言ってこの闘いにはついていけない、なんてことは無く、バブルウォッシャーの件でまだ対応に追われているだけである。

 

「みゆきさんやサロマさんが来る前に確認しましたが、問題はないかと」

 

 そう返答した後、改めて部屋の内装に目をやった。

 俺たちがいるのは旧式で使われなくなったサーバールーム。

 オフィシャルとのネットワークは切断され、外部のアクセスポイントも一部のみに制限した為、敵を待ち受けるにはうってつけの場にセッティングされていた。

 で、そのアクセスポイントからバブルマンの位置情報を無差別に発信し、WWWさんいらっしゃーい、という流れでいく予定。

 

『ポクを無視するなー!! さっさと解放するプクー!!』

『お家の人がすぐに迎えに来ますからねぇ、プクちゃーん』

『きぃ~!! 舐めた口きいてくれるプク!!』

 

 ぷんすこと怒り散らすバブルマンへシアンが保母さんのように宥めるも彼の神経を逆撫でするだけだ。

 しかし、【エレキプリズン】内部では武器の展開に制限がかけられ、無理に武力行使へ移ろうとすれば電撃が浴びせられ、行動が阻害されることとなる。

 それを身を以て味わったからか、今やバブルマンは不満を口にするだけだ。

 人間相手ならば確実に人権に引っかかるのだろうけれど、相手はネットナビだからお咎めなし。まぁ、ネットバトルなんてさせている時点で人権もクソも無いだろうが。

 現実を生きる人間よりもデータで構成されたネットナビは身体の修復も比較的簡単だし、その身に宿る感情や記憶だって製作者の手にかかれば思いのままだ。

 だから人はネットナビを友と見る割には、無意識的に軽く見ている傾向がある。俺とて同類だから何も言えやしない。

 

 原作のバブルマンは自立型ネットナビとして電脳世界に生まれ落ちたが、製作者も特に明かされていない。

 元よりそのような人格データだったのか、それとも他のネットナビにイジメられる環境によるものなのか、臆病で狡猾。広く好かれる人柄では無かったこともその人生に拍車をかけたのだろう。

 そんなバブルマンが身を寄せたのが犯罪者の巣窟であるWWW。人の命を軽く見るようになったのも当然の帰結といえるかもしれない。

 バブルウォッシャーの一件も、単にワイリーから褒めてもらう為にやった行いなのだ。それだけの為に、人を殺そうとした。

 

 きっとWWWと出会う前に、イジメから助けることができればバブルマンも別の道を歩んでいたかもしれない。その身に置かれた環境には同情する。

 けれど、もう俺たちの敵になってしまった。未遂といえど、一線を踏み越えてしまったから、俺個人の一存じゃどうにもならない。

 アニメみたくアイスマンやアクアマンと接すれば、改心する余地はあったかもしれないのに。

 西古や犬飼と同じく、バブルマンもWWWに関して口を割らなかった為、オフィシャルからも()()()()を低く見られており、その機会を与えるのは相当難しかった。

 

「それにしても……本当に来るのかしら?」 

 

 駄々っ子のように身体をジタバタとさせるバブルマンを半眼で見つめながらサロマさんが言う。みゆきさんもこくりと首肯し、不安視するのも無理はない。

 何せバブルマンの挙動には風格みたいなものが皆無だしな。彼を助けに来るような人望が感じ取れないのだろう。

 俺としても原作知識が無ければ、人質として敵を釣り出す事なんて思いつきもしなかっただろう。

 ただ、バブルマンのWWWでの立場は微妙なところにあるのが良い。

 同僚からは軽く見られ、今回のバブルウォッシャーの一件は彼が勝手に単独で引き起こした上で失敗、ワイリーの機嫌を損ねたと原作にはある。

 よってバブルマンを助けに来るのはドリルマンに絞られる。後はネームドではないプクプク親衛隊くらいか? 後者の方は逃げ足だけが達者、ということでそこまでの脅威にならないだろうが。

 

『……来たぞみゆき』

 

 スカルマンの不気味な声に、どっしりと構えて動かなかったウッドマンと、バブルマンをからかって遊んでいたシアンが身構える。

 彼らの視線の先――外部へのアクセスポイントをわざわざ削り取って現れるは頭部と四肢にドリルを生やした名は体を表すを地で行くドリルマン。

 

