神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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追及

 下界の未知が現れたことに、神々は狂喜乱舞した。

 所要期間約1ヶ月半という速さでレベルアップするというのはこれまでの最速記録であるアイズ・ヴァレンシュタインの約1年という記録を大幅に更新した。

 

 レベル1の冒険者が、レベル2相当の中層域のモンスターであるミノタウロスを単独で撃破した。

 という偉業を、神も他の冒険者も疑ってはいたが、その姿を【ロキ・ファミリア】の団長を含む幹部陣と、他派閥の場合副団長に相当する【ソーマ・ファミリア】の商業部監督のリリルカが見ていたというのは、大きな証言になった。

 

「ど、どうしようソーマ! 助けてくれよ!!」

 

 前にもあったな。こんなの。

 

「俺が言えることじゃないが、今回の神会は必ず出ろ。俺もリリルカがベルの戦闘を見てたから行く必要がある。後ろ盾になれるかはわからないが、一助にはなるはずだ」

 

 それで良い! なんて言うヘスティアだが、顔には涙を浮かべ本当に困った顔をしている。

 

 それにしても、冒険者になってわずか1ヶ月半でレベルアップというのは驚きしかない。

 ネクタルたちはあまり参考にはならないが、ベル・クラネルと同じで冒険者としては才能に乏しいリリルカは恩恵を与えてからレベルアップまで約10年を要した。

 ヘスティアから聞いた「成長を促すスキル」という存在の恐ろしさを見せつけられた気持ちだ。

 

「問題は、どう神会を乗り切るかだ」

「う、うん」

「俺もお前も神会にはあまり行かない側の神だから、味方になってくれる神が居ない。デメテルやヘルメスならば何かしら庇ってくれるかもしれないが」

「デメテルは冒険者に対して明るくないし、ヘルメスはヘルメスだからね……」

 

 そうだ。デメテルには信用があるが冒険者に対して明るくなく、ヘルメスには冒険者に対して明るいが単純に信用がない。

 

「少なくとも、神の力を使ったかどうかは聞かれるだろうな」

「ない! 誓ってない! あれはベル君が得たスキルだ。ズルなんてしてないよ! すごく嫌なスキルだけど……」

「正直なことを言って、お前のファミリアは弱い。団員は1人だけで、お前たちを守ってくれる後ろ盾がない」

「そ、ソーマがしてくれよ! 雇い主じゃないか!」

「ことバルの営業中に起きたことだけだ。俺がお前を守れるのは」

 

 雇用主で合って、同盟者でないのが今の俺とヘスティアの関係性。

 ただ、話題の中心たるベル・クラネルといリリルカに繋がりがあるということは他の神に知られている。

 初めてリリルカがベル・クラネルと接触した時以外は変装をしておらず、バックパックを持つことがほとんどではあったが、斧を持ってダンジョンに潜る日もあったからだ。

 

 それに、リリルカは顔が知られている。

 まあそれに関しては何を聞かれるか検討がつく。お前はベル・クラネルの成長速度について、何か知っているか? だ。

 

「お前の同郷はあてにならないのか? へファイストスとも仲が良いはずだろう? バベルのショップで働いているとも聞く」

「うぐっ!? まあ、それはボクにも事情があるんだけど……。でも、正直頼れる神はいないかな。ヘファイストスにベル君のことは相談してないし」

 

 神会は今日の夜。司会を務めるのはどうやらロキとのこと。

 何でも、ファミリアの子たちが遠征の準備で忙しく、手持ち無沙汰だからと名乗り出たらしい。

 そんなものは口実で、実際のところはヘスティアへの追及のためだろう。

 

「困った。あぁ困った……」

 

 ヘスティアのうめき声を聞きながら、俺は出かける準備を整えた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 始まりは、暇になった神達が集まって歓談を始めたこと。らしい。

 それがいつのまにかオラリオにおける一つの機関のように形を変えたのが神会(デナトゥス)とのこと。

 

