WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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64.Over Soul

 時はシャーロの軍艦がデモンズ海域に入る前に遡る。

 

『やったでプク! やったでプク! やったでプクよ~!! ワイリー様ぁ!!』

 

 追手の存在に怯えながらもウラインターネットを経由してWWW本拠地の電脳に帰ってきたバブルマンは、その緊張から解放された影響からか大声で報告を上げる。

 

『ドリル兄とこのバブルマンがプロトを確保してきたでプクーッ!!』

「バブルマン、早く転送せい」

『わ、わかったでプク』

 

 成果を見せびらかすように封印し圧縮されたプロトのデータを頭上に掲げるバブルマンだったが、ワイリーの冷たい声音にビクリと肩を震わせながらサーバーに転送する。

 バブルマンの想定ではワイリーは喜びを噛み締め、バブルマンとここにはいないドリルマンを労ってくれる筈であった。

 大多数はデッドコピーであったとはいえ、命を懸けた奪取劇だ。

 なのに、何故ワイリーは褒めてくれないのか? WWW念願のプロトを手に入れたというのに何故ワイリーは全く笑わないのか?

 バブルマンには理解ができなかった。

 

「何をしておる」

『プク……?』

「疾く防衛に回らんか」

 

 それに追い打ちをかけるようなワイリーの指示にバブルマンの表情が強張った。

 

『ポクはまだ帰ってきたばかりで……』

「故に、じゃ。この電脳をカムフラージュをしているとはいえ、貴様が追尾されていない可能性は否定できん。迎撃の準備をせい」

『な……』

 

 パクパクと鯉のようにたらこ唇を開閉させるもバブルマンは声にならなかった。

 確かにワイリーの言っていることは正しい。追撃が来る可能性がある以上、防衛に回るのは常道だ。

 しかし、だからといってバブルマンが納得いくかどうかは別の話であった。

 

『ポクは……プロトを取ってきた功労者プクよ?』

「それがどうした?」

『消耗しているポクよりも他の奴らに任せるべきプク!』

「それが責務を免除される理由になるとでも?」

 

 バブルマンが勇気を振り絞って権利を主張するも、返ってくるのはどこまでも冷淡な声だった。

 

『何でプクか……?』

 

 これが、あの頼りがいのある兄貴分の産みの親なのか。

 

『何でそんなこと言うプクか!?』

 

 デッドコピーが大半とはいえ、あの場の全員が命を懸けてワイリーの為に戦ったというのに。これではあまりにバブルマンが……ドリルマンが報われないではないか。

 

「戯言は済んだか? プロト奪取に免じて聞き流してやるから疾く持ち場に着くのじゃ」

『プ、プクー!!』

 

 どこまでいっても聞く耳を持たないワイリーに、いよいよバブルマンは情けない声を上げながら尻尾を巻いて逃げ出した。

 あるいは元の史実のように、べらぼうに甘いロックマン相手であればワイリーの威光に従っていたかもしれない。

 だが、バブルマンが相対するであろう相手はニホンのオフィシャルになるだろう。思い浮かぶのは直近で戦ったウッドマンとスカルマンの姿。

 死への恐怖が、バブルマンを逃げ腰にした。

 

『無理でプク! 無理でプク! 不可能プクー!!』

 

 あのドリルマンでも碌に有効打を与えられず、無限に回復し続ける大木と。炎の分身を伴って高速移動してくる骨の戦士。

 それを今度はバブルマン1体で立ち向かう度胸など、彼には存在していなかった。

 

『ドリル兄……! ドリル兄……!』

 

 かといって何の勝算も無しに兄貴分を助けにいく勇気も、弱気で卑怯なバブルマンは持っていなかった。

 

『何でこうなるでプク……』

 

 ただただバブルマンは、WWWの力を借りてイジめてきたネットナビを見返してやりたかっただけなのに。

 逃げて、逃げて。

 逃げた先のウラインターネットの片隅でバブルマンは座り込む。

 せめてプロトがバブルマンを邪魔するものをすべて破壊し尽くすことを願って。

 

