〇桜井メイル&ロール VS ラウル&サンダーマン
ラウルという男に女子供をいたぶる趣味は無い。
しかしながら真剣勝負の場で手を抜くような真似をするような男でもなかった。
『うぅ……』
苦悶の表情を浮かべるロールに対し、顔色ひとつ変えぬまま大量の黒雲を展開するサンダーマン。
容赦の無い物量攻撃に客席の一部からブーイングが飛ぶが、ラウルとサンダーマンは少しばかり眉をひそめるだけに留める。
観客たちの言い分はそれこそロールが状況を打破できないという諦めだ。彼女たちが弱いなどという決めつけだ。
頻度こそ低いがウイルス召喚は単純に頭数が増える脅威だ。
サンダーマンの黒雲のようにコントロールする必要が無い為、処理能力を食う必要が無いのも強みな上、ウイルスにもバリエーションがあるので、その対処が複雑化する。
わかりやすい回復能力もまた厄介だ。HPこそ低いが一撃で決め切れなければ長期戦になるのは目に見えている。
魅了効果のあるロールフラッシュも油断ならない。先程のサバイバルバトルで優位に立ち回れたのは、この能力によるものが大きいだろう。
そして極めつけはロールアロー。標準搭載されている為、無制限にチップ破壊ができるという恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。
油断して相手の土俵に立とうものなら逆転を許してしまうに違いない。
「ロール!」
オペレーターである桜井メイルの腕も決して悪くない。
経験の浅さ故に安易な選択に流されてしまうが、年齢を考えれば優秀な部類だろう。
それでもラウルとサンダーマンの優位は揺るがず、黒雲に追い込まれたロールがサンダーボルトによる直撃を受けたことで強制プラグアウト。
良いところを全然見せられなかった、とへこむ彼女らであったが、会場は拍手で以て彼女らを称える。それはラウルであっても同様であった。
スポーツマンシップに則り、互いの健闘を称えるべく握手を求めたところ、
「ぐすっ……」
負けた悔しさを隠し切れず涙目になる少女は気持ちの切り替えが追い付かず。
差し出した手が空を切り、握り返されることのなかったラウルは少々の間を置いて励ましの言葉を送るのだが……その一連の流れのせいで悪意あるインターネットの一部でロリコンの誹りを受けることを彼はまだ知らない。
〇伊集院炎山&ブルース VS ネットバトラーQ&AAA
(せっかく敗者復活を勝ち残ったのに……これはあんまりなのサ!)
予定外の事で番組の尺的に放映されることは無いであろう敗者復活戦。
敗退した彼らもまた勝ち残った猛者に負けず劣らず優秀で、砂山ノボルが這い上がれたのも運が良かったからに過ぎない。
相性不利と思われたラストマンは砂山たちに当たる前にフォートマンに落とされ、Cブロックで猛威を振るったウインドマンは打って変わってかなり脅威度が下がっていた。
属性的にも少々厄介そうだったコールドマンはバーナーマンと同士討ち。
グライドとオフィシャルナビVer.Xはグラスマンの奇襲に乗じて潰すことに成功し。
立ち回りの上手かったジュナは凡ミスでドリルマッハとツルハシーダに落とされ。
物理攻撃を主体とするメタルマン、カラテマン、ベアーマンは相性的にデザートマンの絡繰りを突破することが叶わなかった。
「どうした? もう終わりか?」
片手をポケットの中に突っ込んで舐めた態度を取る伊集院炎山に、砂山は声を上げそうになるも役作りを徹底した彼は頬の内側を噛んでそれを耐える。
本来、デザートマンと相対するブルースとの相性はそう悪いものではなかったのだ。
デザートマンはその特性上、全身を砂状にすることで物理的攻撃をかなり軽減することができる為、ソードで戦うブルースもまた苦戦は避けられない、筈だった。
またお得意のスピードも真っ先に展開したサンドパネルで半減した筈なのに――それでも砂山とデザートマンは炎山とブルースの巧みな技量に翻弄されていた。
『ズゾゾォ……!』
ブラッディカルテットと名付けられた四刀流のあまりの手数に、デザートマンの再生が追い付かない。
分離した破片は【フウアツケン】によって飛ばされ、その絡繰りに気付かれてからは【アクアソード】で固められて無力化されてしまう。
(これじゃあ……ネタバラしも微妙になるのサ!)
