神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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仕入れ

「っあー! もう蒸留酒だ。ジンにウォッカにウイスキーにその他もろもろ! とりあえず蒸留酒作る! というか自分が飲みたい!」

 

 蒸留酒といえばほとんどのお酒が所属する製造法。

 実際神酒(ソーマ)も蒸留して試作している。

 

 種類としてはウイスキー、ウォッカ、ジンにラムとあり、他にもテキーラなんかも同じ部類になる。それに、原料は多く大麦や小麦、穀物にジャガイモ。果物ももちろん使う。

 

「量産もしやすい。それにリカーにだってできる。梅酒ゆず酒すだち酒諸々。作っておいて損はない」

 

 とりあえず仕入れだ仕入れ。

 質の良いものを徹底的に管理した上で至上至高の酒を作る。そこ自体は神酒と同じで絶対に譲れない部分。

 

「とりあえず、行くか」

 

 部屋から出た俺は、相変わらず荒れているファミリアの中を一瞥しため息をつく。

 全く。俺が関わらなかったのが原因だが、ファミリアとしてのシステムを変えるにはまず子らがある程度俺の話を聞けるようにならないといけない。ヘルメスに頼み神酒とエリクサーを物々交換し一回試したがそれだけじゃダメ。おそらく、身体的な部分とは別の部分に神酒が作用してしまっているのが原因。

 

「そういえば……」

 

 そういえばリリルカに恩恵を与えた際、彼女にはスキルが発現していた。

 

「確か、精神汚染に対する高抵抗……。ははっ。リリルカなら神酒に魅了されないかもしれないな。まあ、三つの子に飲ますものでもないが」

 

 そうだ、今使える金額はどれくらいだ?

 分割でヘルメスから巻き上げた金だけじゃ頼りない。それに量産を行うには多くの機器を揃えなければならない。

 

「台帳とかはどこにあるんだ?」

 

 まあ、少なくとも俺の部屋にはない。この部屋にあるのは神酒の材料とこれまで作った失敗作。そしてその過程を記した研究記録だけ。全く、役に立たない自分である。

 足早に団長の執務室に向かい、ドアの前で声をかけるが返ってくるのは静寂のみ。

 

「入るぞ?」

 

 ドアノブを回し部屋に入ると、そこに団長の姿はない。

 所用か? とも思うが、まあファミリアの帳簿を探すくらい問題ないだろうし、ここも団長の個室というわけじゃない公共のもの。言い訳を思い浮かべながら、執務室の棚を物色する。

 

「ほお、この棚は……失敗作か……」

 

 引き戸の中には多くの壺があり、漏れ出る匂いからこれまでの失敗作だと思われる。そして、その近くには書類。

 

「これは……、これまでにコレを飲ませた眷属の名前……。アーデ夫妻たちの名前もあるか。というか、殆どの者が飲まされている。もしくは飲んだことがあるわけだな」

 

 他にも棚を探せば出てくるのは、この前ヘルメスにしたように神酒を他派閥の神へと売り、その莫大な金額を貯めている帳簿。

 しかし、お金がある記載があるというのに、拠点(ホーム)はそれほど大きくなく、また整備もされていない。冒険者も、神酒が飲みたいのか必死でダンジョンを潜っている。

 

「横領と考えるのが一番か? それとも、いやそう考えるべきだな」

 

 各種酒類を取り扱うために、団長が隠しているお金があれば丁度良い。少なくとも量産体制に移るための資金にはなる。

 

 そんな時、ガチャリと扉が開き、団長が執務室へと入ってくる。

 その顔は、まさか!? というような表情。

 

「おい、神酒を飲まされるか、貯めてた横領分の金を出すか……どっちが良い?」

 

 答えなどわかりきっている。

 俺はわざとらしくニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 オラリオにとって、生活面の基盤となるファミリア。それが「豊穣」と「慈愛」を司る女神デメテルのファミリア。

 

「いらっしゃいませー!」

「すまない。デメテルはいるか?」

 

 デメテル・ファミリアの拠点兼商業施設となっている店舗部分に入った俺は、声をかけてきた眷属の1人に要件を伝える。

 

「申し訳ございません。面会の約束などはされてますか?」

「ああ、普通はするな。申し訳ない。まだだ。本日面会できないのであれば後日日を改めて来るが」

「いえいえ! デメテル様に会いに来られる方が多いのでさせてもらっているだけなので、一応用件だけでも聞いておきましょうか?」

「俺のファミリアで仕入れをしたくてな」

 