 

 

 

 

「……逃げおったか」

 

 遠ざかっていくバブルマンの位置情報から職務を放棄したことを察したワイリーであったが、連れ戻すことも粛清することもせず放置を決め込んだ。

 そうしている時間が惜しいからである。

 急ピッチでプロトの封印を解除し、その解凍を進める一方でワイリーはゼロの強化に努める。

 

「隠岐渡は必ず来る……」

 

 プロトであれば例え隠岐渡であろうと倒す事は不可能に等しい。

 あの光正でさえ消去ではなく封印を選んだ正真正銘の怪物だ。10年と少ししか生きていない若造に勝てる筈が無い。

 が、それではワイリーの気が収まらない。

 ゼロが負けたまま引き下がるなど断じて許されない。故にこそ限られた時間の中でゼロに強化を施しておく。

 

「幸い()()のデータは取れておる」

 

 プロトの復活を妨げる最終プロテクトを破壊すべくフォルテを仲間に引き込んだ事が役に立った。

 強さの根幹と言えるゲットアビリティプログラムこそラーニングはできなかったが、それでも大きな足しになったと言って良い。

 

「結局、最後に残るは儂ひとりか……」

 

 ともすればプロト復活への時間稼ぎにオフィシャルへ捕らえられた幹部たちを脱獄させることも考えないまでもなかった。

 しかしながら、ゼロが隠岐渡とシアンに敗北を喫した時点でその可能性は立ち消えてしまった。

 ……ゼロですら勝てないのに、彼らを手元に呼び戻して一体何になるというのか。

 

「……まぁ、良い。儂が勝てば、それで良い」

 

 頼りにならない部下を切り捨て、勝利の邪魔になるならば己の矜持すら捨てよう。

 ワイリーは迫る最終決戦に向けてキーボードを叩く指の動きを早めるのだった。

 

 

 

 

 

 施設内部での戦闘はワイリーが機器の損傷を嫌ってか、外部と打って変わって電脳世界が主な戦場になっていた。

 電子制御された隔壁を突破すべく奮闘するシャーロ軍を他所に、俺たちお子様たちは相も変わらず待機を命じられていた。

 

「オレたちは秘密兵器とか言ってたけどさ~……」

「子供に頼っては示しが付かん、といったところか。御立派な考えをしている」

 

 出番の無い熱斗はボヤき、炎山は表面上こそ冷静な面を保ってはいたけれども腕組みした指がトントンと叩くペースが速まっている気がした。

 ふとPETに視線を落とせば時刻はもう昼の13時を過ぎていたので、携帯食料を口にしておく。

 その際、熱斗や炎山にもお裾分けしようかと思ったけれど、気まずい雰囲気を未だ引き摺っていたので躊躇してしまう。

 

『まだ時間はかかりそう?』

「ぶっちゃけわからん」

 

 俺たちには全然情報共有してくれないからな。

 原作同様にUFOキャッチャーみたいなセキュリティーにイライラさせられているのかもわからない。

 ただネットワーク内部に生息するウイルスや防衛システムこそ対応できていた第13部隊の方々だったが、プロトバグの奇襲で随分と脱落させられていた。

 適宜外部で戦う者や後詰め要員と人員を交代していたものの、その損耗は激しく実に4割のネットナビが無念のリタイアである。

 

「タスク完了! 先に進むぞ!」

 

 隔壁が開かれるのと同時にセルゲイ大佐の号令に従って隊列を組む一同。

 ルームクリアリングを行った後、護衛を伴った俺たちがその後ろをついていく流れなのだが、

 

「離れろッ!!」

 

 それは、一瞬のことだった。

 

――怒声に似たセルゲイ大佐の声。それに少し遅れて左右から分厚い隔壁が迫る。

 

 安全設計ガン無視の閉鎖速度に、ふと旧WWW本拠地での記憶がデジャヴった俺は護衛のオッサンに抱きかかえられた状態で後方に投げ出される。

 軍服姿の彼がクッションになったお蔭で大した痛みは無かったものの、急に筋肉ダルマへ抱き着かれた時の衝撃よ。

 不謹慎ながら別の意味で恐怖を感じちまったわ。

 ……恩人なのに凄ぇ申し訳ねぇ。

 

