WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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63.フルシンクロ

 N1グランプリの結果に満足いかなかった荒駒虎吉はアキンドシティに帰る予定をキャンセルし、急遽武者修行としてこの地に留まることを決意した矢先のことだった。

 珍しくあちらから――隠岐渡から一通のメールが届いたのは。

 

「冗談にしてはつまらんなぁ……」

 

 ぺろりと唇を舐めてその内容を流し読みしてみれば、『世界の危機』といった文言が躍っていた。

 相手は小学生となれば、ネタとして面白味が欠けているとツッコミのひとつでも入れるのが平常の虎吉であったが、こと隠岐渡が送ってきたのであれば話は変わってくる。

 

「添付ファイルまで手の込んどるさかい……マジなんやろな」

 

 添付されていたのは『プロトスコープ』という名称のナビカスプログラムで、効果としては特定の存在を視認できるようになる、といったもの。

 如何にも汎用性に欠けたジョークグッズ……の割に、キングマンへ解析をさせてみれば緻密な構造をしていることがわかった。

 

「まっ、隠岐のことや。損はさせんやろ」

 

 語調は軽く、されど意気込みを見せた虎吉はキングマンを指定された電脳空間に送り込む。

 

「ワイが言うのもアレやが、よう集まったもんや」

 

 恐らく同じように集まったのだろうネットナビたちはN1グランプリで見た猛者から虎吉が知らぬ者まで様々だ。

 しかし、誰もが信じているのだ。

 あの少年の言葉を……その少年を信じる者たちを。

 

「デカオ様が来てやったぜ熱斗ォ! ワタルゥ! ここはオレ様たちに任せなァ!」

『ヌホーッ!! やってやるでガス!!』

「熱斗が頑張ってるんだもん! わたしたちだって!」

『そうだよねメイルちゃん! ロックが帰る先を守らなきゃ!』

「ふふんっ! このやいとちゃんの力を借りたいだなんて仕方ない男たちだわ~」

『やいと様や友人の為、このグライド微力を尽くしましょう』

 

 いつも共にいた友人たちが。

 

「ひいては世界の、部族の皆の為となるのであれば立ち上がらねばなるまい」

『あぁ、ラウル』

「ニホンだけに良い恰好させてらんねーな! ジェニファー!」

「珍しく同意するわ、ジョンソン」

 

 アメロッパで紡いだ絆が。

 

『我々の祖国が今もこうしていられるのは盟友ソプラノ殿、そしてシアン殿の献身故!』

『国宝がかつての姿を取り戻したのもニホンの助力があってこそ!』

『過去の英霊と同じ状況で! スタイルチェンジの力をここで振るわんで何時振るうのか!?』

 

 救国に報いるが為に燃える心が。

 

「ランスマン」

『レディ。言われずともシアン姫の出迎えをするのだろう? 綺麗にしておくのが最低限のマナーさ』

「ふふっ……ふたりとも張り切ってるわね」

『それは我々も同様でありましょう?』

「お父様やお兄様が知ったらお説教で済むかわからないでしょうね。でも……ワタが、シアンが戦っているのならわたくしたちも戦う。離れた場所でも繋がっている。そうでしょうナイトマン?」

 

 あるいはそれ以上の想いを持つ者たちが。

 全てのインターネットを、世界を滅ぼしかねないプロトバグの流出を防ぐべく立ち向かう。

 

「早速お客さんのお出ましかい! 全力でおもてなししてやらんとなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 シャーロの軍用艦船が出発してから数時間。

 セルゲイ大佐に話が通してくれていたからか、シャーロの海兵たちからの扱いは悪くないもので。

 自衛隊で言うところの科員寝室(簡易ベッドとロッカーくらいしか無い狭苦しい居住性)では無く、ややグレードの高い士官室に割り当てられていた。

 申し訳ないと思いつつも、体力を温存してくれたまえ、という文言に甘えていたのだけれども――

 

