神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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アストレア・レコード……、わからぬ……。
ほとんどオリジナル展開ですが気にしないでください。


両親

 ソーマ・ファミリアの拠点は、金や酒など闇派閥から狙われやすいという理由で商業部の面々および神ソーマは拠点を離れることとなった。

 優先すべきは市民。その事実から非冒険者のほとんどは高ランクの探索系ファミリアの拠点へと入っており、ソーマは同郷の伝手でガネーシャ・ファミリアに協力を求め、彼らの拠点(アイアム・ガネーシャ)に移っていた。

 

「リリちゃん! 仕出しが追い付いてないよ!」

「は、はい!」

 

 商業部は、戦場と化している市街地を駆け巡る冒険者が戻ってきたタイミングでの補給や、市民へのご飯を渡すために必死に動く。

 

「探索部の馬鹿どもも暴れてる。俺たちだってソーマ・ファミリアの団員なんだ。かっこいいところをあいつらだけに独り占めさせるわけにはいかない!」

「そうそう! こちとら人が切れないバルの調理場を仕切ってるんだ。これくらいの忙しさなんてことないね!」

「ってか俺たちが必死になって作った酒奪いに来るんだろ!? んなもん許すわけねぇーだろうがバーカ」

「探索部のバーカ!」

 

 非常事態ゆえの忙しさに切れているバル担当の面々や酒蔵担当がそろって抗議の声という名の不満を叫ぶなか、リリルカはエプロンもつけずお椀に注いだスープを一人でも多くの市民に運ぶ。

 

「こんな時なのに、ありがとうね」

「まったく、何てことだい……。私ら市民のことも考えて欲しいもんだよ」

「あ、あはは……。とりあえず体を温めれば落ち着けますから」

 

「負傷者だ! とりあえず奥に!」

「こっちも負傷者だ! 優先順位を決めて治療師(ヒーラー)に見せろ!」

 

「ほんと、物騒だよ。ゼウスとヘラのファミリアがいれば」

「二派閥は何してるんだ……」

 

「リリ! 止まってないで動いてくれ! まだまだある!」

「分かりました!」

 

 料理を準備して届ける傍ら、武器の補給にやってくる冒険者の姿を見つめる。その中には名の知れた冒険者もいて、大小様々な傷を負いながらも、市民を背負いやってくる。

 ガネーシャの、ソーマの、他派閥の冒険者が入れ替わり立ち替わりやってきては、武器庫から出したのであろう大量の武器から壊れた武器の代わりを選びまた街に繰り出す。

 

「ソーマ様、酒はどうしますか!」

「飲みたい市民がいるなら分け与えて構わない。冒険者には踏ん張ってもらわないといけない以上全部が終わってからだ」

「かしこまりました」

 

 ソーマも指示を出す中、一際大きなざわつきが避難所で発生した。

 

「団長!」

「だ、団長!!」

「すまなぇソーマ様、ネクタルが、俺を逃すために【暴食】に……」

 

 ガネーシャファミリアのレベル4冒険者であるハシャーナに担がれていたのは、白色の外套を真っ赤に染め、彼の背中に担がれているソーマ・ファミリア団長の姿。

 

「右腕が……」

「神ソーマ……」

「喋るなネクタル。誰か、早くエリクサーを! このままだとネクタルが死ぬ!」

 ガネーシャの眷属がエリクサーを握りしめてやってくると、意識も絶え絶えと言ったネクタルの口に無理やりエリクサーを突っ込む。

 

「まだ、貴方と酔えていない。戦わねば」

「良い! 今は休めネクタル。その腕じゃ戦えんだろう」

「だが」

「お前が死んでは元も子もない。誰が馬鹿どもの面倒を見る。俺一人であいつらの子守りなど許さんぞ」

「はは。それもそうだな」

 

 ついに意識が落ちたネクタルだが、エリクサーの効果はすでに出ているのか出血は治まっている。ガネーシャ・ファミリアの治療師も気絶しただけとそれだけ言うと床に寝かせる。

 

「団長がやられるって、どんだけなんだよ……」

「レベル4だぞ? 俺たちの中じゃ一番強いのに」

「不安になるな。ネクタルがここまでやったんだ。俺たちもできることをやる。治療に仕出し、できることに集中しろ。良いな!」

「は、はい!」

 

 ソーマの一喝で眷属たちの気が引き締まり、それぞれが元の仕事に戻る。

 

「ソーマ! 闇派閥の奴らガキども使って自爆してきやがった!」

「っクソが、誰か巻き込まれてるか?」

「アーデ夫妻が取り残されてる!」

 

