WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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59.デンサン⊘リベンジャーズ

 試合もいよいよ終盤戦となり、不安要素であったボンバーマンとストーンマンは敗北後に暴れまわる様子も一切なく。

 これなら試合観戦しても良かったじゃないか、と不満を垂れ流すシアンと『渡』を宥めすかしている時だった。

 

 会場全体にけたたましく鳴り響く警報音。インカムに飛び込んでくる緊急事態を知らせる声に意識が急激に引き締まる。

 

『決勝開始前にフォルテが乱入だって!』

「避難勧告が出てるけど、どうっすかな……」

 

 報告によればフォルテが侵入したスタジアム中央に設けられたネットバトルマシンの中。

 一応、ここからプラグインしてもネットワークを経由していけば辿り着けなくはない。

 けれど、現在は防衛部隊が更なる侵入者を防ぐべく会場のネットワークの締め出しを行っている頃だろう。

 仮にシアンを先行させても、現場が少しばかり落ち着かねば通行の許可も下りないかもな。混乱に乗じて増援が来ても厄介だろうし。

 んでもって単純に現場への距離は遠い上、避難状況を考えるならば人の流れに逆らって進むのは難しい。

 第一、その近辺には光熱斗を始めに伊集院炎山にライカ、控え室にはマサさんにサロマさんもいる。

 ついでに言えば参加選手たちも戦力になるかもしれない。

 まぁ……相手がフォルテであるならば、どう状況が転ぶかわからないところはあるけどな。

 

「つーか俺が邪魔したらキレそうだよなぁ、あの人……」

(そうかな? 結構穏やかなおじさんっぽかったけど)

 

 外伝作品である『バトルチップGP』の展開からして、フォルテがN1に乗り込んでくる可能性は無くは無かったからなぁ。

 念の為、コサック元博士にその辺りを伝えておいたらマジで来るとは思わなんだ。

 今頃、警備員に止められているのか、はたまた念願の対面を果たしているのやら。

 

「ひとまず他の人と合流してから考えるか」

 

 原作にもアニメにも漫画にも無い展開だから、まず情報が無いと始まらない。

 幸いインカムを通じて情報は拾えるし、マップと照らし合わせて警備が手薄になる部分に足を運ぶのも悪くはない。

 騒ぎに乗じてまーた懲りずに人質を取る可能性も無くは無いしな。

 

『ワタちゃんオート電話!』

「知らない番号だな……ユーモアセンスじゃあるまいしよ」

 

 前世であればセールス電話や機械音声によるアンケートなんかがちょくちょくかかってきたものだけども。

 エグゼ世界だと番号登録とかしてないのに熱斗のPETにバンバン電話かかってくるというね。

 原作の『2』辺りでパスポート盗まれたところで個人情報流出しまくっていると思うとマジで怖いわ。

 ちなみに『ユーモアセンス』という通常Lボタンで物語のヒントが聞ける機能が、前述のナビカスプログラムを組み込むと熱斗とロックマンがボケまくるという面白い小ネタがあるのだが。

 あそこだけ本編無視のギャグ時空だからか敵味方関係なく出演しまくるんだよなぁ。

 

「久しいな隠岐渡」

「……ワイリー」

 

 迷った末、タイミングがタイミングだけに通話に出てみれば、まさかの人物からである。

 『5』で普通に熱斗のPETにメール送ってやがったけどさぁ……俺のプライバシーどうなっとんねん。

 表でもウラでも隠し通していたし、どこぞでウイルスに感染するヘマを仕出かすこともない。

 ……十中八九、ゼロとの接触で個人情報を盗まれたか? しかしシアンとのやり取りやオフィシャルの通信までは筒抜けになっていなかったのは幸いだった。

 ただまぁ……こわっ、後で新しいPET購入しとこ。

 

「悪の天才科学者、じゃ」

「おかけになった番号は間違ってんぜボケ老人。電話相談窓口の番号教えてやろうか?」

「人助けが貴様の使命じゃろオフィシャルのヒーロー? ……今から付近の電脳にプラグインせい」

 

 有無も言わさぬ固い口調でDr.ワイリーが俺に宣戦布告を叩きつけてくる。

 

