WWWを草と笑えない恐ろしい世界   作:じぱんぐ

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8.水でも溶けない厚化粧

『押収品……? ワタ坊、そんなモンどうして気になるんでぃ?』

「WWWに繋がるものが出てきてないかなぁ、って思いまして」

『悪いが教えてやれねぇな……と言いてぇところだが、何もなかったとよ。自宅にまでガサ入れして何も出てこなかったってぇ話だ』

「そうですか。教えていただいてありがとうございました」

 

 ぺこぺこと頭を下げてからマサさんとの通話を切る。

 ダメ元でオフィシャルネットバトラーになったマサさんへ、日暮さんについて話を聞いてみたところ普通に聞けると思わなんだ。

 管轄がデンサンシティとはいえ、短期間で事件の情報を得られるくらい信頼を得たってことだからな。マサさんマジ優秀。

 アニメ版はオフィシャルが不甲斐ないから自身でネットエージェント立ち上げた説あるぞ、これ。

 

「しっかし何も見つからない、か」

『捕まったヤミタロー? そんなに凄そうには見えなかったけどな~』

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

 原作だとガサ入れが杜撰だったのか、『WWWメトロパス』なるアイテムを日暮さんはずっと所持していたのだ。

 そのメトロパスはWWWアジトと直通のメトロに乗ることができる重要アイテム。

 普通の駅では使えず、なんと秋原小学校にある校長の像、そこをズラすと地下に降りることができ、その先にメトロの改札があるという色々かっ飛んだ設定になっている訳だが。

 

「そもそも校長像も池もねぇしな」

 

 肝試しと称して何人かと夜間の学校に忍び込んだこともあったが、地下鉄の走る音なんて聞こえなかったし。

 そもそもメトロってのがな……容量的に素材の使い回しって感じだろう。

 原作でも日暮さんは下っ端だったし、わざわざアジトに招いたかっつう話よ。指示を出すだけならメールでいいし、報酬も手渡しである必要がない。

 正直、リスクが高過ぎる。潜入捜査員でもいたら一発アウトだろ。

 

『校長……?』

「まぁ、気にするな。早期でWWWを潰す方法が無くなっただけだよ」

『普通に大事じゃない……?』

「皮算用皮算用」

 

 WWWサイドも脱退した元団員からパスを回収するの忘れるし、原作がガバガバ過ぎただけの話よ。

 ここまでゲーム的都合が排除されるのであれば、今後もそうなると考えた方がいいな。念の為、日暮さんが出所した後、確かめてはみるけれども。レンタル倉庫かロッカーの可能性もあるし。

 

「お~き~くん」

「げっ」

 

 空き教室で時間を潰していたのがバレてしまったらしい。

 いい笑顔で俺の肩を叩くのは、地味な雰囲気が拭えない氷川透。

 寿司屋で再会してからどうも恨みが再燃したのか付き纏われているのだ。

 

『大人しく温泉部に参加したら?』

「シアンちゃんの言う通りだよ!」

「乗り気じゃない奴が参加したって迷惑なだけだろ……」

 

 前世の社畜だったならば安らぎを求めて温泉に行くのも悪くはなかっただろう。

 でも、今は子供の身体。一晩ぐっすり眠れば大半の疲れは吹き飛ぶので、温泉にそこまで魅力を感じないのである。

 それにせっかくの休日を潰すのであればゲームがしたい。

 

「いいから来る!」

「俺以外の奴は?」

「掛け持ちしてるから無理だって」

「あ、はい」

 

 諦めて氷川くんの後に続いてやってきたのは社会科準備室。

 学校全体で使う授業用の道具が置かれているせいか妙に狭苦しく感じ、若手故にこんな場所しか与えられなかったのか、と勘ぐってしまう。

 

「ごめんね~遅れちゃって! って隠岐くん?」

「ども」

「もしかして温泉に――」

「ハマってないっす。氷川くんに強制連行されました」

「今はわからなくとも、じ~っくりその良さをわからせてあ・げ・る!」

 

 ウキウキしているところ申し訳ないが、もう家に帰りたいです先生。

 次どこに行くのか、と旅行計画を立てる二人を眺めながら欠伸をこぼす。わざと悪い態度を取っているのに、彼女の熱は全く収まらない。

 どうなってんだ。授業中なら叱っているだろ。何なら熱斗とデカオを廊下に立たせたこともあったろ。俺も出せ、早く。

 

「――っと。もうこんな時間ね~。じゃ、今日はここまで! 二人とも気を付けて帰ってね」

「お疲れっしたー」

「先生さようなら」

 

