感想ありがとうございます。
指に針を刺し、出てきた血を背中に垂らす。
盃と月の文様に血が落ち、広がり、青白い光と共に、血がしみこむ。
「これで完了だ」
数値が変わり、更新が完了する。
ステイタス更新用の簡素なベッドに寝ころび、一連のものが終わるのを待っていたリリルカに声を掛けた。
「ありがとうございます」
「紙に写してくる」
服を着るように伝え、俺は紙面に先ほどの内容をまとめた。
【リトル・ルーキー】ことベル・クラネルとダンジョンに潜るようになりおおよそ1ヶ月以上。
最近は【ヘファイストス・ファミリア】の
「ソーマ様。少し相談してもよろしいでしょうか……」
「相談?」
「【
脱いでいた服を着たリリルカがソファーに座ると、神妙な面持ちのまま悩みを打ち明けた。
「このスキルが発現したのは、ソーマ様から恩恵を頂いたときですよね」
「そうだ。お前に恩恵を刻んだあの日に刻まれていたのがそのスキルだ」
「それで、ソーマ様の言いつけで、リリは基本的に10歳になるまでお酒を飲んでいなかったじゃないですか」
そうだ。俺が口酸っぱく酒を飲まない様にしていた。だから、10歳になるまでに口にした酒は数度。アーデ夫妻の墓の前でアガヴェを煽ったとき、ミード酒を造ったときの試飲。あとは数回。
それ以降はともにシードルを飲み、割材を使ったカクテルなんかも飲んでいる。
「スキルが発動している気がしないんです。これまでいっぱいお酒を飲んできたはずなのに、一時的なステイタスの上昇を感じたことがないんです」
前々から気にはなっていたが、ベルのレベルが上がり、新たにヴェルフ・クロッゾを加えたパーティーでダンジョンに潜っているようになり、少し不安に感じるようになったらしい。
「これまで発動しなくても気にしてなかったのですが、ベル様やヴェルフ様を見ていると、なんというか……。取り残されているような感覚になるんです」
これまでは2人で探索をしていなかったから気にならなかったのだろう。
3人になり、異常な速度で力を増すベルという存在。
良い傾向だと思う。
今まで俺との関わりだけだったリリルカが、外の世界と明確に関わりを持ち始めた。それも、俺たち【ソーマ・ファミリア】とは関係ないリリルカ・アーデとしての繋がりの中で感情を揺らしている。
「それに関しては俺からも相談したいと思っていたことがある」
「ん? 何でしょうかソーマ様」
「俺もそのスキルが発動しないことは気になっていた。だから少し仮説というか考えていたことがある」
それは【
「可能性として。ではあるが、発動しない理由として飲酒量が少ない。や、飲む酒が悪い。なんてのは考えられないか?」
「量と……質? でも、リリが飲むのは【ソーマ・ファミリア】のお酒ですよ?」
「すまない。伝え方が良くなかった」
リリルカが【ソーマ・ファミリア】の酒を良い酒と思ってくれていることは嬉しいが、違う。
「リリルカ。お前は神酒を飲んだことはあるか?」
神酒。それは俺が作る中で最も完成度の高い酒。人を酔わし酒に溺れさせる悪酒。
「リリはまだないです。反神酒ができた時に皆さんが飲んでたのは知ってますが、あの時もまだ10歳になっていなかったので」
「そうか。まだ10歳になっていなかったか」
「はい」
「ならば余計だろう。リリルカ。お前はこのファミリアで一番商業部に関わっている存在だ。だからこそ新作の酒ができるたびに試飲をするし、シャシン・シリーズの酒もバルで飲んだだろう?」
ただ、唯一ファミリアの酒で飲んでいない神酒を除いて。
「神酒を飲む月の杯」
「つまり、神酒を飲まないと発動しない?」
「仮説の一つだ。ただ、試す価値はある」
そう。試す価値のある仮説だ。
明確なことがわからないレアスキルだからこそ、使いこなすために試行が必要になる。
ただ、問題もある。
「だが、すぐに神酒を渡せる訳ではない」
「な、何ででしょうか……。神酒を飲んでスキルが使えるなら、リリは飲みますよ?」
違う。そういうことじゃない。
これはただの我儘だ。
「そうじゃない」
「じゃ、じゃあ」
「お前には、最高のものを飲ませたい」
ただ、それだけ。
これは俺の我儘。
いつできるかもわからない神酒を飲んでもらいたい。あの日から12年経とうとも一向に完成させられない俺の技術で、そんなものができるかはわからない全くわからないが、それでも。
