神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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諍い

「お願いします……」

 

 18階層の『神災』から数日を経て、疲労回復を優先したため行えていなかったリリルカのステイタス更新を行う。

 

 背中に血を垂らし、彼女が得た経験を固定する。

 

 リリルカからもネクタルからも話は聞いている。

『怪物進呈』による死線を潜り抜け経験を得て、縦穴を利用する知識を披露し、友を逃がすため格上の攻撃を耐えた。

 そして何より、その小さな体の震えを振り払い、神を屠らんと現れたイレギュラーに対処した。

 

 青い光がリリルカの背中を走る。

 数値が変わり、彼女の成長が確定する。

 

「おめでとうリリルカ。ランクアップの権利を得たようだ」

「へ?」

 

 18階層に現れた黒いゴライアス、その討伐に尽力したこと、それがリリルカがレベル3へ至る偉業となった。

 成長スキルを持つベル・クラネルほどではないが、かつてあまりダンジョンに潜らなかった彼女の成長スピードを考えると十分に早く、得難い経験をしたことがうかがえる。

 

「それともう一つ」

「ま、まだ何か……」

 

 彼女の背中に刻まれた一文を俺は読み上げた。

 

「新たに魔法が発現した」

「え、え!?」

 

 冒険者としての一生で発現しないこともざらにあるあるのが魔法。

 エルフの血が流れるものや獣人は比較的魔法を得やすく、ヒューマンやリリルカのような小人族はあまり発現しないというのが通説。

 

「ど、どういった魔法ですか」

「あとで書面を見せながら話す。少し面白い内容だからな。ただ、先にランクアップについてだ。俺のファミリアは探索をメインにしていない以上すぐに上がろうが保留しようが問題ない」

「であれば、ザニス様たち探索部とは違って、リリは急いでレベルを上げる必要もないので、一旦保留でも良いでしょうか」

「ああ。わかった」

 

 そう言って、リリルカのランクアップを保留し、レベル2のままで確定する。

 紙面に転記するため、リリルカの元から離れ、彼女の新しいステイタスに目を通す。

 

▼▼▼▼▼

 

 レベル2

 

 力  :C 622

 耐久 :E 411

 器用 :D 527

 敏捷 :D 501

 魔力 :E 423

 

《アビリティ》

 調合:H

 

《魔法》

【シンダー・エラ】

・変身魔法

・変身像はイメージに依存

・詠唱式:【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

・解呪式:【響く十二時のお告げ】

 

【セートゥ・ダードィマ】

・高揚魔法

・全能力の超高強化

・高酩酊度による判断能力低下(酩酊度はレベルにより低減)

・使用後二十四時間のインターバル

・詠唱式:【未熟なりて醸せず、愚かなりて酒に願う。不完全な酔いは身を焼き、永遠の命を遠ざける。葡萄蔦(ハオマ)は実らず、目に映るは口を開けた柘榴。それでもどうか香り立て、それでもどうか血肉と成れ。狂騒と興奮、酩酊を罰として、偽酒を捧げる罪として】

 

《スキル》

神酒月杯(シャシン・ソーマ)

・『力』『耐久』『精神』の高補正

・精神汚染に対する高抵抗

・飲酒時における全アビリティ能力の高補正。補正効果は酒質に比例

 

縁下力持(エーテル・アシスト)

・一定以上の装備荷重時における能力補正

・能力補正は重量に比例

・「力」のステイタス成長に補正される

 

 ▲▲▲▲▲

 

「新しい魔法」

「ああ。名前を【セートゥ・ダードィマ】。詠唱式は書いたとおりだ」

 

 リリルカは渡した用紙を食い入るように見つめ、もごもごと口を少し動かしている。

 こうやって、新しいものを試したくなるところはステイタスが成長しても彼女の子供らしいところなんだろう。

 

「高揚魔法……、ですか」

「ああ。能力値の上昇と引き換えに強い酩酊感を引き起こすデメリットありきの魔法だな。それに、使用後のインターバルとして丸1日というと、最終の奥の手で使えということだな」

 魔法の使用にデメリットが生じるというのはあまり多くない。

 ネクタルの魔法は付与魔法として自身のステイタスを一時的に上昇させるもの。

 ザニスの魔法は毒魔法として設置型の罠のようなもの。

 

 どちらもマインドの身を使用するため、特別なデメリットはない。

 

「それにしてもザクロの酒を供える罪と酩酊が罰か。そんなに楽しかったか? あの日が」

「……楽しかったです、けど……」

 恥ずかしいです。と顔を赤くして顔を伏せるリリルカを笑う。

 それだけ彼女の心に深く刻まれることだったのだろう。それはそれで酒の神としてはうれしい。

 