「おろろろろろ…………」

「うわーーっ!! ワタルがリバースしたーッ!?」

 

 俺たちを乗せた軍艦がデモンズ海域に入った途端、そんな気持ちはすぐさま消え去った。

 地震など可愛く思えるぐらいに縦にも横にも空間が揺れるの何の。

 一応、ディメンショナルエリアに囲まれているからか、風雨や長距離砲撃からの衝撃などがシャットアウトされてはいるものの。

 とにもかくにも波のせいで船がもう揺れる揺れる。

 高波のせいで船体が浮いた時の浮遊感に最初はビビっていたけれど、平衡感覚がおかしくなるレベルに振り回さされば恐怖など感じなくなるものだ。

 ただただ……めっちゃ気持ち悪い。船酔いって言えるかよ、こんなん!

 念の為に用意しておいたエチケット袋に嘔吐したというのに、まだまだこみ上げてきやがる。

 

「情けない奴だ」

「産まれたての小鹿みてぇに足プルプルさせてもダセぇだけ……おろろろろ」

 

 意地になっているのか炎山が固定された机を支えに立っている姿を笑おうにもゲロで行動キャンセルされてしまう。

 とはいえ炎山も熱斗も三半規管が強いのか平気そうな面してんなぁ……。

 速攻でダウンしたコサックさんよかマシかもしれないけれど、乗船しているだけでも気力と体力が削られてやがる。

 

「ニホンの諸君、目的地に到着した。速やかに集合したまえ」

 

 セルゲイ大佐から招集が掛かった為、這う這うの体で船内から出る。尚、まだグロッキー状態のコサックさんは置いて来た。

 母なる大地に帰ってきたことによる感動で打ち震えているのも束の間、炎山に背を強く叩かれて背筋を伸ばした。

 

「波止場にお出迎えが無いとは随分と手緩い歓迎だ。この厚意には存分にお返ししてやろうじゃないか諸君」

「「「サーッ!! イエッサーッ!!」」」

 

 セルゲイ大佐の呼びかけの後、兵士たちの答礼が見事に重なって発せられる。

 

「作戦内容に変更は無い。第1中隊から第3中隊はそれぞれ指定したルートを進軍。残る第4中隊は後詰めだ。ニホンの諸君は我々がクリアした道をゆっくりとついてきたまえ」

 

 隊員全員が自動小銃装備なのは勿論のこと、戦車や装甲車まで投入されていて原作との乖離具合がやべぇ。

 おっと電子戦とかが始まる前にやることやっておかねぇと。

 

「ワタル……?」

 

 未だに揺れている感覚を引き摺りながらも小さい無人島を見渡す。

 中央に構えた悪趣味なドクロがトレードマークのワイリーステージに、崖肌にまで及んでいる謎の機械。海へと平然と垂れ流される紫色の工場排水。

 っとと、あったあった。外部へのセンサーか何かのメンテナンス用なのかは不明だけど、岩っぽくカムフラージュされているプラグインポイントを発見する。

 

「シアン、どんなもんよ?」

『ワイリーのとこまでは繋がってないっぽいね。でも外部のネットワークとの繋がりは……見つけた!』

「うっし。後は入手した位置情報を送って……っと」

 

 科学省防衛側がどうなっているか知らないが、保険として協力者候補たちにメールを送信する。

 万が一、プロトがワイリーの手に落ちてプロトバグが流出された場合、それを塞き止めてもらうつもりだ。

 原作同様ワイリーがアンテナを利用してプロトバグをバラまく、という手段自体はニホン側から依頼を出してデモンズ海域周辺の基地局を抑えてはあるのだが。

 もうひとつのルートである海底ケーブルが引かれているであろう有線までは現状把握し切れていなかった。

 未だ無線でネットナビが移動できない関係上、存在自体はあると思われていたのだけど、ワイリーが警戒しない筈もない。巧妙に外部との繋がりを隠されていた。

 で、そっからプロトバグが漏れるとヤバいので今さっきシアンに割り出してもらったのである。内部からのアクセスにはやっぱ弱い傾向あるよな、エグゼ世界。

 

