難しい。
リリは、自身で考え採用された作戦を改めて確認する。
今回の作戦の肝となるのは、どうやってベル様をヒュアキントスの前に連れて行くかであり、それまでの過程は正直なところどうでも良い。
ベル様のことだ。
たとえ相手が格上だったとしても同じ相手に対して3回も負けるような人じゃない。
それに、【アポロン・ファミリア】の人たちがベル様の成長速度を知ってはいても、あの恐ろしい速さを理解している人はいない。
頼みましたよ。ベル様。
まずは城内にいる【アポロン・ファミリア】の者たちを城外に誘い出す必要がある。
ヴェルフ様が意地よりも仲間を選んでくれたのと、リュー様の参戦のおかげで陽動役が際立つ。
「おいルアン。見回りして来い」
「ったく、なんでおいらが……」
リリは酒場で因縁を吹っ掛けてきた【アポロン・ファミリア】の小人族、ルアンに変身し、いかにも苛立っている表情で持ち場を離れる。
今頃リュー様が魔剣を使いながら突撃するころだろう。
ここから起きるレベル4の暴力をリリは理解しているが、何も知らない防衛側はきっと恐怖だろう。
「どうだ?」
「おいルアン、持ち場離れて何してんだよ」
「暇だから見回りして来いってさ」
名前も知らない団員にそう言うと、彼は呆れた様子でため息を付いた。
「問題はねぇさ。短文の魔法ならそもそも城塞が落ちねぇし、長文ならちんたらしてる間に……」
これよ。と腕に自信があるのだろう、弓をリリに見せてきた。
「それに、相手は兎1匹に追加の雑魚が3人だろ? レベル2が増えたからって、俺たちは100人以上いるんだ。問題ねえ」
そう。普通に考えれば【アポロン・ファミリア】が負けるのはあり得ない。
相手が、リリたちじゃなければ。
遠くの方で爆炎が上がる。
城壁にいた防衛隊はその音を聞いて、状況を確認するため壁面へ身を寄せる中、リリは彼らの背後で口元を歪ませた。
今この場でここにいる人数を減らしたい欲にかられるが、いくらレベルを上げたとはいえ戦闘職でないリリに大人数相手は難しい。
通常の剣術に加えて魔剣を振るうリュー様に慌てる団員。
城外に居た者たちはあっけなく切り伏せられていく。
「あんな魔剣、反則だろっ!」
急いで弓を打つ城壁隊。数十本の矢が一斉に放たれ屋の壁を作り出すが、その程度で止まるほどリュー様は弱くない。
きっと今頃、エルフの私が、魔剣を握る日が来るとは……とか考えていそうだな。なんてリリは思う。
実際その通りだが、そんなことは気にせず近くにいた隊長格のエルフに指示を出す。
その指示は、城内にいる団員50人をリューの相手に出撃させるということ。
「そんな人数!」
「ヒュアキントスの指示だ! 生半可な人数であの魔剣に勝てると思ってんのか?」
「……いや」
「それに相手は人数が少ない。一気に人数掛けて潰してからさっさと戻ってこれば問題ないはずだ」
リリの言葉を聞いた小隊長のリッソスは、崩壊直前の前線とヒュアキントスの指示というリリの真っ赤なウソに舌打ちし、人数を引き連れて城外へと飛び出した。
「まずは第一段階。頼みましたよ。リュー様、命様」
魔剣による轟音を聞きながら、今度は城の中を走る。
予定ではリュー様が魔剣を使って城の北側を壊し、命様と二人で場内に侵入。命様の魔法で敵団員を足止めしつつリュー様に雑兵の処理をしてもらう。
【アポロン・ファミリア】の視線を城北部に固定させた段階で、人数の薄くなる西側からベル様とヴェルフ様を招き入れる。
リリたちがこの戦いで勝つためには速攻でベル様をヒュアキントスのもとを連れて行き、その戦いに邪魔者を介入させないのが必須条件。
「おい! ルアン!」
「みんな北側へ行け! 魔剣使いともう一人ヒューマンが侵入しようとしてる!」
「この揺れは魔剣か!? わかった。お前は!?」
「おいらは他の奴を呼んでくる。【リトル・ルーキー】たちは魔剣で俺たちを減らした後に入ってくるはずだから」
「オッケー。北の守りを増やしてその場で兎狩りだな」
アポロンの眷属に会うたびに似たようなことを伝えて持ち場を離れさせ、ようやく西側の城壁に辿り着く。
「待ってたよ、リリ」
「おう。あっちは派手にやってくれてるな」
リリが到着してから少し遅れて、フードに実を包み隠密行動を行っていたベル様とヴェルフ様が到着する。
「お待たせしましたお二人とも」
「リリの作戦通りだね」
「行くか」
城門を開き二人を中に引き入れると、そのまま目的地へと走る。
「ヒュアキントスの場所は分かってるか?」
