神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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我儘

 アポロンがヘスティアにちょっかいを掛けた。

 アポロンの団員たちが【ヘスティア・ファミリア】の拠点を強襲し、団長であるヒュアキントスがベル・クラネルをレベル差でもって叩き潰した。戦争遊戯をもって【ヘスティア・ファミリア】を潰さんとする彼に多くの神は愉快と表情を歪めた。

 

 ここまではアポロンの発作に対しての抵抗ということで、神々含めオラリオの街は通常運転であった。

 

 アポロンがソーマにちょっかいを出した。

 ベル・クラネルとソーマの眷属がパーティーを組んでいるということで、【ヘスティア・ファミリア】へ手を出さないよう脅すために、リリルカ・アーデを誘拐した。

 

 なりふりかまわないアポロンの発作に神々は戦慄した。ソーマがリリルカ・アーデを溺愛していることは周知の事実であり、オラリオ随一の団員数を誇る相手が動かないと踏んだ彼の行動は愚策だった。

 

 結果的拠点は陥落し、ヒュアキントスを含め団員の多くが負傷し、【ヘスティア・ファミリア】にとって奪われる状況が逆転した。

 

 ヘスティアが、アポロンからの戦争遊戯を受諾した。

 

 神々が娯楽に喜び、ヘスティアの意思を称え、ソーマに天界送還直前まで追い詰められたアポロンは笑った。

 確かに団員達はネクタルやザニス達によって負傷してしまったが、それでもたった1人しか眷属のいない相手に対し、ヒュアキントスをはじめレベル2の上級冒険者が多く在籍する我々が、負ける道理などないと考えたから。

 

「それじゃあ、【アポロン・ファミリア】対【ヘスティア・ファミリア】の戦争遊戯の内容を詰めてこか!」

 

 未だ顔が腫れあがり、包帯を巻くアポロンに対し、ヘスティアは近くにソーマ、ヘファイストス、タケミカヅチ、ミアハが集まっていた。

 

 進行を買って出たロキはヘスティアのことを値踏みするような目で見つめるが、他の神々の声を聴き、話を進める。

 

「まずはソーマ。今回の【アポロン・ファミリア】強襲について、【ヘスティア・ファミリア】への助力ではないということでええか?」

「もちろんだ。俺は俺の娘が攫われたことに対し怒り、それを受けた団員が俺の神意の元、【アポロン・ファミリア】を強襲し、リリルカを奪還した。それ以上でも以下でもない」

「わかったで。今回のベル・クラネルを起因とする戦争遊戯とは無関係ってことやな?」

 そう念押しをするロキに、俺は小さくうなずいた。

 

「まあ、アポロンのとこの子達が負傷したのも事実や。今日明日に戦争遊戯を始めるっていうのは難しいな? アポロン」

「あ、ああ。せめて1週間は欲しい。拠点がボロボロ、子達の装備を整える時間も欲しい」

「っちゅーことやけど、どチビはどないやねん」

「僕たちにとっても1週間時間をもらえると嬉しい。これでボクたちが勝っても、君はきっとソーマのおかげで勝てた。何ていうだろうからね」

 

 ビシっとアポロンに向かってヘスティアは指を指した。胸を張って発現したせいで巨乳が暴れていたが、ロキが舌打ちしただけで周りは気にしない。

 

「なら、開催は1週間後でギルドに申請するで? それで、次は、決着方法だな」

 

「もちろんボクは大将同士の一騎打ち、『大将戦』を要求する。ボクの眷属はベル君一人なんだ。ランクも所属人数も隠したの相手に、人数で攻め懸けるなんてことはできないだろう?」

「いいや、【ヘスティア・ファミリア】の団員が少ないのは、積極的に勧誘を行ってこなかった君の責任だ。5年以上前から下界に居ながら眷属が増えていないのは、ヘスティア、君の怠慢だろう?」

 合わせる義理がない。そう言い張るアポロンの厚顔無恥に、ヘスティアは怒る。

 開催日をアポロンの要求に応えた以上、こちらの要求を吞ませたい。

 

「ヘスティアとお前で意見が合わないのであれば、俺たちで内容を決めれば良い」

「どういうことだソーマ」

「単純なことだ。籤か何かで決めれば良い」

 