「……ありがとうございます」

「気にすんな坊主。しっかし、してやられたなァ、オイ」

 

 突如として仕掛けられた分断工作によってセルゲイ大佐率いる先導部隊と引き離されてしまったらしい。

 こちら側に残された人員としては俺たちの護衛として付いていた数名と機械を背負った通信兵、己のネットナビをデリートされて交代要員に出された兵たちだろうか。

 

『ネッちゃんたちの姿が無いね』

「アイツらは滑り込みセーフってところか」

 

 あの時の立ち位置を思い出すに、熱斗や炎山は前のめりになって前方を進んでいたからな。今更後退するより飛び込んだ方が早いと判断したのかもしれない。

 

「通信兵、セルゲイ大佐の指示は?」

「はっ、速やかに後方へ撤退。隊を再編成し、我々の退路を確保せよ、とのことであります!」

「なるほど。しかし、中核であるセルゲイ大佐ら抜きでは厳しいものがあるなァ、オイ」

 

 この中では一番階級が高いらしいスキンヘッドの彼の言う通り、電脳世界で戦える人材の多くは隔壁の向こう側におり、残った者たちでは不安が残るのだろう。

 均一化された銃火器と違い、精鋭の彼らの扱うネットナビはどれも特注らしく、怪我人からナビを借り受けて実践投入という訳にもいかないらしい。

 彼らが臨時に部隊編成を組んでいる間に隔壁を操作するコンソールの許へ近付いてみると、

 

「……ランプが点灯してねぇな」

『電源の供給が断たれちゃった?』

「パッと見じゃわからねぇ。プラグインして確かめんぞ」

 

 コードを伸ばしてコンソールの端末と接続し、シアンをトランスミッションしたところ、数秒もしない内に彼女はPETに戻ってきてしまう。

 

『電気は来てるっぽいけど、このコンソールはもう機能しないかも』

「……プロトバグか?」

『ワタちゃんの推察通りならね。あの電脳世界、維持するのもやっとなぐらいエネルギーが感じられないもん』

 

 原作の『3』ではバトルしても『NO DATA』と金やチップが手に入らないザコ敵として、MAP上では通路を塞ぐトラップとしての役割を持つプロトバグ。

 しかして、その実態は弱いネットナビやプログラム君を暴走させることで電子機器にまでその影響が及び。

 そしてネットワーク上ほぼすべての電脳世界からエネルギーを吸い取る恐ろしい存在として描写されていた。

 尤も、ゲーム的な都合でロックマンには一切の影響は無かったものの、電脳世界の通路や背景が灰色になっていた時は不気味に思えたものだ。

 

『これじゃ先に進めないね』

「お行儀の良い手段ならな」

 

 シャーロの彼らが攻略に勤しんでいる間にも俺は周囲の観察を続けていたのだ。

 で、スパイなどが侵入するのでお馴染みのダクトを発見。成人男性ならいざ知らず、小学生の身体ならば通れるサイズだと目算が立っていた。

 

「何やってんだ坊主? 話も済んだから戻るぞ」

「その前に協力してほしいことがありまして。梯子か何かを借りられませんかね?」

「……何考えてんだ! 危ねぇ真似は止せ!!」

 

 俺を呼びに来た護衛の人にそう頼み込むと、怒声と共にゲンコツが頭上が降ってくるもバックステップで回避する。

 すーぐ手が出るんだから軍人は野蛮だって言われるんだぜ(ド偏見

 

「悪いんですけど、そうも言っていられない場合でしてね。つい先程プロトが復活する前兆を発見しました」 

「……冗談じゃ済まされねぇぞ坊主」

「生憎と本気も本気ですよ。何せ俺は当時の生き残りを観測しているものでして。今見たヤツとアレは同じでした」

 

