この勢いに乗ってDSソフトがスイッチの配信タイトルに乗るといいなぁ
「大佐のお手を煩わせる事ではありませんのに」
「数の力を侮るなよ軍曹」
「はっ、失礼致しました」
口が過ぎたことを敬礼と共に謝罪するライカは、改めて機械式の机を挟んで向かい合う相手を見やる。
確かにネットバトルの腕前は達者な方なのだろうが、誰も彼もライカの目線より低い小学生。
人生経験の足らぬ身の程知らずがまるで現実が見えていないとしか思えなかった。
多少なりとも修羅場慣れしている伊集院炎山でさえライカの目からすれば力不足なのだから、光祐一朗の息子という立派な肩書を持つ光熱斗や名も知らぬ少年など民間人に毛が生えたレベルだと言える。
(足運びだけでわかる。彼らは論外だ)
自分の身すら守れなさそうな人物たちなど、ライカはとてもではないが戦場に連れて行く気にはなれなかった。
現に光熱斗はこの勝負を軽く捉えている節が見られ、伊集院炎山は表面上冷静な顔をしているものの敵愾心が伝わってくる。
ワタルと呼ばれた少年とて――
(やけに、落ち着いている)
彼らの間に立ったワタルは軽口こそ叩いているが、結果的にそれは熱斗の意識を真剣な方へ促し、炎山の感情を和らげさせていた。
そしてニホンの上役たちからの期待を寄せる視線に苦笑いを零し、ライカとセルゲイを瞳に捉える。その表情はどこか子供らしからぬものがあった。
「――これよりニホン対シャーロの
「あぁ。こちらは完了している」
「始めてください、貴船総監」
親善試合などと取り繕った言葉に噛みつくことなく、セルゲイと炎山が代表してそう答えた数秒後、
「それでは――始め!」
貴船総監の開始の合図がなされ、2対3による勝負の幕が切って落とされた。
「サーチマン」
戦いの舞台は光博士の手で急遽設けられた比較的広い電脳世界。
それぞれ対角線上に送り込まれ、接敵するまでに十数秒は要する距離ではあるが、サーチマンの射程ならば一方的に先制攻撃が可能。つまりはスコープガンによる狙撃で一気に片を付ける腹積もりであった。
『ライカ様』
しかしサーチマンがスコープを覗き込み構えるも、引き金を引かずライカの名を呼ぶ。
「【オーラ】か」
ズームアップされた敵の姿はどれも100以下の攻撃を無効化する放射体を纏っており、スコープガンの火力では貫けないだろう。
「バトルチップ【スーパーキタカゼ】スロットイン!」
だが、これもシャークマンが取った行動を猿真似したに過ぎない。対策としては不十分、強烈な突風が安易な防御など吹き飛ばし――
「相殺だと!?」
しかしキタカゼは彼らに届くこともなく、向かい風の
ライカとてこの現象の原理は理解している。攻撃系チップに限らず、補助系であっても両者が同名チップを使用した際に効果が打ち消し合うことを。
ただこの【スーパーキタカゼ】は発動してから1秒にも満たずに【バリア】系や【オーラ】系を剥がしてしまえるのだ。
要するに……ライカの使うタイミングすらも合わせられた、ということだ。
「バトルチップ【スーパーキタカゼ】スロットイン」
ライカの驚きを他所にセルゲイがすかさず差し込んだことで相手の防御を吹き飛ばしてみせた。
「……助かりました隊長」
「礼など良い。切り替えたまえライカ」
それすら無駄口だと切り捨てるセルゲイに、ライカは目礼を送り……ふと正面を向く。そこには、
(オレのスロットインのモーションを盗んだというのか)
面を上げてライカを視界に捉えたワタルの姿があった。
なるほど、それならば相手のタイミングに示し合わせることも可能だろう。
しかしながら相手を目にするということは、手元のオペレートが疎かになるのも同義といえよう。
第13部隊にも番外戦術を得意とする先輩がおり、相手の動揺を誘う為に似たような行為をしてきた事もあったが、大半は自滅して終わっていた。
「サーチマン」
ならばその足元を掬ってやろうではないか、とライカはサーチマンに少女型ナビへ照準を合わせさせる。
『スコープガン!』
流れるような動作で第一射が放たれる。遮蔽物があろうとも空間を乗り越え、【インビジブル】や【ユカシタ】であろうとも逃さない必中の弾丸は呑気そうな面を晒す彼女の脳天に吸い込まれる。
