まあ気にせず読んでください。
蜂蜜酒、それにゴブニュのファミリアが作ってくれたタンクを使った蒸留酒の作成がうまくいかないため、気分転換にファミリアの外に出た。
時刻は昼過ぎ。
早朝からダンジョンに潜っていた冒険者の中にはすでに冒険を終え、1日の疲れを癒そうと外に出てきているものもいる。
右手にはシードルというにはまだ未完成なリンゴジュース。左手にはジャガイモの何か。
そしてその横には紐神。
「ったく、なーんで僕の所には眷属ができないんだい! 全ての家庭に存在する炉の神だよ? すごく偉いんだよ!」
「そんなだからだろ」
何か食べたいと思いふらっと寄った屋台にこの駄女神がいたのが俺の運の尽きだろう。故郷も違うというのに集られ、たまたま持っていたシードル擬きの一本をせびられ。
「全く……。三大処女神が聞いて呆れるな」
「なんてことを言うんだい! 僕ほど真面目なやつが他にいるわけないだろう!」
「少なくともお前よりか俺の方が
俺の言葉に天を仰いだ神ヘスティア。そんな彼女の横で迷わずジャガイモに食らいつき、シードル擬きで胃の中に流し込む。
「でも酷いと思わないかい? 神友である僕のことを顔も見たくないって言って追い出すなんてさ!」
「至極真っ当だろ。ニートを養えるほど今のオラリオは安定してないんだ」
「じゃあどうすれば良いいのさ」
「答えはシンプルだろ。一旦しっかりと働いてお金を貯める。その後ある程度まとまったお金を渡してこれまでの行動を謝罪する」
えー? なんて不貞腐れるヘスティアに、思わず頭を抱える。
リリルカの方が聞き分けがいい。比べるのもリリルカに悪いレベルで。
「重要なのはまず謝ること。そして、なぜ行動に至ったかの理由と、今後どうしていくかの約束。最後に約束を守ること」
「そんなこと言ったってさぁ」
「少なくともここで不貞腐れてる女神より、皆と同じ目線で生活している女神の方が眷属もできやすいと思うぞ?」
うーん。と腕を組み妙な唸り声を上げていたヘスティアは、チラチラと俺のことを横目で見る。
「なんだ」
「ならさ、僕のことソーマのところで雇ってくれないか!?」
「急に何を言うんだコイツは」
「えー、良いじゃないかー。働けって言ったのはソーマだろ」
ほとんど初めて会った俺になんてことを言ってやがるコイツ。
「同じニートの仲じゃないか!」
お前と一緒にするな。少なくとも俺はただ引き篭もっていたお前とは違い神酒の研究をしていた。
「俺のところじゃ無くて、デメテルのところでも行けば良い。あそこの農業は普段から人手不足だ。イシュタルのところから人員を借りてバルは運営できてるし、酒造りも人を増やしすぎて収拾がつかなくなったらいけない」
「むむむむ……」
「それに、俺のところで働いたらロキがうるさいぞ」
「それは嫌だなぁ」
わかったら付き纏わないでくれ。俺が言えたことじゃないが、疫病神はいらない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おら!」
ガラの悪い声と共に【
肩に刀剣を抱える者。斧やら弓やらを携えた荒くれ者がズカズカとフロアに入ってくる。
「いらっしゃいませ」
「おいおい、いらっしゃいませだってよ」
「いいねー。酒も金も女もいる」
人数は大体十数名。
見るからに怪しい雰囲気をしており、従業員間に緊張が走る。
幸いまだバルが開店した直後のため、他に客はいない。ただ、残念ながらソーマ・ファミリアの高ランク者たちはまだダンジョンにいて戻ってきていないし、治安確認のたまにやってくるガネーシャの眷属たちは大体開店してから1時間以上後。
「お客様でない場合はお帰りいただけますか?」