 前世のゲームでもそうだが、今世でも確認の為に俺は密かに浦川旅館の温泉ライオンの電脳にプラグインしている。

 そして、その電脳内部にてプロトバグに遭遇し、密かに駆除しておいた。

 その際、原作同様、その電脳世界にそれらしい異変は発見されなかったが、現在のようになっていなかった理由を推測できなくはない。

 そもそもプロトバグの攻撃に、こちらへ飛び掛かってHPを吸収してくる『アピタイト(食欲)』と呼ばれる技が存在するのだが、これは設定的にもナビを吸収しようとしてくる彼らの本能によるものなのだろう。

 だが、当時相対した時には電脳世界に及ぶまで貪欲な姿勢を見せておらず、あくまで周囲のウイルスやシアンに飛びつく程度のものであった。

 詰まるところ、プロトの復活によって彼らの活動は変わってくるのだと思われる。例えば吸収したエネルギーをプロト本体に送る、とかな。

 

「試しに聞いてやるが、どうするつもりだ?」

「ダクトを通ってワイリーの所まで向かう予定です」

「危険だ」

「正直、プロトバグが活動を始めてしまえば、どこも安全と言い難くなってしまうんですよね」

「機械の暴走ってヤツが起こるってか? だがこちらもアンテナは破壊した」

「外から見えている分は、でしょう? ワイリーなら備えがあると思ってくれていいです」

「……ってぇと何か? ネットワークに繋がるオレたちの兵器が全部おじゃんになるどころか、敵に回るって訳か?」

「最悪、PETも使い物にならなくなってゲーム―オーバーっすわ」

 

 俺が今生きる世界にゲーム的都合は存在しない。ならば、ネットワーク通信している全ての機械がダメになると考えるべきだ。

 となると、PETが無事である内にプロト本体を叩かねば対抗手段すら失う羽目になってしまう。

 だからその前に動き出すべきであり、それが今だ。 

 

「……やはり坊主ひとりを行かせられねぇよ」

「部隊を再編していては間に合いませんし、そもそもコンソールがダメになってます」

「独断専行は許されない。セルゲイ大佐たちに任せよう」

 

 大人としての良心とセルゲイ大佐への信頼が俺の行先を阻んでくる。

 相手の言っている事が正論だ。危険な事も承知の上だ。

 けれど、コサックさんに命懸けの事をさせておいて。小学生である熱斗と炎山を置いて俺ひとりだけが安全な場所に引き籠るなんてふざけている。

 何より俺は原作を知っている。アニメを、漫画を、『ロックマンエグゼ』をこの世界で誰よりも知っている。

 ここまで来ておきながら何の役にも立てないのなら、転生者の俺がいる意味なんて無いじゃないか。

 

「行かせてやれよマークス」

 

 小学生の身分では到底説得力に欠けた俺に、まさかの助け舟が飛んでくる。

 

「正気かケビン?」

「少年の目、ありゃあ昔のライカにそっくりだ。目ェ離した隙に抜け出してそうで恐ろしいぜ」

「なら気絶させるなりふん縛っちまえばいい」

「少年の言うことが正しけりゃオレたちの傍も安全とは言い難い。帰りの船だって怖ーい敵になっちまうんだろ? むしろ(やっこ)さんのアジトの中の方が安全かもしれんぜ? ここまで進んできてトラップの類は全く見られなかったしな」

「そりゃ、そうかもしれんが。それでもガキひとりに行かせるなんざオレは反対だ!」

「それじゃあ丁寧に少年たちをエスコートした意味が無いだろう? 彼はセルゲイ大隊長が選んだ人間だ」

 

 ケビンという男が言っている事は無理筋だ。それでも不思議とこの場で反対する言葉は少なかった。

 

「本気かケビン?」

「あぁ。セルゲイ大隊長とライカに一泡吹かせた奴を持て余す方がもったいない」

「もったいない……ニホンの言葉か。しかし命令違反だぞ」

「命令? 部隊を再編し、セルゲイ大隊長たちの退路を確保せよ、ってだけだろう? 少年の処遇は入ってない」

「馬鹿馬鹿しい! そんなものオレの護衛が継続に決まっているだろうが!」

「この際だマークス、はっきり言おう。何が起こるか不透明な現場を連れ回すよりセルゲイ大隊長に合流させた方が良いと私は思う訳だ。今ならまだ追いつける筈だし、ライフラインに危険な代物を仕掛けるバカはいないだろう」