「外部とのアクセスポイントを作るつもりか?」

「いんや、そこまでは無理。コサックさんならできるかもだけど……」

 

 炎山からの問いに首を横に振る。

 流石にそこまでするとセキュリティが発動して面倒なことになりそうだしな。

 コサックさんには他にやってほしい事があるので、任せるとしたらシャーロ海軍の彼らになるのだけれども。

 流石にあの航海で疲弊が目に見えているからな。それでも船の防衛に努めているし、俺から頼み事するのも悪いだろう。

 

「もしかすっと俺たちでどうにかした方が早いかもしれないし」

「なーんかオレたちいなくてもシャーロの軍人さんたちでどーにかできそうじゃね?」

 

 配置されていた無人戦車か何かに接敵したのか、遠くから爆音やら響いてくる。

 時折、通信機器から流れてくる現状報告も撤退などのワードは聞こえてこないし、作戦に滞りは無いのだろう。

 それを察した熱斗が頭の後ろに手を組んで不満を漏らしていた。

 

「それならそれで俺は楽なんだけどな……」

 

 

 

 

 

 

 上陸してから1時間近くが経過した頃。

 ようやくコサックさんが復調し、俺の口がゼリー飲料を受け付けるようになったところで俺たちにも移動の指示が入った。

 退路への安全確保もしっかり済まされた後という事もあってか、護衛として付いた小隊の人たちの警戒はそこそこに早足で進む。

 そして、爆破処理されたらしき外門を潜り、ワイリーの根城に無事足を踏み入れる。

 内部構造としては旧WWWと似ていて無造作にケーブルが壁や天井や床を這っており、所狭しと機械が敷き詰められていた。

 

「やあ。御足労かけてすまない」

「セルゲイ大佐。手柄の自慢がこれですか?」

「気の早いことだ……実のところ、我々は足踏みを食らっていてね」

 

 話し合う炎山とセルゲイ大佐を横目に現状把握。先へ進む扉や壁に爆破した跡があるけれど、全然傷付いていない様子。

 

「C-4でもこの通りさ」

「分解も上手くいかないようですね。これでは電源供給を断つのも難しいのか」

「残る手段は……あの機械仕掛けの椅子って訳だ」

 

 原作みたく中央に鎮座するのではなく、壁際に配置されているそれは――

 

「パルストランスミッションシステム」

「知っているのかね、Mr.コサック?」

「あぁ。何せ科学省で開発中止となった代物なのでね」

「開発中止?」

「元は医療用……手足が不自由となった人間のリハビリ用に開発されたのだが。肉体への反動が大き過ぎた」

「訳知り顔で済まないが、生憎私は素人なものでね。具体的な説明が欲しいところだMr.コサック」

「……端的に言えば、この装置は電脳世界に人間の脳波を送り込む。その際作られた精神データは現実の自分と同じ姿に象られ、ネットナビと同様の働きが可能となる――」

 

 要するに近未来設定の仮想現実、フルダイブ型VRゲームと似た仕組みなのだろう。

 ネットナビを通じてしか覗けなかった電脳世界を五感で体感することができる機械。それがパルストランスミッションシステムだ。

 

「Mr.コサック?」

「ワイリーさんの事だ。実験ついでにセキュリティとして組み込んだのだろう。私が解除する」

「罠である可能性はどうだい?」

「見たところ構想段階と然程構造に変わりない。座った途端、人体を壊すには至らない筈だ」

「随分とお詳しい」

「…………」

 