この場にいるものの中で唯一のレベル2であるソーマ・ファミリアの団員が動揺を隠しながら声をかけるが、そんな姿を嘲笑うように数十人の団体はどかっとテーブルを占拠する。
「何が目的かな。すまないが今は団長も主神も留守だ」
「っは! この状況で要件だ? 聞かなくてもわかるだろうが」
「そうそう。俺たちは客。お前らは店員。さっさと酒出せや!」
そう言って蹴り飛ばした椅子が壁にぶつかり壊される。
小さな悲鳴が聞こえ、団員たちの中には隠れるようにしゃがむ子もいる。
「暴れるなら帰ってくれ。ここは酒を楽しむ場所であり乱暴に叫ぶ場所じゃない」
そうだそうだと小さく他の従業員が抗議するが、冒険者たちは気にせず酒を持ってくるように要求する。
「ここはあなたたちのためにある酒場じゃ無い。この後も来てくれる他の客がいる。その人たちの迷惑になるなら帰ってもらう」
「へーへー。これだから頭の硬いやつは」
「てめーの仕事は俺たちに酒と飯を出して、横に女を付けることだ。分かったらさっさ」
「おい、二つまでは良いが、最後のは歓楽街にでも行ってこい」
「ああ? なんだぁ?」
朝から姿を消していた白ローブの主神の姿を見た時、団員たちから力が抜けた。
「俺がここの主神ソーマだ。用があるかないかは知らんがまあ、飲むなら飲んで行ってくれ。お前たち、適当で良い。酒を出せ」
「おうおう分かってんじゃねーか。さすが酒の神だ」
「もちろん金は貰うが。酒を飲む以上はここの客だ。危険な行動を行わない限りは」
「でも、良いんですか? あいつらは見るからに……」
「良い。ただ、何かあっても良いように誰かガネーシャのところかアストレアのところか。どこでも良いから治安部隊にそれとなく伝えてくれ」
ソーマ・ファミリアは冒険者も含むファミリアではあるものの、武力という面では中堅ファミリアに少し手が届かない程度の存在。自衛は難しい。
「ソーマ様、私が行ってまいります」
「ザニスか、分かった。頼む」
拠点側の入り口から出るため裏に入ったザニスの後ろ姿を見送ると、俺はローブをカウンターに置き、目の前にあった酒をグラスに注ぐ。
「そ、ソーマ様、そんな悠長に飲んでは……」
「問題など起きる時は起きる。事前に対応できることなら動くが、今回など、暴れたら抑える程度しかできん」
ザニスが応援を呼びに行った以上現場でできることはここまで。
それで良い。波風を立てないとかではなく、なるようになる。
「それに、相手は飲みに来てるんだ。たらふく飲ませて、食わせて財布を丸ごと奪う形でやり返した方が健全だ。新しい酒の資金にもなる」
「それは……そうですね」
「お疲れ様です。……神ソーマ、これはどういう……」
「戻ったかネクタル。まあ、荒くれ者が来たってだけだ。ダンジョン帰りですまないが荒事が起きないようにフロアに出てくれるか?」
「かしこまりました」
「あ、あのリリは……」
「今日は少し休もうか。普段から頑張っている分休むことも重要だ」
今日もネクタルと共にダンジョンに潜っていたリリルカ。どこか不安そうな顔で酒場と俺の顔を交互に見るが、それ以上のことを言わない俺を見て拠点の方へと戻っていった。
「流石に子供にアレの相手はさせられないですね」
「ああ。本人は少し不満そうだがな」
「実際の親よりちゃんと親をしてますよ。ソーマ様は」
うちの親なんて〜。とおちゃらけて話す団員の話を聞き、酒を飲む。
「そうだと良いが」
普段より騒がしい酒場の中、背中に視線を感じながら飲む酒は、普段より少し雑味を感じた。
あの面々はまだ様子見だろう。
闇派閥が本当にこの場所を攻撃するなら、騒ぎを起こす前に潰しにかかってくるはず。
ロキもガネーシャもアストレアも最近はどこかピリついた雰囲気がある。街の雰囲気がどこか暗い。
団員のみんなに何も起きなければ良いが。