今回の話はクリップ様のモブマン、島田正二様のアルトを採用させていただきました。
ご応募ありがとうございました。
ウラランキング。
それは名前の通り、ウラインターネットにおける序列のことだ。
原作では熱斗とロックマンが炎山の依頼から、ウラの王である「S」に会うべくウラランクの順位を上げるイベント、などという舞台装置でしかなかったのだが。
『力こそ全て』という掟通り、1位から10位までの猛者こそがウラを実効支配していると言っても過言ではなかった。
尤も、強さばかりを求めるのが大半で、中にはランカーであることに嫌気が差して隠居生活を送る者もいたりとその権利を行使する者は少ないようだったけれど。
あるいは縛り縛られる関係を良しとしないウラの気風でもあったりするのだろうか?
さて実のところ、俺とシアンはそんなウラランカーと親しい間柄であったりする。
何を隠そうソプラノの姉御こそウラランカーの4位。
しかも自分から狙ってその序列に就いたのではなく、無差別にゲリラライブを開いたり、襲撃者を返り討ちにしていたら、いつの間にかウラランカーになっていた、という異例の経歴を持っていた。
『やっほー☆ 待ってたよシアンちゃんっ☆』
おどろおどろしい色合いの電脳空間が広がるウラの中で、煌びやかなスポットライトや真っ白に拵えられた広々としたステージは一際異彩を放っている。
そんなステージの中心に、この縄張りの主――ソプラノの姉御が可憐なポーズでシアンを迎える。
会う度に違った衣装を身を纏っていた彼女だが、今回ばかりは初めて会った時と同じアイドル衣装というのは彼女なりに思うところがあるのだろう。
『直接会うのは2週間ちょっと振りだっけ?』
『準備とかでゴタゴタしちゃってね☆ でもシアンちゃんの為なら時間作ってあげちゃう☆』
『うん! ありがとうソプラノちゃん!』
仲良く手を取り合ってぴょんぴょん跳ねる2人の少女ナビたち。
ウラでも異質な彼女らのやり取りは、しかし長くは続かない。何せ再会を喜ぶ為だけにこうして時間を作ってもらったのではないのだから。
『卒業ライブ、わざわざ開いてくれたんだもんね☆』
ソプラノの姉御は近日中に、ヴァーチャルアイドルとして本格的な活動を開始することになっているのだ。それも彼女のソロではなく、3人組ユニットとして。
姉御を拾った事務所もさることながら、所属するユニットメンバーもなかなかアクが強く、リーダーは肩まで伸びる青色のシャギーカットで、王子様系のカッコイイ女性型ナビ――アルトだ。
抜群の歌唱力を誇り、ダンスのキレも一流の域に達しており、実力だけならヴァーチャルアイドルでもトップクラス。
上手過ぎて大半のユニットでは浮いてしまい、ソロ活動が妥当に思われていたらしいのだけど。
その性格が奔放過ぎて表に出せないという理由でデビューが見送られていたのだとか。
コンプラなどどこ吹く風で、思ったことは全て口にするわ、気が乗らなければ仕事場に来ないわ、公衆の面前でファンの少女型ナビの尻を触るわ、でかなりの問題児なのだという。
また彼女のオペレーターも対応がダダ甘で、好きなようにやらせるばかりで止めようともしない。
そんな中、ストッパーとして白羽の矢が立ったのがソプラノの姉御。我が強いけれどアイドル活動には真摯な彼女が『お話』した結果、ある程度の矯正に成功。
最初こそ『お世話係』の功績でデビューの決まった姉御だけど、アルトの影響でめきめき成長中なんだとか。
残るひとりはケミカルピンクで豊かな髪をツインテールにしたちっこい見た目のメゾピアノ。
歌もダンスも彼女らより一段と劣るものの、そのパフォーマンスは人を大いに惹きつけるらしい。個人的にはメスガキムーブかましているだけにしか見えないんだけどな。マゾが多いんか、この世界?
