神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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ザクロ

「ソーマ様、それは?」

 

 赤色で汚した手を見たリリルカが、強張った声色で訪ねた。

 

「も、もしかして、血……」

 

 ソーマのトレードマークのようなものになっている白い外套は、両袖口と腰辺りから下にかけて一部が真っ赤に染まっている。

 

「だ、誰か殺したんですか?」

「違う! なぜそうなる!」

「だ、だって、真っ赤で!」

 

 部屋の端にあった鏡に自分の姿が見える。

 赤く汚れた両手と服。

 

「机も……」

 

 そう言われて机を見れば、まな板が赤くなり、汁が床に垂れている。そしてまな板の上には果物の残骸。

 

「リリルカ」

「ひゃい……」

「これはザクロだ」

「ザクロ?」

 

 リリルカに近づくよう伝え、まな板の上を見せる。

 そこには口が裂けたように中の小さく赤い実が見えるザクロが置かれていた。

 

「ザクロ……」

 

 ペタンと力なくリリルカが座り込んだ。

 

「び、びっくりしました……。そ、ソーマ様が人を殺したかと……」

「確かに冷静になれば大量に触りすぎたな。驚くのも無理はない」

 

 香りづけと着色のためにかなり多くのザクロを触っていた。

 床に置いた甕には砕いたザクロが入れられており、絞った液が机の上の透明な瓶に詰められている。

 

「そ、それで、そのザクロは、どうするんですか?」

 

 ふらふらと立ち上がったリリルカは、部屋に備え付けられているベッドに腰をかけ、確認するように尋ねるが、口調に「どうせ酒にするんでしょう?」というのが見える。

 

「想像の通りだよ。酒にする」

「ザクロのお酒って、そういえばなかったですね」

「手に入れやすいものからリキュールは造っていたからな。レモン、ブドウ、リンゴ、桃、オレンジ。【デメテル・ファミリア】から購入できるものの方が仕入れが楽で、長く販売できる」

 

 ザクロで作る酒というのは、儀式などで定期的に使われる。

 ただ、ザクロを今まで使っていなかった理由もある。

 

「リリルカ、なぜザクロを使うと思う」

「なぜザクロを使うか……。単純に考えれば、テイストがこれまでの傾向と違うから……、とかですか?」

「違うな」

 

 当たるとは思っていなかっただろう。

 うむむ……、と声を漏らしながら理由を考え始めたリリルカ。

 

「それは、ザクロじゃないとダメな理由。ということですか?」

 いきなり良い着眼点だな。

 質問はされると思っていたが、いきなりほとんど答えだ。

「ああ。ザクロじゃなければダメな理由がある」

「ザクロ、ザクロ……。なんでしょう」

 

「酒というものがどういうものなのか、リリルカに伝えたことはあったか?」

「聞いたことはあります。お酒はそもそも儀式的な道具で、飲むことで興奮状態や酩酊状態になり、神様と同化するため、神様を降ろす。とソーマ様は言ってました」

「そうだ」

「ということは、何かしら儀式で使うためにザクロのお酒を使う。でもそれだとザクロである理由がないですね……。儀式的なお酒と言えば、オラリオでいうとデュオニソス様のワインのイメージがありますし……」

 

 ちゃんと考えていることに感心する。

 儀式的なことに使う酒から、ワインに繋げられるとは思っていなかった。そして、答えを出せるとは思っていなかった。

 

「もしかしてですが、ワインの代用品として、みたいな」

「ははは。素晴らしいなリリルカ。正解だ」

 

 褒めてやれば、しっぽがあるのではと思うほど喜ぶリリルカ。

 頭を撫でてやりたいが、残念ながら手が汚れてしまっているので諦めよう。

 

「リリルカの言う通り、儀式的道具として使われる酒は葡萄が多い。葡萄蔓なんかを使って作る酒だ。ただ、俺の故郷ではそういった作物は育たなかったりと、ディオニュソスたちの故郷と違い木の樹液なんかを使う酒を造っていた」

「樹液、ですか……」

「そうだ。その中で、ザクロは色合いや風味などワインの見た目に似たものとして、代用され使われるようになる」

 

 ザクロ自体に薬用の効果、例えば虫下しや止血作用なんかがあり、もともと使われていたのもある。

 そういう意味でも、おあつらえ向きだったのだろう。そこは酒の神だが知らん。俺の専門は樹液を元として蒸留して作る酒だ。果実酒は知ってるし分かりはするが専門外だ。

 

「まあなんていうんだ? ワインの偽物を作る。その程度に思っておいてくれれば良い」

「それって、【ディオニュソス・ファミリア】的には大丈夫でしょうか……」

「なに、ワインとザクロ酒は別物だ。よし、ここからの作業は酒蔵でやろう。すまないがリリルカ、この甕を運んでくれるか? 俺はこっちの瓶を持つ」

「わかりました!」

 

 久しぶりにリリルカとの酒造りになる。うれしそうなリリルカは、重さなど感じていないと言わんばかりに軽々と甕を持ち上げた。

 

「今回のはどういう形で作るんですか?」

「いろいろ試そうと思っている。リリルカは蒸留以外の酒の作り方を理解しているか?」

「簡単には。ワインとかだと、ぶどうに酵母を混ぜて発酵。その後絞って寝かせるんですよね? 他のでいうと、お酒の中に果物と氷砂糖を入れてリキュールにするとか」

「ああ。その認識で間違いない」

 蒸留は、水とアルコールの沸点が違うことを利用して作る製法で、蒸気になったアルコールを冷やすことでアルコールを強める。

 

