相棒のナビをデリートされたのに加えて、意地悪爺のワイリーから凄まじい情報量を食らった結果、頭の整理が追い付いていないみゆきさん、サロマさんの面倒はオフィシャルに任せ。
俺は貴船総監にデモンズ海域で起きた出来事を報告に上げる。すると既にアメロッパから知らされていたらしい。
緘口令が敷かれたのは勿論の事、ワイリーの拠点に乗り込む計画は頓挫。アメロッパの被害を受けて当然ニホンも尻込みしたみたいで、それらしい目途が立つのは不明とのこと。
科学省襲撃の後始末含めて色々と仕事に追われているからか、貴船総監との連絡はすぐに切れてしまう。今回の失態について処分を下している余裕がないのだろう。
結果だけ見ればバブルマンを取り逃がして終わった為、処分派にいたお偉方は鬼の首を取ったかのように社内政治の材料に使い、俺やみゆきさん、サロマさんの権限を剥奪しに来るかもしれない。
ネットセイバーって名目上は捜査現場での権限に限るらしいのだけど、総監直属という立場や今までの功績もあってか会議でも一定の発言権を持つらしいし。
俺たちを降ろして、その代わりに自分の派閥に所属するオフィシャル職員を送りたい、なんて考えてもおかしくはない。まぁ、それが通るかどうかは別の話だけども。
こんな俺でも一定の解決能力は示せている訳で、ネットバトルの腕も在野に潜む逸般人を除けば多分負けはしない。というか、俺より強い奴いるならお前が戦え、と任せたいくらいである。
責任についても今回ばかりは名ばかりとはいえいるしな。昼行燈気取りが何とかしてくれるだろう。現場を知っているならば俺たちを切り捨てるという判断が如何に愚かしいか、を理解できている筈。
さて、原作からかなり離れた行動を取ってくれやがったワイリー一派について。完全に先が読めなくなった――とまではいかないと思う。
今までの事件でも動員したWWW団員は極少人数。ドリームウイルスの時もそうだけど、基本は少数精鋭で動いていると見ていい。
ワイリー城――拠点の立地からして大人数を運用する、というのは難しいとすれば、国相手に喧嘩売るには無謀に過ぎる。
だからこそデモンズ海域でアメロッパ海軍を一蹴して、一筋縄ではいかないことをアピールしてみせた。
後は仮想敵国が盾さえなってくれれば、時間は優に稼げる。その間にプロトを手中に収めてしまえば後はどうにでもなることだろう。
あくまで最終目標は変わらない筈。というか、戦争なんかの大それた話に発展してしまえば俺如きが首を突っ込める訳もなく。
その辺りはお偉いさんに任せ、俺は俺のやれる範囲で頑張るしかない。
目下急務となる事柄は多分、無い。開催が本決定した時点でN1グランプリの件は先んじて打てる手は打ってあるし、残る病院のテトラコードも託してある。
想定外のボンバーマン、ストーンマン、並びにゼロの動向は推測がつかない為、出たとこ勝負になるだろう。
そうなれば純粋に相手との強さ比べとなり――現状のままではまず勝てやしない。
熱斗やロックマンの主人公コンビならばあるいは、と思わなくもないけれど、彼らに任せっ放しにするのは違うに決まっている。
何より今回みたくフォルテとゼロを別々の場所に向かわされては手が回らない。2体同時に派遣されては猶更だろう。
彼らと肩を並べる実力者の炎山とブルースにゼロの相手を任せる、というのも悪くはない。
ゾンビ戦法が通用しなかったウッドマンも炎属性の対策ができればワンチャンあるし、一度負けたとはいえスカルマンもスピードには追い付けていた。シャークマンは未知数。スタイルチェンジの性能次第か。
ネットセイバー外でもクイックマンやシャドーマン辺りもまた対応できそうではある――ゼロの異常な学習速度を考慮に入れなけば、の話だけど。
スカルマンと戦っていた際、ラーニングシステムかそれに類する能力を有しているとしか思えない動きしてやがったからな。
流石のブルースと言えど、長期戦にもつれ込んだ場合は敗色濃厚だろう。かといってワイリー製のナビが紙装甲だとは思えないし、短期決戦も難しい筈だ。
つまり、ゼロへの勝ち筋があるとすれば、学習し切る前に戦術を切り替えられる器用さと手札の多さ、初見殺しが豊富な人物。
俺とシアンが適任……とまでは言わないけれど、その候補としてカウントされるとは思う。
『傷付いた女の子放っておいて良かったの?』
考え込んだままオフィシャル本部を出たところで、見計らったかのようにシアンが声をかけてくる。