WWWとしての思惑もそうだが、砂山個人としてもサプライズとして明かすタイミングは炎山に
しかしながら砂山の想定以上に相手は強く、このままでは見せ場も無くネットバトラーQとしての正体も伏せたまま拍子抜けの結果に終わってしまう。
(こうなったら番外戦術で……)
衝動に駆られた砂山は直接オペレーターである炎山へ妨害を仕掛けようとしたところで――隠岐渡の言葉を思い出し、踏み止まる。
TVショーは必ずしもありのままを映し出すとは限らない。
面白おかしく誇張するのは日常茶飯事だし、生放送で起こるハプニングも台本上の〝やらせ〟である場合もある。
今後の進行をスムーズに進める為。ブルースの圧倒劇ばかりでは観客も飽きるだろう。目立ちたがりの砂山個人としての欲求が渦巻く中――それでも砂山はその考えを断ち切った。
(目敏い観客がいれば……それが波及すれば冷めるかもネ)
こうして全身に浴びる視線と歓声。それを身を以て味わえば嫌でもわかってしまった。
真剣勝負に水を差す行いは許されるものではない、と。
1日目よりも更にボルテージの上がる会場内の空気は選手たちが作り上げたものだ。それを砂山個人の思惑で壊してはならない、と理解できてしまったのだ。
「でも……やられッ放しは趣味じゃないのサ!」
HP的にも追い詰められてきたタイミングで砂山は自身を包む秘密のベールを取り払う。同時にAAAと名乗ったデザートマンもまた己の正体を明かす。
「聞いて驚けネットバトラーQの正体は……N1グランプリディレクターの砂山ァァァノボルゥゥゥ!」
砂山のマイクパフォーマンスの間にも関係無しとばかりにブルースがソードを振るうも、抜け目ない彼は事前に仕込んでおいた【カワリミ】を発動し、デザートマンに距離を取らせる。
(アドリブは演者の仕事なんだけどネ……今のボクもその端くれだから仕方ないっか)
砂山とデザートマンの全力で以て、炎山とブルースの輝かしい勝利を演出する。その為ならば自分は泥を被り、みっともなく足掻くことを決めたのだ。
その為なら……勝負の邪魔になるローブを脱ぎ捨てるのも致し方あるまい。
それにどうせもう強烈なインパクトを狙える段階でもないのだ。
「さあ! 劣勢も劣勢な砂山選手の逆転の一手とは!?」
「実況なら事足りている。茶番に付き合う義理など無い……ブルース」
短期決戦を望む炎山以外に、あっさりとした幕切れなど観客も望むまい。
そう自分を励ましながらデザートマンに砂の壁を作るよう指示を出しながら延命を図る。
「ブルース選手、空振り! 次も……掠るだけ! 惜しい!」
口を回し、オペレートの手もフル回転、目まで回るオマケ付き。
砂山たちにとって起死回生に見せかけた隙にも飛びつかず、鈍足なデザートマンは身体を崩して致命傷を避け続ける。
――まだまだ足りない。炎山とブルースの見せ場はこんなもんじゃない。
砂山とデザートマンの驚異的な粘りはいよいよ炎山は痺れを切らし、彼らが攻勢に出ないことまで見越して大技の体勢に入る。
ソード系の
「必殺技には必殺技をぶつけるのがお約束ゥ!」
黙ってやられるのは面白くない。
だから砂山とデザートマンもまた切り札を出す。【ストーンキューブ】を2枚に、【ゴッドストーン】というメガクラスチップを使ったP.A……【マザーズクエイク】を。
『【ドリームソード】!!』
『ズザザッザザ(【マザーズクエイク】)!!』
極大な一振りに対するは地震を伴う落石。
規模のデカさなら優にデザートマンの放つP.Aが上回るものの――ブルースはそれを踏み越えていく。
