神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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酒の神

 オラリオの街にいる酒の神は?

 そう質問すれば真っ先に名前が上がるのはソーマだ。

 

 酒造りの神として自身の作成した酒が一気に広まり、オラリオの住人を魅了した味は今まであったワイン中心の酒とはまた違う広まりを見せる。

 開店早々一気に評判が広まった【豊穣の女主人】にも酒を卸し、その勢いは止まるところを知らない。

 

 だが、もともとオラリオにいた酒の神といえば市民からの支持が厚いディオニュソスである。豊穣と酒の神であり、葡萄とワインに明るい神。それが彼である。

 

「いやぁ、いつもすまない。わざわざソーマまで持ってきてもらって」

「気にするな。友への迷惑料がこの程度で良いなら幾らでも持ってくる」

 

 ディオニュソス・ファミリアへと足を運んだソーマは、彼の机にごとりと神酒を入れた瓶を置く。

 早速。そう言ったディオニソスはソーマの中に手芍を入れグラスに注ぎ、ソーマの透明感や香りを味わう。

 

「君は飲むかい?」

「散々飲んでいる。失敗作(それ)もな」

「君はこのソーマを失敗作と言うが、個神的には子供に極上の酔いを味わわせる素晴らしい酒だと思うんだがな」

「そこは良いんだ。ただ、酒に取り憑かれるのがよくない。それに、神も酔えないのであれば意味がない」

 

 酒造りの研究者としては100点だよ。君の考えは。

 そう呟いたディオニュソスはグラスを傾け一気に飲み干す。

 

「私はこう言った酒には明るくないからね。もっぱら葡萄酒。まあそれも今じゃ君の酒に淘汰されようとしている」

「何をいう。この街の基盤には葡萄酒がやはりある。万人が選ぶ酒だ。俺の酒はそこまで辿り着けていない」

 

 そこまで言うと、俺は反神酒を彼の前に置く。

 

「これは?」

「今日の本題だよ。神酒の酔いによってもたらされる中毒症状を弱める、最終的には覚ますために開発してる酒だ。改善をしたくて、友の力を借りたい」

 

 俺の言葉に静かに反神酒を見つめたディオニュソスは、少し間を空けてから普段通りの笑顔で答えた。

 

「もちろん。私の力が役に立つなら幾らでも」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ずいぶん成長したな。リリルカ」

 

 とある日の朝、リリルカは更新されたステイタスが記された紙を受け取る。

 

 リリルカ・アーデ レベル1

 力  :F 348

 耐久 :H 136

 器用 :G 267

 敏捷 :G 201

 魔力 :H 174

 

《魔法》

 シンダー・エラ

・変身魔法

・変身像はイメージに依存

・詠唱式:【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

・解呪式:【響く十二時のお告げ】

《スキル》

神酒月杯(シャシン・ソーマ)

・『力』『耐久』『精神』の高補正

・精神汚染に対する高抵抗

・飲酒時における全アビリティ能力の高補正。補正効果は酒質に比例

縁下力持(エーテル・アシスト)

・一定以上の装備荷重時における能力補正

・能力補正は重量に比例

・「力」のステイタス成長に補正

・成長補正は重量に比例

 

「【縁下力持(エーテル・アシスト)】が発現してから何か変化はあるか?」

「そうですね……。基本的には力のステイタス上げに役立てているのと、卸しの時にお酒を運ぶのが楽になりました!」

「はは。そうか」

 

 確かに言われてみれば、普段から瓶の移動や食材を入れた木箱の運搬など、リリルカが自分の手で動かすことが増えたような気がする。拠点から卸先へ荷車で運ぶ時も、今まではよく荷台の上に座って大人の団員が運んでいたが、自分で牽くことが増えている。

 

「お前のおかげで商業部(ダーナ)の面々も助かってる。今後も頼む」

「もちろんです!」

 

「それで、今日は何か予定はあるのか?」

「今日は少しヘファイストス・ファミリアの施設に行こうかと」

「ほお、ヘファイストスの所か……」

「ダメ……ですか?」

「いや、俺たちの倉庫や工房においている蒸留器などはゴブニュの所にオーダーしているところだから、可能ならゴブニュの所で買い物してほしいが……、あそこは高いからな」

 