「……」

 

 マークスさんは頭を黙り込み、静かに考え込んでいるようだった。

 兵士としては忠実に命令に従い、俺を後方に運ぶべきだと考えているのだろう。

 しかし、不測の事態が待っているのならば子供に安全な場所は存在しない。自動小銃すら電脳世界が存在する時代だ。安全装置もどこまで効くかわかったもんじゃない。

 

「それでもオレは……」

「――報告! 退路となる隔壁も先程と同じタイミングで閉じられた模様!」

 

 マークスさんが口を開いたちょうどその時、斥候に出ていた兵士から報告が上がる。しれっと俺たちは閉じ込められていたらしかった。

 

「マークス。どうやら私たちの命運は少年に託す他無いようだ」

「くそったれめ……!」

 

 防弾ヘルメットを脱ぎ捨て、地面に叩きつけたマークスさんが俺をひと睨みした後、盛大に溜息を吐き出した。

 

「いいか坊主? これは命令だ! 絶対死ぬんじゃないぞ?」

「わかりま――うぶぶっ」

 

 答礼している最中にヘルメットを被せるんじゃないよ。

 ぐぇっ……ズレないようにする為だからって締め付け過ぎるのはやめてください。

 

「えっと……失礼します」

「頭だけは踏んでやるなよ!」

 

 縄梯子をひっかける場所が無い為、組体操が如く足場となった兵士たちを登り、ダクトの金網部分を無理やり破壊したマークスさんの身体もよじ登り。

 狭苦しいダクトに渡ボディを滑り込ませて匍匐前進で進んでいく。

 

『ねぇワタちゃん?』

「……何だ?」

『セルゲイ大佐の場所ってわかる?』

「見えないからわかんね」

『ワイリーの所は?』

「…………」

 

 ECMとかいう電波妨害がバリバリ働くものだから、位置情報が狂ってやがるせいでマジで合流どころか迷子になりそうだった。

 原作のワイリー城MAPと現在まで辿ってきた脳内MAPはまるで噛み合わないし、原作知識が役立たねぇ……!

 ええい、なんとかなれーーッ!!

 

 

 

 

 

 隠岐渡がダクトという名の迷路を彷徨っている頃。

 セルゲイ大佐率いるシャーロ軍ネットワーク第13部隊with小学生2名はWWW所属のデッドコピーナビ相手に奮戦するも、数の暴力を相手に消耗は激しく、次々に兵士たちのネットナビはデリートに追い込まれていく。

 そして、いよいよ最奥と思われる扉の前ではセルゲイ大佐とコマンダー01によって生かされたライカとサーチマン、途中参戦ながら圧倒的キルスコアを誇る光熱斗とロックマン、伊集院炎山とブルースだけが残されていた。

 

「不甲斐ない大人たちで本当にすまない」

「頭をお上げくださいセルゲイ大隊長!」

「そうだぜ大佐さん。オレたちが無事でいられるのも大佐さんたちのお蔭じゃないか」

「癪だが光の言う通りだ。オレたちだけでは戦う力が残されていなかっただろう」

「ならばせめて我々は肉壁となろう。行くぞ」

 

 最後のセキュリティを突破し、鉄扉を開け放った彼らを待ち受けていたのは、部屋全体を覆い尽くす程に巨大な装置だ。

 あちこちに伸びたケーブルが集約された先に巨大なガラス玉がはめ込まれ、その内部には禍々しい紫色のスパークが弾けている。

 

「来おったか」

「動くな! 動けば貴様を撃つ!」

 

 部屋の中央には左右が逆立った独特の禿頭に右目へモノクルを付けた老人が無防備な姿を晒していた。

 それはセルゲイ大佐らが自動小銃を構えても尚、此度の騒動を引き起こしたDr.ワイリーは鼻を鳴らすだけで動じることはなかった。

 