 ヘスティアとアポロンを除いたこの場にいる神が、紙にルールを記載する。

 この場にいる神のほとんどが傍観者で合って、ヘスティア派は俺、ヘファイストス、タケミカヅチ、ミアハくらい。強いて言うならばデメテルくらい。

 アポロン派は正直分からないが、面白い馬鹿なやつを好む神は多いのでそれなりにいるだろう。

 一番多いのはどちらにも加勢しない中立派。ベル・クラネルに興味はあっても表立っては手を貸さないヘルメスなんかもこのポジション。それにフレイアも。

 

「ソーマ、そうなると誰が籤を引くかが問題になるんじゃないかい?」

「そうとも。私はともかく、判官びいきでお前を助けようとする奴が、何か小細工するかもしれないだろう」

 

 今回の進行役となるロキは中立派だが、正しくは「アンチ・ヘスティア」という立場。ほとんどが個人的な恨みではあれど、そんな彼女が籤を引くのもはばかれる。

 それに、彼女が象徴するのは混沌のトリックスター。こういった場面で真ん中に立たせるべき神物ではない。

 

 ヘスティアとアポロンの言葉を聞き、神々が一斉に一人の男神を見る。

 のらりくらりとグループを作らず、あらゆるところに顔を出しながら自分の利益だけを手に納めるとフラっと消える、「旅」と「情報」の神を。

「お、俺なのか……?」

 

 本当に予想していなかったのだろう。

 焦った表情を見せたものの、神々からの視線に耐え兼ね、肩を落としてあきらめた。

 

「わかったよ。引けば良いんだろう?」

 恨むなよ。なんて呟けばこれで全会一致。抽選に入る。

 

 俺が書くのはもちろん大将戦。おそらく、ヘスティア派のほとんどは同じで、判官びいきの神たちは【ヘスティア・ファミリア】が有利になりすぎない程度の少数戦を書いただろう。

 あとは、ヘルメスが良いのを取るだけ。

 固唾を飲んで見守る中、箱の中からヘルメスが羊皮紙を取り出す。

 一度固まって、空笑いをしてから広げられたそれに刻まれていたのは、『攻城戦』の文字。

 

「ヘルメスぅ  っ!!」

「フハハハハハハハッ! たった一人で城を守るのは不可能だ。せめてもの情けで攻めは譲ってやろう」

 

 これ以上は俺が口を出しもヘスティア派ということで一蹴される。口を挟むことはできない。

 

「アポロン?」

「フレイヤ……」

 円卓の端に座っていた彼女が、これまでの沈黙を破った。

 

「流石にこのままじゃヘスティアが可哀想よ? 娯楽は楽しみだけれど、出来レースはつまらないわ」

「そ、そうだ! フレイヤ様の言う通り、どうだろう助っ人を認めるのは」

「そう言って君は私を丸め込もうとする……。いつものやり方だ。戦争遊戯の参加条件は【ファミリア】の入団者のみ。他派閥の子の存在は神の代理戦争という体裁を汚す。ただでさえソーマの行動が結果的に我々の不利になっている」

「それは君がリリルカ君を攫ったからだろう!」

「あら、あなたは相手が1人じゃないと戦えないの? 1人くらい増えたところであなたが子供達を愛しているなら信じてあげられるでしょう?」

 恋多き神に愛を司る神が迫る。

 彼女の言葉に中立派の男身が乗る。

 神会の状況が変わる。

 

  っ! な、なら都市外の眷属なら許そう。【神樹の銀手(パーリ・アンガ)】や【酒守(ガンダルヴァ)】がでしゃばって来ても困るからな」

「ぐ、ぐぬぬっ……」

「不利な条件だが、十分だろう。これ以上は望めない。一週間以内に都市外のファミリアに当たりをつける」

「助かるよソーマ」

 

 ヘスティアにとって、彼女の【ファミリア】にとって万全な状態とは言い難い。ただ、最悪の状況が少しだけマシになっただけでも儲け物だろう。

 

「今回のことは俺にも責任がある。拠点に戻り次第皆に伝える。作戦会議は戻ってからだ」

「わかったよ……」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「タケミカヅチ様」

「なんだ、命」

「無理を承知で、自分の我儘を聞き入れていただけませんでしょうか」

 

 タケミカヅチ達の狭い拠点、神友であるヘスティアの危機に1人悩んでいたタケミカヅチの下に訪れた命は、彼の前で土下座する。

 

「自分を、ベル殿達のもとに行かせてください!」

 その訴えに、タケミカヅチは目を閉じる。

「自分は彼らに生かしてもらいながら、まだ何も返していませんっ! お互い助け合うと交わした約束を果たす時は今だと!」

 