ただ素は結構ドライっぽい。何故知っているのかと言えば、ソプラノの姉御が電話越しにユニットメンバーを紹介してくれたからだ。
尚、シアンの見解だとメゾピアノはソプラノの姉御のことが結構好きらしい。めっちゃツンケンしてたように見えたけどなぁ。
『積もる話もあるけど☆ そろそろ始めよっか☆』
ソプラノの姉御の掛け声と共に、ステージの向かい側にある観客席へ次々とヒールナビが姿を現す。
その勢いは凄まじく、百はくだらないんじゃないだろうか。ウラの雑談掲示板に宣伝を打っただけなのに、驚きの集客率である。
『みんなーっ☆ 今日はあたしの為に来てくれて本当にありがとーっ☆』
『オメーの為じゃねーに決まってんだろォ!』
『さっさと始めやがれゲリ女!!』
『つーか、隣にいるのは誰だ?』
最後だとしてもコール&レスポンスは例の如く変わらない。強引にライブの押し売りをしてきたソプラノの姉御は厄介者で、蛇蝎の如く嫌われても仕方ない。
その一方で彼女を認めているからか、律儀に彼女の言葉を待っているし、冷や水を浴びせて退散する輩もいないの事実だ。
『あたしは今日限りでウラを卒業しまーす☆』
『ふざけんじゃねーぞ!!』
『勝ち逃げすんじゃねーぞダボハゼ!!』
『モグリだなニイちゃん。顔も恰好も隠してはいるが、ありゃあ「手品師」に他ならないぜ』
一斉に浴びせられるブーイングに、ソプラノの姉御はうんうんと頷いてとびっきりの笑顔を浮かべる。
一見すれば、彼らはただのアンチに見えるかもしれない。ヘイト感情を持っているからアンチなのは確かだが、それでも真っ向から彼女に向き合っているのだ。
全うに音楽を聴きに来た訳ではないけれども。こうしてわざわざ足を運んだのだから、とんだツンデレ共だ。
ちなみに姉御が卒業するにあたって、ウラでの言動がリークされないか不安に思ったところ、
『心配しないで☆ ウラの事を表に持ち出すのはご法度っていう暗黙の了解があるから☆ 破っちゃう子? そういう安易な考えの子は長生きできないし☆
あたし以外にも表で活動する人はいるから――広まる前に揉み消されちゃうかな?』
とのこと。やっぱウラって恐ろしいわ。
『あたしの卒業を記念して☆ 今日は特別に対バンをしようと思いまーす☆ お相手はこちら☆』
『どうも~! みんな大好き「手品師」ちゃんでーす!』
満を持してと言わんばかりに、シアンが今の今まで覆い隠していたベールを剥がす。
ローブの下に隠れていたのはいつものセンシティブな恰好ではなく、この日の為にソプラノの姉御がわざわざ用意してくれたアイドル衣装――彼女と対となるデザインのものだ。
一応の変装として白銀の髪を黒く染め上げ、目元から鼻までを覆う仮面で隠してはいるけれど、シアンの正体に繋がるリスクなのは確かだ。
それでも俺は、シアンの心意気を認めてGOサインを出した。友達の新たな門出に花を添えるのに野暮ったいローブ姿では流石にどうかしていると言われれば反論もできなかった。
それに俺としてもソプラノの姉御には世話になったしな。
『胸デッッッッ』
『手品師のヤツ女なのはわかっちゃいたが……』
『顔を隠しちゃいるが、あの造形のクオリティ。ゲリ女と同様の変態だな、ありゃあ』
『これ、襲名式か何かかァ?』
モブの言葉通り、その側面が無いとも言えない。
ソプラノの姉御がウラから引退するに当たって、ウラランク4位が空位となる。
長期間その状態であれば自動的に繰り上げになるらしいのだが、基本的には4位のデータを持つ者こそがウラランカーになれる訳だ。
だから極論、強さが無くともランカーから譲ってもらうだけでその地位に就ける。実際、ロックマンもほぼ引退状態だったランカーから譲り受けていたしな。
ただ今回はそうじゃない。ソプラノの姉御も血気盛んな立派なウラの住人だからだ。
『うーん☆ みんなウズウズしてるみたいだしMCも手短にいこーっ☆』
パチリとソプラノの姉御が指を弾くと、背面にある大型モニターに拡大化された彼女とシアンが映り出され、その上部には彼女らの名前と『0』の数字が表記される。
『対戦方式はスタンダードなライブバトル☆ 早速1曲目、スタートっ☆』
某ホビーアニメのトリプルフリーが如く、碌なルール説明もなくライブがスタート。
俺の困惑を他所に流れ出すBGM。燦然と輝くスポットライトがリズムに合わせて踊る主役たちを照らし、観客席の最前列から野太い声を上げてマナー違反共がステージに雪崩れ込む。
『くだばれオラァ!!!!』
『死ねよやァァァァ!!!!』
キャノン系を中心とした遠距離砲撃が一斉にソプラノの姉御へ放たれる。だが、BGMが流れた時点でニワカ共の行動は既に遅かった。
無敵と化した彼女は視界を塞ぐ煙を払うだけの為に【トップウ】を展開、そしてマイクを手にして歌い出す。十八番の音波攻撃を前に、第一陣のヒールナビ共はあっけなく蹴散らされる。
『肉壁ご苦労ッ!!』
『しゃあッ! 見せてやるぜ! これがオレたちの答えだッ!!』
それを見越してか、第二陣のヒールナビたちは準備を整えていた。そう、ソプラノの姉御のバフデバフを無力化する為の手段を、だ。
彼らの前にズラリと並ぶのはララパッパ。彼女の音楽隊と同じ見た目ではあるものの、奏でる音は全くの別物。
耳にするだけで不快感を催すバカデカい音は調律されたBGMを破壊する。
『もーっ☆ ライブ中に大きな音鳴らすの禁止っ☆』
俺もまたソプラノの姉御対策として目を付けていた改造ララパッパは【リュウセイグン】によって悉くがぶっ壊される。
置物系の宿命というべきか、一度設置させると移動させるのが難しいんだよな。広範囲攻撃だと【エアシュート】や【ガッツパンチ】系だと碌に逃がせないし。
(わわっ、こっちにも来た!)
