「団長」
「どうしたリリルカ」
いわゆる『死の七日間』が終わりしばらく、右腕を失った団長は戦闘に参加できない。という理由で
団長も譲ろうとしていたがさすがにとザニスが断り、他の古株団員も拒否したことから団長は変わらなかった。腕がないのに……。と珍しく愚痴を溢していたものの、どこか仕事があることにうれしそうにしていた。
そんな彼だが、今では抗争で人が少なくなってしまったこともあり、新人たちを引き連れる形でときどきダンジョンの上層に潜っている。もちろん、余裕があるときはリリルカも参加していた。
「あの、スキルのことで相談がありまして」
「どっちのだ?」
「
「ああ。神ソーマからも聞いている」
「これって、バックパック以外にも作用しますか?」
リリルカの質問に、ネクタルは素直に聞き返した。
「サポーター用のスキルではないのか?」
「はい。リリもそう思ったのですが、荷物などって書き方じゃなくて、一定以上の装備荷重時における能力補正。っていう書き方なんです。これなら、フレイヤ・ファミリアの【
「一理あるな。十二分に試す価値がある」
「はい! 今まではナイフとボウガンを使ってサポートするだけでしたが、リーチとパワーが出れば戦闘でもしっかりサポートできます!」
「そうと決まればまずは鍛冶系ファミリアに言ってみるべきだが……、ヘファイストス・ファミリアの拠点とゴブニュ・ファミリアの拠点、どちらに行く?」
その問いにリリルカは全力で答えた。
「以前椿様と会ったので、ヘファイストス・ファミリアの拠点で!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二つの交差する槌に火山のエンブレム。
ヘファイストス・ファミリアの拠点である『ヴァルカの紅房』は、あの抗争があったのにもかかわらず、絶えず人の出入りがあった。
「こういう時だからこそ。だろうな。次の戦闘に備えて少しでも自身の身を守れる環境を作るのも冒険者の仕事だ」
「はい!」
以前会った門番がリリルカのことを覚えていたこともあり、要件を訪ねるとそのまま椿の工房へと案内された。
「よく来てくれたなリリ助! そして【
「り、リリ助!?」
「やめてくれ【
「ははは。気に障ったのであればすまない。それで、今日は手前にどのような用件で来たのだ?」
快く迎え入れた椿は、炉の前の椅子に座り、二人の姿を見る。
「先ほどの話ぶり、用事があるのはリリ助であろう?」
「は、はい。あのスキルの都合で重たい武器を探していて……」
「ほうほう」
言外に詳細を教えろと急かす椿にネクタルがため息をつくと、重量に対して補正が出るスキルがでたというリリルカの事情を伝えてくれる。
「リリ助はサポーターではなかったのか? バックパックや荷物に対して発動するスキルではないのか?」
「ああ。最初はそう考えたが、もし重量級の装備を使えれば、リリルカの弱点であるリーチとパワーがある程度解消できる。そうなれば、サポーターに従事することなく冒険者としてダンジョンに潜れる可能性が高くなる。今のソーマ・ファミリアは小人族の少女ですら手を貸してほしい状態だからな。可能性があるならば検証を行うまでだ」
事情を理解した椿は、壁に掛けている数種類の重量級武器を手に取る。
「手前のオーダーメイドとなると、かなりの金額になる上に、まだリリ助はレベル1であろう?」
「あの! 武器の専門家に聞いてみた方が、良いかなって。もちろん自分で払えるものを買うつもりです。第二級、いや、たぶんリリが使えるのは第三級装備だとは思いますが、それでもいつか使う装備を見てみたくて」
「ほう。言わば武器の予約だな?」
「え!? いやそんなつもりはリリには」
「構わん構わん。そうだな、武器としてはハンマーと斧がメインだな。あとは盾と槍の騎士のようなスタイルも可能性としてはある。小人族の英雄と言えばフィアナだが、彼の英雄は【
並べられた武器を眺める。
