神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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進捗

 簡潔に言おう。

 蜂蜜酒が失敗した。

 

 原因はおそらく発酵がうまく行かなかった。

 水の量を3倍にしたものが比較的マシではあったが、味や香りなどがあまり良くない。自然発酵には適していない蜂蜜だったのかもしれない。

 

 酒造りとしてはこれは失敗。

 まあ一度目からうまくいくとは全く思っていない。これも成功までの1ページだと思っている。

 だが思っていたよりリリルカは落ち込んでしまっていた。どうやら、初めて作ったものが上手にできなかったのが気に食わなかったらしい。気に食わないというか、落ち込んでいるというか。

 

 そんな蜂蜜酒に対して、リリルカと作ったりんごの酵母は上手に出来ており、手法を変更しりんごの酵母を加える方法で第二弾の試作中である。

 

 またリリルカに作った酵母入りのリンゴジュースを与えてやれば、すごく気に入ったようで、晩御飯をバルで食べる度に飲み物をリンゴジュースにしている。

 

「リンゴのジュースか……」

 

「いかがなされましたか? 神ソーマ」

「ザニスか。いや、最近子供向けの酒を造ろうと考えているが、この前試作として作ったはちみつのはあまり調子が良く無くてな」

「なるほど……」

 メガネの位置を整えたザニスは、少し考えた素振を見せると、バルのカウンターでもぐもぐとご飯を食べるリリルカの飲み物を見る。

 

「リンゴやオレンジなどはやはり子供向けではないでしょうか。おっしゃっていたはちみつに混ぜるのは如何でしょうか。それにリンゴを使い酵母ができ発酵ができるのであれば、リンゴを基にした発泡性の酒ができるのでは? まあ、条件などは色々試してみないといけないとは思いますが」

 

「リンゴを基本にしたオレンジなどの果汁系か。まあ、作るとしたらそこだよな」

 

 リンゴなら作成進捗があまり捗っていない生薬とも相性は悪くないだろう。それにリンゴなどの飲みやすさも合わせればかなり酒としての質は良いはず。

 ともなれば反神酒(アンチソーマ)のいい材料になるだろう。

 

「果物を発酵させるもの。言うなら【シャシン・シセラ】か……」

 

 とりあえずそっち寄りに進んでみるのが良いか。

 

「ザニス。最近の冒険はどうだ?」

「冒険ですか? まあ、順調ではありますが……」

「そうか。最近ネクタルが良くダンジョンの中で見かけると話していた。励めよ」

「はい」

 

 少し影を落としたような表情を見せたザニスは、話すことはないとでもいうように黙ると。そのままバルから居住区へと消えていく。

 まあいいか。と酒を呷った俺は、明日の予定にデメテルのところへ赴くことを決めると、食事もそこそこに神室へと戻った。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「それで? 今日は何がいるの?」

「一も二もなく仕入れの話か。俺も会話は得意じゃないが、それはどうなんだ?」

「あなたには誰も言われたくないと思うわ」

 デメテルの言葉にデメテル・ファミリアの面々も、ソーマ・ファミリアの面々も頷いた。気が付いていないのはソーマ自神だけである。

 

「あまりオラリオでは栽培されていない大麦にライ麦。それによくわからないベリーまで頼まれたし、トウモロコシはまだ良いけど、オラリオで生産している蜂蜜なんて全体で見れば少量なのにこの前大量に頼まれたし……」

「迷惑をかけているのは自覚している。その分仕入れ値はかなりの値段で提示してもらってるだろう?」

「労力を考えて頂戴。それに、酒造に酒場に。稼いでるところからお金を取るのが商売よ」

「さすが高ランクファミリア。良い精神性だな」

 

「あなたがオラリオに降りてきた時から、今のファミリア運営を行っていれば、今頃私のところやガネーシャのところと同じくらいの立ち位置にはなっていたんじゃないかしら?」

 

 まあ、それはそうだ。

 群衆の神を自称する同郷のガネーシャ。この街にとっての食糧庫を担うデメテル。他にも歓楽街を支配するイシュタルなどと同様に、オラリオの住民にとって生活の基盤となる側のファミリアになっていたであろう。

 というか、ジンとウォッカを作っただけで、冒険者をはじめ目の色を変え過ぎだと思う。

 

「まあいいわ。話を戻すけど今度は何が必要なの?」

「リンゴだ」

「リンゴ?」

 

 先日の蜂蜜酒の失敗の経緯と、子供向けの酒の話を交えつつ、今後の製品づくりの一環であることを伝えると、デメテルはてきぱきと団員たちに指示を出しある程度の量のリンゴを持ってこさせた。

 

「リンゴ自体がお酒になれば爽やかだし、比較的なににでもマッチしそうね」

「ああ。ジンにもウォッカにも相性は良いだろうな」

 

