WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

6 / 69
6.Dr.ワイリーゆとり教育への反逆

「まりこ先生は体調不良ということで自習にするでマス」

 

 一時間目から自習になると喜ぶ生徒一同であったが、それは束の間のこと。

 日暮さんが退出してから数秒後、ブラックボードから警告音が鳴り響く。

 

 嫌でも注目を集めると、そこに映し出される老人の姿。

 前髪から後頭部まで大きく禿げ上がっているがその周囲から伸びる大きく逆立った独特の髪型。ボカしてはいるが、深く刻まれた皺と側頭部と頬にあるシミが年季を伺わせる。

 蓄えた口髭を揺らし、老人はこちらにこう語り掛けてくる。

 

『我々はWWW。これより未来の僕たちにネットワーク支配計画の概要を説明しよう』

「何これ!?」

「ドアが! ドアが開かないよ!?」

 

 絹を裂くような少女の悲鳴。少年の涙ぐむ声。しかし、演説は止まらない。

 

『現在は第一段階。我々の存在を知らしめ、愚昧な民衆共に堕落した世界の恐ろしさを思い知らすのじゃ』

「こんなのってないよ……」

 

 騒然とする教室内に我先にと立ち上がったのは大山デカオだった。

 

『第二段階。我々の思想を理解せぬ国の軍事ネットワークを奪取。反抗の目を摘み取り――』

「みんな安心しろ! オレさまとガッツマンに任せな」

 

 腹についた贅肉を揺らし、いざブラックボードにプラグインする段階で俺は待ったをかける。

 

『最終的には終末戦争を引き起こす! デリート! デリート!! デリートォッ!!!』

「少しは落ち着けよデカオ」

 

 興奮した耄碌爺の声に負けないよう、強めに。

 

 

 

 

 

「邪魔すんじゃねーよワタル!!」

「だから落ち着けって。1人……ガッツマンと2人突っ走ってどうすんだ?」

 

 感情のまま吠えるデカオに対し、俺は机の間を通り抜けながら淡々と問いかける。

 

「何が言いてぇんだよ!?」

「それで負けたらどうする?」

「負けねぇよ!! オレとガッツマンが――」

「本当に?」

 

 眼前に詰め寄る相手の気迫に一歩も引かず、無感情にデカオを見つめ返す。

 生意気にも出しゃばる俺に尚も声を上げるデカオに強引な形で差し込み、腕を広げてみせる。

 

「今回はお前の負けはお前だけの負けにならない。みんなが苦しむんだぞ」

「……ッ!」

 

 自信過剰なデカオが反論を堪えてみせる。

 自身のプライドよりも他の生徒の安全を取ったのだから、本当に彼は偉い。

 

「だったらどうすんだよ?」

「こういう時くらい俺たちを頼れよ。勝手に守る側に入れんな」

「そうだぜデカオ。友達だろ?」

 

 親指で熱斗を指しながら、そう言ってやると熱斗も乗ってくる。

 

「……ンなの、わざわざ言うことかよ」

「3人バラバラで戦うんじゃなく、3人で力合わせるんだ。勝手に一人で動けば逆に邪魔になるんだよ」

「そーいうこと。じゃ、ちゃっちゃと終わらそうぜ」

 

 照れるデカオを横目に3人でブラックボードの前に並ぶ。そして、

 

「「「プラグイン」」」

 

「ガッツマン!」

「シアン」

「ロックマンexe!」

 

「「「トランスミッション!」」」

 

 空気読んで一緒にやったけど、間に挟まれてると大きな動きできないし、やっぱクッソ恥ずかしい! いるか、このモーション?

 

 PETの画面に広がるのは見慣れた教室の電脳。しかし、地続きとなった学校のネットワークはぐちゃぐちゃでどこに繋がっているのか判然としない。

 そして、肝心のシステムの前には――大量のウイルス。

 

「すっげー量……」

「で、どーすんだワタル」

「え? 俺に聞く?」

 

 てっきり熱斗が陣頭指揮を執るものとばかり思っていて数瞬固まる。だが、熱斗も異存がないようで俺が大まかな指示を出すことに。

 

