特注のネットバトルマシンの電脳世界を余す所なく映し出す立体映像にフォルテの姿が見えた時、彼を知らない観客たちはサプライズ演出か何かだと勘違いしていた。
しかし、警備に当たっていたオフィシャルの緊迫した声が、一斉に通信した報告内容を耳にしたことで態度は一変。
我先に、とゲートへ駆け込む観客の姿から察した彼らもまたそれを追う。
必死に誘導しようとするオフィシャルに目もくれず、広く作られた筈のゲート内で押し合う彼らを他所に、光熱斗とロックマンは侵入者を睨み付けていた。
『フォルテ……!』
「試合を台無しにしやがって! いくぞロックマン!」
「待て。先走るな光」
兄弟の意思が重なると共に突貫しようとする熱斗の肩口を掴んで制止させたのは、彼と同じく決勝の舞台に上がる筈だった伊集院炎山だ。
出鼻を挫かれ、思い切りつんのめった熱斗は不快を露わにして炎山に噛みつく。
「何すんだ炎山! 早くフォルテを止めなきゃ大変なことになるだろ!」
「焦るな、と言っている。そんなコンディションでは奴には勝てん」
気持ちの逸る熱斗には難しい話だったか、と余計な一言を付け足して感情を逆撫でする炎山に、熱斗が言い返そうとしたところで、
「邪魔だ。じゃれるのなら他所でやれ」
決勝に残った軍服の少年、ライカが呆れた顔をして彼らを横切る。
その態度にカチンときた熱斗と同様に炎山もまた思うところがあったのか、PETのプラグを伸ばすライカの腕を掴んだ。
「貴様こそ余計な手出しをするんじゃない」
「口論など不要だ。いくぞサーチマン」
「誤射されては敵わないと言っている」
「察しが悪いな、オフィシャルのエース。言わずともオレとサーチマンだけで遂行する」
「ものを知らないのはシャーロのお家芸か? フォルテ相手に貴様が行っても無駄死にするだけだ」
互いに語調は冷たいものであったが、その視線はバチバチに弾けている。険悪な雰囲気を作り出した彼らに熱斗はうがーっ、と頭を抱えて、
「こうしてる時間がもったいねーっ!」
『でも炎山くんの言ってることにも一理あるよ熱斗くん。連携が図れないと互いが互いの邪魔になってしまう。フォルテ相手にそれは致命的だよ』
「こうなったらじゃんけんで挑む順番決めた方がいいんじゃねーのか?」
発想こそ子供らしいながらも建設的とも言える提案を投げかけようとしたところで、客席から人影が猛然と突っ込んでくる。
逆立った金髪に同色の髭を口元に蓄え、若草色のスーツに身を包んだ中年男性は、史実であれば少ないながら熱斗と接点のある人物であった。
「危ないっておじさん!」
しかし、隠岐渡がそれを歪めたこの世界では知る由もない。
「ようやく会えたなフォルテ……!」
『その声はもしや……!!』
無謀過ぎる真似をした男性に、加勢しようとした熱斗の手が止まった。
それは予想外な人物に先を越されたことに歯噛みした炎山も同様であり。事情を知らないライカも炎山の反応を見て状況把握に努める姿勢を取った。
『コサック……ッ!!』
遭遇する機会こそ少ないものの、誰に対しても静かに相手を睨み付け、強者を求めて戦いに明け暮れるあのフォルテが。
憤怒の形相で声を荒げるなど、想像だにしていなかったからだ。
ライカすらもその迫力に僅かに気圧された中、ネットナビ越しにフォルテと相対した男性――コサックの顔は揺るがない。
十数年もの年月を経て固まり切った覚悟を胸に、コサックは最後通告を口にする。
「フォルテ、お前を止めに来た」
『今更……今更何の用だコサック!!』
「随分と遅くなった。だがこれで最後だフォルテ!!」
その言葉こそコサックの意思を確認する問いかけだろう。しかして、その答えを求めている訳でもあるまい。
フォルテの両手に浮かべた光弾こそ拒絶の意思。対話など全く求めていなかった。
「バトルチップ【ダークネスオーラ】スロットイン!」
そしてコサックもまたフォルテを拒絶せんばかりに、オペレートするナビへ闇のオーラを纏わせる。
そこに降り注ぐは弾丸の流星雨、シューティングバスター。
