神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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黒の脅威

【タケミカヅチ・ファミリア】の三名による、本家本物の土下座を受け、ベル様は彼らがリリ達にした『怪物進呈(パスパレード)』を許した。

 ヴェルフ様は納得はしていないもののベル様の、パーティーリーダーの判断を飲み込んだ。

 そしてリリはその謝罪の場で彼らへの文句は口にしなかった。

 

 何か思う事はない? とベル様に何度も尋ねられたし、ヴェルフ様やヘスティア様には文句があるなら言うべきだと言われたが、それでもその場では口を閉ざした。

 

 リリから彼らに伝えた事は単純で、『怪物進呈』をされた事は事実であり、ダンジョンに潜る以上そう言ったイレギュラーに遭遇する危険も承知しているはず。だからベル様と同様に許すと言う事。

 ただ、それで死にかけた事は事実であり、【タケミカヅチ・ファミリア】の面々に贖罪の気持ちがあるなら、償いという形でリリ達のパーティーに対して助力するように伝えた。

 つまりは大きな借りを【タケミカヅチ・ファミリア】はリリ達に作ってしまったという事。

 

「リリルカ」

「どうされましたかネクタル様」

 

 ベル様やヴェルフ様が【ロキ・ファミリア】の数人とリヴィラの街(ぼったくりの巣)へ、観光がてら物資の補給に向かった一方、リリは体を休めるため変わらずキャンプ地で体を休めていた。

 

「ソーマ様からお前に渡すように預かった」

 

 そう言って渡されたのは赤色の液体が入ったボトル。

 

「ザクロ酒ですか?」

「ソーマ様と仕込んだなら分かるか」

「もしかして、スキル用ですか?」

「これで発動するとは思っていないと仰せだった。ただ、気付け薬代わりにはなるだろうと」

 

 一週間前ほどに前に作っていたザクロ酒。おそらくはその試作品だろう。

 

「【ロキ・ファミリア】たちがそろそろ出発する。クラネル達を集め  

 

   おいリリスケ! ベルを見てないか!? ヘスティア様も」

 

 突然テントの幕が開かれ焦った表情のヴェルフ様が妙なことを問いかけた。

 

「どういうことですかヴェルフ様」

 

「ステイタスの更新が終わっただろうと思ってテントに行ったら二人ともいねぇし、近くを見に行っても姿が見えねぇ。俺たちは【ロキ・ファミリア】の正式な客じゃねえから、ベル達を探して時間がかかってもあいつらは行っちまうだろ?」

「我々が何かを頼んだところで、アイツらがそれを飲む必要はないからな」

 それに、神の姿が見えないのはダンジョン的にも、ファミリア的にも問題しか無い。

 

「正直使いたくなかったですが……」

「何か策があるのかリリスケ」

「リリの魔法を使いましょう」

 

 一つ深呼吸をして、灰を被り、仮初の姿で『傷』を隠す。

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】  シンダー・エラ」

 

 赤い髪に赤い耳、少し特徴のある耳は、自分を慕う団員の狼人の幼少期の姿。

 

「リリの魔法は変身魔法です。正しくは模倣なので、変身元となった相手の身体能力も『複写(コピー)』できます」

「その姿で普段の口調だと違和感がすごいな」

「うるさいです」

 

 リリ自身の能力値以上の反映はできないが、獣人などの恩恵によって授かったものではなく本来の嗅覚や聴力なら反映できる。

 

「ヘスティア様、確か今日香水をつけてたはずなんだが、辿れるか?」

「ヘスティア様が今日身につけていたものがあれば……、というか、一度テントに行けば匂いが残ってるはずなので向かいましょう」

 

 5階層でベル様を初めて見た時、彼を助けられるほど強くもなく、優しくもなかった。

 今も、口が裂けても強いとは言えないが、彼と、わざわざリリ達を助けるためにネクタル様達を集めてくれたヘスティア様の優しさには応えたいと思う。

 