 まあ、引きこもりである俺が参加したことがあるのは数えるほどで、最近比較的参加も増えたものの、神同士の情報交換の場が終わればそそくさと帰ることも多い。

 

「今日はソーマも来たのね」

「ああ。新作を持ってきた」

 

 神会の会場に着いてしばらく。

 まだ開宴前ということでいる神もまばら。

 持ってきた新作の酒を持ってきたため、適当に食事が置かれたいくつかの机に酒瓶を置いてる時、後ろから声をかけられた。

 

 元気にしていた? と聞いてきたのは酒造に関わる製品の開発などでお手伝いをしてくれているヘファイストス。

 ただ、話しかけられるが俺から返せる答えは「いつも通りだ」とだけ。自分のコミュニケーション能力に頭を抱えたくなる。

 

「おーい! ヘファイストス! ソーマ」

「来たわねヘスティア」

「ヘファイストス! 助けてくれぇ。このままだとべ、ベル君が!」

「落ち着きなさいよヘスティア」

 

 神友同士二人が話し始めたので、俺はその場を離れ壁際に置かれていた幾つかの椅子のうちの一つに座り、主催派閥の団員が持ってきてくれた水を飲む。

 

「それじゃあ第ン千回目の神会を初めて区でぇ~。司会はウチ、ロキや。よろしゅう」

 定刻から少し遅れたくらいの時間になって、神会開始の宣言が行われた。

 

「トピックスというか、連絡事項というか……。一応、ラキアん所のアレスがまたオラリオに戦争吹っ掛ける気配があるッちゅう感じやな」

「いい加減敵わないんだからやめれば良いのに」

「脳みそまで筋肉だから。神も国も」

「まぁ、ウラノスも何かしら情報掴んどるやろうし、また誰かしらから追々連絡あるやろ」

 

 幾度となく行われてきた、オラリオ近郊にある「ラキア王国」からのオラリオ侵攻。

 俺たち【ソーマ・ファミリア】がオラリオ防衛のために駆り出されることはないだろうから、この話は聞き流して良い。

 

「他の話で言うとせやなぁ~。ソーマんとこが新しい酒販売するらしいで。なあ、ソーマ」

「ああ」

「今回出すっちゅうんはシャシン・シリーズか?」

「いや、アートマンの方だな。酒造班が作成したウォッカだ。一応そこら辺の適当なテーブルに置いておいた。好きに飲んでくれ」

 

 一斉に目の色を変える酒好きと、それを見て引く一部の神。

 

「っか~! これは効くぁ!」

「強め、か。俺の舌には合っている……。良い出来だ」

「お前それ前の試飲のときもしてなかった?」

 

 お前言うなよ! なんて馬鹿なことをしている神たちを無視して、ロキは司会進行を続けていく。

 

  よし。んじゃあそろそろメインディッシュ。始めるか」

 

 メインディッシュ。

 それは、レベルアップを果たした冒険者に二つ名を与える作業。

 偉業を成し遂げた冒険者を称えるために名を与え、冒険者たちはその名を喜ぶが、実際は神の悪ふざけ。

 かつてリリルカがレベルアップを果たした際に、【幼女戦斧】やら【ロリ斧】だとかの名前を付けようとした神たちを俺は忘れていない。あの時ガネーシャが助け船を出してくれなければ危なかったし、デメテルとヘルメスが抑えつけてくれなければ奴らの頭を酒瓶で勝ち割っていただろう。

 

 ロキによってレベルアップを果たした冒険者の名前と所属派閥が告げられ、主神たちはマシな名前をと願い、他はふざける。

 

「あら、あなたは混ざらないの?」

「混ざる必要がないな」

 いつの間にか横に立っていた女神に辟易としながら、酒を煽る。

「私、貴方のそういう素直なところ嫌いじゃないわ」

「俺はお前が苦手だよ。フレイヤ」

「つれないわね」

 

