神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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酒乱

「【神樹の銀手(パーリ・アンガ)】は片腕だぞ!? 囲って潰せ!」

「ははは。片腕だからと随分と甘く見てくれていて助かるよ」

「おい、何してるんだよ! 動きを止めろ!」

 

 かつての傷で腕が一本しかないとは言え、旧時代の粗暴で荒くれ者がほとんどであった【ソーマ・ファミリア】において頭を張っていた。

 片腕に慣れるためダンジョンに詰め、【ガネーシャ・ファミリア】の親友で同じ徒手空拳を使うハナーシャと拳を合わせ鍛錬を重ねていた。

 

「お前達相手ではこれくらいのハンデがちょうど良い」

 

 ふざけるなと叫んだ男の懐に入り、体が密着するほどのインファイトに相手は何一つ対応できずすぐさまノックアウトにされる。

 

「お前も探索部監督になって経つだろう。レベルを上げたんだ、力を見せろ」

「貴方に言われなくてもやりますよ、私は……。【味を知らぬ愚者、盗み抱く甕、注ぎ飲み干す杯は薬ならず、饗宴を終わらす毒杯なり】  【トリヴィシャ】」

 

 長剣を携えたザニスの右腕が振るわれる。

 恩恵に頼った戦いをするかつての男はそこにおらず、魔法を放ったことで相手の動きを制限し、自身の得意を押し付ける狡猾な冒険者がいた。

 

「ソーマ様の酔いを奪ったんです。この【酒守(ガンダルヴァ)】が許すと? 一人ずつ追い詰め、狂わし、なぶり殺す。それだけの相手(ソーマ・ファミリア)に喧嘩を売った事を理解して下さい」

 

 オラリオ随一の団員数を誇る【ソーマ・ファミリア】。その団員のほとんどが集まり、【アポロン・ファミリア】の拠点を包囲し、一部の団員が見せしめのように防衛に出た冒険者を攻撃する。

 

「こちらの要求は単純だ。お前らが誘拐したリリルカ・アーデの解放ただ一つ。今から5分待ってやる。それまでにリリルカを解放しなければ」

 

   お前らを潰す。

 

 月と杯が刻まれた旗が、揺れた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 事の発端は単純なこと。

 オラリオにおいて悪名高い神は数名いる。

 代表的なのは、闇派閥と呼ばれる殺人を含めた犯罪を行いオラリオを襲う者の主神。

 

 それ以外にも守銭奴という意味ではディアンケヒトや、胡散臭さでいえばヘルメスも評判が悪い。オラリオの外に向ければラキア王国の国神として眷属を従えるアレスもある意味そうだろう。

 

 ただ、欲望まみれの神でいうと、アポロンの名前が上がる。

 月桂樹の冠をかぶり、白い布に身を包んだ太陽と芸術の神。

 彼の悪癖は、自分の欲した眷属を地の果てまで追いかけ、たとえどんな手段を取ってでも奪うこと。

 

 その被害を受けたものは多く、いやいや眷属になったものだっている。

 

「インファイト・ドラゴンを一撃で破る魔法に、イレギュラーのゴライアスを倒す一撃……。やはり欲しい」

 

 神アポロンから見れば、ベル・クラネルが所属する【ヘスティア・ファミリア】の主神であるヘスティアは、父であるゼウスの姉という立場。

 

「ヘスティアには悪いが……」

 

 そう言いながらも、悪い笑みを浮かべるアポロンは、団員たちに指示を出した。

 

 まずは監視。

 幸いベル・クラネルの白い髪と紅い瞳は目立つ。それに、彼のパーティーメンバーであるリリルカ・アーデを知るものも多い。

 彼らを見つけ次第監視し、隙を探す。

 

 次にきっかけ。

 隙を見て我々【アポロン・ファミリア】への被害を起こさせるような因縁をつけ、それをきっかけに戦争遊戯を仕掛ける。

 