「熱斗は空中にいるキオルシンを頼む」

「OK ロックマン!」

『うん熱斗くん!』

「そんでデカオは地上のウイルスを叩いてほしいんだけど……ちっとばかし耐えててくんね?」

「どーいうことだ?」

「一網打尽にする作戦、ってヤツだよ」

 

 それだけ伝えると俺はリュックから予め取り出しておいた【メットガード】と【バリア】、【リカバリー】系をデカオに投げ渡し、戦闘開始である。

 作戦などとカッコつけたが、やることは雑な追い込み漁だ。

 

「【インビジブル】、【ストーンキューブ】」

『いやんスケスケ』

 

 シアンの安全マージンを取りつつ、ルービックキューブ状の石塊を一列に落とす。1枚のチップで多数配置できるアニメ仕様でコスパが良くて助かる。

 原作の9マス×2のバトルフィールドとは比べ物にならない程に広いのだから、それくらいサービスして貰わないと割に合わないと思うけどな!

 

「【ストーンキューブ】もいっちょ【ストーンキューブ】」

 

 コの字を描くように続けて落下させ、ウイルスたちを囲んだところで、

 

「【スプレットガン】、デカオ!」

 

 ガッツマンに群がったウイルスを散弾で蹴散らし、デカオに呼びかける。

 

『ガッツハンマー!』

 

 そして巨腕から振り下ろされる強烈な一撃は直線状に衝撃波を走らせる。逃げ場を失ったウイルスたちは為す術もなく飲み込まれ、一斉デリート完了って寸法だ。

 後は撃ち漏らした残党をちまちま駆除していく作業が待っているのだけど、フォローしていないのにロックマン側から流れてくるウイルスがいねぇ。流石の厨性能である。

 粗方片付けると後は熱斗とデカオに任せ、システムの正常化を行う。それは滞りなく行われ、

 

「やった開いた!」

 

 教室のドアになだれ込むクラスメイトを見送ってから俺は改めてデカオに向き直る。

 

「お疲れ」

「ふん。こんなんでオレとガッツマンが疲れるかってーの」

 

 強がる姿勢を崩さないデカオに自然と笑みがこぼれる。

 

――本来の流れならデカオは先走った結果、あっけなくガッツマンがやられ、かませ犬となる筈だった。

 が、そんなのクソ食らえってんだ。

 選ばれし者が、特別な力だけでしか解決し得ないヒーロー物と違って。

 頑張れば誰もが戦える力を持てるのがロックマンエグゼだろうが。

 

 それが証明された気がして、つい喜びが抑えきれなかった。

 

『ガッツマンはね、力押しが多くて後隙が大きいからタイマンはともかく複数相手は厳しいんだって』

『そうでガスか……』

 

 だから余韻を台無しにするのはやめろ。もっとこう……伝え方ってものがあるだろ。

 

「ワタルてめー……!」

『だからそのパワーを生かす戦い方ができればガッツマンは最強だね!』

「まあ勘弁してやるか。まだ終わってねーみてーだしな」

 

 デカオの掌ドリルアームを見届けてからプラグアウト。

 そうデカオの言う通り、5-Aが解放されただけで秋原小学校は未だWWWの魔の手に落ちたままだ。

 

「光くん、ちょっと来て!」

 

 一足先に脱出していたやいとの呼び声が廊下から響く。デカオと共に飛び出していく熱斗の後を追ってみれば、階段が防火扉に塞がれて階下に行けないようだった。

 あー、そういや防火扉のことは失念してたな。扉自体危険性は皆無だしイベントが進行すれば誰かがこじ開けてたものだから対策もしてねぇわ。

 

「綾小路さんの要望だし、ここは熱斗に任せるわ」

「ワタルたちは他の教室だな?」

「あぁ。じゃあ行くとしますかデカオさんや」

「こっから先は別行動といこうぜワタル」

 

 熱斗に頷きを返し、デカオを肩を叩くものの、すげなく断られる。

 しかし、先程までの功名心や焦りはなく、落ち着いた顔の彼の話の続きを促すことに。

 

「閉じ込められてた時と違って、今は別々に動いた方がいいんだろ?」

「時間が限られてるし、そらな」

「シアンにあれだけ言われりゃあ流石にわかったぜ。てめー、さっきはオレたちにバトルを教えようとしてたな」

「ガッツマンのパワーを利用した方が早かっただけだって」

「トボけやがって……上から目線でムカつくが()()てめーが正しい。ガンガン前に出るのが漢らしいバトルだと思ってたが、勝つにはそれだけじゃダメなんだろ?」

「正解はひとつだけとも限らないしな」

「オレは負けねー。だからワタル、てめーも負けんなよ」

 