「ソーマ様! 量も量なので、僕たちは先に戻っていて良いですか?」

「ああ。頼む。リンゴで酵母を仕込んどいてくれ。試作段階だから壺四つくらいで良い。俺が仕込んでいた奴を加えて発酵を早めておいてくれ」

「かしこまりました!」

 

 そう言って台車一杯リンゴを積み込んだ団員が、一足先に変える。

 

「ああ。リンゴだと酔い感はあまりだろうから、おそらくロキあたりが文句を言ってくるんだろうな……」

「最近入り浸ってるって聞いてるわよ?」

「ほとんど毎日だな。イシュタルのところの女たちをウェイトレスとして採用し始めたら、酒と女目当てで来るようになってな。それに、神酒をよこせとうるさい」

 

 なぜ同郷でもない、さして今まで仲良くなかった神の面倒を見なければならないのか。

 フレイヤ達あいつの同郷の奴らはしっかりと首輪をして飼いならしていてほしい。

 

「今回のリンゴといいこの前のはちみつといい世話になった。代金はまたギルドを介して頼む」

「いつも通りね」

「ロキとガネーシャに忠告されたよ。嗜好品で一気にファミリアの格が上がったことで、悪さを企むものが増えていると」

「ああ。だからずっとギルド経由で支払いしているの?」

「それもあるが、もともとは内部犯の予防だ。もともとがあんな状態だったからな……」

 

 お礼を伝えた俺は、デメテルのところを離れ次の目的地であるゴブニュのもとに向かう。

 

 鍛冶系のファミリアとして、ヘファイストスと並ぶ二大ファミリアだが、金さえ出せば冒険者アイテム以外も作成してくれる職人気質なゴブニュ・ファミリアには、蒸留に関する機器など多くの機材の作成や開発を手伝ってもらっている。

 

 今回向かうのは、需要に追い付いていない酒造ペースを引き上げるため、酒造専用の工場を作り、そこで使う機器類の確認が目的である。

 

「リンゴ酒とはちみつ酒が軌道に乗れば、いよいよ拠点だけだと土地が足らなくなるな」

 

 現状の稼働ではジン用の酒造スペースが2つと、ウォッカ用の酒造スペースが1つという現状。

 製造したほとんどをデメテル・ファミリアを挟んで各酒場に卸しており、その量も正直なところ追い付いていない。

 

「リンゴ酒はもちろんリカーも作るとなればそれ系統で工場が1つ必要になる。それにビールやウイスキーにまで手を出そうと思えば、正直オラリオの中だけで完結するかどうか」

 

 それも、それぞれの酒類で原材料など特徴を変え品を増やせば、その分必要になるスペースやらなんやらは増える。

 

「課題は山積みだな」

 

 資金面は比較的どうとでもなる。

 ギルドに預けている分がかなりの金額になってきている以上、仕入れや機器の新調などは問題ない。

 

「おかげでこっちも開発費がもらえる上に出来たもんも買取してくれてるから良いが、正直俺たちゃ酒の作り方なんて知らねぇからな。いつも問題だらけだ。ソーマ」

「そういう割には職人の気質というか、求められたもの以上の性能を出そうと楽しんでいるように見えるが? ゴブニュ」

「こちとら若ぇ奴らの武器打ちの時間削ってまで手伝ってやってんだ。文句なんか言うんじゃねぇ」

 

 ゴブニュ・ファミリアに顔を出した瞬間、たまたま入り口近くにいた上裸の老神であるゴブニュに文句を言われた。

 と言いつつも武器を作ること以外での鍛冶に触れさせることで、いままで触れてこなかった鍛造方法を若手に勉強させられると喜んでいたのはどこのどいつだか。

 

「お前さんに頼まれた蒸留タンクが完成した 以前のよりだいぶスリムにできたからある程度スペースには余裕が生まれるだろうさ。ただ、タンクの薄さはこれ以上はまだ無理だ」

「薄くできなかったのか?」

「ああ。これ以上をやろうと思えば、加圧やらなんやらで変形なり破裂なり起こしちまう。そうすると加圧の状態も悪くなって酒も悪くなる。最初にそう説明したのはそっちだろ」

 

 誰も知らない蒸留タンクの図面や注意点などもろもろ話した時の会話を覚えていたらしい。

 何かしら画期的なタンクの作り方があれば話は変わってくるが、酒造りと同様にそうそう上手くいくものじゃない。

 

「倉庫の目途は立ったのか?」

「残念ながら。まあどうにかするさ。この街中の者たちと酒を囲みたいからな」

「そうか」

 

 蒸留タンクの搬入等話を合わせた俺は、直近進められていなかった生薬の酒について考える。

 はちみつ酒をリンゴ酒で合わせ、そこにスパイスを入れるような形で生薬を突っ込むことができれば理想。

 

「それじゃあゴブニュ。また用事があれば来る」

「今度は酒も持って来い」

「ああ。もちろんだ」

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