 相手はベル・クラネルしか団員のいない弱小ファミリア。

 

「この私が見染めた眷属に敵うわけなどない」

 先日のヒュアキントスのおかげできっかけを作り、主催した『神の宴』で因縁を吹っ掛け戦争遊戯の申し出を出した。

 

 結果としてヘスティアには断られ逃げられたが、そうなれば断れない状況にすれば良い。

 すでに団員がヘスティアの拠点を襲いに行っている。

 

「ソーマには悪いが、ベル・クラネルとの関係を絶ってもらおう」

 

 ダフネにはリリルカ・アーデを攫うように指示している。そして、【ソーマ・ファミリア】へリリルカ・アーデを返す代わりに【ヘスティア・ファミリア】への助力をしないよう手紙を出す。

 

「ご報告します! リリルカ・アーデを捕獲、拠点へ輸送中とのことです。じきにこちらへ到着されるとのこと」

 

「ご苦労。リリルカ・アーデが到着次第、ソーマのもとに手紙を送るとしよう」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 拠点が【アポロン・ファミリア】に襲撃され、使用できなくなったため、ヘスティアとベルは助太刀してくれた【タケミカヅチ・ファミリア】の面々と共に【ソーマ・ファミリア】の拠点へと身を寄せていた。

 

「ところで、リリルカ君はどうしたんだい? いつの間にか見ないけれど」

「え?」

 

【アポロン・ファミリア】に襲われたとき、リリはヴェルフと共にいて自分たちと共に戦ってくれていたことをベルは覚えている。

 

「そういえば、私たちが参戦したタイミングにはもうリリ殿は居なかったような気がします」

 正直なところよく覚えておりませんが。

 そう命が言い、桜花や千草もそれに肯定する。

 

「誰も見ていないうちにあの場から逃げるような奴じゃないだろ。リリスケは」

「もちろんだよヴェルフ」

 

 酒場の時同様現れたヒュアキントスに押され、何とか逃げる形で撤退した。その際にはぐれたとしてもリリルカは【ソーマ・ファミリア】の団員のため、何かあればここに戻ってくるはず。

 襲撃開始から凡そ2時間以上経っていることからも、どこかで逸れていたとしても、ここにいないのはあまりにも不自然。

 

「もしかして、ボクみたいに攫われたとか?」

「いやいや、ヘスティア様と違ってリリルカはレベル2だし、そんな簡単に攫われるか?」

「そうです神様。あれは姿を隠す魔道具の力があったからですし」

 もちろん可能性としてはリリルカが攫われている可能性がある。ただ、戦闘中に人を攫おうとすれば目立つし、リリルカを相手取るメリットがない。

 

「リリルカ君との繋がりはあるよね?」

「ああ。確実に」

 リリルカとははっきりと繋がっている。

 

「チャンドラ」

「言わなくても、すでに外営班の奴らにはリリルカの目撃情報などを探させてる」

「ラキアは?」

「とっくの昔に出てるよ」

 

 ラキアは自身の魔法で身体能力だけでなく聴覚や嗅覚など身体機能を上げることができる。

 その彼女がリリルカを探し始めたということは、それほど時間を掛けずに見つかる可能性が高い。それに彼女のことだ、意地でもリリルカを見つけ出すはずだ。

 

「ザニス。ここ最近で不穏な気配は?」

「まったくです。旧団員達の多くはオラリオを出ていますので、リリルカの失踪と関わりがあるとは考えにくい状況です。何人かはギルドとバベルに送り出しました」

「わかった。十分だ」

 

「君の割には冷静だね」

「現状何も確定していないんだ、それに生きていることは分かっている」

 

 もちろん冷静を装っているだけ。

 リリルカには特別愛情を注いでいる自覚を持ってる。

 娘のように可愛がっている彼女の姿が見えないというのは心がざわつく。

 