彼女が察した時にはもう遅い。回避行動すら間に合わず、直撃――
「あの姿は……」
その寸前、白銀髪を持つ少女ナビの全身が黒一色に染まり、弾丸の推進エネルギーが全て吸い尽くされたかのように彼女の前にポトリと落ちた。
「【カゲブンシン】*1……!」
それは【インビジブル】に並ぶ無敵効果を持つバトルチップでありながら、【インビジブル】と比べれば知名度が格段に低いそれ。
元より目撃例の少ないダークシャドーと呼ばれるウイルスが絶滅レベルに減ったことで一般に知る者は少ないだろう。
してその効果は【ソード】系統以外の攻撃の無効化。スコープガンもまた例外では無かった。
(しかし……何だあの
狙撃に対する反応速度も勿論あるが、あまりにバトルチップの展開速度が早過ぎる。【オーラ】、【スーパーキタカゼ】に続いての連続使用のスパンもまた短過ぎた。
「【カゲブンシン】とは痛い所を突いてくる」
思わず漏らした口振りとは裏腹に白い歯を輝かせてセルゲイは笑う。
彼のネットナビ、コマンダー01*2は中距離戦闘に主軸を置いてはいるが、コンバットナイフによる近接戦闘も十二分に熟せはするし、2体まで01アーミー*3を召喚可能。
しかし、数的不利に加えてコマンダー01の利点を捨ててまで彼女単体に構うだけでも手損だろう。
「ライカ」
「わかっております隊長」
故に彼女はあえて泳がせ、遠距離狙撃を潜り抜けてきた相手に対し、中盤を厚くする。
コマンダー01によるアサルトライフルとサブマシンガンで弾幕を張り、サーチマンがその援護に回る形だ。
「カウント*4は大丈夫かね?」
「問題ありません、サー」
「よろしい」
ひとり突出して敵陣へ躍り出るブルースへコマンダー01は牽制射撃を行いつつ、後続へ合流できないようそれとなく誘導していく。
(推察通り足並み揃えないエースは孤立。しかし……ロックマンは思いの外盤面が見えている)
N1グランプリでの暴れ様に連携が取れない印象を受けた青いナビはコマンダー01との射撃戦を挑み、ブルースへの負担を軽くする動きを見せている。
そして、ライカたちへ優位を取った筈の少女型ナビはせっせと【ポーン】と【ルーク】を配置しているようだった。
「ライカ!」
「了解! サーチマン!」
ロックマンを相手する片手間でブルースの速度を殺すことに成功したコマンダー01。間髪入れずサーチマンのスコープガンから弾丸が発射される。
だが、標的は【エリアスチール】によって難を逃れる……一時的に、だ。
弾幕による事故を回避するならば瞬間移動先も限られてくる為、ライカとサーチマンにはその目星を付けるのは実に容易い。
『ポイントβ、ファイア!』
【エリアスチール】使用後の後隙を晒すブルースへ今度こそ着弾する筈の未来がまたも打ち崩される。
身動きが取れない筈のブルースの身体がスライドし、弾丸が虚空を通過――などというのは目の前の光景に比べれば些細な結果に過ぎない。
「グランドスタイル……!」
ロックマンによる反則に近い大胆な盤面操作によって足元のパネルの位置が次々に入れ替わっていく。
彼我の間に配置される【ポーン】と【ルーク】は弾除けに、孤立していたブルースを強引に呼び戻す一手。
(咄嗟の判断……にしては盤面が整い過ぎている。ブルースの動きが
「ライカ!」
セルゲイの呼び声で思考の中から現実に引き戻されたライカの目に映ったのは、戦場に降り注ぐ隕石の雨――【リュウセイグン】*5だ。
「仕切り直しといきたいところだが……どうもそう簡単には許してくれないみたいだ」
コマンダー01とサーチマンは【ユカシタ】を用いて身を隠し、【リュウセイグン】の爆発に紛れて場所を移そうと試みるのだが……地下の世界に待っていたのは無数の地雷である【ステルスマイン】。
いつの間に仕掛けていたのか、という疑問すら余念となる現状、セルゲイとライカは判断に迫られる。
(【ステルスマイン】の配置……明らかに移動ルートが誘導されている。かといって【エリアスチール】を使っては相手の思う壺)