「もし拒否したら?」

「特にペナルティはない。直近で小僧が気にすることはせんよ。これから戦うのに邪魔になるだけじゃわい」

「嘘くせぇし、マジなら受ける理由ねぇだろうが」

 

 フォルテの行動原理的にワイリーの差し金と言い切れない部分もある為、彼の言い分は良くて半信半疑といったところか。

 

「いいや貴様は無視できんよ隠岐渡。儂を直接叩く機会があるなら飛びつくのが貴様じゃ」

「理解者面するにゃあ付き合い浅いだろ、俺らはよ」

「散々儂の邪魔をしくさってか?」

 

 そのワイリーの問いかけには確信があった。

 西古レイを差し向けた時からそうだが、俺が裏で企んでいることを彼は妙に疑っていない。

 

「……妄想も大概にしろよ。まさか証拠でもあるのか?」

「儂はずっと見ておった」

 

 ズレた返答に少しばかり眉根を寄せるが、俺は口を挟まない。

 相手の思惑は未だ見えてこないものの、少しでもワイリーを釘付けにすることで他の現場の負担が軽くなれば良いと思ったからだ。

 

「『ゴスペル』が目を付けていた速見ダイスケ、クリームランドのプリンセス・プライドとの早期接触」

「……?」

「特に後者とは懇意にしておるなどニホン中の誰も思わんじゃろな」

 

 ワイリーが滔々と語ったのは、俺が伏せていた事実。

 後者はシアンの名が堂々と使われているとはいえ、前者はどこから聞きつけやがった?

 

「ましてやアジーナ国を救ったことで個人的な繋がりもあるのだろう?」

 

 ……シャドーマンこそ倒したが、あの時は確かにシアンの正体を伏せていなかった。

 が、クックマンとは特に何もねぇよ。スタイルチェンジ融通してくれた時点で恐れ多くて時候の挨拶くらいしかしてねぇわ。

 

「ハイパワープログラムの狙いも勘付いておったし、極めつけは帯広の小僧の正体を看破していた事! ただの巡り合わせでは到底説明つかんわ!」

 

 原作『2』では帯広シュンに支援する形で繋がっていたDr.ワイリーは封印されたプロトを解放する為にフォルテを欲していた。

 故にバグ融合でフォルテを作り上げる計画を立てたものの……彼本人は帯広を唆すだけで『ゴスペル』の起こした事件へ直接関わることは無かった。

 それについて俺の見解は、途中の過程に興味を持っていなかったと思っていたのだ。

 事が上手く運んでネットワーク社会が崩壊すれば儲け物程度。あくまで本命はプロトなのだと決めていたのだろう。

 

 ただ電話越しに向き合ったワイリーはそうじゃない。

 『ゴスペル』を通じて、確認していたのだ。どこまでも事件に関与する俺という存在を。

 

「そして今も尚、儂を阻む最大の障害が貴様じゃ! 現に貴様個人がテトラコードを隠し持っておったんじゃからな」

「それは……!」

 

 PETの画面に映し出されるのは、レンタル倉庫に突っ込んでいた筈のノートPC。スタンドアローン状態のその中にはテトラコードが眠っているのは確かだ。

 

『私のログは消してた筈なのに……』

「貴様のナビ自身のログは残っておらんかったな。が、テトラコードの痕跡までは細工できなかったみたいじゃな」

 

 湾岸病院で入手したそれはネットセイバーの巡回と評して手に入れたもの。長々と細工する時間が無かったのは事実だけど、だからといって俺に繋がる証拠までは無かった筈だ。

 したがってワイリーは俺の仕業だと決め打ちしやがったのだ。

 名義自体は日暮さんのものなのに。ネットワークに繋がっていなくともテトラコードを探す手段でもあったというのか。

 はたまた俺と繋がりのあるもの全てを虱潰しにしていったのか、俺のリアルをストーキングしていたのか。

 あのPCを最後に確認したのは1週間前のこと。だから発覚自体はつい最近だと思われる。

 ……油断していたつもりは無かったんだけどな。

 

「他の誰が――貴様自身が何と言おうとも。隠岐渡、貴様は天才じゃ」

「これだけ手抜かりがあってか? 耄碌爺」

「フンッ……貴様が動かねば儂は今程苦労しておらんだろうよ」

 