 心の中を吐露する命の姿にタケミカヅチはゆっくりと体の力を抜く。

 

「お前に思うところがあるように、俺にも思うものがある」

 命は頭を低くしたまま、俺の言葉を聞いている。

 

「一年……長いな」

 

【ファミリア】に所属した神が別の神の眷属となる『改宗(コンバージョン)』を行うには、1年の期間を要する。

 タケミカヅチの言葉を理解した命は、ハッと顔を上げ、見る見る内に明るくさせる。

 

 急がば回れ。

 ヘスティアがベルの、ソーマがリリルカの成長を願うように、命が離れた場所で得る成長を楽しみにする自分がいる。

 

「色々と学び、ここに戻ってこい」

 

「はいっ!」

 

 恩に報いるため、ヤマト・命  【ヘスティア・ファミリア】入団。

 

 

 

 ▼△▼△▼△

 

 

 

「何の用?」

「お別れを告げに来ました」

 

 執務机にもたれたヘファイストスの目を見て、ヴェルフは言い切った。

 

「【ヘスティア・ファミリア】のもとへ行くことを許してください」

「そんな身勝手な真似を、私が許すと思う?」

 

 勤めて冷静に、感情を見せないように取り繕った女神は、ヴェルフの覚悟を問う。

 

「血筋を見返し、『魔剣』を超える武器を作る。それがあなたの目標じゃなかったの?」

「槌と鉄、そして燃えたぎる情熱があれば、武器はどこでも作れると俺に教えたのはあなただ。自分が敬愛する女神は、ここで出ていかなければきっと叱りつけてくる」

 

 すでに決めた上での訪問。

 ヘファイストスが許すことを分かっている上での言葉。

 

「友のため、俺を行かしてください」

 

 跪き、懇願する彼に女神は小さく微笑んだ。

 

「選別よ。持っていきなさい」

 

 自身の髪、そして瞳と同じ紅の金槌を手にしたヘファイストスは、彼の眼前に突き出した。

 

 金槌は鍛治師の(分身)。それをヴェルフに教えたのもヘファイストスだった。

 

「お世話に、なりました」

 

 友の横で戦うため、ヴェルフ・クロッゾ  【ヘスティア・ファミリア】入団。

 

 

 

 ▼△▼△▼△

 

 

 

 旅の神が、酒場の従業員に話しかけたころ、神室の扉がノックされた。

 

「リリです。入って良いですか?」

「ああ」

 

 酒造りの作業を止め、入室したリリルカをソファーに座らす。

 どこか思いつめた表情を見れば、リリルカがどういったことを俺に伝えようとしているか、大体の予想はつく。

 

 顔を伏せたまま、口に出す言葉を考えているのだろう。リリルカは俺を前にしたまま何もしゃべらない。

 

「どうした……。戦争遊戯、ひいては【ヘスティア・ファミリア】のことだろう?」

 

 そう聞けば、リリルカは聞えるか聞こえないかの声で「はい」と答えた。

 再びリリルカは口を閉じる。

 

 コポコポと液体が熱せられた音が神室に響く。それ以外の音は時計の音だけ。

 

「俺は、お前の嘘を見抜くことができる。ただ、お前の心までを見ることはできない。俺は、お前が言葉にしない限り判断ができない」

 

 優しく諭すように伝えると、ぽつぽつと小さな声でリリルカが話始めた。

 

「リリは、どうすればいいんでしょうか……」

「というと?」

「リリは、ベル様たちを助けたいと思ってます」

「ああ。俺も、ヘスティアたちを助けたいと思っている。ただ、他派閥の参戦は不可。そして、【ヘスティア・ファミリア】以外でこの戦争遊戯に参加できるのは、都市外で活動する【ファミリア】の冒険者1名のみだ」

 俺たちはそこに該当しない。

 

「そう……ですよね……」

「ああ」

 

 再び、沈黙が部屋に広がる。

 俺は立ち上がり、棚にしまっていたミード酒とシードル。2個の細いグラスを取り出すと、一つはリリルカの前に、一つは俺の前に置く。

 

 少量ミード酒をグラスに注ぎ、少しずつシードルで割りながら混ぜる。

 はちみつの甘い香りとリンゴの爽やかな香りが、炭酸が弾けるのに合わせて広がる。

 

 俺が一口飲むと、リリルカも小さな口をグラスにつける。

 