「さてどうする軍曹?」
セルゲイはどこか楽しそうな表情でライカに判断を委ねる。
指揮官としてあるまじき行為ではあるが、この戦闘が始まってから彼は一度も具体的な指示を出してこない。
つまりはこの戦闘を通じてニホンのネットバトラーだけでなくライカもまた見定められている立場なのだろう。
パネル越しに響く【リュウセイグン】の音も収まってきており、相手の次なる一手も待つのもまた悪手だ。
「こうします! バトルチップ【マグナム2】ダブルスロットイン!」
果たしてライカが選んだのは砲弾によるパネル破壊。見えざる地雷を地形ごと吹き飛ばすことで無効化し、
「バトルチップ【パネルリターン】スロットイン」
続けてセルゲイがパネルを修復したことで敵の思惑から外れたルートを行く算段だ。
『はぁああああッ!!』
しかし、ライカたちが動いたのと同様、敵である彼らも動いていた。
攻撃したタイミングだけ解除される【ユカシタ】の弱点を狙ってか、フミコミの瞬間的な加速を纏ったブルースが接近。
緑色に輝く長大の剣――
サーチマンのHPは大幅に削られ――しかし胴体が泣き別れするには至らない。
『しかし蛮勇なのはよろしくない』
大技による後隙をセルゲイとコマンダー01が見逃す筈もなく、ブルースの背面からコンバットナイフが突き刺さる。
首の部位、背面からの奇襲という条件を満たしたことで威力が乗算されたコマンダー01がブルースの命を大きく刈り取り、オフィシャルのエースは強制プラグアウトとなった。
「軍曹も備えが足りん。バトルチップ【メットガード】、【200バリア】スロットイン」
誰かが落ちようとも状況は絶え間無く動き続ける。
サーチマンとコマンダー01が表に出た時には既に足元はマグマパネルへと変貌しており、ライカが視認した時にはセルゲイが既に手を打っていた。
『【ボルカノキャノン】!』
ロックマンによるマグマパネルを吸収することで威力が上乗せされる砲撃と、前方に展開される黄色いヘルメットの激突。
爆炎は【メットガード】を呑み込み貫通するも、二段構えのバリアがその身を犠牲にサーチマンらに届かせなかった。
「隊長、今の内に……」
「実に大胆な詰手だ」
ロックマンの対処に動いている間にも、残る敵もまた手を止めてはいなかった。
【デスマッチ2】を発動させたのかサーチマンとコマンダー01の周囲が穴パネルへと変貌しており、強引なまでに逃げ場を無くす。
そこに続けて【カモンスネーク】*6――壺に見立てた穴パネルから飛び出てくる無数の蛇が彼らを取り囲んだ。
『サテライトレイ!』
『……セルゲイ』
「あぁ……我々の敗北だ」
サーチマンが人工衛星からのレーザーで焼き払い、コマンダー01が鉛玉をバラまいて延命を図るも一足先に彼らは悟る。
混乱を招く【ディスコード】の音色に、【インビジブル】を貫通する【キラーセンサー3】の姿に敗北の足音はそう遠くはないことを。
「認識を改めよう。彼らは実に優秀だ」
バトルの結果に一定の満足を得たのかセルゲイ大佐が頷きながら自らの発言を省みる。一変した態度にニホンのお偉方も渋面をやや緩ませて口を開く。
「それではセルゲイ大佐殿?」
「今作戦においてニホン側からの人員を受け入れましょう」
「当然、のことではありますが考えを改めてくれて何より」
「しかし、その人数は5名までに留めてもらいたい」
「5名!? 負けた立場で譲歩するなど厚顔無恥ではありませぬかな?」
「5人まで安全を保障しようと言うのです。破格の条件ではありませんかMr.?」
「話にならぬ。合同作戦と言うのであればニホンからも軍を派遣して――」
「その戦力が整い投入するまでの期間は如何程でありましょう?」
「それは……2日もあればいけるやもしれぬ」
「どうにも緊迫した状況が理解できていないようだ。こうして我々がティータイムを楽しんでいる間にも世界は戦争に近付いているのですよ。
海を挟んだニホンは随分と耳が遠いのか、Dr.ワイリーから武器の支援を受けた小国が今にも仕掛けようとしているのをご存じないらしい」
「それは……」
