後のニュースにてスクールジャック事件として報道され、その被害の内のひとつに数えられた秋原小学校ではあるが、生徒の安全を取って下校。並びに数日の間、公的機関の手によって調査が入るのが前世の常識ではあった。
しかし、秋原小学校運営陣、まさかの授業続行。
生徒の保護者からバッシングもやむなし――かと思いきやそれも極少数。この対応がモンスタークレーマー扱いされるとか、色々と逞しいにも程があるだろ。
……と、日暮さんが起こした事件の顛末はこんなところで、あれだけ錯乱していた生徒たちも放課後になれば皆ケロっとしていて、自由に遊びに行く始末。
『ワタちゃん、メール……』
未だ改造ウイルスを喪った悲しみに暮れるシアンの方が案外俺の感性に近いのか、と勘違いしそうになるが……ねぇな。
オペレーターと違って、ウイルスと直接命のやり取りしているのに思い入れ抱けるコイツが凄いだけだろ。
「メトロライン開通か?」
『流石未来人……』
「どっちかといや逆なんだけどな」
この辺は原作準拠の流れなのかと思いながらざっと内容に目を通す。
場所はこの前まで工事していた区域か。今まで利用していた駅よりも距離的には近いし、何より主要施設にアクセスする分にはメトロの方が早く着くのも大きな利点だろう。
これは客もメトロに取られそうだな。小学生以下は利用料無料という大盤振る舞いするし、その経営状況を伺いしれるというもの。
これで前世の日本みたく事故が少なけりゃ文句は無いんだけどなぁ。絶対、これから標的がメトロにも分散するだろうし。現に原作通りならば初日で躓くし。
文化風習などが凄い酷似した
小学生の内容だから楽勝だろ、と油断していたところに、ぶっ飛んだ近代歴史の歩みに度々驚かされるし。
特にアメロッパ関連と
前者はアメリカとヨーロッパを混同して考えがちな日本人価値観を体現したギャグネーミングで、フィクション作品にありがちなボカし表現の一つだった。
が、これを現実に即して地続きの歴史にすると相当な闇深になるのがもうね。
建国前後の文献がごっそり消失しているし、それ以上は怖くなって調べていない。EUくらいなもんか、って普通思うじゃんかよ。
気を取り直して後者は技術的特異点過ぎてやべぇの一言。
未だ一般に使われるフロッピーといい、歪んだ技術進歩を遂げたのも、その辺りの科学者の影響力が大きいというね。偉大過ぎて価値観が固まりがち、というか何というか。
目立ったもので言えば、環境維持システムとか劇物過ぎる。地震大国だったニホンでも地震が珍しいレベルにまで落ち着く、と言えばそのヤバさが伝わるだろうか。
他にも人工衛星で一部の天候を操れる、なんてのもある。
これらの前例を知っても将来科学者を目指す熱斗にはマジで尊敬している。俺には身の回りのことで手一杯っすわ。
帰り支度を済ませて一時帰宅。
使わない荷物を自室に置いてからメトロへ向かうと、駅周辺には困惑した表情をした人たちが見受けられる。
駅員に詰め寄る人もいるが「落石事故の為、現在対応中」という言葉を繰り返すばかり。
開通初日からこの調子、逞しいデンサンの人間でなければ客足が遠のきそうな事態である。
『へー落石事故。環境維持システムは何してるんだろうね?』
「そこまで小さいことまでリソース割けないだけだろ。代わりに保安プログラムがどうにかできるんだと」
『ふーん。じゃあ、そんなに時間はかからないのかな?』
「WWWさえいなけりゃな」