観戦モードの『渡』は驚いているようだが、俺もシアンも端から想定済み。
何せ俺たちはあのウラランカーへのチャレンジャー。通常の手順であれば、ウラランカーへの挑戦権は定期的に開かれるサバイバルに生き残った1名にしか与えられない。
それをコネでズルした形なのだから、当然シアンにもヘイトが集まってもおかしくはない。
恐らく前がかりとなった第一陣が捌けたことで、こちらに攻撃を通せるようになったからだろう。ソプラノの姉御に遅れて、こちらにも物量任せの攻撃が殺到する。
「【ホーリーパネル】、【オーラ】」
それに対し、俺は視認性を阻害する【インビジブル】系ではなく、そのパネル上ではダメージを半減する効果を持つチップと、攻撃力100未満の攻撃を無効化するチップの組み合わせで難なく受けきってみせる。
えっ、【オーラ】でも見えにくいって? これも演出っていう体で我慢してもろて。
『~♪』
「二重の意味でお帰りといこうじゃねぇか」
続けざまに変換コネクターのアタッチメントをPETに装着。んでもって取り出したるは互換性がなく時代に取り残された古きチップたち。
「【ロックオン3】、【モストクラウド】」
エグゼ1にて大変お世話になったズッ友コンビのご帰還だ。浮遊したサテライト型のマシンガンと、スコールよりも恐ろしい雨雲が敵を蹂躙する。
どちらも相手を自動で捕捉して攻撃してくれるからシアンの行動が制限されないのがかなり大きい。
ただ互換性が無いのだけが本当に痛い。どうもシリーズ間を跨いでチップコンボを組み合わせるのは処理的に無理っぽいというね。
お蔭で【アタック+】系と、【ロックオン】や【サイクロン】のぶっ壊れ火力は実現できないようで実に残念である。
『くるっと回って決めポーズっ!』
「……おぉう」
シアンがターンを決めた一瞬でディスプレイの表示を確認してみれば、名前の近くにあった数字が『0』から増えているみたいだ。
案の定、数字の上ではソプラノの姉御優勢。ただ、ヒールナビを倒した数では無いっぽいな。
……ライブバトルというだけあって、この状況で観客共は投票なり採点してんのか? マジで頭イカれてやがる。
『アピール足りない! もっと援護してワタちゃん!』
「了解」
やるからには全力で勝ちを目指す。
ウラとかソプラノの姉御相手だからとか関係なく、それこそが戦う相手への礼儀ってものだろう。
今度はアタッチメントを拡張パーツに取り換えてポーチから複数のチップを引っ掴む。
「【クイックゲージ】【プラズマボール1】【アイスウェーブ1】【スプレッドガン】【カウントボム】」
シアンの処理能力を上げると同時に、彼女の周囲を電気の球体でライトアップ。ユラユラと動く氷の塊を散弾で打ち抜いてダイアモンドダストを演出し、爆発までのスリーカウントを刻む。
「【フルカスタム】【ヒートショット】トリプルスロットイン。プログラムアドバンス、【ヒートスプレッド】」
時限式の爆発と合わせてド派手な爆炎を客席にお見舞いしてやる。
とてもじゃないが客商売に対するスタンスではないが、横っ面引っ叩いて無理やりにでもこちらを向かせるのがウラの流儀。
ソプラノの姉御に向けられた視線、こっちにもっと寄越してもらおうじゃないか。
