神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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探索隊

「リリルカが拠点に戻ってきていない?」

 

 その話を聞いたのは、リリルカがダンジョンに潜ると伝えられた次の日の昼だった。

 

「どういう経緯で発覚した」

「本日他派閥の従業員の契約更新があったため少し前に執務室に行きましたがリリルカがおらず、拠点にいた団員に聞いたところ今日は誰も見かけていないとのことでした」

 リリルカの私室の前で声かけをしたものの反応がなく、断りを入れて中に入るがリリルカの気配は何一つなかった。

「バベル一階のギルド職員に外営班が確認したものの、昨日ベル・クラネルたちと3名で潜った姿は確認されている者の、出てきたところを見たものは居ないとのことです」

 ネクタルから伝えられた内容に、めまいのようなものを感じ、ふらふらと椅子に体を預ける。

 

「ヘスティアはこのことを知っているか?」

「ヘスティア様とはまだ接触しておりませんので不明ですね」

 

 少し意識を集中させ、リリルカと眷属の繋がりを確認する。

 オラリオ随一の団員数を誇るため、繋がりを探すのに苦労するが、リリルカとの繋がりを確かに感じた。

 

「状況は分からないが少なくとも生きている。繋がりはまだある」

 確かに繋がりを感じた瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「そ、ソーマ」

「ヘスティア……」

 息も絶え絶えという表現が適したほど肩で息をするヘスティアが入ってくる。その顔は焦燥していて、それだけで、彼女も俺と同じ状況であることを理解する。

「リリルカはまだ帰還していない」

「っ!?」

「その表情だ。ベル・クラネルもそうなんだろう?」

「ああ、ベル君も昨日から帰ってきていない。繋がりは感じるから、死んでなんかいなんだけど……」

 

「レベル2が二人いるパーティーで中層の探索。突発的なイレギュラーが発生しても帰還ならできるはずです」

 ネクタルの発言はもっともで、俺は小さく頷く。

「リリルカの状況判断能力は高い。そのリリルカが帰還を選択できない状況というのは、並の問題じゃないはずです。誰かが大けがを負い、安全地帯などで回復まで待っている可能性や、あまり考えられないですが、下に潜った可能性」

「下?」

「18階層のリヴィラの街のことです。【ソーマ・ファミリア】が卸す酒は何も地上だけじゃない。アンダーリゾートと呼ばれる18階層でも販売していて、リリルカはそこに酒を卸しに行ったこともある」

 

「でも、聞いた話だと13~4階層の探索ってベル君は言っていたんだ。18階層だなんて……」

「ヘスティア。ここでうだうだ話していても時間の無駄だ。誰かにこのことを相談したか?」

「一応【ミアハ・ファミリア】のナァーザ君に……。彼女からはギルドで捜索のクエストを依頼するべきだと言っていた」

「依頼に関しては保留しましょう。【ヘファイストス・ファミリア】から人員を出せるかもしれません。とりあえずはギルドに相談し、少しでも情報収集するのは必要かと」

「聞いたなヘスティア。俺はネクタルとギルドに向かう。お前はヘファイストスに事情を話して二人でギルドに来てくれ」

「わ、わかった。ヘファイストスに事情を言ってギルドに向かう。OKだ」

「ベル・クラネルにはアドバイザーがついているか?」

「いるよ。ハーフエルフで、名前は確かエイナ・チュールだったと思う」

「わかった。まずは彼女に尋ねよう」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ネクタル殿。本日は如何様なご用事で」

「火急の要件があって、ハーフエルフのエイナというアドバイザーを探している」

「チュールですか? どういった……」

「彼女が担当しているベル・クラネルとそのパーティーについてだ。急ぎ取り次いで欲しい」

 ギルドに到着してすぐ。

 定期的にファミリアの資金や、各飲食店や商店、ファミリアからの売上金を預かるために顔を出してたネクタルに気づいた職員が一人、こちらに要件を訪ねてきた。

 

 ネクタルが要件を伝える中、俺はいくつかあるカウンターにハーフエルフがいないか探す。

「お前はそのエイナ・チュールを見たことはあるか?」

「数度ですが。ただ、直接的な関わり合いはありません。正直顔も覚えていないので、連れてきてもらう方が良いかと」

 なら、カウンターを探すのもあきらめよう。

 

「お待たせいたしました。クラネル氏のアドバイザーを務めております。エイナ・チュールです」

「急に呼び出してすまない。【ソーマ・ファミリア】所属。ネクタル・スラ―だ。こちらは主神のソーマ様」

「ソーマだ」

 ネクタルからの紹介に合わせて言葉を発すと、彼女も短く挨拶を返した。

「本日はどういったご用件でしょうか。おそらくクラネル氏に関係することかとは思いますが……」

「今現在、【ソーマ・ファミリア】のリリル・アーデ、【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネル、【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフ・クロッゾの3名がそれぞれの拠点へ帰還していない状態になっている」

「クラネル氏たちがダンジョンから戻っていない?」

「そうだ。団員がバベル1階にいる職員へパーティーの姿を見たか確認を取ったものの、誰も帰還を見ていない状態とのことで、ギルドに確認を取るために来させてもらった」

「かしこまりました。神ヘスティアと神ヘファイストスにはこの話は……」

「ヘスティアには直接話していて、ヘファイストスにはヘスティアから連絡をしてもらっている」

 しばらくしたらヘファイストス含めギルドに来るはず。そう伝えると、彼女は一度息を吐いた。

「神ソーマ。私がクラネル氏から伺っているのは、昨日クラネル氏含めた三名で13~4階層の探索に赴き、当日中に帰還するという内容です」

 彼女が聞いているのも俺と同じ内容。であれば、いよいよイレギュラーによる予定変更が現実的になる。

 

