神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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地下の楽園

 中層進出として潜ったダンジョン。

 そこで起きた『怪物進呈(パス・パレード)』によってヴェルフが負傷し、状況打破の為に魔法を連発したベルが魔力枯渇(マインドダウン)寸前という状況。

 普段より量は少なかったもののバックパックとして持ってきていた大きめのリュックは戦闘時に破損し中身を溢し、リリの提案でパーティーリーダーのベルは、地上への帰還ではなく、安全地帯の18階層への強行を選択した。

 

「大丈夫? 二人とも……」

「何とか……。リリ助はどうだ」

「何とか。縦穴を通って16階層。モンスター避けの臭い袋は枯渇しましたが、17階層はゴライアスが出てくるかギリギリ。後はリリ達の運だけです」

「こんな状況なら、運は頼れねぇな」

「冗談が言える程度にはヴェルフ様が元気でよかったですよ……」

 

 正直状況は良くない。

 軽口は言えているがヴェルフ様は足を負傷していて歩けずベル様が抱えている状態。リリも持っている装備はほとんどなく、携行している戦斧。

 ベル様は言わずもがな。

 

「モンスターがいませんね……」

「急いで抜けましょう」

 

 他の階層より一層暗い通路。

 どんどんと高くなる天井と、やけに静かな空間。

「……なんで」

 抑えきれなかったのか、ベル様が疑問を口にして、その声が遠くの方まで反響する。

 

 モンスターの気配はする。

 なのに、襲いにくるどころか姿すら見せない。16階層以前と比べ、パッタリと接敵が途絶えている。

 

「リリ、そろそろだよね……、『嘆きの大壁』って……」

「はい」

 

 整った直方体の空間。

 空間の入り口から奥まではかなり遠く、誰かに磨かれたかのように凹凸のない、あまりにも異様な壁を見つけた。

 

「これが……」

「そうです。これが『嘆きの大壁』です。通称階層主と呼ばれる迷宮の孤王(モンスターレックス)、『ゴライアス』の城」

 

   パキリ。

 

 その時、大広間に音が響いた。

 

   ピキッ、パキッ。

 

「おいおい、冗談だろ?」

 

 上から下に、雷のようなヒビが広がった。

 

「あははっ。悪夢のほうがマシですね……」

 

 壁面を掴む腕。フロアを揺らす足。煙を纏い現れた絶望の権化。

 

「これが、ゴライアス……」

 

 巨大という根源的な恐怖。

 生存に向けた唯一の希望を塗り潰す、圧倒的な絶望。

 

「あはっ! あははははっ!」

 

 もう笑うしかない。

 どうしようもない。

 

 7Mに届きそうなほどの体。

 推定レベルは4であり、リリ達が逆立ちしても勝てない壁。

 

「り、リリ?」

 

      ォオ……』

 

 直後、咆哮がリリ達の体を穿った。

 

「っ!?」

 

 ビリビリと鼓膜が、脳が、体が震える。

 体に熱が困る。

 恐怖で動けなかった体に血が巡り、生存のために動けと本能が叫ぶ。

 

「ベル様はヴェルフ様を連れてここを抜けてください」

「リリっ!? 何言ってるんだよ!?」

「ヴェルフ様を生かすためです」

 

 リリの体はゴライアスに比べあまりにも小さい。

 だからこそ、攻撃を掻い潜り、一瞬の隙を突いて脱出することは可能だと考えた。

 

「分の悪い賭けですが、今リリ達が取れる手はこれくらいです」

 

 普段であればスキルのおかげで重くない戦斧が、蓄積された疲労で重く感じる。

 すばしっこさは失っていないが、正直足取りも重い。

 

 どれくらいダンジョンに居たかもわからない。

 一日中歩いているような気がするが、実際はそれ以上かもしれない。

 

 それでもリリは斧を構えた。

 

「行きますっ!」

 

 注意を引くために、ベル様達からゴライアスの意識を逸らすために、大声を出しながら駆け出す。

 その体の前に現れた敵対者に気付いたゴライアスが足を振り下ろし、リリが大きく回り込む形で避ける。

 

「っやあ!」

 

 地面を踏みしめた足に横薙ぎを見舞う。そして直ぐに離脱。

 

「何してるんですかベル様! 早く逃げてっ!」

 

 叫びながら、襲い来るゴライアスの足を必死に避ける。

 動いてくれないベル様。

 広間の奥から離れようとできる限り入り口に近づくよう誘導しているが、それでもベル様は動かない。

 ヴェルフ様を抱えたまま、リリとゴライアスを見つめている。

 

「早く逃げてくだ    キャッ!」

 

 斧を盾がわりに構えゴライアスの拳に耐えようとしたものの、その圧倒的なパワーで持って、リリの体は簡単に吹き飛ばされた。

 

「リリっ!?」

 