動くのもやっとな震動の中、頭上に降りかかる落石を切り払いながらも的確にデザートマンを一閃。
軽減しても尚、超過するダメージにデザートマンが強制プラグアウトし、決着。
波乱な展開こそ無かったが……最後の画映えは自他共に素晴らしいものだった。
割れんばかりの歓声に強い満足感を覚えた砂山は口元をニマニマとさせながら、そそくさと舞台袖に捌けていく。
ネットバトラーQの出番は終えたが、ディレクターとしての仕事はまだまだ残っているのだ。
裏方として最後までN1グランプリを良いものにしよう、と砂山は突っ走る――WWWとしての立場も、隠岐渡と結んだ密約もすっかり忘れて。
〇オフィシャルレッド&シャークマン VS 黒バラ仮面&ウッドマン
実力者として知られるオフィシャル同士の夢の対決。
しかしながら下馬評ではオフィシャルレッドとシャークマンが優勢に運ぶと思われた試合展開は拮抗したものになっていた。
(マサさんは本当に上手いわね……)
ウッドマンがウッドグランドスタイルに目覚めたことで粘り強い戦い方ができるようになったのは勿論ある。
だがそれ以上にマサという男は相手の実力を引き出すのが抜群に上手かった。
ネットバトルの才能に、実戦を通じて培われてきた実力もあるだろう。ただそれ以上に江戸っ子として、喧嘩と祭り好きの血がそうさせていた。
「ウッドマン!」
「シャークマン!」
突き出したウッディタワーにアクアタワーをぶつけて相殺し。
スギを彷彿とさせる設置系プログラムから【バッドスパイス】を展開するも、【ツナミ】によって洗い流される。
ウッドマンの技に技で対抗する正々堂々とした立ち振る舞い。まさしくヒーローとしてのそれだが……決め手に欠けるのもまた事実。
しかして観客たちも知っている。ヒーローは初めから全力を出さない。決して舐めプなのではなく、それこそがヒーローの流儀だからだ。
「シャークマン!
曲線的なフォームだった頭部がライダー的なヘルムに覆われ、肥大化し鋭さを増した腕部のヒレにブレードが、胴体と脚部にプロテクターが展開。
『シャークマン! オフィシャルフォーム!』
それはオフィシャルレッドに寄せられたシャークマンの新しき姿。
その著しい見た目の変化はスタイルチェンジによるもの――だけではない。その8割方が名人の趣味と宣伝を兼ねたハリボテであった。
(当然、ガッツスタイルを切ってくるわよね……)
本来であればテクニカルな戦い方をしていたシャークマンはまずカスタムスタイルを発現させていた。
しかし研鑽を重ねるにつれ……どうしても火力不足が目立つことにマサとシャークマンは悩んでいた。
しかし熱斗とロックマンが別のスタイルチェンジを発現させている以上、不可能ではないと考えた彼らは新しい道を模索し――ついにはガッツスタイル*1を手に入れたのだ。
『ゆくぞウッドマン!』
腕部や脚部が肥大化した影響で若干スピードが落ちたシャークマンであったが、その脅威度は変身前を凌駕する。
行く手を阻むウッディタワーもトラフィックログ*2も何のその。バターのようにヒレブレードで切り裂き、前進するシャークマン。
ウッドマンとの距離を詰めたシャークマンが切れ味鋭い一撃をお見舞いするも、それで怯むウッドマンではない。攻撃を受けたと同時に太い腕を繰り出し、カウンターをぶちこむ。
その後も接近戦を仕掛け続けるシャークマンに迎え撃つウッドマンの構図。
ダメージレースとして見るなら自動回復能力を持つウッドマンが有利――な筈なのだが、勝負の天秤はそう傾かない。
単純にシャークマン自体の手数、火力が回復量を上回っているという点もある。『サメ肌』という能力で接触ダメージが発生するのもある。