「加えてDr.ワイリーはニホンに随分と執着しているのだとか。自国の防衛を固める方針ではありませんでしたか、Mr.ヒカリ?」
「えぇ。国防省からも確認は取れています」
「光博士、勝手なことを……!」
「何もこれは私の意見ではありません。WWWが活動を再開し、情勢を鑑みて下した判断のことでしょう」
大人たちが利権やら何やらで揉めるのを尻目に、俺は目線の近い子供たちへ顔を向ける。
「ほら。喧嘩して仲直りしたなら握手しろって」
「……光、これは喧嘩などではない」
スポーツマンシップみたいな爽やかさを持ち出す熱斗に対して渋る炎山。
自分とブルースだけプラグアウトした事実が気恥ずかしいのもあるのだろうが、今の今まで衝突していたライカとポーズだけでも仲良くやりたくないのだろう。
これが貴船総監からの言葉であれば渋々であれど握手に応じていたのかもしれないけれど、ライバルの熱斗から言われた、というのが余計に反発心を生み出しているのもあるのかもな。
「お前がこのチームの指揮官か?」
で、そのライカはと言えば因縁付けた炎山を無視して俺に話しかけてくる。
先程までは悪感情というか、俺たちを見下している素振りが見られたものの、現在の彼のクールな相貌からは険が取れていた。
というかアニメ程、感情表現がわかりやすくないから声の調子が平坦だと何考えてるかわからん。
「いんや。リーダーとかは特に決めてなかったな」
「しかし彼らが好き勝手に動いては結果は違っていた筈だ」
ライカの言葉から察するに熱斗と炎山はとんだじゃじゃ馬に思われていたらしい。んで、俺が上手く手綱を握って勝利に導いたと思っている、と。
「酷ぇなライカ! オレたちにだってチームワークはあるんだぜ? なぁ炎山?」
「フンッ……人を囮にしておいて良く言う」
「まぁ、それもチームの働きってことで」
実際のところ、炎山がバチクソ対抗心剥き出しでブルースと足並み揃えられなかったけれど、周囲の状況を利用して連携っぽい動きを取れてはいた。
熱斗はグランドスタイルを得たことで地形利用に頭が働くようになったし、その相棒であるロックマンも協調性はかなりある方だ。
だから【ポーン】や【ルーク】、【ステルスマイン】で支援しただけのこと。
本来なら俺とシアンで挑発してロックマンをフリーで動かす予定だったのだけども、セルゲイ大佐に早々に見透かされて放置だもんなぁ。
それでいてシアンに対して最低限の注意を払っていた辺り、抜け目も無かったし。
序盤に高速チップ回しを晒していたら、あそこまで楽に詰められて無かったと思う。
「食えない奴だ……まぁいい。君たちを侮っていたことを謝罪する。すまなかった」
「ほらライカは謝ってんぞ炎山?」
「わかったのならいい」
「素直じゃねーヤツ」
頭を下げたライカに対して炎山の溜飲が下がったみたいだが、歩み寄る姿勢は見せない。
小学生らしく第一印象が悪いとそのまま引き摺るところあるからな、炎山って。
一応、ライカの実力は認めている節はあるから、これから態度は軟化していくだろうけども。ワイリーの根城までの道中で打ち解けるまではいかなさそうである。
それでも炎山は聡いから作戦行動中に無暗に反発することもない筈だ。
「しかしワタル、君は何故N1グランプリに参加しなかった?」
「やっぱライカもそう思うよな? シアンだけでもなかなかやるんだぜ!」
「どうせ今回も裏で企んでいたんだろう?」
炎山の質問に関してはノーコメントで、とワチャワチャやっている所にセルゲイ大佐がこちらにやってくる。
どうもシャーロ側からの話は終わったのか、それとも進まない話に見切りを付けて離れたのか。
「軍曹。親交を深めるのも結構だがそろそろ帰還する」
「了解であります」
「あっ、帰る前に連絡先交換しようぜ?」
コミュ強な熱斗がそう申し出ると、ライカは視線でセルゲイ大佐に確認を取る。すると頷きを返し、許可を得られたライカは僅かに口角を上げて熱斗に向けてPETを取り出した。
原作だと友達いない設定だからな。これは嬉しい申し出だろう。
アニメ版だとフェンシングの代表選手であるイリヤ(♂)が旧友っぽい雰囲気だったけれど、それでもメインキャラ以外に友人がいないっぽくて涙が出るね。