「あの日の仕込みや18階層の出来事がきっかけなのだろう。そういえば、施策品のザクロ酒はどうだった? 果実酒だからストレートでもあまり酒精は強くなかったろう。香りや味は」

「あ~。あれは……」

 

 どこかもじもじするように返答を濁そうとするリリルカに首をかしげる。

 

「どうした? 飲んだんだろう?」

「あはは、ゴライアスと戦う時に2口ぐらい飲んだんですが、その後頭から浴びて……」

 

「あ、浴びた?」

「はい……」

「頭から?」

「そ、そうです……」

 

 ふらっと足元がおぼつかなくなる。

 

「気付け薬の代わりと言いますか、気合を入れるためと言いますか……」

「わ、わかった。でもそれがきっかけとなり魔法が出たなら喜ぼう。できれば……、できればもうしないでくれ」

「すみません」

 

 それにしても、最近リリルカからステイタスの更新をよく頼まれるが、ベル・クラネル達とよくダンジョンに行くからだろうか。

 件の出来事の前も更新をよくしていた……。

 

「リリルカ?」

「は、はい?」

 彼女のステイタスが記された用紙を()()()()()()になって覗き込んでいるリリルカに違和感を覚える。

 それに、最近なぜか胸を主張するというか、生地の薄い服が多いような気がするのは気のせいだろうか。

 

「その服、似合っているな」

 

 今日は淡い水色の肩や鎖骨の部分を見せるような服を着ているが、普段のリリルカでは見られない服装をしている。

「えへへ、ありがとうございますソーマ様! 昨日の休みの時に新しく買ったんです!」

「そうか。この後はどこか行くのか?」

「はい! ベル様達とご飯を食べに行きます! なんでもヴェルフ様のお気に入りのお店があるそうなんですが、そこの蜂蜜酒(ミード)が美味しいとか」

 なるほど、皆と会うためにオシャレをしたということか。パぁっと明るい表情を見せるということは、それだけ今日を楽しみにしていたということ。

 

「せっかく良い服を着ているんだ。みんなに見せてこい」

「むぅ」

「なんだ? 膨れっ面で」

「いいんですっ!」

「本当に何なんだ!?」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「それじゃあ、乾杯!」

「乾杯!」

「かんぱ~い!」

 

 18階層の事件から数日たち全員がヴェルフ様が良く足を運ぶ店【焔蜂亭】に集まった。

 

「早速だが伝えないといけねぇことがある」

 

 この店の名物となる蜂蜜酒が入ったグラスを付き合わせたリリたちは、さっそくぐびぐびと勢いよく喉を潤した。

 

「レベル2に上がった。これで俺も上級鍛冶師の仲間入りだ!」

「おめでとうヴェルフ!」

「おめでとうございます! ということは、これで【ヘファイストス・ファミリア】の刻印入りの武器が作れるってことですよね?」

「ヘファイストス様の名を汚せねぇし、いろいろ条件があるけどな」

 

 出された料理を口に運ぶヴェルフ様の顔は綻んでいて、とてもうれしそうに見えた。

「僕はまだ見たい」

「そんなポンポン上がるもんじゃないだろう」

「そうですよ。それに、ミノタウロスを相手取ったレベル1の時と今回のレベル2じゃ神々から求められる経験が違うと思いますよ?」

「じゃあ、リリも? 最後槍を飛ばしてたでしょ?」

「あ~、リリはまだですね……。ベル様と同じで求められるものが違ったり?」

 

 実際にはレベル3へ上がれるが、隠し事をする後ろめたさで、少し前髪をいじって話をやんわりと終わらせてしまった。

 

「まあ、さっきも言ったけどポンポン上がるようなら俺たちは苦労してねぇよ」

「そうそう、話題の【リトル・ルーキー】はおこぼれもらってるだけだろう?」

 ヴェルフの言葉を肯定するように、危機馴染みのない声が横から割入ってきた。

 姿を見れば、リリより少し大きいくらいの小人族の少年。胸元には弓と太陽の刻印。

 

「【アポロン・ファミリア】の小人族がリリたちに何の用ですか?」

「いやいや、身の程を知らないルーキーは怖いもの知らずだなって思っただけさ。まあ? どーせミノタウロスと戦ったって話も、実際は逃げ惑った先で【ロキ・ファミリア】の奴らに助けられて、ラストの一撃を入れただけだろう?」

 

 これだから冒険者は……。

 まったく意味のない嫉妬を他人にぶつける。

 ベル様がミノタウロスを倒したのはリリがこの目で見ている。【ロキ・ファミリア】の幹部たちが見ている。

 決して逃げ惑ったわけじゃない。正面から戦って得たものだ。

 

「それに? 売れてない底辺の鍛冶師に、チビのサポーターを引き連れて、雑魚は雑魚らしく大人しくしとけば良いんだよ」

 好き勝手言い続ける小人族を無視し、リリたちは静かに食事を続ける。

 冒険者の嫉妬ほど見苦しいものはないと再認識する。

 