ただそれ以上に、マサとシャークマンが攻防の合間にカンバツ状態を狙ってくる立ち回りがそうさせなかったのだ。
(アイスパネルの処理が厄介だわ……)
明確な弱点と言えるスリップダメージに対して、サロマは勿論その対策として【クサムラステージ】や【パネルリターン】を十分な数を揃えている。
しかし、備えているからと言って的確に使えるかどうかはまた別の話だった。
驚異的な自然回復能力に特化させている以上、他の能力面が疎かになってしまうのもまた事実。今回の攻防で言えばチップの回転速度及び処理能力がそうだった。
【クイックゲージ】で補っても尚、僅かにではあるがチップを使う際、ウッドマンの攻勢が緩んでしまうのだが。
その僅かであってもマサとシャークマンを相手にしては明確な隙になると言える。
(しまった……! チップのカスタム速度を見誤ったわ!)
そして派手な肉弾戦とは裏腹に水面下で繰り広げられたオペレーター同士の読み合いはマサの方に軍配が上がる。
【クサムラステージ】を使用した直後に【マグマステージ】で効果を上塗りされてしまったのだ。
双方共にダメージが入るが、それは些細な事。問題なのは次のバトルチップが使えるまでのインターバルが明けるのがサロマたちよりもマサたちの方が早いことだ。
「食らえ【ボルカノキャノン】!」
『はぁああああ!!』
マグマパネルを吸収した分だけ威力の上がる炎属性チップを前に、【パネルリターン】の割り込みが間に合わず、強烈な砲撃がウッドマンに被弾。
その一撃が決め手となり、ウッドマンは強制プラグアウト。オフィシャルレッドとシャークマンが駒を進めるのだった。
〇ライカ&サーチマン VS Mr.S&Mr.S
「妙だな……」
所々に赤のアクセントの効いた緑色のロングコートに黒いファティーグパンツ姿の軍人、ライカは白手袋をはめた右手を顎に当て、相手を注視する。
本戦トーナメント前に行われたサバイバルバトルから垣間見えた実力と、今現在サーチマンと相対する巨体とのギャップに疑問を覚えた。
『油断を誘っているのか……手応えが感じられません。どうしますライカ様?』
自分の分析が間違っていたのか、Mr.Sはあらゆる想定を下回っていた。
見た目からして耐久力の高そうなボディも小手調べの狙撃で貫通し、その反撃も狙いが甘いお粗末なもの。
明らかに手を抜かれているというよりも……見た目を寄せた別人と入れ替わっていると考えた方がしっくりくるくらいだ。
「プランに変更は無い。やれサーチマン」
『了解しました』
どんな相手であれ、ライカとサーチマンのやることに変わりはない。ただ任務を遂行するのみだ。
その後もどんでん返しが起こることもなく、一定の距離から狙撃を続けたライカとサーチマンが勝ち進んだ。
〇荒駒虎吉&キングマン VS Mr.B&Mr.B
「なんや手応えあらへんやっちゃ」
前日のド派手な爆発にどう対処していこうかと頭を捻らせいた虎吉に待っていたのは拍子抜けした展開だった。
爆弾の生成速度も攻撃の頻度も生っちょろいし、その爆風も【ルーク】で難なく遮ることができる程度。
動きや立ち回りにも精彩に欠け、トーナメントに勝ち抜いてきた選手の中でも相当見劣りする実力だったと言っていい。
これならば敗退していった選手たちの方がまだ燃える戦いができただろう。
「……まぁ、ええか」
しかし過ぎてしまった事は仕方ない。虎吉の性分的につまらない事に時間を使うなど以ての外だった。
幸い、トーナメントで勝ち残った選手たちは粒揃い。