「リリは、ソーマ様がいれば良いと思ってます」

「そうか。ありがとう」

「恩恵をもらった日にリリと話してくれて、【アポロンファミリア】に攫われたときに助けてくれて、本当にうれしかったです」

「ああ。お前が無事でよかった」

「ずっとソーマ様と一緒に居たいです」

「お前が願うなら、そうしよう」

「でも……」

 

「でも、ベル様の力になりたいんです……」

「うむ」

「アイズ様たちのように、仲が良いとは違うんです。ベル様とは、一緒に進みたいと、そう思うんです」

「そうか」

 

 リリルカの気持ちをすべて受け止めながら、俺は酒を飲み続ける。

 

「ベル様と戦おうと思ったら、リリは『改宗(コンバージョン)』をしないといけないですよね」

「ああ。それがルールだ」

「それって、ソーマ様と離れるってことですよね」

 

 なるほど、そういうことか。リリルカが不安になっている理由が分かった。

 

「大前提、お前が俺と共に居たいと思うように、俺もお前と共に居たいと思っている。お前との繋がりは他の団員とは異なっている何かだと感じている」

「はい……」

「お前のことを愛い奴だと思っている。あの日から娘のように接し、ともに起き、共に眠り、ともに食事をとり、ともに酒を仕込み、売った。今の俺はお前がいたから存在している」

 

 感謝している。

 きっかけはあった。

 リリルカに恩恵を与えたとき、酒に飲まれて行く団員に絶望していた時、俺じゃない俺を認識した。

 

 ただそれでも、お前の成長を見たいと願い、お前と酒を交わしたいと思ったのは事実で、俺が子供らと繋がりたいと思ったのは、リリルカ・アーデという存在を知りたくなったからだ。

 

 ぽろぽろと涙をこぼす彼女に言葉を掛ける。

「俺はお前の成長を心から嬉しく思う。お前が大切にしたいと思うものやことが増えたことをな」

 

 今でこそ普通に生活をし、団員や取引先の者、他派閥の団員と笑いあっているが、両親から虐待され、他団員から虐げられていた。

 両親が目の前で死ぬ悲劇にも会った。

 

 塞ぎこみ、他者を信用しないようになってもおかしくない彼女がここまでまっすぐ育ったのは、リリルカ自身が俺と関わろうとしからだ。

 

「お前がベル・クラネルの助力をしたいと思うというのは、お前が正しくベル・クラネルとの絆を育んできたからだ。リリルカ、俺の酔い。俺はお前の成長を心から嬉しく思う。お前が他者を思いやることを好ましく思う。誰かの助けになろうとすることを好ましく思う。だからこそ、俺はお前のその感情を支える」

 

 俺は立ち上がりリリルカの横で目線を合わすためにしゃがむ。

 顔は涙でぐしゃぐしゃになり、両手で包んだ彼女の手は震えていた。

 

「お前が進む道が茨の道だろうと、どういった道を辿ろうと俺はお前の主神だ。お前という存在が醸され、磨かれ、香り立つその時、お前が俺の横にいれば良い」

 

「リリは、ベル様のところに行っても良いんですか? ソーマ様の元から離れても、良いんですか?」

 

「何を言う。お前は俺の酔いだ。離れることなど許さん。ただな、『改宗(コンバージョン)』することでお前がさらに成長するのであれば、それは願ってもいないことだ」

 

 たまには娘らしく我儘を言え。

 

「そ、ソーマ様……」

 

「なんだ。リリルカ」

 

「リリがソーマ様の元を離れて、【ヘスティア・ファミリア】へ『改宗(コンバージョン)』することをお許しください……」

 

「ああ。お前が磨かれ、熟成される一年間を、心から楽しませてもらう」

 

「ありがとうございます」

 

「今からお前をランクアップさせる。レベル3として、【ヘスティア・ファミリア】の一員として育った暁には、お前を【ソーマ・ファミリア】の総監に任命する」

 

 リリルカの改宗を認める条件。

 それは器の成長。そして、戻って来た際の総監就任。

 

「謹んで、お受けいたします」

 

 俺の紫の瞳には、リリルカの笑顔が映った。




描きたかったシーンが書けた

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

  • ジン
  • ウォッカ
  • ウィスキー
  • ラム
  • ビール
  • 日本酒
  • 焼酎(芋・麦・米問わず)
  • 果実酒(梅・果物問わず)
  • テキーラ
  • ワイン(赤・白問わず)
  • その他(良ければコメントで教えて)
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