「どうせインチキばっかりなんだろ? なあ、なんか言い返してみろよ【リトル・ルーキー】様よぉ。まあ、品性のない眷属を持った神もしょうもない奴なんだろうな」

 

「神様を侮辱するな!」

 

 ヘスティア様のことを侮辱され、ついにベル様が立ち上がった。

 怒気を強めてリリや、ヴェルフ様に対する侮辱も取り消すよう要求するが、【アポロン・ファミリア】の小人族は止まらない。

「事実だから怒ってんだろ? はっ、そんな神の眷属じゃなくアポロン様の眷属で良かったぜ」

 

 あくまでも事実を述べたという小人族はフラフラと歩く。それに対してベル様は顔を伏せ、怒りを必死に抑えているが、握った拳は震えており、暴発は間近といった状態。

 

 まずい。単純にそう思った。

 ベル様しかいない【ヘスティア・ファミリアが【アポロン・ファミリア】と諍いを起こすのは良くない。

 難癖をつけられたら数の力で潰される。

 何かこの諍いを終わらすことができないかと酒場の中を見るが、だれもがここから喧嘩が始まることを期待しベル様達を見るだけで、一人、背中を向けて酒を飲んでいる灰色の狼人以外は役に立ちそうにない。

 

「威厳も尊厳もない女神の【ファミリア】なんざたかが知れてんだよ! きっと()()()()()()()()()()()、眷属も腰抜けなんだ!!」

「取り消せ!」

 

 ずんずんと顔を伏せながら距離を詰めたベル様は、そのまま小人族の胸ぐらを掴もうとした時、横から伸びた足が、ドゴっと、男の顔面にめり込んだ。

 

「すまん、足が滑った」

 

 ふてぶてしく謝罪したヴェルフの行動を合図に彼の仲間達が立ち上がり暴れ始める。

 狭い酒場が熱狂に包まれ、一部市民が悲鳴を上げる。

 レベルが上がったヴェルフ様とベル様の二人は、5人の相手の攻撃をいなし、連携しながら圧倒する。

「よくも暴れてくれたな」

 小人族の仲間で唯一席から立っていなかった男が口を開く。そして一瞬でベル様に近づくと、ベル様が背後にあった丸テーブルは殴り飛ばされた。

 

「【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】……、ヒュアキントス……」

 

 ベル様のところへ駆けつけたリリは、ベル様を殴った男の顔を見てそれが誰かを認識した。

 レベル3、第二級冒険者の男。

 

「同胞が傷つけられたんだ、相応の報いは受けてもらうぞ」

「妙な言い分ですね。先に喧嘩を打ったのは貴方達の方でしょう。【ロキ・ファミリア】の幹部が見届けたベル様の偉業をインチキと言い、不敬にも神に対し落ちこぼれと言ったと記憶していますが?」

「だれかと思えば、お前は【ソーマ・ファミリア】の小娘か」

「そうです。そこで伸びている方と同じ小人族の」

「貴様に興味はない。退け」

「どいても良いですが、貴方の言い分は【ロキ・ファミリア】を侮辱していると見受けられますが、良いんですか?」

「はっ、そうやって長いものに巻かれ助けてもらうつもりか?」

「いえ、そこに【ロキ・ファミリア】の方がいらっしゃったので」

 

 そう言ってカウンターの方へヒュアキントスの視線を動かせば、道化師のエンブレムが刻まれた服を着た男が振り返る。

「あ?」

 トゲトゲしく荒々しい彼の空気感に萎縮する中、それでもヒュアキントスの口は閉じない。

 

「【ロキ・ファミリア】は粗雑だな。飼い犬の首に鎖がないとは」

「雑魚が、蹴り殺すぞ変態野郎」

 

 張り詰めた空気感の中、ヒュアキントスは「興が削がれた」とだけ呟き、仲間を引き連れ酒場から出ていく。

「てめぇもだ、兎」

 へたり込んでいたベル様の胸ぐらを掴んだベート様は、ぐいっと強引にヴェルフ様の方へ投げ飛ばし、彼もそのまま焔蜂亭を後にした。

 

 店の給仕係は倒れた机を元に戻し、客もそれぞれの卓に戻って食事を再開する。

 

「一応この出来事はヘスティア様とヘファイストス様にお伝えしといてください。リリもソーマ様にお伝えします」

 あと、【ミアハ・ファミリア】の【青の薬舗】に行って治療を受けるように伝える。

 

「リリは?」

「結果的にベート様、【ロキ・ファミリア】に助けてもらった形になりますし、ソーマ様から神酒を頂いてロキ様に返礼しておきます」

 

 あの時と一緒で、ベート様にはまた助けられてしまいましたし。

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

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