「俺じゃあ慰めの言葉なんてかけても効果は薄いだろうしな。それに俺もそこまで余裕がねぇんだよ」
あるいは『渡』がみゆきさんやサロマさんのメンタルケアに努める気ならば多少時間を割いても良かったけれど、『渡』自身も他人の心配している余裕が無いみたいだし。
(ごめん……)
先程からずっとこの調子である。
俺たちがゼロを相手にしている最中、力にもなれず、気を散らしてしまえば逆に迷惑になると考えて控えていたのだろう。
見ているだけというのは実に歯がゆく、無力感に苛まれる気持ちはわからなくもない。けれど、
(充分、『渡』は良くやってくれてるよ)
直接ネットバトルに協力できなくたって仕方がない。『渡』はまだ初めたばかりなのだから。
むしろ、この短期間で俺以上に優れたネットバトラーになれたのなら、俺の立つ瀬がなくなってしまう。原作知識しか役に立てず、マジで惨めだ。
未だに『渡』は納得してくれてはいないけれど、正直俺は『渡』のお蔭で救われている。部外者である俺の存在を『隠岐渡』の一部として許容してくれた時点で返し切れない恩があるといっていい。
これだけポカをする俺を慕ってくれている。俺では無理だった帯広シュンの助けになってくれた。
俺みたく原作知識っていうズル無しに、人を救えるってのは本当に凄いことだ。
小学生じゃ知識や経験、精神面でもまだまだ未熟なのだから、できないことが多くても当然のことだ。不甲斐ない大人が、頼りない俺が悪いだけだ。
それでも、まだチャンスをくれるというのであれば――どこまでも足掻いてやる。
オフィシャル本部を離れた後、次なる目的地は件の科学省だ。
一般開放されたロビーはガランとしており、来訪者は大事を取って外に逃がしたらしい。慌ただしい空気の中、ライセンスを提示してエレベーターに乗り込む。
熱斗やロックマンがどうなったのかも気になるが、それよりも俺は『渡』の祖父である英さんのことが気掛かりになっていた。
尤も現実世界には被害が及んでいないようで杞憂ではあったのだけども。
「急に来るというから驚いたわい」
英さんの研究室に顔を覗かせてみれば、存外落ち着いた様子で部屋の主が休憩を取っていた。
「ごめんね、お爺ちゃん」
「別に構わんよ。どうせ今日は復旧作業以外は碌な仕事がないじゃろうしな」
『渡』へ身体の主導権を返すと、彼はおずおずと英さんに勧められるまま隣に腰掛ける。
「復旧作業、そんなに忙しいの?」
「いいや。奥深くに侵入されはしたが、被害自体は軽微じゃな。目的のテトラコードを奪った後はそれに対応するテトラゲートで何やら試す素振りが見られたらしいがの。
破壊活動はまるでせんかったよ」
「じゃあ、お仕事はできるんじゃないの?」
「天下の科学省が侵入されて、おめおめと通常業務なんぞしてはおれんのよ。上の者は皆、緊急で会議に駆り出されて、下の者は侵入経路やら相手の手口、他に被害が無いかの精査に追われておるじゃろうて」
「お爺ちゃんは会議いいの?」
「ロートルが口出ししては現役の職員が良い気はせんしの。かといって若い者の中に交じっては気を遣わせてしまっての。孫が尋ねて来るのもあって少し休ませもらったんじゃ」
渋味の強い緑茶の口直しに茶菓子ばかりもぐもぐとする『渡』を見て、英さんはからからと笑って湯飲みを啜る。
「つまらん前置きは終いにして本題に移ろうかの」
“本題”というのは、俺が以前思い付きで製作依頼していたものだ。最初は名人さんに振っていたのだけど、分野的には英さんに向いている、ということで彼に回されたのである。
通常業務もあるし、後回しでもいいと言っていたのだけども、もう完成しているらしい。
英さんがデスクの上にあった小さな機械を2つ手にして、こちらへ差し出してくる。
「ご注文のアタッチメントじゃ」
ひとつ目は、バトルチップのスロットを拡張するパーツである。
通常、PETのスロット口は物理的に1枚ずつしか投入できない構造になっており、連続スロットインするに当たってロスが生まれてしまっていた。
それを解決すべく、物理的に同時に5枚まで差し込み可能としたのがこのアタッチメントだ。
「しかし、そのアタッチメントに対応するソフトウェアの開発までは間に合わんかったが、本当に渡しても構わんのか?」
「うん。そこは別の心当たりがあるみたい」
『渡』がその手触りを確認しながら返答する。うーむ、俺が見本というかプレゼン用として作った工作品とは雲泥のクオリティ差である。差し込んだ後はスライド式で外せる感じか?