 終ぞ咎められることもなく、夕焼けが目に染みる時間帯に開放である。

 くそぅ、PETで暇を潰そうにもシアンが邪魔してきやがるし。旅行に乗り気になってんじゃねぇ。湯上りのまりこ先生の写真を有効活用できないか、としか考えられない俺なんぞ温泉部に不要だろ。

 

「ずっとつまらなさそうな顔してたね」

「まぁ事実だし」

「学校のお金で旅行ができるってのも案外楽しいものだよ」

「インドア派だしよ俺」

 

 これ以上邪険にしても可哀想なので気持ちをリセットして氷川くんと共に帰路へ就く。

 

「氷川くんはさ、他にやりたいクラブとかなかったのか?」

「ぼく? そうだね。特に運動が得意って訳でもないし、かといって他にも惹かれるクラブはなかったかな?」

「……今更だけど、誘うだけ誘って放置してたのは悪かった。ごめん」

「ほんとにね。でも悪いって思うなら温泉部に顔出してよ」

「言い訳に聞こえるかもしれねぇけど、俺にはやることが――氷川!」

 

 気疲れして反応が遅れる。

 曲がり角に差し掛かった頃、突如として伸びてきた細い腕が氷川くんの首を巻き取る。

 そして、素早く緩めて彼が息を整えようとした瞬間に、彼の口元に布が当てがわれる。即効性なのか彼はもがく暇も与えられず、気を失ってしまう。

 

「お前は」

「あらお友達なんていたのね」

 

 崩れ落ちようとする氷川くんの身体を抱えるのは厚化粧の女性だった。

 歳を考えろと思わせるパーマの効いたツインテールに、大きなピアス。重ね着したTシャツに、独特の柄が入ったジーパン姿。

 色綾まどい――WWWの幹部だ。

 

「彼を離せ。もう通報はしてる」

「あら抜け目のないボーヤ」

 

 強気な態度で吹っ掛けるが彼女は慌てた様子を見せない。

 くっそ、油断した。氷川くんが誘拐されることは知っていたが、ここまで強硬手段だと思わなかった。

 一度逃げて態勢を立て直すことも視野に入れたが顔を見られている。顔が割れた目撃者をそのままにしておく筈がない。

 落ち着け。

 相手は大人の女性。身長差があり、リーチも相手の方が有利。だけど武器になりそうな長物は見られない。

 対してこちらはリュックに、チップを詰めたポーチ。投げるものには困らない。怯ませたところに足払い……柔道なんざ前世の高校の選択授業以来でいけるか不明瞭過ぎるが、やるしかない。

 視線はそのまま、ゆっくりと手を動かし腰裏のポーチに手をやったところで――ぐんとリュックを引っ張られる。

 

「なっ」

 

 体重差に振り回され体勢を崩されたところに――空気が破裂する音と共に脇腹へ鋭い衝撃が走る。

 痛みを感じる暇もなく暗転する視界。その前に捉えたのは燃えるような赤いロン毛と顎鬚(あごひげ)――

 

 

 

 

 

『――ちゃん! ワタちゃん!』

 

 モーニングコールにしては騒がしい声に目を開こうとして、脇腹に痛みが走る。

 思わず手をやろうとするが、後ろ手に縛られているのか動けない。変な体勢で眠っていたせいか身体のあちこちが痛い。痛みで身を捩る度に痛みが走る無限ループ。

 

「むーっ」

 

 おまけに布を噛まされているせいで息苦しい。

 今更まりこ先生の拘束気分を味わうとは……あの時エロいと思ってごめんなさい先生!

 

『あっ、起きた?』

「むっーむ、むーっ?」

『ここの場所? ホルダーのせいで良く見えないし、電波も届かないからわかんないや。ごめん……』

 

 こちらの気持ちを察してくれたのか少し離れた場所にいるシアンが簡単に状況を説明してくれる。

 痛みを堪えてできる範囲で薄暗い周囲を確認する。頬に当たるのは短い毛のカーペット。眼前にはそれとは違った質の布の壁? が高くまで伸びている。

 足は曲げるとすぐにどこかへぶつかる。想像以上に狭い。

 

――ここは原作通り、自動車内か。

 

 座席ではなく、その下のスペース。外から覗き込んでも見えない場所にいると考えるべきか。

 仮に座席にいてもスモークガラスか何かで車内を見えないようにしているだろうけど。

 

 しかし困った。こうも身動きが取れないと何もできない。

 このままだと人質を取られた氷川くんの父、清次さんがWWWの言いなりとなって断水してしまう。

 原作ではその後、熱斗が動いてそれを解決――したかに見えたが、実は水に毒が混入した状態でデンサンシティ内に流れてしまう二段階の計画になっている。

 子供向け故かわかりやすい毒々しい色をしていたが、今回もそうであると限らない。また蒸発したものが気管に入った場合、どのような悪影響が出るのかも。

 

「んふーっ」

 

 これは全て甘く見積もっていた俺のミスだ。

 所詮自分はモブだと、無差別なものでなければ事件に巻き込まれないと高を括っていた。

 ゲンさんの件を忘れたのか? 本当に自分が低能で嫌になる。祖父がどれだけ心配していると思っている?