「今回は良い機会に恵まれた。感謝するMr.オキ」
「……どうも」
俺と同じく穏やかな顔でライカを見つめていたセルゲイ大佐から突然握手を要求される。
まぁ、応じないのも失礼に値するのでデカくてゴツい手を握り返すと彼はこう言った。
「ライカはシャーロを誇りに思う余り、他を下に見るようになっていたものでね。君たちの勝負は実に良い矯正になった」
「それで負けて喜んでおられると?」
「これは手厳しい! だが相応の実力を示してもらわねば貴船総監殿の顔も立たなかっただろう」
なるほど俺たちどころかニホンの上役も知らされていなかったが、この場にいる者は皆、貴船総監とセルゲイ大佐に一杯食わされたのか。
やや強引な形ではあったが、ニホン側にしてもシャーロ側にしても目に見える形で納得のいくものが欲しかったのかもしれない。
ニホン側としては伊集院炎山が負けたことでシャーロの実力を認めざるを得ないようにしつつも、チームとして勝利を収めることで溜飲を下げさせる。
シャーロ側としてもセルゲイ大佐はどうも御立派な立場の人間が負けたとあれば不満を呑み込む他ない。
ライカの価値観を広げる作業はついで、ということなのだろうけれども、セルゲイ大佐個人としてはこちらの方が目的として大きかったのかもな。
「では失礼する」
「また会おう光、伊集院。そして隠岐」
「おう! またなーっ!」
さてシャーロ勢との歓談も終わったがまだ大人たちは揉めている様子なので、できる所から手を付けていこう。
大きく手を振って別れを告げた熱斗にこっそりと耳打ちをする。
「……熱斗、お前にはやってほしいことがある」
「なんだよ突然?」
「……なるはやでウラランキングを2位まで上げて『S』に会ってもらいたい」
ワイリーの手元にテトラゲートが3つ集まり、プロトまで王手をかけた段階に差し掛かった現状、その対抗策を手に入れる必要がある。
「えっと……何でオレが?」
『一応ボクたち、8位にはなったけど。急いでってのは気になるよね』
原作『3』では挑戦権を得る段階からスタートするので今回はその時間が省けて大助かりだ。俺としても熱斗とロックマンへウラに関わるよう仕向けてきた甲斐があったものだ。
「『S』となると……隠岐、あの禁断のプログラムの回収をコイツらに任せるということか?」
「禁断のプログラム?」
「そう……万が一プロトが復活した時、凍結させることのできるギガフリーズをな」
当初はウラのランカー共には熱斗とロックマンの成長の糧になってもらう予定だったけれど、ワイリーが滅茶苦茶前倒しにしてくるものだから、こちらもそうするしかなかったのだ。
正直、俺やシアンみたく浦川まもるを経由しての爆速ショートカットを手引きしてもらいたいところではあったのだが、あれは例外中の例外だったみたいで許してくれなかったんだよな。
という訳で熱斗とロックマンには正式な手順であるウラランカー2位まで倒してもらい、セレナードに会ってもらおうという訳だ。
「この緊急時に光を危険に晒すつもりか隠岐?」
「それについては別にいいけどよ。間に合わなくねーか?」
『だね。8位になるまで結構時間がかかったし』
「まぁそこんところは考えがありまして」
『これがウラランク4位でございー』
熱斗のPETにウラランク4位のデータを転送し、一気にランクアップしたのを確認する。
個人的に楽でいいんだけど、こんなに簡単に手渡しできるのなら裏取引で売買されてそうなものなのにな。ウラって意外と真面目な部分あるよなぁ。
「待て……何故貴様が所持している?」
「炎山、ワタルはこーいうヤツだよ」
「……そうだったな」
ふたりして仲良くするのは良い事だが、何故俺を見て呆れるのか。
追及してこないから、いちいち説明しないで話が進むから楽でいいんだけれども。
「んで2位と3位の所在も調べてある。てな訳で後は倒すだけって寸法よ」
4位様の権限は伊達じゃなく掲示板やら情報屋に顔が利く為、原作ほど情報集めに苦労はしなかった。