一般的なネットナビはおろか、上澄みも上澄みであろうロックマンすらも塵芥に帰した攻撃は、闇の力の前に為す術もなく阻まれる。痛痒にもならない。
感情を爆発させたフォルテはシューティングバスターが無駄だと悟ると、マントを翻して強大な力を込めたアースブレイカーの体勢に入る。
「バトルチップ【スーパーキタカゼ】スロットイン!」
弱者の攻撃を受け付けぬ【ドリームオーラ】を引っぺがし、バチバチと右手にエネルギーを迸らせるフォルテから後退せず、じっと待ち構える。
『アースブレイカー!!!!』
「バトルチップ【アルティメットブラスター改】スロットイン!!」
大地を穿つ一撃を真正面から受け止め――【ダークネスオーラ】こそ維持してはいるが、その余波だけでコサックのナビのHPは半分以上削られてしまう。
二度目は到底受け止めきれないだろう……受け止めるつもりもないが。
「アルティメットブラスター!?」
熱斗が驚くのも無理は無い。
何せそのバトルチップは一般には出回らない、1回限りのロマン砲。光祐一朗が
ナビの身の丈を超える長大な砲身は伊達ではなく、撃ち出されたエネルギーの総量はアースブレイカーをも上回る。
攻撃直後で躱す暇すら与えぬ強烈なカウンターに、然しものフォルテも一溜まりも無い、かに思われた。
『がっ……はぁ……っ』
「なんだと……?」
爆発による眩い光と煙が晴れ、確認されたフォルテの姿は痛々しいものだった。
左腕が肘から先が吹き飛び、脇腹も大きく抉られていた。
だがそれでも――コサックが想定していたダメージよりも少ない。
「減衰、させたのか」
本来であればフォルテの全身丸ごと消し飛ばす筈のアルティメットブラスターだが、咄嗟に左手に集めたエネルギーで減衰した上、その照準を逸らしてみせたのだろう。
『済まないコサック……』
ゼロ距離でアルティメットブラスター使用した反動で【ダークネスオーラ】も吹き飛んだらしいコサックのナビがデリートの表記を残して消えていく。
こうしてコサックが呆けている間に油断ならないフォルテのダークアームブレードが突き刺さっていたのだ。
『二度と……』
「フォルテ……!」
『二度とその面を見せるなコサック!!』
自身を滅ぼしかねなった
語気こそ再会した直後よりも弱いものであったが、それでもコサックの胸に深く刺さるものがあった。
頭では掴めないとわかっているのに、虚空の広がった電脳世界へ伸ばした手を下ろす気になれないぐらいには。
「色々と伺いたい事がありますが……ひとまず場所を移しましょうかコサック博士」
「もう……博士などではない」
フォルテの他に襲撃が無いか内線で確認した炎山に任意同行を求められたコサックは抵抗することなく、されど自分の意思で進むことはしなかった。
こうして世界一のネットバトラーを決める筈のN1グランプリは閉会式も行わずに幕を閉じる。
後日に決勝を再開することを望む声も多かったものの、それは届かぬままに。
多くの者が知らない状況下、事態は急速に動き出していたのだった。
波乱の幕切れとなったN1グランプリからあまり時間も空くことなく、俺含めたネットセイバーはオフィシャル本部に招集を受けていた。
尤もスタジアム会場の後始末やら何やらを任せた彼らと違い、ミリオネアさんとプライド殿下のお相手をしていた俺は『至急』という文字が強調されたメールを受信してから1時間遅れでマリンハーバーに到着。
ついでに駅の売店で間に合わせのPETを購入し、シアンを移し替えておくのも忘れないように、っと。
ただ……、
「しんど……もう疲れちゃって全然動けなくてェ……」
『モテモテだったね~ワタちゃん』
「嬉しかねぇってばよ……」
興奮し切ったミリオネアさんからゼロVSシアンの感想をぶち撒けられた後、唐突に引き抜き交渉が始まるというね。
初手からして白紙の小切手に好きな数字書き込め、って何やねん。映画でしか見たことねぇぞ。
プライド殿下もプライド殿下で将来を約束済みとかいう爆弾発言かましやがるしよぉ……。冬休みの一件を誇大表現し過ぎィ!