 団員の伝令を聞いて血の気が引いたリリルカは、気がつけば足を動かしていた。

 

「リリルカ! 待て!」

「リリちゃん!」

「い、今行かないとダメな気がするんです!」

「行ってどうなる!」

 

「あんなのでも! あの二人はリリの両親なんです!! リリが行かなきゃ!」

 

 有無を言わさず駆け出したリリルカは、両親が取り残されたと言う場所へと向かう。

 通りは一部壊れており、火だって上がっている。そこらかしこで起きている炎が子供による自爆だとは思いたくなかったが、それでもリリルカは走る。

 

「リリだってソーマ・ファミリアの一員なんだ。みんなと一緒に戦う」

 武器なんて何も持っていない。行く先に両親がいるとは限らない。それでも行くしかない。石畳の街道を突き進み、爆発が起きる地点に向かう。

 

「おいガキ! なんでこんなところにいる!」

「子供がまだいる、誰か避難させろ!」

 街の見回りをしているどこかのファミリアの誰かの声を無視して、リリは走り続ける。

 

 見慣れた街並みが一部壊れている中、遠くのほうに大量の影と、それに囲まれた二つの姿が見える。リリより少し大きいくらいの背丈の影は、ローブを被っていてその顔は見えない。

 

「っ! あんたちゃんとやらないと酒も何もないんだよ!」

「わっかってんだよブス! 糞餓鬼どもが集まってきやがって……。ハエかってんだ」

 

 リリを一回り大きくした程度しかない身長の二つの姿。口が悪く、素行も悪いその姿に頬が緩んだ。

 

「お父さん! お母さん!」

「ああ!?」

「何しにきやがった愚図!」

 

 二人の意識が敵から自分たちの子供に切り替わる。その瞬間を見計らった唯一体の大きいローブ姿の一人が父へと近づいた。

 

「小人族ごときが人間様と同じ場所に立てると思うな!」

 

 蹴り飛ばされた父に向って、追撃を行うよう指示が出され、小さなローブが彼に迫った。

 

「しっかりしなあんた! こんな時にまで迷惑かけて、ゴミみたいな娘だわ」

 

 リリの体は母に押しのけられ、石畳に尻餅をつく。

 母は迷わず手に持ったボウガンを使い、父の周りに迫った敵を撃って援護を始めた。

 

「傑作だな! お前らのガキか、そいつは。それをゴミ呼ばわりたぁ、お前ら倫理観あんのか?」

「てめぇに言われたかねぇな!」

「そうやって叫ばなけりゃ喋れないくらいにしか、股座にぶら下がってんのもちっさいんだろうさ!」

 

 口の悪い二人の姿を見たリリは立ち上がる。

 

「行け。子らよ。お前らの散らす命は天上を巡り再び両親の元へと舞い戻る。死した両親に会うため、死ね」

 

 走り出した一人のローブが風でめくれる。

 これから自爆するというのに、その小さな子供はよくわからない球を持ち、目を輝かせながら迫ってくる。

 

「ガキは道具、見上げた根性だな」

「私たちが言えたことじゃないさ」

 

 迫りくる多数の子供たちに、両親は躊躇なく刃を振るい、ボウガンを撃つ。

 それでも多勢に無勢、その一人を倒せば二人が特攻を狙う状況。種族の特徴として短いリーチをカバーするための槍を振りぬき、父が近づく敵を討つ。

 

「いつまでぼさっとしてんだ、さっさと逃げな!」

 

 母は左手で持っていたナイフをリリの元へ投げ飛ばし、逃げるように叫ぶ。

 

「こんな時だけ親みたいなこと!!」

「こんな親、あんたの前じゃ要らないんだよ! 良いから行け!」

「ソーマのカスがお前のことを気にしてるんだ、そんな奴を守ったってなら褒美に大量に飲める。こんなゴミにいったいどんな価値があるのかはわからないが、酒さえ飲めればそれでいい」

 

「ったく何をしているんだ子供たち! さっさと自爆してこいつらを闇に叩き落とせ!」

 

 自分のちょうど少し先に転がったナイフ。

 眼前には爆発を引き起こそうとする子供たちと、それを蹴り飛ばし、薙ぎ払い遠ざける両親。

 敵のトップは一番後ろ。

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】  

 