「……聞いてねぇぞ、こんなん」

 

 その背後に、黄色いモヒカンにペリカンのような口元、両肩に爆弾が特徴的なボンバーマンに、複数のブロックを組み合わせた巨体のストーンマンが続く。

 ドリームウイルス戦にはいなかったから、てっきりフォルテかロックマンにやられたものだとばかり思っていたが、こんなところで再登場するとは予想だにしなかった。

 つーか、バブルマンを取り戻すのに、ワイリーがここまでの大盤振る舞いするとはとても考えにくい。

 

『助けに来たぜ兄弟ッ!』

『ドリル兄ぃ!』

 

 感動の再会と言わんばかりに喜びを分かち合う義兄弟とは対照的に、ドリルマンと同行したボンバーマンとストーンマンは一言も喋らない。

 ただ己の敵を見据えて、戦いの火蓋が切られるのを待っているように見えた。

 

『あちらと同数か。ならば体格的にストーンマンは私が受け持とう』

『……3対3の乱戦も悪くないと思うけどね。ウッドマンがそう言うならボクはボンバーマンかな?』

『――弟分を返してもらうぜ! ドリルドライブ!』

 

 随分と切り替えが早いようで、ドリルマンが分裂したドリルパーツを伴った突進攻撃をこちらにお見舞いしてくる。回避と同時にウッドマン・スカルマン両名がマメデッポウとオニビで敵の注意を引き、

 

「【イアイフォーム】」

 

 シアンは突っ込んでくる敵にオートカウンターの居合切りを食らわせるも、ドリルの高速回転によって彼女のソードは嫌な音を立てて弾かれ、ドリルマンの軌道がズレて後方に流れる。

 原作には無い仕様とかオッチャン困っちゃうぜ、マジで。

 

「【イアイフォーム】」

 

 ただし、後方からシアンの足元に空間転移しての追撃には有効だった。彼女が右足を半円を描くように動かした後、上体を捻ってすれ違いざまにドリルマンの胴体へ逆袈裟が入れる。

 

『やるじゃねぇか。流石はワイリー様のお気に入り』

『何その嫌なブックマーク? てか誰かこっちの事、見てない?』 

『ナビの方も随分勘が良いみてぇだ。女、名前は?』

『知らない人に名前教えたくなーい』

『そいつァ失礼したぜ。オレはドリルマン! ワイリー様によって生み出された自立型ナビ!』

『一見さんを知り合いにカウントするナビはちょっと……』

『……礼儀知らずにゃオレの名をドリルで直接刻んでやるよ!!』

『そんな器用なら彫刻家にでも転職したら??』

 

 前口上も終わり、ドリルマンが再びドリルモードへフォームチェンジ――突撃状態へ移り、パネルへ潜る。

 

『バカの一つ覚えじゃないみたいだね』

 

 直接シアンを狙うのではなく、空間から別の空間へあちこちからドリルパーツを飛ばし、ドリルマン本体も高速でエリアを飛び交う。視線を散らし、攪乱する狙いだろう。

 

「【インビジブル】」

 

 ひとまず半透明の無敵化を図り、無軌道な相手にどう攻撃を当てるか思考を回していると、視界の端にウッドマンの姿が目に入る。

 双極集中を発動し、広い周辺視野を確保する。

 

「――いくわよウッドマン! スタイルチェンジ!」

『うおおおおっ!! ウッドグランドスタイル!!』

 

 ウッドマンが吠えると同時に彼の全身が緑に染まり、脚部が木の根のように変化する。

 お互い当たり判定が大きく、回避するには向かない巨体の殴り合いの様相を果たしていたストーンマンとのダメージレース。

 自動修復機能を持つ相手には分が悪いウッドマンが取ったのは、打開ではなく泥仕合に持ち込むものだった。

 足元のパネルはクサムラパネルでも無いというのに、ウッドマンのHPがみるみる回復していく。

 

『ゴゴッ!!』

 

 反則に近しい能力を発動したウッドマンに対し、ストーンマンはすぐさま対応に移る。大きく足踏みすることでウッドマン含む周囲のパネルをヒビパネルへと変貌させる。

 

『うぐっ……』

「カンバツ状態――」

 