 地面を数度転がり勢いが収まる。

 頭に傷をおったのか、徐々に視界が赤く染まり始める。

 

 視界内にベル様達は見えない。

 地面を通して感じる振動から、きっとベル様は逃げようと動いてくれているのを感じる。

 

 手を伸ばすが、先ほど吹き飛ばされた衝撃で、戦斧は無惨に砕けた。

 

「すみません、ソーマ様……」

 

 もう目を開ける力もない。

 意識を手放す時、頭には見上げるたび紫色の目で優しく覗き込んでくれた最愛の主神の姿を思い浮かべた。

 

「あ、……ぁあ、あぁ……」

 

 血か涙かわからないそれがリリを中心に広がる中、意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

  ッツ!?」

 

 耐えられないほどの痛みを感じ、ゆっくりと目を開いた。

 目に入るのは明るい光と、クリスタルが広がる空間。

 

「ここ、は……」

 

 生きてる。

 そう実感したのは、痛みが引くのと引き換えに、体中に血が巡る感覚を感じたから。

 

「もしかして、18階層?」

 

 明るい空間。

 岩肌の壁面に視線を向け、そのまま上を見れば天井という名の蓋がある。

 そして、クリスタルの光源が広がる世界。

 

 幾たびも足を運んでいたリリは、ここが18階層であることを理解した。

 

「だれがリリを……、べ、ベル様とヴェルフ様は?」

 

 痛む体に力を入れ周囲を見渡せば、少し先にヴェルフ様の姿が見える。

 床に転がされ毛布を被せられ、足には怪我の治療をした形跡がある。

 

「良かった……」

 

 一つ安心する。ヴェルフ様がここにいるということは、彼を運んでいたベル様もきっとここにいるはず。

 そう思い視線を遠くにやれば、古くから知る見慣れた金髪の少女とベル様が、二人並んでこちらに向かって歩いてきてた。

 

「ベル様……、それに、アイズ様も」

「リリ!! 良かった! 目が覚めたんだね」

 

 ベル様の顔をして気が抜けてしまい、起こしていた体を倒してしまった。

「リリ。気が付いてよかった。本当にっ!」

 

 リリの手を握って喜ぶベル様に少しうれしいような、恥ずかしいような気持ちがこみ上げてくる。

 が、今は状況確認が必要。

「あ、アイズ様、ここは18階層ですよね……」

「うん。リヴィラの街から少し離れたところ」

「もしかして、【ロキ・ファミリア】のキャンプに入れていただいた形ですか? 遠征に行ってましたよね……」

 

 アイズ様からは短い返答で肯定され、彼女たちの事情を教えてもらう。

 

「リリたちを助けていただきありがとうございます。【ロキ・ファミリア】も万全じゃないにも関わらず」

「気にしないで。リリはもともと知ってる子だし、鍛冶師の子も【ヘファイストス・ファミリア】で見捨てられる状況じゃなかったって、フィンが言ってた」

「アイズ様、おそらくですが秘密事項かと……」

 リリの指摘にアイズが口元に手を当て、キョロキョロと周りを確認する。

「よかったですね。周りに幹部の方がいなくて」

「ふぅ……」

 アイズ様のほっとした表情を見て顔を赤くするベル様を見て、思わずジーッと彼の顔を見つめてしまった。

 

「こ、ここは……っつ!?」

「ヴェルフ!」

 リリから少し遅れて目を覚ましたヴェルフに状況の説明をする。

 ゴライアスから【ロキ・ファミリア】が助けてくれたこと、彼、彼女らのキャンプにて治療を行ってもらったこと。

「ベル様はアイズ様に惚の字のようです」

「ちょっとリリ!?」

「?」

「アイズさん! 何でもないですよ? リリも目が覚めて時間が経ってないからそう見え☆♪¥%×+♪」

 慌てすぎて言葉になっていないベル様を見てリリもヴェルフ様も笑う。

 

「おーい! アイズ! リリ! アルゴノゥト君! ご飯が準備できたって」

「わかった」

 ベル様がヴェルフ様に肩を貸し、リリは二人の後ろに立つ。

 

「そうだリリ!」

「どうしましたかティオナ様」

「もぉー。いっつも言ってるのに様付けやめてくれないじゃん! って、それもあるけど、フィンがリリと話したいってさ。あとで時間ある?」

「状況が状況ですし伺います。食事後ですよね?」

 多分? なんてあっけらかんと答える彼女を先頭に、準備された食事会場へと向かう。

「うわぁ……」

「ベル様? リリ達はお客様ですから食べられることはないですよ?」

 比較的女性が多く、主神の趣味のせいで顔立ちの整った団員が多い彼女達に見られてベル様は少し顔を伏せた。

 

「みんな少し聞いてくれ」

 リリ達が彼達の輪に混ざったタイミングで【ロキ・ファミリア】の団長【勇者】の二つ名を持つフィンがみんなの視線を集めた。

 