「
そのために畑を耕している。
デメテルから栽培の知識を学んでいる。
トム達酒造班の持つ柔軟な意見を取り入れている。
すべては、神酒のため。
その神酒を、リリルカへ飲ませるため。
「改良は日々行っているが、まだ理想には程遠い。だからもうしばらく待ってくれるか?」
リリルカに頭を下げる。
「わかりました。なら、慌てず騒がず、もう少し待つことにします」
リリルカからの返答に、がばっと顔を上げる。
「リリは、ソーマ様がリリのために作ってくれるお酒を待ちます」
「リリルカ……」
「だから、とってもおいしいお酒を造ってくださいね?」
リリルカが見せた笑顔は、とても愛らしかった。
「頑張るよ」
「はい! ソーマ様なら絶対作れます!」
「すまないな……」
「なんで謝るんですかソーマ様。別に謝ることじゃないじゃないですか」
「そ、そうだな」
ズイっと身を乗り出して俺を見つめるリリルカ。
亜麻色の髪は短く、小人族特有の幼さがある顔立ち。鼻立ちはすらっとしていて、前かがみになったせいで普段以上に主張されてしまう体には似つかないほど大きな胸。
「ふふっ」
「なんだ?」
「何でもないですよ?」
「嘘だな……」
「嘘じゃないですよ? ただなんて言うか、嬉しかったと言いますか」
まあそうか。
自分のために酒を造ると言われればうれしいものだろう。
「当分の間不便をかける。許してくれ」
「大丈夫です! 楽しみに待ってます! あ、でも、試作品ができたら飲んでみたいので、呼んでくださいね?」
「わかった。その時は呼ぼう」
リリルカ用に準備した、ステイタスの紙を渡すと、上機嫌なリリルカは部屋を出た。
「成長したな……」
▼▼▼▼▼
リリルカ・アーデ
レベル2
力 :D 586
耐久 :F 334
器用 :E 411
敏捷 :E 437
魔力 :F 302
《アビリティ》
調合:H
《魔法》
シンダー・エラ
・変身魔法
・変身像はイメージに依存
・詠唱式:【貴方の
私の
・解呪式:【響く十二時のお告げ】
《スキル》
【
・『力』『耐久』『精神』の高補正
・精神汚染に対する高抵抗
・飲酒時における全アビリティ能力の高補正。
補正効果は酒質に比例
【
・一定以上の装備荷重時における能力補正
・能力補正は重量に比例
・「力」のステイタス成長に補正される
▲▲▲▲▲
レベル2になって2年ほど。
ここ1ヶ月でリリルカが経験したものはこれまでとは全く違うものだったと思う。
幼少のことから知る【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタインとはまた違う繋がりをベル・クラネルと築いている。
「一度、少年とはゆっくり話すべきだな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
ずっと意識されていないと、娘のように思われていると思っていた。
「えへへつ」
それがどうだ。
意識してした行動ではないものの、前屈みになったリリの胸元に、ソーマ様が視線を向けていた。
初めてだ。
15年生きて初めて、恩恵をもらって12年経って初めてソーマ様がリリの体を意識した。
「これはチャンスです!」
バクティ様から少しイシュタル様の事を聞いている。美の神の面を持つイシュタル様は、時々男神と体を重ねることがあるという。
つまりは、神様にも、ソーマ様にも欲があるはず。
「リリルカ? えらく上機嫌だな」
「ふふっ、良いことがあったんですよ。ネクタル様」
「そうか……。それは良かった」
スキルのことも聞けた。
自分のために、ソーマ様の絶対唯一の趣味に打ち込むと言ってくれた。
それはつまり、ソーマ様がリリのことだけを見てくれていることと同じ意味。
「あまり何も言うつもりはないが、まあなんだ、頑張れ」
「……。もしかしてネクタル様って良い人ですか?」
「……。今はな……」
みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。
-
ジン
-
ウォッカ
-
ウィスキー
-
ラム
-
ビール
-
日本酒
-
焼酎(芋・麦・米問わず)
-
果実酒(梅・果物問わず)
-
テキーラ
-
ワイン(赤・白問わず)
-
その他(良ければコメントで教えて)