 辛酸をなめた、とありありと表情で示すワイリーがこちらを見やる。

 

「故にこそ、儂自身の手で貴様を倒す。来い、隠岐渡!」

 

 この世界を憎んだ老人がたったひとりを、俺だけを視界に捉えて尚も言う。俺を倒さねば前に進めない、と言外に表して。

 

『……どうしよっかワタちゃん?』

 

 シアンが不安を抱えるように、これがワイリーの罠である可能性もある。

 しかし、前日にVIPルームが襲撃されたことで現実やネットワーク面の現場を検めていていた。

 要は襲撃自体が一の矢で、ネットワーク方面に仕掛ける二の矢となる小型の装置でも隠されていないか、という疑惑が挙がったのだ。

 結果としては白。

 先程もシアンが付近のネットワークを巡回した時にも異常は見られなかったし、事前に何かを仕込まれている可能性は低いと見ていい筈だ。

 まぁ……誰もが見落としをしなければ、という前提の話だけれども。

 

「しゃーない。やるぞシアン」

『だよねぇ』

 

 そんな懸念はどうであれ、俺は近くの機器にプラグインする。リスクも踏まえた上でワイリーと戦う選択を取ったのだ。 

 ワイリーの言からして、彼は俺に対して最大戦力を仕向けてくる筈である。仮にそんなものを他所にやられては混乱も深まるばかりだろう。

 そして……応援は呼ばなかった。

 言っちゃ悪いが、下手な増援は俺とシアンの気が散ると思ったから。

 

『お久~』

『……』

 

 果たして俺とシアンを出迎えたのは予想に違わず、ワイリーの最高傑作であった。

 白銀の長髪を揺らすシアンとは対照的な金色の長髪。

 赤を基調としたボディに、整った容姿に張り付けられた仏頂面。

 かつてない程に敗北を喫した相手を忘れる筈も無い……ゼロだ。

 どうやらドリルマンの手引きで侵入してきたらしいが、ドリルマン本人は戦闘に介入する意思は無いのかゼロに手を振ってプラグアウトしてしまう。

 やっぱ空間破壊能力は厄介よな、ドリルマン。

 

「最初から出し惜しみは無しだシアン!」

『あいあいさ~っ!』

「スタイルチェンジ――」

 

 俺の言葉と共にシアンへ埋め込まれた機能が解放される。

 それはアジーナにかつて存在された戦士たちの記憶であり、魂のカタチ。

 過去の傑物と呼応したシアンの全身が眩い光で包まれる。

 

 まず弾かれたのは両腕の部分。無防備に晒されていた前腕が紫色の手甲に覆われる。

 お次は脚部。草履に白ニーハイという和洋折衷のファッションが飛び出して。

 舐めるようなアングルで絶対領域からの手甲と同色で、ノースリーブの上衣へと換装される。ややはだけた胸元は目の細かい鎖帷子が覗いていた。

 首元には真紅のマフラー、顎から鼻辺りまで覆う口布に額当て。

 そして最後にトレードマークでもある白銀の髪をポニーテールに纏めて変身完了だ。

 

『――ウインドクノイチスタイル』

 

 スタイルチェンジさんが悪さしたのか、はたまたシアンとの化学反応故か。通常のスタイルチェンジとはかけ離れた姿はどこからどう見ても忍者コスである。

 まぁ、元となったであろうシャドースタイルも忍者みたいな見た目に変貌したけどさぁ……。

 言うてシアン程の変化は無かったわ。見た目的にはどっちかって言うとシャドーソウルに近い気がするわ。

 属性も4属性じゃなくて風なのも疑問の余地があるし、未だにクノイチという名称も引っかかるところもある。

 

 尤もシャドースタイルっぽくなったのには多少の納得はある。

 『3』の新たに追加されたスタイルチェンジの分岐条件として、『ホワイト版』限定のグランドスタイルは地形変化系のチップ――所謂【デスマッチ】系や【クサムラステージ】などを多用したことにあり。

 『BLACK』版限定のシャドースタイルはといえば、【インビジブル】系を多用することで変身するスタイルチェンジだ。

 過去を振り返ればシアンに【インビジブル】使いまくっていたから条件自体は満たしていたのは確かである。

 