一般人が出入りできないフロアで、フォルテ騒動が並行していたから目撃者がいなかったのは幸いだったけれども。
国内外で求婚してくる男が数知れずなプライド殿下のスキャンダル発言とかアカンでしょ。
クリームランドの広告塔として地位を確立しているせいで知名度半端ないし。
N1グランプリでHOTになっている世界が更にHOTになっちまう。男性諸君が脳破壊で頭がポカポカするね、程度ならまだしも、ニホンの平民と王族の婚姻って社会情勢にまで影響を与えかねんわ。
(一生働かなくてもいいお金貰えるのに……もったいない)
頭脳はまんま小学生な『渡』は残念がっているが、いざ金の誘惑に揺らいで請け負ったら洒落にならないんだよな。
立場的にまだ軽いであろうミリオネアさんの要望に応えたとしても、まずアメロッパに移住が決定し。
大前提として翻訳に頼り切っている訳にもいかないから英語やアメロッパ語は言わずもがな、旧ヨーロッパ圏の言語を習得する必要があるだろう。
んで、あの気まぐれな雇用主を満足させるのが仕事内容だろ? 具体的な数字やら目標が無いからマジでキツいのが目に浮かぶ。
ネットバトルだけしてりゃあいい、なんてのは想像力が足りないよ()。
無印アニメの描写からして違うネタを出し続けなければ飽きられる上、ミリオネアさんの
一応、ニホンだけでなく海外のウラ掲示板を覗いたり、自分で検証を重ねているからストックは人以上にあると思う。
が、実用性の低いネタならまだしも、初見殺しとなり得る戦術は切りたくないんだよな。
俺とシアンの強みのひとつとして、初見殺しで相手をハメたり、ペースを崩す為にも使用している。
そのタネが割れてしまえば逆にこっちが不利に陥ってしまうからデメリットのが大きいのだ。
第一、ミリオネアさんに飽きられて解放された後も、ヘイトを買いまくっているだろう従者たちに何されるか、わかったものではない。
(ならプリンセス・プライドは? 仲良いし、平気じゃない?)
人間関係としては先程よりマシかもしれないけど、労働条件はもっとヤベーんだよ。
俺との前世ネタ含んだ雑談で感銘を受けたらしいプライド殿下がクリームランド立て直したせいで、マジで俺への期待が膨れ上がっててヤベーとしか言えない。
たったひとりのプライド殿下への期待ですら重圧なのに、国民からのそれも抱えきれっかよ!
仮に役立たずに成り下がり、情だけで俺を抱えるとなれば今度はプライド殿下の立場が危ぶまれるからな。金にならないヒモ飼うなんぞ風聞が悪過ぎる。
彼女の友人として以前に、ひとりの人間としてそれは許せない。
(むずかしい……)
まぁ、『渡』にもわかるよう噛み砕いて説明するなら、『学校で授業受けるよりキツくて、宿題した方が100倍マシなレベルの仕事を毎日して、放課後に遊びに行く日数が数えるくらいになる』といったところか。
(やだね、それ)
そもそも英さん置いて海外行くつもりは毛頭無いし、『渡』の身柄を渡すつもりも無い。
緊急性の高い依頼以外は拒否権のある今の立場のがマシ、というのが俺の結論。
という訳で判断は上に全部ぶん投げてあの場から逃げてきた、というのが事の次第。
……仮に国益優先で売り渡される事態になったのなら、最悪英さん引き連れてアジーナかチョイナ辺りに亡命するわ。
あの辺、航空距離も近いし、ニホン人街とかあるっぽいしな。
『着いたよ。ワタちゃん、ほらシャキっと!』
「神的に良い人に殺されそうな言い方ェ」
普段よりも詰める人の少ないせいか、慌ただしい様子のオフィシャル本部のロビーを抜けて、例の如くエレベーターに乗り込む。
「失礼します。大変遅れてしまい申し訳ありませんでした」
指定された会議室が何とまぁ開きっ放しだったのでノックにやや苦戦した後、初手に約90度のお辞儀を披露。
一応、貴船総監には事情を説明しておいたけれど、それで周囲に周知したところで納得するかどうかは別の話。
「……ん?」
返答が来ず、ざわつく会議室に思わず顔を上げてみれば、誰も彼も余裕が無い様子だった。
面子としては貴船総監と真辺警視を筆頭に警視監並びにオフィシャルのお偉方、警視監の息のかかった現場担当の姿がちらほら見える。
