神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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団長像

 吐き気が酷い。

 重い足取りと合わせて胸元がむかむかする気持ちを何とか押しとどめる。

 

【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】での戦争遊戯を終え、祝勝会を【豊穣の女主人】で開催した。

 戦争遊戯に参戦してくれたリュー様を始め、シル様も卓につき、18階層でさんざん迷惑を掛けられたボールスたちリヴィラの街の冒険者なんかも集まっていた。

 

 ソーマ様を始めとした【ソーマ・ファミリア】の面々も一部参加して騒ぎ、今夜だけはと店主のミア様も騒ぐことを許してくれた。

 

【ソーマ・ファミリア】の自慢のお酒が机の上に並び、誰かれ構わず乾杯し浴びるほど飲んだ。

 後悔は全くしていないが、【セートゥ・ダードィマ】の反作用で若干出来上がっていたのもあり、さらにお酒を飲んだことで過去一酔っぱらったように思う。

 

「リリ、大丈夫?」

「あ、あはは……、大丈夫じゃ、ないですね……」

 

 開店前の【酒宴の寝床】はがらんとしていた。

 朝食代わりのパンを食べていたベル様の横にちょこんと座り、カウンターに溶けたように体を預ける。

 

【ヘスティア・ファミリア】の拠点は、【アポロン・ファミリア】から奪った拠点になるが、建物内の悪趣味なところ  アポロンの自画像や彫刻の改装のため、まだ入れない。

 そのため、当分【ソーマ・ファミリア】の拠点に身を寄せている形になるベル様たちだが、ヴェルフ様、命様はそれぞれの【ファミリア】の私室を片付けに行っており、今は居ない。

 

「リリは荷物とか良いの?」

「はい。新しい拠点に持っていくものはたいしてないですし、『蜂蜜酒施策23号』ちゃんと服くらいですね」

 

 お酒の話をしたら少し気分が悪くなった。正直戻してないのが不思議なくらい。

 

「でも、リリってお酒強いんだね」

「これでもお酒を飲み始めたのは、5年前からです……。ソーマ様が、小さいうちは飲むなって仰られていて」

「僕も、オラリオに来てから飲み始めたよ」

 

 おいしいお酒が多くてうれしい。とベル様は言ってくれた。

 確かベル様は果実酒が好きだったように思う。ジュースや炭酸で割るシンプルでさわやかなのを飲んでいたように思う。

 ヴェルフ様はもっぱら酒精の強いお酒を飲んでいた。

 

 リリは……、種類問わず飲み漁っていた。

 

「その場は楽しく飲めるんですけどね……。初めてこんなにしんどくなってます」

 

 リリがまだ尊厳を保てているのは、【神酒月杯(シャシン・ソーマ)】のおかげかもしれない。

 

「それにしても、ベル様もレベル3だなんて、リリたちのパーティーは恐ろしいですね」

 

 団長兼パーティーリーダーのベル様はレベル3。

 鍛冶師兼タンク役のヴェルフ様はレベル2。

 遊撃アタッカーの命様はレベル2で、サポーター兼参謀のリリがレベル3。

 

「でも、みんなが【ヘスティア・ファミリア】に来てくれたのはうれしいけど、それ以上に、こんなことになってしまって責任を感じてるんだ」

「ベル様……」

「何を言う」

 

 突然カウンターの内側から声が聞こえ驚いて顔を上げると、その子には酒瓶を手に取り何かを確認していたソーマ様。

 

「お前が責任を感じる必要はない」

「ですが……」

「ですがも何も、リリルカを含めヴェルフ・クロッゾもヤマト・命もお前の力になりたいと()()その道を選んだのだ。選ばれた側が気にすることではない」

「選ばれた、側……」

 

 こくり、と頷くソーマ様のお顔は見えないが、それでも真剣にベル様にアドバイスを送ろうとしているのがわかる。

 

「お前が香り立てば、それはすなわち周囲がちゃんと醸されたということ。皆が直面する苦悩や苦難を糧とできるかというのは、皆の仕事で合って、お前の仕事ではない」

「僕の、仕事……」

「ああ。お前は【ヘスティア・ファミリア】の団長であり、これまで一人しかいなかった組織から、誰かがいる組織に代わる。自身の在り方を含め、一度考えてみれば良い」

 