『ニンニン……ってリアクションは無いかぁ』

『……』

 

 指で印を結び、それっぽいポーズを取るシアンに対し、ゼロは静かにゼットセイバーを構える。

 そして――動作の起こりも見せず、こちらに突撃してくる。

 

「シアン」

 

 かつてはこの目にも留まらぬ圧倒的なスピードを前に翻弄されていたが、今は違う。

 シークレットエリアの裏ボスたちを相手に散々扱かれてきたシアンならばもう慌てふためく事も、俺の手厚いアシストもこの程度で必要としない。

 

『見えるぞ、私にも敵が見える』

 

 シアンの全身に風が渦巻く。

 一瞬にして距離を縮めてみせたゼロの剣閃がシアンを襲うものの、柳のように揺らぐ彼女には届かない。

 息もつかせぬ連撃に対しても彼女は風に身を任せるようにして、時にはシャドースタイルの能力であるショートインビジならぬ、持続時間の短いショートユカシタを用いて回避していく。

 

『当たらなければどうということはない!』

 

 ヤマトマンとの稽古によって剣士相手を経験を積んだのは勿論のこと、セレナードとのバトルもまた効いた。

 セレナード自身の機動力も大概おかしかったが、ホーリーショックとかいう光弾で某東方並みの弾幕ゲー仕掛けてきた時はシアン共々涙目になったわ。

 お蔭様で俺だけでなくシアンもまた先読みの精度が上がったけどさ。

 あのナビ、俺とシアンの対応レベルが上がるごとに笑顔で難易度引き上げていくんだもの。慈悲とか色々言われているけど、絶対ドSだろ!

 

「……そうでなければ面白くないわ」

『ナビの性能の違いが戦力の決定的差ではないことを教えてやる』

 

 鼻を鳴らして余裕を見せるワイリーを尻目に、双極集中状態の俺は脳内で描いてきたイメージと目の前の光景との擦り合わせを終える。

 相手のスピードは若干の上方修正。剣筋に際立った変化は無し。思考パターンも少しずつだが見えてきたところだ。

 

「ひとまず分析オッケー。待たせたなシアン。反撃といこうや。【クイックゲージ】」

『りょ!』

 

 スタイルチェンジを会得したことで変化したのはシアンの能力だけではない。

 性能的に俺のオペレートに依存してきたシアンだったが、今は彼女主体で動き出す。

 即ち、俺への負担が軽減されるのと同時に、真の意味で俺とシアンが手を取り合って戦うのを意味していた。

 

 シアンの行動パターンを学習したゼロの攻撃が掠り始めた頃、シアンが大きく地を蹴った。

 

「……何?」

 

 シャドーもといクノイチスタイルの恩恵として上昇した機動力によるものもあるが、風属性による恩恵の方もまた大きかった。

 足裏から空気が爆ぜたことでシアンが瞬間的な加速を、爆発的な推進力を得る。

 それはゼロの最高速度に匹敵すると言えないまでも、彼との高速戦闘に食い下がるまでと言っていいだろう。

 

「ゼロ!」

 

 僅かに驚いたワイリーであったが、すぐさま追撃の指示が入る。一息でゼロがシアンに追いつくが、圧縮された空気を蹴った彼女にまたも離される。

 空中では方向転換も効かないからだ。

 突き詰められた圧倒的なスピードも、それを生かした跳躍力も脅威ではある。

 それでも宙を自由に跳ねるシアンには届かない。

 

 地に足を着くことも無く、シアンが電脳空間をスーパーボールのように跳ね回る。 

 全身を覆う風は姿勢制御に一躍買うと共に、爆ぜた空気のガードも果たしており、文字通りスーパーボールのように全身のどこからでも方向転換が可能だった。

 それでもゼロというネットナビは優秀でシアンの着弾点を予測し、ゼットセイバーをその軌道上に振りぬいてみせる。

 

「【エリアスチール】――」

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。俺の介入によってシアンの姿は掻き消え、無防備を晒すゼロの背後を取った。

 

「【カスタムソード】――」

 

 そしてカスタムゲージをすべて消費した一撃がゼロのHPを大幅に削ることに成功する。

 

「【フルカスタム】、【エリアスチール】」

 