隠岐渡とシアン程の技巧派は見当たらないものの、楽しめる相手ばかりなのは確かだった。
「まっ、ワイみたく手の内隠しとる事もあるやろうし。次の相手は……あの光熱斗。面白うなってきたわ!」
〇光熱斗&ロックマン VS 荒駒虎吉&キングマン
「アホ抜かせボケコラー!!!!」
「な、何を怒ってんだよトラキチ?」
荒駒虎吉はそれはもう期待に胸を膨らませてこの対戦カードを待ちわびていたのだ。
バタフライエフェクト故か、原作みたく光熱斗とロックマンとの面識の機会が無かった虎吉だったが、事前に隠岐渡からメールで知らされていた事がある。
――光熱斗とロックマンは俺たちよりも強い、と。
そんな文面、目にすればワクワクしてしまうのは自明の理。
シアンとはまた違う形の万能型相手に、様々な戦略を頭に詰め込んで。いざ対戦という名の蓋を開いてみれば、だ。
「ゴリ押しもゴリ押しやんけー!!!!」
【ポーン】や【ルーク】などの置物系を展開するキングマンに対し、ロックマンが取ってきたのは『ブレイクバスター』*3のナビカスプログラムを十全に生かしたガッツマシンガンで全てを破壊していったのだ。
戦略の『せ』の字も無いながらも相当有効な手立てと言っても良い。しかし、虎吉の心境としてはかなり複雑だった。
「許さへんぞ!! 隠岐渡ゥ!!」
「ん? ワタルのこと知ってんのかよ?」
「ワイのライバルや! 忘れる訳あらへんやろ! というか天下の虎吉さんを聞かされへんのかいな?」
「うーん……聞いてねーな。ワタルって結構友達とかナゾいんだよな~」
緩い会話の間にもキングマンの防御はバスターの雨ですり減らされていく。
「あ~もう! しゃあないわ! バトルチップ【インビジブル】スロットインや!」
虎吉のスタイルとしては逃げも隠れもしない王道を目指していた。しかしながら隠岐渡とシアンの手によって壊された価値観は柔軟さを生んだ。
「続けて【ステルスマイン】に【ディスコード】スロットイン!!」
目視不能の地雷をセットした後、混乱効果を付与する音色を奏でるララチューバと呼ばれるウイルスを召喚し、ロックマンの狙いが定まらないようにする。
「ロックマン!」
「ほな【ステルスマイン】追加や!」
互いの間に存在するパネルへ次々に埋め込まれていく地雷。迂闊に動いてしまってはその餌食になりかねない。
「ほな反撃といくで!」
だがキングマンの指す駒ならダメージなどお構いなしに侵攻可能だ。
やたらめったら乱射されていた相手のバスターも【ディスコード】狙いに絞られたことで対策を絞りやすくなった虎吉は徐々に自分のペースに戻していく。
「あーッ! うぜ~ッ!! こうなったらグランドスタイルだロックマン!」
『わかった熱斗くん!』
燃えるような赤色に巨大な右腕を武器にした戦士から一転して、全身は黄色に染まり、脚部がゴツい見た目のエレキグランドスタイルへと切り替わる。
「パネル入れ替えだ!」
『いけーっ!!』
彼らが打って出た手立てはパネル全体の入れ替え。
混乱付与の影響も考慮に入れた上で、盤面をゴチャゴチャに散らかしていく。
「んなアホな!?」
【ポーン】の同士討ち、【ナイト】があらぬ方向に逸れ、ルークの防御がズラされる。
理不尽を体現する能力を前に虎吉は驚愕のあまり、オペレートする手が止まってしまう。
『今だ! チャージショット!』
抜け目なく【ディスコード】も破壊され、力業で虎吉とキングマンの戦略がちゃぶ台返しされてしまった。
「チャンスだ! ロックマン! スタイルチェンジ!」
『アクアカスタムスタイル!』