 不器用な激励を残してデカオはドスドスと背を向けて走っていく。

 この短い時間で成長を見られて俺は嬉しいよ。かませ脱却して名実ともに熱斗のライバルになっていることを願うばかりだ。

 

『あっ……』

「ん? どうしたシアン?」

『メットんが……あの子たちが危ない!』

「今頃気付いたのかよ」

『WWWだけじゃなくてデカオにもデリートされる! 止めてよワタちゃん!』

「今更この流れで止めるのは無理だろ。てか助けに行くのは生徒だ生徒」

 

 シアンの訴えを聞き流し、デカオとは反対側の6年の教室に到着する。

 内部からドアをガンガン叩く音が聞こえるし、脱出は未だ叶っていないが、まだまだ元気が有り余っている様子。外部から直接プラグインできる端子は見当たらないし、イントラネットもぐちゃぐちゃとなれば……。

 

「あー……聞こえてるならドアから離れて離れて」

 

 一応の警告をした後、廊下に設置された消火器を振り上げ、思い切りドアのガラス部分に叩きつける。

 すると強化ガラスではなかったからか、見事一撃で粉砕。人が通れるサイズではないものの、その穴にケーブルを通せるスペースがあれば十分だ。

 

「こいつ、ブラックボードまで伸ばして差し込んでくれません? そうすりゃ後はこっちが何とかするんで」

 

 素直に要望が通ったことを確認して、シアンをトランスミッションしてみれば例の如くウイルスが。

 ただし、俺たちの教室よりも数は少なく、映像出力システムに送り込まれる筈の演説プログラムを阻止できているみたいだ。スウォーディン3号とメットール8号が頑張っている証拠である。

 

『今いくよ……! スウォちー! ルンルン!』

 

 接近戦を仕掛けようとするアホは【インビジブル】で無敵にし、【アースクエイク】を乱れ撃ち。おっ、ハンディースおるやんけ。【カウントボム】落としてけ……!

 

『スウォちー! ルンルンー!』

 

 残留データの多さにホクホク顔の俺に対し、悲壮感たっぷりに叫ぶシアン。物量考えれば健闘した方だろ。ナイスファイト。よく頑張った。

 形見拾って。さぁ、次いこうか。

 

『冷血漢!』

「いやいや悲しいよ? でも死んだ子を思うよか助かる子を救助しに行った方がいいでしょ」

 

 そう唆して次の教室へ。

 しかし時間が経てば経つほど助かる確率は減る訳で――

 

『キオキオー! キャノ助ー!』

 

『カブたんー! ポワ吉ー!』

 

『メッちんー! キャノキャノー!』

 

『ポワルー! メットんー!』

 

――くどかったのでダイジェストでお送りしたが、結果は全滅。

 ただし全員、洗脳映像の阻止というミッションだけはやり遂げたので名誉ある戦死と言えるだろう。安らかに眠れ。でもチップになった子は再び俺たちと一緒に戦えるね……!

 

『うぅ……私は一体、何の為に戦っているん、だァああああ!!』

「生徒の為だろ」

『ワタちゃんは何でそんなに冷たいのさ』

「そら日々の生活を散々邪魔されたら嫌いになるわ」

 

 ネットワークと密接になった社会は便利になった反面、とにかく機械に不調が出ると日常生活に支障を来すのだ。その主原因でもあるウイルスを頻繁に見かければ、そら憎むようにもなるわな。

 メインストリート復旧をいちいち邪魔する奴もまだいい。給食をダメにされた件も許そう。

 だが自動運転のトラックに轢かれかけた件とテレビのポリゴンショック再現だけは許しがたい。マジで頭にきた。

 それからだろう、ウイルスをバトルチップの素材にしか見れなくなったのは。

 てか俺に限らずエグゼ世界に生きる人なら研究者以外にウイルスを好きになる奴がいるのか? 電車通勤しているサラリーマンなぞ殺意マシマシだろ。

 レアウイルスなら違うと、そう思えるくらい擦り切れていない前に出会えるといいな。

 前世で散々世話になったキラーセンサー先輩だろうと俺の命を脅かすのであれば――容赦はしない。

 

