神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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 酒の匂いが広がっている拠点(ホーム)の中。

 机に突っ伏すもの。長椅子をベッドのように使うもの。

 人同士が争い割れる皿にジョッキの音。

 

「これが俺の家族(ファミリア)……」

 

 正直驚きしかない中、部屋から出てきた俺の存在に気づいた団長が驚いた表情で近づいてきた。

 

「神ソーマ……、如何なさったのですか? 部屋から出てきて……」

「いつもお前に回収させていた失敗作を飲ませたのか? これは」

「え、えぇ、主神の酒を褒美とすれば彼らも喜びますので……」

 

 んで以て失敗作に依存させ、それを出汁に命令する。

 

「醜い……」

 

 団長の矮小さや姑息さと、こうなっていても関わろうとしていなかった自分に悲しみさえ覚える。

 笑い、泣き、感情を共有するのではなく、暴力によって恩恵を受け、依存が全てを支配する環境。暗く荒んでいる印象を受ける広間に深くため息を吐いた。

 

神酒(ソーマ)作りに行き詰まった。少しばかり人間向けの酒を作る気でいる。完成したら市場に流す予定だ。手配を頼みたい」

「人向け……。神酒作りはやめるのですか?」

「全くしないわけじゃないが質を上げるために研究量を増やす。人間向けの酒は遠回りだ」

 

 完全に神酒作りをやめてしまうと、すでに依存度が高い子たちが暴徒と化すのが広間の様子からわかる。気付けの酒ができるまでは量を減らしていく方向を取るのが最善だろう。

 

「そういえば、先日恩恵を与えたリリルカは何処だ? 親といるんだろう?」

「い、いえ。アーデ夫妻はダンジョンへと潜っておりますが」

 

 なら本人はどこだ?

 そう思い決して広くない広間を見渡せば、隅の方に隠れるように小さくしている彼女の姿が見えた。

 喧騒を無視しながら彼女の元へと近づくにつれ、ボロボロな服や整えられていない髪の毛など、おおよそ3歳の女児に似つかわしくない姿が見えた。

 

「リリルカ。出かけるぞ」

 

 そう言えば彼女はびくりと肩を飛び上がらせ、俯いていた顔を一気に上へと向けた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 白昼のオラリオ。

 まだ人が多い時間帯の通りを歩く俺は、周囲から怪訝な目を向けられていた。

 それもそのはずで、俺の後ろには、置いていかれないように小走りなったり、追いついてゆっくり歩いたりと忙しない少女がいたから。しかも身なりはボロボロ。幼い奴隷を見せびらかして歩く癖でも持っていると思われても不思議じゃない。

 

「そ、ソーマ様、どこに」

「ギルドだ。お前の冒険者登録をしなくちゃならない。それに野暮用もある」

「やぼよう?」

「やらなきゃならないことだ」

 

 まだ三つのリリルカには理解できなかったようなので言い換え、そのままギルドへと向かう中、羽付の帽子を着用した旅人のような優男風の男神が向かって来た。

 

「人だかりだなと思ってみれば、まさか君、ソーマかい?」

 

 オラリオでも一二を争う胡散臭さをしている神、ヘルメス。

 神同士の仲介役を担うことが多く、幅広く多くのことに手を出す女好きの神。

 

「リリルカ。挨拶しなさい。彼がヘルメス。ヘルメス・ファミリアの主神だ」

「は、はい、初めましてヘルメス様……。リリルカ、アーデです」

 

「幼女を連れ出して一体どうしたんだい? 君らしくないじゃないか」

「事情あってまだ三つだが恩恵を与えることになったからな。一応冒険者登録に行く」

「その身なりだと結構誤解されるぞ?」

「ああ、彼女が登録をして簡単な講習を受けている間に服を見繕うつもりだが……。元手が()()しかなくてな……」

 

 そう言って右手に持った物を見せると、ヘルメスはまさかと生唾を飲み込む。

 

「それって……神酒(ソーマ)かい?」

「いやいやすごく美味しい酒なんだが、人間たちには飲ませられない、飲めるのが神しかいない少し特殊な酒だ。どうだ? こちらとしてはかなり安く売っても良いんだが……」

 

いくらだい?

特に値段は気にしてないが、リリルカの服装分は欲しい。分割でも良い、いくら出せる?