「【ラットン1】【ラットン2】【ラットン3】トリプルスロットイン!」
『プログラムアドバンス! 【ハイパーラットン】!』
「まだや光ィ!! 【ルーク】展開!!」
【ハイパーラットン】の進行方向に【ルーク】を並べ、ネズミ型爆弾をこれ以上進めないように妨害する。
【インビジブル】の効果の切れ目を狙ったのだろうが、そうはいかない。
キャスリングで退避する手も考えたが、それでは位置的に防御が薄くなってしまう。反撃までセットで思考するならば――
「【スプレッドガン】トリプルスロットイン! プログラムアドバンス!」
『【ハイパーバースト】!!』
常識外れの連続P.Aには流石に度肝を抜かれた虎吉はキャスリングの指示が遅れ――拡散弾がキングマン前方の【ルーク】に炸裂。
辺り一帯に拡散された弾丸は花火よりも一層激しく弾け飛び、【ハイパーラットン】の起爆も合わさり、凄まじい爆発を引き起こす。
目視による状況把握が難しい中……虎吉は己のPETに戻ってきていたキングマンの姿にいち早く敗北を悟るのだった。
〇ラウル&サンダーマン VS 伊集院炎山&ブルース
その勝負の決着は僅かに1分に満たない短いものだった。
時間が経てば経つほど黒雲がフィールドを埋め尽くし、ブルースの移動範囲が狭められていくのに加えて麻痺効果を持つ攻撃を織り交ぜられてはキツい勝負になると考えたのだろう。
開始早々にムラマサスタイルを発動させたブルースが被弾覚悟でサンダーマンとの距離を詰める。
対するサンダーマンは接近戦に難があるからか、【エリアスチール】で距離を稼ぎつつエレキビームで牽制を行う。
されど肉を斬らせて骨を断つブルースはHPの半分以上を削られながらも【バンブーソード】によるブラッディカルテットで一気に勝負を決め切った。
クールな炎山には珍しく握手に応じる場面も見受けられ――『アフロ』という単語に動じる珍しい姿がファンの目を楽しませた。
〇オフィシャルレッド&シャークマン VS ライカ&サーチマン
速攻が決まった前試合と打って変わって静かな立ち上がり。
先程まではヒーロー然としていたシャークマンも狙撃手相手に無防備を晒す愚かしさは持ち合わせていなかったらしい。
片や【ユカシタ】に潜伏した狙撃手、片やパネルの下に沈んで相手の出方を窺うサメ型ヒーロー。
大人はその緊張感に固唾を呑み、子供はぶつかり合う姿を急かすように声援を飛ばす。
先に動いたのはサーチマン。愛用のスコープガンを構え、左目に備え付けられた単眼式ヘッドマウントディスプレイがシャークマンの位置を捕捉。
サーチマンというネットナビに距離も障害物も関係ない。相手の位置さえ捕捉できてしまえば、空間を超えての変態狙撃が可能だった。
『ヒットを確認』
「続けろサーチマン」
隠れることが無意味だと察したシャークマンは高速で移動し続けることで狙いを定めさせないつもりらしい。
一定のパターンを作らず、不規則に動く相手にライカは感心する。
「なるほど……悪くない」
上から目線に思えるライカの発言だが、彼に任された任務こそN1グランプリに参加する選手の戦力分析にあった。
加えてシャーロでも精鋭揃いであるネットワーク第13部隊に所属する自負がその口振りにさせていた。
「サーチマン」
『了解しました』
ライカが次にオーダーしたのはピンポイント狙撃ではなく、敢えて散らして連射するといったもの。
サバイバルバトルにいた連中では躱すのも困難に思われた攻撃は致命傷とは言えない頭部の被弾のみ。
機動力が削がれないよう脚部を重点的に守りを固めた形だ。
「続けろ」