使ったチップを背面から自動的に排出するPETのあの仕組み、後で拾うの面倒だとしか思っていなかったけれど、このアタッチメントだとバトル中にチップの入れ替えが必要になるのか。まぁ、慣れでどうにでもなるか。
ふたつ目のアタッチメントは変換アダプター。互換切りされた旧式バトルチップを使えるようにしたもの。
こちらはチップを差し込んだ後、それを支えるツメ部分にバネが仕込まれており、ボタンを押し込むことで外へと押し出される仕組みだろうか。
「もう片方の頼まれ事は気が進まんかったが……」
つい先程と打って変わって渋面を作る英さんが立ち上がり、『渡』をデスクの方へ手招きする。
「光主任が正規販売より前に息子さんへ渡したのと同じ――テスターという名目でこれを渡そう」
PCのウィンドウには『Navi Customizer』と表記されたアプリケーションが立ち上がっていた。
そう、『3』の目玉要素であるナビカスタマイザー、こいつを先行入手する為に英さんには少し無理してもらったのだ。
ぶっちゃけ、今回の想定外さえなければ発売日まで待つつもりであった。
けれど、可及的速やかにシアンを強化する必要が出て来た、となれば四の五の言っていられない。
「電子説明書を添付しておいたが、口頭で説明は必要かの?」
「ううん、へーき」
そんな短いやり取りの間にナビカスタマイザー通称ナビカスのインストールが完了。原作からしてメールの添付ファイルに収まってたし、想像以上に軽容量なんか、これ?
とにもかくにも、ナビカスをこの手にできるとは。WWWからの脅威さえ迫ってなければ小躍りしていたかもしれない。
ナビカスタマイザーはその名の通り、ナビをカスタムできるシステムのことだ。
『1』、『2』とプレイしてきたエグゼプレイヤーからすれば感無量だろう。スタイルチェンジで広がった戦術の幅が更に広がって戦闘の楽しさが加速するのだから。
……前世のゲームと違って今世だとナビを自由にカスタムできるから感動も薄いだろうって? ンな訳あるか!