 鼻をクンクンと動かせば特徴的な匂いの微かではあるがはっきりとした主張を見つけた。

 

「こっちです」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「一体全体何なんだい!」

 ただ事では無い激しい剣戟の音が響き、大勢の叫喚と木々草花も震わす争いの方向が遠くに聞こえていた。

「おい! (ボク)を無視するんじゃぬぁーい!!」

 縄で縛られたままのヘスティアは、見張りとしている二人の冒険者に無視され癇癪を起こすが、全く威厳のない幼女の女神を敬わない彼らの反応はあまりにも雑だった。

 

「っつ!?」

「誰だっ!」

 突然声をあげ、戦闘態勢に入った冒険者達にヘスティアは顔を左右に振って彼らの視線の先に何があるのかを見つめる。

 

 ガサっ、ガサっと音が鳴り草むらが揺れそこから現れたのは、長く白い耳を生やした兎。

 思わず「ベルくん!?」と叫びそうになったヘスティアと、何だ『アルミラージ』かと安堵する冒険者。

 

 手に果実を持った兎のモンスターは、ピョンピョンと飛び跳ねながら果実を探しているのか、ゆっくりと冒険者の方に近づく。

 

  【響く十二時のお告げ】』

「は?」

「え?」

 

 言葉など発さないはずのアルミラージから、明確に言葉が聞こえたと思った瞬間、冒険者二人がバサリとと地面に倒れた。

 

「こ、これは!?」

「リリが倒しただけですよ。ヘスティア様」

 

 それにしても足元に来るくらいアルミラージの、モンスターの接近を許すというのは冒険者としてどうなんだろうか。

 油断してくれたおかげで楽に痺れ薬を塗ったナイフで刺すことが出来た。

 

「急ぎましょうヘスティア様。ベル様達は別のところで他の冒険者と戦っています」

「わ、分かったよ」

 

 ヘスティアの速度に合わせてリリも走る。

 

「なぜ彼らはヘスティア様を攫ったんでしょうか」

「わからない。ただ、後輩を『指導』するって言っていたんだ……」

「『指導』……ですか……、全くこれだから」

 

 冒険者は嫌いなんだ。

 

「リリルカ君……」

 

 口に出ていたことに、しまったとすぐさま反省するが、してしまった事は変わらない。

 ヘスティア様をベル様の元はと連れていく。というか、一人にできる状況ではないので、危険を承知で連れていく。

 

「見えました」

 

 少し向こう。

 うめき声を上げながら頭を抑えた男が、血走った瞳でベル様を睨んでいた。

 

 打ちのめされて全身がボロボロになっているベルも、肩で息をしながらも武器を構える。

 

    止めるんだ」

 

 男、名をモルドが眼前のベル様へ飛びかかろうとした時、女神のその一言が周囲を静寂に変えた。

 

 下界の者を平伏させる神の威光。頭を垂れざるを得ない『超越存在(デウスデア)』としてのその神威を放った。

 剣を引けとヘスティアが青に光る瞳で命令すれば、その神秘的な気配に押されるように後退ったモルドはボトッと剣を落とし、その場に跪く。

 

「無事かい? ベル君」

 

 普段は見せない神としての顔に、ベルは喉を振るわせ、掠れた声で小さく肯定の意を返すしか出来なかった。

 

 先ほどまで争いが起きていたとは思えないほど、嵐が過ぎ去ったような静かさが森に残った。

 

「う〜〜〜っ、ごめんよぉベル君ん、ボクのせいでボッコボコにされてしまってぇ〜っ」

 

 締まんねぇな、ったくこの駄女神が……。とリリは思ったり思わなかったり。

 

 ポーチから【ミアハ・ファミリア】の印が刻まれた高等回復薬(ハイ・ポーション)をベル様の頭からかける彼女を見て、やれやれと頭を抱える。

 ネクタル様は視線をやれば、彼も珍しく小さく笑っていた。

 

