原作開始してたのに章の管理してなかったので追加しました。
燦燦と照っていた太陽が西の方へ動き、少しばかり風が涼しくなる。
明るい星はうっすらと紫色の空に浮かんでいて、飲食店の近くに人が集まり始める。
「あれは……」
少しだけ遠くに見えた白い髪。
見覚えのある後ろ姿はゆっくりと遠ざかる。
ちょうど良い。
前から興味があった。
速足で彼のもとに近づき、肩をトントンと叩く。
「ひゃい!? って、ソーマ様?」
「久しいな。ベル・クラネル」
「ど、どうかされましたか?」
突然俺に話しかけられて戸惑っているのか、おどおどとした表情をしてる。別になにか彼が俺に隠し事をしていたり怒られることをしたわけではないのに。
「見かけたからな。少し声を掛けさせてもらおうと思ってな」
「そ、そうでしたか」
「今から夕食か?」
「はい。そうです。よく行くお店があるのでそこに行こうと。神様もバベルの方でバイトらしいので」
「そうか。なら見かけたのも何かの縁だ。お前が良ければ共に食べないか? 普段リリルカが世話になっている礼だ。奢ろう」
「そんな!? 悪いですよソーマ様!!」
「気にするな。俺がお前に使いたいだけだ」
それに、ダンジョンにいるリリルカの話なんかも聞きたい。
そう伝えれば、ベルは困った顔をしながらも受け入れる。
「よく行く酒場とはどこだ?」
「多分ソーマ様も知ってますよ? 豊穣の女主人というお店なので」
「あそこか。飯は
ならば行こう。
と横に並び目的地へ向かう。
「最近のダンジョン探索はどうだ?」
「すごく順調です! ヴェルフ……、【ヘファイストス・ファミリア】の
「リリルカは迷惑をかけていないか? 冒険者としてはあまりダンジョンに潜ってこなかったからな」
「いやいや! リリは状況判断をするのがすごい上手で、倒すモンスターの指示をしてくれたり、ダンジョン内の案内をしてくれたり」
本当に助かってます!
その言葉に嘘はなかった。
幼少期のころからネクタルに判断能力が良いと言われていたリリルカのことだ。経験を積みさらに磨きがかかったのだろう。
「あの時はリリルカが悪かったな」
「いえいえ! あれがあったからなんていうか……。本当の仲間? になれたような気がしていて」
他派閥の副団長を借りる。という褒められた行動でないことはベルも理解しているし、リリルカが正式に冒険者兼サポーターとして動くなら、商業部監督の立場は考えないといけない。
あとは【ヘスティア・ファミリア】と正式な同盟も考える必要がある。
「今日も賑わってるな……」
「いつもすごい人ですよね」
夜というには微妙に早い時間だというのに、すでに外にまで客があふれている。
「あ! ベルさん。今日も来てくださったんですね!」
「シルさん。今日は2人なんですが入れますか?」
「2名様ですね? えーっと、ソーマ様?」
すぐ確認します!
と店内に引っ込んだ看板娘のシルだが、ものの数分で戻ってくると、俺たちをカウンター席へ案内した。
「ソーマ様が来られるなんて珍しいですね?」
「普段団員が世話になってるから、そのお礼だ」
「あ、そうなんですね。あ、何飲まれますか?」
俺とベルは飲み物と食べ物を数点頼む。俺はラム。ベルは酒精の低い果実酒。
なぜかベルの横に座ったシル。
遠くの方で店員の猫人が叫んでるが、彼女はどこ吹く風でベルのことをニコニコと見つめていた。
「そろそろ中層に向かう形か?」
「あ、はい。パーティーも僕とリリがレベル2ですし。リリとも相談していてサラマンダー・ウールの準備ができれば向かうつもりです。その時はリリも斧を持つって言ってました」
「そうか……」
普段のサポーターとしてではなく、明確に探索を行うため斧を持つ。
それだけリリルカが中層を警戒しているということ。まあ、探索部と共に18階層に足を運んだこともあり、中層の危険性は彼たちの中で一番理解しているだろう。
「この前レベルアップしてすぐ中層なんて凄いです」
凄いですね! ベルさん!