 オーダーメイドを中心に鍛冶商売を行っているゴブニュ・ファミリアに比べ、ヘファイストスの方針は鍛冶職人に自由に作らせ、それを周囲に買ってもらうのが方針。ソーマの頭の中にある要望を形にするにはゴブニュ・ファミリアが積み上げてきたオーダーをしっかり投影する技術が必要なため、必然的にお得意関係になっている。

 それに、鍛冶系のファミリアには酒好きのドワーフが多いのも理由だが。

 

「何か買うのか?」

「ダンジョン内で使う手袋が少なくなってきたので、少し買い足そうかと。それと一緒にナイフをメンテナンスしてもらおうかと」

「……。ならヘファイストスの所に椿というハーフドワーフの鍛冶職人がいる。彼女に酒を頼まれていてな。試作品だが共に持って行って欲しい。それを届ける次いでに物を買えばゴブニュも特に何も言わんだろう」

 

 リリルカに少し待ってもらい、俺は棚の中からガラス瓶に詰めた無色透明の酒を取り出す。

「これがこの酒の説明だ。椿に会ったら渡してくれ。代わりに読み上げても良い」

 一枚の紙にびっしりと文字が敷き詰められたそれの一番上にはこの酒の名前が書かれていた。

 まだ正式な商品ではないから【シャシン】の名前がついていないそれを見て、リリルカは呟く。

 

「メスカル。もしくはアガヴェ……ですか」

「ああ。ドワーフの火酒に勝るとも劣らない酒精の強い喉を焼く酒。商業部のドワーフたちが自ら作りたいと言い出してな。大雑把な方向性を見せて作らせたが、まだ俺自身が納得した味を出せていない以上試作品だが、あの子たちの自信作だ」

 受け取った酒瓶を両手に持ったリリルカは、新しい酒に興味津々といった表情をしているが、彼女をヘファイストス・ファミリアの拠点に向かうよう促す。

 

「行ってらっしゃい」

「はい! 行ってきます!」

 そのまま神室を出ていったリリルカを見送ったあと、ソーマは椅子に座り込む。

 

「ジンにウォッカ。ミードとシードル。それにメスカル。ワインはディオニュソスの管轄である以上手を出せば潰しあいになる。それに、俺の持つ技術であそこのワインを超えるのはまだ無理……」

 となれば次は何だ? 極東か?

「極東の酒と言えば米の酒だが、今度の神会の時に極東出身の神に聞いてみるか」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「すみません。ソーマ・ファミリアのリリルカ・アーデと言います。主神ソーマ様から椿様に用事があり参りました。ご本人様は本日いらっしゃいますか?」

 ヘファイストス・ファミリアの拠点に到着したリリルカは、門番として駐在していた冒険者に声を掛けた。

 

「椿さん? あーどうだろう。今日って外に出ていったの見たか?」

「いや、俺は見てない。たぶんダンジョンじゃないと思うけど、夜中に出てたら分からないな……」

「えーっと、いない感じですか?」

 そう聞いてみれば、二人の門番は気まずそうな顔を浮かべる。

 

「いや、たぶん拠点の中にいると思うんだけど、ただ椿さんが工房に居たら俺たちは入れないんだ」

「そうそう。椿さんはオラリオのトップクラスの鍛冶職人だから、専属契約っていうのをしている冒険者か団長。それに主神のヘファイストス様くらいしか入れないんだよ。一応取り次いでみるけど、無理でも怒らないでくれよ?」

「もちろんです!」

 

 門番の一人が拠点の中に消えていく。

 彼の帰りを待つ間多くの冒険者がこの拠点を訪れ、来た時には持っていた武器を帰りでは持っていない者や、逆に出てきたときに武器が増えている者など、多くの姿を見る。バルに来る冒険者たちの顔とはまた違った表情を見せる人たち。

 十数分ほど待った頃、先ほどの門番が拠点の中から現れ、その後ろには褐色の肌を見せる女性。椿・コルブランドその人が現れた。

 