「はい、長い渡り廊下を通り抜けた先にある広間にヒュアキントスがいるはずです」
「そこまでにどれくらい敵がいるか……」
【アポロン・ファミリア】の面々で、まだ前線に出ていない相手で警戒するのはダフネあたり。
ヒュアキントスの前に立ちはだかる最後の門番のような立ち位置になるはずなので、そこはヴェルフ様に抑えてもらう予定。
「そろそろ解呪して良いんじゃねぇか? その姿でいつもの口調って違和感が酷いぜ」
「それもそうですね。 【響く、十二時のお告げ】」
数日前から行い続けていた【シンダー・エラ】を解き、リリ本来の亜麻色の髪、体系に戻る。
17階層で壊れたため、2代目としてヴェルフ様に作ってもらった斧を受け取り、また、布に包まれた武器も手にしたことで完全体のリリが完成する。
ベル様を消耗させるわけにはいかないので、広間に残っていた敵は、ヴェルフ様の暴発魔法とリリの斧で払いのける。
「リリはやっぱりパワーがあるね」
「重さに振られるのがマシになっただけで、それほど技術なりが良くなったわけじゃありません。リリはどこまで行っても多分サポーターです」
「そんなちびっ子でもこんな作戦考えつくんだ。頼むぜ。参謀」
足の動きは一切止めず、敵を斬り付ける。
「んじゃ作戦通り、リリスケは命のフォローだな」
「よろしくね、リリ」
「はい。ベル様とヴェルフ様はヒュアキントスのところへ」
作戦は最終段階。
この時点で戦争遊戯が始まってまだ2~30分ほど。可能な限り時間を詰め、作戦遂行するリリたちに、【アポロン・ファミリア】は翻弄される。
「ここから先は、通させないわ」
長い渡り廊下に差し掛かったリリたちの前。先ほどの魔法に驚きこそすれ、ベル様がすぐに来ると理解していたダフネ。
「リリスケ、行け」
「了解です。あとは頼みました」
中庭。魔法によって出現した光剣に向かって、リリは斧を担いで飛び出す。
レベル3のステイタスを良い事に、内心不安になりながら渡り廊下から身を投げ出すと、中庭へ向かっていた名も知らぬ団員の背中に着地する。
「お、重ぃい」
「失礼ですね。リリじゃなくて斧の重さです」
ゴチンッ! と斧の柄で頭を殴り走り出せば、魔力切れ目前の命様が目に映る。
「リリ殿ッ!」
「もう魔法解いて大丈夫です! リリが散らします!」
リリの言葉で命が生み出した重力の檻 【フツノミタマ】が解かれ、命、【アポロン・ファミリア】の団員が自由になる。
自爆攻撃として自身も重力魔法の影響下にあった命は膝をつき、近くにいた敵が何とか剣を振り下ろそうとするが、リリの斧が間に合う。
「【神酒の斧】!?」
「小人族だからと舐めてかかると、痛い目にあいますよっと!」
先ほどまでのダメージで本来の力を出せていない相手に、十数人で囲まれたところで倒すのはそれほど難しくない。
問題は、追加でやってくる万全な状態の相手。
「ちょこまかと!」
苛立ちのこもった声で振られる剣を、横から弾き飛ばし、レベル3になった結果片手でも斧を扱えるほど力をつけた左腕で顎を下から打ち抜く。
『これは見事なアッパーカットぉ!』
『ここで左だと!?』
『狙えるな、世界を』
どこぞの神がリリのアッパーカットに驚嘆するが、そもそも、インファイトからのアッパーはネクタルの得意技。彼と比べて体格の小さいリリにとっては、斧を支点にして体を浮かし、無理やり懐に潜り込むこの形が丁度良かった。
「魔法隊! 放て!」
風や氷、炎の魔法が前方から襲いかかるが、斧で身を隠し難を逃れる。
「リリ殿、戦えるっ!」
「お褒め頂きありがとうございます!」
命が所属していた【タケミカヅチ・ファミリア】の団長、桜花も斧を使う盾役の男だが、また一風変わったリリの戦い方を魅せられた命は、キラキラと目を輝かせる。
「命様が抑えていた分は終わりましたが……、この人数は……」
追加でやってきた増援に、少し顔を引きつらせる。
それにしても、ヴェルフ様に作ってもらった新しい斧の性能に感嘆する。
圧倒的な重さと、それに比例して頑丈さを得た斧は、リリが多少雑に扱っても問題ない。
「ばらけて魔法を打て! 防御するのは斧だけだ! 裏から捲れ!」
「タンク役はちゃんと動きを止めろ!」
生半可な盾ではリリの斧を防ぐことはできない。レベルの差という理不尽を、ヒュアキントスがベル様に押し付けたように、リリも同じように行う。
唯一の違いは、両手で数えられないくらいの人数で襲ってくるかどうか。
その時、弩級の炎雷が、城を駆け上がり天を穿つ。
「リリ殿ッ!」
「ベル様が接敵です。あとは、リリ達の仕事を熟しましょう」