「早く【ロキ・ファミリア】の皆様のところに」

「そうだそうだ。本来俺たちじゃあ適正外。さっさと戻るぞ」

「そうだね。ともかくこれ……、えっ?」

 

 直後、足場が揺れる。

 

「ダンジョンが、震えてる?」

「これは……()()()()()

 

 ヘルメスの呼びかけによって捜索隊に参加した豊穣の女主人のリューが、過去の経験をもとに呟いた瞬間、18階層の太陽替わりとなる光源の水晶に、黒が見えた。

 

「おいおい、嘘だろっ!?」

 

 全員が、水晶に歪な亀裂が入るのを見た。

 全員が、水晶の割れる、モンスターが生まれる時のそれを耳にした。

 全員が、細かく輝く水晶の破片と、さながら隕石のように落下する巨人に震えた。

 

「神威に気付いた?」

「あれっぽっちの神威でかい? 冗談だろ」

「冗談じゃないよヘスティア。ダンジョンは俺たち()を憎んでる」

 

「このままじゃ街に被害がっ」

「おいおい、こんな状況でも人助けかよ!?」

「いや、おそらくだが上へ上がる道は塞がれてる。俺たち神を仕留めるために奴が現れた。奴を、あの黒いゴライアスを討たなければ俺たちは全滅だ」

 

 ならば、とベルは歩き始めた。

 

「千草様はヘスティア様を連れてここから離れてください」

「俺は?」

「通常のゴライアスはレベル4相当です。アレを討つにはリュー様、あなたがメインのアタッカーになってもらう必要があります」

「なぁ、聞いてるかい?」

「アスフィ様はリヴィラの街に行って冒険者を集めていただけますか?」

「おーい? 聞いてるリリちゃん? おーい!?」

「桜花様達はベル様達と一緒に前衛として動いてもらいます」

「ねぇねぇ。無視って酷くないかい? これでも一応神なんだけど」

「ネクタル様はリュー様のサポート兼タンクをお願いできますか?」

「リリルカちゃん? 流石の俺でも悲しいぜ?」

 

   ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ。大体の原因はテメェだろうが、その汚え口閉じねぇなら今ここで送還させるぞ。

 

 思わず口にした暴言に、ベルもヘスティアも言われたヘルメスも目を丸くし、リリも目を背ける。

 

「って、ヴェルフ様が言ってました」

「俺かぁ!?」

 

 まさかのとばっちりに声をあげたヴェルフ様と、リリを見て尊敬の眼差しを向けるアスフィ様。

 

「と、とりあえずやれる事はやりましょう」

 

 絶叫がこだまする18階層で、リリ達は全員で頷いた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 それは、暴力という言葉そのもので、逃げ遅れた冒険者がゴライアスの太い腕に殴り飛ばされ宙を舞い、直撃を避けたものも風で飛ぶ花びらのように吹き飛ぶ。

 

      アァッ!!』

 

 大音声ともに、周囲を薙ぐ衝撃波。

 草原が爆ぜ、標的となった一人の冒険者が声も上げられぬまま糸の切れた人形のように地を転がる。

 

 赤い両眼に狙われた獣人の冒険者に、背に溜められた巨拳が振り下ろされる。

 階層主たるゴライアスの声に呼びかけられ、数多のモンスターが途切れる事なく現れ、冒険者を襲う。

 

「ベル様の邪魔です!」

 

 先ほどまで、ヘルメスに唆されベルを襲っていた冒険者 モルドの首根っこを掴み、倒されたモンスターを運ぶ時のように、地面から生える水晶の先端の上をわざと通る形で引き摺りながら戦場から退ける。

 

 今のリリにできる事は少ない。

 なぜなら物資がないからだ。

 なぜなら、ゴライアスとの戦闘で戦斧を壊したから。

 