「まだ慌てるとかじゃない。もちろんリリルカを含め【アポロン・ファミリア】に対してトラブルがある以上、奴らが噛んでる可能性もあるが、負の遺産というか、我々を狙うものは多い」

 

 表面上は見えないだけで闇派閥だっている。

 そんな使われ方はしたくないが、神酒の依存性、中毒症状を考えれば、洗脳の道具に使われる危険性もある。

 

 恨まれること理由はないが、狙われる理由はある。

 

「こんなことになるのであれば、リリルカを無理にでもランクアップさせるべきだった……」

「え?」

「何を驚いている。お前達と共にイレギュラーを対処し、一撃を入れた。その事実はリリルカの偉業だ。なんだ? 聞かされてなかったのか?」

 

 ベル、ヴェルフの顔を見ればどうやら話していなかったらしい。

 リリルカに何か意図があったのかはわからないが、ランクアップを保留したのは事実だ。

 

 そわそわと動いているヘスティアと、その姿を見てオドオドとするベル。ヴェルフは椅子に座り顔を伏せている。リリルカと関わりの深い彼女達は不安なのだろう。【タケミカヅチ・ファミリア】の面々も同様に不安そうな顔を浮かべている。

 それに対してネクタルは内営班の書類作業をしており、チャンドラは部屋の外で外営班の団員と何かを話している声がする。ザニスに至っては俺に対してザクロ酒を注ぎ始めたし、俺は注がれた酒に口を付ける。

 

 針が時を刻む音、書類が捲られサインが記される音、扉の外の話声が響く。

 

 組んだ腕でトントンと指先を弾ませていたヘスティアが止まる。

 

「ぬわぁんで君たちはそんな冷静なんだぁ  ッ!!」

 

 怒声が響いた。

 

「君たちはリリルカ君が心配じゃないのかい!? なんでそんな冷静なんだ!? 情報が確定していないからと言うが何故なんだ! リリルカ君がベル君だったらボクなら取り乱す! というかこの前取り乱したんだぞ!!」

 

     ガンッ!!

 

「黙れ」

 

 机に叩きつけてしまったグラスが割れ、注がれていた酒がこぼれる。

 卓上の書類に赤いシミを作り、ガラスの破片がそこら中に飛び散った。

 

「可能性は無限にある。リリルカが墓参りをしているかもしれない。得意先の酒場に顔を出しているかもしれない。酒蔵に、それもダイダロス通りの方にいるかもしれない。ギルドに、ディアンケヒトのところに、バベルにいるかもしれない。そういった可能性がある。だからこそ俺はファミリアの武器である人海戦術で捜索を行っている。ラキアの持つ鼻と執念に委ねている。よく聞けヘスティア。俺はお前とは違う。お前にはお前のやり方と領分があるように、俺には俺のやり方と領分がある」

 

「ソーマ様っ!!」

 扉を開けて入ってきた団員が、肩で息をしながら封筒を俺に渡した。

 先日同じエンブレムが刻まれていたそれを開けたように、蝋を開けて中の手紙を確認する。

 

「ソーマ様!」

「ああ。ラキア」

 続いて部屋に入ってきたのは、得意の鼻でリリルカの捜索を行っていた赤髪の狼人、ラキア。

「裏どりは取れたな」

「ハイっす。姐さんの匂いが【アポロン・ファミリア】の拠点近くで消失したっす」

 

 その瞬間、あふれる神威。

 髪が逆立ち、普段は前髪に隠れている紫の瞳が露になるほどの激情が体を巡る。

 

「こ、これは……!?」

「そ、ソーマ……?」

 

 部屋を超え、拠点を漏れ出た酩酊が伝播する。

 

 酩酊を超え突然の感覚に襲われたヘスティアたちは胃の中がひっくり返るような感覚を覚える。

 浴びるほど酒を飲み、泥酔した時のような、楽しさを超えた先の酩酊感を感じる。

 

「ザニス……」

 

「もちろんです」

 