「今夜は客人を迎えている。彼らは仲間のために心身をなげうち困難を払いのけこの18階層まで辿り着いた勇気のある冒険者だ。仲良くしろとは言わないけれど、少しだけでも敬意を持って接してあげてくれ」

 揉め事を防ぐためとは言え、よくここまで冒険者の自尊心に訴えられるような口上を言えるものだと思う。

 

 ちらっとこっちを見て不敵に笑ったのもマイナス評価だ。

 

「ティオネ様に殴られるかもしれません」

「どうしたリリスケ」

「いえ、こちらの話です」

 

 と思っていたら、リリ達に食事が配られると同時にフィンがこちらに来る。

 憤怒の表情をするティオネを連れて?

 

「リリ?」

「ベル様は気にしないでください」

 

「やあリリルカ。目が覚めたようで安心したよ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「気にしないでくれ。同じ小人族なんだ。助けられる状況で助けられる人がいれば行動するさ」

 その引き換えにティオネ様に殺されそうなのですが。とは言えなかった。

 

「簡単には先に目覚めたベル・クラネルから事情を聞いているが、何があったんだい?」

「簡単に表すなら13層で『怪物進呈(パス・パレード)』を受け、以降断続的にモンスターと戦闘を繰り返す中ヴェルフ様が負傷。そのまま竪穴に落ち下に来ました」

「ほお……」

「精神枯渇気味だったベル様と足を負傷していたヴェルフ様のことを考えて上に戻るよりもここ(18階層)に来て態勢を整えることをリーダーのベル様に提案」

 あなた達の遠征でゴライアスが討伐されたので、そのまままだ生まれないと読みましたが外れました。

 そうあっけらかんと言う。

 

「無茶するわね。リリルカ」

「状況が状況でした。中層で正しく活動できるのはベル様だけ。リリはサポーターなのでステイタスはありますが素人に毛が生えた程度の小人族です。ヴェルフ様はまだレベル1でリリより動けますがステイタスが足りない」

「その状況でここを目指せると踏んだんだ。本来誰しも上を目指す状況で君は下を睨んだ。人はそれを蛮勇というが、僕は君のその胆力と勇気に敬意を表するよ」

 口では何とでも言えるが、こと相手が小人族であれば本気で思っていそうなところが耳につく。

 

「せっかくだ。どういう冒険をしてここにやってきたか詳しく教えてくれるかい?」

「いえ、先ほど以上の内容はありませんので話す必要はないかと」

 バチバチと火花を散らすように笑顔でにらみ合うリリたちの耳に、「ふぎゃっ!?」とあまり聞かないうめき声が聞こえてきた。

 

「神様!?」

 その声に一番早く反応したのはベル様。

 聞きなれないうめき声だが、聞き覚えのある声にベル様が走り出すと、続いてヴェルフ様も動き出す。

 

「君はいかなくて良いのかい?」

「リリは良いです。来られる方も想像できますし」

 リリたちの捜索隊が結成されていれば、【ソーマ・ファミリア】で派遣できるほどの実力者は数名。ザニス様は探索部のレベル2~3の面々を引き連れレベルアップのため18階層よりも下にいるから除外される。

 チャンドラ様はレベル2ではあるもののリリやトムお爺ちゃんと一緒で探索がメインの人ではない。

 

「ネクタル様ならこちらに来るでしょうし」

「君のお迎えが【神樹の銀手(パーリ・アンガ)】か。お姫様対応じゃないかい?」

「彼、片腕じゃなかったら今頃レベル5なんじゃないの? 今でも時々中層に来るらしいじゃない」

 

 リリたち【ソーマ・ファミリア】で一番の実力者であるのは、彼が片腕になった死の七日間以降も変わらない。

 そんな彼の評価はかなり高く、【ロキ・ファミリア】の幹部も一目置いているらしい。

 

「リリ! ネクタルさんもいるよ!」

 元気なベル様の声にフィンへ目をやると、彼も苦笑いを浮かべた。

 

 ベル様に抱きつくように引っ付くヘスティア様。

 帽子を被りヘスティア様を見てニヤニヤと彼女の胸を見ている男とそれを見て額に手を当てて項垂れている水色の髪をしたメガネの女性。

 フードを被り緑の戦闘服に身を包んだ推定女性冒険者。

 

 そして、リリ達に『怪物進呈(パス・パレード)』を仕掛けた極東出身と思わしき集団。

 

「おいあれ」

 ヴェルフ様も気がついたらしい。もちろんベル様も気がついているだろう。

 

「フィン様、どこか一つテントを貸して頂けませんか?」

「一応聞くが、どうしてだい?」

「捜索隊の中に、リリ達へ『怪物進呈』をした冒険者がいるからです」

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

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