今世のプログラム技術とかマジで頭おかしいからな。ゲームと違って単純に数値弄っただけではナビに反映されず、すーぐエラーを吐きやがる。
んでもっておかしくなったところを弄っている内にバグが発生するのはお決まりのコンボと言っていい。
それを、だ。可視化されたメモリMAPにパズル感覚で『アタック+1』のプログラムをはめ込むだけでバスターの威力が上がるとか画期的にも程がある。
もはや『HP+500』までいったらプログラマー涙目。アビリティ系は神だし、『バグストッパー』様はもうそんな次元におられない。それ組み込むだけですべてのナビカスバグ抑え込めるとか、存在自体がもはや壊れ通り越してバグだろ。
そのルールが厳密化されているお蔭で、エラーの理由も一目瞭然。
しかも、発生するバグにも法則性があるときた。更にはチャージショットが【ストーンキューブ】になったり、『6』で猛威を振るったシュウセイバスター、ランダムで怒り状態やフルシンクロにもなれるココロバグなんかの有用なものまであるしな。
ただ、今世だと戦闘中だけでなく常にバグが発生しやがる為、非常に厄介である。
特に混乱状態でスクエアに入ろうものなら、オフィシャル通報案件だろう。つーか、シアンが発見して実際にしょっぴいた事もある。
また高難度のプログラミングを小学生でもわかりやすい形に落とし込んだだけでなく、簡単にすぐプログラムを切り替えられる点も大きい。
発売時期がN1グランプリ本戦開始前というのも偶然ではあるまい。
バトルチップだけでなく、プログラムも相手に合わせて切り替えられる利点は言うまでもない。選手に使ってもらえれば宣伝効果もデカいだろうしな。
尚、蛇足としてこのナビカス、カプコン様が特許を取っていたりする。
でも続編である流星のロックマンじゃ続投しないのはおかしいだろ! ネットナビじゃなくて電波星人だから? じゃあ装備アビリティって何やねん! ウェーブバトルカード、ウェーブバトルカード、ノイズ改造ギアは許されるんかワレ!
キズナリョクの概念も悪くないし、ナビカスと違ってかなり自由度高いけれども!
色々と制限された中でプログラムパーツを選択し、どのバグを許容するか。組み方によって個性が出るのが面白くて好きだったのは俺だけじゃない筈だ。
「ありがとう、お爺ちゃん」
「礼など言われるまでも無いよ。この程度でしか力になれん儂を許しておくれ」
感情を押し殺した顔で頭を下げる英さんに『渡』の息が一瞬詰まる。祖父の姿が自分に重なる所があったのか、『渡』は何か言おうとして、けれど何も言えずに英さんが頭を上げるのを待っていた。
「ケイくん」
そして英さんは面を上げると『渡』の奥を見透かすような目で俺に声をかけてきて。『渡』が自発的に俺へと入れ替わった。
「くれぐれも渡をよろしく頼む」
「はい」
「無茶は……せんでくれ」
「善処します」
よかよか村の一件で既に『渡』の身に危険を晒しているから説得力の無い言葉だ。
今までが今までだから信じてもらえないかもしれないけれど、本音で言えば俺だって『渡』を傷付けたくない。俺も痛みは共有しているし、それに喜ぶ性的趣向も持っていない。
でも、自分だけが『渡』だけが助かる未来はもう選びたくなかった。光熱斗とロックマンが多大な無茶をする世界を見て見ぬ振りして避けるのが許せなくなった。
それこそ先回りして危険の芽を潰しているつもりが、こんなことになろうとは思わなんだ。
まぁ、今回も無茶することになろうと、譲れないんだ。
プロトが復活すれば、科学省所属の英さんはどうしたって電子機器の対処に追われて危ない目に遭うだろう。それをどうしても阻止したい。
最悪、今回だけはほとぼりが収まるまで機械の無い山奥に逃げ込めば助かるかもしれない。
けれど、『次』は正真正銘地球規模。逃げも隠れもできやしない。なら次に繋がるよう頑張った方がずっと良い。
「それと――儂のことは好きに呼べばいい」
「……え?」
続く英さんの思わぬ言葉で俺の愛想笑いが崩れ落ちる。
俺を見る時、彼はいつも苦しそうだった。
『渡』が目覚めるまでは何食わぬ顔で孫を演じていた気色悪い男だ。嫌われて当然だろう。