ただし、呼ばれた筈の炎山、マサさん、サロマさん、みゆきさんの姿が無い。
邪魔するのも悪い為、大人ばかりで肩身が狭そうな熱斗へこそこそ歩み寄り、それとなく聞き出してみることに。
「オレたちがN1グランプリ参加してる間にオフィシャルにも襲撃があったんだって――」
熱斗やロックマンの話を頭の中で纏めると次のようになる。
・2日目のトーナメント戦も序盤から中盤に差し掛かった頃、オフィシャルのネットワークに襲撃。本部に残った人員で対応したものの、心臓部であるマザーコンピューターに守りを集中したせいでテトラコードを奪取される。
目撃情報から犯人のネットナビはストーンマンとボンバーマンだと思われる。
・それから約2時間後。N1グランプリで決勝戦が始まる前……つまりはフォルテがスタジアムに現れた頃、科学省のネットワークにドリルマンが侵入している事を
目的はテトラコードによるテトラゲートの開錠。
4つある内、3つが突破されたものの、残る1つに難航したようで現場に急行したシャークマンとウッドマンを恐れたのか、ドリルマンは撤退。
封印されたプロトは無事ではあるが、セキュリティレベルが下がった事で急遽科学省で対策が練られている模様。
ちなみに発見者はマハ・ジャラマ。現在、内通を疑われて尋問中。
「なるほどなぁ……」
要するにN1グランプリというイベント自体が大きな囮だった、という訳だ。
ぶっちゃけた話、ワイリーという人間を原作知識で考えるにN1グランプリに大した興味も無いだろうしな。
オフィシャル視点でも海外から御来賓のやんごとなき方々の対応で警備を厚くしていたものの、ワイリー側としてはもう一押し欲しかったのだろう。
で、その為に打ったのはストーンマンとボンバーマンの存在。
1日目はその布石であり、予選を派手に突破することで俺たちの注目を集めさせたのだ。
その裏でVIPへの襲撃もあり、名も知らないWWW団員こそそれが主目的であったと思われる。しかし、ワイリーの本命としては《どこに誰が配置されていたか》が重要だったのだろう。
多くのオフィシャルに伏せられていた俺やみゆきさんの居場所をここで割り出されたのだと思われる。
んで、科学省とオフィシャル本部の警備が薄くなったのを確認できたワイリーに狙われたって筋書に違いない。
ミリオネアさんから聞いた話だと今日のMr.SとMr.Bが別のナビにすり替えられたってレベルで弱かったらしいしな。
恐らく会場には見た目だけそっくりなネットナビを用意し、本物にはオフィシャル本部に当たらせた。
科学省に関してはファイアウォールに引っかからなかった、という点が気掛かりだった。
お偉方の8割方はマハ・ジャラマが手引きしたものだと確信しており、残る2割も判断を下すのは情報を集めてから、といったもの。
俺としてもありえる、とは思う。と同時に直近でも科学省が襲われた際にバッグドアでも仕込まれたんじゃないか、とも考えている。
実際に確かめた訳じゃないから妄想の域は出ないけれど、ワイリーの技術力で見つからないように仕組まれている可能性は無くは無いし、ドリルマンの犯行だっていう話だからなぁ。
原作『3』で科学省からウラインターネットに繋げた実績がある為、能力的にいけなくはなさそうな気もする。
あるいは俺がどちらかに張り付いていれば防げた可能性も無くは無いけれど……現実的では無いわな。
プライド殿下からの要請があった時点で俺に拒否権は存在しないだろうし、仮にフリーで動けてもシークレットエリアで修行していたかもわからんし。
まぁ、テトラコードを渡した時点で半ば諦めていたところはある。
俺としてもワイリーにテトラコード奪われているから、どの口が言う的な感じだしよ
「――Dr.ワイリーは再びプロトを狙ってくるのか。どうなんだね?」
「あの老骨であれば諦めんでしょうなぁ」
「難攻不落のテトラゲートが易々と突破されますまいて」
「あのDr.ワイリーですぞ? 直接テトラゲートに触れて解析された可能性がありますな」