どれもまだ身長が100Cにも届かないリリルカの1.5倍くらいはありそうな武器だ。
「持ってみても良いですか?」
「もちろん」
まずはハンマー。
区分するのであれば巨鎚。
打撃を行う口の部分が大きくまた柄もかなり長い。振り回したり、体重を乗せて殴る武器。
試しに持ってみるが、少し重く感じるものの
「どうだ」
「正直重すぎますね。これで戦うってなっても、どう動くかの想像ができません。おそらく槍だけではなく盾も扱うのであれば同様かと思います」
「ふむ。さすがに大きすぎるか」
持たされたハンマーをそのまま椿に返したリリルカは、槍に関しても同じ意見を述べる。
「修練を繰り返せばおそらく問題ないとは思いますが、今後探索部がロキ・ファミリアのように遠征などを行うとなると、サポーターとして最低限の自衛と行動ができないのは困ります」
「ならば、残るは斧だろうな」
「【猛者】が使うような大剣は?」
「アリかナシかで言うならば、手前はアリだな」
「一度斧を持たせて貰っても? おそらく大剣と似た形で戦うことになりますよね」
少し柄がゆがんでいるが、重心が考えられているのかかなり持ちやすい。
先は幅広く、また頑丈な力強さを感じる。
「今度はどう感じる?」
「そうですね。重さがちょうどよく感じられます。ハンマーよりも重心が柄にあるのか振りやすく感じます」
「重すぎて持てない。なんてことはなさそうだな」
「はい。スキル様様ですね」
方向性としては戦斧を持つことになるだろう。あとは、出せる予算と見合う武器。そして練習をする環境。
リリルカとネクタルを見つめるが、彼は首を横に振った。それもそうで、彼は武器を使わない体術のスペシャリストではあれど、武器を振るうことは早々に辞めた冒険者である。これまでのような冒険者のイロハや体術の基礎であれば問題なく教えることはできるであろうが、より専門的な部分は教えられない。
「一旦武器に体を慣らす必要はあるから斧を手に入れれば数日間ダンジョンに潜る気概で行こう。今の俺でも
「子守は言い過ぎです団長! リリだってステイタスさえ上げればレベル2になれるんですから!」
「とはいえ、問題のその戦斧だな。手前や我々がオーダーメイドで作るのには些か高すぎるであろう? 新人は基本的に買い手が多い直剣を作ることが多い故、バベルのショップを見に行ったとしても置いてあるかどうか……」
「地道に探すしかありませんね。バベルであれば配達で向かうことも多いですし、ソーマ様にお願いして配達後に見回ってみます。わざわざありがとうございました椿様」
ぺこりと頭を下げたリリルカの頭を椿はドワーフらしく力強く撫でた。
「いつか手前の武器を使うかもしれない客を囲えたと思えばこの程度安いもんだ。良い武器と出会えることを願っている」
「私からも感謝を伝えよう。今度返礼を持ってくる」
「なら良い酒だな。楽しみにしておこう」
リリルカの当分の方針が決まった。
まずはスキルが発動する重量の戦斧を見つけ、購入。その後ダンジョンや拠点で武器の扱い方を覚えながら簡単な指南ができる相手を探す。
リリルカが言った通り後々ではあるもののソーマ・ファミリアにも遠征の通達は来るだろう。
今までは団長であるネクタル含む数名のみが上級冒険者であったものの、あの抗争でザニスがレベルアップしており、他にも数名ステイタスを上げるためにレベルアップを保留している者もいる。
「明日の配達は確か……」
すでに明日のことを考えているリリルカの背中を押して椿の工房を出たネクタルは、今後の身の振りを考える。
「指導官的なところに落ち着くのが一番だろうが……、武器、武器なぁ」
レベル4の実力がある以上使えはするだろうが、使えるだけ。使いこなせはしない。
久しぶりにバルで酒でもゆっくり飲みながら考えるか。そう決めたネクタルは考え込んで前を見ていないリリルカが人に当たらないように気を付けて拠点へと歩き始めた。