 なるほど、干ばつ状態の地面に似たヒビパネルだと逆に継続ダメージとなるらしい。バランス崩壊待ったなしの能力にも相応のデメリットがあったと確認した瞬間、

 

「バトルチップ【バブルショット】スロットイン!」

 

 サロマさんが取った対応に度肝を抜かされる。

 ストーンマン相手にではなく、ヒビパネルへ向けられたそれが着弾したと同時に、クサムラパネルへ変貌。

 先程のノーマルパネルよりも倍速で回復するHP――原作のウッドソウルも霞む回復効果に俺は開いた口が塞がらなかった。

 原作に登場しなかったウッドマンのスタイルチェンジ、えげつなさ過ぎるだろ!

 ゾンビ戦法よりも悪質な手法への対抗手段が恐らく地形変化系の攻撃しかないというのに、ウッドマンもグランドスタイルだから簡単にパネルへ効果を及ぼせるというね。

 勝つのではなく、負けないスタイルというべきか。傍目からでも雑草魂というか、大自然の恐ろしさが如実に伝わるわ、こんなん。

 遅延戦法とかバスティングレベルが重要な前世だと一番戦いたくない相手である。

 

「――スタイルチェンジ」

『……スカルマン、ヒートブラザー』

 

 派手な爆発音の中でも不思議と通る声。思わずそちらへ意識が持っていかれ、目の端で捉えてみればスカルマンもまたスタイルチェンジを果たしていた。

 華奢なスカルマンの痩躯は青白く染まるものの、それが水属性ではないと一目でわかった。というのも、彼の隣に並ぶ、揺らめく鬼火――スカルマンを象った分身が明確に否定しているからだ。

 

『……ボーンストーカー』

 

 スタイルチェンジの効果もわかりやすく、スカルマンに倣って分身も同じ攻撃を放つ。ウッドマン程の壊れでないしろ、単純に手数が倍になるのは脅威だろう。

 

『【ビッグボム】!』

『……やるね』

 

 広範囲に爆風をまき散らすボム系チップに対し、スカルマンは分身を盾にしてそれを逃れる。

 

「……【リカバリー120】ダブルスロットイン」

 

 何故被弾していないのに回復を、という疑問がすぐに解消される。どうもリカバリー系チップを生贄にすることで分身を再生成できるらしい。しかも今度は2体ときた。

 詳細は知らないけれど、メタ的に考えて分身のHPはリカバリーの回復量だろうか? 

 

『――ワタちゃん』

「おう。【カワリミ】」

 

 女性陣は立派にスタイルチェンジを使いこなしているというのに、こちらはウイルスを100体以上バスティングしてもうんともすんともしないという。

 シリーズ毎にチップこそ更新されるが、戦い方は代わり映えしやしない。

 【インビジブル】や【ユカシタ】、【エリアスチール】、【カワリミ】で相手の攻撃をしのいで動きを分析、その後は圧倒的なチップの回転速度で相手にコンボを押し付ける。

 つっても、このままだとカスタムスタイル一直線だから代わり映えもクソもないだろうけど。

 

「【キラーセンサー2】」

 

 シアンが視線云々を言ったので乱入を気にしていたが、無いので反撃に移る。

 ひとつ目のウイルスを召喚し、その視線の先に相手を捉えれば電撃を発射させ、麻痺にする効果を持つ。このチップの便利な点としては、こちらで操作しなくとも自動でやってくれること。

 前世では麻痺に加えて広い攻撃範囲に、インビジ貫通効果も相俟って『3』では良くコンボとして使われたものだ。

 

「【フウアツケン】」

 

 その被弾を嫌ってか、ドリルパーツがキラーセンサーに向けて放たれるのも想定済みだ。

 原作では敵を最後列に吹き飛ばす効果しかないソード系チップも、今世ではあらゆる物体に効果を及ぼす。回転斬りによってほぼ全方位に剣圧を飛ばし、ドリルを弾く。

 

「【バッドスパイス3】」

 

 ついでに、その剣圧に乗せて混乱付与効果を持つ胞子をバラまく。

 と、ここまでお膳立てしたともなれば、相手の取れる手も限られてくる。狙ってくるのは台風の目――つまりは、

 

『私の足元、だよね?』

「【プラズマボール2】」

 