更に言えば『渡』自身も納得の上だとはいえ、俺がいなければきっと『渡』が無茶することはなかった。危険とは無関係、とは言わずとも今より平和だったに違いない。
恨んでいるのに。憎んでいるだろうに。
「洗濯、助かっておる。差し入れもわざわざ儂好みに手作りしてくれているじゃろう?」
それを吞み込んだ上で、英さんは俺を許そうとしてくれている。
「儂に今更言えた義理ではないかもしれん。じゃが――」
英さんは視界にしっかり俺を捉えて、若干固さは残るけれど柔らかい声音で、こう言った。
「儂をもう一度だけ君の家族にさせてはくれんか?」
家族になる、って言葉はきっと簡単な言葉じゃない。真面目な英さんのことだから、飾った言葉ではありはしないだろう。
彼には科学省で多くの仕事を抱え、俺は俺で事件解決に動いているから会う時間は極端に減った。
顔を合わせても『渡』と入れ替わってばかりで、俺と交わす言葉なんて数える程だろう。
それでも心を砕いてくれた。悩み、それでも受け入れることを選択してくれた。
「……俺は、卑怯な奴です。貴方をずっと騙していた」
「あぁ」
「俺は『渡』の事で心配ばかりさせて、でも『自分』だけじゃ責任取れない卑怯な奴です」
「あぁ」
「そんな俺でも、本当にいいんですか?」
「あぁ。儂と渡をこれだけ思ってくれる子に、家族じゃないと言えるものか」
気が付けば英さんは俺の傍にいて。俺は我知らず流した涙を彼の肩に押し付けて泣いてしまっていた。
こんな優しい世界に、俺なんかが立ち入っていい困惑はあるけれど、離れがたい気持ちも否定できない。
前みたく「爺ちゃん」と呼ぶには少し躊躇いがあるけれど、英さんともう呼びたくない。
――あぁ。負けられない理由がまたひとつ増えてしまった。
少し湿っぽい空気になりながら科学省を後にして、俺は強くなる決意を固めて次なる場所へ。
オフィシャル本部、科学省と打って変わって足を運んだのはデンサンシティの外れ。古い雑居ビルの中に目的の人物はいた。
「フォルテが来たらしいな」
開口一番、短い金髪に同色のヒゲを蓄えた男、コサック元博士がPCに向き合ったまま言葉のトゲを刺してくる。
「彼ならフォルテに勝てる、と言っていたのはどこのどちらかな?」
「どこでそれを知ったんで?」
「耳目はどこにでもあるのだよ」
秘密主義はこちらも同じだから深くは言及すまい。毛嫌いしていても科学省には繋がりでもあるのかもしれない。
「作業中申し訳ないんですけど、こいつに合うソフトウェア製作を頼みに来ました」
「ふむ」
PETとアタッチメントをコサックさんに渡すと、彼はそれを軽く一瞥する。そして、物凄い勢いで打鍵すること約2分。
「アタッチメントの着脱で自動的に切り替えられるようにしておいた。すまないがテストの方は君がしておいてくれ」
「凄っ……」
「むしろ私からすれば君の方こそ驚嘆ものだがね」
眼鏡のブリッジを中指で押し上げてからコサックさんは自身の作業を再開。会話しながらでも打鍵スピードは全く落ちていないのが凄ぇよ。
「流石は風属性という新しい概念を見つけた少年だ。このアタッチメントからして目の付け所が違う。ナビを強化する、となれば通常ナビのカスタマイズを想像するだろうが、PETの外部からアプローチを仕掛けるとはね」
「作ったのは俺じゃないですけどね」
「だとしても着想自体は君のものだろう? 与えられたものをただ享受するのではなく当たり前の概念を疑い、妄想の類ではなく実現可能の段階まで持っていけるだけで実に素晴らしい」
割と手放しに誉められてはいるけれど、あくまで『この歳にしては』といった枕詞がついていそうだ。
コサックさんの周りがそうなだけで、発想自体は転生者の視点でなくとも誰かしらが思い付きそうなものだけどな。
俺と同じく単純に技術力が足りなくて実現段階まで持っていけてないか。あるいは実験段階で不備が見つかったのか。
後はシアンのようなナビが、カスタムナビの主流から外れている、というのもあるだろう。
バトルチップはあくまでサポート目的、という意識もある。またそれ以上に、内蔵武器の方が展開速度が速いのも一因だろう。