 レベルを3へと上げたことで何とか俺の神威に耐えたザニスが答える。

 ネクタルが立ち、チャンドラが扉をあけ、酒場へと向かう。

 

「これが、神が怒った神威……」

 戦慄するベルたちも後ろに続き、俺たちは酒場へと出た。

 

 いつかの時と異なり、そこには探索部だけでなく商業部の団員も含め、【ソーマ・ファミリア】の団員、そのほとんどが揃っていた。

 

「お前たちに問う」

 

 俺の神威に触れ、顔色の悪い者が多くいる。

 器が成長すれば軽減こそすれ、隠すつもりのない神威が、酔いが団員を包む。

 

「リリルカ・アーデが【アポロン・ファミリア】に攫われた」

 

 誰もが口を開かず、静かに俺を見つめ返す異様な光景。

 統率が取れた軍隊とは異なり、ただ捉われたように、ある種洗脳されたように俺を見つめる。そんな団員たちを見て、ベルや命たちは息を呑んだ。

 

「お前たちにとってアイツはなんだ? 少なくとも俺は、この集団にとっての酔いだと考えている。神である俺と、下界の子であるお前らを繋げるための酒。それがリリルカ・アーデという存在であると考えている」

 

 遅れてやってきたトムが酒樽を俺の前に置き、列に加わる。

 横にいたネクタルが栓を開け、柄杓で中を掬う。

 

 独特の甘い香りが広がった意味を、誰もが理解した。

 

「お前たちが()と繋がらんと願うなら。お前たちが()と酔わんと願うなら。行動で、心意で魅せてみろ」

 

 ザニスがグラスを差し出し、ネクタルに注がせる。

 

「俺の酔いと引き換えに、お前らと繋がり、神としてお前たちに厳命する」

 

 手に取った杯を、神酒の入ったグラスを煽る。

 

()()を落とせ」

 

          ッオオォッ!!』

 

()()()を掲げろ」

 

          ッオオォッ!!』

 

 闇派閥が求める洗脳とは違う。

 俺の意思を、覚悟を見せるための神酒である意味を正しく団員が刻み込む。

 

「酒が齎す共鳴とその反動の狂騒を、愚かな太陽に味合わせろ」

 

 団員が跪く。

 真意に沿い、神威の酔いを飲み干し、神の激情をその身に受け立ち上がる。

 

「神ソーマの意向だ。杯を満たすのは太陽ではなく、我々月の酒。それを見せつけろ」

 

          ッオオオオオオォッ!!』

 

 色とりどりの武器を持った団員たちがこの場を飛び出す。

 剣、槍、斧、盾、杖が消えていく。

 オラリオ随一の団員を誇る一団が向かうのは太陽神の館。

 

 そして、冒頭へと戻る。

 

「こちらの要求は単純だ。お前らが誘拐したリリルカ・アーデの解放ただ一つ。今から5分待ってやる。それまでにリリルカを解放しなければ」

 

   お前らを潰す。

 

 声を拡散する魔道具を握った俺は、冷たく言い切った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

【ソーマ・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】の拠点(ホーム)を襲撃したという話は、瞬く間にオラリオに広がった。

 白昼堂々の襲撃かつ、人数という【ソーマ・ファミリア】の武器を最大限に使ったそれに、娯楽に飢えた神達が飛びつかない訳なかった。

 

「何があった、あの趣味神に?」

「分からん!」

「ガネーシャん所は?」

「もうすでに現場へ向かってるらしい」

 

 被害は受けたくないが、直接見ておきたい神達はがアポロンの館近くに集まる。

 

「どういう状況だ?」

「ちょうどさっきソーマが勧告を出した。どうやらアポロンに『ロリ斧』が攫われたらしい」

「はぁっ!? え? はあっ!?」

 

 先に駆けつけていた神に他の神達が状況を確認すると、帰ってきたのは意味のわからないアポロンの行動の説明。

 