そうまたもやWWWの出番である。
これまでも、そしてこれからもデンサンシティは標的として狙われ続けるのだからWWWの首領の恨みは根深いものだ。
特に秋原町は首領Dr.ワイリーと因縁のある光正がかつて住んでいたから余計にそうなのだろう。
『まーたWWW……』
「犯行声明は出してないけど、凡そ金を引っ張ってくるつもりなのか流通を止める第一歩だったのか」
『こんなところで呑気にしてていいの?』
「現場確認してただけなのに言い方ァ」
現段階だと人的被害が無い事件だし、日暮さんによるスクールジャックを優先していたから何の仕込みもしていない。
ただ原作通りであれば熱斗とロックマンが早期解決を図ってくれるので、気を抜いていたところはあるけれども。
「じゃ一応見に行ってきてくれるか?」
『一応って何さ! 一応って!』
メトロ周辺に設置された公衆電話からプラグインし、シアンに確認をお願いする。
正直、今回どこまで介入していいものか悩むんだよな。あまり先回りし過ぎても熱斗とロックマンから実践経験を奪うことになってしまう。
これが今後どう響くかわからないし、俺はフォローに回って事件の被害を軽減する程度でいいと思っているのだけど。
無論、デカオ含め他の人たちが事件解決に乗り出すのを邪魔するつもりは一切ない。むしろ歓迎するわ。
『着いた。けど、もうロックマンが戦ってるね』
PETに視線を落としてみれば、既にロックマンと巨大な石造ゴーレム――もとい自立型ネットナビのストーンマンがバチバチにやり合っていた。
ストーンマンは四足歩行で鈍重な見た目からしてその動きは非常に遅い。ただそのリソース分、かなりのタフらしく、ロックマンの攻撃をものともしていない。
その反撃は落石攻撃。どこからともなく落下してくる岩は徐々に足場を減らしていき、長期戦にもつれ込むとキツいだろうな。
「シアン、援護するのは不利になってからな」
『え~見てるだけで酷くない?』
「横やりいれてくる敵を気にしてくれるだけありがたいだろうよ」
そうシアンを言い包めて彼らの戦闘を見守る。
ワイリー製の自立型ネットナビとあって優秀ではあるが、やっぱり自立型故のデメリットがどうにも気になってしまう。
自立型はロックマンなどのネットナビと違って自分の存在だけで完結している。オペレーターの手が必要なく、独自で動ける強みがある。
またチップも自分の判断で使用できる為、オペレーターとネットナビの考えのズレが生じない。
反面、チップの容量を気にする必要が出てくる。あまり積み過ぎれば動作が重くなるし、選べる選択肢が増えればその分、悩む時間も増えるのはオペレーターと同じ。
目の前の敵のことを処理しつつ、ともなるとチップを絞る必要があるみたいだ。
また、視点が自分だけしかない、というのもデメリットだろう。
オペレーターはTPS視点で背後からの攻撃にも気付けるのがデカい。
何より――ナビとオペレーター、2つの思考が無いのがデメリットにもなり得る。
要は思考が偏るんだよな。自己学習して反省はできるんだろうけれど、それは結果が出てからの話な訳で――
『はああああっ!!』
――デリートされちまえば、それもできない。
ロックマンのロングソードにより、見事ずんばらりとやられたストーンマンは電脳世界の藻屑と化す。
アニメ版のコアさえ壊されなければ何度も復活、といった超強化は施されてなかったな。アニメスタッフのどこに刺さったのかね?