 

 

 

 

 さて紆余曲折あってたどり着いたのは職員室にほど近い倉庫。

 学校内にあるのはなかなか珍しい原作再現された場所にて拘束されたまりこ先生と遭遇。

 

「むぐぐー」

 

 手足を縛られ、口も布で覆われた彼女は薄い本案件だろ、これ。

 原作が全年齢かつ日暮さんが惚れる前で助かったな、まりこ先生。まぁ、事を致していた場合は改心ルートに入れなかったかもしれないけれど。

 このまま眺めていたい嗜虐心もあるけれど、週5顔を合わす相手に気まずさを味わいたくないからすぐに助けることに。

 

「……ありがとう。助かったわ、渡くん」

「そのお礼は熱斗やデカオにも言ってあげてください。俺ひとりじゃどうにもなりませんでしたから」

 

 何ならこの役目は不純な俺じゃなくても良かっただろ。でもまさか一番乗りだなんて思わないじゃないか。寄り道でもしてんのか熱斗ー、デカオー。

 

 少し遅れて到着した熱斗に、まりこ先生から借りたパスカードを見せる。

 デカオ? 頑張ったけれど、ガッツマンが途中退場して結局クライマックスには参加できないらしい。

 これでいよいよ大詰め。職員室にいざ突撃。

 

「犯人は……日暮先生だったのか!」

「むむっ、ここまで来たでマスか……!」

「全ての教室は解放したぜ。大人しく諦めるんだな先生!」

「嫌でマス! 任務を達成しないとレアチップを買うお給金が! 貰えないんでマス!」

 

 熱斗と日暮さんの会話を見守っているのだが、マジで言いやがったよこいつ。恥とかないのか。 

 

「そんなことの為にみんなを! そんな汚れたお金でレアチップ買ったって嬉しくないだろ?」

「うぐぐっ。うるさいでマス! そこまで言うならアッシのナンバーマンと勝負でマス!」

「上等! いくぞロックマン! バトルオペレーション セット!」

『イン!!』

 

 生で例の戦闘前台詞を聞けた感動に震える俺。アニメだと存在自体ないからDSでしか聞く機会ないんだよな、バトルオペレーションセットイン。

 ただ一人盛り上がっていた俺を他所に、彼らのバトルはすぐ終結を迎えた。

 現在時空の熱斗にはチップ収集の面白さは伝えたので、フォルダの強化はしている筈。に対してオペレート内容が下手糞の一言に尽きる日暮さんはナンバーマンにサイコロボムを投げさせた後は碌な抵抗もできずにやられてたな。

 クライマックスがこんな拍子抜けでいいのかと思うが、こんな実力でボスを張る日暮さんが悪い。

 

「――うっし!」

「そ、そんなナンバーマンが……!」

「日暮先生。やっぱさ、こんなんじゃレアチップが可哀想じゃん?」

「そうですよ、日暮先生。初めてレアチップを手に入れたことを覚えていますか? 真面目に働いて手に入れた方が何倍も嬉しいんじゃないですか?」

「まりこ先生…………熱斗くんの言う通りでマス。これからは心を入れ替えるでマス!」

 

 聞いている限りだと簡単に改心したように思えるけど、発言した人間が熱斗と途中エントリーしたまりこ先生だからこそ聞き入れた感じだろう。俺が同じこと言っても無視されそうだし。

 

「ただし、みんなに迷惑かけたんだから償いをしてからだぜ? 今度は誰かの役に立ちなよ?」

 

 こうして熱斗の説教で秋原小学校洗脳事件の幕は閉じる。

 日暮さんは抵抗することなく警察に出頭。被害は軽微ながら犯した罪は重く、償う日々はこれまで彼が生きた人生よりも長い時間が必要――な筈なのだけど、原作通りだとすぐ出所するんだよなぁ。

 実際、俺の暮らす時空でも日暮さんはひと月足らずでシャバに戻ってきて、チップ屋を開店。

 どうなってんだこの国の司法はよ。逆転裁判より暗黒期だろ。そら検事の六法さんだって闇堕ちするわ、こんなん。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。