 シアンがバックステップした直後に飛び出すドリルマン。そこへ彼女の周囲を回る雷球が直撃し、彼をのけ反らせる。

 無防備を晒した相手へトドメの【カスタムソード】をスロットインしようとした瞬間、

 

『ワタちゃん!!』

 

 眼前の敵など放って、バッとアクセスポイントへ振り向きながら叫ぶシアン。尋常でない様子に俺は指に挟んだ【カスタムソード】をスライドさせて【インビジブル】を転送。

 その直後だった――電脳世界が震動するのは。

 

 地震など存在しない電脳世界において、空間が震えるのは強大なエネルギーが放たれている証左だ。

 原作ではラスボスの登場時だったり、裏ボスのフォルテが現れる際にもっぱら演出されるのだが、今世でも同様のものだと思われる。

 現に俺は今世ではゴスペルでしか見たことが無い。

 それに匹敵する強者の波動、ともなれば……

 

「いや、ありえねぇって……」

 

 わざわざバブルマンを取り戻す為にフォルテが動く筈が無い。それにウラへ潜ってもシアンの前に現れることもなかったから、シアン目的でもないだろう。

 とすれば、スタイルチェンジしたウッドマンかスカルマンに釣られたとでもいうのか。

 

『あれは……』

 

 しかし、そんな俺の予想は裏切られることとなる。

 ドリルマンがこじ開けた空間から現れたのは、布で身体を覆う黒いナビではない。

 覗かせたその姿は、赤を基調としたボディに、パネルに届きそうな程に長い金髪。

 

『ブルースのそっくりさん?』

「違う――」

 

 逆だ。エグゼのブルースが本家ロックマンのブルースと、『X』シリーズのレプリロイド(厳密にはそうじゃない)からデザインされている。

 でも、シアンが相対する人影と後者の姿が似ているのは確かだ。

 

「なんで――」

 

 『X』シリーズのようにトゲトゲしいデザインではないし、両胸についた緑のアレが見受けられない。

 

「どうして――」

 

 かといって、そのシルエットは俺の知る人型ウイルスのように長大じゃないし、仮面のような顔面をしていない。

 

「ゼロがここにいるんだよ!?」

 

 二本の角がついたヘルメットに、ノースリーブの赤いジャケットに白いビキニタイプの見た目の腰部。

 『X』のメインカラーの白い部分が黒く変わり、アーマーなど無い細見のシルエットはまさしく、エグゼと同時期に発売された『ロックマンゼロ』の主人公、ゼロだ。

 あぁ、確かにその2作品はコラボしたさ。でも、エグゼでは【Zセイバー】のチップのラベルに姿が映る程度。ゼロ3でもサイバー空間にエグゼのウイルスが登場するくらいの話。

 ボクらの太陽と同じように出張出演など、聞いたことがない。

 

『――』

 

 ゼロは徐に辺りを睥睨したと思えば――急に姿がブレる。

 

「ウッドマンッ!?」

『な、んだ、このナビの強さは――ッ!?』

 

 その影を追ったシアンの瞳が捉えた頃には、ウッドマンが炎を纏った剣戟によってなます斬りにされているところだった。

 こちらが助ける暇もなく、数瞬でウッドマンのHPを全損したゼロはまたもパネルを蹴って獲物を求める。

 

「……スカルマン」

 

 アニメ同様、スピードタイプのスカルマンはその速度に対応していた筈だった。

 しかし、スカルマンが攻撃する度にゼロへ当たらなくなり、逆に被弾は増えていく。

 みゆきさんは連続してリカバリー系チップを投入し、数で押そうとするも、パネルを手に付け5方向へエネルギー弾を放つ滅閃光により、消滅。

 その間、フレンドリーファイアを恐れて援護もできやしねぇ!

 

『……すまない、みゆき』

 

 その後、急速接近したゼロにスカルマン本体までも水属性の一閃によってずんばらり。デリートの表記に、えげつない火力なのが一目でわかった。

 

『やっぱ来るよねぇ!?』

「――【シラハドリ】」

 

 両名の敵ならばシアンを見逃す事も無く、ゼロが牙を剥く。寸前、ソード系へのカウンターを挟み込むも、

 

「嘘だろ……!」

 

 お得意の3段斬りで全て弾かれてしまう。なんつう反射速度してやがる。

 

「【インビジブル】」

『――』

 

 半透明化による苦し紛れの延命措置を取って、相手の攻撃を透かす。だが、矢じりのような形のゼットセイバーの色が変わったと思えば、

 

「【エアシュート】」

『んひぃ!?』

 

 出の早い空気砲をシアンの確認無しでスロットインしたのが幸いした。無理やり撃ったことで崩れた体勢に、その切っ先が掠る。インビジ貫通効果まで付与できるのか、こいつ!