「バカだバカだと思ってたけど、本当にバカだったんだ……」

「ソーマから『ロリ斧』を奪おうとするとか……」

「なんてことをしたんだあのバカ……」

 

 神々から『ロリ斧』と称されるリリルカ・アーデを、ソーマが溺愛しているのは周知の事実。

 それまで拠点から一切出ることなく、ファミリアの運営も行っていなかった趣味神が本気を出すのは当然のことと言える。

 

「この前の神会でヘスティアに喧嘩売ったばっかりだろう?」

「確か【リトル・ルーキー】って【ロリ斧】とパーティー組んでたよな。それでか?」

「ソーマに【ヘスティア・ファミリア】とのかかわりを断つように言ったとか? だからって【ロリ斧】を攫うか? 悪手にもほどがあるだろ」

「それをやるのがアポロンだろ。なりふり構わずてやつだ」

 

 変わらず暴れ続ける【ソーマ・ファミリア】の団員を眺めていた男神の一人が、「てかさ……」とポツリ言葉を漏らした。

 

「この抗争でアポロンがやられたら、一番得するのって、ロリ巨乳じゃね?」

「……マジじゃん」

 

 数人の神が、この状況に戦慄する中、【ソーマ・ファミリア】の団員が、拠点の奥に隠れていた神アポロンを見つけ出し、敬意など一切ない引き摺り方で連れ出し、俺の前に転がした。

 

「お前らは俺たちを侮りすぎた」

 

 その顔は腫れ上がり、青くなり、元来の美しい姿とは程遠い状態になってしまっている。

 

「な、何のつもりだソーマ」

「何のつもり? 何抜けたことを言っている。俺の娘に手を出した。俺の娘を泣かした。俺の酔いを傷つけた。全てお前がやった話だろう。なぁ、アポロン」

 

 主神が捕らえられ、レベルの低い冒険者は軒並みのされた。

 それでも【ソーマ・ファミリア】の団員達は止まる事なく、高レベルの冒険者を囲み、殴り、蹴り、斬る。

 

 ソーマを中心に酷い酩酊感が伝播する。

 酒の神が持つ二面性。それは、幸福感や長寿をもたらすと同時に、幻覚や酒乱による狂騒をもたらす。

 

「わ、私はただベル・クラネルが欲しかっただけで!?」

「その目的のために俺たちを相手取ったんだ。自分の罪としておとなしく受け入れろ」

 

 アポロンの拠点はまもなく陥落する。

 片腕になろうともその技術に磨きをかけるネクタルが敵を散らせば、レベル3へと至ったその狡猾さでザニスが斬り伏せる。トムがその盾で攻撃を受ければ、ラキアが吠えることで動きを止め、バクティがムチで敵を捕縛しチャンドラが怪力で潰す。

 探索部も商業部も関係なくソーマの意向に沿い、感情の発露から溢れ出した神威の酩酊を飲み込み、愛すべきファミリアの娘が奪われたことに対する怒りによって。

 

 圧倒的だった。

 商業をメインとするファミリアとは思えないほど、圧倒的な強さでアポロンの眷属が散らされた。

 

「そ、ソーマ様」

「無事か? リリルカ」

「はい!」

 

 瓦礫の隙間から顔を出したリリルカは少し不安そうな顔をしている。

 見た目上はけがなどしていなさそうだが、それでも不安だったろう。

 

 俺は彼女に手を差し出し、彼女は俺の手を取った。

 

「お前は俺の大切な酔いだ。離れることは許さん」

 

 リリルカを抱きしめた俺の後ろで、団員たちが彼女の帰還に頬を緩めた。

 

「素直じゃないねぇソーマ様」

「リリちゃんや。無事でよかったわい」

「まったく、世話の焼ける」

「大丈夫でしたか姐さん!!」

 

 リリルカと仲の良い面々が俺の周りに集まる。

 それぞれが好き勝手リリルカに話しかけ、リリルカもそれに答える。

 