 続けざまにカスタムゲージをフルチャージし、ゼロの反撃を瞬間移動で以て回避した。

 ……よし、初めに想定していた流れは上手くいった。

 何も俺がチップによる援護を挟まなかったのは分析を進めていたからじゃない。ゼロにシアンのリズムを学習させたからだ。

 

 人間、何をするにしても自然にリズムを刻んでいるものだ。人間に寄せられたネットナビもまた例外ではない。

 あるいはデータである以上、人間よりも規則的な動きになるのかもな。  

 故にこそ、そのリズムを外せば相手の虚を突きやすい。尤も自身の調子を狂わせることもある為、使い所を選ぶ必要があるのだけども。

 シアンの場合は俺が慣らした部分もあるが、とあるカラクリが存在していた。

 

『~♪』

「【バッドスパイス3】、【キラーセンサー3】、【アイスウェーブ3】、【ビーアロー3】」

 

 再び三次元的な動きで跳び回りながら胞子をバラまき、一つ目のウイルスを設置し、ゆらゆら揺れる氷の塊を発射し、電気属性の蜂を発射する。

 その際、シアンが口ずさむのは世間一般に広まっていない姉御の曲だ。そのリズムに合わせてステップを踏み、攻撃をバラまいていく。

 俺とシアンが放ったチップに対処しながらもゼロは彼女のリズムを掴み、反撃に転じようとするも、

 

『~♬』

 

 転調――ガラっと曲調が変わった事でゼロの動きが乱される。

 小刻みに方向転換を繰り返すことで狙いを絞らせず、今までのリズムの違いにゼロの攻撃のテンポが遅れたところに、

 

「――プログラムアドバンス【ポイズンファラオ】、【ルーク】×4」

 

 HPを急速に削る猛毒を放つファラオマンを模した像を設置、その周りを【ルーク】の駒で囲んでおいた。

 ゼロが隙を晒したものの直接攻撃は仕掛けない。決してそれは致命的とは言えず、相手の思惑から外れないからだ。反撃は許さない。主導権を握り続けるのは俺たちだ。

 【ポイズンファラオ】の継続ダメージは実にやらしく、放置していれば並みのチップよりHPが削られていることはザラにある。

 しかも防ぐ手段はシアンのようにメタったバリア以外には存在しておらず、破壊以外に対処法が無いときた。

 かといって安直に破壊に動けば行動が読みやすく、また迂遠にチャンスを窺うにしたって相手の思考処理の何割を奪うのと同義だ。

 要するにデコイとしても優秀なのである、あのファラオ像。

 

『……っ』

 

 その時、初めてゼロの仏頂面が崩れ、焦りが顔に表れた。

 強さだけを追い求めたネットナビと言えど、他のワイリー製に違わずココロはあったようだな。

 戦闘マシーンとするならばむしろ邪魔になるかもしれない要素なのに、ワイリーの拘りでもあるのだろうか。

 

「ゼロ、裂光覇じゃ!」

 

 そしてワイリーの声にも焦りが多分に含まれていた。

 足を止めたゼロが地に向けて拳を放ち、その周囲に光の柱を展開する全体攻撃技の体勢に入る。

 前世の『ゼロ』及び『ゼクス』シリーズと同様の効果であるならば、無敵効果かつ回復能力まで備えたチート技であり、前世の俺を散々苦しめた忌まわしき技でもあった。

 確かに裂光覇ならば【ポイズンファラオ】を破壊できる位置で、反撃を食らう心配も無い。回復まで熟せる最適解と言っていい。

 

――でも俺は既に知っている。そして、この世界は横スクアクションの『ゼロ』や『ゼクス』シリーズではなく、『ロックマンエグゼ』だ。

 

「【バッドメディスン】」

『かはっ……』

「ゼロ……!」

 

 そう……指を咥えて見ているだけの前世とは違い、こちらの世界には対処法が存在していた。

 【バッドメディスン】の効果は回復効果の反転。つまりは【リカバリー】系の治癒が逆にダメージへと変貌する。

 

『チャンスは最大限に生かす。それが私の主義だ』

 