 

「ん゛っ!!」

 

 いい加減遅いが、覚悟は決まった。 

 

 力任せに腕を動かす。自然と涙がこぼれるが、今は見る必要がない。

 

 続ける。

 

 摩擦で手首に熱を持つ。ぬるぬるとした何かが滑って千切れにくくなった気がしたが、抜け出すには好都合。

 

 続ける。

 

 荒くなった息。苦しい。でもその代わりに痛みが鈍くなった気がする。

 

 続ける。

 

 白濁する思考。しかし、胸に残る熱を持って不細工に腕を動かす。

 

 続け――。

 

 

 

 

 

「やっでやっだぞ、グゾボケ」

 

 ガラガラになった喉。喋るだけでも喉に焼けるような痛みが走るが、この気持ちを吐き出さねばどうにかなってしまう気がした。

 何度目かもわからぬトライでついに手首の拘束を抜け、口を塞いでいた布も取っ払う。足は靴さえ脱げれば簡単だ。

 

『ワタちゃん……』

「わがってんな……?」

 

 よろよろと立ち上がり、PETを取ると後部座席にいた俺は運転席に手を伸ばす。

 下には氷川くんがいることに気付き、その手を止める。一旦、彼の拘束を解くことに。

 

「……隠岐君」

「――」

 

 蒼然とする氷川くんにそっと静かにするようジェスチャーを送ってから改めて運転座席へ身を伸ばす。

 のろのろとした動きでプラグイン端子に接続し、シアンにドアのロックを解除してもらう。

 

「動げるが……?」

 

 こくりと頷く氷川くんを確認して車外へ這い出す。

 見張りはいない。PETと荷物を車内に置きっ放しにするといい、随分と舐めてくれる。が、そうでもなければ助からなかった事実に、腹の奥底で煮えたぎったタールみたいなものが蠢く。

 

「まず隠れる」

「わかった」

 

 肩を貸してもらい、近くの路地裏へ。感染することも恐れたが、念には念を入れてゴミ箱の中に身を隠す。

 それから氷川くんに通報してもらったところで意識が遠のいていく――。

 

 

 

 

 

 そうして再び意識を取り戻すまでに水道局で起きた事件は既に解決を迎えていたらしい。

 報道された内容によれば、オフィシャルの伊集院炎山(えんざん)の手によって犯人の氷川清次が逮捕。しかし後日、人質を取られていた事が判明し、緊急避難として認められ釈放。

 人質にされていた息子は真犯人の姿を目撃しておらず、その足取りも追えていない。

 氷川氏の息子と共に捕らわれていたとされる同級生に追加の証言を求む――とのこと。

 

 運良く感染症にもならず、手首の怪我も見た目より酷いものではないらしいが、誘拐による心的ダメージを考慮して入院となった。

 その際、刑事がやって証言を求められ――迷った末に俺は色綾まどいと火野ケンイチの見た目を伝えた。

 

 未だ拘束された恨みは消えてはいない。が、同時に彼らが改心する姿も知っている。

 大それたことをした彼らは捕まるべきだ。でも捕まれば改心しない。逆恨みで社会を更に憎く思うかもしれない。

 アニメで気のいい性格で熱斗と絡む彼らを知っている。でも、原作のどうしようもない彼らも知っている。

 ぐるぐると思考が纏まらない。

 でも結局は自分の気持ちに正直に答えた。俺は――今の彼らが怖かった。

 

『ワタちゃん退院おめでとー』

「おう、ありがとな」

 

 入院生活は暇過ぎて時間はたっぷりあった。

 一時は暗い考えばかりに囚われていたが、シアンの馬鹿みたいな話と、熱斗たちのお見舞いで持ち直して――考えを改めた。

 俺は色綾まどいが嫌いだ。ヒノケンが大嫌いだ。

 でも、彼らに怯えるのも恨みをぶつけるのも、やめた。

 俺は一般ピーポーのモブ――しかし転生者だ。

 なら歪に満ちた原作シナリオなんぞぶっ壊して――アニメ版のシナリオのいいとこ取りをしてやる。

 戦うのは、運命様だ!

 




ようやくあらすじ詐欺から抜け出せる模様。
エグゼ世界並にガバガバなのに慎重とかいう矛盾野郎のエンジンがようやく火がついた
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