曲が中盤に差し掛かる頃、観客席は一定の落ち着きを見せる。
二の矢が刺さらなかった今、慎重になった彼らは防御を固め、反撃の機を待つ構えだ。
そんな彼らが注目する本日の主役たちは、ここぞとばかりに鎬を削る。
「【シラハドリ】、【フウアツケン】、【フミコミザン】」
ダンスに合わせて剣舞を披露するソプラノの姉御に対し、カウンターを決めるも、まさかの【シラハドリ】に【シラハドリ】をぶつける荒業をやってのけ。
続けての風圧を纏ったソードで吹き飛ばし、そこから一息で距離を詰めての一撃も、アニメ版【トルネード】っぽく回転した姉御が宙を舞うことで一閃がスカに終わる。
『~♪』
『~♪』
これを歌いながら音ハメしてくるのだから尚恐ろしい。ソプラノの姉御の実力もさることながら、自己主張の一切ないオペレーターのマスターさんの援護がバチクソに上手い。
それ故に観客たちからの評価も1.5倍差に引き離され、なかなかの苦境に立たされているといってもいいだろう。
今の今までウラの猛者相手に己のスタイルを貫き通し続けたソプラノの姉御相手に、歌とダンスの勝負に持ち込もうというのだから、突きつけられて当然の結果だ。
だからといって、コソコソと逃げ回って陰湿なマヒや毒狙いの戦術は選ばない。某テニヌのようにK.O勝ちもウラからすればアリなんだろうけどさ。姉御のパフォーマンスを落とす方法はシアンから怒られるしな。
それすらも対処してきそうってのもあるけれど、そもそもとしてここで逃げてしまえば話にならない。
――自分の強みを押し付けてくるゼロに勝つ為に、乗り越えるべき試練だと思うから。
曲が二度目のサビに入ったところで、客席の第三波が動き出す。
『GOGOGOGO!』
『特攻野郎Hチームのお通りじゃあ!!』
彼らの取った手は地味なもので、大人しくしているように見せかけて置物系のチップを今まで仕込んでいたらしい。
戦闘力が皆無な代わりに、自身の存在や攻撃力の持たないデータに限り、ハンターハンターの
だが、アップデートされた姉御の歌声は『5』の【パルスビーム】と同じく、障害物に当たれば周囲に伝播する効果がある為、無意味かに思われた。
「マジかよ!?」
だが先程と違う色をしたララパッパが姉御と同じ音声を発したことで相殺してみせる。おいおい、伝播する効果も真似てやがるのか。
対策掲示板にも乗っていない新ネタをここで出してくるとは思わなんだ。
『音源買ってくれてるファンの人? でもライブに来たならちゃーんと生の歌声堪能していってね☆』
曲のタメを作るところで、ソプラノの姉御が天井に手を伸ばして指を鳴らした途端、ヒールナビたちの傍にあった置物系の姿が巨大なスピーカーに変貌する。
『どーん☆』
初見殺しというサプライズに彼らは為す術もなく音波によって消し飛ばされる。
ウラランカーの中でも圧倒的に情報が出回るソプラノの姉御が、まだ手札を隠し持っているとは思わねぇよ。
ウラの住人たちもそうだったのか、生き残ったのは最後方で腕組する後方彼氏面しているように見えるヒールナビくらいのもの。
……つーか、あんだけ否定しといて、やっぱいるんじゃねぇかソプラノの姉御のファンがよォ!