「ソーマ! 来たよ」

「ヘスティア。ヘファイストスも」

 これでパーティーの主神がそろったので、ここまでの情報を簡単に二人に伝える。

 

「ヘファイストス。ヴェルフ・クロッゾとの繋がりは消えていないか?」

「ちょっと待ってね。あなたほどじゃないけど私も眷属が多いから……。うん、繋がりはある。恩恵が消えた子もいないし、ヴェルフはちゃんと生きてるわ」

 これで3人全員の生存が確定した。

 

「ナァーザ君からは捜索の依頼を出すべきと言われてるんだけど、ヘファイストスの眷属で中層に行けそうな子はいるかい?」

「残念ながら今私の眷属でレベルの高い子は【ロキ・ファミリア】の子たちと深層遠征に出てる。中層に長時間留まれそうなほど頼りになる子はいないの」

「ソーマのところは?」

「こちらも正直難しい。ザニスがレベル上げのために出ていてな」

 

 時計の針はすでに夕刻に近づいていた。

 

「ソーマ様が許して頂けるのであれば、私一人で先行しますが」

「ネクタル……」

「私自身リリルカには思うところもあります。片腕になり深層探索や正面戦闘は難しくありますが、中層で彼女達を探す程度であれば」

「ほ、本当かい!?」

 

「突然割り込んですまない。ヘスティア、ソーマ、ヘファイストス」

 

 ネクタルの申し出を遮るように一人の男神が、団員を引き連れて現れた。黒い髪を角髪に整えた戦の神、タケミカヅチとそのファミリアの団員たちである。

 

「すまない。お前の子達が戻ってこない原因が、俺たちにあるかもしれないということだ」

「どういうことだ。タケミカヅチ」

 タケミカヅチの後ろで、彼の眷属達は懺悔するように俯いていた。

 13階層で起こした『怪物進呈(パス・パレード)』の一件を眷属達は拠点帰還後、主神であるタケミカヅチに報告していた。その中で『怪物進呈(パス・パレード)』先のパーティーの特徴を聞き、ヘスティアとソーマの眷属である可能性に気付いた彼は、事の真相を確かめるためギルドへと足を運んだらしい。

 

「ヘスティア?」

 タケミカヅチの話を聞く間、腕を組み目を瞑って一言も話さない彼女に、神友であるヘファイストスが声をかけた。

「正直、君たちを許すことはできない。ベル君が戻ってこなかったら僕は君たちを恨むし、ソーマだってヘファイストスだって君たちのことを恨むと思う」

 ただ、だからと言って憎しむことはしない。

 そう言い切った女神の寛容さと眼差しに、一糸乱れぬ動きで【タケミカヅチ・ファミリア】の6人は膝を床につき、(こうべ)を垂れた。

 

「決まりだな。君たち6名にネクタルを加えた7名か」

「人を出すと言っておいてなんだが、中層に潜れるだけでなく捜索となると、レベル2の桜花と命。それと二人のサポーターとして千草の3名だ」

「捜索隊に必要なのは一に速さです。不安はありますが、少数精鋭で行くのがよろしいかと……」

「なら、俺の眷属を貸そう」

「なんのつもりだ? ヘルメス」

 

 タケミカヅチに続いて俺たちに混ざるのは、ハットを被った優男の身なりをした金髪の神。旅と情報の神たるヘルメス。

 

「何のつもり? 単純な話さ。マブダチのヘスティアが困ってる。そうなりゃ助けてやりたいものだろう? それに、取引相手のソーマが困ってるんだ。ここで貸し一つでも作らないと、都市外へ運搬している団員達の不満がすごくてね」

 嘘だ。と言いたいが、それでも人員が増えるのはとても助かるのも事実。

「うちのアスフィを連れて行く。安心してくれ、俺たちのエースだ」

 

 ヘスティアとタケミカヅチが、ヘルメスとその眷属のアスフィが何かを話す中、ネクタルが俺に耳打ちをした。

「神ヘルメスには何か狙いが……」

「何かは考えているだろうが、おそらく俺たちには関係ないだろう。あるとすれば……」

 ベル・クラネルだろう。

「炉の神に美の女神、旅の神。あいつはどれほどの神を魅了するつもりなんだか……」

 その中に自分も含まれるのかもしれない。

 そんなことを思いながら、捜索隊の結成を見守った。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 金色に光る月がオラリオを、ダンジョンの蓋たるバベルを照らす夜の八時。

 摩天楼の足元である中央広場にも夜の帳が下り、昼間とは異なって人が少なくなっていた。

 

「ネクタル……。リリルカが困った時、これを飲むように伝えてくれ……」

 

 サポーターの格好に着替えたヘスティア。装備を整えた【タケミカヅチ・ファミリア】の3人を横目に、俺はネクタルへ赤色の液体が入った透明な瓶を渡す。

 

「これは……?」

「この前仕込んでいたザクロ酒だ」

「おいおいソーマ。こんな時だってのにお酒かい? 全く君って奴は」

()()のためですか?」

「ああ。発動するかはわからないが、それでも何かしら役に立つだろう」

 

 ヘスティアは訝しんだものの、事情を理解しているネクタルは、ザクロ酒の入った瓶をポーチにしまった。

 

「待たせたね。みんな」

「遅いよヘルメス!」

 集合していた面子にヘルメスとアスフィが加わる。

 

 そしてその奥から現れた、裾の長いケープとフードに身を包んだ一人の女性。

 

「その人は?」

「安心してくれ。俺が信用する腕利きの助っ人さ」

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

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