「いっそのことプロト周りのネットワークを遮断しては如何でしょう?」
「馬鹿な事をおっしゃいますな。そも、アレの封印が成り立っているのは、あのネットワークがあってこそ。サーバーを移し替えようとした際の悲劇をお忘れになったので?」
「……封印が緩んだことによるプロトバグの流出、ですな」
「あの時は初動が早かったことで
「あの
「……口を慎みたまえ」
「……失礼しました」
粗方熱斗からの聞き取りも終え、踊りまくっている会議の内容に耳をそばだててみれば、原作には描写されていない情報も飛び込んでくる。
なるほど、科学省からしてもプロトを動かしたくとも封印された場所から動かせないのか。
英さんから聞いたネットワークの成り立ちを思い出すに、エグゼ世界はオカルトめいたパワーが働いてやがるからな。
初期型インターネットを封じるべく、新たなインターネットの力を借りる必要があった訳だ。
んでもって、上の人間が火消しだけで済ませて、プロト本体を駆除しない理由もまぁ想像通りだった。
――何故ならプロトの中には光正の精神データが存在しているからだ。
『3』のエンディングにてプロトを倒した後に扉が出現し、その中で光熱斗とロックマンは光正と再会するのである。
一部考察ではパルストランスミッション中に死亡したせいで、精神だけがネットワーク上に取り残された。
または当時の人格と記憶したコピーを内部から封印処理を行う為に残したのか。
何にせよ、電脳の怪物たるプロトにそういった背景があるせいで彼らは不用意にプロトへ触れることができないでいる。
現在のインターネット技術の礎となった人物への尊敬もあるのだろう。肉親である光祐一朗は情故にプロトを破壊できずに原作では後悔していたのだから。
上の人間の中には……光正の知識と技術を有効活用できないか、と考えている人もいるだろうけれども。
ぶっちゃけた話、光正という存在はマジで別格過ぎたのだ。
『3』と『5』のシナリオは光正の残した遺物を中心に話が進むし、そこから年月が経った今でも脅威になっている時点でヤバいとしか言えねぇ。
流石はあの天才Dr.ワイリーと同列……あるいは部分的に超えていると語られる人物である。
「遅くなりました」
「いえいえ! ここまでご足労いただき感謝致します光博士」
それから貴船総監や真辺警視が俺の存在に気付くも、話を振っている余裕が無い為、退屈な時間が流れる。
熱斗が眠りこけ、俺も連絡を受けた振りをして退席しようとしたところで光祐一朗が会議室へ姿を現す。
その後に続く名人さんと見知らぬ軍服の外国人と……ライカ?
「不躾ながら相手方の都合もありますので、先にお時間を取らせてもらっても構いませんでしょうか?」
「とんでもない! どうぞ我々にお聞かせ願いたい!」
科学省も落ち着かない状況下であっても、主力となる光博士と名人さんがわざわざ抜け出してまで話す内容とは何なのか。
「前置きも無しに失礼しますが……前々から開発を進めていたディメンショナルコンバーターの実現に成功しました」
「おぉ!?」
「なんと素晴らしい!!」
興奮するオッサン共の声に熱斗が眠りから覚め、キョロキョロと視線を彷徨わせる。
それを横目に俺は口に手を当てて、なるべく表情を隠すように努めていた。
ディメンショナルエリア――それは原作及び漫画とアニメの明確な差異となる片割れ。
クロスフュージョンと呼ばれるアニオリ要素を実現する為に必要となった空間のことを指す。
具体的には現実世界に電脳世界の物を持ってこれる技術のことだ。
アニメ無印最終話にて光祐一朗が電脳世界の植物を現実に持ってくることで砂漠化した大地に緑を取り戻すプロジェクトから始まり。
『AXESS』シリーズに突入した際には、オペレーターの肉体を依り代にネットナビを現実世界に実体化させるクロスフュージョンを完成させたところで物語が始まる。
端的に言えば、変身ヒーロー物要素が追加されたようなもの、だと考えればいい。
「……ではシンクロチップの方も?」
「いえ。そちらはまだ難航しています」
お偉方は露骨にガッカリした様子を見せるも、この短期間にディメンショナルエリアを実現にまで持ってこれた時点で大概おかしいと思う。