当たり前の話だけど、外部から転送されるプロセスを挟む以上、どうしてもバトルチップを用いた方が遅くなる。
加えて内蔵武器の方は千差万別なチップと違って決まった形がある為、色々と処理が端折れたりできるのも大きい。
何よりもナビの最大の特徴、とも言えなくもないしな。ロマン大砲を突き詰めればギガクラスチップ並の威力も目指せるし、トリッキーな動きで相手を翻弄する、なんてのもウラでも見られる光景だ。
では一方でチップの回転速度特化のナビは彼らより劣っているのか、と問われればノーと言える。シアンが既に証明済みだ。
まぁ、名人さん製の高品質ナビの素体かつ特殊能力をひとつに絞り、火力などをチップ依存にしているからこそ、あの速度を出せているのだけども。
「まぁ、単純に他の人はそれを選ぶ必要が無かっただけでは?」
「随分と自分を低く見積もるものだ。比較対象にワイリーさんか光正さんでも持ち出しているのかい?」
「ンなビッグネームと比べるとかおこがまし過ぎるでしょうに」
「少なくともワイリーさんが執着する理由のひとつ、ではあると私は思うがね」
俺の態度を謙遜とでも捉えているのか、コサックさんの勘違いも甚だしい。
自爆に代わるものを提案した際、色々と知識が不足しているのが露呈した筈なんだけどな。小学生ボディだからって甘く見積もり過ぎだろうに。
嘆息しつつ簡単な動作確認を行ってからアタッチメントとPETをしまう。
「後、
「あぁ。既存のチップシステムをゲットアビリティプログラムに変換するシステムか。可能か不可能かと問われれば前者だと言える。しかし、作動するかどうかは別の話だ」
「スタイルチェンジを外したとしても、ですか?」
「単純に君のシアン君では
駄目元で頼んだものは結局没案に終わるか。スタイルチェンジも腐っているし、取り換えられるのであればそうしたかったが、そうもいかないか。
「ところで準備の方はどうなんです?」
「基礎となる部分は概ね固まった。けれど、ぶっつけ本番の一発勝負なのだろう? 未知数な所が多いから何を以て完成とするべきなのか判別がつかないのだよ」
「まぁ、そうっすよねぇ……」
代案の方も俺からはふわっとした提案しかしてねぇからな。これといった答えは出せないし、マジでコサックさんの腕次第なところではある。
まぁ、結果の見えている自爆よりかは効果がある手段だとは思う。彼自身、納得しなければ作業に入ってはいないだろうし。
個人的には上手くいってほしいけれど、間に合わなかったらサポートに徹してもらうことにしよう。
「後、最後に」
「まだあるのか」
「今回は持ち込んでないですけど、次来る時にプログラムをナビカスタイマイザー用に変換してもらうよう頼むかもしれないです」
このコサックという人物、原作でもプレスデータをいとも簡単にナビカス用に変換してみせたからな。
強化用のアタッチメントも含めて、もっと後に回す予定だったのに。マジでワイリーに予定狂わされてるわ。
雑居ビルを出た頃には太陽光の名残すらなく、すっかり夜の帳が下りていた。ひとまず現実世界でできる強化はこんなところだろう。
それでもWWWに、ゼロに勝つ為にはまだまだ足りない。
ぶっちゃけ強化といっても、ただ単にチップを物理的に複数入れられるようにしたのと、過去のチップを使えるようにしたっつう地味なものだしな。
ウッドマンやスカルマンのスタイルチェンジのような爆発力をシアンにも求めたいところだけど、そう上手くはいかないだろう。確実性が無いところに力を入れてもしょうがない。
だから俺たちの次なる目標は――シークレットエリア。
本来であればラスボス撃破後にゲームタイトルに出てくる『星の証』とかいう、こっちの世界で入手可能なのかわからないものが必要になるのは考えないことにして。
クリア後にしか手に入らないバトルチップの入手のついでに、そこでオペレートの腕も磨こうとの算段だ。
ただ原作の流れからしてシークレットエリアに伝手があるにしても、タダで頼むには無理がある。
なので、その交渉条件としてウラランクを手に入れる必要が出てくる訳だ。
その為に俺とシアンは――ソプラノの姉御を倒す。