ちなみに2位が『ホワイト』版の公募ナビであるミストマン、3位が『BLACK』版の公募ナビのボウルマンらしい。原作で3位だったコピーマン? 現在5位だから時間的にスルーの方向で。
ぶっちゃけスタイルチェンジの無法さなら、どうとでもなるとは思う。
「そこまで用意周到ならば隠岐、貴様がギガフリーズを入手すれば話が早かったんじゃないのか?」
「だよなー? ワタルでも勝てねー相手なのか、そいつら?」
「それについては戦ったこと無いから何とも言えないけど。俺とシアンじゃギガフリーズは無理だったんだよ」
ギガフリーズという代物は禁断と呼ばれているだけあって洒落にならならデメリットが存在する。
それは、選ばれし者で無ければギガフリーズを手にした途端、永久にフリーズしてしまうのだとか。
その条件というのも原作は明確に判明しておらず、セレナードの発言から『光正が作った特定のプログラムを有するナビ』という説が濃厚だろうか。
原作でそれが確認されたのは、現在ギガフリーズを管理しているセレナード、光正と繋がりがあるロックマン、そしてフォルテの3体のみ。
ただ……所有権を譲渡されずともギガフリーズが働かないのって安全装置か何かなん?
『3』のフォルテに無駄撃ちする展開、ギガフリーズ君の株を滅茶苦茶下げたからな。
「オレたちじゃなきゃダメなんだな?」
「あぁ」
「なら頑張って2位になってくるぜ!」
「マジで助かるわ」
ロックマンは口をもごもごさせて何か言いたげな様子だったけれど、オペレーターの熱斗が納得したので結局口にはしなかったらしい。
仮に聞かれても納得のいく説明できなかったらマジで助かった。その証明の為にわざわざギガフリーズに触れる自殺行為をシアンにさせたくねぇしよ。
第一、熱斗とロックマンのレベルアップは今回に限らず必要不可欠。
それにギガフリーズが他のボスに効くのであれば入手して損はあるまい。
時刻も10時を回り、小学生が出歩くどころか夜更かしも咎められるだろう時間帯にて。
合間に小休止や食事を取りながらも会議は前に進み、シャーロ側の提案を受け入れる方向に決定した。
「失礼。私からひとつ提案があるのですが」
「構わないよ。何かね隠岐くん?」
WWWの根城に乗り込む作戦についてある程度煮詰まったことで上役たちの口が重くなったタイミングを狙って俺は切り出した。
「同行する人物に……コサックさんを推したいと思うのですが」
「コサック……? まさか元科学省所属のコサック博士だと?」
俺の言葉に反応したのは貴船総監だけでなく、この場にいる全員だった。
彼が現場から離れてから随分と時間が経っているのに覚えている人も多いらしい。
「所在の掴めぬ人物の名をどうしてここで?」
「そのコサック博士についてですがオレからも報告があります」
「どういうことだね炎山くん?」
「はい。N1グランプリ会場であるデンサンドームにて彼を確保しました」
炎山の報告により会議室がざわついた。
フォルテが現れたタイミングで示し合わしたように現れたコサックさん。フォルテの産みの親ともなれば疑われても仕方ないところはあるだろう。
「――現在事情聴取を行っているのですが全く口を割りません」
「そんな人物を推薦するなどふざけておるのか隠岐渡!」
机に拳を振り下ろして怒鳴る上役に俺は姿勢を正したまま右から左へ受け流す。
「待ってください。隠岐くんの口振りからしてコサック博士と繋がりがある。合っているかい?」
「そうですね、光博士」
「何故我々に報告してくれなかった?」
「それは今この瞬間証明されているでしょう?」
コサックさんは恨んでいる筈だ。
かつて起きたプロトの反乱を、フォルテに濡れ衣を着せた科学省を。
彼の言葉を聞き入れず、フォルテを排除しにかかったネット警察とオフィシャルを。
「……我々はそんなに信用ならないかい?」
「少なくとも口を閉ざしてなければコサックさんと協力関係は築けませんでした」
コサックさんと接触した際、同行していた五陽田警部にも無用な混乱を招く、と釘を刺しておいて正解だった。
光博士や貴船総監自体は信用に値するけれど、それで科学省やネット警察全体を信用する程、俺は甘い考えをしていない。