 

「【エリアスチール】、【メットガード】、【プリズム】、【トップウ】、【オウエンカ】」

 

 兎にも角にも接近戦では話にならない。スカルマンとのやり取り、【シラハドリ】への反応速度からして、まずまともな反撃は叶わないといっていいだろう。

 正直、プラグアウトして逃げ出したい気分だが、捕まったバブルマンを放置する訳にもいかないし、何よりデリートされたウッドマンとスカルマンに失礼だ。

 愚策だろうが、防御を固める。その僅かな間にゼロの攻撃モーションを学んで、反撃の糸口を掴む。

 

『――』

 

 こちらの瞬間移動先を掴むや否や、ダブルチャージウェーブ――2連のソニックウェーブを放ち、【プリズム】に当たったことで乱反射されるが、それもあっけなく迎撃。

 そうこうしている内に【メットガード】の効果時間が切れ、【オウエンカ】の無敵効果が発動するも、拳銃型のバスターショットによって【オウエンカ】と【トップウ】が消滅。

 アカン、遠距離対応も完璧とか洒落にならねぇ。

 

『やっと出られたでプクー!!』

『無事で何よりだ兄弟!』

 

 音声でバブルマンが解放されたことを認識するも、そちらまで気が回らない。

 ……いや、待て。何で誰もゼロに加勢してこない? ゼロがWWWの味方じゃない?

 いや、それは違う。無差別に攻撃してくるならば、スカルマンよりも先にストーンマンが。シアンよりもボンバーマンが標的にされていただろう。

 ゼロの戦闘の邪魔になる? 離れた今なら遠距離攻撃で支援することは可能だ。

 まさか、俺たちを倒すのが最優先目標じゃない?

 

「そこまでじゃな」

 

 無意識的に補助系チップをスロットインする俺を他所に、機械を通した老人の声によって前傾姿勢だったゼロが武装を解除して背筋を正す。

 

「貴様らの反応速度は想定以上じゃが……今回は儂の勝ちじゃ隠岐渡」

 

 忘れもしない嗄れ声、悪の天才科学者を自称する迷惑老人のDr.ワイリーの声に他ならない。

 ともなれば、『X』シリーズと同様、ゼロの製作者は彼本人という疑惑が確信に変わる。

 

『勝敗はまだついてないと思うけど?』

「良く言うわい。貴様からの挑戦状からして勝利条件は明白よ。バブルマンを解放した。故に儂の勝ちじゃろて」

 

 シアンの負け惜しみに悠々とワイリーは答える。

 ……バブルマンの為に? いや、ありえない。Dr.ワイリーという男はそこまでバブルマンに価値を見出していない。

 自分の手で生み出した自立型ナビのストーンマン、ボンバーマン、ドリルマンとて重要視していない節さえある。ドリルマンの心情を汲むとも思えない。

 そも、救出などしなくとも、ワイリー程の技術者ならば自分の手でバブルマンを再生成できるだろうし、今回のような手間は省ける筈だ。

 

「まさか……俺たちと戦う為だけに、ここまでの戦力を寄越して――ゼロまで作ったってか?」

「御名答。しかし、ゼロの名まで当てるとは存外エレキ伯爵の妄言も馬鹿にできんようじゃな」

 

 今回、ワイリーを動かしたのは、俺とシアンへの対抗意識。それだけの為に、挑んできた。そうとしか受け取れないのに、脳がそれを否定する。

 ありえない。そんなことは到底ありえない。

 だってワイリーが対抗意識を燃やすのは光正だけで、後は因縁として光熱斗とロックマン、その血を継ぐ光祐一朗くらいのものだろう。

 ぽっと出の俺たちに、そこまでの執念を抱く筈がない。ネットワーク社会への復讐の為に生きてきた老人が、俺たちに時間を割く筈ないじゃないか。

 