「これは脅しではない。大人しく投降したまえ」

「儂を撃ったところでもうプロトは止まらぬ。この装置を破壊しても同じこと。プロトの解凍率は90%を超えとる」

「ならばプロトを止めたまえ、Dr.ワイリー」

「無理じゃ。儂にももう止められん」

「そんなのやってみなくちゃわかんねーだろ!!」

 

 セルゲイ大佐たちが銃を構えて動けない中、痺れを切らした熱斗が啖呵を切る。そのままの勢いでお誂え向きと言わんばかりに設置された機械仕掛けの椅子――パルストランスミッションシステムに座り込む。

 

 ……それはWWW幹部たち用に設置されたものの、撤去作業する人員がおらず放置されたものだと彼らは知らない。

  

「オレとロックマンが必ず止めてみせる!」

「オレとブルースを忘れて貰っては困るな」

「炎山!」

 

 そうして熱斗に倣うかのように隣へ座るのは伊集院炎山だ。

 ワイリーの発言がどうであれ、プロトをデリートしてしまえば話が早い。そう結論付けた彼はPETをセットすると一足先にパルストランスミッションの体勢に入る。

 

「お前たちだけでは不安だ。だからオレも同行しよう」

「ライカ!」

 

 そしてセルゲイ大佐から許可を得たライカもまた彼らの傍に腰を下ろす。

 

「「「パルスイン!!」」」

 

 示し合わせたかのように、彼らは電脳世界の中へと潜り込む。

 それを見送ったセルゲイ大佐は視線をワイリーの元へ戻せば、彼もまたパルストランスミッションシステムによって電脳世界に行くつもりのようだ。

 

「撃て」

 

 交渉の余地が無いと判断を下したセルゲイ大佐の一声で第13部隊が一斉射撃を行うものの、

 

「防弾ガラス!?」

「ガラスでは無いがな」

 

 光の反射しない透明な壁に弾丸が全て阻まれ、それにヒビすら入らない事実にセルゲイ大佐は驚嘆を禁じえなかった。

 

「ところで……隠岐渡はどうした?」

「見てわからんかね、ご老人?」

「……つまらんことを聞いた」

 

 それだけセルゲイ大佐に問うたワイリーは彼から興味を失ったかのように視線を切ると、パルスインによって上体をぐったりとさせる。

 

「……どうします大佐殿?」

「ワイリーの発言が真だとすれば単なる破壊工作は意味を為さない。よって我々は外部のネットワークへ繋がるケーブルの捜索だ。尤も、かの御仁であれば相応の防護がされていて骨が折れるだろうけどね」

「了解しました!」

 

 そうして残された側の奮闘も始まる。

 世界に残された猶予は、残り少ない。

 

 

 

 

『ろ、ロックマンなのか……?』

『そうだよ熱斗くん!』

 

 光熱斗が生まれて初めて実感する電脳世界にて、近くて限りなく遠い世界に隔たれた彼ら兄弟が出会いを果たす。

 PET越しではない触れられる位置に兄がいる事実に、熱斗は涙腺が熱くなる感覚を覚えるも、

 

『こうしてる場合じゃないのはわかってるよね?』

『あぁ、彩斗兄さん!』

 

 禍々しい赤色に染まった電脳世界に降り立っただけでも、彼らを総毛立たせる()()がいると思わせた。

 

『いくよ熱斗くん!』

『おう!』

 

 互いに向かって走る彼らはぶつかり、熱斗はロックマンは混ざり合う。

 PETでの操作、という不純物を取り除いた現在、彼らは文字通り手に取るようにわかる。

 両腕、両足に限らず、視界も聴覚も例外なく何もかもがが共有されている。

 その感覚を、パルストランスミッションする前から既に知っていて新鮮味に欠けるのはアレかもしれないが。

 

『感動の再会はそれまでにしてくれないか?』

『……わかってるよブルース』

『行くぞ』

 