もしコサックさんの事を明かしていれば、フォルテの所業を引き合いに出し、飼い殺しにされていた可能性すらあるしな。
「まさか隠岐! コサックと手を組んでフォルテを引き込んだのは貴様か!?」
「それはオレが否定させていただきます。隠岐の行動にはアリバイがあり、コサック博士もその言動からフォルテを打倒すべく動いていたことを証言させていただきます」
「……ちっ」
感情任せに阿呆な事を言い出す男を炎山が切り捨てる。しかし炎山の怪訝な顔からして俺に助け船を出した訳ではないのだろう。
「驚いていない、ということは君には予想できていたみたいだね?」
「えぇ、まぁ」
「つまりはコサック博士をDr.ワイリーの元まで連れて行く必要がある、と言いたい訳だ」
「正確にはワイリーと繋がっているであろうフォルテをどうにかする為、ではありますが」
コサックさんの技術目当てというのもあったが、彼の本懐を果たす為に協力してきたところもある。
とはいえ今回の
「そもそもフォルテの責を果たすというのであれば、製作者本人の手で直接片を付ける、というのが筋では無いでしょうか?」
「生意気な……」
「何を今更! この長い年月、フォルテを放置してきた男に果たせるものか!」
「しかし、炎山くんの報告であのフォルテに痛手を負わしたと聞く」
「その価値はあると言いたいのか」
「先にぶつけて炎山くんにその功績を拾ってもらえば……」
ただフォルテを撃退した事実は彼らの天秤を傾かせた。
WWWと手を組んでいるリスクはあれど、コサックさんの能力は確かであり、
もし、この後コサックさんが本望を果たせば科学省並びにネット警察とオフィシャルに借りができる。
今後を考えれば悪くない、とでも思ったのだろう。
と、ここまでコサックさんの意思を無視して話を進めてきたが、了承するかどうかは正直微妙だ。
何十年もの間、フォルテを止めるだけの為に生きてきたコサックさんだが、自身のプライドを優先させて提案を断る可能性だってある。
「ところで隠岐くん」
「はい?」
「コサック博士がアルティメットブラスターを使っていたとの報告があったけれど……君が渡したのかい?」
「心当たり無いっす」
何それ知らん、怖っ。
コトブキマンションの件で回収されてから目にしてもいないのに、どうやって横流しすんねん。
何だったら俺が欲しいよアルティメットブラスター。
〇今日の炎山
内心自分を馬鹿にされたことよりも熱斗や渡を馬鹿にされたことにブチ切れていて精彩に欠けている。
それをおくびにも出さないのでカレー好き小学生は勿論、クソボケは気付かない模様。
ライカとは熱斗を通じて態度が軟化して、一緒に戦うことで認めていく感じ。
〇セルゲイ大佐
昇進を蹴り続けて現場に関わり続けるポストに収まった軍人。
普段は挑発的な物言いをしない真面目ながらユーモアを解する男だが、現場に理解が無い上役を反吐が出る程に嫌っている。
戦場を知らぬ子供を連れて行くつもりは無かったが、今回のネットバトルで想像以上に苦しめられた為、認識を改めた。
無論、身体を張るのは彼らの仕事で、ニホンの増援にはオペレートだけを担当予定。
〇コマンダー01
識別コードも見た目が地味なもの意図的。言語や思考ルーチンも戦闘に偏っている。
能力的にコンバットナイフだけでなく、武器全般に部位や奇襲ボーナスで威力が上昇する。
単体としては優秀止まりだが、4人以上のネットナビと隊列を組ませると厄介さが跳ね上がるタイプ。
今回の勝負も始めから指揮を執り、渡とシアンの情報を引き出せていればもっと善戦できていた。
尚、どちらにせよ一番の敗因はロックマン。
〇国防省の決定を知らない上役
自身のネットナビに任せきりのお飾り。
前々から全国へ戦力を配備する話を聞いていない男がひとりくらいいると思う。
ニホン側としても戦力を捻出くらいはできるけど、割とキツいところもあるからシャーロ側が配慮したイメージ。
ニホンも矢面に立たねばメンツが立たないのもあるけど、両軍の指揮系統が統一されるまで揉めるだろうし、迅速に動けないわなぁ