「テトラコード。入念に科学省が隠していた存在を仄かに明かした事で儂は確信を得た。貴様が動いたから科学省の凡骨共も動いたのじゃろう?」

 

 カマをかけている口振りではない。俺と科学省を結び付ける情報なんて転がっていないのに、ワイリーは俺が関わっている事にもう疑いすらしていない。

 

「西古に続いて犬飼までテトラコードの奪取に失敗した。その割にはネット警察やオフィシャルの対応が杜撰ともなれば、個人で動いていると取れるじゃろう?」

 

 失念、どころか気付きもしなかった。早期決着ばかりに目がいっていて、ワイリーが情報収集に動く可能性を見落としていた。

 

「返事が無いということは、肯定と受け取って良かろう?」

「畜生め」

 

 俺が何を言おうとも、この頑固爺は自身の意見を曲げはしないだろう。

 

「それと……貴様には後2つの勝利宣言をせねばならん」

「2つ……?」

「ひとつ目は、今しがた科学省のテトラコードの奪取に成功した」

「は……?」

「嘘よ! それなら私たちに連絡が入ってないとおかしいじゃない……!」

 

 持ちナビを失ったショックに続いてワイリーの登場に呆然としていたサロマさんが立ち返り、背後を振り返る。

 確かにこの部屋はハッキング対策として無線通信も遮断しているが、外には連絡要員のオフィシャルが待機している筈だった。

 

「フン……このゼロを以てすれば科学省など話にならんわい。既に事は済んだとなれば、貴様らを呼んでも無駄じゃろうて」

「熱斗とロックマンがいただろ?」

「あやつらはフォルテが相手を望んでおったんでな。仕方なく譲ってやった訳じゃ」

 

 いよいよ時系列も滅茶苦茶になってきやがった。

 正史だと戦うのはウラインターネットだし、熱斗とロックマンだとフォルテに敵わず、コサック元博士に助けられる流れとなるのだが、流石のコサック元博士もそこで遭遇する筈もあるまい。

 

「ふたつ目は……見た方が早いか」

 

 光兄弟の勝敗が気になったものの、ワイリーが流した映像によってそれも容易く吹き飛ばされる事となる。

 ゼロが照射した映像に映るのは荒れに荒れる大海原。雨風によって大分酷いものとなっているが、それでも画質の高さによって、そのカメラに向けて艦隊が接近してくるのは把握できた。

 

「儂のいるデモンズ海域にアメロッパ海軍を差し向けたのも、貴様の仕業なのだろう隠岐渡よ」

「いいや……知らない」

「でなければ、愚鈍な軍人共がここまで早く嗅ぎ付けてくる訳もあるまい」

 

 原作では所在が判明するのは終盤故に俺が関与しているのは確かだ。けれど、俺はアメロッパの軍部にコネがある訳じゃない。

 ……もしや、ハッキングパパがWWW団員のPETやバブルマンのログデータを解析した結果をアメロッパに送り付けやがったな?

 アメロッパ軍はワイリーの古巣でもある。何かしらの因縁があってもおかしくはない。

 

「じゃが、その抵抗も無駄じゃ」

 

 ワイリーの言葉が起因となったかのように、駆逐艦らしき船が爆発。ご丁寧に低速再生されたことで、放物線を描いた砲弾が直撃したのがわかった。

 しかしながらアメロッパ側の反撃は無い。激しい風雨で観測が叶わないのか、それとも単純に射程距離が足りていないのか。

 

「儂は慈悲深い故、壊滅などさせず、2、3発撃った後は逃がしてやったんじゃ」

 

 その真意は違うけれど、今は重要じゃない。

 国の差し向けた軍隊が一個人の武力の前に敗北を晒した。その事実を証明する映像がワイリーの手にあるのが問題だった。

 俺の貧困な発想力でさえ、こいつのヤバさが十二分にわかる。全世界へ公開でもしてみろ、簡単に戦争が勃発するわ。

 ワイリーの名を使えばフェイク映像と一蹴できないし、アメロッパへ敵愾心を抱く国は飛びついてもおかしくない。

 その前にアメロッパ軍が全力を出せばワイリーを叩き潰すのは可能だろう。資源や輸送の面を考慮すれば、物量で押せばまず潰せる。けれど、その成果を出すまでの被害はどうだろう?