 動かなければ。そう思った時には詠唱行っていた。

 イメージは目の前にいる爆弾を持つ子供。自身の身長に近く、顔なんかも月明かりに映ってはっきりと見える。

 恩恵をもらったその日から、なんでこんな魔法が使えるのかはわからなかった。自分が自分じゃなかったら。そう思っていたあの日々のおかげかもしれないが、それでもその思いが今、両親を救う手段になるかもしれない。

 

   《シンダー・エラ》」

 

 暗い色のローブを身に着けたリリは、母のナイフを手に持ちそのまま駆け出す。

 狙いは父親。父の攻撃の衝撃で敵の指揮官のところに飛ばされれば、そのまま指揮官を攻撃できる。

 

「う、うぁああああああ!!」

 

 叫びながら父のところへ走る。

 

「あがっ!!」

 

 今まで感じたことがないほどの衝撃がリリの腹を襲い、そのまま蹴り飛ばされ作戦通り指揮官の横に吹っ飛ばされる。

 

 痛い。とてもとても痛い。

 いままで二人から殴られ、蹴られたなかでも一番痛いかもしれない。それでも意識を手放せば魔法が解除され変身が解ける。そうなれば、三人全員が死ぬ。

 

「くそ! くそくそくそ! 小人ごときさっさと殺せぇ!」

 

 ふらふらと腹を抑えながら立ち上がったリリは、目の前にいる子供たちをにらみ、そして横にいた指揮官の横腹にナイフを突き刺した。

 

「あ、あぁあああああああああああ!

「この! この! この! この! この!」

 

 ただ、この男を止めるために小さな手が赤く染まっても、血が顔についてもその手を止めず、ナイフを抜いては再び刺し、抜いては刺す。

 何回やったかわからないほど突き立てたナイフを引き抜く握力もなくなり、動かなくなった男から視線を両親に向けたとき、母と目が合った。

 

いままでごめんね。リリルカ

 

 爆炎によってかき消され、母が何を言ったのかリリルカは聞き取れなかった。

 燃え上がる火柱と吹き飛ばされた体。

 

「う、うそ……。そ、そんなの」

 

 火柱に近づこうとも足が動かない。

 

「なんで、なんでなんで!!」

 

「おい! 火が上がってる!」

「遺体がある! 誰かが戦闘していたぞ!」

「子供だ! 子供がいる! 血まみれだ!」

 

 冒険者たちが火柱を見て集まってくるが、それでもリリの足はまだ動こうとしていなかった。

 

「こいつ、ソーマ・ファミリアのちび売り子じゃないか?」

「よく荷車引いてるやつか。どうする団長」

「おいちびっ子、ここじゃあ危険だ」

 

 冒険者の声が聞き取れない。右から左に流れていく

 

「セレニア。ソーマ・ファミリアは確かガネーシャ・ファミリアのところに集まっていたはずだよな」

「ええ。そうよベート」

「わかった。こいつを運んでやってくれ。ほかのやつは近くに敵がまだ潜んでいないか確認しろ。子供の自爆特攻なんてもんが連絡で回ってきている。このままじゃもっと被害が出るからな」

 

「あなた確かリリルカちゃんよね。行きましょう。神ソーマのところに」

「で、でも、お父さんとお母さんが……」

「あの火柱が……。貴方を守ったのね」

「あ、あ、うそ」

「セレニア。無理やりでも連れて行ったほうが良い」

「わかったわ」

 

 リリは女性の腕に抱かれながらも、燃え盛る火柱から目を離すことはできず、気が付けば意識を手放していた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

  最終的に、【暴食】をフレイヤ・ファミリアのオッタルが仕留めたことでこの抗争は決着し、いつの間にか『死の七日間』と呼ばれた。数多くの冒険者、そして市民の命が失われ、その中にはリリルカの両親であるアーデ夫妻の名前も含まれている。

 

「ここにいたか、リリルカ」

「ソーマ様……」

 

 冒険者が死んだ時埋葬される、ギルドが管轄の冒険者墓地。

 

「少しは、心の整理はできたか?」

「……、いえ」

「まあ、だろうな」

 

 ソーマ・ファミリアを表す月と杯のエンブレム。そして二人の名前が刻まれた墓石の前にしゃがんだ俺は、持ってきた【シャシン・アガヴェ】の酒瓶を供える。

 

「なんで、憎ませてくれなかったんでしょうか。あんな最後になるくらいなら、リリは……。リリはずっと恨ませて欲しかった」

 嘘はない。紛うことなき本心だろう。

 虐待を受け、搾取され。本人は、俺への恩返しだと言う原動力を話すが、親を見返すことも彼女の原動力の一つだっただろう。

 