「お主か。手前に会いに来た神ソーマの使いは」

「はい! ソーマ・ファミリアのリリルカ・アーデと申します!」

 早速ですが、とリリはソーマから預かった酒であるメスカルを渡す。

「ソーマ様がおっしゃるには、オラリオ南部の乾燥地帯に生えている草を蒸留したスプリットらしく、ドワーフの火酒にも負けない喉を焼く独特な飲み心地と鼻から抜ける香りが特徴だとの事です。細かい内容はこちらの紙面にソーマ様がまとめてくれてます」

「おお! そうか! んじゃ早速!」

「つ、椿さん? 飲むんですか?」

「良いだろう? 別に今日は誰かとの約束があるわけでもない。手前がここで飲んだところで、この酒は神ソーマから直々に頂いた手前の酒……」

 

「飲むのは自由なのですが、よろしければ拠点の中を案内してほしくて……」

「ん? なにかあるのか?」

「サポーター用の手袋が少なくなっておりまして、その分の補給と、護身用のナイフのメンテナンスか買い替えを」

「ほお! お主はサポーターか! ソーマ・ファミリアの冒険者はヘファイストス・ファミリア(手前ら)とはあまり関りがなかったからな。【神樹の銀手(パーリ・アンガ)】もそうであるな。ファミリア間をつなぐ良い機会だ。手前が見てやろう」

「椿様直々ですか! ありがとうございます!」

 

 椿からいろいろを聞く。サポーターとして使う武器や、もし戦うとすればどのように戦うのか。武器としての好みやダンジョン内での行動。

「そうか。あまり下にもぐらないのであれば、手袋としては耐久力と防火性の高い安価なものがある。さすがにヘルハウンドの火炎を何発も耐えるとなると値段は嵩むが、最低限の質を求めるのであればここらであろう」

 他ファミリアにも開放されているショップ部分。種類ごと、また作者ごとに分かれている棚を眺めれば、サポーター用として置かれてはいないが、小手を使わずに冒険する者たち用に作られている手袋を見せてもらえた。

 

「それにしても、【神樹の銀手(パーリ・アンガ)】と共にダンジョンにもぐるのであれば手前も会ってみたいな」

「それはどうしてですか?」

「なぁに、手前が作るのはほとんどが刀剣。徒手空拳ではかなりの者と称される彼のものがどれほどの武具を使うのか、一鍛冶師として興味がある。奴は魔法などは使うか?」

 そういわれて団長と潜ったダンジョンを思い出すが、正直二人で潜るときはリリルカのステイタスより少し上の難易度を求められる階層にしか潜らないため、団長に適した階層で戦闘をしていない。

 

 かすかな記憶を呼び出し一度だけ見せてもらった時の団長の話では、たしか力や敏捷の強化だと話していたような気がする。

「なるほど。では属性を付与(エンチャント)する小手などを売り込むことは可能であるな」

「も、もしかして押し売りとか考えてますか?」

「さぁ。本人と会って話してみたいとは思うが」

 椿に勧められるがまま手袋を二組手に取ったリリは、値段を見て固まる。

「どうかしたか?」

「い、いや……。ただのサポーターには少し手が……」

「ふむ。なら手前が出そう。ソーマ・ファミリアの同胞たちに酒を造ってもらったそのお礼だ」

 そのまま有無を言わせぬまま手袋を会計担当の団員に持っていた椿は、一言二言だけ話してリリルカに手渡した。

「消耗品とはいえ大切に使うと良い。後にお主が手前の武器を買ってくれる日を楽しみしよう」

「リリは冒険者じゃないのであまり機会はないと思いますが」

「それでもだ。リリルカ・アーデ。お主の話はドワーフの同胞たちから最近よく聞く。ソーマ・ファミリアで酒を配る小さな看板娘。それがダンジョンでも頑張っているとな。その時はお得意先になってくれ。そう知れば手前も武器を作れる」

 

 さわやかな笑顔をみせた椿にお礼を告げ、リリルカは帰路の最中に気づく。

 

「ナイフのメンテナンス忘れてた……。まあでもいいか」

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