シンクロチップも軍事力で見るならヤベーの一言に尽きるが、ディメンショナルエリアの利便性の方がもっとえげつないだろうに。
エネルギー面による維持コストを考えるに長期間は厳しいことを含め、イベント設営には凄ぇ向いているかもしれない。
現実世界じゃ叶わない演出に、描いたデザインをデータからそのまま出力される手軽さ、設営及び撤去作業も人手要らずときた。
例えとしては平和的なものを挙げたが、アニメみたくウイルス出現させるだけでも十二分に驚異的だろうし。
何より現実世界ではありえない代物を持ってこれる可能性があるだけにディメンショナルエリア単体だけでも危険な代物と言えるだろう。
「しかし今回着目して頂きたいのは副次的効果の方です」
会議室に設置されたプロジェクターにモバイルPCを接続した光博士が録画した映像を映し出す。
「このディメンショナルエリア、空間を隔てる斥力のような力が非常に強く働いておりまして。実験に付き合っていただいたシャーロの900mm口径の砲弾も、光学兵器もといレーザー兵器も通さないことが判明致しました」
「すげぇ……!」
度肝を抜く光景に場違いな熱斗だけが目を輝かせ――それ以外の者は息を詰まらせていた。
それもその筈、ディメンショナルエリアを用いれば現代兵器が通用しなくなるのをたった今証明したからだ。
正直な話、量産化の目途さえ立てば、戦争で世界情勢を簡単にひっくり返せるだろうしな。壊せない兵器とか悪夢でしかねぇわ。
まぁ、『Stream』辺りでディメンショナルエリアを展開した陸上戦艦っぽい兵器が破壊しまくる光景がたっぷり拝めるんですけどね、奥さん。
熱斗たちにシンクロチップが無かったら普通に国滅ぼせるわ、あんなん。
「つまり我々はワイリーの脅威に抗えると言う訳です」
上の方々の懸念も振り払い、光祐一朗が主張したいのはこれに尽きた。
アメロッパの艦隊がやられた長距離砲撃もディメンショナルエリアさえあれば防ぐことができるのだと。
Dr.ワイリーとの決着を、こちら側から片を付けられると強く示していた。
「……維持コストとしてはどうなのかね? 発電所に繋いだまま動けない、などとは言わないだろうね?」
「強引な手でありますが私が改良したハイパワープログラムを搭載すれば片道までの電力は充分賄える計算ではあります」
具体的な内容を詰めようとした光博士を突然遮ったのは、ずっと『気を付け』の姿勢で待機していた筈の軍人だった。
アイビーカットのくすんだ金髪に彫りの深い顔立ち。額や目尻、ほうれい線が深く刻まれた顔から中年ぐらいだろうか。
ラグビー選手が如く太い首にこれまた軍服の下からでもわかる逆三角形の分厚いガタイ。
「ここからは私が話をしよう、Mr.ヒカリ」
「わかりました」
「よろしい。ニホンの諸君、私はセルゲイ大佐。今作戦を指揮するシャーロ軍ネットワーク第13部隊の大隊長を務めている」
灰色の瞳に強い自信を窺わせる彼に上の方々は少しばかり尻込みした。
「シャーロ軍の13ナンタラ部隊?」
『シャーロ軍ネットワーク第13部隊だよ熱斗くん。精鋭揃いのチームでアメロッパ軍のレンジャー部隊にも劣らないって噂でね』
「要するに?」
『とっても強くてネットワークにも詳しい人だよ』
ロックマンが説明してくれた通り、一角の人物らしかった。
まぁ、話の流れから察するにワイリーの根城を直接叩く役目を担うと言っているのだろう。
原作からして無人戦車を配置している危険地帯に小学生と中学生が乗り込むのは狂気の沙汰だしな。軍人を送り込むことは間違いだとは思わない。
「これはこれは心強い。今は席を外しているが、我々からも紹介したい人物がいましてね」
「ライカ軍曹」
「はっ」
揉み手で胡麻を擂る警視監の話をぶった切り、セルゲイ大佐がライカに水を向ける。
「選手らのお手並みは?」
「小官は今作戦に耐えうる人物はいないと愚考する次第であります」
「よろしい」
淡々と報告するライカに対し、満足そうに頷くセルゲイ大佐。
しかし、ニホン側からしてみれば堪ったものではないようで、