 某マザコン的な声真似で煽りを入れるシアンに対し、ゼロはフラついた様子で尚もゼットセイバーを構える。

 そのパフォーマンスは露骨に落ちても諦めない姿勢は嫌いじゃないが、それでも敵に情けをかける程、俺たちは余裕って訳でもない。

 ゼロはここで倒す。イレギュラーにこれ以上邪魔されて堪るものか。

 

『……オレは負ける訳にはいかない』

『何故ならオレには絶対負けられない理由があるから?』

 

 姉御の曲のストックだって潤沢にある訳じゃない。

 裏拍を使うという手もあるけれど、ゼロのラーニングは決して侮れない。

 こちらが相手の行動パターンを掴んでいるように、相手もまた同様だろう。

 

 

 

「――はっ……?」

『えっ?』

 

 だがしかし、ゼロにもシアンにも俺だってこの結末は予想だにしていなかった。

 

――ゼロが、プラグアウトした。

 

 表示をそれに寄せただけで不意打ちを警戒したものの、ゼロの姿形は全く見られない。

 

『いなくなっちゃった……?』

「逃げた、のか?」

 

 少なくともゼロは諦めちゃいなかった。こちらの一挙手一投足を観察し、一矢報いようとしていたからだ。

 となれば……ワイリーがプラグアウトした?

 

「ワイリーが逃げた?」

 

 釈然としない。あの恨み節満載のDr.ワイリーが逃げる?

 あれだけ俺たちを倒すを息巻いていたワイリーが? 

 前世の情報含めてありえない。執念深いDr.ワイリーがこんな簡単に諦めるとかあるか?

 

『とりあえずプラグアウトしようよー』

「あぁ悪い」

 

 シアンの催促に従ってPETのプラグのと同時に緊張を緩める。

 双極集中もやっぱ疲れるわ。『渡』もお疲れさん。

 

(ねぇ、もうひとりのぼく)

「ん?」

 

 『渡』に遅れて背後の人影に気付く。

 

「ごめんなさい。アタクシが間違っていましたわオフィシャルホワイト様」

「ミリオネア、様?」

 

 その人物は本来であれば避難誘導に従って別ルートからスタジアムの外へ出ている筈だった。

 でも何で俺の肩越しからPET見てんねん。従者さんたちも少し離れた位置で戦々恐々としているし。

 あっ、プライド殿下御一行もいらっしゃる。

 

「小さいながら冴えわたる読みと的確なオペレート! N1の試合なんかよりもエキサイティングでしたわ!」

「おわわわっ!?」

 

 喜色満面なミリオネアさんが俺の手を掴んでブンブンと振り回してくる。

 てか正体バレてる!? 揺れる視界で確認してみればサイバースーツのバッテリー切れてやがる。

 昨日のショックで充電忘れてたのか? なんつう凡ミスしてんだ俺ェ!

 

「離れていただけませんかミス・ミリオネア?」

「嫌よ! 驚いてらっしゃらないってことは隠していたんでしょう? プリセンス・プライド」

 

 笑顔のまま青筋を立てているプライド殿下がミリオネアさんの手を剥がそうとするも、駄々っ子のように抵抗する貴婦人。

 存外に強い力に振り回されながら外野に助けを求めるも、屈強な従者たちは相変わらず俺を化け物を見る目をしたままドン引きして動かないし、グロディアさん率いるSPもプライド殿下が傍にいては手を出せないようだった。

 だったら、とみゆきさん含めたオフィシャルの面々に視線をやるも、目を逸らされてしまう。

 

「避難経路に問題が無いのであれば先に進みませんか?」

 

 ひとり真面目に考える男、伊集院秀石がここに留まっていた名目を説明しながら避難について言及してくるも誰も耳を貸しやしねぇ!