彼がオペレーターの熱斗と何か一言二言会話した後、プラグアウトしたのを見届けてからこちらも同様にプラグアウト。
『いや~想像以上に強いね、ロックマン。今回はデカい的だったからイケたかもだけど、小さいナビ相手だとキツいかもね~』
「後で特訓な」
『え~……ワタちゃん厳しいからな~』
前世感覚だと、プログラム自体が特訓しても意味がないと思うのだけど。
電脳世界の物理エンジンが結構な頻度で更新されるのか、それとも俺の不確定要素でもあるのか、シアン曰く狙いがブレることがあるらしいんだよな。
だからナビ自身の感覚も定期的にアップデートしていく必要があるらしい。
「現時点をもってメトロライン復旧致しました。お客様にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
復旧作業早ぇな、と思いながらToDoリストを開く。そうそう飲料水の買い出しにも行かないと。
近隣のスーパーは町内会の爺さん婆さんに譲るとして、若い俺は遠出である。その為にレンタルで台車を借りたのは少々痛手。これでメトロ乗るのも恥ずかしいけどコラテラルダメージよ。
何せ遠くない内にWWWによる断水が起こるのだから。
メトロ開通から2週間後。
近隣のスーパーやコンビニから飲料水がなくなりつつあることが、各メディアに報道された。
まだ水道が通っていることもあってか、近隣の人たちは危機感が薄く、秋原小学校でもそれとなく探ってみたものの反応は同様だった。
ただ防災意識云々で言い包めた町内会の人たちからは感謝されたな。その話を拡散してもらったシゲさんからは「俺の口座でトレーダーやらねぇか?」と誘われた。手元に金があるからって血迷ってるなぁ。
で、現在。
俺は祖父にお願いしてデンサン水道局の見学にやってきた。
「まぁあそこまで狂ってなかったか……」
広大な敷地内に建てられた無骨な施設の外観を前にして、俺は静かに胸を撫で下ろしていた。
『1』とか科学省の隣、その科学省の地下には発電所とかいうふざけた構造していたからな。容量の都合とはいえ、あそこまでぶっ飛んでいるのを他作品で目にしたことはない。
「渡や。本当にここで良かったのかい?」
「うん。本や映像じゃわからないことがあってね」
おう、ウッキウキだな爺ちゃん。
最近、思春期云々言って一緒に出掛ける機会なかったもんな。すまない。
でも事件に対する下準備だったり、チップ集めやシアンの強化、熱斗たちの友人付き合いに加えて、自宅の防衛ナビの着手もしていたから時間が無かったのだ。
流石に一般ナビだけだと心許ないので、合間を縫って拠点防衛用のナビも密かに作っていた。
外には出す予定もないから感情データも搭載していないし、どちらかと言えばウイルスに近いのだけども。
検閲に引っかからないから外観は趣味全開のデススティンガー!
多脚は完全にお飾りの機動力ゼロ、武装は全て搭載すると流石にリソースが足りなかったので頭部にあるバルカン砲、肩口の2連装ショックガンと尾の先端にある荷電粒子砲――に似せたバスターの3つ。
シザース付けたかったけど、あんまり分散させると火力がどうしても落ちるからなぁ。今でも悔しい。
一応、自律型だからチップも使用可能。とはいえ動けないから【バリア】と【リカバリー】、【ステルスマイン】くらいだけど。
ちなみに【ステルスマイン】は、やいととのトレードで入手。
ゲームだと鬼のように強いチップだが、今世での評価は複数積んでもなかなか相手が踏まないから使い所に困るらしい。
実際、俺も使用してみたが広大なフィールドで誘導しようにも結構厳しいものがあった。地雷マジで小さいんだもん。
ただ拠点防衛なら相手の進路が読みやすいので採用に至ったという訳。
蛇足として、本命の【パラディンソード】はチップを見せびらかすだけで交換条件すら出してくれなかった模様。
閑話休題。
早速入館してエントランス正面にある案内板にプラグインする。
こちらで館内のMAPがもらえるとのことで、早速シアンに探らせてみるが、
『う~ん……重要施設には繋がってないっぽいね』
とのこと。
流石にそこまでガバガバのセキュリティではないか、と一安心。祖父に声をかけて見学を開始。