 団長という存在にも色々ある。

 リリはネクタルの団長像しか知らないが、関わりのある団長でいえばフィン。それに【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティ様や【デメテル・ファミリア】のペルセフォネ様だろうか。

 

「もちろんリリルカ、お前もだ」

「はい」

「リリも?」

「ああ。リリルカを【ヘスティア・ファミリア】へ改宗させる条件として、1年後、【ソーマ・ファミリア】に戻った際に団長職に就いてもらう。我々の場合は総監という役職で呼んでいるが」

 

 ソーマ様が言うに、リリが【ソーマ・ファミリア】の総監になるのは、ソーマ様とネクタル様、ザニス様の3人で相談し確定していたらしい。

 いつ総監にさせるかが決まっておらず、一旦はもう少ししてから。そう考えていたらしい。

 

「いつまでも総監を空位にしたままにもできん。他派閥・ギルドとの関わり合いが多い【ファミリア】の性質上な」

「では、リリがしてたその商業部総監? のお仕事は誰がされるんですか?」

「そういえば、リリも聞いてなかったですね……」

 

「この1年はザニスを総監兼探索部監督して働いてもらう。あいつにはあいつで、【ソーマ・ファミリア】の地位や影響力を向上させる熱があるからな。兼務ではあるが、問題ないはずだ」

「ザニスさん。って言うと、【酒守】の」

「ああ。商業部監督は臨時でチャンドラが入るよう後ほど伝えるつもりだが、受けるかは怪しいな」

 確かに、気ままなチャンドラ様のことだ。外回りを散歩と称し、交渉事は部下に任せていることが多い彼だから、仕事が増えることは良しとしないだろう。

 そもそもチャンドラ様の入団理由は「おいしい酒」を飲みたい。というものだし。

 

「外営班の班長は俺。内営班はバクティ。酒造班はトムに頼む予定だ」

「ん? ネクタル様は?」

「あいつは……、相談役、だな。班長の代わりは育ってきているが、あいつの代わりは正直いない。隠居したいとか言っていたが、それをさせるには後10年はかかる」

「……」

 

 お労しやネクタル様。

 あなたは腕が無くなっても働かされ、総監を辞しても働かされ、後を追うものが育ってきたとしても働かされるのですね……。

 

 もしかしてリリもそうなる?

 

「どうしたリリルカ。表情を変えて」

「い、いえ……。急に将来が不安になりまして……」

 

 この【ファミリア】で不憫なのはネクタル様だけだと思ってましたが、もしかしてアスフィ様同様にリリも不憫に振り回される?

 いや、何一つ信用できないヘルメス様を相手にしないだけマシ?

 

「まあ、しばらくは平和だろう。ゴブニュが拠点の改装を終わらせば、今度は新規入団者だ。ギルドに掛け合って募集を行うか。それともスカウトをするか。それは任せるが、人も増え等級も上がれば気にすることは増えていく」

 

 俺としては、一度団員を集めて今後の方針を話し合ったり、ギルドへの上納金含め財政の状況確認なんかをする方が良いと思う。

 

 そう言ったソーマ様のアドバイスが、後々どれほど重要だったか、リリはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 カラン、と氷が溶け、小さく光るランプがウイスキーの色を輝かせる。

 つまみになるものを口に入れながら、香ばしい燻した香りが鼻腔を満たす。

 

「私を呼び出すなんて、この前言ったことを本気にしたの?」

 

 フードで顔を隠し、小さな笑いと共に横に座ったフレイヤに、俺は何も返さなかった。

 

「何か言いなさいよ……」

「それが本題じゃないからな」

「詰まらないわね」

 

 オラリオのはずれにある狐人が店主の小さなバー。

 ひっそりと隠れているこのバーは会員制であり、隠し事をするならここだとヘルメスに紹介された店で、過去数度額の大きい取引なんかをする際に使った場所になる。

 

「マスター、適当なのを」

「かしこまりました」

 

 そう言って、オレンジの果汁にラムと炭酸を混ぜただけのシンプルなカクテルを作ったマスターが、フレイヤの前にグラスを差し出す。

 

「それで? 本題っていうのは?」

 