 

 ヘルメスが今の時点で持っている所持金がある程度あったため、ヘルメスの手持ちの5倍として設定。一旦その金額を丸々もらい、後ほど残りの金額をもらうことで合意する。ちなみにファミリアは通さず、ギルドを通してやりとりすることになるのも合意。

 

「酒好きの神は他にもいる。交渉の手段として使えるだろうし。それがこの値段なら十分だろう?」

「中途半端に金額を払うのもなんというか……。まあ、ロキに強く出れるかもしれないと考えればよしと思うべき。うん。そういうことにしよう」

 

「とりあえずヘルメス。次の神会(デナトゥス)には行く」

「わかった。ガネーシャたちには?」

「何も言わないでくれ」

 

 オラリオに降りている神の中でも随一の交友関係を持つヘルメスのことだ。彼が口を閉ざしていれば大抵の情報の伝播は遅くなる。逆もまた然り。

 

「ソーマ様、服って……」

「気にするな。リリルカはまだ子供。服は()が用意するものだ。それより、あれがギルドだ」

 

 奥に見えていたギルドへと足を踏み込めば、中には多くの人がおり、清潔感のある青年や荒くれ者のような大柄な男など、リリルカの知識にない多くの冒険者が中にいた。

 

「すまない。冒険者登録をお願いしたい」

「あ、えっと……」

「ソーマ・ファミリアの主神ソーマだ。訳あって3歳だが恩恵を与えたからな。探索系として登録義務があるのだろう?」

 

 カウンターにいた受付嬢が俺とリリルカの凸凹コンビに視線を何往復かさせると、慌てたように登録用紙を準備し始める。

 

「すまないがリリルカは身長が低いあちらのソファとテーブルを使わせてやって欲しい」

「か、かしこまりました」

「その間に彼女の服を買いに行きたいのだが、まだ付き添いは要るか?」

 

 俺の言葉を否定で返した彼女に礼を言う。

 

「リリルカ。すまないが一旦俺は離れる。しばらくしたら戻ってくるから、彼女と共にいてくれ」

「わかりました」

 

 しっかりとした返事を聞いた俺は、リリルカたちを置いてギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ギルドから離れて約一時間半ほど。

 ギルドからほど近いショップで小人族用の、さらに子供向けの服をある程度見繕ってきた俺は、リリルカと受付嬢が案内されていたブースへと向かう。

 

「すまない。入って良いか?」

「お戻りになられたんですね。神ソーマ」

「小人族のさらに子供用の服となると、いくらオラリオとは言え探すのに苦労した。とりあえず講習なりなんなりはどの程度進んだんだ?」

「はい。冒険者としての簡単な話。そしてダンジョン等の注意事項。ギルドとしてのサポート内容を伝えております。まだ3歳ですがしっかりしていますね。細かいところは話しておりませんが、それでもしっかりと理解している」

 

 リリルカは急に受付嬢から褒められて体を小さくするが、俺は彼女の亜麻色の頭を撫でた。

 

「とりあえずこれが服だ。センスどうこうは聞くな。俺は酒のことしかわからん。一応店員のアドバイスに沿って揃えたから一般的には普通なデザインだろう。更衣室を貸してあげて欲しい」

 

 服が入った袋を受付嬢に渡すと、彼女はそのままリリルカを連れてギルドの奥へと消えていった。

 1人となったブースのソファーに座り込むと、次にすることを考える。

 

 まずは資金集め。正直ダンジョン探索をこれまで行ってはいたものの、現状の団員たちは市井を歩いていれば比較的悪評なのが分かる。特に冒険者たちから。まあ略奪をしようとしてる時点で良くはない。

 

「デメテルが確か農業とかやってたか? ビールの種類とか思い出さないとな……。一番楽なのは梅酒とかのリキュール系? ウイスキーなら大麦か……」

 

 ダメだ。まだ頭の中で整理がつかない。

 ったく。いくらソーマという酒の神とはいえ、異世界人の意識が強い現状だと何もできないぞ……。ほんとに。

 

「あ、あの……」

 

「いっそファミリアで作った酒を直営で出すバーでも作った方が良いか?」

 

「ソーマ様」

 

「いや、野郎しかいないファミリアのやつじゃ売り上げにもならんな……。やはり今の酩酊状態を解除しないと」

 

「ソーマ様っ!」

 

「あ、ああ!?」

 

 大きな声を聞いて振り向けば、ボロボロだった服装から、少女らしいワンピースにリボンを腰につけたリリルカと、彼女を案内してくれていた受付嬢。

 

「すまない。少し考え事をしていた。うむ。店員に頼むほうが良いな」

「すっかり可愛くなっちゃって、これで安心ですね。先ほど広間の方で前髪で目が隠れた白衣の神が、ボロボロな身なりの少女を引き連れて街を練り歩いていたと噂になっていたので」

 

 いや違う。と声をあげそうになったが、事実ではあるため口をつぐむ。

 

「今日の用事は終わった。リリルカ。帰るぞ」

「はい!」

 

 少し、笑顔になったリリルカに微笑んだ俺は彼女と共にギルドを後にした。

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