「り、リリルカ・アーデはお前らのもとに戻った! これで引け!」

「無様だな。アポロン。それを団員を止めるかどうかは俺の判断じゃない。お前たちにさらわれた今回の件の中心であるリリルカだ」

 

 俺の言葉に、聞くに堪えない言葉をアポロンはリリルカに浴びせた。自分の欲でリリルカを攫っておきながら、神の言うことを聞けだとか、すぐに戻れだとか。芸術の権能を持つとは思えないほど拙い言葉を、奴はリリルカに浴びせた。

 

 俺は彼女の耳を塞ぎ、彼女の言葉を待つ。

 

 遠くの方でヒュアキントスがザニスに敗れた。息も絶え絶えなザニスではあるが、同じレベル3となり良い戦いができたようだ。

 

「リリルカ。貴方の思うことを伝えれば良いです。このままこのゴ  、神を送還するでも良いですし、攻撃せず、あとは【ヘスティア・ファミリア】の面々に任すでも良いです」

 あなたの意思を示しなさい。

 息を整えてから口を開いたザニスの言葉に、リリルカは小さく頷き、耳を塞いでいた俺の手を外した。

 

「ことの発端は【ヘスティア・ファミリア】との戦争遊戯です。あとは、ヘスティア様に任せます」

 

「ほ、本当か!?」

 

「リリが一発殴っても貴方は送還されてしまうでしょう? なら、オラリオ中の人々に見られたうえでベル様とヘスティア様にボッコボコにやられて無残に追放されてください」

 

 助かったとそれまでが噓のように汚い顔で笑顔になるアポロンに一瞥もくれず、「戻りましょう」というリリルカの言葉で団員達が引き上げる。

 

「ということだアポロン。お前の酔いは酷く味の悪いものだった。せめて【ヘスティア・ファミリア】との戦争遊戯では、味わい深い香りを立たせてくれ」

 

 リリルカに腕を引かれた俺と入れ替わりで、ずんずんとヘスティアが前に出てきた。

 ここからはお前の仕事だ。

 そういう視線を彼女に向けると、ヘスティアは小さく頷き、右手を隠していた白い手袋を外す。

 

 日光に当てられた彼女の手は白く、穢れの知らない美しい手だった。

 その手で持った外した手袋を、冷たい目のままアポロンに投げ捨てる。

 

「アポロン。君の提案した戦争遊戯を、【ヘスティア・ファミリア】は飲もう」

 

『おい! ロリ神が言ったぞ!』

『下手したら漁夫の利だ!』

 

「ボクが勝てば君の送還を、君が勝てばベル君を差し出す」

 

『ヘルメス! 聞いたか!』

『もちろんさ! すぐに神会を開く』

『面白くなってきたでぇ!!』

 

「ただ、これは【ソーマ・ファミリア】によるお膳立てじゃない。君が蒔いた種で君が傷ついただけだ。そして、君の愚行と、彼らの酔いが、ボクとベル君という炉に火をくべたんだ。リリルカ君をさらったことは愚策だったね。これまでならそれで良かったかもしれないけど、リリルカ君という存在のつながりを軽く考えすぎたんだ。ソーマたちは手を引いたけど……」

 

 ボクたちは君を許さない。

 

 ベルは、ギルドで【アポロン・ファミリア】の団員に招待状を貰った時のことを思い出した。

 

『兎が月を越え、太陽を喰らう』

 

 未だ揺れはためく月と杯(ソーマ)が刻まれた旗を眺めた。

 

 次は僕たちの番だ。

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

  • ジン
  • ウォッカ
  • ウィスキー
  • ラム
  • ビール
  • 日本酒
  • 焼酎(芋・麦・米問わず)
  • 果実酒(梅・果物問わず)
  • テキーラ
  • ワイン(赤・白問わず)
  • その他(良ければコメントで教えて)
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