とポニーテールを揺らすシル。いつまでここに座る気だろうか。そろそろミアから怒られそうなものだが。
「お待たせしました」
カウンターの上に並べられる肉、それにスープやパスタ。
「やはり、飲むより食う店だな」
飯を口に入れ、酒で胃に流し込む食事だと思う。歓談しながら食事を楽しむための店だと感じる。
「文句があるのかい?」
「ああ。美味いが好みではない」
「ちょっ!? ソーマ様!?」
「気にすんじゃないよ坊主。今に始まったことじゃないさ。ここに酒を卸し始めたときからそうだからね。シル。まだやることはあるんだ、油売ってないで仕事しな」
「は~い。それじゃあベルさん、またあとで!」
まだベルに絡むつもりなのか。
他の客からベルがにらまれているが、彼女は良いんだろうか。
「それにしても、本当に奢ってもらって良いんですか?」
「気にするな。金なら余るほどある。商業部の売上とは別で、神々に神酒を高値で売り付けてるからな」
「そ、それって大丈夫なんですか……」
「俺とそいつらだけ、個神間のやり取りだ」
お得意様はロキ、ヘルメス。そしてデュオニソス。ディオニュソスは返品としてワインをもらうときもあるし、酒の神同士の交流だな。
「先ほども言ったが、リリルカが世話になっているお礼だ」
「でも、リリには助けられてばっかりですし、そんなの受け取れませんよ……」
「お前がリリルカに助けられているように、リリルカもお前に助けられている」
これ以上意固地になるならヘスティアを経由して金を渡す。そういえばベルは引き下がった。
肉を一切れ口の中に入れる。
濃厚な肉汁が口内に広がるのを楽しみ飲み込むと、次は手に取ったグラスを煽る。
鼻を抜けるバニラに似た潤った甘さと深いコクを炭酸水が綺麗に流してくれる。
「食事が終わったら付き合ってもらっても良いか?」
「へ?」
「お前に聞きたいことがあってな、ここより静かで話せる場所に行こう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「遅くなっちゃったなぁ」
ベル君へプレゼントとしてヘスティア・ナイフをヘファイストスに頼んだ結果始まった、バベルでのバイト生活。
なぜか今日は忙しく、時間はすっかり遅くなりバベルを出ればもう完全な夜だった。
夕食はバベルの中でササっと終わらしたのであとはもう帰るだけ。
帰ればきっとベル君が待ってくれている。
そう思い、重たくなった体を動かす。
「あれ?」
少しの気まぐれで普段とは違う道を通った。
月明かりの下で川沿いを歩く。川の流れと風が木を揺らす音が心地よく、少しだけ活力が戻った気がした時、ベンチに一人座るベル君を見つけた。
頬がほころぶ。
会いたいと思っていた人が、たまたま歩いた先にいたのだ。
これを運命と言わずなんと言うのだろうか。きっと今、オラリオの中心はヘスティアを中心に回っている。天動説や地動説ならぬ、炉を中心に動いている。
思わず声を出し、ベル君に自分のことを気づいてもらおうとニヤニヤしていると、ベル君の前に一人の男がやってきた。
「ソーマ?」
トレードマークになっている白い外套に黒い髪。両手には酒瓶だろうか。
「どこでもぶれないな。ソーマの奴……」
それにしても奇妙な二人だ。
確かに、パーティーメンバーの主神なので、話すことはあるかもしれないが、ソーマはもともと自分と同じくらいの引きこもり。
「何か話してる?」
ソーマの方は目が前髪で隠れてしまって見えないが、ベル君の表情は真剣そのもの。
「も、もしかして
最悪な想像をしてしまった。
確かに【ヘスティア・ファミリア】はベル君一人の零細弱小ファミリア。対して【ソーマ・ファミリア】はオラリオでトップクラスの団員数を誇り、市井に影響を持つファミリア。
ベル君がレベル2に上がっていこう多くの神々がベル君にちょっかいを掛けてるのは知ってるが、まさかソーマが!?