「あんな最後……」

「お前の母が、スアーハ・アーデが言っていた。自分は良い親ではなかったと。今更笑いかけることもできないと。だから、お前のことを頼むと」

 あの目は、絶対に酔った目では無かった。

 

「ずっと前から、神酒による酔いからは目覚めていたのだろう。ただ、それまでのことを清算するには、彼女たちの心が許さなかったんだろう」

「そんなの! 親の勝手じゃないですか!」

「ああ、親は勝手だ。産めと願っていない子を作り、育てる。理由はそれぞれだ。労働力が欲しい、相手の子供が欲しい、ただ出来た。本当に身勝手だ」

 

「なら!」

「でも、あの二人はちゃんとお前に悪いと思っていた。死人に口なし。あの二人がどう思って最後の時を過ごしたのかは分からない。ただ、お前は残された。あの二人の子供として、ソーマ・ファミリアの核として。ただ酒に溺れるだけだったあの二人に与えた新たな酔いは、お前だ。リリルカ」

 

 リリルカの肩に手を置いた俺は、彼女の目を見つめた。

 

「リリルカ・アーデ。俺たちソーマ・ファミリアは、お前と言う酔いを中心に動いている。それは、お前に刻まれたスキルに俺が酔い、そしてそれが伝播しているからだ」

「リリの、スキル?」

「【神酒月杯(シャシン・ソーマ)】、飲んだ酒の質によりステイタスに補正をかけるとともに、酒などに対する精神汚染を軽減するスキルだ。ただ俺が作る神酒に酔い、中毒を起こすのではなく、ともに酒を飲み、味を吟味し、酔いを共有できるかも知れないスキル。可能性であるが、そのスキルが俺を変え、ファミリアを変え、この街を変えている」

 

「酒で、強くなるスキル……」

「ああ。俺の名が刻まれたお前だけのレアスキル。いつかお前は聞いていたな。俺の手伝いをしたい。と」

 コクンと首を縦に振った彼女に、俺は微笑みかける。

「そして俺は、助けられていると答えたはずだ」

 再び頷くリリルカ。

 

「たとえ思うところがあったとしても、お前は託されたものとして想いを紡がなければならない。愛情だろうが、憎しみだろうがなんだろうが。スアーハは最後お前になんと言っていた」

「今まで、ご、ごめんっで、あ、謝っでまじだ……」

 

 ギュッと袖を握り、俯く彼女の目には涙が滲む。

 

「お前はどうする? その涙を浮かべたお前は、両親にどうする?」

「リリは、リリはぁ!!」

 

 バッ! とソーマを跳ね除けたリリルカは、夫妻の墓跡の前に置いていた酒瓶を乱暴に掴むと、栓を開けて口につける。

「おい! リリルカ」

「あ、ああ」

 

 衝動だろう。

 振り上げたリリルカの右手は墓石にヒビを入れ、その隙間に彼女の涙が染み込んでいく。

 

「もっと! もっど二人どいたがっだ! 一緒に、ゾーマざまのお酒を飲みだがっだ!」

 

 彼女は一体今、どんなあるはずだった未来を見ているのだろうか。

 ともにダンジョンにいる絵だろうか。それともグラスを突き合わせている絵だろうか。はたまた、街中をリリルカを中心に3人で手を繋ぎながら、他愛もない話をしながら笑い合い歩く絵だろうか。

 

「ちゃんと! ぢゃんど! 親子になりだがっだ!!」

 

 悲痛な叫びだ。亜麻色の髪の隙間から見える涙は、どんな酒よりも澄んでいて、美しく儚く思えた。

 

「前には進めそうか?」

 

 鼻を啜りながら立ち上がったリリルカは俺に顔を見せない。

 それでも握りしめていた拳は開かれ、背筋はピンと伸びていた。

 

「はい」

 

 短く返事した彼女は目元を拭うと、しっかりとした目で俺のことを見つめる。

 

「強くなります。父のように種族を言い訳にしないように」

「ああ」

「優しくなります。母のように、謝るような最後を送らないように」

「ああ」

「だから、リリの酔いを見ていてください。ソーマ様(お義父さん)




原作だとヴィーザル・ファミリア時代のベートが知らない間にリリを助けてるらしいですね。

この話を書きながら、頭ではamazarashiの「自虐家のアリー」と言う曲を思い浮かべていました。
私の描くリリルカの心情が少しでも伝わってくれればと思います。
心情とか、親視点とかもう少し書けばよかったって書き終わってからは思います。
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