「【ポルターガイスト】」
お前らの屍を越えていき、有効活用させてもらう。ソプラノの姉御の演奏隊すらも巻き込んで、あらゆる置物系を浮遊させる。
そして、一斉に姉御の元へ圧倒的な物量を押し付けてやる。
『――流石にステージ破壊はやり過ぎかなー?』
またも同じく【ポルターガイスト】で置物系の主導権を無理やり奪われると、ステージの外へ放り出される。
マスターさんめ、どんだけチップ持ってやがんだあの人。
もはや理不尽を体現するソプラノの姉御に対して、シアンは目を輝かせて笑う。
憧れの存在が陳腐な己の予想を超えてくるのだから、嬉しくて仕方がないのだろう。俺としてももう笑うしかない。
ラストのサビに突入し、そろそろ曲も終わりが見えてきた。
今の今までノーダメージを誇る姉御のHPを削り切る、というのは夢物語に等しい。
『ワタちゃん!』
でも俺たちは無茶してナンボの挑戦者。
ソプラノの姉御が『ライブバトル』をお望みであれば、最後の最後までダンスに付き合うというのが道理というもの。
「【バンブーランス】、【ヨーヨー】」
裏拍を打って背後から迫る竹槍と刃のついたヨーヨーを、ソプラノの姉御はステップを踏んでスルリと躱し、
「【エアシューズ】」
ステージの前面に躍り出るソプラノの姉御を軽く飛び越えて、
「【ガイアソード】【ステルスマイン】×4」
振付に合わせて振りぬいた渾身のソードは、
『~♪』
最後の最後まで届くことなく、返す刀で【バリアブルソード】がシアンの身体に突き刺さって曲が終わる――
「【コピーダメージ】【オジゾウサン】」
寸前、最後の最後まで【ユカシタモグラ】で潜伏していたヒールナビとソプラノの姉御の間にお地蔵様を出現させて、バックアタックを阻止。
そして、巻き込み事故という締まらない形でソプラノの姉御に一矢報いることに成功するのだった。
『シアンちゃんお疲れーっ☆』
『ソプラノちゃんこそ』
ソプラノの姉御の卒業ライブはたったの1曲にて終幕。お客さんが9割方ほど退場したってのもあるし、アンコールもなかったこともある。
けれど、一番は姉御自身が満足そうに頷いているのが大きいだろう。
『うーん、でもやっぱりシアンちゃんとは純粋なライブがしたかったかも☆』
『感謝しなよ~ワタちゃん?』
「……うっす」
俺の意を酌んでライブバトルの形になるとおっしゃるか。
俺としてはガチバトルを望んだのだけど、紆余曲折を経てこうなっただけなのに……。どうしてこうなった。
『これが最後かー☆ やっぱり一緒にアイドルできない?』
『うん。歌もダンスも楽しいんだけどね。でも、』
悪戯気な笑みを浮かべたシアンがちらりとこちらを見上げて、
『人気が出たらワタちゃんが嫉妬しちゃうかもだし?』
『うりうり~☆ 幸せ者だねワタちゃん☆』
「……うっす」
冗談めかして言っているけれど、シアンが俺の事情を優先してくれていることは確かだ。ちょっとムカつきはしても、我慢だ我慢。
『そんな幸せカップルにはこちらを進呈しまーす☆』
『おぉ~!』
気安い雰囲気でソプラノの姉御からシアンへ手渡しされるウラランク4位の称号データ。
確かにこれ目的で姉御に挑んだのだけど、いざ実際に手に入るとなると、正直複雑な気分でもある。
観客からの評価は言わずもがな、残りHP的にも判定負けしたようなものだし。
「いいんですか?」
『「S」ちゃんからの約束だからね~☆ もしシアンちゃんたちが不甲斐ないなら素直に返還してるって☆ だいじょーぶ☆ あたしよりランク低い子たちよりも全然相応しいから☆』
『そうなの?』
『うんうん☆ もし文句があっても黙らせちゃえ☆』
友人関係の贔屓ではなく、実力を認められたのであれば拒む理由もあるまい。
ただ受け取って早々にアレだが、シークレットエリアにさえ入場許可が下りたらマジで手に余る代物なんだよな、これ。
所持しているだけでウラの住人からずっと付け狙われる事になるし。
『貰ってすぐに返上するのもアリ? ってワタちゃんが悩んでるけど、その辺どうなの?』
『全然☆ 好きにしてくれていいよ☆ あたしがウラランク手に入れたのだって偶然だし、持ち続けてたのも注目が集まるから、ってだけだしね☆ シアンちゃんたちが好きに使っちゃって☆』
「ありがとうございます」
『いいのいいの☆ あたしにはアイドルの肩書だけで充分だから☆』
姉御の心意気に感謝の意を示して頭を下げる。よしよし、これでロックマンに渡してシナリオの大幅なショートカットが狙えるな。
『そうそう☆ 最後にセンパイからアドバイス☆』
『なーに?』
『今回はあたしのステージや楽曲に合わせてくれたけど☆ 自分のスタイルは曲げなくてもいいんだゾ☆』
『うん』
『ホントにわかってる~? シアンちゃんもさ、全部が全部ワタちゃんに合わせる必要も無いんだよ?』
そう言われてシアンの青い瞳が丸くなる。多分、言われるまで意識すらしていなかったのかもしれない。
『まー、極端過ぎる言い方だったかもしれないけど☆ シアンちゃんのスタイルチェンジの鍵はそこにあると思うな~?』
「は? スタイルチェンジ?」
『あたしのはカワイくなくて合わなかったけど☆ じゃ、頑張って☆』
言うだけ言ってプラグアウトしていく姿はいつもと変わらず、最後までソプラノの姉御は満開のスマイルでウラからあっけなく去っていった。
スタイルチェンジ――『チェンジ.bat』も元を辿ればアジーナの国宝。『ゴスペル』が起こした一連の事件でアジーナ国のお偉方も考えを改め、宝の持ち腐れをやめたのは確かだ。
しかしながら元が元だけに安売りはせず、国力上昇の為にとアジーナ国外には渡っていない筈だった。
それこそ一部の例外は研究に一役買ったニホンや、外交関係に強いアメロッパなどの一部に、極少数が提供された程度。
それにも拘わらず、ソプラノの姉御は入手しているときた。掲示板にこそ乗ってないけど、ウラにもスタイルチェンジが流出してんのか?