一方的な展開に観衆がザワつくも、ライカの心は全く揺れない。彼の目はシャークマンとそれをオペレートするオフィシャルレッドから離れない。
「……試されていたのはオレも同じか」
不安を覚えた観衆の心をどうにかすべく、シャークマンが【ドリームオーラ】を纏ってその姿を現す。
スコープガンに対する手段を持ち合わせていながら早々に切らなかったのはライカの感じ取った通りなのだろう。
「サーチマン、フェーズ2」
スコープガン一辺倒のバトルスタイルを変更し、中距離戦闘を織り交ぜた戦闘へ移行する。
サーチグレネードを周囲にバラまき、サテライトレイという人工衛星を宙に浮かべる。前者は十字に広がる爆弾で、後者は上方向からレーザーを照射するといったものだ。
「バトルチップ【スーパーキタカゼ】スロットイン」
サーチマンの敷いた地帯にシャークマンが足を踏み入れたのと同時に【ドリームオーラ】を引き剥がす。
起爆するグレネードをアクアタワーによる水柱の中に飲み込ませ、無力化した相手は【スチールゼリー】を使用。
ジェライムと呼ばれるスライム状の水属性ウイルスを上から降らせる攻撃、に加えて踏んだパネルを水属性ナビが有利に働くものへと変化させる厄介な性質を持ち合わせていた。
「バトルチップ【キラーセンサー1】スロットイン」
邪魔なジェライムはすぐさまグレネードで爆破し、キラーズアイというウイルスを召喚。
その効果は発信したセンサーに触れた相手に自動で電気属性のビームを発射するといったものだ。
サテライトレイを掃射しシャークマンの動きを誘導しながら、死角となる位置にキラーズアイをセット。サーチマン自身も動き出す。
「接近戦は無いと思ったか?」
遠距離狙撃というスコープガンの優位性が消えるだけで、どの位置からだろうと撃てるのがサーチマンの武器だ。
動揺を隠し切れないシャークマンを他所にサテライトレイの掃射に合わせてサーチグレネードを転がす。
安全圏はサーチマンの真正面。そう計算してグレネードを配置した。しかしてそこに飛び込めば【キラーセンサー】の餌食だ。
【エリアスチール】での逃亡もまた悪手。瞬間移動直後の隙をサーチマンが見逃す筈もない。
「選んだのは……【インビジブル】か」
ゴースラーと呼ばれるバスティング難度の高いウイルスをデリートしなければ入手できないチップであるものの、その効果は絶大。
一時的な無敵化はこの窮地を脱するのに有効的と言えるだろう――サーチマン相手でなければ、だが。
『スコープガン』
その狙撃銃は【ドリームオーラ】や【バリア】系に阻まれることはあれど、【インビジブル】や【ユカシタ】相手を捉えることができる。
『ぐわぁああああ!!!!』
スコープガンの銃口から火が噴いたことで半透明の無敵化が解除されたシャークマンの身が爆風に晒される。
追撃にレーザーが突き刺さり、トドメのスコープガンが撃ち貫いたことでシャークマンの強制プラグアウト。
女性の悲鳴やら子供の泣き声によって騒然となる会場にライカは背を向ける。
オフィシャルレッドから会話を求められるも、それは任務に含まれていない為、それに応じない。
彼の目はもう次の標的に向いていた。
3組の出場者による異例な決勝戦。
総当たり戦で勝ち数の多い者の勝利ということで、その順番を発表するちょうどその時。
N1グランプリのファイアウォールを突き抜けて現れる乱入者によって決勝戦はお流れとなることになる。
『強き者よ。オレの飢えを満たしてくれることを願う』
トーナメント的お約束で某ディレクターが発狂している模様
次回は予告通り渡くん視点でお送りします