 勝っても得られる対価と釣り合うかどうかわからない。ワイリーを生かしたところで技術提供する保証が無いしな。

 尻込みするハト派もいるだろうし、アメロッパ軍もすぐには動けまい。

 

 ただ……ワイリーはそうしないと思われる。俺の願望も込みだけど、シリーズを通して彼の行動を追えば、その行動指針が示されているように思う。

 ワイリーの目的はネットワーク社会の破壊だ。その動機は光正とそれを肯定する社会が憎いから。

 しかしながら、ワイリーが直接手を下す、という事は意外と無い。部下に大雑把に指令を出すも、方法は全て部下任せ。それもネットワーク社会の壊滅に繋がるかどうか怪しい規模の事件も多い。

 おそらく最終目標への過程はWWW団員たちの欲求を満たす事も含まれているのかもしれない。事件が解決されて怒りはすれど処分を下さないのは最終目標の障害にならないからか。原作犬飼については……正直わからん。

 で、肝心の最終目標――『1』ならばドリームウイルス、『3』はプロト、そして『6』では電脳獣とワイリー自身で生み出したものは存在しない。

 あくまでも、ネットワーク社会が生み出した怪物たちばかり。電脳世界さえなければ、こんな事は起きなかった、と証明するかのように動いているとしか思えなかった。

 

「目的は済ませた。撤退じゃ」

『……了解』

 

 初めて口にしたゼロの背を追って、ストーンマン、ボンバーマン、ドリルマンがアクセスポイントに向かうものの、

 

『え~っ! この生意気な女もデリートしないんでプクか~?』

 

 創造主の違うバブルマンだけは不満たらたらにシアンを睨み付ける。周囲に味方がおり、敵はひとりともあって強気な彼はバブルシュートをシアンに向けるのだが、

 

「決まっておる。こんなちゃちな所で決着など性に合わん」

『ふん……命拾いしたプクね!』

「完膚なきまでに貴様()を否定してやる。それまでせいぜい首を洗って待っておれ隠岐渡」

 

 俺たちへ強烈な敗北感を刻み込み、ワイリーはそう言い残して彼のナビと共に消えていった。




〇ウッドグランドスタイル(ウッドマン)

 拙作オリジナルスタイルチェンジ。
 ヒビパネル以外にも穴、毒沼、アイス、マグマ、サンド、メタル、マグネットもスリップダメージが入る。
 ただし、サンドの上で木属性チップを使えばクサムラパネルに変貌し、毒沼パネルの上に5秒間いるだけでノーマルパネルに浄化。
 穴パネルに水属性チップを打ち込むとアクアパネルに変化し、その周囲のマスを自動的にクサムラパネルに変えてしまう。
 アイスパネルに火属性チップを打ち込むと同様にアクアパネルに。
 マグマ、メタル、マグネットパネルには無力ではあるが、【パネルリターン】でどうにでもできる為、ガチのぶっ壊れである。




〇ヒートブラザー(スカルマン)

 同上。ブラザーとは何ぞや。イマジナリーフレンドの事さ。
 生み出した分身のHPはリカバリー系の回復量を参照、攻撃力は本体の20%。
 一応、回数制限なく何体でも生み出す事が可能だが、同時に6体以上出したままだとスカルマンの処理能力が落ちて行動が単調に、10体以上だとラグが発生してせっかくのスピードが殺される制限がある。
 ウッドマンとは別方向にぶっ壊れスタイル。





〇ゼロ

 『トランスミッション』とは違い、ウイルスではなくネットナビ。
 見た目はエグゼシリーズに一番馴染むであろう『ゼロ』シリーズ。
 スペックは『我はメシアなり』とか言う奴とほぼ同等。
 ただ中身の人格データは生まれたての為、エグゼのゼロに近い。『X』のシグマ隊長が初めて出会った時のゼロみたいにはならない。
 武器に属性やブレイク性能、インビジブル貫通能力を付与する他、相手に見えないゼロウイルスを感染させる事でラーニングが可能。
 ただ色々と性能的に盛り沢山となった結果、暴走要素はオミットされた。

 渡くんとシアンを倒す為だけに作り出された為、彼らだけでリベンジしてもらうよ!
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