……ハッキングパパの仕業と疑いたくもなるけれど、今回に限っては違うっぽいんだよなぁ。
俺が言うまでもなく色々な所から釘刺されまくっているし、WWWの対応に追われる他、ナビカスの開発に並行して、ディメンショナルエリアの研究も抱えている。
ぶっちゃけ、多忙で家にも帰れていないという。熱斗にはマジで悪いことしたわ。
「シアン、俺たちもプラグアウトだ」
『りょーかい』
一応、ソプラノの姉御の名前を伏せてオフィシャルに報告するとして、俺たちは次のステップに進むとしよう。
スタイルチェンジに関しても先輩だった姉御の意見も、発現のキッカケくらいにはなりそうだ。まぁ、聞く限りじゃ俺にはどうすることもできず、シアン次第っぽいけれど。
海に面したビーチストリートには『命の木』という大樹がある。
古くから存在しているそれは、人の手によってビルなどの人工物が立ち並ぶ中でも未だ健在で、湾岸病院内部に取り込まれた現在ではネットワークによる生育環境を整えられて、枯れることもなければ葉を散らすこともないらしい。
「無理やり生かれてるようでさ、ぼくは嫌いだったんだけどね」
3階のフロアから見上げても尚、天辺が見えない病院のシンボルを前にして浦川まもるはそう言った。
医者からすれば、枯れることのない生命力に溢れた『命の木』は病人を勇気づける存在だと認識しているらしいけれど。
長年病院生活を送るまもるからすれば、生命維持装置に繋がれたお仲間みたいに思えていたらしい。
「もう目にすることも無くなるってなると、ちょっぴり寂しい気分になったんだ」
「で、退院までの日取りは?」
「もう意地悪」
こちらに振り返り、頬を膨らませたまもるの車椅子を押して彼の病室までゆっくりと戻る。
今までアンニュイな表情を浮かべていた彼も、最近では年相応の明るい顔も増えて来た。中身がいい歳したオッサンだからこそ涙が出そうになるのを堪えて、俺はへらりとした笑みを張り付ける。
「せっかく勇気を振り絞って手術受けたのにさ。もっと喜んでくれてもよくない?」
「喜んでる喜んでる」
ぶっちゃけて言えば、原作よりも早い段階で手術を受けているとか驚きの感情の方が強かった。
というのも、原作の『3』だとN1グランプリが終わった後、やいとの入院する湾岸病院に顔を出したところ、浦川まもるに出会うのだ。
そして、N1を見て熱斗とロックマンのファンになったまもるは彼らとの交流を経て仲良くなった直後、まもるの容体が急変。
緊急手術を受けなければならなくなったところ、まもるはそれを拒否。以前にも手術を何度も受けても治らない現状に諦めていたのだが、熱斗たちの説得によって勇気付けられるのだ。
このシナリオの素晴らしい点としては、まもるの心臓病『H.B.D』がかつて彩斗兄さんが命を落とした病気で。
彩斗兄さんの頃は治療法のない難病だったのだけど、まもるが手術を受ける頃には治療法が確立されていて。
ロックマンとして新しい生を受けた彩斗兄さんが励ます姿が本当に感動したのを覚えている。
……まぁ、その後に待つ友情のチップである【コオリホウガン】入手の為に小学生が別の意味で泣いたのだけど。
当時の俺は結構NPCに話しかけるタイプで、ビーチスクエアであからさまなヒントを貰えていたが、情報収集を怠るタイプの人間だとマジで泣きを見る。アイムフィッシュ無しだと本当に出現しにくいからなぁ。
今世でもまだナビカスのプログラム販売してないからレアチップ集めはマジで苦痛だったけどな!