 だからこそ、徹底してベル様達の支援を行う。

 

 アスフィ様が作成した魔道具を配り、黒いゴライアスが呼び出したモンスターの位置を各位に伝え、ヘスティア様とその護衛役となった千草様にモンスターが行かないよう頭をフル回転させる。

 

「おう【リトル・ルーキー】と【神酒の斧(パラシュ・ソーマ)】、お前ら何もしてねぇなら前衛隊に混じれや」

「わかりました」

「もう! リリは戦闘隊じゃないんですよ!」

 

 プリプリと怒りながらも、リヴィラの街からやってきた冒険者から予備の武器を受け取る。

 

「すまねぇな、斧がなくて」

「この状況でわがままは言ってられません」

 

 ベル様は大剣を肩に担ぎ、リリは複数あった槍の中から一番重たい槍を持った。

 

「【勇者(ブレイバー)】のコスプレか? 似合ってねぇぞ?」

「はっ倒しますよ?」

 

 槍術の心得など何もない。

 小人族の唯一の栄光たる『フィアナ騎士団』は槍を使ったというし、フィンも槍を使う。小人族という他者と比べてリーチが足りないという最大の欠点をカバーするためには必要な武器なのだろう。

 

「これじゃあお父さんと同じ……」

 

 でもそれはリリにとって、種族を言い訳にするのと同義だった。

 

「リリ、無理はしないで良いから」

 

 黒いゴライアスとは異なり、優しさに溢れた赤色の瞳でリリを見たベル様は、そのままリュー様、ネクタル様と連携しながら戦場へ戻る。

 リリは踵を返して補給拠点となる少し小高い丘に急ぐ。

 

「武器と道具! ありったけ下さい!」

「リリルカ君!?」

「ありったけです。全部リリが持っていきます!」

 

 拠点に待機していたヘスティア様や他の者に向かって声を張る。

 彼らは丘の下に広がる惨状を見て声をなくし立ち竦んでいるだけで、動かない。

「大丈夫なのかい?」

「他にできる人がいるなら任せたいですよ! リリだって! でも、恐怖で動けない人よりリリの方がまだ役に立つでしょう!」

 

 転がっていた誰のものかも分からないバックパックにヘスティア様と二人で使えそうなものを入れていく。

 

「千草様は?」

「さっきの爆発に血相を変えて飛び出していったよ。桜花君達が不安だったんだろうね」

 回復薬から何から詰め込み、蓋は辛うじて閉じれている程度で、ところどころ隙間から武器の体が見えている。

 

「んしょっ……と」

 バックパックを背負い大きな武器は腕に抱えるリリの目が、とある得物を捉えた。

 鞘ではなく布で巻かれた大剣状の塊。それは漆黒の光沢を放っているが、巨大な骨のような柄がついただけの少しお粗末な武器。察するにモンスターのドロップアイテムを無理やり形に整えただけの武器。

 

「リリルカ君、これは……」

「おそらく深層レベルのものじゃないでしょうか」

 

 硬度に切れ味、そしてその破壊力を推察したリリは、無理やりバックパックに取り付ける。

「だ、大丈夫かい!?」

「重いものを持つことができるスキルがリリにはあります。これをベル様へ」

 

 その瞬間、巨人の首から夥しい赤い粒子が広がり、ベル様の周りを埋め尽くす。ベル様の鐘の一撃で負った怪我を異常な速度で回復したゴライアスの両目がベル様を睨み、吠える。

「逃げなさいベル!」

 リュー様の叫び声のような言葉も虚しくベル様の体が宙に浮く。そして、体を弾ませる巨人の拳がベル様に襲いかかる。

 

「俺はっ! 他人を犠牲にしておきながら身体も張らない男じゃねぇ!」

 