「あら? もしかしてあなた、ソーマ?」

 

 眷属の女性と会話する中、後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには豊満な体つきをした清廉な女神の姿。

 

「デメテル様!」

「いいところに。デメテル。久しぶりだな……」

「ふふっ、あなたが出てくるなんて。どうしたの?」

「少し神酒作りに行き詰まってな。資金集めに酒を売り出そうと思っているんだが、いい材料を見繕いに来た」

 

「何を作るつもり?」

 

 少し、睨みつけるような視線をするデメテル。まあ、実質麻薬のような神酒を市場に売りに出されれば、オラリオは一瞬で危機に陥る。とかそんなことを考えているんだろう。

「安心してくれ。ただの蒸留酒だ」

 

 主に大麦、小麦、ライ麦。とうもろこしなどの穀物、竜舌蘭にサトウキビ。葡萄や柑橘類などの果物も。

 

「そんなに仕入れて何作るの」

「蒸留酒は原料の違いで多くの違いが出る酒の製造法だ。飲食店に多く下せる上に量産体制も作りやすい。それに、()()()()()()()()をソーマが作ることに意味があるとは思わないか?」

 まあ、もちろん最終的には神酒に活かす。

 

「先日恩恵を与えた3歳の女児にスキルが発現した。飲酒時にアビリティの補正を行い、また飲んだ酒の質によって効果が変わるというレアスキル」

 

「そんな情報私に言って良いのかしら?」

 

「なに。自分の子に興味が湧いたってだけさ。酒造りにしか興味のない俺の子が、酒を飲むスキルを持つ。今まで酔っていた子らとは違う」

 神酒の味を楽しめるかもしれない可能性。それは、今までの俺にとっての常識が正反対にひっくり返るかもしれない可能性。ただ、酒の味について語り合えるかもしれない、対等な子供。

「そうだな。多くの種類に変化できる蒸留酒。魂を震わす酒(スピリッツ)とでも名付けようか。スピリッツはその第一歩だ」

 

「そんなに変わるもの?」

「人が変化するのは一瞬のように、神に変化が起きるのも一瞬さ」

 

 しばし考えるそぶりを見せたデメテルは、ため息をついた後、良いわと小さく答えた。

 

「何があなたを変えたかはわからないけど、それでもそこまで言う何かがあるんでしょう? 止めたって物を買うのに許可なんていらないし。しっかりと素材を活かしてくれるのであれば文句はないわ。ここからは商談よ。奥に行きましょう」

 

 ありがとう。と返した俺はデメテルの後ろを着いて店舗部分から離れ、材料費のすり合わせを行うため執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 リリルカに恩恵を与えてからすでに4、5ヶ月ほど。

 ヘファイストスの所に頼み蒸留に必要な機器の一新など諸々多くの時間がかかったが、ついにスピリッツの一種、「ジン」を完成させた。

 

「元々神酒がボタニカル的なのだから良かったが、ウイスキーとかテキーラは結構試作に時間がかかりそうだ……」

 

 そう。最初に選んだのが「ジン」である理由。それは、今までの神酒作りの知識をほとんどそのまま流用できる手軽さからだった。まあ、それでも神酒のように人を惑わす力はあったため、それを抜くのにこんなにも時間がかかったわけだが。

 

 ただ、お陰で良いことがわかった。

 漏れ出る神威を使わずに酒を作る方法。まさか。といった感じだが、それでもよくよく考えればその通りである。

 

「これでやっと神会に行ける」

 

 ヘルメスにあったきり、行くと言いながら行っていなかった神会。その手土産にもなる。団長伝いで多くのファミリアに売った偽神酒のお金と、これから卸すことになる月に杯というソーマ・ファミリアのエンブレムを入れたジン。

 

 試飲は神たちにしてもらおう。

 金はこれからに使おう。

 

 まずはジンの販売のほかにウィスキーやウォッカを作る。

 そのあとはビールと極東の清酒。極東の清酒に関しては作り始めてからかなりの時間もかかるしな。そして、それらをソーマ・ファミリアのみで飲ませる。ホームにバルを作り、ファミリアは探索部と営業部に二分する。

 

 諸々の売り上げを使い、神酒の酔いから覚ます酒造り。

 

 準備は整った。

 さあ、これからソーマ・ファミリア改革の始まりだ。

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