背中に携えていた布を取り外し、鈍色の輝く槍を取り出す。
「おいおい、【勇者】の真似事か?」
「ええ。最近知りましたが、フィン様も似たような魔法を持っているらしいですね」
「あ? 何言ってやがる」
訝しそうにリリを見つめる数十の顔。
普通の戦いをすれば、リリはおそらく数の暴力に負ける。
だからこそ、普通の戦い方はしない。
「命様。少し後ろに離れていてください」
「わ、わかりました」
何かをするのであろう忠告を聞き、命は素直にリリや敵から距離を取る。
「……。ソーマ様」
ポーチに手を突っ込み取り出すのは、
「【未熟なりて醸せず、愚かなりて酒に願う】」
「詠唱だ! 止めろ!」
リリの言葉に気づいた一人が飛び出すが、槍の先端を当て距離を保つ。
「【不完全な酔いは身を焼き、永遠の命を遠ざける。
突然持ち始めたとは思えない練度でいなし、刺す。
ヘスティア様がベル様の成長のために掴み取った一週間の期間は、ベル様以外の面々にも力を育む機会になった。
並行詠唱を学んだ命。魔剣を鍛えたヴェルフ。情景とその仲間に扱かれたベル。
「【それでもどうか香り立て、それでもどうか血肉と成れ。狂騒と興奮、酩酊を罰として】」
リリは、ルモアに変身するのがミッションだった。ただ、それと同時に槍術を身につけた。
完全ではない。
フィンから見れば覚束ない素人に毛が生えただけの槍術。
初心者ではないと言うだけの槍捌き。
ただ、リリにとってはそれで十分だった。
「【偽酒を捧げる罪として】 」
魔法が完成する。
「 【セートゥ・ダードィマ】」
栓を抜いたザクロ酒を胃に流し込む。
直後、足元をふらつかせたリリが顔を上げれば、柘榴色の瞳が二つ、敵を捉えた。
▲▽▲▽▲▽
『おおっと! 【
『うぉおおおお! まさにガネーシャ ッ!!』
ロキによって設置された神の窓。それを通してリリルカを見るフィンは、組み合わせた手に力が入っていたことに気づく。
槍を持つ聖女。呪われた赤い目。
先ほどの魔法は、思うに自分の高揚魔法と似た何かだろう。
「フィン?」
わいわいと賑やかに戦いの行方を見守るティオナ、ティオネ質の横で、神の窓に釘付けになっていた僕に、リヴェリアが小さな声で訪ねてきた。
「はは、何でもないさリヴェリア。ただ……」
槍を持つ聖女による【
「
きっとその通りじゃない。リリルカがフィアナと同じとは言えない。彼女は戦うことが苦手で、冒険することを嫌う。
ただ、一人の小人族として、夢を描いてしまう。
「フィン……、どうしたの?」
「何でもないさ。あ、そうだアイズ、彼女とはまだ仲良くしているかい?」
そう言って、神の窓に映る彼女を指させば、アイズも誰のことを言っているのかを理解したようで、小さく頷いた。
「時々一緒に、じゃが丸くん食べてる」
「そうか。なら、変わらず仲良くしてあげてくれ。同じ小人族として、彼女には期待しているからね」
ティオナからどこか嫉妬の炎を感じるが、それはそれとして。
「楽しみだな」
彼女が一族の希望となる存在か否か。
▲▽▲▽▲▽
視界がふらつく。
この魔法が持つメリットは全ステイタスの超強化。
そして、デメリットは強烈な酩酊感。
この魔法を使うということは、この後の戦闘に参加ができないということ。
それでもリリはこの魔法を使用した。
天を穿ったベル様の炎雷を見て、ベル様がヒュアキントスと戦い始めたことを認識したから。
「リリはぁ、さっさと終わらしてぇ、お酒が飲みたい」
頬を赤らめ、少しだけ焦点の合わない目で飛び出す。
総勢二十名と少し。リリが築き上がった人の山の上に腰を下ろした時、ベル様の左拳が、ヒュアキントスを撃ち抜いた。
『戦闘終了〜〜っ!? まさに! まさに巨人殺し『ロキ・ファミリア』のお株を奪う大番狂せっ!!
「っひっく!」
「リリ殿っ!」
後ろから命に抱きつかれ、勢いのままゴロゴロと地面を転がる。
上空を通っていく雲は白く、その奥の空は果てしなく青かった。
「はははっ!」
「やりましたねリリ殿! リリ殿? おーいっ! なんで寝てるんですかリリ殿っ!?」
体を撫でる風が心地よく、リリは両目を閉じた。
みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。
-
ジン
-
ウォッカ
-
ウィスキー
-
ラム
-
ビール
-
日本酒
-
焼酎(芋・麦・米問わず)
-
果実酒(梅・果物問わず)
-
テキーラ
-
ワイン(赤・白問わず)
-
その他(良ければコメントで教えて)