 セルゲイ大佐の軽口に乗らず、コサックさんが押し黙る。

 内部構造にまで詳しいともなれば開発に携わっていたか、それともワイリーの内通者として疑う部分があったのかもしれない。

 けれど俺は後者の可能性が皆無だと知っている。

 それは原作知識由来だけではなく、コサックさんの目的に協力している間に彼の口から聞かされたことでもある。

 活動の資金繰りの一環として彼は科学省とは別の場所でパルストランスミッションシステムに携わっていたことを。

 ……コサックさん主導で無いことから、彼の他に元科学省の人間が関わっている事実が透けて見えるが、今は置いておくとしよう。

 

「パルスイン!」

 

 PETを差し込み、機械仕掛けの椅子に座り込んだコサックさんがそう叫んだ途端、パルストランスミッションシステムが起動。

 脱力した様子からして彼の精神は電脳世界に向かったようだった。

 

「モニターにDr.コサックの姿が!」

 

 名も知らない兵隊さんの発見で全員の注目が付近のモニターへ集まる。

 この一瞬でご丁寧にモニターの制御権まで拾ってくるとは、コサックさんも律儀な人だ。

 現実世界と同様のスーツ姿の彼がコントロールシステムに歩み寄り、数秒の内に扉が開く。

 おおっと周りで歓声が上がるが、すぐさまセルゲイ大佐が引き締めを行い、

 

「協力感謝申し上げる。我々は先に進むぞ!」

「「「了解!」」」

 

 作戦行動を再開。

 ここに来るまでに怪我人を全然見なかったし、素人目にも良く訓練されているのが窺える。

 

「コサックさーん? もう終わったんだろー?」

 

 職務に戻った彼らとは違い、後詰めである俺たちはこの部屋で待機命令を出されていたのだが。

 そんな中、熱斗がモニター越しに未だ戻る様子の無いコサックさんに話しかけていた。

 当然、彼からの返答はなく、周囲を窺ったまま戻ろうとはしない。

 何故ならば、彼はこの時を待ち望んでいたからだ。

 

『何故……ここに来た?』

『お前に会いにだ……フォルテ』

「フォルテだって!?」

 

 俺たち人間にはわからない波動とやらをネットナビは感じることができるのであろう。

 史実通りコサックさんの気配を感じ取ったフォルテがモニター越しに姿を現す。

 

『あれほど言って何故わからない』

『逆だフォルテ……わかってほしくてここまでやってきた』

「逃げろコサックさん!!」

 

 熱斗が叫ぼうとも、状況は変わらない。

 表面上こそ取り繕っているフォルテだったが、その声には恨み以外の感情も乗っている気がした。

 

『お前に……お前に何がわかるッ!』

 

 プロトの反乱による濡れ衣を着せられ、デリート寸前にまで追い込まれた時の古傷が――マントを右腕で翻したことで露わになったナビマークの深い切り傷がフォルテの憎しみの根幹だ。

 

『オレはあの時人間に裏切られた。お前も黙って見過ごした、そうだろうコサック?』

『違う』

『違わない! そうでなければオレは死にかける思いをしなかった!』

 

 原作で端的に語られるフォルテの過去。

 それは科学省の精鋭部隊に襲われ、瀕死の状態に陥った。その際、コサックさんからの救援は一切来ることも無く。その事実が人間を見限らせ、その恨みを募らせた。

 

『あの地獄の日々を知らないお前が今更一体何を語るコサック?』

『ずっとお前を止める為だけに、私は生きてきた』

 

 科学省というエリートコースを自ら蹴って、フォルテの後を追ってきた。

 地獄の日々を送ってきた彼だけでなく、ずっと顔が晴れない様子のコサックさんの送ってきた人生もまた苦しみみに苛まれて続けていたに違いない。

 

『あの時も、デンサンスタジアムの時も私は間違えた』

『……』

『お前と同じだフォルテ。強さがあればどうにでもなると、本気で信じていた』

 

 片や人間に復讐する為に多数のウイルスとネットナビを喰らい続け。片やその復讐を止める為に力を求めた。

 