 中心ではタケミカヅチが膝をついて咽び泣いているから、彼の眷属には悲しい二つ名がついたんだろう。

 他にも数人打ちひしがれている。

 

「お前の眷属は?」

「残念ながら今回は居ないわ。まあ、その内上がるでしょう。それこそあなたのところは?」

 聞く必要もないくらいレベルは上がらない。

 

「商業系8割のファミリアに聞くことじゃないだろ」

 

【ロキ・ファミリア】が誇る冒険者の一人、アイズ・ヴァレンシュタインのレベル6昇格に伴う二つ名は、これまで同様【剣姫】で保留。

 

「それじゃあ、最後やけど、どチビ」

「な、なんだよロキ」

「改めて聞くけど、このベル・クラネルっちゅう奴のレベルアップ。なにしたんや」

 

 その問いにヘスティアは口を閉ざした。

 

「分かっとるか? 1か月半や1か月半。格上と死ぬ気で戦いました~って言ってポンポンレベルが上がるほど、神たちの恩恵っちゅうのは軽くない。やのに、お前ん所のこいつは、1か月半でランクアップしよった。わかっとるか? ウチのアイズたんでもレベルアップに1年かかったんやで?」

「誓って神の力は使っていない。ベル君はベル君の冒険のした上でレベルアップをしたんだ」

「ソーマ。あんたのとこのリリちゃんがベルとやらと一緒にダンジョンに潜ってるって話も聞いとるで。あんたらグルか?」

 

「どうでも良い」

 

 反射的に答えた俺の返答に、ロキは何を言っているんだという顔で、ヘスティアは助力するって言っただろ!? という顔でともに声を上げた。

 

「神の力を使ったかどうかは問題じゃない。それを使った偉業なら、俺たちはそれを認めないだろう?」

「それは、せやけどやなぁ」

「冒険者になってすぐにミノタウロスに襲われ、その恐怖を感じながらダンジョンに潜り、1か月半後にはそれを倒した。その中での成長は彼が何を得ようとしたかだろう?」

 俺の返答に言葉が詰まるロキ。そこに、追い打ちがかかる。

 

「ええ。ソーマの言う通りよ?」

「フレイヤ!?」

「なにしゃしゃり出とんねん色ボケ女神」

「ふふ。私たち神は下界の子が見せた行動や経験したものが偉業かどうか判断するだけ、他派閥の団員のスキルやらを暴こうとするのはマナー違反じゃない」

 8年前、1年でレベルアップしたヒューマンへの追及を黙殺させたのは誰だったかしら?

「なに考えとんねん」

「何も?」

 ロキは隠しもせずに舌打ちをして、苛立ちを見せる。

 

「ヘスティア」

「どうしたんだいソーマ」

「フレイヤが男をかばってる。気をつけろ」

 

 依然フレイヤがリリルカへの忠告した際、その時に口に出していた言葉を思い出す。

 何を気に入ったのかはわからないが、フレイヤはベル・クラネルのことを気に入っている。

 成長を喜ぶくらいには、ヘスティアを庇うくらいには。

 

「それはど  

   どチビ。ホンマに神の力は使っとらんねんな?」

「ああそうさ!」

 

 ならば。とロキはそれ以上の追及を止め、二つ名を考えるよう周囲の神たちに伝えた。

 

「【牛受け兎(ラブミノ)】だな」

「ソーマ!?」

「ええなぁ! ミノタウロスに好かれてんねやろ!? そいつ!」

「否定はできないけど……」

「あら、せっかくの歴代最速者(レコードホルダー)なんだから、良い二つ名にしてあげないとね?」

 

 再び、フレイヤの気まぐれによって野郎どもがざわめく。フレイヤはそれだけを伝えると会場を後にし、残った者たちは頭をひねる。

 

「そ、ソーマ、さっきのは……」

「冗談だ」

 

 しばらくしてベル・クラネルの二つ名は無難で面白みのない【リトル・ルーキー】で確定した。

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