 グラスに口をつけることもなく、マドラーをくるくると回し、何を考えているのかわからない表情をするフレイヤ。

 

 黙って動かずにいたら、文字通り美の女神として完璧なんだがな。

 

「ベル・クラネルがアポロンに狙われたとき、なぜお前は動かなかった」

「なぜ? ふふっ……、変なことを聞くわね。単純よ。動く必要がなかったから」

 

 ベル・クラネルが【アポロン・ファミリア】に負けたとしてもアポロンを落とせるから。理由としてはそんな所か。

 

「そもそもお前には違和感がある。なぜベル・クラネルを狙う。確かにあの子には特別な何かがあるように思える。リリルカに良い影響を与えたように、周囲を巻き込む才能がある」

 その才能に本人はまったく気づいていないが。

 

「そうね……。別に隠すことじゃないから言うけど、単純なものよ?」

 

 一目惚れ。

 そう言ったフレイヤの顔は、美と愛を司る女神の表情ではないように思えた。

 

「綺麗な魂をしているの。そんな綺麗な魂が、どう移り変わっていくのか知りたいのよ。真っ白な処女雪のように綺麗なままか、はたまた別の色を魅せてくれるのか……」

「その割には、直接誘わないんだな」

「直接?」

「これまでお前が欲しがった冒険者は、直接スカウトする形で奪っていただろう?」

「あぁ、そのことね……」

 

 空いたグラスをマスターは回収し、今度は別の種類のウイスキーを注ぐ。

 炭酸で割ったハイボール。レモンの輪切りを沈めたそれを、俺は居に流し込む。

 

「特別な理由はないけれど、そうね、直接私が足を運べば、誰だって私のものになる。それじゃあ面白みがないから。言うなれば、ちょっとしたゲームよ」

「だから回りくどいことをするのか?」

「ええそうよ。あの子で遊んで良いのは私だけ。あの子が進む先にいるのも私だけ」

 

「相手の気持ちも考えず、か」

「何が言いたいの……」

「いや」

 

 拗れた女神(おんな)ほど面倒な奴はいない。それを改めて思った。

 

「賭けよう。フレイヤ」

 

 氷が溶け、レモンがグラスに浮かぶ。

 

「貴方が? それこそ何が目的なのよ」

「いいや? 大した理由はないが、そうだな。ちょっとしたゲームだよ」

「調子に乗るのもいい加減にしなさい」

「いいや。やめない」

 

 賭けの内容はいかにもシンプル。

 

「お前はベル・クラネルが自分のものになる。俺はベル・クラネルがお前のものにならない」

「勝負にならないわ」

「いいや。なる」

「何を根拠にそう言ってるの? 私はフレイヤよ?」

「ああ。だから言っている」

 

 お前が美と愛の女神だからこの賭けに乗るし、この賭けに負ける。

 

「酒好きの引きこもりが。調子に乗ってるなら、潰すわよ」

「好きにすれば良い。ただ、この賭けに乗らないってことは、お前がベル・クラネルに向ける(執着)がその程度だってことだ」

 

「なら、貴方が負けたらどうするの?」

「リリルカと二人で旅でもしよう。オラリオからは追放だな」

 

 リリルカ以外には悪いが、それでも良い。

 

「絶対にないけど、貴方が勝てばどうするの?」

「そうだな。極東に()()()()と言うのがある。ロキですらネタで飲むかもしれんぞ」

「絶対にしないわよ」

 

 絶対零度とも言うべき汚物を見るような目で俺を見るフレイヤ。

 ただ、生憎酒造りとは違い五分の勝負はしない主義だ。

 

「いいわ。そこまで言うなら魅せてあげるわ。美と愛の女神(フレイヤ)が一体どう言う存在か」

 

 彼女がグラスを差し出す。

 それは賭けに乗るということだろう。

 

 こちらもグラスを前に出し、縁を軽く当てる。

 

「後悔すると良いわ」

「お前がな」




ストックが!
無くなるっ!

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

  • ジン
  • ウォッカ
  • ウィスキー
  • ラム
  • ビール
  • 日本酒
  • 焼酎(芋・麦・米問わず)
  • 果実酒(梅・果物問わず)
  • テキーラ
  • ワイン(赤・白問わず)
  • その他(良ければコメントで教えて)
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