『私が、ゲットアビリティプログラムなど開発せねば良かったのにな』

『コサック……ッ!!』

 

 かつてのコサックさんもまた最強を求めて開発したのが、無限に成長する可能性を秘めたゲットアビリティプログラム。

 そんな野心とも言えない気持ちが無ければフォルテが疑われることも無く、コサックさんとフォルテはパートナーとしての道を歩めたのかもしれない。

 対するフォルテは己の生命線を否定され、コサックさんから貰った大事なものを否定された気分に陥り、激怒した。

 こんな所でもすれ違う彼らは――しかしながら現実と電脳の垣根を超えて出会うことで、交わることになる。

 

『これで本当に最後だフォルテ』

『ぬかせッ!!』

 

 いよいよ己の心が決壊したフォルテがアースブレイカーの体勢に入るものの、コサックさんは一直線にフォルテの元へ向かう。

 パルストランスミッションした人間は、戦う力を持ち合わせていない。

 あるいは原作のように自爆という形を取ればダメージを与える事こそ可能なのかもしれないが、それよりももっと効率的な方法が存在しているのにも拘わらず、コサックさんは選択しなかった。

 

 パルストランスミッションシステムは、人間の精神だけでなくPETを接続することで自分のネットナビを送り込むことも可能なのだ。

 『3』にてコサックさんが何故ナビを使わなかったのかは知る由も無い。

 原作ではフォルテとは偶然の遭遇であったが、それでもウイルスとの遭遇を考慮すればコサックさん単体で行く理由にはならない。

 

 では、今回はどうしてそうしたのか?

 

 その身を挺して、理解し合う為だ。

 

『フルシンクロ』

 

 それは、ネットナビと人間が一心同体になる共鳴現象。

 元が双子だった光熱斗とロックマン――光彩斗以外には困難な芸当とされたフルシンクロだが、ことパルストランスミッションシステムを用いた場合はその事情が変わってくる。

 人間が精神データと化したことでネットナビと融合が可能になり、フルシンクロのハードルは大幅に下がったのだ。

 

『私と共になるんだ、フォルテ』

『やめろ……やめろ……!!』

 

 果たしてフォルテの手をすり抜けてコサックさんの身体がフォルテの身体へと吸い込まれていく。身を捩り、藻掻いたとしても分離されることもなく、彼らは物理的にひとつとなった。

 

『あぁ……ああああああああ!!!!』

 

 途端、頭を抱えて悶えるフォルテ。きっとその中にいるコサックさんも似た反応を示しているに違いない。

 互いが互いの考えていることをロス無く伝えるフルシンクロは、詰まるところその感情までもが流入する。

 フォルテが知るのは、コサックさんの真実。科学省への猛烈な抗議も通じずに、フォルテの姿を見ることすら叶わなかった失意と無力感を。それでも己を追い求めてきた執着を。

 コサックさんが知るのは、前述の人間への愛情が裏返しとなった恨み、憎しみを。強さに執着する理由が、濡れ衣を着せられた際に思い知った自分の無力さを。

 

『――――』

 

 彼らの重なり合った慟哭は数十秒の末に突如として収まった。

 天に向けていたフォルテの顔がモニターに映る。静かに睨み付けるその表情は平常と変わらず、フルシンクロが齎した結果はわからない。

 俺がコサックさんに伝えたのは、確実な解決策なんかじゃない。

 フォルテの憎しみに取り込まれて敵側に回るリスクも孕んでいた。

 

『……すまない』

 

 第一声はフォルテなら口にしないであろう言葉だった。

 それこそがコサックさんの心が、フォルテの想いに届いたことを証明していた。

 

『……しばらくふたりにしてくれ』

 

 そうしてフォルテは空間に歪を生じさせ、その中へ静かに消えていく。

 プラグインのできない俺たちはそれを見送ることしかできない。

 誰にも邪魔されない場所で、心の整理に行くであろうコサックさんとフォルテを。

 