 ゴライアスとベル様の間に割って入り盾を掲げる桜花を、嘲笑うように巨人は全てを薙ぎ倒した。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 盾も虚しくゴライアスの手が肉を抉り、骨を割り、桜花の背と密着していたベル様もまとめて吹き飛ばす。

 桜花は千草が、ベル様は一番近くにいたリュー様が駆け寄り、なんとか地面に投げ出される前に素早く抱き上げる。

 

 追撃を狙う拳をネクタルが払った。

 

「さすがにこれ以上食らうと不味い……」

 

 ネクタルから見てもこのゴライアスは異常だった。数度戦闘を経験しているネクタルの拳が効かず、リューは剣を持つ手がその硬さでしびれる。

 

「スラ―さん。何か策はありますか?」

「無いな。殴り続けるしかない」

 

 巨大な手による叩きつけを済んでのところで飛びのき、アスフィが爆発性の魔道具を投げつける。

 

 補給拠点とゴライアスのいる中央樹のちょうど中間の草原にベルの体を下ろせばリリルカが、続いてヘスティアが駆けつけた。

「リリルカ君!」

高等回復薬(ハイ・ポーション)がもうないです……」

 

 ヘスティア様も必死にポーチをひっくり返すが、彼女の手持ち品も尽きていた。

 

「ヘスティア様」

「なんだいリリルカ君!」

「ベル様はさっきのをもう一度できますか?」

「アーデさん! 彼はもう動ける  

 

   できる」

 

 リリの言葉に、ヘスティア様は自信を持って答えた。

 もちろんリュー様はヘスティア様を止めようとする。が、ヘスティア様は譲らない。

 

「リュー様、リリ達はゴライアスの足止めです。ヘスティア様、この大剣を置いておきます、ベル様に使ってもらってください」

「わかった」

「待ちなさいアーデさん!」

 

「嫌です。あの日、ミノタウロスに挑んだのがベル様の冒険なら、今ここでベル様を助けるのがリリの冒険です!」

 

 言い切ったリリはバックパックを地面に下ろし、リヴィラの街に保管されていた誰のかも分からない槍を手に握る。

 

「それ……」

 

 ポーチから、ソーマ様から預かったザクロ酒の酒瓶を握る。

 

「ソーマのお酒……」

 

 栓を開き、一口、二口と飲む。

 鼻を抜けるザクロの独特な香りと、臓物を焼く酒精に目を開く。

 

 ザクロの酒は儀式に使われる。

 そうソーマ様は言った。

 そして、その儀式に使う酒の代わりとして、偽物としてザクロを使うと。

 

「偽物でもなんでも良い」

 

 少し酔いが回る。でも、前後がわからなくなるほどじゃない。

 

「この酒で神様(ソーマ様)と繋がるというなら、リリを酔わせてみろっ!」

 

 酔いが意思を飲み込む事はない。

 

 残った液体を頭から被る。

 髪は赤く染まり、滴る液が目に入り、痛みと引き換えに意思を呼び起こす。

 

「っ!」

 

 リュー様が飛び出した。

 魔法を歌いながら攻撃を避け、一撃を繰り返し叩き込みながら。

 

 命が集中した。

 神の力を借りるために祝詞をあげ、魔法を組み上げる。

 

「【何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】  【ルミノス・ウィンド】」

「【天より降り、地を統べよ。神武闘征】  【フツノミタマ】」

 

 数多の星屑がゴライアスの体を穿ち、頭上に現れた巨大な一振りの光剣が刺さり重力の檻を作る。

 

「動きが止まらない!? 破られるっ!?」

 

 魔道具をふんだんに使い足止めに加わっていたアスフィが青ざめた瞬間、戦場から消えていた男が叫んだ。

 彼の心情に反する武器。使い手を見捨て先に朽ち果てる武器、それを手に取り、振り抜く。

 

「火月ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいッ!!」

 

 かつて、エルフの森を燃やし、海を焼き払ったといわれる伝説が顕現した。

 ヴェルフが打った魔剣。『クロッゾの魔剣』が、真名を火月がゴライアスの動きを止めた。

 