【ビーアロー3】が手に入るスパークレイとかね、発狂しそうになるくらい出ないっつうね。
【バッドスパイス3】も『2』の時系列で手に入れてなかったらどうなっていたことやら。
閑話休題。
圧倒的光属性の光熱斗と、似た境遇のロックマンが励ましたからこそまもるは手術を受けることができた。
が、今世だとN1グランプリまだ開催してないし、そもそも熱斗やロックマンとも会っていない。
偶然を装って事前に引き合わせることも考えたけれど、初めてまもると会った時、原作以上に絶望していて会わせる事に躊躇いを覚えたんだよな。
病気のことを考えるとできるだけ早い方が良いものの、なんだかんだまもるは鋭いところあったし、俺の手引きだとバレたら心閉ざす危険性も孕んでいたし。
そもそも『H.B.D』の手術ができる医者もいつ赴任するかわからん点もあった。
だから時間ができたら病院に顔出してまもるの様子を見に来ていたのだけど、いつの間にかちゃっかり手術受けているんだもの。
「まぁ、その勇気もお兄さんから貰ったんだけど」
「俺から?」
「世界、救ったんだってね?」
「救ってなんかいねぇよ」
俺の心から返答に、まもるは笑って流してしまう。
一応、原作よりも被害を減らすべく動いたつもりだけど、最終的に世界を救ったのは熱斗とロックマンだ。
というか、何故まもるがそのことを知っているのだろうか?
父親が科学省の人間だからか、それともウラの管理人だからか。どちらにせよ、俺の行動を知るのは熱斗や炎山、オフィシャルとネット警察上層部、後は光祐一朗と隠岐英さんくらいのものだ。
「シュンくんから聞いたよ? お兄さんと光熱斗って人が『ゴスペル』を倒したんでしょ?」
「帯広が? つーか何喋ってんだよアイツ」
「更生プログラムの一環でぼくも協力した時に仲良くなったんだ。で、お兄さんの話を聞いて負けてらんない、って思った」
「だから手術受けたって訳か」
人から聞いた話だから一部脚色が混じっているだろうし、帯広を救ったのは『渡』だ。それでも『渡』の身体で否定するのも違うか。
(違う。そうじゃないって)
『渡』が意思表示してきたので代わろうか、と提案するも蹴られる。俺が責任もって喋るべきですか、はい。
「で、今度は何の用事? テトラコードなら受け取れないけど?」
結構前に訪問した際、シークレットエリアに保管できないか、という提案したのをまだ言うか。
『ギガフリーズと同じ場所とか何考えてんだ』と遠回しに言われて流石に諦めとるわ。
今はスタンドアローンのPCをレンタル倉庫に突っ込んで保管している。んで、時折引っ張りだして
【ギガカウントボム】や【ポイズンファラオ】、【ハイパーバースト】、【ゼータ―ヨーヨー】食らわせても未だに壊れないとか何なんだよ、テトラコード君の耐久力おかしいだろ。
いっそのことバグらせてやろうか、とも考えたけれど、そのせいでどんな怪物が誕生するかわかったもんじゃないから、そこは自重はしている。
「いんや、今回はシークレットエリアの入場許可を取りに来た」
「……その意味、本当にわかってるの?」
「あぁ。ギガフリーズがあるから難しいんだろ?」
ギガフリーズ――プロトへの対抗手段を保管する為に、そもそもシークレットエリアが作られた。
それ故、解禁されるのはプロトがデリートされたクリア後になる、というのも承知の上だ。
「本当に危険性がわかってるなら軽々しく言えない筈だよ。だってギガフリーズは……」
「下手すりゃ電脳世界すべてがフリーズする、禁断のプログラムだっけか」
まさしくネットワーク社会に生きる人類にとってプロトとは別の脅威とも言える禁断のプログラム。
原作の説明では一歩間違えれば、といった文面があったけれど、その機能は全世界にプロトバグが蔓延した際の最終手段でもあるのだろう。
機械が暴走して命を落とすよりも、全世界のシステムが麻痺した方がマシ、とでも捉えたのだろう。
「そもそもアレは普通のナビじゃ持ち出せない。選ばれし者以外じゃフリーズしちまうんだろうが」
「そうだけど……! でも万が一ってことが……」
「その万が一を起こせる奴がWWW側にいるんだよ」
フォルテ君のことなんですけどね。選ばれし者だからか知らんけども、「ギガフリーズが効かない」みたいな展開が原作だとあるんだよなぁ。
あれですっかり設定負けされている感じがしてギガフリーズ君、スッゴイカワイソ。
『L.o.n』じゃギガフリーズの欠片なんて代物が出てきておきながら、使い道が冷却だしなぁ……。オッカシイデス、イッタイナニガ。HO!