「何だってんだ……」

 

 ずっとコサックさんへ逃げるよう呼びかけ続けていた熱斗が唖然とした様子で尻からへろへろと崩れ落ちる。

 

「隠岐」

「……何だよ?」

「貴様、わかっていたな?」

 

 未だ目覚めないコサックさんの脈拍などを確認していた炎山が言う。精神データが戻ってこない以上、コサックさんは……。

 それに対し、俺は声に出すことも頷きもしなかった。

 

「ワタルゥ……ッ!!」

 

 状況に置いてけぼりを食らった熱斗が這った体勢で俺のズボンにしがみ付く。

 

「わかってんなら……何で止めなかった!?」

「……俺にも止められねぇよ」

 

 原作でのコサックさんはフォルテの攻撃をモロに食らい、重傷を負ってしまう。

 それでも病院で一命を取り留めたことでフォルテは生みの親に対する親愛の情が残っていたと判明するのだが。

 彼の願いは叶わないまま、再び登場することなくロックマンエグゼの物語は終わりを迎える。

 

 原作のフォルテもまた悲惨な結末だった。

 ストーリー上、ロックマンと対決することになる彼は敗北を喫した後、復活したプロトに吞み込まれてしまう。

 その後は大型犬の方のゴスペルと融合することで脱出に成功するものの、大量のバグを吸収したことで記憶を失ってしまうのだ。

 

 そんな彼らの結末はあんまりだ。

 だから、少しでも和解する可能性を求めて、最終的にコサックさんを植物状態にした。

 

「……連絡が入った。オレたちも先に進むぞ」

「炎山……!」

「コサック博士の事は兵士たちに任せる。光、オレたちにできることは無いんだ」

 

 コサックさんとは全然関わりが無かったのに、本気で悲しむ熱斗を見ていられずに俺は視線を自分の靴へ落とす。

 

 

 もしも、フォルテの憎しみにコサックさんが囚われてしまったのなら俺たちは戦うことを強いられていた。

 可能性としては限りなく低いだろうけれど、もしフォルテをデリートしてしまったのならコサックさんの死を意味する。

 強者を求める性のフォルテと戦う運命から、熱斗とロックマンは逃れられやしないだろうから。

 その前に俺とシアンがバグ技でも何でも使ってフォルテだけはデリートするつもりは、あった。

 

 

 ……もしも、コサックさんを最終決戦に連れていかなければ大怪我を負うことなく、今後もフォルテを追うことができて。

 フォルテに一声かければプロトに吸収される未来を変えられたかもしれない。

 

――が、それだけだ。彼らはずっと並行線のままなことを知っている。

 漫画の鷹岬版を思えば、コサックさんの声だけではフォルテは決して止まらない。

 例えバグ化の運命から逃れることができたとしても、力を求め続けるフォルテはダークチップの存在に辿り着く。

 一度でも使おうものなら、もう終わりだ。フォルテの抱えた憎悪が膨れ上がり、取返しの付かない状態に陥るだろう。

 

()()を知っちゃ止められる訳ねぇだろ……!」

 

 ずっと命だけは助かる未来を選ぼうと思っていたのに。

 コサックさんと関わることで、原作で知り得ない()の感情に触れてしまったから。

 自分の命よりも、積み重ねてきた人生全部よりも、フォルテへの執着が強かったと知ってしまったから。

 

 

 俺は、俺の意思を優先するよりも、コサックさんにこの未来を選ばせたのだ。

 




コサックさんの執念の勝利と言う訳で
フォルテ和解ルート:ふたり旅突入

今回は後味悪い結末だけど、今後コサックさんが抜け殻から回復すればハッピーエンドや(暴論





裏設定としてコサックさんの今回使ったPETは、元はフォルテがいた古いPETを改造したもので、そのリンクを利用してフルシンクロしたって感じです。
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