 この緊急時に遊んでる場合じゃねぇんだよ! と叫べないのが下働きの常であり。

 俺は婉曲的な言い回しで彼女たちを制止するよう口にしながら振り回され続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛ぁあああああ!!!!」

 

 激情に身を任せたDr.ワイリーはテーブルの上にあった書類を払いのけ、ケーブルの繋がったままの計測機器を床へ叩きつける。

 ぐちゃぐちゃとなった室内はワイリーの心境を現しているようで、彼が理性を取り戻しても尚、その胸の内は荒れ狂ったままだった。

 

――あのままいけば、ゼロは負けていた。

 

 戦闘が開始してから主導権は握られ続け、最後まで隠岐渡の掌の上だったことをワイリーの心が拒んでもその頭脳は理解していた。

 

 ワイリーが心血を注いだ最高傑作が、負ける。

 それが断じて許せなくて、ワイリーは衝動的にプラグアウトを選択し……激しく自身の自尊心を傷付けた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 荒い拍動が胸を苦しめ、過呼吸となったワイリーの視界が明滅するが、それすらも気にならない。

 何故ならばゼロの敗北は、ワイリーの否定に他ならないからだ。

 

「隠岐、渡ッ……!」

 

 脳内にフラッシュバックされる、かつての光景。

 それはワイリーの人生を決定付けた忌まわしき記憶。

 科学省の一方的な都合でワイリーの研究を否定し、光正を選んだあの時を。

 

「隠岐渡……!」

  

 隠岐渡に光正の面影など感じない。

 しかし、その鮮烈な天才性は、目の奥に宿る光をワイリーは無視できなかった。

 

「隠岐……渡……」

 

 ドリームウイルスの根幹と言える【ドリームオーラ】が破られた時も。

 変異的なバグである獣化現象への対抗手段を持ち合わせていた時も。

 たかがスタイルチェンジひとつでゼロを超えてきた時もまたワイリーの想像を覆してきた。

 祖父である隠岐英の影響ではない。彼は堅実な職人タイプの人間だと長い付き合いで知っていた。

 ニホンの科学省内のみならず、世界で頭角を現す光祐一朗の影響でもない。アレはアレで一握りの才覚を持ち合わせているが、隠岐渡とは別種であろう。

 

「…………」

 

 ゼロは、隠岐渡を倒す為だけに開発された自立型ネットナビだ。

 圧倒的な性能差で磨り潰す、そのコンセプトの元、生み出された。

 ゼロとシアンを初めて接触した際に容赦なくデリートしていれば良かったのか? 否、断じて否である。

 あの時、隠岐渡に置かれた状況は目移りするばかりであったからだ。

 人質となるバブルマンの存在、足を引っ張るであろう仲間、ドリルマンとストーンマンとボンバーマンという人数差。

 不利を悟った隠岐渡は逃げを意識しており、ワイリーに、ゼロに勝つ気が無かった。

 

 ワイリーが叩き潰したいのは、勝ちたいのは本気の隠岐渡だ。

 だからこそ、今回勝ち切らねばならなかったのに。

 決定的な敗北から目を逸らす為に、ワイリーはプラグアウトを選んだ。

 選んでしまった。

 

「勝たねば、ならん」

 

 光正に負けた際、ニホンでのロボット研究の道が閉ざされたのは確かだ。

 しかし、別の国で再起を図らなかったのは逃げたからではないのか?

 

「奴に、隠岐渡に」

 

 ドリームウイルスが光熱斗とロックマンにデリートされた際、ワイリーだけでなく光正の分まで敗北を味わったと錯覚した時。

 何故、自分は諦めたのか?

 

「負ける訳には、いかん」

 

 よしんば光正の残した遺物であるインターネットを破壊したとしても……隠岐渡を避けていく訳にはいかなかった。

 

 過去にばかり執念を燃やすワイリーにとって、それは――自覚症状の無いバグに違いなかった。

 




〇ウインドクノイチスタイルの補足

 シアンが自らの意思で戦うことを選択し、対等のパートナーとなることを決意したことで発現した。
 ボスを倒した実績はともかく、オカルト要素のある戦士の魂的にメンタル面が認められれば条件は満たされることになっていた。


 シャドースタイルからの亜種派生。
 属性が木から風に変更されたことでステータスガードがOFF状態になっている。
 その代わりに機動力のパラメータや風を操る能力に割り振られている。

 自前の攻撃性能は以前と同じく無し。チャージショットがショートユカシタに変更となった。
 レベルアップするとカワリミマジックを覚えるのはシャドースタイルとの共通点。
 空中を蹴る能力はシャドーシューズと風属性の合わせ技。何なら何もない場所に張り付くことも可能。


 



 次回でN1編はおしまい
 勝利に貪欲になったワイリーとの最終決戦に突入します
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