 時間が惜しい中、待ってくれていた伊集院炎山とブルース、ライカとサーチマンに感謝しながら彼らは最奥に向かえば、

 

『……』

 

 鎮座する十字型のモノリスを破壊するゼロの姿があった。

 

『わわっ!?』

 

 途端、電脳世界すべてが蠢く。ロックマンが入れて身構えていると、一面赤く染まったパネルがボコボコと泡立っていく。

 それは見る見るうちに体積を膨張させ、現れたのは巨大なアメーバ状の敵だった。

 

『あれが……プロト……』

『fire!』

 

 体勢が不安定ながらも不意をかましたサーチマンであったが、その弾丸はドロリとした表皮こそ貫いたものの体液に溶かされてしまう。

 そして、その衝撃がトリガーになったか如く、パックリと一つ目を開き覚醒状態となったプロトは全身を金属めいた装甲で覆っていく。

 

『足元ッ!』

 

 その姿に気を取られていたロックマンであったが、ブルースの叫び声に反応して咄嗟に後退すれば足元から赤血球のような塊がボコリと浮かび上がる。

 

『あ、危なかった……ありがとうブルース!』

『感謝などいらん。それより本体の攻撃が来るぞ!!』

 

 手始めに襲来したのはプロトの肩より現れるリバースバルカンだ。パネルを駆けることでその弾丸を掻い潜ると、尖った両腕から電撃が放たれる。

 

『次から! 次へと!』

(目から光が……来る!)

 

 息を吐く暇も無く、レッドアイズデリート――プロトの眼前に集められた光はレーザーとなってロックマンたちへ到来する。

 

『ウッドシールドスタイル! ……ぐっ』

 

 ロックマンはリフレクトを構えるもブレイク性能を備えていたレーザーにガードを貫通されてしまいHPを削られるが、ブルースとサーチマンは一旦距離を置くことで仕切り直すようだった。

 

(今なら……ロックマン!)

『ギガフリーズ!!』

 

 レーザーによる反動からか、硬直状態を見せるプロトへロックマンが両手を構える。そこに生じるのは青白い膨大なエネルギーの塊。

 炎に似た揺らぎを見せるそれは燃え盛るモノとは対極の、すべてを一瞬にして凍てつかせる力。

 例え電脳の怪物プロトであろうと関係なく、選ばれし者以外のあらゆるものをフリーズさせる禁断の力が今、放たれる。

 

『いっけぇええええ!!!!』

 

 ギガフリーズを前にプロトは動かない。否、根を張ったプロトは動けない。

 

(これで終わりだ……!)

 

 直撃は免れないと熱斗がぬか喜びするのも束の間、プロトはデビルハンド――右腕を射出し、ギガフリーズと衝突させる。

 瞬間、視界を白が埋め尽くす。

 光が収束した時にはプロトの()()()()()()()だけが凍結され、本体は新たに右腕を生成させていた。

 詰まるところ、ノーダメージである。

 

『切り札を安易に切るんじゃない!!』

『わーっ、ごめんなさーい!!』

『謝ってないでさっさとギガフリーズを回収しろ!!』

 

 あるいはその凍結が自動的に広がり、プロト本体までも包み込むのであれば話は別だったが、ロックマンに制御されたギガフリーズはプロト右腕だけに影響が留まっていた。

 

 

 

 電脳の怪物は、未だ止まらない。




 だったら子供を連れてくるなよ、というガバへのツッコミはNGでオネシャス。
 主要人物置いてけぼり展開のワイリーVSシャーロ軍の硝煙臭い戦いとかロックマンエグゼちゃうしな。


 軍人さんたちの活躍とか道中もコサックさんイベントに霞みそうだったのでカットマン。





 没案として、かつての生き残りプロトバグを捕獲→科学省のウイルス研究室で弱点研究
 みたいな展開も想像していましたが、光正が制御できなかった化け物を渡くんと今の科学省には手が負えないだろ、てな感じでボツになりました。

 ……ただでさえ不憫なギガフリーズ君が更に可哀想になるからね、仕方ないね
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