まぁ、そのフォルテ君もどこぞで『S』に返り討ちに遭っているらしいからアレだけども。
「それにウラの王『S』――セレナードが守ってるんだ。不安がる必要もねぇんじゃねぇの?」
「そのセレナードがきみたちを危険分子って見ても?」
「俺たちはウラランク4位。てめぇで認めた序列もふいにするような奴なら王の器じゃねぇさ」
不敵な笑みを張り付けて、唯一の説得材料で全BETだ。これでも足りなきゃミストマンだろうがボウルマンだろうが倒してやるよ。
「……わかった。セレナードの橋渡しはしてあげる。後はお兄さん次第」
「助かるぜ、まもる」
思わずまもるの頭に手が伸び、髪をくしゃくしゃにする。わっやめてよ、なんて言いながらもその手を払いのけない彼に笑いながら俺は病院の窓に目を向けた。
しかしながら……これでも修行のスタートラインにすら立てていない、ってマ?
〇ソプラノ
ウラから卒業して本格的にアイドルデビュー。
ストッパー役に収まってはいるけれど、本質はアイドルに一直線なだけでウラの気質は抜けていない。
基本的にはアイドル活動で見返すガッツを見せるけれど、理不尽な処遇を受ければ暴力も辞さないヤベー奴。
最初は表面的にしか見られなくて人気が低迷するものの、アイドル根性や姉御肌が露見したり、ユニットの絡みで人気に火が付くタイプ。
〇マスター
ソプラノのオペレーター。
推しの為なら何でもできるハイスペック超人。ただそれが原因で前職では疎まれたり、仕事を押し付けられたりで精神的にキていた時期もあった人。
身長180オーバーの筋肉モリモリマッチョウーマンの30代。
〇アルト
最近になって『待て』を覚えた駄犬。
王子様系のカッコイイ振る舞いをするのも彼女のオペレーターが喜ぶからで、中身は養女。
お尻を触るのはセクシャルな意味はなく、単純に相手の反応が面白いから。
ユニットの基本方針を決めるリーダーではあるけれど、ソプラノの姉御から軌道修正されてばかりでちょっぴり不満。
ただ姉御のカッコ良さに触れて、心の底から慕っているから反発することはない。
〇アルトのオペレーター
アルトを甘やかしまくったせいで駄犬にした張本人。
彼女に寵愛を注ぎまくる前は人間相手に全肯定して無自覚に堕落させる悪魔だった。
ママ要素が多分に含まれる20代後半の(♂)
〇メゾピアノ
アイドルをしているのもメスガキムーブをするのも、彼女のオペレーターの為。
内面は凄く冷めており、小器用に振舞っているだけ。
だからこそ自分に無い熱を持ったソプラノに好意を持っている。絶対口にしないけど。
ぺったんこな体型を気にしている。口にはしないけど。
〇メゾピアノのオペレーター
元売れない地方アイドル。
学生時代の内に見切りをつけて引退したものの、内面燻る部分があったりする。
メゾピアノに自分の願望を押し付けた事はなく、彼女自身がその想いを汲み取って活動しているのを複雑な気持ちで応援している。
20代半ばのOL。
〇モブマン
一点特化の隠密能力は群を抜いており、全世界含めてトップのナビ。ただ戦う力も無ければ戦う気概も無い小心者。
ウラに住み着く訳でもなく、日常にないスリルを覗き見するだけのROM専。
今回参戦したのは楽な仕事で大金が得られる文言に釣られてノコノコ顔を出したからで、結果地獄を見た。
そんな詰めが甘いところを散見され、渡くんにも認知されていた。
当然、そんな彼を利用したい団体がごまんといるが、犯罪する度胸も無ければ一般的な良識を持ち合わせはいるので断って逃げ隠れしている。
個人情報も一切明かさないし、本気で逃げ隠れすれば誰にも見つけることができない。
その上、ほとぼりが覚めるまでは数年単位だろうと電脳世界に顔を出さなくとも平気なメンタルをしているので、ガチで潜入に向いていると思われる。
〇『手品師』
正体不明でありながら、手を変え品を変えてチップコンボを叩き込む戦闘スタイルから付いたシアンの通り名。
基本的に情報通の相手か、テッポウダマみたいな単純バカにしか絡まないので知名度はそこまで高くない。
ただ今回の一件でウラランク中位に躍り出た為、その存在が一気に広まることになった。
まぁ、ソプラノに勝った訳でもないし、彼女みたいな広範囲殲滅ができる訳でもなく、ロックマンにウラランクを譲るのは確定事項なので、一般のウラ住人からは下火になるヤーツ。