流れとしては前世と変わらず、浄水場でどういう風に水が綺麗になるのか、順を追って説明してくれる。知識として知っていても、いざ実際目にすると面白く感じるから不思議だ。
プラグインできる箇所を探しつつ、さりげなく見学客にも目をやるが実行犯は見当たらない。まぁ、そう簡単に遭遇できたら苦労しないか。水の買い占めか、物流の制限に動いているのかもしれないし。
「結構面白かったのぅ」
「そうだね。ちょうどお昼時だし、どこかで食べてく?」
「ふむ……タイヘイの倅の店が近いか」
そういってPETの電話機能で誰かと話し込むこと1分弱。
「空いとるようじゃし、行こうかワタル」
そうして祖父に連れて来られたのは回らない寿司屋。
孫とお出かけできて相当張り切っているのか、と思いきや、ここではタダで食事できるとのこと。
注文を待っている間、祖父から説明を求めると、
「まぁ、色々世話してやったんじゃよ」
と苦笑いしながら店主について語ってくれた。
何でも店主の父親とは親交があり、その縁で開店資金の一部を出してあげたらしい。
しばらくして店は軌道に乗り、そのお礼として度々祖父を招待していたのだが、祖父は一度顔を出したきりだった。その時、高いネタばかり出されて気後れしたのだとか。
で、しばらくして俺が祖父に引き取られ、外出時の候補のひとつとして数えていた、と。
「この歳だとあまり食べられんでの」
という訳でたらふく食わされましたよ。祖父よ、わんこそば感覚で注文はやめーや。
店主も嬉しそうな顔するのやめろ。断れないだろうが。
ボテ腹手前のところでギブアップ宣言。
寿司はしばらく見たくない、と周囲に視線を逃がしていると、
「氷川くんじゃん」
「えっと……?」
回らない寿司で緊張していたせいか、隣に同級生一家がいることに気付かなんだわ。
氷川透。
ゲーム版だとスネ夫のパチモンみたいなモブ顔だったが、目の前にいる彼は父親似の顔をしたアニメ版らしい。
優しそうな風貌をしていて……その、主要人物たちと比べて特徴がないです。
尤も顔は整っている方なので、例の4人と一緒にいて違和感がないのは氷川くんの方だと思うけど。
「隣のクラスの隠岐だよ、隠岐。温泉部の幽霊部員」
「……あぁ! 勧誘してきておいて一度も来ない奴!」
「だって誘った時嬉しそうにしてたじゃん」
上級生になるとクラブ活動が解禁されるのだが、その温泉部の犠牲者第一号が俺。
とある日の帰りのホームルームにて、まりこ先生の私利私欲の為に生み出された温泉部に誰も入部しないことを危惧した彼女は、あろうことか5-Aを泣き落としで家に帰さない強硬手段を取ったのだ。
で、開始1分で根負けしたのが俺。クラブ見学の時、楽しそうにしていたクラスメイト見てると中身おっさんの俺が行くしかねぇだろうが。
流石に部員1人は体裁がよろしくない、という訳で数合わせの幽霊部員を探していた時に出会ったのが、こちらの氷川くん。
アニメ時空ではまりこ先生と活動していた姿があったので勧誘したらのこのこついてきたので、ついでに全部の役割をぶん投げたのが全ての経緯。
「でも先生とマンツーマンだと思わないじゃん!」
「美人女教師と2人きりで温泉だぜ? どう思う爺ちゃん?」
「かァーッ! 堪らんわい!」
いくつになっても忘れないスケベ心、嫌いじゃないよ。
息子の置かれた状況に少しだけ物欲しそうな目をしたのを、奥さんに見咎められて耳引っ張られている氷川清次さんも男だなぁ。
「そう思うなら来てよ! 次の日曜活動日だからさ!」
「悪い。その日は綾小路さんに誘われてるから」
嘘である。誘われたのはいつもの面子の熱斗、デカオ、メイルの3人だけだ。
所詮俺なんて学校で一緒にいるだけで、放課後は誘われない友達未満だよ。
「そろそろお暇しようか、透」
「わかった。……ぼくは諦めないからね」
「そういうのは女の子にでも言えばいいと思うよ」
軽く手を振って氷川一家に別れを告げる。
未だ重い腹で動けそうにないが、俺たちもそろそろ退店しないと迷惑かもしれない。
――思えば、この日の何気ない行動がフラグだったのかもしれない。軽く会話した程度で、まさか誘拐に巻き込まれる事態になるとは……。