「流石に言葉が過ぎますなぁライカ殿?」
「いえ。適切な評価を下したまでであります」
「N1グランプリの、あれしきで我が国が誇るオフィシャルレッドと伊集院炎山くんまでも理解したおつもりであるのなら片腹痛いというもの」
「お言葉ですがMr、軍曹の見る目をお疑いにおなりで?」
「若い故の早とちり、ということもあります故」
「軍曹」
物わかりの悪い老人を鼻で笑ったセルゲイ大佐が再びライカへ話を振る。
「確かにオフィシャルレッドなる人物に光るものがあるのは確かです。しかしながら我々にそれを磨いている暇は無いと思われます」
「という訳だ。おわかりいただけましたかな?」
「――承服しかねる、と言ったら? 大佐殿」
青筋を立てる警視監一同に、関係悪化を気にして必死で宥める貴船総監の前に割って入ったのは小生意気そうな小学生の伊集院炎山だ。
「随分とマナーがなっていないな少年」
「曇った目をした相手にマナーが必要とは思えないもので。大佐殿」
バチコリ挑発をかます炎山にセルゲイ大佐が目を細める。口元を見れば笑っているようにも見えるが、どこか野性味を感じさせるそれは獲物を捉える獣のようだった。
「おい大佐殿に何という口を効いている?」
「失礼なのはシャーロのお家芸か?」
上官に対して失礼な物言いをする炎山へ頭にきたのか、ライカが詰め寄ってやや乱暴に肩を掴む。しかし炎山、それを軽く引っぺがすと、双方睨み合う。
「ふぅ……」
一色触発の空気が漂う中、大きく手を叩いたのは貴船総監だった。
穏当に進めようとしていた彼は深く溜息を吐き出すと、長官らしい厳しい表情で口を開く。
「双方共に納得がいかないようです、セルゲイ大佐殿」
「いやはや全く困ったものです貴船総監殿」
「であれば相互理解の為に是非とも機会を設けてもらいたい。作戦決行には猶予があるのでしょう?」
「我々の都合も考えてほしいものですな。そちらにかまけているならばブリーフィングに時間を割きたいものですよ」
「大佐殿、言葉を重ねるだけでは無駄であると愚考いたします」
平行線を辿るかに思われたが、ライカが口を挟んだことで流れが変わる。
「言葉でわからぬのなら小官が示してやりましょう。時間もかからないでしょうし」
「負担にならないかね、軍曹?」
「はっ。いえ、我が身は決して軟弱ではありません」
「よろしい。ならばニホンの皆様に教示してくれたまえよライカ軍曹」
ネットバトルでわからせた方が手っ取り早いと判断したセルゲイ軍曹がGOサインを出したことで交渉成立。
「ならばこちらが教えるのは敗北、といったところか?」
「炎山がやるならオレもやる!」
PETを構えたところで察した熱斗が参戦の意思を示したところで、事実上の決勝戦がオフィシャル本部で行われることに。
「何を呆けている隠岐?」
「ワタルもやってやろーぜ! よくわかんねーけど黙ってらんねーじゃん?」
「そうだな」
まぁ、口を謹んで様子見するのはこの辺で止めにして彼らに便乗するのも損は無いだろう。
個人的には最後のテトラゲート防衛をどうするのか話を纏めておきたかったが、しゃーない。
加熱した話題を強引に切り替えられる程の発言権もねぇし、ネットバトルでケリ着けてから切り出す事にするかね。
〇第一発見者マハ・ジャラマの供述
「私は決してやってなどおりません! 確かにワイリー様のお役に立ちたいと常日頃考えておりましたが! 私こそが裏から手引きしたかったのに! 誰がやったのです!?」
錯乱するマハ・ジャラマ氏から有益な情報を得られず。
正気に戻す為、色綾まどい氏、火野ケンイチ氏、ジャック・エレキテル氏の行いは決して暴力では無いことをここに記す。
〇ライカによるトーナメント出場選手への厳しい評価(一部抜粋)
・ロックマン→戦略兵器として投入する価値は大いにアリ。しかし足並みを乱すであろうオペレーターのマイナス評価が大きい。
・ブルース→近接戦闘に関しては優秀。反面、遠距離への対処に乏しく、オペレーターも短絡的な判断を下しがち。
次回はライカ君へのわからせ、からの最終決戦前の諸々を消化する予定