「もう汚れたし今更か?」

「裾や袖が邪魔になると思うので脱いだ方が良いかと。後でリリが預かって洗っておきますね」

「そうか」

 

 酒蔵についた俺とリリルカは、水場の近くに甕と瓶を置く。

 邪魔になる外套を近くにあった椅子に掛け、二人で並びながらザクロを洗い身を取り出す。

 

「ミード酒の時もこんなだったな」

「はい! うまくいかなかったのも良い思い出です」

「泣いていたな」

「……覚えてません」

 

 嘘だな。神じゃなくてもさすがにわかる。

 

「それぞれ分けよう。リキュールに使うのは余っているウォッカで良いだろう。ザクロもそれほど多くなくて良い」

 煮沸消毒をしたそれほど大きくない甕にウォッカを注ぎ、その中に実だけにしたザクロと氷砂糖をぶち込む。

「早くて1週間後だな。念のため2週間ほど待とう」

「はい! それじゃあ次は……」

「次は発酵だな……」

 

 次はリキュールに使わなかった残りのザクロすべてを別の甕に入れる。

「ワインだと実を少し割るんですよね? どうしますか?」

「これもそうしよう」

 

 鍋を回すのに使う大きな木のヘラをリリルカに持たせ、甕に入れた実を軽く潰す。そこに酵母菌を混ぜる。

「こっちも発酵は1週間くらいか。できたのを絞って寝かすものと蒸留するものに分けよう」

「はい!」

 

 2つの甕を酒蔵の邪魔にならないところに動かせば今日の作業は終わり。

「結構色がついちゃうんですね」

「まだ触って時間も経っていない。洗えば落ちる。……服は分からないが」

「安心してください! リリが綺麗にしますから!」

 なにか良い石鹸でも持っているんだろうか。やたらと自信ありげな顔をするリリルカに違和感を持つ。

 

「でも、一緒にお酒の準備するの、楽しいですね」

「酒を共に飲むの良いが、共に作るのもまた違う楽しみがある。それに、昔に比べればリリルカもだいぶ手際が良くなった」

「えへへ。そりゃあソーマ様の娘ですから、酒造りもお手の物です!」

「なら、今度、お前主導で酒を造ってもらうか」

 

 リリルカが作るとなればどんな酒になるだろうか。

 リンゴが好きだからそういった果実酒だろうか。それともジンやウォッカのようなスピリットを作るのか。

 

「リリのお酒ですか……。どんなのが良いんでしょうか」

「難しく考える必要はない。自分が飲みたいと思う酒をイメージすれば良い。何を原料とする酒が良いか、どういった飲み口の酒が良いか。割るのを前提とした酒か。それとも原液のままストレートやロックが良いか」

 

 誰かと飲む酒か一人で飲む酒か。それを決めるだけでも大きく変わる。

 

「リリなりにも考えてみますね」

「ああ。楽しみにしている」

「困ったら相談させてくださいね?」

 

 汚れた俺の外套を手にしたリリルカが、俺のことを見上げながら尋ねる。

 

 先ほどとは違って、今度は汚れていない手でリリルカの頭を撫でた俺は、少し微笑みながらやさしく答えた。

 

「ああ。いつでも良い」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「よし! 目標額も集まった!」

「お疲れ様ですベル様!」

 

 ソーマとリリルカがザクロ酒の仕込みを行ってから一週間ほど後、ギルドで魔石達を換金した二人は、その成果を見て喜ぶ。

 

「これで遂に火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を3人分揃えられますね!」

「値段がすごいからね。軽く5桁っていうのが……」

 

 二人でバベルに足を運び、【ヘファイストス・ファミリア】のバベル支店で売られていた値段を見て絶望したのは記憶に新しい。

 二人してあははと苦笑いを浮かべる。

 

「あとはヴェルフに装備のメンテナンスをしてもらって」

「はい。探索前に情報整理をしてから突入です」

 

 いくらレベル2が2人いるパーティーとは言え、13階層以下は危険。それがリリルカとベルのアドバイザーであるエイナの意見。

 だからこそ万全の準備を整えた上で挑む。

 

 ミノタウロスとのあの戦いがベルにとっての冒険というなら、この中層進出こそがベル、リリルカ、ヴェルフ3人にとっての冒険。

 

「ベル様?」

 小さく笑っていたベルを見てリリルカが尋ね、それをベルは何でもないと返した。

 

「二人とこうやってダンジョンに潜るのが楽しいんだ。リリは冒険なんて嫌かもしれないけど、それでも、一歩ずつ僕たちが成長してるのが分かるから」

「そう、ですね……。確かにリリは冒険なんてしたくないですし、しようとも思いませんが、ベル様と一緒にいる時間は心地良いですから。リリなりにやれることをやりますよ」

「ははは。ありがとうリリ」

「いえいえ、感謝されるようなことじゃないです。どうしても感謝がしたかったら、リリ達のお酒を買ってくれれば十分ですから」

「えっ!?」

「それじゃあこのまま火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を買いに行っちゃいましょう!」

「リリ? おーい」

 

 先に歩き出したリリがギルドの入り口で振り向いた。

 

「何をしてるんですかベル様! 早く行きましょう!」

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

  • ジン
  • ウォッカ
  • ウィスキー
  • ラム
  • ビール
  • 日本酒
  • 焼酎(芋・麦・米問わず)
  • 果実酒(梅・果物問わず)
  • テキーラ
  • ワイン(赤・白問わず)
  • その他(良ければコメントで教えて)
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