 槍を持つ右手に力を籠める。

 リリにできることはたいしてない。

 それは冒険者として優れている訳でも、モンスターを相手に勝てるほど強くもないから。

 

 ただ、あの日両親の墓の前でソーマ様に語った言葉が脳内で何度もめぐり続ける。

 

 母のように後悔しない。

 今ここでこの槍を掲げないのは、ベル様を助けられない後悔を生むと感じた。

 

 父のように種族を言い訳にしない。

 自分は非力なサポーターだからと目を背けるのは、自分を矮小だと宣うこと同義と感じた。

 

「リリは! 誇り高き酒と月の神ソーマの眷属ッ!」

 

 その言葉で手の震えが収まった。

 

「酒を供え神と繋がり、酒を煽り仲間と繋がるッ!」

 

 その言葉でゴライアスを睨んだ。

 

「今だ醸されていない未熟な酔いを、ソーマ様は認めた! だからこそ、リリはッ!」

 

 助走をとる。

 ゆっくりと走り出し、徐々に速度を上げる。小気味良い音を鳴らした足音を左足を地面に突き刺すことで止める。

 

 身を捩り、腕を振るい、小さな全身をばねのようにしならせ、スキルによって培ったきた力のステイタスを全力で使う。

 

「へへっ、リリ、酔ってますね」

 

 指先を一本ずつ放ち、まっすぐに飛び出した槍の後ろで鐘の音が響く。

 

「ベル様っ!」

 

 フラフラとする頭で見えたのは、リリが置いた大剣に光を纏わせた少年が、英雄のように立ち上がった姿。

 

 リリが放った鎗がゴライアスの眉間に刺さると同時、ベル様が動いた。

 

 誰かが「行けッ!」と叫んだ。続いて「やれ」と、「頼む」と、この場にいる全員が、鐘を鳴らす少年に願った。

 

「道を開けろぉ  ッ!!」

 

 爆発的な加速でベル様が飛び出した。

 

 ゴライアスと距離が埋まる。

 押し潰すように敵の巨体が迫る。

 

 そんなもの一切関係ないと、両手に迸る力の奔流と、収束する光剣に全てを賭ける。

 

 ベル様の叫び声と同時に純白の極光がリリ達の視界を埋め尽くし視覚を奪う。そして、ゴライアスの雄叫びを掻き消すベル様の咆哮と轟音が聴覚を奪う。

 

 最後に残ったのは、上半身と右腕を失ったゴライアスの残骸。

 

「やりやがった……」

 

 体が裂け、地に伏す巨人を見た者たちによって、歓声が『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』に響き渡る。

 生き残ったと安堵する者や、やり切ったと座り込む者。笑う冒険者、泣くサポーター。

 

 力が抜け、地面に寝ころんだリリは、止まらぬ笑いに心地よくなっていた。

「おつかれ。リリルカ」

「ネクタル様。あはは、しんどかったですね……」

「……、お前、酔ってるな?」

「いやぁ、美味しいお酒でした」

 

 力が抜けると、目に入った酒の痛みが浮き上がってきて、少し涙が出る。

 それでも、そんな感覚すらも楽しく思えた。

 

「あの槍、お前か?」

「はい。よくわからないまま投げちゃいました」

「そうか。ステイタスの更新が楽しみだな」

「はい!」

 

 歓声と疲労感。それと少しばかりの酩酊に実を委ねたリリは、ネクタル様に抱えられ、すやすやと意識を手放した。

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

  • ジン
  • ウォッカ
  • ウィスキー
  • ラム
  • ビール
  • 日本酒
  • 焼酎(芋・麦・米問わず)
  • 果実酒(梅・果物問わず)
  • テキーラ
  • ワイン(赤・白問わず)
  • その他(良ければコメントで教えて)
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