早急に確認する必要がある。
ただ、突撃してしまえば話は聞けない。
「よし、そこの木陰から……」
普段では想像できないほどの素早さで木陰に隠れたヘスティアは、ベル君とソーマの会話に聞き耳を立てた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
川の音が大きく聞こえる。
街の中心部から離れ、喧騒から離れた俺とベルは、川沿いで向かい合う。
「何を飲むか分からなかったからな」
「わざわざありがとうございます」
売店で買ったシードルを渡す。
俺はジンの栓を開け、一口分口に入れた。
「あの、話っていうのは……」
「そんなに身構えなくて良い。簡単なことだ。お前と関わるようになって、リリルカに笑顔が増えた。家庭環境が悪かったり、早くからファミリアの仕事を手伝ったりの幼少期だったから、どこか大人びていてな……」
聞きたいことは決まっている。
ただ、どう聞くのが良いか悩んでいる。
「ベル・クラネル」
「は、はい!」
「お前はなぜ、ダンジョンに潜る」
俺の問いかけに、ベルは口を噤んだ。
「そんなに難しく考えなくて良い。ダンジョンに潜る目的を知りたいだけだ」
「目的、ですか……」
ベルがシードルを飲む。
風が吹き、短い髪が揺れ、川面が月の光できらきらと輝く。
少し俯き、何かを考えている。
「リリルカには彼女の目的があってダンジョンに潜る。今はどうかわからないが、かつては俺のためになりたいと冒険者になろうとした時期があった」
「ソーマ様の、ため……」
「ああ。今は、お前との冒険が楽しい、とか、仕事から離れて気分転換をするためとか、そういった理由だろうが」
実際、何を求めてリリルカがダンジョンに入るかは知らない。
ベルのことを気に入っている雰囲気はあるので、ベルの力になりたいと思っている可能性もあるが。
「僕の、ダンジョンに潜る理由……」
シードルが入った瓶が汗をかき、ぽたりぽたりと地面を濡らした。
「いろいろ、理由はあると思います。一つのことに全力とか、そういうのじゃないんです」
「ふむ……」
「リリがソーマ様の役に立ちたいって言ってるように、僕も神様の力になりたいです。僕をファミリアに入れてくれて、神様のナイフもいただいて。僕が神様にできることなんて、ダンジョンに潜ってお金を稼いで、それくらいしかできないので」
理由の1つが、ヘスティアへの恩返し。
「ほかの理由でいうと何がある?」
「他の理由……、で言うと、追いつきたい人がいるんです」
「追いつきたい人……か」
「はい」
ベルはボソリと呟くように言葉を重ねる。
「横に並びたい人がいるんです。その人はすごくて、今の自分なんかじゃ見向きもされないくらい、遠くにいる人なんです」
その人に並ぶのが「成長を促すスキル」の根底か?
「その人にはなぜ追いつきたいんだ?」
少し踏み込み過ぎたかもしれないと思ったが、ベルは「恥ずかしいですね」なんて苦笑いすると、追いつきたい理由を口にした。
「助けられたんです」
「助けられた?」
「はい。冒険者になってすぐ、5階層に出てきたミノタウロスに襲われたときに。その時は、きれいな人に助けられたの恥ずかしくて逃げちゃったんですけどね……」
ごくり。と口を潤す。
「その人がすごい人って知って、ああなりたいなって思ったんです」
「なら、お前はその人の
「いえいえ! 僕は僕ですしあの人とは違います。なんていうか目標というか、憧れというか」
「憧れ」
「はい」
その憧れが酔いというには、今の話では弱く、判断できない。
助けられたから憧れ、憧れに追いつきたい。そう思うには、成長を促すスキルというのは重すぎる。
「正直、僕の中でも上手にまとまってなくて……」
「気にしなくて良い。ダンジョンに潜るほとんどは考えもせん。少なくとも目的があるだけマシだ」
【ソーマ・ファミリア】の団員ですら、目的を持ちダンジョンに潜っているものは少ない。
「俺はお前の主神ではないから、何かを言う権利はないが、俺が団員達に言っている事がある」
「な、何でしょうか」
「自分自身が酔えない酒は、誰も酔わせられない。周りを巻き込み熱量を魅せ、同じ感覚を共有する。その共感覚という名の現象が起こるだけの酔いを、まずは自分自身が持たねばならない」
「酔い……ですか……」
「そうだ。お前はまだ冒険者としては子供だ。器が大きいものの、中に入れる経験や知識が足りない。荒削りな玉でしかない。磨かれていない原石でしかない」
剥かれただけの原料。それが今のベル・クラネル。
そこにどんなスパイスを入れるのか、どんな醸し方をするのかは周囲との関係性で、どんなカクテルにするかは自分の意思。
「いつか悩めない日が来る。そしてその時にお前はお前の酔いを持っているはずだ。その時にまたお前がダンジョンに潜る理由を、俺が酔いと称するそれを聞かせてくれるか?」
彼はリリルカよりももっと子供なんだ。リリルカのように欠落したものを埋めていった子供じゃない。足りないものを知らないほど恵まれ、急に足りないことを知った子供。
「あれ? ベルくーん! それにソーマ!」
「神様? 仕事終わりですか?」
「そう! 今日はすごい疲れたんだ。だから癒してくれよベル君」
急に現れたヘスティアに抱きつかれ驚くベル。二人の関係性を見て微笑ましく思う。
「珍しい二人だけど、何を話していたんだい?」
「大したことじゃないさ。たまたまあったから、ダンジョンでのリリルカがどうしているかを聞いていた」
「本当かいベル君」
「は、はい! 中層に行こうとしてる話とか色々ッ! 色々してました!」
本当かい? とヘスティアはベルににじり寄る。
「楽しそうだな」
「へへへ。良いだろうソーマ。君もリリルカ君にしてみたらどうだい? きっと彼女も喜ぶぜ?」
俺がリリルカに抱き着く? 何を馬鹿な事を。
夜空に浮かぶ月が、俺を見て嘲笑っている気がした。
みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。
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